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 ストーリーの起点。だけどこれ一話で読めるようにする。短編感覚で。

 クロの一人称。  子供っぽいマヤ。大人っぽいクロ。物知りなマヤ。物を知らないクロ。

 構成




 ・起

乞食の少年だったマヤ。舞台は貧富の格差の激しい町。金持ちは金持ち。貧乏は貧乏。金持ちは貧乏人を毛嫌いし、特に物乞いに対しては子供といえど冷たい。親を失い来る日も来る日も必死に物乞いをしていたが、いつしか空腹のあまり動けなくなってしまう。それから梢の水を糧に死を覚悟しながら永らえていたところ、なんと自分の近くによって、哀れみを向けてくれる人が現れる。

「あんれま、なんぞやこの子は。薄汚い乞食の子だよ」
「そう邪険にするな。可哀想じゃないか。腹が減って動けないんだよ」
「およしよパンなんて分けるのは」
「いいじゃないか。口やかましく催促してくる物乞いにやるよりは幾分かマシさ」

マヤはあっというまにパンを平らげた。そして、元気になった勢いでまた物乞いを始めたて歩き回ったが、いざ懇願すると人々は煙たそうな眼差しで彼を見つめ、野良犬のように追い払うのである。
疲れ果ててまた梢の根元で寝ていると、今度は老人がやってきて、
「やぁ、こんな処で乞食の子が寝ておる。もう虫の息ではないか。余命いくばくもないにせよ、せめて今夜くらいは暖かくしてお休み」
と、マントを掛けてくれた。その老人はいつかマヤが暖をとるための湯を催促したところ冷や水を掛けてくれた相手であった。
マントのおかげで寒さをしのいだマヤは、また一日永らえた。
ここにいると、良い事があるのかもしれないと思ったマヤは今度は、その木の根元でうろうろしながら物乞いをしたが、これはあえなく突き放された。
この間、パンをくれた夫婦さえ今日は横目でチラリと睨むと「調子に乗るんじゃない」というまなざしを送りながら、手を払った。結局その日の収穫は酔っ払いと同業者からみっつ痣を貰っただけだった。
マヤはフラフラになりながら思った。もしかしたら幸運というものはじっとしていた方がやってくるのかもしれない、と。
そして次の日からマヤは膝をたたんでただ木の根元で動かなかった。充分に動けなかったというのも勿論あるが、傍目にはまるで呼吸をしない人形のように見えるほど、まばたきさえもほとんどしなかった。
すると、期待通り、足を止めてくれた人がいた。
その人は最初、マヤをぼろっちい人形と思ったようだった。
「おや、これは古いが随分よく出来ているものよ」
鼻先一つ動かさないマヤなので、男は勘違いしてその顔を布で拭いてやった。垢と汚れのベールに隠された彼の生来の肌が露になった。マヤは生来蝋を流したような白い肌と秀麗な眉目に恵まれていた。町の人々からすれば、卑しい物乞いの顔を注意深く見たり、ましてや顔を清めてやるなどありえなかった。だが物言わぬ人形と思うならば話は別なのだ。
「これは美しい人形じゃないか。しかも驚くほど精巧に作られている」
男はマヤの腕や足を動かしながら唸った。どうやら彼の瞳は真剣なようだった。この一連の彼の言動は愚鈍で洞察力に欠ける自身の本質そのものといえたが、マヤの擬態が素晴らしかったことも勿論ある。マヤは自分の全身の力を抜き、首を支えられればがくんっと崩れるようにしたし、男と目があっても表情一つ変えず全くの無心で相手の瞳孔に映る自分の姿を見つめていた。
マヤはこの町の金持ちが、自分の言動や行動に不快感を持っていたことを悟っていた。
古くからここは、何より洗練された美しいものを好む金持ちだけの町だった。ところが戦争や疫病、寒波などによって財産を失った者たちが流れてくるようになり、今のような形態になったのである。マヤのような乞食を憎み、たとえそれが子供であったとしても全く憐れみを向けようとしないのはこのような憎悪が根底にあったのである。彼らは見苦しいものを嫌い、汚いものを極端に嫌う。
反面、美しいものや見ていて心地の良いものはおおいに歓迎する。そして今まさにマヤの美しい面は男を魅了したのである。
マヤは自分がいまだかつて向けられたことのない視線を受けていることをはっきりと自覚していた。今まで自分が向けられてきた嫌悪の眼差しとは決定的に違う、暖かさとまぶしさを秘めた視線だった。
マヤはふと自分の瞼が重くなってきたのを、なんとか堪えた。この男の幻想を打ち砕くことは絶対にしてはいけないと思った。なぜなら、またここで何か催促をしたり、喋ったりしようものならたちまち僕は他のその他大勢の物乞いと同じ立場に逆戻りしてしまう。
「ついでだから、体も拭いてしまおう」
男はマヤの顔を念入りに拭き終わると、服を脱がせて体も念入りに拭きはじめた。
その間はマヤにとっては生きた心地がしなかった。白雪も舞う夕方、裸一枚で体を拭かれることの寒さも去ることながら、なにしろわきの下、横腹ならまだしも、臍の中までぐりぐりとほじくるもんだから、体がくの字に折れてしまいそうになるのを必死に我慢するのに全身神経を集中させていなければならなかった。その間、男の見ていないところでマヤの唇はゆがみ、目は涙をたたえていたのだが、幸い気づかれることなく事なきを得た。男は寒さにつまった鼻をすすりながら、マヤの服の代わりに自分の服着せてやった。ややぶかぶかだったが、ボロぞうきんのようだったマヤのみなりは百八十度変わった。
「明日はもっと良い服を買ってきてあげよう。こんな綺麗な人形なら、この美しい広場
の景観にピッタリじゃないか」
このいささか愚鈍な男は満足そうにうなずくと、人形に手を振ってその場を後にした。

※単なる物乞いと設定ではなく、そういう芸を見せてみろと言われる。パントマイムという芸。

百年間以上、人形のままで居た。




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