部屋で気がついたとき、病院坂と織田さんが俺を介抱してくれていた。
「坊や!やるじゃないの!あの明智をたおすなんて!」
「あなたが明智を倒せるとは思わなかったわ。奇跡ね。」
俺は明智を倒したのか・・・
「御手洗が手を貸してくれたんだ。あいつのおかげで明智を倒すことができたんだ・・・」
そうだ!御手洗はどうなったんだ!
「織田さん!御手洗は・・・」
「・・・」
「・・・」
病院坂も織田さんも黙ったままだ・・・
「そうか・・・あいつはもう・・・逝ってしまったんだな・・・」
俺は天を仰ぎ、心の中で御手洗に礼をいった。
「おいおいおいおい!何辛気臭ぇ顔してんだよ!」
部屋の扉が勢いよく開かれた。死んだはずの御手洗がそこに立っていた。
「お、おまえ・・・なんで・・・?明智を倒す時、意識も持っていかれて死んだんじゃ・・・?」
「んぁ!?明智ぶっ殺したらよ、肉体を取り戻しちまったよ。なんつーか、睾丸の力ってやつ?よくわかんねーけど。」
御手洗と織田さんの笑い声が聞こえる。こいつら俺をからかうために一芝居うってたのか!
「返せ!俺の涙を返せ!」
そういいながらも俺は嬉し涙を流していた。
「そうだ!坊や!外に出てごらん。すっごいことになってるわよん。」
織田さんに背中を押され、俺は外に出た。
そこはまるで怪獣の胎内。
赤い宇宙とでも形容すればいいのか。
赤い肉壁が蠢き、良く分からない液体が頭上から大瀑布を形作っている。
「世界は元に戻ったんだな。」
そう、俺が創りだした世界はなくなりつつあるのだ。
つまりそれは俺がヤクガメに食われた時に行われるべき消化が始まろうとしてるのだ。
「…消化されるのって、どんな感じなんだろうな。」
「……。」
ジョークも通じないみたいだ。
「つらい体験をするでしょうけど、頑張ってね…。私には応援するしかできないわ。」
いつもハイテンションな織田さんもしんみりしている。御手洗達も黙ったままだ。
「まあ、自分で望んだことですし。」
そう、俺は自ら進んでヤクガメに食われたのだ。この目で、いや体は消化されるから目では見れないか。
たが、睾丸だけは消えない。睾丸だけになっても構わない。ブラックホールを体感するために。
「行ってきます。」
そして俺は小さなタマになった。
最終更新:2011年10月07日 03:09