ドラえもん・のび太のポケモンストーリー@wiki

ただの金銀のようだ その4

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akakami

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「アカネさん、強かったわね」
「本当だよ……」
のび太は心の底から疲れたように言う。
実際に心の底から疲れていたのだ。
それを知ってか知らずか(間違いなく後者だろうが)、
しずかのイーブイはのび太の頭の上に座っている。
これならば、ただ単に仲がいいとしか思われないだろう。
少なくとも、しずかはそう思っている。
コガネシティのジムリーダー、アカネとの戦闘に二人は辛勝した。
特にのび太は道具を使いまくり、
周りからブーイングが巻き起こるほどだったのだ。
「しずちゃんが一緒でよかったよ」
そうでもなければ、ジムのトレーナーたちに何を言われたか分からない。
「何を言ってるのよ。そういうルールなんだから、気にすることないわ。
 それに、のび太さんのポケモンも進化できたし、いいことだらけじゃない」
そう、先ほどの戦闘で、のび太のイトマルはアリアドスに進化を遂げた。
確かに今のところはいいこと尽くめなのだ。
「まぁ、そうだよね」
のび太は自分に言い聞かせる。
大丈夫、ぼくは今までちゃんとやっている。
何も心配することはないんだ。
だってぼくの側には、しずちゃんがいるんだから。



 ここはアサギシティ
 遠く離れた異国に
 最も近い港町

「あぁ、めんどくさい……」
ぶつぶつと文句を言いながら、
アサギの灯台からスネ夫が出てきた。
「何がアカリちゃん、だよ。まったく女って奴は……」
どうやらミカンに、タンバに行って秘伝の薬を取ってくるように頼まれたらしい。
アカリちゃんとは、ミカンが可愛がっている、
病気のデンリュウのニックネームだ。
「そりゃ、みんなが来るのを待つよりだったら、
 ぼくが行った方が早いんだけどさぁ……」
スネ夫は、なぜこのイベントがカットされないのか、と疑問に思うのだった。
「まぁタンバにはどうせ行かなきゃいけないしね」
文句を言っていてもしょうがないことを悟ったスネ夫は、
薬ついでにジム戦もすることに決め、ヌオーに乗って海に出た。



 ここはエンジュシティ
 昔と今が同時に流れる歴史の町

昔を思わせる建物と、
今を感じさせる建物とが建ち並ぶ町、エンジュシティ。
「のび太さん、お願いがあるの」
ここに着いたしずかは、いきなりそう切り出した。
しずかからの頼みなんて滅多にないことだ。
「あっちに山が見えるでしょう?」
しずかが指差した先には、大きくそびえ立つ山があった。
「スリバチ山って言うの。
 あそこにね、とってもかわいいポケモンがいるんですって」
「へぇ……」
はっきり言って、のび太は行きたくなかった。
肉体的にも精神的にも疲れたから、休みをとりたいのだ。
するとしずかは、それに気付いてか気付かずか、
のび太の目を覗き込みながら、ふたたびお願いをする。
「捕まえに行くの、手伝ってくれないかしら?」
悲しいかな、もちろんのび太は二つ返事で引き受けた。
自分の心身よりも、最愛の人を優先したのだった。



 モーモー牧場
 うまい搾り立てミルクをどうぞ!

「……と言うわけで、きみの持ってる木の実を分けてもらえないかい?」
恰幅のいいおじさんがそう尋ねているのは、
これまた恰幅のいい少年、ジャイアン。
ここは39番道路のモーモー牧場、おじさんはその牧場主だ。
ここでは乳牛として、たくさんのミルタンクを飼っているが、
最近、どのミルタンクも元気がないらしいのだ。
「ポケセン連れてきゃいいんじゃねぇの?」
ジャイアンはおじさんに言うが、おじさんは首を横に振る。
「ポケモンセンターじゃダメなんだ」
「じゃあ木の実でもダメなんじゃねぇの、ふつうは」
はぁ、とおじさんが溜め息を吐く。
「そうなんだよ。おかしいんだよなあ。
 ポケモンセンターの治療はなんの効果もないのに、
 木の実を食べると元気になるんだよ。まぁ一時的になんだけど」
ミルタンクを見回しながら力なく話すおじさん。
するとジャイアンはいきなり立ち上がり、こう叫んだのだ。
「てめぇらいい加減にしやがれッ!」



「な、何を……」
おじさんもこれには流石に驚いた。
ミルタンクたちも突然の大声に、ただただびっくりしている。
「おっさん、分かんねぇのか?
 ……こいつら、木の実ほしさに仮病使ってんだよ」
この事実に、おじさんはさらに驚く。
「な、なんだってー! 本当なのか少年!」
「そうだよなぁ、お前ら?」
ジャイアンの言葉に、ミルタンクたちは申し訳なさそうに目を逸らす。
「たぶん甘やかしてたせいだと思うぜ」
必要以上に甘やかされると、ろくな奴にならない。
ジャイアンにもそんな友人が約一名いるが、まぁそれはおいといて。
「じゃあな、おっさんにミルタンク」
ジャイアンが牧場から出ようとすると、一匹のミルタンクが付いて来た。
「な、なんだよ」
慌てて追い払おうとしても、すり寄って来るばかりだ。
「どうやらきみに懐いたみたいだね。
 ……よし、そのミルタンクはきみに譲るよ」
おじさんの太っ腹発言に、今度はジャイアンが驚く。
「え、いいのか?」
「いいよ、気にしないでくれ。ほんのお礼だよ」
実はジャイアン、懐かれたどころか惚れられたのだが、
それに気付く人はこの場にはだれもいなかった。



 タンバシティポケモンジム
 リーダー シジマ
 うなる拳で語る男

「ユンゲラー、テレポートで避けるんだ!」
海を渡り、秘伝の薬を手に入れたスネ夫は、
タンバシティジムに挑戦していた。
オコリザルのパンチが当たる前に、ユンゲラーの姿が消える。
対するシジマは、オコリザルになんの指示も出さない。
このバトルが始まってから一度たりとも、である。
「ユンゲラー、今だ!」
オコリザルの死角に現れたユンゲラーは、サイケ光線を食らわせた。
効果抜群の技を受け、オコリザルは戦闘不能になる。
「手持ちに指示を出さないなんてね……ぼくをあんまりナメるなよ」
「……確かに」
スネ夫の言葉に、シジマは初めてその口を開いた。
「わしは少しお前を甘く見ていたようだ。
 ……ここからは本気で行かせてもらう」
シジマは続いてニョロボンを繰り出した。
「ニョロボン、頭突き!」
強力な頭突きがユンゲラーを襲った。
その威力にユンゲラーは怯む。
「爆裂パンチを食らわせてやれ!」
爆裂パンチは命中率の低い技だが、相手が動けないのなら話は別だ。
ニョロボンのパンチは奇麗に決まり、ユンゲラーは倒れた。



 スリバチ山
 中は大滝の洞窟

「ほんとにこんなとこに、かわいいポケモンなんているの?」
のび太がそう言うのももっともだった。
スリバチ山は真っ暗、かつ湿った空気が漂っている。
それらから判断すれば、かわいらしさとはまるで無縁の場所である。
実際、ズバットばかり飛び出して来る。
「えぇ、そうよね……」
しずかも少し疑ってしまうほどだった。
「のび太さん、付き合わせちゃってごめんなさい」
「いや、全然気にしてないか……ん?」
のび太の視界の端で、青くて丸いポケモンが歩いている。
「ねぇ、しずちゃん」
もしかしてあのポケモンのことなの、
のび太がそう尋ねるのよりも早く、しずかもその存在に気付く。
「あれだわ!」
マリルって言うのよ、と言いながら、
しずかはクサイハナを繰り出し、マリルに仕掛ける。
「クサイハナ、眠り粉をお願い!」
クサイハナの眠り粉が当たると、
マリルは途端に目を閉じて眠りに落ちた。
しずかはすぐさまモンスターボールを投げ、マリルの捕獲に成功した。
「やったわ!」
「おめでとう、しずちゃん!」
喜ぶしずかと祝うのび太。
その声がスリバチ山内に響き渡るほど、
大きなものになってしまったことに二人が気付くまで、
あとちょっと。



「……行け、キュウコン」
一方スネ夫は、ニョロボンとは相性の悪いキュウコンを出した。
シジマも首を傾げたが、大方の予想はついていた。
「キュウコン、妖しい光だ」
(やはり、キュウコンの状態異常技で攻めるつもりか……)
そのような挑戦者は今までいくらでもいた。
力で敵わぬのならば、技で攻めようと言うらしい。
シジマは別に、その判断が卑怯だなどと咎めるつもりもない。
ただ、ほんの少し残念な気持ちになる。
「ニョロボン、波乗り!」
なんとか攻撃できたニョロボンの技に、キュウコンは他愛なく沈んだ。
「出番だ、ワタッコ」今度はワタッコか、
と思っているうちに、ニョロボンが毒の粉を食らった。
「ニョロボン、受け取れ!」
シジマはニョロボンになにかを投げやった。
スネ夫には、それがなにかすぐにわかった。
「毒消しの実か……」
スネ夫の呟きを聞いているのかいないのか、
シジマはまた、ニョロボンに苦い木の実を与えた。
「これで元通りだな」
シジマがそう言うのを見て、スネ夫は悔しそうな顔をした。



「……ッ!?」
実際には、そういった顔をしただけで、
心の中ではほくそ笑んでいたのだが。
「なッ……ニョロボン!」
気が付けば、ニョロボンはすでに地に伏していた。
「気付かなかった?
 キュウコンの呪いとワタッコの宿り木の種にさ」
言われてみれば、スネ夫は少しばかり不自然な動きをしていた。
それを気に留めなかったのはシジマのミスだ。
「あんたは見るからに体力系だし、
 状態異常で攻める奴って結構いるだろ?
 それなのになんの対策も練らないはずないからね」
スネ夫は気付かれにくく、
かつ回復させづらい技を覚えさせていたのだ。
「……わしの負けだ。いつの間にかわしは自惚れていた。
 状態異常なぞ回復すればいいだけと甘く見ていたんだ。
 お前に目を覚まさせてもらったよ」
感謝する、と言われ、スネ夫はバッジと技マシンを渡された。
出て行こうとすると、ああ、と呼び止められる。
「お前、カントーのほうに行ったことでもあるのか?」
「……? いや、ないけど?」
「そうか……ならなんでもない。気にするな」
首を傾げつつ、スネ夫はジムを後にした。


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