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       #23 「憧れ」

『ドラーズ』と『チーム・コトブキ』、若いトレーナー同士の戦いもついに大将戦を迎えた。
フィールドではのび太と出木杉の最初のポケモン、ルカリオとスターミーが向かい合っている。
(スターミーとルカリオ、どちらも2発くらえば倒れるはず。
ということは単純なスピード勝負、勝つのは僕のスターミーだ。)
「スターミー、波乗り!」
「ルカリオ、悪の波動だ!」
両者が攻撃技を命じ、お互いを傷つけあう。
出木杉の予想通り、両者とも体力を半分以上削られた。
次の一撃を受ければ倒れてしまうだろう。
「もらった。 スターミー、なみの……」
「神速だ!」
のび太の言葉が出木杉の命令を遮る。
ルカリオは目にも止まらぬ速さでスターミーに攻撃をくわえ、僅かに残った体力を奪う。
「スピードで敵わないなら、先制技だ!」
のび太が勝ち誇った顔で言う。

「よし、まずはのび太が先取した!」
ジャイアンがガッツポーズをとる。
「だけど相手はあの出木杉さん、少しの油断も許されないわ……」
静香が緊張した面持ちで付け加える。



出木杉はスターミーを回収し、新たにサンダースを繰り出す。
「ルカリオ、神速」
ルカリオはまたも先制技を使い、サンダースよりも速く攻撃する。
「こざかしい……10万ボルトだ!」
サンダースの体から、ルカリオ目掛けて電撃が放たれる。
攻撃を受けたルカリオが立ち上がることはなかった。
「お疲れ様、ルカリオ。 
次はガルーラ、君に決めた!」
のび太の2匹目、ガルーラがフィールドに姿を現した。

(ガルーラか……確か眠ると早起きを組み合わせた型だったな。
サンダースじゃあ分が悪いかもしれないな……)
出木杉は少々不安を持ちながらも、サンダースのまま勝負を続行する。
「サンダース、10万ボルト」
サンダースの体から再び電撃がほとばしる。
「耐えて地震だっ!」
ガルーラが足踏みをすると、激しい震動がフィールドを襲った。
サンダースはシュカの実で耐えたが、いまにも倒れそうなくらい疲労している。
「クッ、地震を覚えていたか……
ワタル戦の時は覚えていなかったから、てっきり無いものだと思い込んでいたのに」
出木杉はたまらずサンダースを引っ込め、代わりのポケモンを出す。
「そ、そいつは……」
現れたポケモン、ゲンガーを見たのび太がうろたえる。
ガルーラに命令していた地震は、浮遊しているゲンガーには効かなかった。



「ゲンガー、以前はこいつ1匹にやられてしまった。
でも今回は負けない、あの時との違いを見せてやる!」
のび太が敗戦の苦い記憶を断ち切るように叫ぶ。
「このゲンガーは倒せないさ、気合球だ!」
ゲンガーが球体を作り上げ、ガルーラ目掛けて放つ。
それを受けたガルーラが崩れ落ちていく。

「……あれ?」
バトルを見守るスネ夫が不意に言葉を漏らした。
「妙だな……なんでのび太はガルーラを交代しなかったんだ?」
ガルーラの攻撃技はのしかかりと地震、ゲンガーにダメージを与えることはできない。
当然、他のポケモンに交代するとスネ夫は思っていたのだ。
「のび太さんにも何か考えがあるのよ……私たちは黙って見守りましょう」
静香がフィールドに目を向けて言った。

(あのゲンガーに太刀打ちできるのはカイリューしかいない。
でも、でもここは……)
のび太が3匹目に選んだのは、パートナーのギャラドス。
激しく威嚇するが、特殊型のゲンガーにはあまり意味が無い。
出木杉が思わず嘲笑する。
「よりによって、10万ボルトで一発のギャラドスでくるとは……」
早速10万ボルトを命じるが、ギャラドスは倒れない。
「電気を半減するソクノの実だよ。
今度はこっちの番だ、アクアテール!」
ギャラドスの長い尾がゲンガーを襲う。
強烈な一撃が命中し、ゲンガーにかなりの痛手を負わせた。
「まあいい……10万ボルトだ」
2発目の10万ボルトを受けたギャラドスは、ゆっくりと崩れ落ちていった。


残りポケモンの数は3対5、明らかにのび太が押されている。
「こいつで、この状況を変えてみせる!」
のび太が四匹目に選んだのは、パーティー内でもっとも弱いバリヤード。
「バリヤード、だって?」
意外な伏兵の登場に、出木杉は驚きを隠せない。

(ゲンガーの体力は残り僅か、敵の攻撃を一発でも受けたら倒れてしまうな。
対してこちらは一撃では敵を倒せない……ならここは……)
「ゲンガー、道連れだ!」
出木杉が選んだ選択肢は、ゲンガーを犠牲にしてバリヤードを倒すことだ。
決まれば残りポケモン数は4対2、出木杉の勝ちは約束されたようなものだ。
出木杉の命令を聞いたのび太が小さく呟いた。

「……かかった」

ニヤニヤと笑いながら、のび太がバリヤードに命じる。
「アンコール!」
アンコールを浴びたゲンガーは、しばらく道連れしか使うことができない。
「クソッ、やられた……」
出木杉がこの試合で初めて焦りをみせる。
この間にバリヤードは瞑想を3回積み、能力を上昇させる。
すでにポケモン交代を使った出木杉は、ゲンガーを戻すことができない。
ただ黙って、敵が積むのをみていることしかできなかった。
そして次のターン、のび太がついに動く。
「バトンタッチだぁ!」
バリヤードがフィールドにバトンを残し、ボールへ戻っていく。
「出て来い、フシギバナ!」
瞑想3回分を引き継いだフシギバナが、フィールドにその姿を現した。



(まずい、こいつは早く倒してしまわないと……)
焦る出木杉の目に、待望の光景が映る。
やっと、アンコールの効果が切れたのだ。
「よし、道連れだ!」
出木杉が命令をするが、ゲンガーは動かない。
「無理だよ、道連れのPPはさっき切れたのさ」
のび太が余裕の面持ちで言う。
「……な、なら催眠術だっ!」
出木杉がイライラしながら命令する。
フシギバナは一瞬目蓋を閉じるが、すぐに目を覚ました。
「残念、カゴの実を持たせていたのさ。 
今度はこっちの番だ! エナジーボール」
フシギバナの放った緑色の球体が、ゲンガーの残り体力を奪い取った。

出木杉はやっと気付いた、全てはのび太の策略だったことに。

「……ゲンガーの残り体力を僅かまで削り、僕に道連れを使わせる。
そしてアンコール、バトンタッチ、道連れのPP切れ……
全ては彼の計算通りだった……この僕が、彼の手のひらで踊らされていた……
そんな、そんな馬鹿なっ!」
出木杉の顔が曇り始める。

―――勉強でも、運動でも、ポケモンバトルでも、何一つ劣ることはなかった。
   ずっと、その男は自分より下の存在だと思っていた。

   ……でも、その男はいま……

これ以上は続けたくない、認めたくない。
出木杉は考えていたことを無理やり断ち切った。



一方、のび太は満足感に浸っていた。

自分の作戦が見事に成功した、それも、それもあの出木杉に……
思わず緩みそうになる表情を、必死に引き締めようとする。
でもやっぱり、出木杉を出し抜いた快感には勝てない。

情けない昔の自分の姿が思い浮かぶ……
自分には無いものをいくつも持っていた出木杉。
そんな彼を妬み、忌み嫌っていた昔の自分。
いまも、その気持ちは変わっていない。

『嫉妬』か……本当に、情けないなあ。

………いや、これは嫉妬なんかじゃない、これは……
「出木杉、やっとわかったよ!」

突然ののび太の一言に、出木杉は目を丸くする。
のび太はゆっくりと、感傷深そうに言い放つ。

   「……僕はずっと、君に憧れていたんだ」

その才能が羨ましかった、自分の目には輝いて見えた。
ずっと思っていたんだ、『出木杉みたいになりたい』って。

「出木杉、僕は君に憧れていた……昔も、いまも……
……でも、でも僕は永遠に憧れのまま終わるつもりはないよ。
僕はこのバトルで君に追いついてみせる! そして、君を追い越してみせる!」

出木杉の頭を、先程考えたフレーズが流れていく

   ……その男はいま、自分を越えようとしている……



       #24「ライバル」

フィールドに横たわるゲンガーを見て、出木杉は冷や汗を掻いていた。
相手は瞑想を3回分積んだフシギバナ、かなりの強敵である。
いま彼の手持ちで、それを倒すのは至難の技だ。
(ここはあいつを……いや、あいつじゃあ返り討ちに合うだろう。
しかたない、ここはこいつを犠牲にして……)
出木杉が選んだのは、いまにも倒れそうなサンダース。

「何故そいつを? まあいい、エナジーボールだ」
「素早さでは僕のサンダースの方が上だよ。 
サンダース、電磁波だっ!」
サンダースの体から電撃が迸る。
それはフシギバナへと向かい、その体を麻痺させて苦しめる。
その後、エナジーボールを受けてサンダースは倒れた。

「囮、だな」
スネ夫が不意に呟いた。
「あのサンダースの役割は、あくまで敵を麻痺させること。
とすると、次に出てくるのは……」
「フシギバナより遅いポケモン、ってことか」
スネ夫の解説にジャイアンが割って入る。
「その通り、だいぶわかってきたね」
ジャイアンの成長ぶりに、スネ夫が思わず舌を巻く。
そして出てきたポケモンは彼らの予想通り、素早さの遅いポケモンだった。



「ガラガラ、か……」
敵の姿を見たのび太が呟いた。
「いまなら、鈍足のガラガラでも先手をとれる。
……そしてこのガラガラは、太い骨持ちの超強力アタッカーだ!」
出木杉が力説するとともに、ガラガラが己の拳に炎を宿らせる。
「炎のパンチ!」
次の瞬間、ガラガラの灼熱の拳がフシギバナの巨大な体を吹き飛した。
だが……
「残念、フシギバナは炎半減の実を持っていたんだよ」
のび太の言葉とともに、フシギバナがゆっくりと起き上がる。
「チッ」
出木杉の顔がどんどん蒼白になっていく。
その後、ガラガラはエナジーボールを浴びて倒れた。

ついに残り2体まで追い込まれた出木杉は、次にムクホークを繰り出した。

「ムクホーク、懐かしいな……」

ムクホークは、出木杉のパートナーポケモンだ。
7年前のフジツーとの戦いで、敵にとどめを差したのもこいつだった。
ただ一度、自分と出木杉が共闘したあの戦いで……
懐かしい記憶が甦ってくる。
だがいまは、過去に浸っている場合ではない。
『集中しろ! 最後まで気を抜くな!
……相手は、あの出木杉だぞっ!』
のび太が自分に言い聞かせる。

―――人は時に、己でも信じられないような力を発揮する。
いまののび太も、まさにその状況に当てはまっている。
この日の彼の集中力は尋常ではなかった。



「ムクホーク、ブレイブバード!」
出木杉が命じると、ムクホークが光の速さでフシギバナに突撃する。
攻撃を受けたフシギバナは、ゆっくりと崩れ落ちていった。
「やっと、フシギバナを倒せたか。 しかし……」
出木杉は溜息を漏らすと同時に、一つの疑問を抱く。
『……何故野比君は、フシギバナを交代させなかったんだ?』
あの状況では、フシギバナがやられるのは確実だった。
でものび太は交代をしなかった、そこには何か考えがあるはずだ……

「行け、カイリュー!」
フシギバナを失ったのび太は、ついに切り札のカイリューを投入した。
「逆鱗!」 「ブレイブバード!」
のび太と出木杉、2人が同時に命令をする。
先手をとったのは、拘りスカーフを持つのび太のカイリューだった。
カイリューの激しい怒りに触れたムクホークは、ゆっくりと地に墜ちていった。
(なるほど。 一撃でやられたのは、先程のブレイブバードの反動ダメージがあったからか……
あそこでフシギバナを交代させなかったのは、逆鱗一発でムクホークを倒すためだった。)
「やられた。 いや……」
(まだ勝負は捨てたものじゃない、勝利の可能性は残っている……
いまこそ対ドラゴンポケモン用に育てた、こいつの出番だ!)
出木杉が、最後のポケモンが入ったモンスターボールを握り締める。
分厚い毛皮に覆われた体、地を揺らす太い足、全てを貫く2本の牙……
「マンムー、か……」
のび太がそのポケモンの名を発した。



(マンムー、カイリューの苦手な氷タイプか……
敵はカイリューより遅い、逆鱗を一撃与えることができる。
後は次のバリヤードで倒す……僕の勝ちだ!)
のび太が勝利を確信し、笑みを浮かべる。

……これがこの試合で唯一、彼が油断した瞬間だった。

「カイリュー、げきり……」
「マンムー、氷の礫!」
のび太の言葉は、出木杉の一言によって遮られた。
氷の礫……先制技だ。
効果は4倍、カイリューは一瞬にして崩れ去った。
「形勢逆転だね、野比君。」
出木杉がこの試合で初めて笑みを浮かべた。

『ヤラレタ……』
自分には目の前の勝利しか見えていなかった。 
先制技の可能性を見落としていた。
バリヤードじゃああいつに勝てない……僕の、負け?
「う、うわあああああああ!」
のび太の悲痛な叫びが響き渡った。

『敗北』の二文字が何度ものび太の頭を過ぎる。
思わず膝をつくのび太、その心はもう折れかかっている。

   「諦めんな、のび太ぁ!」

その時、のび太の耳に不意に声が聞こえてきた。
思わず後ろを振り向く。
―――そこには、いままで共に戦ってきた仲間の姿があった。



「何をやってるんだのび太! まだ諦めるところじゃないだろう?」
「私たちは信じてるわ、のび太さんなら出木杉さんを救えるって」
「立て、のび太! 前を向け、戦うんだ!
お前には……俺たちがついてるっ!」
3人とも、言葉は短かった。
でもそれはどんな偉人の言葉よりも、深くのび太の心に突き刺さる。
そして、のび太の心に熱い炎を灯す。

そうだ、僕には自分を信じてくれる仲間がいる……
僕は彼らのために、戦うんだ!

のび太がゆっくりと立ち上がり、己の両手で左右の頬を激しく叩く。
「みんな、ありがとう……おかげで目が覚めたよ。
出木杉、勝負はこれからだっ!」
突然のことに戸惑いながらも、出木杉は笑みを浮かべる。
「面白い。 行くぞ、野比君!」

のび太はバリヤード、出木杉はマンムー。
どちらも体力は満タン、補助効果も特にない。 でも……
(野比君のバリヤードは、僕のマンムーよりレベルが低い。
おそらく、敵は地震一発で倒せるはずだ。)
出木杉は確信する、分は自分にあると。
「野比君、これで終わりだ。 地震!」
出木杉の命令を聞いた瞬間、のび太は小さく呟いた。

「僕の勝ちだ、出木杉!」




のび太の一言に一瞬うろたえたが、バリヤードが攻撃してくる様子は無い。
『やはり、勝ったのは僕だ』 
そう思った矢先、出木杉の目に衝撃的な光景が映る。

「地震じゃない……氷の礫?」

己の血の気が引いていくのを、出木杉は感じた。
のび太がゆっくりと解説をする。
「僕はバリヤードに、アンコールを命令した。
よってマンムーはいま、氷の礫以外の技は使うことができない」
だから、地震ではなく氷の礫が発動したのだ。
のび太は話を続ける。
「氷の礫は威力が低い、僕のバリヤードでも2発は耐えられる。 
たいしてこっちは、サイコキネシス2発で君のマンムーを倒すことができる!」
のび太が力説する。
しかし、いまの話で出木杉の顔に再び余裕の色が戻った。
「こりゃあ傑作だね……野比君。
氷の礫は先制技だ。 サイコキネシスが2発当たる前に、氷の礫が3発命中する。
つまり君は、自分で自分の負けを宣言したんだ!」
出木杉は、もう一度勝利を確信した。

フィールド上では、氷の礫とサイコキネシスの応酬が繰り広げられていた。
マンムーが2発目の氷の礫を放ち、バリヤードもサイコキネシスを返す。
「もうすぐだ……次のターンで僕の勝ちだ!」
この時、出木杉が勝利を宣言した。
だが、勝利を飾るマンムーの氷の礫はバリヤードの横をすり抜けていく。
その光景を見たのび太が、小さくガッツポーズをとった。
「……バリヤードには光の粉を持たせていたんだ。 
僕は、3ターンのうち、一度でも攻撃が外れるのにかけた
そして賭けは成功した、僕の勝ちだ!」
出木杉の顔が絶望に染まっていく……
「そんな……僕は、僕は認めないっ!」
出木杉の叫びもむなしく、バリヤードが2発目のサイコキネシスを放った。
攻撃を受けたマンムーは、ゆっくりと崩れ落ちていく……
……出木杉はその光景から、目を背けることしかできなかった。


『勝者、『ドラーズ』野比のび太選手!』
マンムーの瀕死を確認した審判が、のび太の勝利を宣告した。
それは同時に、出木杉の敗北を宣言するものでもあった。

……ボクガ、マケタ?
出木杉は膝をつき、己の拳で地面を叩きつける。
ずっと自分の足下にいたのび太に負けた悔しさ。
世界一のポケモントレーナーになる、という父との約束を果たせなかった背徳心。
様々な負の感情が呼び起こされていく。
だんだん呼吸が荒くなる。 頭が痛くなる。
出木杉の心は苦しめられ、追い詰められていく……

そんな出木杉に歩み寄る者が1人……野比のび太だ。
「……負けた僕を、嘲笑いに来たのかい?」
のび太を見上げ、出木杉が冷たく言い放つ。
「僕は君に負けた! 父への罪滅ぼしができなかった……
いまの僕は、ただのみじめな人殺しなん……」
「そろそろ目を覚ませよ、出木杉」
出木杉の言葉を、のび太の言葉が遮る。
その短い言葉には、彼の『怒り』がこもっていた。

「僕は君のお父さんのことなんて知らない。 
悪の組織と戦った勇敢なトレーナー、くらいにしか聞いたことが無い。
でも僕は……僕はお父さんがいまの君を見て喜ぶとは思わないよ!」
のび太の激しい声が、フィールドに響き渡る。
「僕の父が本当に望んでいる事……君に、そんなことがわかるのかっ!」
出木杉も声を荒げる。
のび太は間を少し置いた後、笑みを浮かべていった。

「お父さんは君に、ずっと笑っていて欲しいんじゃないかな?」



「笑って欲しい? いったい、何が言いたいのかい?」
疑問を浮かべる出木杉にのび太は言う。
「……出木杉、周りを見てごらんよ」
『何が言いたいんだ?』そう思いつつ出木杉は周囲を見渡す。
そこにあったのは、自分を心配に見守る者たちの姿。
バク、コウジ、ヒカリ、スネ夫、ジャイアン、静香……そして、のび太。
「君には、君の事を思ってくれる大切な仲間たちがいる……
なのに君は、それに気付けない。
いや、心を閉ざして気付こうとしていないんだ
僕はこの大会で、仲間の大切を知ることができた!
だから君にも気付いて欲しい、仲間の大切さに……」
仲間……突然放たれたその言葉に、出木杉は何も言うことができない。

「くやしいけど……全部そいつの言うとおりだぜ?」
後ろから、バクたちが頭を掻きながら言う。
「俺たちはずっとお前を救いたかった、でもお前は俺たちに何も相談してくれない」
「私たちは仲間でしょ? 仲間って、一緒に悲しみを共有するものじゃないの?」
「……バク、コウジ、ヒカリ……」
出木杉がうろたえる。

「出木杉、選ぶんだ。
心を閉ざし続け、ひたすらバトルに打ち込み続けるのか。
それとも、仲間と一緒に歩んでいくのか……」
のび太はそう言って、手を差し伸べる。
出木杉はしばらく躊躇った後、ゆっくりと口を開く。

「僕は……僕は君たちの仲間でいたい!」

出木杉の目から涙が零れ落ちる。
でも出木杉は笑っていた、涙まみれのグシャグシャの顔で笑っていた。
それは、いままでの彼のどんな笑い顔より美しかった。



しばらくして、落ち着きを取り戻した出木杉は言う。
「野比君、僕はバクたちや武君たちの仲間でいたい……
でも、君の仲間でいる気はないよ」
のび太が何か言おうとするのを、出木杉は言葉で制止する。
「今日の君とのバトル、いままでのどんな戦いよりも楽しかった。
僕は君と、ずっとライバルでいたい」
出木杉がのび太の手を握り締める。
のび太は笑いながら、出木杉の体を引き寄せた。

立ち上がった出木杉は、のび太に言う。
「野比君、僕は信じてるよ。
君たちが優勝して、僕たちを、みんなを救うことを」
今度は、出木杉から手を差し出す。
「うん。 誓うよ、絶対優勝するって」
のび太は出木杉の手を握り締め、再び握手を交わした。

「じゃあ、僕たちはそろそろ行かなきゃいけない……」
出木杉がフィールドの出口を指差す。
彼らがこれから向かう先は、死を待つだけのあの地下室だ……
「僕たちの命、君たちに預けさせてもらうよ」
出木杉はそういい残し、仲間たちと一緒にフィールドを去っていった。
向かう先はあの地下室だというのに、出木杉は笑っていた。
いまの彼は、以前とは違う。
いままでになかったものが、仲間のぬくもりが得られたのだから。
だから彼は笑える。 仲間がいるから、仲間を信じているから。

「答えなきゃいけないね、出木杉たちの信頼に……」
のび太の一言に、ドラーズの仲間たちが頷く。
―――優勝までは、残りあと2試合だ。