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トキワ英雄伝説 その10

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akakami

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       #21 「晴天」

午前10時、ついに決勝トーナメント二回戦が始まろうとしていた。
第一試合は『チーム・コトブキ』対『ドラーズ』
どちらもトレーナーズハイスクールの生徒たちによって組まれたチームだ。
他のチームの選手たちが観覧席で見守る中、審判の合図によって試合が始まった。
ダブルバトルの出場者がフィールドに上がる。
コトブキ側はバクとコウジ、ここまで全ての試合に勝利している強力なペアだ。
対するドラーズ側はスネ夫とジャイアン、一度惨めな敗戦を喫したことがある。

「おいコウジ、俺の足を引っ張らないようにしてくれよ」
「そっちこそ、俺の邪魔したら罰金1000万だからな!」
試合前に軽口を叩き合う対戦相手を見て、ジャイアンは舌打ちする。
「気にいらねーな、あいつら。 余裕見せつけやがって」
そんなジャイアンに、スネ夫は笑いながら言う。
「なーに、奴らが笑っていられるのも今のうちだけさ」

4人がポケモンをフィールドに繰り出す。
バクはウインディ、コウジはナッシー。
対するジャイアンはジバコイル、スネ夫はマルマインだ。
「やっぱり、その2体で来たか……」
ここまでは、スネ夫の読みどおりであった。
「マルマイン、ウインディに挑発だ!」
スネ夫がフィールドで最速のマルマインに命令する。
その瞬間バクとコウジの表情が曇ったのを、スネ夫は見逃さなかった。



―――前日の夜、スネ夫は今日の試合のことを悩んでいた。
彼はバクとコウジのペアの試合を3回ほど見ていた。
その中で彼らが使う戦法はいつも同じ、晴れ状態で戦うことだ。
炎タイプを使うバクと、葉緑素の特性を持った草タイプのポケモンを使うコウジ。
彼らのポケモンは共に、晴れの状態でこそその真価を発揮するのだ。
最初のポケモンは3試合とも、ウインディとナッシー。
ナッシーはまもるをし、ウインディは日本晴れを使う。
そのことを知らない敵は弱点の多いナッシーを狙い、彼らが有利な晴れ状態を作ってしまう。
晴れ状態になってしまえば、もうバクとコウジに勝つことはできない……
その様子を見てきたスネ夫が立てた作戦は、『晴れ状態に持ち込ませない』ことだ。
そして敵の手持ち、自分とジャイアンの手持ちを考慮した上で、綿密な作戦を立ててきたのだ……

「クソッ!」
バクが思わずそう漏らした。
挑発状態では攻撃技しか使えないので、ウインディは日本晴れを使うことができない。
おかげで、ウインディの日本晴れは不発に終わってしまった。
「あいつ、俺たちの戦術を研究してきてやがる……」
コウジがスネ夫を見据え、感心したように言った。
更に彼らへと、ジャイアンが追い討ちをかける。
「ジバコイル、雨乞いだ」
辺りに雨が降り始める、天候が雨に変わったのだ。
コトブキ側のポケモン達が弱体化する天候。
そして、ドラーズ側の電気ポケモン達の雷が必中技となる天候だ。



2ターン目、まずウインディが神速でマルマインを攻撃した。
だがマルマインは倒れず、今度はナッシーを挑発する。
よってこのターン、ナッシーがマルマインに放っていた催眠術は不発に終わった。
最後にジバコイルがウインディに雷を放つ。
持たせていた磁石によって威力が上昇した雷は、ウインディを一撃でしとめた。

倒されたウインディの代わりに、バクはギャロップを繰り出した。
(こいつで晴れ状態にしてから、反撃開始だ!)
バクはそう考えていたのだが、スネ夫はその考えを一歩上回っていた。
「マルマイン、ギャロップに挑発だ」
またもやマルマインは挑発をし、ギャロップの日本晴れを封じた。
「まさかこいつ……出てきたポケモン全てを挑発する気か?」
コウジが唖然とした表情で言った。
その後、ジバコイルが雷でギャロップを倒す。
だがナッシーもサイコキネシスでマルマインを撃破した。
先手を取って挑発をしていたマルマインが倒れたことで、ドラーズ側の優勢は少し崩れてきた。

次のターン、バクはバシャーモ、スネ夫はクロバットを繰り出す。
一番速いクロバットはまもっている。
次にバシャーモが日本晴れを使い、ついに彼らが得意とする晴れ状態になってしまった。
この瞬間葉緑素で素早さが上がったナッシーが、スピードでジバコイルを上回った。
だがナッシーのサイコキネシスは、標的がクロバットだったので不発に終わった。
行動順が最後になったジバコイルに、ジャイアンは命じる。
「すまんジバコイル……自爆だあああ!」
ジバコイルの体が眩い光に包まれる。
そしてその後、物凄い衝撃が辺りを襲う。
バシャーモは倒れ、ナッシーは瀕死寸前まで追い込まれた。
だが、まもるを使用していたクロバットだけは無傷だ。
この瞬間、バクの手持ちは0匹になってしまった。



ジャイアンはボーマンダを繰り出し、一人になったコウジはポケモンの数を調整するためにモジャンボを繰り出す。
「おいバク、なにもう終わってんだよ。 俺なんてまだ手持ち3匹だぜ」
バクに軽い嫌味を言うコウジ、だがその顔は笑っていない。
圧倒的に不利な状況に置かれている彼に、もはや笑う余裕はないのだ。

最初に行動したのはやはりクロバット、クロスポイズンでナッシーに止めを刺した。
次は拘りスカーフ持ちのボーマンダ、ドラゴンクローでモジャンボを攻撃する。
だが、高い防御力を誇るモジャンボにはあまりダメージを与えられない。
最後はモジャンボ、敵2体に当たる岩雪崩で攻撃してきた。
威嚇で攻撃力が減少していたものの、運よく急所に当たってクロバットを倒した。
だがまだ残りポケモン数では、ドラーズ側が優位に立っている。

先程手持ちを失ったスネ夫とコウジは、それぞれ最後のポケモンを繰り出した。
スネ夫はワタッコ、終盤は晴れ状態で戦うことを見越しての選択だ。
対するコウジはいうと……
「え? ……プ、ププッ」
そのポケモンを見たジャイアンが、思わず吹きだしてしまった。
コウジの最後のポケモンはチェリム、明らかに戦闘には向いてなさそうな可愛らしいポケモンだ。
「油断は禁物だよ、ジャイアン。 
あれはなかなか厄介なポケモンなんだ……」
スネ夫はあくまで冷静さを崩さない。



最初に動いたのは、葉緑素でかなり素早くなったワタッコだ。
ワタッコはモジャンボへと眠り粉を放つ。
(ここでモジャンボを眠らせれば、敵の行動できるポケモンは貧弱なチェリムのみ。
後は適当に力押ししてればまず負けることは無い。
広角レンズで命中率が上がった眠り粉はおそらく外れない、僕らの勝ちだ!)
だが、スネ夫のその考えは甘かった。
眠り粉は当たったが、モジャンボはすぐに起き上がった。
「残念だったな、ラムの実を持たせていたのさ」
コウジは勝ち誇ったように言った。
その後ボーマンダのドラゴンクローをモジャンボは耐えた。
そしてコウジがモジャンボに岩雪崩を命令する。
ワタッコは大ダメージを負い、ボーマンダは倒れた。
「どうなってんだ! さっきより岩雪崩の威力が上がってるじゃねえか!」
戸惑うジャイアンに、スネ夫は歯軋りをしながら言う。
「チェリムの特性“フラワーギフト”によって、相手のポケモンの攻撃力が上がっているんだよ……」
その後チェリムがワタッコに止めを刺した。
これでスネ夫も手持ちが0匹だ。
さらに、ジャイアンは1対2の状況を強いられることになった。

ジャイアンの最後の1匹は、パートナーのリザードンだ。
相手はどちらも草タイプ、リザードンの格好の獲物である。
先手を取ったリザードンは、火炎放射でモジャンボの体力を奪い取った。
残されたチェリムは恩返しでリザードンに攻撃する。
フラワーギフトの恩恵によってなかなかの威力があり、リザードンの体力は半分以上削られた。

「おそらく次が、ラストターン……」
スネ夫が不安そうな目で言った。



「リザードン、火炎放射だあああ!」
ジャイアンの命令を受けたリザードンが、チェリムを焼き払う。
「これでチェリムが倒れたらジャイアンの勝ち。
チェリムが倒れなかったら恩返しで倒されてジャイアンの負け、か……」
『どうかチェリムが倒れますように』のび太が両手を合わせて祈る。
一方ジャイアンは、リザードンが攻撃する光景を自信満々で見守る。
「チェリムの耐久力ならリザードンの火炎放射には耐えられねえ、俺の勝ちだ!」
やがてリザードンの攻撃が止み、煙に隠れたチェリムの影がだんだん明らかになっていく。

チェリムは………倒れていなかった。

「フラワーギフトで上がるのは攻撃だけじゃない、特防もなんだ……」
スネ夫が悔しそうに呟く。
リザードンがチェリムの恩返しで倒れ、ジャイアンの手持ちが0になった。
「勝者、『チーム・コトブキ』バク、コウジペア!」
審判の宣言を受けたスネ夫とジャイアンは、顔を俯けてフィールドから去っていく。
「僕の作戦は、完璧だと思っていたのに……」
スネ夫が悔しそうな表情を浮かべて言う。
「大丈夫、私が勝ってくるから」
静香はそう言って、落ち込む2人を慰めようとする。

一方勝ったチーム・コトブキ側では、バクとコウジが満を辞して帰ってきた。
だがその顔には、どこか晴れないところがある。
「まさか俺たちが、あそこまで苦戦を強いられるなんて……」
バクの顔は、まるで敗者のように曇っていた。
「ヒカリ、英才……気をつけたほうがいいぞ。
あいつらは、いままで戦ってきた誰よりも強い……」
コウジが、真剣な顔で仲間の2人に通告した。



       #22「握手」

続いて第二試合、3対3のシングルバトルが始まる。
ドラーズ側の選手は静香、コトブキ側はヒカリだ。
「ヒカリ、友だちだからって手加減はなしよ」
バトル前、静香がヒカリの意思を尋ねる。
「勿論。 そっちこそ手加減なってしないでよ」
ヒカリは昨日言った通り、完全に迷いを払拭したようだ。
そのことを改めて確認できた静香は満足気な表情を浮かべ、ボールを取り出す。
同時にヒカリもボールを取り出し、ポケモンを場に放つ。
両者のポケモン、テッカニンとメガヤンマが向かい合った。

「テッカニンか……早速得意のバトン戦略を始めるつもりみたいだね」
観覧席のスネ夫が言った。
「テッカニン、まもる」
静香が早速テッカニンに命令を下す。 
まもるでターン数を稼ぎ、その間に加速の特性でどんどん素早さを上昇させる。
そして数ターンが経過したところで、バトンタッチで補助効果を他のポケモンに引き継がせる。
静香が得意とする、いつもの常勝パターンである。
だがパターン化した戦略と言うのは、すなわち読まれやすい事にも繋がるのだ……
「メガヤンマ、フェイントよ」
ヒカリの命令を受けたメガヤンマは、まもるを無視してテッカニンにダメージを与える。
それを見た静香が焦りの表情を浮かべる。



「静香ちゃん何か焦りすぎじゃない? フェイントのダメージは大したことないと思うんだけど……」
不思議そうに呟くのび太にスネ夫が答える。
「確かに、ダメージ自体はたいしたものではなかったのかもしれない……
でも相手がフェイントを使ってきたということは、静香ちゃんの戦略が読まれていたってことだ。
自分の戦略を読まれていた時のショックはかなり大きいはずだよ。
それにさっきのフェイントで、静香ちゃんがテッカニンに持たせていた気合の襷も無効化されてしまった。
あの一発で、場の空気が相手に傾いてしまったみたいだ……」
スネ夫が不安そうな目でフィールドを見つめる。

これ以上この戦いを続けるべきではないと判断した静香は、早くもテッカニンにバトンタッチを命じる。
そして代わりに、切り札トゲチックを繰り出す。
メガヤンマは早速催眠術を放ったが、光の粉を持つトゲチックには命中しない。
次のターン、バトンを引き継いで素早くなったトゲチックが先手をとった。
トゲチックのエアスラッシュは、なんと一撃でメガヤンマを葬った。

「すげえ、一撃で倒しちまったぜ……」
ジャイアンが感動の声を漏らす。
先程までヒカリに傾いていた流れを、たった一撃で自らの元に引き寄せたトゲキッス。
さすがは切り札、と言ったところだろうか。
「やっぱり、まずはそのトゲキッスを倒さなきゃいけないみたいね」
ヒカリはそう言いつつ、2体目のモンスターボールを取り出す。
中からは現れたのはランターン、電気タイプと水タイプを併せ持つポケモンだ。



(相性では不利だけど、トゲチックなら勝てる!)
切り札に絶対的な信頼を寄せている静香は、トゲチックのまま勝負に出た。
そしてまずは電磁波を使い、相手を麻痺させようとする。
だが、なんとランターンは電磁波を己の体内に吸収した。
「ランターンの特性は“蓄電”、電気タイプの技は効かないわ」
ヒカリが勝ち誇ったように言う。
「今度はこっちの番よ、10万ボルト!」
効果抜群の一撃は、トゲチックの体力を半分程度削り取った。

「電磁波は効かないし、エアスラッシュも効果いまひとつでダメージが少ない。
成程、まさしく対トゲキッス用のポケモンってわけね」
静香が悔しそうに呟く。
次のターン、トゲキッスのエアスラッシュを当てた後10万ボルトで倒されてしまった。

トゲキッスを倒された静香が出したのは、フェイントのダメージを負ったテッカニン。
(またバトンをする気ね。 ということは、次のターンはまもるでくるはず……)
まもられることを見越したヒカリは、ランターンに充電を命じる。
だが、それを見た静香は小さくガッツポーズを取った。
「あなたならそう来ると思ったわ、ヒカリ」
静香のテッカニンが取った行動は、まもるでは無く剣の舞だった。
ヒカリが補助技を使ってくると予想した静香は、あえて危険な賭けに出たのだ。
「クッ、一杯食わされたわね……」
今度はヒカリが悔しがる番だ。
次のターン、テッカニンはまもり、ランターンはもう一度充電をする。
そしてテッカニンがバトンタッチをし、ボールの中へ戻っていく。
「お疲れ様、テッカニン」
テッカニンに礼を告げ、次に人型のポケモンエルレイドを繰り出す。
エルレイドは持ち前の特防の高さで、充電で威力が上昇した10万ボルトに耐えてみせた。



バトンを引き継いだエルレイドは、リーフブレード一撃でランターンを倒した。
これで2体1、しかもエルレイドは攻撃力と素早さが上昇している。
状況は完全に、静香有利となっていた。
「私はまだ……諦めない!」
ヒカリが祈るように最後のポケモンを出す。
「プテラか……厄介なのが来たな」
後ろで見守るスネ夫が言うとおり、この状況でプテラは厄介なポケモンだ。
相性でも不利だし、何よりプテラには驚異的なスピードが備わっている。
おそらく、加速一回分を受け継いでいるエルレイドでも先手をとれないだろう。

やはり先手を取ったのはプテラ、燕返しでエルレイドの体力を大幅に削る。
「ランターンを攻撃した時に、持たせていた貝殻の鈴で回復しててよかったわ……」
静香がホッと胸を撫で下ろしながら言う。
「エルレイド、サイコカッターで反撃よ」
サイコカッターは剣の舞による攻撃力上昇でかなり強力になっているが、プテラを倒すまでには至らない。

「プテラには拘りスカーフを持たせてあるから、素早さはテッカニンを上回っている。
エルレイドとテッカニンを燕返し一発で倒せるから、私の勝ちよ」
ヒカリが勝ち誇ったように宣言する。
だが、その言葉を聞いた静香は笑みを浮かべる。
「……あなたは一つ、大きな見落としをしているわ、ヒカリ」
ヒカリが頭に疑問を浮かべた瞬間、静香が高らかに宣言する。

「エルレイド、影討ちよ!」

エルレイドはプテラよりも速く動き、軽い一撃でプテラを仕留めた。
「……しまった、先制技か……」
ヒカリが己を責めるように呟いた。



瀕死になったプテラを、ヒカリが回収する。
もうヒカリの手持ちはいない、静香の勝ちである。
『勝者、『ドラーズ』源静香選手!』
審判から勝利宣言を受けた静香は、真っ直ぐヒカリのもとへ歩み寄る。
「いい勝負だったわ。 ありがとう、ヒカリ」
そう言って差し出された静香の手を、ヒカリは迷わず握り締める。

―――バトルの後は、握手をしてお互いの健闘を讃える。
ポケモントレーナーの最も基本的なこの行為も、命の危険に晒されたこの大会では忘れ去られていた。

握手を終えた静香とヒカリが、フィールドから降りていく。
それを見たのび太が、ゆっくりとフィールドへ向かって行く。
「のび太さん、後は任せたわよ」
「絶対に勝ってこいよ、のび太」
「出木杉なんかに負けたら承知しねえぞ!」
仲間からエールを貰い、のび太がフィールドへ向かう。
ついに、ついに大将戦が始まるのだ。

「ねえ、出木杉」
正面に立つ出木杉に、のび太が呼びかける。
「約束通り、君に勝って証明してみせるよ。
君の考え方が、間違ってるってことをね!」
その言葉を聞いた出木杉が、軽い笑みを浮かべて言う。
「君が僕に勝つ……面白い、やってみなよ」
言葉では余裕を浮かべているが、顔は真剣そのものだ。

「行くぞ、出木杉!」
「来い、のび太君!」
激しく火花を散らせながら、二人は最初のポケモンを繰り出した。


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