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No.017『Wait and breed』

ビシッ、ビシッビシッ。
のび太の周囲が眩しい光に包まれる。

神秘的な光景。小さな戦場で産まれる新しい生命とは何なのだろう。
のび太がそんな事を考えていると、タマゴの殻が崩れ落ち、光が強くなる。
そして、のび太の手元がグッと重くなり、反射的に手を離す。
ゲームでは幾度となくこなしてきて、作業とまで言われる孵化。
現実に体験するのはこんなにドキドキするものとは――――

「ポッポ、変なのが産まれる前にあの眼鏡をボコせぇぇぇーーッ!」

いつも空気の読めない人間は居る。
今のためるがそれだ。
ためるのポッポがのび太に襲いかかる。
「通常、孵化歩数が多ければ多い程強いポケモン、若しくはレアなポケモンが産まれてくる……。
そんなポケモンが産まれたらポッポでは勝ち目が無いかも知れない…。
と、いうことは潰すなら今しか無いッ!」

まばゆい光に包まれたのび太はその攻撃に気づけていない。
そんなのび太にポッポの翼が襲いかかる。
「プレイヤー…、いや、トレーナーにダイレクトアタックだッ!
いけえええええッ!」
しかし、その瞬間、

ドゴッ!

突如、ポッポが謎の黒い影に突き飛ばされた。



「ポッポォーーッ!」
ためるは慌てて自転車から降り、吹き飛ばされたポッポに駆け寄る。
地面に落ちたポッポは、かなりのダメージを受けていた。
「これはひどい……
どのくらい酷いかというと90年代初頭のバブル崩壊後の日本の経済状況くらい酷い……

はっ!」

ここでためるは気づいた。
自分を突き刺す鋭い目線に。
のび太の横に立っている、茶色い凶暴そうなのポケモンに。
『それ』は産まれたてとは思えない威圧感と空気をかもしだしている。

のび太は『それ』に指示を出した。
「ケンタロス、体当たりだ!」
「ケンタロスだとォォーーッ!」

ケンタロス。
高い攻撃力と素早さを誇るレアなポケモン。その三本の尻尾をムチの様に叩いて加速する。主にサファリゾーン等に生息し、個体数も少なければ捕獲率も低い―――

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド。

のび太のケンタロスが発情したようにこちらに向かってくる。
ポッポじゃケンタロスに勝てるハズが無い。
なんとか、なんとかせねば。

ケンタロスは尚もこちらに向かってくる。
ポッポとケンタロスの距離はグングン縮まる。
「待ってくれ!待ってくれのび太君!」
そして、その距離が後5mくらいになったとき、慌てた様子ためるは言った。



「ちょっと待って、ケンタロス!」
のび太はそれを聞き、ケンタロスの体当たりを中断させる。
「なんだい?ためる君」
のび太は訊く。
「のび太君……降参だ…
ポッポじゃケンタロスは倒せない」
「降参…だって?」
「ああ、降参だ」
突然手のひらを返した様に冷静になり、降参を宣言するためるにのび太は怪訝そうな顔をする。
ためるは続けた。
「のび太君……僕、気づいたんだ…僕が間違ってたって。
ためるBANK(通称TB)をブチ壊されて自分を失ってたんだ…。
やっぱり、お金より人間関係だよね
ごめんね…のび太君」
そう言い、ためるは頭を下げる。
のび太はそれを黙って見つめていたが、じきに言った。
「ためる君……気づいてくれればいいんだよ
だって僕らは同じ学校の仲じゃないか
本来なら助けあうべきなんだよ…」
のび太はためるに歩み寄る。
そしてケンタロスに手を当てると、言った。



「今までのやりとりで、またたくさんの人に抜かれちゃったけど、今からケンタロスに乗って追い掛ければ間に合うかもしれない。
だから…ためる君、一緒に行こう」
のび太はためるに手を差しのべた。
「ううう…のび太君……君って奴はぁぁ……」
ためるはその場に崩れ落ちる。
それを見て、のび太は照れ臭そうに言う。
「嫌だなぁ、泣かなくてもいいじゃないか。
素直に喜んでよ」
「いや、泣いてるんじゃないよ……嬉しいんだよぉ……
のび太君が……のび太君が……




本当にお人よしの馬鹿だったってコトがねーーーッ!」
「なっ、……」
「ポッポォ!砂かけだあ!」





***


いやぁ、正直者が馬鹿を見るっていう言葉は本当だねぇ。
あの低脳アホ眼鏡ののび太はまんまと僕の策にはまったんだから。
いやぁ愉快だ。将来詐欺師にでもなろうかなぁ。

僕の策は簡単。
『あのアホなお人好しを罠にハメる』それだけ。
本当は適当に演技しながら、手を握ろうとかしてのび太に近づいて、砂を食らわす予定だったんだけど予想外に上手くいったねぇ。
あいつ自分からこっちに来るんだもん。プフフ、アホだよね。
さーて、このまま砂食らわせてあのアホを強迫して(恥ずかしい写メとか撮ってね)ゴールまで連れてってもらうか。
あ、あのデブは連れていかないよ。だって重いじゃんw

まずはこのままアホと牛に砂食らわせて……


ん?
ポッポ、どうした?動きが鈍いぞ、オイ、早く眼鏡に砂かけしろよ。
動けったら!
オイ、僕の言うことが………ガフッ。



***

サイクリングロード池近くの中腹。
そこには三人の少年と、一匹の牛と一羽の鳥が居た。
その中で立っている少年は一人。
横には例の牛が。
そして倒れている少年が二人。
片方は気絶している様だった。
そしてもう片方は顔を歪め、地面をはいずりまわっている。
「ち……チクショウ……こんなハズは……」
その少年の名前はためる。
先程、ポッポと共にケンタロスから食らった体当たりのダメージで、立つこともままならない。
恐らくためるもポッポも立ち上がる事は不可能だろう。
「チクショウ、チクショウ!僕の…僕の完璧な貯金ライフがぁぁぁぁッ!」
「ためる君……」
のび太が言う。目はためるを軽蔑する様な白い目をしている。
「ヒィィィィッ!来るな……来るなぁぁぁぁッ!」
ためるは思わず後退りする。
のび太は言った。
「ポッポの動きが鈍かった理由……
それは僕が最初に君に攻撃しようとする前に『恐い顔』を使わせていたから。
ポッポはすばしっこいからね。
そして君には呆れたよ……本当に…。
どうしようもないね」



のび太はためるへと踏み出す。
ためるは言う。
「くくくくくくく、くくくくくくく来るな…
ぼぼぼぼぼぼ、ぼぼぼぼぼぼ僕をポケモンで攻撃する気かい……、そそそそんな事したら失格になるよ、いいのかい?」
ためるは震える声で言う。
「くっ」
のび太は戸惑いを見せる。せっかくケンタロスの孵化により、二次試験突破の希望が見えてきたのに、こんな事でフイにする訳にはいかない。
のび太は悔しそうに唇を噛む。
「ハハハハハハハ、ざまあみろ!
君は僕に手出し出来ない!
そのデブ連れて早く行けよ!試験に合格するんだろ?
アハハハハハ、仕返しも出来ないなんて哀れ……」
そこでためるの言葉は中断した。
背中に寒気、ぞわっとする寒気、気味の悪い寒気。その寒気が彼の背中を走ったからだ。
この寒気は日常でよく経験する。これはまさしく………
「誰がデブだって?コラ」
「ジャイアアアアアアン!」
の物だった。
ジャイアンは続ける。
「今までなぶってくれてありがとよ…お陰で気持ちがいいくらいイライラするぜ…さぁ、何をされたい?メガトンパンチか?地獄車か?ジャイアンビックバンか?
さぁ、選べ……」



「ヒィィィィッ!」

コイツマジでやる気だ。コイツは二次試験突破と自分への復讐を天秤にかけたら間違いなく後者を選ぶ。
コイツはヤバイ。殺される。

ためるはそう思った。

片足を引きずりながら近づいてくるジャイアン。下手な映画のゾンビより圧倒的に恐い。
そして……
「ブチ殺ーーーーす!」
「うわあああああああ」
ためるは自転車に乗り逃げ出した。凄まじいスピードで坂を下る。

それを見て、のび太が言う。
「あ、ためる君……その先は……」
「うわあああああああ、うわあああああああ」

「池があるから気を付けてね」
「うわ……」

ジャッポーン。

ためるは自転車ごと池へダイブした。



それを見てジャイアンは言う。
「ざまあみろだぜ。のび太、スッキリした。
もうあんな亡者ほっといて行こうぜ。」
「うん」
のび太とジャイアンは池の波紋を白い目で見やると、ケンタロスに股がり、先へと進んだ。

「………チクショウ………ゴボゴボ……」
余談だが、この試験の次の日からサイクリングロードに大量のお金の落し物が見つかる事になる。
中には、TWと書かれたビショビショの財布があったとか、無かったとか。



No.018『HERO』

――とある、場所で――

社長、お願いしますからクビだけは……
クビだけは勘弁してください!お願いします!


いやね、ウチとしても今は経営がキツイんだよ
ギリギリなのは君だけじゃないんだ
分かってくれるかい?分かってくれるよね



自分には妻が…妻が……病気の子供が居るんです…
だから、今クビにされると…


うるさいな、君は。若いから早く新たな職を探しなよ。高卒の君を雇ったのは私の良心なんだよ?分かる?
君が中学の頃の友達じゃなきゃあ雇わなかったんだよ?
おい、警備員、彼を摘み出せ


社長そんな……おいっ、お前らっ……何をする……やめっ……


フゥー。社会はね、他人の事なんて考えてる暇なんて無いんだ。
自分が良ければそれでいいんだよ。それで。
とりあえず、例の事は全て彼の責任という事で
あー、これで安心して眠れるよ。うん



世の中は理不尽なものだ。
他人が他人を蹴落とし合う。
そんな世界だ。

そんな世界で、もし「自分の友人を犠牲にしないとならない」という状況になったら、人はどうするのだろうか。

読者のみなさんも考えて欲しい。

***

サイクリングロードの坂の頂点も近づいてきた場所。


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド。

「いゃっほぉい!」
「すげえ、すげえ、すげえ、すげえ、すげえ!すげえよ!のび太!」
のび太とジャイアンはケンタロスに乗り、サイクリングロードを爆走していた。
その速さはかなりの物で、人間が漕ぐ自転車の速度など比較にもならない。
一人、また一人と驚異の追い上げで受験者を抜いてゆく。

「こいつは楽勝だぜぇ!」
風を切る疾走感、爽快感で、ジャイアンの足の痛みも和らぐ。
「そういえば、今まで人をたくさん抜いたよね。
今、何位くらいかな?」
「さあな。とりあえず、今やるべき事は走り続ける事だぜ。それにのび太、あれを見ろ」
ジャイアンは前方を指差す。
のび太はそれを目を細めて見て、言う。
「あれはゴールじゃないか!」



無限に続くかと思われた坂に終点を見い出す事ができ、のび太は喜びの声を上げる。
前方には人は一人も居ない代わりに、坂の上にはポツポツ人影が見える。
その数は1、2、3、4……意外と多い。
「おいおい、のび太。
もしかして、もう50人ゴールしてんじゃねえのか?」
「ははははは……。そんなまさか
大丈夫だよ、もう前に人は居ないし…」
のび太がそうジャイアンに言ったその時、


『お前ら元気にやっとるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!ッ』

サイクリングロード中に響く大爆音。
もちろん、言うまでもなくシジマの声だ。
何度聞いても耳がキンキンする。

そしてその明らかに耳に悪そうな放送は続く。

『お前らはぁぁぁぁッ!よぉぉぉぉぉく頑張ったぁぁぁぁッ!
このシジマッ!感動したぞォォーーッ!』

「うるせえなあの野郎。早く要件言えよ。騒音野郎が」
ジャイアンがボソリと呟く。
まぁ、ジャイアンものび太から見たら騒音野郎なのだが。

ジャイアンの陰口も知らぬシジマは放送を続ける。

『実はなぁッ!
先ほど二次試験合格者が49人目になったんでなぁーッ!この試験に合格出来るのは後一人になったぁーーッ!』



「えっ…?」
突然のショッキングな情報にのび太は呆然とする。
後一人しか浮かれない?そんなバカな。何かの間違いだろ……。

しかし放送は非情な現実をつきつける。
シジマは確認するようにもう一度言った。
『もう一度言うぞーッ!残りの合格枠は一つだけだからぁーーッ!
そうゆーことで頑張れよォォーーッ!プツン』
放送が終わった。

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド。

さっきとは一転。のび太とジャイアンの間に不穏な空気が流れる。
お互い一言も話さない。
ただ、ケンタロスの蹄の音だけが、二人の空間を支配する。

「ジャイアン…」
最初に口を開いたのはのび太だった。
「どうしよう?」
「どうもこうも無いだろ…
試験に合格出来るのがあと一人。それだけだ…」
「あ、うん……そうだよね……」
そうして、二人は再び黙りこくる。
二人とも、何を話していいのか分からない。

そしてのび太は考える。
今の状況は恐るべき状況だ。
残り一つの椅子を争わねばならないのだから。
今、自分らの前には誰も人がおらず、後続も大きく引き離している。
故に、自分達の一対一の戦いは確実に避けられない



そんな一対一の状況…恐らくあの暴君ジャイアンなら間違いなく喚き散らして
「降りないとギタギタにする」的な事を言うハズだ…。
今は何故か黙りこくっているから良いが、そんな事言われたら一溜りもない。
抗うことなんてとてもじゃあ無いができない。
言われるがままになってしまう。
そういえば何故、今ジャイアンはこんなにおとなしいのだろう。何故……。あっ……。



そこでのび太は気づいた。ジャイアンが黙りこくっている理由が。


現在、ケンタロスの上でジャイアンが前、自分が後ろに位置している。
故に、物理的に考えると自分よりもジャイアンの順位が上であるということ。
と、いうことはこのまま黙っておけば自然とジャイアンの合格が決定し、自分の不合格か決定してしまう。
すると、ジャイアンの沈黙は恐らく時間稼ぎ。
考えてます的な雰囲気を出して、こちらに行動させないための作戦か。
ならばこちらにだって考えがある。



今、自分達を乗せて走ってるケンタロス。
こいつの親は孵化させた自分だ。故に言うことを聞くのはタマゴの持ち主のジャイアンではなく、親である自分ということになる。
ならば策は幾らでも弄する事ができる。
ゴールするギリギリにケンタロスを止まらせ、上手くジャイアンを出し抜いてゴールする。
ゴールするまでの時間稼ぎはケンタロスにやらせればいい。
残念だったね、ジャイアン。合格するのは僕だ―――――

ケンタロスはペースを崩さずに走り続ける。
あとゴールまで100m程。
残り10mくらいになったら作戦を開始させよう。

よし、あともう少しだ………もう少し………。今だッ!

「ケンt……」
「おい、のび太。」
突如、ジャイアンがのび太の襟首をガシッと掴んだ。
余りにも突然だったので、のび太は一瞬怯む。
(まさか……まさか読まれていたのk……)
のび太の思考が終わらない内に、ジャイアンは言った。
「すまねえな、のび太、ちょっと強引だが我慢しろよ」
「ちょ…ジャイ……」
のび太の言葉はそこで中断される。のび太の体はフワリと宙を舞い、ケンタロスの上から投げ出された。
「うわああああああッ!」
のび太は地面に熱烈なキスをかまし、そのまま気を失った。

その瞬間――
『終~了ォ~』
試験の終りを告げるアナウンスが辺りに鳴り響いた。



***

のび太をほおり投げた俺は、そのままケンタロスでゴールした。
「ごめんな、のび太。俺はこれしか手が思い浮かばなかったんだ。勘弁な」
地面に転がり、気絶しているのび太に俺は謝る。
のび太は医者みたいな人達にタンカで運ばれていった。
そして俺はケンタロスから降りる。
あっ、やっぱ足痛いわ。俺も早く医務室にいかねえと。
「待て、お前」
足を引きずって歩く俺に誰かが話しかけてきた。髭顔の中年。よく見るとシジマのおっさんじゃねえか。
「何故、あんな事をした」
妙に真面目な面向きで聞いてくる。なんだ、オッサン、普通にしゃべれんじゃねーか。
「俺は足が痛かったからな
怪我した俺様がこのまま次の試験に進むよりは無傷ののび太に進ませた方が良いと思ってな」
そう、俺はのび太を合格させるために…自分の後ろに居るのび太を合格させるために…敢えてのび太を『ゴールの方』へぶん投げた。
少々乱暴だが、俺の脳味噌じゃあ、これが精一杯だ。
ま、無事(無事じゃねーけど)のび太が合格できて良かったよ。
オッサンは言う。
「友のために自らを犠牲にする……見上げた魂だ……。私はそんな人間に敬意を払う…。
どうだ?シジマ格闘場に入門しないか」
嫌だよ。24時間特訓が。死ぬじゃねえか。
俺は言う。
「買い被り過ぎだ。俺は当然の事をしたまでだ」
そう言って、俺は最後に一言つけ加えた。

「ガキ大将としてな」

【二次試験突破:野比のび太、その他50名】
剛田武(ジャイアン):リタイア



No.019『PUT YOUR RECOADS ON』

ショーン。ショーン見てよショーン。あたしよショーン

オゥ、ジャスミンじゃないかー。元気か?僕は元気が有り余って思わず大髄筋がピクピクしちゃうくらいだよ。

ショーン。ねぇショーン。貴方はまだエリザベスの事が好きなの?

ジャスミーン。勘違いするなよあれは…

嘘、目が嘘ついてる。あんなザベスの何処がいいのよ!あたし彼女が貴方の○貞奪った事も知ってるんだから!

ジャスミン君は誤解……

いいわ、もう知らない。だから……ギ ッ タ ギ ッ タ に し て や る ぞ の び 太 !

――――

「はっ!」
ただならぬものを感じて僕は目を覚ました。
体に凄まじい汗をかいている。
なんかヤバイ夢を見た気がするんだけど思い出せない。
「ところでここは何処だろう?」
辺りを見回し、僕は呟く。
ベッドにシャレた机にバスルーム。見た感じはそこそこ値のはるホテルの一室のようだ。
「いつ連れ込まれたのかn…ウップ!」
その瞬間、僕、のび太の体の中、特に胃の辺りからなんだか違和感のようなものが込み上げてきて……
まぁ……なんてゆーか汚いんだけど……

「ウルォロォロオロオロ…ウルォロォロオロオロ…」
吐いちゃった。



「ウップ、なんでこんなに気持ち悪いんだろ…ウップ!」
僕の体はすぐに第二波を訴え、そのまま本能のままに嘔吐する。
この感覚は昔にも襲われた事がある。これはまさか……『酔い』の感覚?
何故普通の部屋なのに酔うんだ?車や飛行機じゃあるまいし。何故…
ウッ、
「また来た…ウルォロォロオロオロ…」
そして僕が第三波に苦しめられていたその時、突如僕の部屋のドアが開いた。
僕は侵入者を確認しようとするけど、体がそれを許さない。ゲロってしまうから。
そしてその侵入者が言う。
「のび太君、やっと起きたようだね」
のび太君?誰だ?君は。
僕はゲロりながらそんな事を考える。
「大丈夫?背中さすろうか?」
『誰か』が近づいてくる。背中を擦ってくれるとは有難い。お言葉に甘えるとしよう。
「ウルォロォロオロオロ!ウルォロォロオロオロ………!………」
幾度とない嘔吐で僕の体もようやく落ち着いたらしい。僕はお礼を言おうと後ろを向く。
「止まった……。誰だか知らないけどありが……」
僕はそこで言葉を失った。

久しぶり会う懐かしい顔(まぁ、実際の時間は最後にあってから5時間くらいしか経ってないが)がそこに居た。僕はソイツの名を呼ぶ。
「ドラえも~ん!」
そして僕はドラえもんに抱きついた。



「ドラえもぉ~ん!」
「おー、よしよし、頑張ったね…」
ドラえもんのロボットの体から暖かみを感じる。精神的なものか物理的なものかは分からないが、僕の心が安堵したことに変わりはない。
ある程度再会を噛み締めた後、落ち着きを取り戻した僕は訊く。
「ここは何処?」
「ここは船の中だよ。豪華客船サントアンヌ号を貸しきりだってさ。凄いよね」
なるほど。僕の吐気の正体は『船酔い』か。
でもなんで僕が、今、その豪華サントなんちゃら号に乗っているんだろう。
とりあえず僕はその疑問をドラえもんにぶつけてみる。
「ああ、それはね、今三次試験会場に移動しているんだよ」
「ああなるほど。三次試験会場ね………



ってなんで僕が三次試験に行ってるのォーー?
っていうかそもそも何故君はここに居るのー?」
「ああ、それはね、長い話になるけどカクカクシカジカで…」

ドラえもんは僕に色々な事を分かりやすく説明してくれた。

今回もやはり参加者が多くて、一次、二次試験は場所と時間を4つのグループにズラして行っていたらしいこと。ドラえもんもその試験に合格したということ。そしてその中に何人か運良く残ったクラスの知り合いが数名居たこと。
そして……ジャイアンが僕を受からせるために犠牲になったことだ。



考えてみればなんて僕は馬鹿だったんだろう。
あの時、ジャイアンが黙っていたのは『どうやって僕を出し抜くか』じゃなく、『どうやって後ろに居る僕を先にゴールさせるか』を考えていたんだ。
それを知らずに僕は……最低だ。
後悔先立たず。こうなったら僕がジャイアンの分まで頑張って試験に合格するしかない。見ててね、ジャイアン。僕、頑張るから。

そこで僕はふと思った。
「ドラえもん、今何時?」
そう、今までずっと気絶してたけど、今は何時なのだろう。
ドラえもんは答える。
「大体九時位かな」
「九時か……僕、8時間近く気絶してたのか……」
「いやいや、午後じゃないよ、午前九時だ」
「え?午前って……」
「知らなかったかい?君は20時間以上気絶していたんだよ」
マジッすかああああああああ!
いくら寝坊な僕でも20時間って……。
「本当なの?ドラえもん」
ドラえもんは僕の問いに無言で頷き、部屋に備えてあったテレビの電源をオンにする。
『20才男性、自殺!』という見出しの上の時評は、紛れもなく八時五十六分を指していた。
『次のニュースです、明日は低気圧が北上してきて昼から激しい雷雨……プツン』
ドラえもんはテレビのスイッチを切った。



「三次試験っていつから始まるの?」
僕はとりあえず聞いてみる。
するとまたまたショッキングな答えが返ってきた。
「確か九時からだっけ……」
「ええええええええええええええええええ!!!!!」
九時っつたらモロに今じゃないか。いや、正確には後二、三分あるけれども。
「今から行って間に合うの?」
不安そうに僕は訊く。
「大丈夫だよ、九時に集合を伝えるアナウンスを流すって言ったから」

すると、

『ピンポンパンポーン』
突如、迷子のお知らせをするような、そんな気の抜けたチャイムが響いてきた。
「ほら、そう言ってる間に始まった!」
ドラえもんが言う。どうやらこれがアナウンスのようだ。
『こんにちは~……じゃなくて、受験生のみなさん、おはようございま~す!』
なんだ、この人は。軽い、とにかくノリが軽い。ポンキッキのお姉さんじゃないんだから……。
「これ、誰?」
「さあ?」
ドラえもんは知らないよとばかりにジェスチャーをする。
アナウンスは続く。
『これからねー、三次試験の課題を発表するからー、みんなー、この船のデッキの所まで来てね♪
じゃあねー。プツン』
余りに気の抜けた放送に僕とドラえもんは顔を見合わせる。
「とにかく!今は早く行こう!デッキはこっちだよ」
「ああ、あ、うん」
僕はドラえもんについて行った。



―――サントアンヌ号甲板―――

甲板に上がった僕を迎えいれてくれたのは、輝く太陽と心地好い海風……ではなく、曇り空とギュウギュウ詰めの人混みだった。
「何人居るのコレ…」
「一会場50人ずつだから50×4で200人だね」
200人、今まで1000人とか10000人単位の戦いだったからそれに比べれば少ないけど…やっぱり多いなぁ。
まぁ、それでも一次試験に比べればマシだけど。
僕がそんな事を考えていると、
『みなさ~ん、こぉ~んに~ちはぁ~』
とアナウンスが響いてきた。
いや、正確にはアナウンスじゃないんだろう、船の真ん中のポール前(ちょうどタイタニックで二人がポーズしたとこ)に一人の女の子が立っている。その姿は緑のポンチョを身に纏い、ヘソを出している。

マイクを持ってる事から、多分彼女が直接ここで話しているのだろう。

その女の子は話を続けた。
『みなさ~ん、何回目か分かんないけどこ~んに~ちは~!
第三次試験官のナタネでーす』
ナタネ……確かダイパで出てくるジムリーダーだ。
「ああ、あのビビりな人か」
「ビビり?」
「いや、こっちの話」
ナタネさん話は続く。
『えーとねー。これからー、三次試験の説明を始めるからー、みんな良く聞いてねー』



「三次試験……いよいよここまで来たか…」
僕の手にも自然と力が入る。現段階で50000分の200だ。ここまで来たらやるしかない。
「頑張ってよ、のび太君」
ドラえもんも応援してくれている。
僕は無言で頷いた。
そして試験内容の説明が始まる。

『えーとねー、今回のー試験課題を発表する前にまず、右手をご覧くださーい』
ナタネさんが指示すると、みんながその方向をむく。
そこには一つの島がある。
「けっこう大きな島だな」
僕は誰ともなしに呟く。
他の人も興味深々で島を覗き込み、各々の感想を漏らしている。
そんな僕らの表情を、見定めるかのように見比べたあと、ナタネさんは言った。
『今回のー、試験会場はあそこでーす
では、これから三次試験の内容を発表しまーす』
皆、ゴクリと唾を飲む。僕も心なしか緊張した気分になる。
『実はですねー、今回私達はー、あの島に200匹のコラッタを放しましたー。
みなさんにはこれからあの島に行ってコラッタを捕まえてきて欲しいと思いまーす
今回の試験課題は捕獲サバイバルでーす』




「捕獲サバイバルぅー!?」

ザワザワザワザワ。

辺りでどよめきが起こる。
しかしナタネさんはその様子を見ても、ニコニコしたままで慌てる様子が全く無い。
そしてナタネさんは更なる説明を始める。
『これからみなさんはあの島で二日間を過して貰いまーす。
それでーその間にーコラッタを三匹集めてきてくださーい
あ、そうそうちなみに寝るとことかコンビニとか全く無い無人島ですからー自分で考えて頑張ってくださいねー』
無人島で二日間過す?無理だよ、僕には。
あ、でも僕にはいまドラえもんが居るんだった。
良かったぁー。

『みなさんが素のままで二日間サバイバルするのも厳しいと思うからぁ、みなさんには一人一つずつ、冒険バッグが支給されまーす。
中身は懐中電灯、食糧、二次試験でみなさんが孵化させたポケモンとかが入ってまーす
あ、それとモンスターボールとランダム支給品、ポケモンを回復するための道具とかも入ってまーす
ちなみに二次試験で孵化させたポケモンで、コラッタを弱らせて捕まえても構いませーん』
すると
「すみませーん、ランダム支給品ってなんですか?」
と、誰かが質問する。
しかし、
『バッグを見るまでのお楽しみでーす』
と、返されてしまった。



『説明はここまででーす
何か質問とかありますかー?』
ナタネさんはそう言って辺りを見回す。
すると人込みの前列らへんに居た誰かが手を上げた。
「コラッタを集めてくるということは、別に集めてくる方向は捕獲だけじゃないってことですよね?」

は?何が言いたいの、この人、捕獲しないでどうやってコラッタを集めれるの?

僕はナタネさんはポカーンとした表情すると思った。しかしナタネさんはニヤリと笑って、
『そうですねー、別にどんな手段でも構いませーん』
と答えた。
そして、
『他に質問はありませんかー』
と聞いた。
手を上げる者は誰も居ない。
『じゃあ今から試験をスタートします
今からみなさんの足元がワープ床に変わって島にバラバラに飛ばされるんで』

「え、そんな突然……」
バラバラ?それじゃあ僕とドラえもんもバラバラ?
と、言うことは僕一人で……

『それじゃーいってらっしゃーい』

ビシュン!

ワープ床が発動し、受験生達は何処かへとワープしていってしまった。
『いやぁ、面白くなりそうねー』
誰も居なくなった甲板で、ナタネは小さくほくそ笑んだ。



No.020『THE DEEP SHOW』


緑に覆われた島は、ただ静寂が支配していた。
静寂と行っても、森林浴に行った時に感じる虫の音や鳥の鳴き声に伴った精神的なものとは全く違う。
それは現実的で悲壮な完全なる静寂だった。

しかし、その静寂は音も無く破られる。

この島に来た侵入者によって、だ。



ビシュン、ドテッ。


静かな森に何かが落ちたような間抜けな音が響く。
その音がした場所を見てみると、情けなく尻餅をついた眼鏡の少年が居た。
「イテテテテ、酷いよ……、あの女の子……」
そう、我らが主人公、野比のび太だ。
この少年、こういったテレポート等空間を移動した時は、必ずと言っていい程情けないスタイルで登場する。
そして今回もそのお約束に則った。
しかし彼も何時までも尻餅をついて、ボーッとしている程馬鹿では無い。
腐葉土の地面に手を付き、立ち上がって辺りを見回す。
「……ここは何処だろう」

辺りは一面の森だった。針葉樹が並んでいて、当たりは一面緑で染まっている。
空から漏れる緑の溢れ日は、ここが深い森である事を示していた。



こんな自然の懐に、たった一人で放り込まれたのび太(まぁ、他の受験者も居るのだが)は元々ビビりな性格も災いし、喚き出す。
「酷い!酷いよ!あの女の子…。こんな所に僕だけ置き去りにして……。
……ドラえもォーん!」
のび太の子守りロボットを呼ぶ声が辺りにこだまする……が、別に何も起きない。
風に揺られガサガサ鳴る葉の音が、のび太の孤独感に拍車をかける。
「さみしいよォーッ!ドラえもぉぉぉん!


イテッ!」
突然、のび太の頭上から何の前触れも無く、何かが落ちてきた。
それはのび太の頭に命中し、地面に落ちる。
「イタタタタタ……。ん、なんだ?これ」
のび太は落ちてきた『それ』を見る。

それは黒い一冊のノート……ではなく、少々大きなリュックサックだった。
のび太はそれを前にして考える。
「なんだろう…これ。
あ、そういえば試験の説明の時に最初に食糧とかが支給されるって言ってた気がするぞ。
と、いうことはこれがそうか!」
俄然元気を取り戻したのび太は、早速支給品のリュックサックの中をあさりだす。



「中身は…懐中電灯…500ミリペットボトルの水…食糧…ええと……他には…あ、地図もあった」
リュックの中身をあさくるのび太。遠目から見たら本当に猿に見えなくもない。
そんな姿に気付きもせず、のび太の物色は続く。
すると中から何やら変な物を発見した。
「なんだろう、これ?」
のび太はそれをリュックの中から取り出す。
黒いボディに赤いボタン。何やらアンテナや音声が出るらしい穴みたいなの物がついている。
それは爆弾のリモコンにも、一風趣味の変わったラジオにも見えた。
とりあえずのび太はその裏も見る。
「ん、何か手紙が貼ってある」
のび太はその手紙を取り読んだ。


“このボタンはギブアップしたくなった時に押してネ。
アナタの足下がワープ床になってサントアンヌ号内にワープできるから。
こっちに来た瞬間、即失格だから、くれぐれも、間違って押さないように気を付けてネ。
――――ナタネ―――”


「なるほど…ギブアップ用のスィッチか…
押さないように気をつけないと…。
他には何か無いかな?」
のび太は改めてリュックの物色を再開する。
「モンスターボールが20個…キズ薬が10個…何でも治しが5個…元気の欠片も5個…。

ん、またまたなんだ、これ?」



今回のび太が取り出したのは何やら物騒な紙袋。
「なにこれ…『らんだむささきゅうしな……?』
あ、ランダム支給品か!」
そんなのもあったな、とのび太は思い、ハイなテンションでその紙袋を開ける。
ちなみに、支=ささ、給=きゅう、品=しな、である。

「何か良いものが入ってたらいいなぁ…。
ん、これかな?」
そう言ったのび太が取り出したのは、白い紙にくるまれた、てるてる坊主の頭部のような球体。
それにも丁寧に手書きの説明書がついている。

“これは、『煙玉』というアイテムだョ。
投げたらすっごい煙でるから、逃げたい時とかに使ってネ”


「『煙玉』か……。なかなか使えそうだな…。
ん、なになに…“ランダム支給品は一人二つ”だって?
じゃあもう一個あるのか」
そう呟きながら、紙袋の奥まで手を突っ込みガサゴソとあさる。

「どこだどこだ…?
ん?
なにこれ……柔らかいけど…」
突如、袋の中の指先が妙な感覚を覚える。
なんだかパサパサしてて柔らかい。そんな感覚。
それを取り出してのび太はすっとんきょうな声を上げた。



「なんじゃこりゃぁぁぁーーッ!」
のび太の手に握られていたのは大きな大きなチン……では無く、大きな、大きな茸だった。

「なに、え?これ、え?なにこれ?
ホントどうやって使うの?
説明書的なものは?」
例の茸には説明書はついて居なかった。
とりあえず、のび太は紙袋の中を捜索する。
意外とそれはすぐに見つかった。どうやら紙袋内部をあさってた時に、説明書が茸から剥がれ落ちたらしい。
のび太はそれを取り出して読む

「うーんと、なになに……?」

“おいしく食べてネ。それと、高く売れるヨ。
良かったネ^^”


のび太は大きなキノコを地面に叩きつけた。


 * * * * *

五分後。


「とりあえず、支給品は全部確認したと…」
のび太は一仕事終えてホッと一息つく。
ランダム支給品の片方が大きなキノコというクズだったのは仕方ない。
何故か水が500mlしか無いのも仕方ない。
何故か食糧が二食分しか無いのも仕方ない。
文句を言いたいが、それができないのも仕方ない。



「さて、これからどうしよっか」
のび太は腰を上げ、呟く。
この試験の主旨は、ポケモンを捕まえる事だ。
だとしたら、自ずとやることは決まってくるだろう。

「コラッタを探しに行くか…」
のび太は行動を開始しようと、この場所を離れる為に第一歩を踏み出した。
すると、


ガサガサガサガサッ!


近くの茂みから音がした。

「ヒィィッ!」
音に驚き、のび太は思わず腰砕けになる。
「だッ、誰だぁぁぁ……」
声が震えている。
全くもって情けない。それでも男か。

そしてその音源の正体が姿を現す。
「コ……コラッタ?」
そう、三次試験開始15分、なんと不幸の塊であるのび太に、早速チャンスが回ってきたのである。

コラッタはじっとこっちを見ている。
様子を伺っているようだが、まだ逃げる気配は無い。

(これは捕まえられるかも知れない…)
のび太は心の中で呟き、リュックからモンスターボールを取り出す。
そこで、のび太はポケモンの捕獲に関して重要な事を思い出した。



(そいやぁ、ポケモン捕まえる時って弱らせるんだった)
のび太は空のモンスターボールの代わりにポケットに入った中身のあるそれを取り出す。
そしてのび太はそれを投げた。

「行けッ!ケンタロス!」
のび太の手から放たれたボールが割れて中からポケモンが飛び出す。
その中から飛び出してきたのはケンタロス…………ではなく、




「タマゴォォォォー!?」
だった。


予想外の出来事に唖然とするのび太。
何も無かったかのように顔を洗うコラッタ。

(あっ、そういえばケンタロスはジャイアンのタマゴから孵化したんだった…)
そう、二次試験で一回も自分の力で走っていないのび太のタマゴは、全く孵化の為のエネルギーがたまっていなかったのだ。
「どぉぉぉおしよぉぉぉー!」
のび太は叫ぶ。
(ポケモンが孵化していない状態でポケモンをどうやって捕まえるのだろう。
いや、コラッタ程度なら弱らせなくても捕まえられるかも……
って、エエエェーーーッ!)


なんとコラッタが居ない。
いつのまにか逃げられてしまっていた。



「くそぉ……」
ガックリと膝を落とすのび太。
そしてのび太は呟いた。

「孵化させるかなぁ…。
いや、でも走るのはキツイかなぁ…。
はぁ……………」
のび太は深い溜め息を一息つき、タマゴをボールに回収すると、アテも無く走り出した。

「孵化作業って……キツイなぁ…」
のび太は切実にそう思った。



* * *




そんなのび太の様子を、木の上から見ている影が一人。

「アイツ確実にアホだな…。
使えそうだ…。
とりあえず跡をつけるか…」
のび太に忍寄る影は、そう呟いた。