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――――アナタがいなくなってから、もう一ヶ月が経とうとしています――――



           【ドラえもん、のび太のいない冒険】
                     ~~プロローグ 主役のいない町~~           



『――……からして、警察のほうでは捜査本部を設置する見込みを――――』

 電灯の明かりが消えた、真っ暗な空間でテレビだけが点いています。
 ニュースのお姉さんが淡々とした口調で話すことは、私たちにとって、とても重要なある事件について、

『――以上、ニュース・ザ・ドラから、特集、【行方不明の少年……』

 ――――そう、

『「野比 のび太」君(11)】についての情報をお届けいたしました』

 私たちの大事な友達、のび太さんがいなくなったことを明確に告げる、ニュースです。


 私の名前は「源 しずか」、のび太さんのお友達です……ってこんなところではじめまして、というのは変ですよね、
 皆さんは私のことを、よく知っているはずです。
 少なくとも、この馬鹿作者よりは知っていることだと思います。 



……のび太さんは、急にいなくなりました。
 ほんの一ヶ月ほど前、私に「大物になってくるからさ、たのしみにしててよ!!」
 と満面の笑みを浮かべ、私は何のことだかわからずにただ「がんばってね」と言った翌日、
 忽然と行方がわからなくなりました。

 始めはおじさんもおばさんも「ドラえもんがついてるはずだし、しばらくすれば帰ってくるさ。
 でもそのときはきついお灸を添えてやらなきゃな」とたいした心配をしていなかったようだけど、
 二日たっても、三日たってものび太さんどころか、ドラちゃんすら帰ってきませんでした。
 おじさんたちは警察に連絡して、すぐに調査本部とか言うのが設置されたらしいんですが、
 結局、今現在になっても有力な手がかり一つ得ることはできていないそうです。

 あのとき、警察の人から聞き込みをされていたときのおばさん泣き顔は一生忘れられません。
 その肩を抱いて、自身も苦しいのに、それを押し殺してやさしく諭す、おじさんの苦しい顔を一生忘れられません。

 私はしばらく泣き続けました。
 あの時、私が止めていれば、こんな事態にはならなかったと思うんです。
 私につられたのか、スネオさんも、出来杉さんも、果てにはあのたけしさんも、声に出して涙を流したほどです。

 そして一ヶ月のときが流れ、今日もどこか心に穴が開いたまま学校が終わりました。



私を呼び止める声がして、振り向いてみればそこにいたのは出来杉さん。 
 私は出来るだけ明るい笑顔を振舞いましたが、こんなぎこちない笑顔、
 出来杉さんなら多分嘘だと見抜いてしまっているでしょう。
 現に、出来杉さんは苦虫を噛んだようにいったん顔をゆがめるました。
 しかし、次の瞬間には凛と背筋を伸ばし、何かを決意したような顔で口を開きました。

「しずかちゃん、今日の午後4時30分、のび太くんの家に集合してくれないかな?」

 驚くようなコメント、少なくとも、今の私にとっては……
 答えをためらいました、なぜ? いまさら? 行って、なんになるの? 
 私の頭に誘いを拒むための言葉が次々に並べられます。しかし、

「しずかちゃん! よく聞いて……もしかしたら、のび太くんを見つけることが出来るかもしれない」

 その一文が、私の頭の中を駆け抜け、作り出した言葉を粉々に打ち砕きます。
 胸に触れていないのに、心臓の音がじかに聞き取れる気がしました。

「いいかい、これはのび太くんを見つけ出す最初で最後のチャンスなんだ。時間は今日の午後4時30分、忘れないでね……」

 出来杉さん言葉に、思わずはっと覚醒した私は、一言だけ言葉を返そうとしましたが、
 そのときすでに、出来杉さんは目の前にはいませんでした。

「(今日の4時30分――――)」

 私は腕時計を覗き込みます。現在の時刻は3時21分、あと1時間と9分――――。

「(あと1時間と9分後に、いったい何があるというのかしら……? ううん、考えたってしょうがない。それよりもあと1時間と9分後に、何が起きてもいいような準備をしなくちゃね)」

 私は時計から目を離します。大きく息を吸い込み、溜めた息をゆっくりと吐き出すと、私は準備のために家へと急ぎました。
 しかし、これが、これこそが私たち全員の命がけの大冒険になるなんて―――このときはまだ、誰一人として予想していませんでした。



 走る、とにかく走る! 息が苦しくなってきたし、普段は走るのは苦手な俺だが今日は特別だ。


             【ドラえもん、のび太のいない冒険】
                    第一話 ~てがかり~ 


「おうっ、おうっ! スネオっ! 何で起こさなかったんだよ!! おまえのせいで遅刻しちまうじゃねーか!!!」 
「ちょ、“ボクのせい”って。何度も起こしたのに起きなかったのはジャイアンじゃないか!!」
「うるせー! 言い訳……はぁ、する……はぁ、はぁっ……な!!」

 俺の名前は性器の……オット失礼。世紀の大天才歌手にして、ガキ大将「剛田武」。
 皆からはジャイアンって呼ばれれらぁ、よろしくな!!
 で、俺の隣でヒィハァ行ってるこいつは「骨川スネ夫」。生意気なことばっか言う奴だが、俺の大事な心の友の一人だ。

 なんで俺らがこんなには走ってんのかと言うとだな、今日の放課後出来杉に誘われたんだ。 
 俺の、俺らの心の友、「のび太とドラえもんを探そう」ってな!
 できすぎ曰く、なんか心当たりがあるらしいんだと。しかもそれによりゃあ、のび太を探し出せんのは俺たちにしかできないだと!
 俺は心から震え上がったぜ! 今までいろんなことを乗り越えてきた心の友だ。
 警察なんかに任せて置けねぇと思ってたとこだしな!!



 でもよ、実際約束の時まで1時間以上在ったからよ、俺はスネオの家に行ってちょっと仮眠って奴を取ってたんだが……
 スネオが俺を起こしやがらねぇから、今こうして時間と競争してんだ。
 ったくよ~、本来なら一発やっちまうとこなんだが、その時間さえ惜しいんだぜ……ん?

「おっ、やっと来たね、2人とも」

 よくみりゃ視線の先――のび太の家の前――にゃあ出来杉としずかちゃんが並んでやがる。 
 ちくしょう、出来杉のやろう。あれじゃまるでしずかちゃんと付き合ってるみたいじゃねーか。

「はぁっ、はぁ……いや、ごめん。じつはさぁ、ジャイアンがね……」 
「言うなっ!!」
「ぎゃっ!? なんだよぉ、何も殴らなくたっていいだろ!!」
「うるさい! お前が悪い」

 スネオの奴、油断もすきも無く俺を悪く言おうとしやがるから目が離せねーぜ。 
 それにしても、しずかちゃん……ずっと俯きっぱなしだな……。

「ほらしずかちゃん。皆来たよ」

 出来杉がニコニコした顔で話しかけると、はっとしたしずかちゃんは俺たちに挨拶してきた。
 ってかしずかちゃん、今頃気づいたのかよ…………



 家に入り、やつれた感じのおばさんにのび太の部屋まで案内された俺たちは今、
 出来杉の指示の元ドラえもんが残したっていう“手がかり”って奴を探してんだが……

「おい出来杉、ほんとーに“手がかり”なんてあんのかよ?」
「大丈夫、ドラえもんが言うんだから、間違いなくあるはずさ」
「はぁ~っ、ボクもうお腹すいてきたよ」
「なにのび太みてぇなこと言ってんだ、俺が探してんだぞ、おまえもしっかり探せ!」 

 うなだれるスネオに一喝してやるけど、実際さすがの俺も結構キツイぜ。
 もう軽く1時間以上はこうやって部屋ん中ごそごそしてんだぜ。太陽も落ちかけちまって外、暗ぇしよ。
 唯一もくもくと作業を続けてるしずかちゃんも、さすがに疲れってモンがみえる。

「なぁ出来杉よぉ、ほんとに……」
「本当だよ! 1週間前、ボク宛にドラえもんから手紙がきたんだ。
 『手がかりは、のび太君の部屋にある探してくれ』って短く書かれたメッセージが!!」
「でもさ~、こういうことって普通、警察が調べてるはずだよね? だったら今さら僕たちが調べても
 何にも出てこないと思うけど? その手がかりってやつも、今頃警察が保管してるんじゃない?」 

 やれやれといった風に首を振るスネオ。反論してぇが、確かにそのとおりだ。

「だいたいさ、なんでそんな大事な手紙がジャイアンでもなくボクでもなくしずかちゃんでもなく
 出来杉! キミに届くんだ? 確かにジャイアンじゃ手紙をなくしたりするかもしれないけどさ、
 ボクや、ましてやしずかちゃんなら絶対にそんなことは無いだろうしってうわあっ!? ……ギュムッ!!」
「よけいなお世話だ!」

 全く、本当に一言多いぜ……でも、他の事は「確かに」って思うことが多いから、侮れねぇんだよな~こいつ。

「そんなこと、僕にいわれてもわからな「みつけたぁ!!!!!!」!!!?」 
「どうしたスネオ!? 何を見つけた……ってそりゃあ」

 心臓がはねた。突然叫んだスネオの元に、みんなが駆け寄る。
 スネオの手の中にあるものを見て、俺は納得した。なるほど、こいつが手がかりか……



 俺たちの考えを出木杉が声に出す。たしかにそこにはほこりにまみれて色が変わったスペアポケットと、
 それに縫い付けてある、かさかさした紙切れがあった。
 表紙には、『この手紙を読んでいるのが僕の大切な友達であることを祈る』って書いてあるな。 

「……読んでみるよ」

 意を決したように、出木杉が手紙を開く。
 そこには、パソコンで打たれたみてぇな、機械的な字が並んでた。

「『この手紙を読んでいるということは、今、おそらく僕は“こっち”の世界からいなくなった事になっていると思う。
 でも、心配はしなくても良い。僕はのび太くんを探しに、“ある世界”に行っているだけだ。
 その世界とは……君たちもよく知っていると思う、そう、【ポケットモンスターの世界】に、僕はいることだ』」
「!」
「!!」
「なんだとぉ!!?」
「ちょ、たけし君。静かにしてくれ!」

 珍しく怒鳴るような声を出した出木杉の気迫に、俺たちは思わず押し黙っちまったが、
 ――【ポケモンの世界】――その言葉に、俺の心の中で久しぶりにさび付いていた冒険に対する好奇心とか、
 なんかいろいろわくわくしたものがガタガタと暴れだし、体が運動したみたいに熱を持ってきたぜ!

 おっと、出木杉が続きを読み始めたみてぇだ。



「『もちろん、のび太くんを探すためだ。のび太くんは僕より先にポケモンの世界に行き、帰ってこなくなった。
 すぐさま僕は彼の後を追い、ポケモンの世界に飛び込んだんだけど……現状、この手紙が読まれているということは、
 僕はまだのび太くんを探し出せていない。もしくは見つけたのだけど、何らかの理由で連れ戻していないんだろう。
 もし、君たちが僕たちを探すために命を……止めておこう、どうせこんなことを書いても、
 君たちなら、勇気ある君たちならきっと僕たちを探しに来てしまうだろう。
 この手紙が縫い付けてあったスペアポケットに、ポケモンの世界に入るための秘密道具が1つだけ入っている。
 使い方はよく知っているはずだ。ただ一言、 ポケモンの世界へ! と言えばいい。
 ……迷惑かけてごめんね。無事に帰れたら皆で楽しくドラ焼きを食べよう。
 ――Ps、もし来るのなら、ドラ焼きを持ってきてくれないかな? 
   そろそろそっちの世界のドラ焼きが恋しいんだよ~……じゃあ、よろしく!    ドラえもん』…………」  

 スネオが黙ったままスペアポケットに手を入れ、道具とやらを取り出そうとする。

「あった!」

 目を見開いて言うと、勢いよくポケットから手を抜いて、道具をとりだした。

「『どこでもドア』!? 『もしもボックス』じゃねぇのか!!?」

 とりだされた道具を見て、俺は予想していた道具と全く違う道具が出てきたことに、驚きを隠せなかったぜ。
 てっきり、『もしもボックス』かなんかが出てくんのかと思っていた俺は、ぼーっと目を見開いちまう。
 ……でもよ、驚きを隠せてないのは俺だけじゃねぇな。しずかちゃんも、スネオも、出木杉も、あ然とした顔で
 『どこでもドア』を見つめてるしな。 



「ん! なんだこれは? ……“新宇宙完全大百科端末の検索結果、一件”なんのことなんだ?」
「!? なんだって、おい出木杉。それちょっと見せてくれ!!」

 出木杉がドアに張り付いていた紙きれを覗き込むと、どっかで聞いたことあるような気のする名前が出てきた。
 ん~? どこでだ? スネオとしずかちゃんは覚えてるみたいだが……ん~~~?

「やっぱりそうだ! 皆よく聞いて! 信じられないけど、“ポケモンが存在する星”がこの世にある!!」
「なに! スネオ、それは本当か?」
「本当だよ! ……ってジャイアン、何で君が疑問に思うのさ? 
 “宇宙完全大百科端末”に書いてあるんだからさ、間違いないでしょ!」

 スネオは興奮してんのか、ばたばたと手足を動かして俺に言う。
 ……“宇宙なんちゃらこうちゃら”……あ! 思い出したぜ!

「ああっ! あのアラボアとかいうとこに行ったときに使った奴だろ!?」
「アラビアだよ! ジャイアン。それに、野球の試合での結果をハッキリ出すときにも使ったろ?」
「ああ、そうだったな~よく覚えてるな、スネオ。さすがだぜ!!」

 そうだったな、こいつには昔お世話になったことがある。すっかり忘れてたぜ。

「おまえら、準備はいいか?」

 のび太の部屋にいたときから30分後、あれからいったんそれぞれ冒険の準備をしにいったん家に帰った俺たちは今、
 のび太の部屋ではなく、裏山の中にいた。
 見上げた空ではさらにお日様が落ちて、もう完全に暗くなる一歩手前といったとこだな。

「あたりまえだよ」

 80cmはあるだろうリュックを背負った出木杉が力強く言う。 

「まぁ、ポケモンの世界に行くなんてめったに無いからね、チャンピオンになったついでにのび太も探してやるさ。」  

 嫌みったらしい口調だが、わずかにひざが震えてるぜ、スネオ!

「……のび太さんもドラちゃんも、必ず見つけ出すわ!」

 しずかちゃんが震える手で拳を握る。さすがに気合が入っているな。
 背負うピンクのリュックから『名物・ドラや』ってのが見えるあたり、ちゃんと買ってやったのか……
 円になって、それぞれで顔を合わせる。考えたくはないけどよ、ここで別れりゃもう会うことは無いかも知れねぇ。
 スネオの提案で、効率のよさってやつを考えたところ向こうについたら全員ばらばらに行動することを決めてる。
 幸い全員がポケモンをプレイしたことがあるから、最低限のことから応用までわかるしな、問題はねぇだろ!

「よし、それじゃあ行くぞ!!」
「「「おーッ!」」」

 俺が叫んで手を上げると、皆も手を上げて叫ぶ。

「ポケモンの世界へ!!」

 日が傾いて、完全な夜になった。 
 俺たちの新しい冒険は、こうして始まったんだ。