ドラえもん・のび太のポケモンストーリー@wiki

サバイバルゲーム その1

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akakami

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出店や小物がどんどん片付けられていく。
パイプ椅子、折りたたみテーブル、シートも看板も……
日が傾くに連れ、体育館はがらんどうになっていった。

「あ~あ、文化祭終わったぁ」
新カントーは伸びをしながらぼやいた。
すっかり日が没していた。
普通の高校生ならばとっくに帰されていた頃だろう。
だけど、そこにいた全員は文化祭で一暴れた懲罰として、最後まで片づけを待たされていたのだ。
女子や他の男子はとっとと帰り、先生も概ね帰宅、或いは宴会しに行ったのだろう。
「どうやら全部終わったようだな……ヒッヒッヒ」
後を引く笑い方をするのは、用務員のDPデモ・書こうか、通称『書こうか』さん。
その言葉どおり、体育館はすっかり飾り気を失っていた。
月明かりが微妙に差込み、どこか寂しい雰囲気。
ほぼ誰もが帰省しようと、だらだら歩き始めたときだった。

「なあ、暇だからサバゲーやろうぜ!」
一人が大声を掛ける。
二十余名の目が、その高校生に向けられた。
その少年の名は――ミュウ。



「サバゲーって?」
隣にいた挑戦者が話しかけると、ミュウは楽しそうに顔を笑わせる。
「サバイバル・ゲームだよ!
 今ほとんどの先生は学校に残っていないから、学校でいくらでも遊べるだろ?
 だからさ、俺ら何やっても自由じゃん?
 今を使わない手は無いよ!夜の学校で、思いっきり駆け回ってやろうぜ!」
ミュウが楽しげに話す。
新カントーは内心あきれたが、ミュウの気を落とさないようにそっと話しかけようとした。
だが横から邪魔が入る。
「面白そうだな!俺も混ぜろよ!」
コイツの名はドラAAモン。
そして彼の言葉を皮切りに、続々と参加の声が上がった。

「よ~し、ルールを決めたぞぉ~、よく聞けやガキども~ヒッヒ」
いつの間にかその場を仕切っている用務員、書こうか。
「現在時刻は夜八時。
 ゲーム終了は夜中の零時。
 全員、これから支給する弾が六発入った銃を所持すること。
 この弾は――」書こうかは手にカプセル状の弾を持ち、みんなに示した。
「科学室の道具と保健室の何たらかを調合して作った俺様特性の睡眠薬だ。
 人に触れると爆発し、気化したこいつを吸い込めばたちまち眠る。
 眠ったらそいつはゲームオーバー。仕置き人が体育館に運んでゲーム終了まで監禁する。
 なお、撃った側も眠ればゲームオーバーだ。注意しろ!
 夜零時までに生き残っていた奴が全員勝ちだ。
 舞台は学校の敷地内ならどこでもいい」
一通り説明が終わると、書こうかは銃と弾を支給し始めた。



「これが俺の銃か」
新カントーは自分の銃を見つめた。
おもちゃの銃のようだ。殺傷性はないだろう。
「よお~、新カントー!」
背中をドンとたたかれ、新カントーが振り向くと、にやりと笑う少年が一人。
ルビーだ。
「やるからには本気でやろうぜ!」
「そうとも、手加減なんて俺らの辞書にはないからな!」
と言ってしゃしゃり出てきたのは携帯獣。
新カントーは乗りやすい友人たちに溜め息をつきながら、フッと微笑んだ。
「ああ、しかたねえ、勝ち残ってやるか」

「ま~た変なことをやってますよ、ドラーモン先生!」
体育館を偵察してきたキョーコが、職員室に駆け込んできた。
一通り事の次第を聞いたドラーモンは、景気のいい笑いをする。
「なるほど、面白そうじゃないかぁ、ハッハッハ!」
「笑い事じゃありません!速くやめさせないと面倒なことに」
「まあ待ちなさい。キョーコ先生」
そう静かに言葉を差したのは、ノートだ。
「ようは生徒たちにとっとと遊びをやめさせればいいんでしょ?」
「えぇ、でもノート先生、いったいどうすれば」
「簡単です」
ノートはサッと銃を構える。
「われわれが、生徒たちを全滅させればいいのですよ」



「な、なんでその銃を?」
キョーコが目を皿にして指を差す。
「書こうかが持って行ったのは銃も弾も、DP3先生が作ったものです。
 そうでしょう、DP3先生?」
職員室の向かい側、黒板の所で、DP3が穏やかに笑う。
「ホッホ、さすがノート先生、全てお見通しですかな?」
「えぇ、あなたと書こうかの会話を耳にしたものですのでね。
 あなたの持っていたおもちゃの銃から一つ拝借しておきました。
 ほら、キョーコ先生の分も」
咄嗟に投げられた銃を、キョーコは危うく落としかけた。
「弾ははいていますから。はい、ドラーモン先生も」
「ハッハッハ、気が利くじゃないか!」
ドラーモンはノートから銃を分捕り、顔を輝かせた。
「で、でも何でゲームに乗ってやらなきゃならないんで――」
「まあまあ、キョーコ先生!いいじゃないですか、楽しめば!」
いきり立つキョーコをドラーモンが宥める。
そうしている間に、銃がDP3に渡された。
「さ~、狩りに行きますか」
どことなくノートは楽しんでいる様子だった。

名前の順で、次々と生徒が体育館から出て行く。
ジャイアンが出てから一分後。
書こうかが声を掛ける。
「はい、じゃあ新カントー、行くんだ~ヒッヒ」
新カントーは体育館を出ていった。
渡り廊下の向こうに、あけられた校舎への扉がある。
そこをくぐった瞬間、サバイバルは始まるのだ。



校舎一階、体育館からの入り口――
新カントーは目の前で横たわる人物に息を呑んだ。
「ル、ルビー!?」
駆け寄りざまに顔を確かめる新カントー。
それは確かにルビーだった。
しかし先ほどまでの様子とは違う。もう意識は無い。
(……そんな、もうやられたのか)
ついさっきまで意気揚々と語りかけてきた友人が、もうゲームオーバー。
寝息を立てているルビーを見て、新カントーは絶句した。
(いったい、誰がルビーを……!)
微かな足音が新カントーの耳に届く。
同時に新カントーは跳躍し、ルビーから遠ざかる。
その右肩を弾が掠めていった。
壁にぶつかり、弾が爆発して煙が出る。
「っだ、誰だ!?」
新カントーは叫び、銃を構える。
(きっとルビーを倒したのはあいつだ……くそ、敵を討ってやる!)
駆け出す影が、廊下の窓からの月明かりに照らされる。
「お、おい待っ……!」
言葉を切る新カントー。
その瞳に映っていたのは――相手の真っ赤な髪。
「おいお前……」
さっきとは違った調子で、新カントーは呼びかける。
影は動きを止め、ゆっくりと振り返った。
月光が映し出すその姿は、まさに新カントーの思っていた通りだった。
「赤髪じゃないか」



「おい赤髪!お前がルビーを撃ったんだな!」
「その声……もしかして新カントーか?」
「そうだ。それよりお前どうして」
しかし新カントーの言葉は、赤髪の言葉に掻き消された。
「くくく、ああ、俺が撃ったんだ」
「な、何で撃ったんだ!?」新カントーは一歩歩み出て訊いた。
「お前ら仲が良かったじゃねえか!」

新カントーは高校に入ってから、ルビーと出会った。
妙に気が合った二人はすぐ友達になったのだ。
やがて新カントーは友達、携帯獣を紹介した。
そしてルビーが紹介した友達、それが赤髪だった。
中学の時は授業も一緒にサボり、学校中で遊びまくっていたらしい。
高校に入ってもそれは変わらなかった。
ただその中に、新カントーと携帯獣が加わっただけ――

「くくく、何故って?そういうゲームじゃないか!」
赤髪は薄笑いを浮かべながら答える。
「友達だろうと関係ねえ。俺は昔から負けることが大嫌いだったからな。
 このゲームでももちろん勝つつもりだぜ」
新カントーは歯噛みして、しゃべりだす。
「だったらルビーと一緒に勝てばいいだろ!どうして真っ先に潰した!?」
「あぁ?ルビーと一緒に?くくく」
赤髪は笑いながら俯き、顔を歪ませる。
「冗談じゃねえよ。誰があんな奴と一緒に勝つもんか」



「ルビーは別に友達じゃない。
 俺が中学の時にサボっていたら、勝手について来ただけだ。
 そう、あいつは俺のマネしか出来ない馬鹿さ!
 正直うざかったが、迷惑でも無いんでほっておいた。
 だが今回だけはほっておけねえよ。いいか新カントー」
赤髪は歪みきった顔を新カントーに向ける。
もっとも新カントーのいるところはまだ暗闇の場所。
まだ赤髪に新カントーの姿は見えてはいない。
「このゲームに参加してるほとんどの奴が気づいているだろうぜ。
 こんな機会はまたとない、自分の権力を示せるチャンスだとな!
 このゲームの参加者は学校を裏で操る素質を持つ粒ぞろいだった。
 今まで権力は分散していたが、このゲームで優勝すれば権力は優勝者に傾く。
 それが人間の心理だ。わかるだろ?
 だから俺はこのゲーム、絶対に一人で優勝してやる!
 そうすれば誰も、俺に逆らうことは出来なくなるのさぁ!!」
新カントーは握り拳を震わせ、ゆっくり歩み出た。
「そのためにルビーを潰したのか」
「ああ、ただの金魚の糞にまで権力が移るのは癪だからな」
「……ルビーはお前のことを尊敬してたんだぞ。いつかお前みたいな奴になりたいって」
「知るか。俺には関係ない。
 くく、まあ、あいつが俺を尊敬していたお陰で、狩るのは楽だったがな。
 ちょっと呼べばひょっこり近寄ってきた。格好の的だとも気づかずに馬鹿な奴だ。くくく」
堪えきれずに、新カントーは飛び掛った。
「赤髪、この野郎おぉぉ!!!」
「おぉっと、かかったなぁ!」
赤髪は銃口をはっきりと新カントーに向ける。
新カントーは気づいていなかった。
今、自分から月光の下に姿を晒してしまったことに。



(し、しまった姿が!)「っくそ!!」
急いで踵を返す新カントーだが、すでに赤髪は捕らえていた。
「終わりだ新カントーぉぉ!!」
弾丸が発射された。

新カントーの背後で、弾丸が空気を切り裂きそして――
別の弾丸と衝突した。
「な、なんだ!?」
焦る赤髪の声が聞こえてきた。
新カントーはわけがわからず、振り返った。
空中で煙が立ち込めている。
睡眠薬が気化したのだ。
「くそ!」
煙の向こうで赤髪が悪態をつき、駆けて行く。
「おい、速く逃げるぞ!」
突然呼ばれ、新カントーは窓を見る。
微かに開いた窓と、その先に二人の人物。
ミュウと挑戦者だ。



煙が充満する前に、新カントーは窓から出た。
ここには幾つか公孫樹が植えられている。
もう少し南へ進めば駐車場と北校門が見えてくる場所だ。
「危なかったね、新カントー」
挑戦者が声を掛ける。
「みんなおかしくなっちゃったんだ」
ミュウが首を傾げる。
「僕はただ遊びたかっただけなのに、他のみんなは権力とか裏の学校とか言ってるんだ。
 何のことだかわからなくてさぁ」
困り顔の二人を見て、新カントーは呆れてきた。
およそ裏の学校とは関係ないだろう二人に、新カントーは話しかける。
「その様子だと……もう誰かと会ったのか?」
「うん、ドラAAモンと会ったよ」「もう眠らせておいたけどね」
(ドラAAモン――?そんな悪だったか?授業は普通に出ていたと思ったが)
新カントーは少し考えて、話を切り出した。
「よし、兎に角安全なところへ案内してくれ」

――南校門
「うぅ、誰だ」
ドラAAモンは揺さぶられて起こされた。
虚ろな目は、ゆっくりとその人物に焦点を合わせていく。
「せ、先生!」
「目が覚めたか、ドラAAモン」
そう話しかけるのは、ノートだった。



「先生、ごめんなさい!
 やられちゃって、その、約束守れなくて」
「別にいいんだよ。ドラAAモン君。
 友達を倒せと言っても簡単に出来ることじゃないからね」
ノートは愛想良く笑い、そのままスプレーを取り出す。
「な、何です?そのスプレーは?」
笑顔を崩さないノートは静かに説明した。
「DP3先生が作ったものだよ。
 ゲームをもっと、ずぅぅっと面白くするためのね」
「それっていった――ぐぉわぉぉ……」
白い噴出物がドラAAモンの顔を覆う。
その気体が晴れたときには、ドラAAモンの意識は無かった。
「いいかい、ドラAAモン君。
 グズな君にもう一度チャンスを与えよう。
 この銃に弾を仕込んでおいた。これでまた戦えるよ。
 まず用務員の書こうかに出会うんだ。
 彼が全て話してくれる。狩りの仕方をね……わかった?」
返事は無い。
代わりにドラAAモンはこくんとうなずく。
その顔に生気は無い。
虚ろな目のまま、ドラAAモンは歩き出した。

「書こうか、一人そっちへ向かったぞ」
ノートは携帯電話を耳に当てる。
「そっちは……そうか三人か……ああ心配するな。
 ドラーモン先生はどうせまたガチでやりあっているんだろ……」



南校門より少し東――旧校舎――
すぐそばにはプールが敷かれている。
木造の匂いが鼻につく、古ぼけた校舎だ。
数年前に新校舎が出来てからは、プールへの出入りと天体観測にしか使われない。
それ以外は、専ら近所の小学生の遊び場だ。
「ここが本当に安全なのか?」
新カントーはきいた。
彼もまた小学生の頃はここで遊んでいた。
そして必ず教師に見つかり、叱られていたのだ。
「大丈夫、大丈夫」
挑戦者が軽快に答える。
それでもまだ不安そうな新カントーに、ミュウが付け加えた。
「二階に僕らの作った『秘密基地』があるんだ。
 そこならきっとばれないよ。まだ一部の先生にしか見つかっていないから」
(秘密基地って……まるで小学生の頃の俺だ。
 ていうか見つかっているんじゃないか。まあ先生なら大丈夫か)
と、新カントーが思考をめぐらせている内に二階へついた。
ミュウと挑戦者は『科学室』と書かれた扉を開ける。
「ここだよ新カントー」
そういうと二人は中へ入っていった。

校庭中央――ケヤキの木陰。
「はぁ、はぁ……」
荒い息遣いをしながらしゃがみこむ少年。
「くそ、どうなってんだあの野郎。
 早く新カントーに伝えないと」
舌打ちをする少年――携帯獣。



携帯獣はそっと相手を観察する。
校舎側から歩いてくるのは五人だ。
先頭には用務員の書こうかがいる。
「ヒッヒ、携帯獣君」
書こうかがいやらしく声を掛ける。
ドキッとした携帯獣だが、息を整えて応える。
「何だ?」
「君にチャンスを与えようと思ってね。ヒッヒッヒ。
 お友達の新カントーの居場所を教えてくれないか?」
携帯獣は少し考えた。

新カントーと携帯獣は小学生の頃から一緒だった。
だから新カントーの居場所も何となくわかる。きっとあそこだと。

「やだね。教えるもんか」
「ヒッヒッヒ、そう反抗できるかな携帯獣?
 こっちは五人だ。勝ち目は無いよ」
携帯獣は必死で打開策を考えていた。
けどいい考えは思い浮かばない。
(……まてよ。確かあの時は)
フッと、携帯獣に蘇ったのは昔の記憶。
携帯獣は記憶を手繰り寄せ、あのときの成功を思い出した。
完璧に。
「……用務員、いいだろう」
携帯獣は書こうかの前に姿を現した。
「その代わり、俺を連れて行け。でないとだめだ」
「ヒッヒ、何を思いついたのかねぇ、どうせ勝ち目は無いのに。
 ……まあいいだろう。ヒッヒッヒ。さあ教えな!」
「旧校舎だ」



校舎三階、東側――音楽室前――
ドラーモンは足を止めた。
「……ん?どこへ消えた?」
キョロキョロと見回すが、見えていた人影はもう無い。
「ハッハァ、音楽室か」
ニヤリと笑い、ドラーモンは音楽室の扉を開ける。

「おい、どうして先生が追ってきてるんだよ!」
「知らないよぉ。廊下で会った途端追いかけてきたんだ」
「銃も持っているようだぞ」
「じゃあ、このゲームに参加してるのか」
「よくわかんねーなぁ。誰かおとりになれよ」
「じゃあ連れてきたお前が――!」
突然ドアが開き、四人は身構える。
四人がいるのはピアノの下。
「……わかった。俺行ってくる」
そうして一人、ピアノから出ていく。

「お、出てきたな」
ドラーモンの前に躍り出たのは、にゃーすだ。
サッと銃を構えるドラーモン。
「ま、待って下さい。ドラーモン先生!」
にゃーすが慌てて叫ぶ。
「質問させて下さい」
すると、ドラーモンは眉を顰めたが銃を降ろした。
「いいだろう、ハッハッハ」



「ど、どうして先生がゲームに参加してるんです?」
にゃーすは引きつる顔を堪えながら、一気にしゃべった。
「何故かって?ハッハッハ。
 ……うーんそうだなぁ。遊びたいからだな」
「あ、遊びたいって?」
にゃーすは首を奇妙に傾げた。
「ハッハッハ、安心しろにゃーす。
 先生が加わればゲームがもっと楽しくなるんだぜ。まぁ」
ドラーモンは顔を歪め、銃をにゃーすに向ける。
「お前には消えてもらうがな!」
その瞬間、にゃーすは直感した。
ドラーモンが本気だと――
「み、みんな出て来いぃぃ!!」
にゃーすが叫ぶと、仲間たちが飛び出す。
活劇、シナリオ、2VS2だ。
「うぉぉぉ!」「任せとけにゃーす!」「今助けてやるぜぇ!」
三人は一斉に銃を構える。
だが――



ドラーモンの銃はあっという間に四人に命中した。
爆発が連続して起こり、四人は倒れる。
もう動くことは無かった。
「ハッハ、まだまだだなぁ」
ドラーモンは陽気に、その場を後にした。

「……ほう、本当に先生まで混ざっているのか」
音楽室、太鼓の裏でほくそ笑む男が一人。



ギンガは音楽室から出て、寝ている四人の手下を見る。
「ふん、使えない奴らだ」
「あ~あ、そんなこと言っちゃっていいんですかぁ?ギンガさぁん」
木琴の下から声が掛かる。
「……何だそこにいたのか、ワタリ」
ギンガが静かに、しかし鋭く言う。
「あれ、ギンガさんキレてます?仲間を見捨てたからって?」
「そんなことはない。使えない奴らが悪い」
「あはは、そうですよねぇ。見捨てたのはギンガさんも同じですしねぇ」
逆なでしてくるワタリの言葉にも、ギンガは動じない。
「ふん。使えない奴らを仲間とは言わない。
 ところでアクアマリンはどうしたんだ?」
「ここだ」
ドアのところでアクアマリンが立っていた。
「やむを得ず先生を隠しに行っていたが、正式に参加しているのなら無駄な努力だったようだな」
冷ややかに答えるアクアマリン。
その姿と、ギンガの姿を交互に見て、ワタリはまた「あ~あ」と言う。
「二人ともひどいなぁ。知っていたんなら教えてあげればよかったのに。
 下っ端たちに、『先生が関与している危険性があるってさぁ。
 すでにキョーコ先生倒しておいたんだから」

隣の音楽道具倉庫で誰かが横たわっている。
それはさきほど、アクアマリンが仕留めたキョーコだった。



旧校舎前――
「ヒッヒ、携帯獣君。ここでいいんだね」
書こうかの問いに、携帯獣は頷く。
「そうか、なら君はもう――」
「ま、待ってくれ、書こうかさん。
 俺はまだ残しておいたほうがいいぜ?
 きっと新カントーは俺相手には攻撃しない。おとりには好都合だろ?」
必死で説得する携帯獣。
書こうかは不機嫌そうに顔をしかめたが、だんだんとにやけてくる。
「そうだねぇ、どうせこんなゲームは違法なんだ。
 悪ガキには制裁を加えなきゃなぁ、ヒッヒッヒ!
 一気に絶望に落ち、仲間にやられるガキども……あぁ、早く見てみたい。ヒッヒ!!」
湧き上がる血気を抑えながら、携帯獣は前を向く。
「……早く行こう。書こうかさん」(今に見てろよ糞野郎……)
「まあ待て、こっちの増援が来たようだ」
その言葉で、携帯獣は振り向いた。
元いた四人の後ろに、新たに一人が加わる。
(ドラAAモン……お前もやられたのか)
歯噛みする携帯獣を傍目に、書こうかはドラAAモンに近づく。
「ノート先生に言われて来たんだね?」
ドラAAモンはコクリと頷いた。
その顔に生気は無い。
(他の四人と同じか。
 ワンダー、パパドラ、炎赤葉緑、チュシコク……くそ、もうこんなに)
携帯獣は焦りを感じながら、また心のどこかで信じていた。
(大丈夫だ。きっと新カントーがいるはず。
 たとえいなくても、俺だけでもあれは作動するはず!)



旧校舎、階段――
携帯獣はそこを駆け上った。
「?どうしてそんなに急いでいるんだい?携帯獣君?」
書こうかが 怪訝そうに声を掛ける。
「あぁ、それはな……」
携帯獣は二階に到達し、お目当てのものを見つけた。
「こうするためさ!」

携帯獣が見つけたのは天井から垂れ下がっている紐。
それを思いっきり引くと、階段上の天井の一部が開き、ドラム缶が落ちてきたのだ。
「一体なに……ぬぉ!!」
階下から書こうかの呻きが聞こえてくる。
その間にも、ドラム缶は次々と階段に落とされていった。
(へへ、あそこにはギュウギュウにつまっているんだ。
 もう五年以上前に俺と新カント―が仕掛けといた罠さ。
 さて次は……)
携帯獣は手持ちのビー玉をそこら中に撒いた。
そのまま顔を上げ、『科学室』へ向かう。
(科学室、確かあそこには)
「待て!」
突然科学室から人が飛び出してくる。
咄嗟に身構える携帯獣。
だが――
「携帯獣か?」
その言葉で、携帯獣はハッとする。。
「その声は……新カントー?」



科学室――
「これでよし」
ミュウと挑戦者は机を窓に押し付けていた。
窓は開いていて、夜の風が吹き付けてくる。
「出来たよ新カントー!」
「これで脱出経路は確保したね!」
「あぁ、よくやってくれた」
新カントーが答えると同時に、大きな音が聞こえてくる。
「あれは、ビー玉で転んだんだな」
携帯獣がうれしそうに言った。
「懐かしいぜ。よく高校の教師どもを驚かせていた、小学生の頃を思い出す」
「あぁ、そしてこの罠もな」
にやりと笑う新カントーが示すのは、目の前に置いた板。
「これはなかなかばれないんだよなぁ」

書こうかは息を切らせて二階に到着する。
「はぁはぁ、糞ガキが!ヒッヒッヒ」
後ろには五人を従えて、不気味に笑っている。
「ヒッヒッヒ、ただじゃすまさんぞぉ、携帯獣め」
その体はだんだん近づき、そして『科学室』の扉を開ける。
「な、なんだこれは!?」
書こうかは叫んだ。自分自身に向かって。
そう、目の前には大鏡が置かれていたのだ。
それも横一面に、しかも角度を変えて置かれている。
お陰で室内の全容が掴みづらい。
「……面倒なまねを」
書こうかは鏡を押したが、なかなか動かない。



「これで暫くは大丈夫だろ」
新カントーはそう言うと、携帯獣に顔を向ける。
「ところで、一度やられた奴らが復活しているのは本当か?」
「あぁ、どうやら学校にいた教師全員で協力しているらしい。
 俺らを早く潰すんだとよ」
「そうか」
そうは答えたものの、新カントーは考えていた。
(おかしいな。なんでわざわざそんなことを。
 生徒が遊ぶことがゆるせないなら強制的にやめさせればいい。
 それをわざわざゲームに参加して?いったいどういうことだ?)
「ねぇ、新カントー、そろそろいいかな」
挑戦者はロープを持っている。
「あぁ、いいぞ、思いっきり引くんだ」
「おぉ、これは楽しみだねぇ」
携帯獣がうれしそうに言った。
何せこのトラップを仕掛けたのは小学生の頃の新カントーと携帯獣。
その装置を今、再び起動させるのだ。
「いくよ~」
挑戦者が思いっきり、紐を引いた。

書こうかは天井の異変に気づいた。
「な、何だこれはぁ!?」
天井はパカッと開き、バスケットボールが落ちてきた。
「こ、これは……おお!?」
続いてサッカーボール、テニスボールと雪崩れ込んできた。
因みに科学室の上は部活用具いれが置かれている。
通常の部室が使えなくなったときの緊急用で、普段は需要無い。
しかし道具はちゃんとそろっているのだ。



「よし、携帯獣そろそろだ」
新カントーは声を掛ける。
「あぁ、ミュウ、挑戦者、窓を開けろ」
「?何する気なの?」
ミュウが首を傾げた。
「まともにやりあったんじゃ勝てないからな。
 ここから脱出するんだ」
携帯獣は作戦の全容を伝えた。
だが、それを聞いたミュウは首を横に振る。
「む、無理だよ!外を見てご覧よ!」
不思議そうな顔をして、携帯獣は窓から下を覗いた。
「……これは、新カントー、無理だ。
 工事でもあったのか、距離が足りないぜ」
「何!?」
新カントーは眉を吊り上げ、外を覗く。
そこから見えた景色は、昔とは変わっていた。
「くそ、昔は簡単に出来たのにこれじゃあ――」
突然鏡の壁の向こうで物音がする。
「おい、どうするんだ!?速くしないと!」
携帯獣がはやしたてる。
「……仕方ない」
一つの策を思いついた新カントーは、指示を出した。
「力学台車持って来い!」



力学台車は摩擦をかなり減らせる構造になっている。
そのため一度ついたスピードはなかなか減速しない。

力学台車は六台あった。
それをミュウと挑戦者、携帯獣が足に縛り付ける。
「お、おい新カントー!何をする気だ?」
動揺する携帯獣に、新カントーは短く説明した。
「いいか、机に乗るんだ。
 俺がお前らを押すから、お前らは窓の外へ飛び出せ!」
「な、何言ってるのさ!もし地面にぶつかったら」
慌てる挑戦者を制して、新カントーは言う。
「大丈夫。工事で増えたのはほんの数メートルだ。
 そのくらい、俺の力と力学台車の速さで飛べば大丈夫のはずだ!
 幸いあそこには雨水がたまっているようだしな」
「ま、待てよ新カントー、そんなことしたら」
携帯獣が言うが、気にせずに新カントーはミュウの背中に手をつけた。
「行くぞ、ミュウ」
青い顔をしているミュウは小刻みに頷く。
「行くぞ!」
新カントーが力をいれ、ミュウは開け放たれた窓へと飛び出した。
ミュウ叫びがだんだん遠ざかり、そして水音。
「次は挑戦者、お前だ」
なおも喋ろうとする携帯獣を無視して、新カントーは挑戦者を押す。
窓の外で挑戦者が落下し、そしてまた水音。
その時、背後で大きな音が響いた。
書こうかたちが鏡を叩いているのだ。



「さあ携帯獣、早く」
新カントーは手招きするが、携帯獣は机の上に乗ろうとしない。
「?どうした携帯獣?とっととしないとあいつらが」
そこへ再び鏡を叩く音。
鏡が倒されるのも時間の問題のようだ。
「おい!いい加減にしろよ」
新カントーは声を荒げる。
「こんなの昔は慣れていただろ!さあ早く」
「お前はどうなるんだよ」
鋭く、携帯獣が指摘した。
「お前はどうなる?力学台車はもうないぞ」
すると、新カントーの顔はだんだんと変化していく。
どこか落ち着いた、決心した表情に。
「俺は囮になる。食い止めてるうちにお前らは」
「ふざけんな!」
携帯獣が叫ぶ。
「冗談じゃない。だったら俺が囮になって――おい、何すんだ!?」
抵抗する携帯獣を抱え、机に乗せる新カントー。
その足に手早く力学台車をつける。
「ふん、どうせそんなこと言うと思ってたさ」
新カントーは携帯獣を立たせた。
「わかるだろ?力学台車は動いたら乗り手が止めるのはほとんど無理。
 ここでお前を押せばあっというまに窓の外ってわけさ」
「……新カントー、いいのか?
 あいつら連れてきたのは俺だぜ?」
「ああ、きっと大丈夫さ!」
新カントーは思いっきり携帯獣を押す。
携帯獣は窓の外から飛び降りた――雨水のたまるプールへと。



「っぷはぁ!!はぁ、はぁ」
携帯獣は水面から顔を出した。
「おーい、携帯獣!」
「こっちだよー!」
プールサイドで、ミュウと挑戦者が呼びかける。
呼吸を整えながら、携帯獣は今しがた落下してきた窓を見つめる。
(新カントー……無事でいろよ!)

「ヒッヒッヒ、逃げないのかい?」
書こうかが嘲笑する。
新カントーの前には、五つの銃が突きつけられている。
今しがた鏡の壁を突破してきた追跡者たちだ。
「……どうせ撃つ気は無いんだろ?」
「何?」
新カントーの自信有り気な一言に、書こうかは眉を顰める。
「ヒッヒッヒ、その自信のわけを聞こうか?」
「簡単だ。お前らが携帯獣を生かしておいたわけを考えれば説明はつく。
 携帯獣に俺の居場所を聞いたんだろ?
 しかも潰すためじゃない。もしそうなら携帯獣を配下にする方が得策だ。
 それをしないのは、俺を追い詰めて一人にするため。
 何かは知らないが、俺を捕らえに来たわけだ」
「そうか、そこまで読まれているのかい。ヒッヒ、むかつくねえ。
 まあつれて来いと言われたんだ。さっさと来い。
 ノート先生がお待ちだよ。ヒッヒッヒ」



校舎、校長室――
「ヒッヒ、ノート先生、つれて来ましたよ~」
書こうかは新カントーを連れて中に入る。
ノートは窓を向いて立っていた。
「書こうか、お前は下がれ。
 調理室でジャイアンが食材を盗み食いしているはずだ。
 さっき腹を抱えて調理室に入るのを見たのでね」
「了解、ヒッヒ。行くぞガキども~」
返事の無い連中を連れて、書こうかは狩りへと行く。

「待っていたよ、新カントー君。
 話したいことがあったのでね」
ノートは窓を背にしてソファに座った。
新カントーも横のソファに座り、同時に話し出す。
「何だ?俺に話すことって」
「ふふふ、相変わらずの言葉遣い。
 君は敬語と言うものを知らないのかね?入学してきたときもそう」
「とっとと話したらどうなんだ!?」
いきり立つ新カントーに、ノートは憐れむような目を送る。
「急くな。これからじっくり話してやる。
 君にもよぉ~く理解できる程度にね」
口端を吊り上げるノート。
「いいかい、君らが行っているゲーム。
 実はこの学校の裏において重要な意味を持っていることを知っているかい?」
新カントーは赤髪の言葉を思い出す。
「……このゲームの優勝者は、この学校を裏で支配することが出来る。
 裏の世界で逆らう奴らがいなくなるから。そうだろ?」



ノートは賞賛の拍手を浴びせた。
「その通り。
 そして、教師はどうすると思う?
 普通の、所謂正義をモットーに掲げる教師なら即刻やめさせるだろう。
 だが私は違う。このゲームに教師を織り込んだのは私自身。
 このゲームで優勝した人物が支配者なら、その支配者を支配すれば学校をすべて支配出来る」
「……何だと?」
新カントーが聞き返すと、ノートはまた「ふふふ」と笑う。
「わからないかね?つまりだ。
 私は君に優勝してもらいたい。
 そして優勝した暁には、我々教師に一切反発しないと約束してほしいのだよ」
新カントーは一瞬目を見開き、すぐに睨みつける。
「やだね。そんなこと、もっと他の奴に頼むんだな」
「ふふふ、そう言うと思ったよ。
 そういえば彼もまた、同じことを言っていたなぁ」
ノートは新カントーの向かいのソファを示す。
新カントーはその寝転んでいる人物に気づき、声を上げた。
「あ、赤髪!」
そこで縛られているのは、紛れも無く赤髪の姿だった。


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