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No.007『BASKET CASE』

「クイズか……。僕の得意分野だね。」「おとうさんぼくおなかすいた。」「きゃ、あなた今私の体触ったでしょ。」「ワシのスライダーは108式まであるぞ」
問題を待つ人々。混雑する会場内。本当に訳が分からない。

その異様な会場に飲み込まれ、ジャイアンとのび太は悪戦苦闘していた。
「ジャイアン……。ベゴッ!」
「のび太!大丈夫か?」
またまた何者かの肘がのび太の鼻にヒットする。すでに今日何度目だろう。
「もう帰りたいよ……。」
のび太がそう呟いた時だった。
スピーカーからやっと返答が響いてきた。
『それでは第一問の問題を出題します。』

「やっとかよ。あの邪馬台国が。遅えんだよ。」
ジャイアンが無意味に悪態をつく。
しかしそんな事は露も知らないツツジの放送は続く。
『ラグラージに10万ボルトは効果抜群である。○か×か。制限時間は一分です。それでは移動を開始して下さい。』
プツン。放送が終わった。
「ジャイアン。」
のび太はジャイアンに分かってるよね?と確認をする。
「ああ。ちょうどこないだ学校で習ったな。俺達ラッキーだぜ。よし、×に移動するか。」
ジャイアンはそう言い、二人は×のエリアへと移動を始めた。



ジャイアンが先頭で人波をかきわけ、その後ろをのび太がコバンザメの様に引っ付いて進んでいく。

20m程進んだところで、やっと青いエリアが見えてきた。
「ヤベエ、時間がねえ。急ぐぜ、のび太。」
ジャイアンはスピードを早める。のび太も必死にその後ろをついてゆく。

「ジャ、ジャイアン、少し早……ガブッ!」
淀みなく一定のスピードで進んでいたジャイアンの体が突然止まり、のび太はその背中にぶつかった。
『×のエリアに来たのかな?』
のび太はそう思い、足元を見ると、そこはまだ○のエリアだった。
のび太は不思議に思い、訊く。
「ジャイアン、何で止まったの?正解のエリアまであと少しなのに。
時間が無いよ!」

のび太の問いはジャイアンの思いがけぬ言葉で帰っくることになる。
ジャイアンの顔からは心なしか焦りの色が見えていた。
「のび太……違う。
俺は別にモタモタしてる訳じゃねえ。
進めないんだ……。人が、人が多すぎて前に進めねぇんだ!」



――東京ドームの一室――

試験官のツツジと、補佐のゴロウがモニターを眺めている。

「あの……ツツジさん?」
「なに?ゴロウさん?」
耐えきれなくなりゴロウが言う。
耐えきれなったというのはモニターに映される光景についてだ。
人で一杯で試験どころでは無い。そんな光景だ。
「あの……モニター見る限り受験者の人達、満足そうに動けてないんすけど……」

「そうね。」

「いや、そうねって……」
余りにもあっさりとした返答にゴロウは驚く。
「正解のエリアに人が入りきっていないんですけど……
なんか……危なくないすか?」

「そうね。」
「いや、そうねって……」
二人は同じやりとりを繰り返す。別にコントでは無い。

余りにもやる気の感じられないツツジの言葉にゴロウも流石に堪忍袋の尾が切れる。
「いや、そうねじゃなくて!
僕が言いたいのは、このままじゃあ将棋倒しが起きて大惨事になりますってことですよ!!!!
予想外の事態です!危険です!
即刻試験を一時中止させるべきですよ!」



確かにゴロウの言う通り、このままでは混雑で大惨事が起きてしまう。
人で溢れかえった○と×のエリアの境界線では尚更だ。
今は大丈夫だが、いずれ将棋倒しが起こるに違いない。
「ツツジさん!一次試験はまだ小さい子もいるから危険な試験はしてはならないんですよ!
早く!今すぐ試験を中断すべきです!」
ゴロウは凄まじい剣幕でまくしたてた。
ツツジはやれやれと、ゴロウを見やると言った。
「大丈夫よ。この床は体が一定の割合床につくと強制的に後楽園遊園地の何処かにワープするよう作られてるわ。故に将棋倒しは起きない。
そのくらい私が予期していないとでも思った?」

成程。やっぱ、科学の力って、スゲー。
「でも、分かってたならそれならわざわざそんな機能使わなくても良かったんじゃ………」
ゴロウは言う。
確かにゴロウの言うことは最もだ。
わざわざそんなコストのかかる機能を使うより、回答ボタンを用意するなり、もっと広い所でやるなりする方が経済的にも受験者からしても遥かに良い。なのに何故ツツジはこのような方針を採ったのだろうか。

ツツジはゴロウをチラリと睨むと、説明すんの面倒くさ……、とばかりに話し始めた。



「あのね、ゴロウさん。
実は私、二次試験官の方に一次で人数をなるべく削れと言われているの。この意味、分かるかしら?」
「?」
ゴロウは初め、ツツジの言わんとする意味が分からなかった。
しかし、すぐにそれは分かった。
ゴロウは言う。
「ま、まさか……。わざと……半分にするために……」

そう、敢えて東京ドームという閉鎖空間で正解のエリアを制限する事によって、受験者を確実に半分震い落とす。
これがツツジの考えだった。
「でも、それだと批判が……。しかも事故の可能性もやっぱり0とは言えないし……。」
不安そうに言うゴロウ、しかしツツジの態度は対照的だ。どっしりと構えている。
「批判?トレーナー試験要項読んだ?試験の方法、受験者の試験合否は『試験官に一任される』のよ。
文句は言わせないわ。
それに事故の可能性は多分無いんじゃないかしら。皆訓練されているし。」
「訓練?」
ゴロウは聞き返す。
ツツジはあら、失言。とばかりに口を塞ぐ。
そして言った。
「まぁそれは後々説明しましょ。そろそろ30秒経つわ。×のエリアに入れなかった人は可哀想だけど、ね。」
ツツジは呟くと再びモニターに向かいあった。
ゴロウは思った。
『俺、弟子入りする人間違えたかな……。』
ゴロウはメランコリーな気持ちに浸っていた。



そして一方、のび太とジャイアンはというと。

「うぉー!どけどけどけー!」
まだ人ごみをかきわけていた。
「ジャイアン、時間が……」
「うるせえぞ、のび太!」
のび太は不安になり、ジャイアンはピリピリしている。
青いエリアは目の前だが、そこから先に進めない。
時間もヤバイ。恐らく、もうほとんど時間が無いだろう。
「ジャイアン!後15秒しか時間が無いよ!」
のび太が悲鳴のように言う。
その時だった。
「よし!着いた!」
ジャイアンは人を押し込んで一人分の空間を作ると、そこに自らの体を入れた。
ジャイアンはホッと一息つく。
「あー一時はどうなるかと思ったぜー。」
ジャイアンは安堵の表情を浮かべる。
すると目の前いるのび太が、不満そうに言った。
「あのー、ジャイアン。
僕の入るスペースが無いんだけど。」
「あ。」
ジャイアンは如何にも間抜けそうな声を上げると、一言言った。

「忘れてた。」

「えええええッッ!!!!!」
のび太の絶叫がこだました。



「ちょっと、どうすんのジャイアン!このままじゃ僕、失格になっちゃうよ!」
のび太は喚き立てる。
その目は既に半泣き状態。こんなとこで泣くな、ボケ。
「ちょっと待て!今、お前が入る間を作ってやる!」
ジャイアンはそう言い、タックルをかます様に他の人々の体を押して、のび太が入る隙間を作ろうとした。しかし―――

「スマン、無理だった。」
「えええええッッ!!!!」
再びのび太の絶叫がこだまする。その時追い討ちをかける様に、スピーカーから声がした。
『あと10秒で回答時間が終了ですー。繰り返します。あと10秒で回答時間が終了ですー。』



「なんだってーー!ジャイアーン聞いた!?早くぅぅ!」
のび太はジャイアンに泣き付く。鼻水が少しジャイアンの服につく。
しかしそんな事は気にしてはいられない。

『あと8秒。』

無情にも思えるカウントダウンが始まる。
「ムリだ!のび太!」
ジャイアンは必死に体を押しこめるが、全く動かない。

『あと6秒。』

「ジャイアーン!早くぅぅ!」
のび太はパニックに陥っている。
「黙ってろ!今考えてる!」

『あと4秒。』

「ジャイアーン!!」
「くっそう……、こうなったら……。」

『あと2秒。』

「ジャイアーン!」
「これしかねえッ!のび太、ちょっと我慢しろよッッ!」

『あと1秒!』

「うぉぉぉォォォォォ!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
『終了ですー。』



No.008『最初っからSTuTTA-LuTTA』


人と人との出逢いは不思議なもので、誰でも一生に一人は最高に気の合う人物が存在するという。
それは親友と呼べる存在なのか、はたまた愛しあった末の結婚相手なのかは分からないが、そういった『最高の相性の人』が人には存在することは紛れも無い事実である。
しかし、悲しいかな。人と人との間には『その逆』も存在する。
しかも『そんな人』との出逢いは得てして多いものである。
エラぶってる教師、ムカツク先輩、生理的に受け付けないようなクラスメート等数えてみればキリが無い。


―――――
話は戻り、トレーナー試験会場。
ツツジの策略により大量の受験生の足切りが行われたにも関わらず、かのスネ夫によく似た少年、ズル木は無事に一問目の問題をパスし二問目の問題を待っていた。
いや、無事というのは少し間違った表現かも知れない。
彼の頭には立派な一つのコブができていたからだ。
「あー、あのド低脳共が。本当にイライラする。」
一問目を突破したにも関わらず、ズル木は怒りを含んだため息をつく。その怒りは山より高く海より深い。
何故ズル木がこんな感情を抱くのかは、ジャイアンとのび太の事も絡めてこれから説明することにしよう。



一問目の問題が出題された時、彼は運良く最初から正解のエリアに居た。よって彼は人混みの中を移動する必要も、人混みをかきわける必要も全く無かった。
「優秀な人間は運も味方につけるもんだよ。ウヒヒヒヒヒ。」
彼が優秀な人間かどうかはここでは触れないが、彼が運が良かったのは事実。
一問目を難無くパス出来る事は誰の目から見ても疑い無かった。
「さて、ゴリラと超劣等生は何をしてるのかな♪」
心に余裕が生まれ、気が大きくなったズル木はニヤニヤしながら呟く。正直キモイ。
そして丁度制限時間が残り僅かになったところで彼は境界線の部分が一層騒がしくなった事に気づいた。
「なんだろう?」
耳をすますと、聞き覚えのある声が聞こえてくる。

「ジャイアーン!急いでー!」「ふぬぉぁぉぉお!」

「なんという馬鹿声。
一発で分かってしまった。
あれは間違い無く(ry」
のび太とジャイアンである。
「奴ら、正解のエリアに入れて無いなw」
会話の様子で彼らの慌てっぷりを悟ったズル木は一層顔をニヤつかせる。
級友とか知ったこっちゃない。自分より劣った奴が落ちるのを見るのは最高に気分が良くなる。

そんな彼はこれから自分に振りかかる不幸を全く知らなかった。



『残り4秒』
「ジャイアン早くぅ!」

超劣等生の悲鳴が聞こえる。
どうやら、ゴリラはエリアに入れたが、超劣等生は無理だったようだ。
「ちぇ、まとめて落ちれば良かったのに。
まぁいいか。奴らのことなんか。」
ズル木はそう呟くと、満足そうな笑みを浮かべる。
「後一秒か。終わったな。」
その時、
「うおおおおおおおお!」
「うわあああああああああ!」
超劣等生とゴリラの声が響いてきた。
「あいつらうるさ………ん?」
突然、照明で照らされてるハズのズル木の上がフッと暗くなった。
ズル木は不審に思い、ふと上を向いた。
するとそこには丸い眼鏡の劣等生が空をダイブしていた。
「あ、舞空術……」
そして、こともあろうにそれはズル木少年の居た場所、丁度に落下してきた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「まおぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ゴチン。
『終了ですー。』



―――――という訳である。
簡単に説明すると、時間切れの瞬間、ジャイアンはのび太を正解のエリアに投げっぱなしジャーマンの要領で、打ち上げ花火のように投げあげたのである。
まぁジャイアンにしては考えた作戦であったし、のび太もそのお陰でなんとか脱落せずに済んだが、如何せん周りの迷惑が全く考えていない。
そしてたまたまその犠牲者にズル木少年が選ばれてしまったのである。

――――――

ズル木はのび太との接触で出来たタンコブを触りながら言う。
「劣等生が!ゴリラが!調子に乗りやがって!
死ね、死ね、死ね!」
絶対にあいつら潰す。
ズル木はそう誓った。



のび太、ジャイアン、ズル木【一次試験第一問突破】



No.009『SMELLS LIKE A TEENS SPIRIT』


『では次の問題……コイキングははねると体当たりしか覚えない。○か、×か。』
試験は順調に進んでいた。
一問目に波乱があったが、それ以降は受験生の大量脱落も無く試験は淡々と進んでいた。
まぁ、大量脱落は無いと言っても、この10問程の問題の間で参加者は開始時点の四割程に減っているのだが。
そしてその三割の中に奇跡的にあのジャイアンとのび太も残っているのである。
まぁゲームのポケモンの知識を身につけているのび太が居るので、当然と言えば当然か。
「コイキングはじたばたも覚えるから……。
ジャイアン、×だ。」
「おう。移動するぜ。」
二人は×のエリアへと移動する。
受験者の激減により、移動はかなり楽だ。

そして三十秒程時が経ち、たくさんの人々がいる×と、明らかに過疎地な○とに別れた。そして正解が発表される。
『正解はー、×です。
コイキングある程度根気よく育てるとじたばたを覚えまーす。』
正解を告げるツツジのアナウンスが響くと、○に居た人々は何処かへとワープしていった。
「ここまで順調だな」
「うん、ジャイアン」



―――――

一方、順調なのび太達とは裏腹にゴロウはツツジと一緒に、モニターを見つめ苦い顔をしていた。
「ヤバイな……。」
ゴロウは小さく呟く。
「何がヤバイんですか?ゴロウさん」
ゴロウの声は小さかったが、ツツジはそれを聞き逃さない。

ゴロウの顔は明らかに焦りの色を見せている。
「いやね、明らかに他人の動きを見ながら移動してる人がいるんですよ。
それもたくさん」

移動式の○×クイズの性質上仕方ないとはいえ、これは酷すぎる。
こちらとしては、かなり際どい難問を出しているつもりだ。
しかしそれにしては人数の減りが悪い。
それもこれも『長い物に巻かれる連中』が居るせいだろう。
人数の多い方に流れておけば自ずと正解に導かれるという、この○×クイズの性質を理解したのだ。
そのせいで、余りにも場違いな頭の悪そうな連中まで残れているという始末。
それに、なんだあの明らかに馬鹿そうなゴリラ顔と、何をやっても駄目そうなメガネは。
なんであんな奴が残ってんだ?おかしいだろ、おい。
俺は試験受かるとき相当な苦労したんだぞコラ。



あの時の苦労を思い出し、思わずゴロウはモニターを殴りそうになる。
ツツジはその様子を何か汚物でも見る様な目付きで見やった後、言った。
「その位は予想の範疇よ、ゴロウさん。」
「えっ?」
「ちょっと静かにしといて」
ツツジはそう言うとポケットから小型無線機のような物を取り出し、何者かと会話を始めた。
「もしもしー、……はい……そろそろですね……はいーはい、それじゃあ手筈通りに……はーい、はーい。それじゃあ」
プチン。
ツツジは無線機のスイッチを切った。
『そろそろ?』『手筈通りに?』なんだそれは?
疑問の眼差しでツツジを見つめるゴロウにツツジは一言だけ言った。
「ふふふ……、何だかわからないって顔をしてるわね……。
まぁ時期に分かるわ」
ツツジは笑みを浮かべながら、マイクのスイッチをオンにした。
ゴロウはツツジの中に何か黒い物が見えた気がした。



―――――

一方、ジャイアンとのび太は、
「ぶいぇくちょばん!」
「どうしたの、ジャイアン?……ハックション!」
「誰かが俺達の噂してるな……」
とまぁ、呑気な会話をしつつ次の問題を待っていた。
自分達がバカにされてるのも知らずに。
その時、
『次の問題です』
アナウンスが鳴り響いた。
「あっ、ジャイアン、問題が始まるよ」
「ぐへへへへへ、待てよ、のび太。
いいこと考え付いたんだ」
突如、ジャイアンが奇妙な笑い声を上げる。
ちょっぴり涎が垂れている。
「何?良いことって?」
のび太は気になり、聞いてみた。
「シッ、よく聞けよ……。
俺、気づいたんだけどさ……。
答えが分かんねえ時、他人の動きを見て決めれば安全だぜ」
ジャイアンは自慢気に言う。
「成程!流石ジャイアン!頭いい!」
のび太は素直に感心する。
他の人々からすれば「何をいマサラ」的なものであったが、悲しいかな馬鹿な二人は、さぞ大きな発見でもしたかの様にはしゃいでいる。
そして周りの受験者が二人に冷ややかな目線を浴びせた時、やっと問題の出題が始まった。



『問題です、イーブイに炎の石を当てる事で進化するポケモンといえばブースターですが、ではブースターは炎最強の物理技であるフレアドライブを覚える。○か×か』

「ブースター」
高い攻撃力と特殊防御を持つイーブイの七つの進化系の一つ。
しかし、中途半端な素早さと物理技の貧弱さもあり対戦にはあまり向いていない。
ある大型掲示板では、金銀の某伝説ポケモンと境遇が似ている事から、彼のことを唯一王と呼んでいるスレッドもある。
そしてのび太はこの事を……
『ブースター?ネタポケじゃんww』
知っていた。
知っているのなら話は早い。読者の方々も知ってると思うが、確かにブースターはフレアドライブを覚えない。答えは×。
今居るのが×のエリアであるため、移動する必要は何ら無い。
とりあえず、その旨をジャイアンに伝えるとしよう。
「ジャイアン、答えは×だ。
僕達はこのままでいいよ。」
「そうなのか?
よし、じゃあここに止まって……いや待て、のび太……あれを見ろ」
のび太はジャイアンが指差した方向を見る。
するとそこにはのび太にとって信じ難い光景が繰り広げられていた。

なんと、当然の様に止まると思われた周りの人々が、何の迷いもなく○のゾーン目指して移動しているのだ。
それも一斉に。



『あれ?ネタポケとして有名なのはエンテイとブースターだよね?
なら、この人たちは………何?』
異常な事態にのび太は首を傾げる。
のび太は少々自分の記憶を疑ったが、その考えに間違いは無い。
多分この世界の人々は、技の習得とかこういう事には疎いんじゃないだろうか。
それに、これだけは絶対に自信を持って言える。
ブースターは絶対にフレアドライブを覚えない。
これは絶対です、はい。

のび太がそういった考えを巡らせていると、突然、彼の襟首に何者かの手が伸びてきた。
「おわっ!」
突然のことに思わず声を上げるのび太。
のび太は反射的に捕まれた箇所を見る。
浅黒い大きな手。まさにジャイアンのそれだった。
「ジャイアン!何をす(ry」
のび太の発言はジャイアンがのび太の体を引く力に制される。
のび太を引っ張りながら、ジャイアンは言う。
「のび太、見ろよ、周りの人達を。
みんな○のエリアに向かってるぜ
多い方に行けば大丈夫さ。多分お前が勘違いしてるんだよ。よし、行こうぜ」
「いや、ジャイアン、ブースターはネタポ……」
「ダイジョブ、ダイジョブ、心配すんなって。
俺に任せとけ!」
「いや、そっちは……」
「黙ってろ!」
ジャイアンはのび太の頭をポカリと殴ると、そのまま彼を引きずっていった。



――――――

「なんだこれは!!!」
はたまたモニタールームでは、もう一人この状況に釈然としないものを感じる人物がいた。
ゴロウである。
彼は知っていた。ブースターはフレアドライブを覚えない事を。

確かに希少価値の少ないイーブイにこれまた希少価値の少ない炎の石を使って進化するブースターは、とても一般人には身近な存在とは言い難い。
故にポケモン図鑑を配布されていないトレーナー資格を持たぬ人々には中々の難問と言えるだろう。
しかし、しかしだ。
不正解者が………余りにも多すぎる。
ざっと見る限り8割を越えているではないか。
こんなの常識では考えられない。
まさか……
「ツツジさん、何かやりましたね?」
ゴロウはツツジに問いかける。
すると、
「ええ、やりましたよ。
すごく大きな事をね。
いや、やっていましたよって言うのが正しいのかしら」
ツツジは何の悪びれも無く答えた。
「何をしたんですか……?」
ゴロウが静かに聞く。
肩をすくめ、椅子に腰を下ろしながらツツジはそれに答える。



「いやね、実は私デボンコーポレーションのツワブキさんと少々コネがあってね、まぁどんなコネかは秘密だけど。
ちょっとそのよしみで彼の会社の社員を貸して貰ったのよ」

社員?貸す?

ゴロウは最初、どんな事を示唆しているのか全く分からなかった。
しかし、モニターを見る内に彼女の言わんとすることがじきに分かった。
「まさか……あの人達は……サクラ?」
「正解~」
ツツジはクスリと笑う。
そんな馬鹿な。なんて大掛りな。
呆然とするゴロウにツツジが説明を始める。
「実はね、全体の人数の三割位の人々をサクラとして送り込んでたの。
あ、もちろん一問目の正解のエリアにね
彼らは私の思い通り動いてくれる駒みたいなものよ」
ツツジはニヤリと笑う。
ゴロウは少しサディスティックな恐怖を感じた。ツツジは続ける。
「あなた、二択の問題があって周りの人の意見が聞けるとしたらどうする?」
意地悪そうに聞くツツジ。
「そりゃ、周りの人の意見を聞いて多い方に……………あっ!」
ゴロウははっとした。
「そう、この作戦により『長い物に巻かれろ精神』の奴らを一気に潰せるのよ。
それに……この作戦の意義はこれだけじゃないわ」
まだ何かあるのか。
悪魔の周到さに、ゴロウは体に寒気すら感じられた。それを見てツツジは言う。
「気になるようね。まぁそれは後で説明するわ。ふふふふふ……。」
ゴロウは思った。嫌な女だ、と。