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ここは35番道路の右側にある草むら。
元々裏道のここは人通りが少なく、時間帯が夜であることも人寂しさに拍車をかけている。

のび太「……ここまで来れば誰も見てねえよな。」
暗闇の中のび太は辺りを見回す。
手には何か大きな袋を持っている。
傍らにはドラえもんもいた。

用心深く辺りに人がいない事を確認したのび太は、指をパチンと鳴らす。

すると、ドラえもんの体が突如、ウニョウニョと変形し始め、不定形の姿になった。
のび太「ふぅ、念の為にあの女からメタモンを盗んでて良かったぜ……。
バッジのお陰で言うことも聞くしな。」
のび太はそう呟くと袋を開け、中身を辺りにバラ蒔いた。
中からは青メッキのかかった謎の鉄クズが溢れる様に出てくる。

余りにも無機質なその様を見てのび太はニヤリとする。
のび太「これで俺の邪魔者は消えた……。
スネオやジャイアンは偽の青狸に騙されてる。
明日までは時間が稼げるだろう……。」
闇の中、のび太の呟きのみが響く。



―あの時―
すなわち、のび太とドラえもんが一騎打ちになった時のこと。
互いの勝負は一瞬でケリがついた。

のび太に飛びかかったドラえもん。
しかし彼がのび太に攻撃を加える前に、ゲンガーの放ったシャドーボールはドラえもんの頭部を吹っ飛ばしたのだ。

そして、のび太はそこらじゅうに散らばったドラえもんの残骸を一欠片も残さず集め、その部屋を後にした。



のび太は袋の中身を全てバラ撒き、土を軽く被せる。
発見を困難にする為だ。
一連の作業を終えたのび太は一息つくと近くの岩に座り込む。

のび太『少々あっけなかったがこれで、一番マークすべき人物であった青狸は片付いた。しかし余りにもあっけなさすぎたな……。』
そこでのび太はある一つの可能性を懸念した。

倒したドラえもんの正体が「偽物」の可能性があることである。

確かにその可能性は高い。

普通、得体の知れない殺人の能力を持つものに対して高いリスクを払い直接接触を求めてくるだろうか。いや、普通は来ないだろう。

それに「偽物」を使えば自分は安全な所に避難しておける上に、「偽物」が殺られたとしてもこちらを油断させる事が出来る利点がある。
まさに今の自分の様に。



ノートが効かなかった事から考えてものび太が殺った「アレ」は「偽物」である可能性が高い。

だとすると、奴はその間安全な場所で此方の様子を見ていたのだろう。だとしたら今だ青狸の「本体」は何処かにいることになる。


そこまで考えてのび太は呟いた。
のび太「だとしたら運が悪かったな。奴は。」
のび太は不敵に笑う。


もし、殺ったのが「偽物」だとしても奴の名前、及び手持ちは既にノートに書いてある。何処かで勝手に息絶えているのが関の山。

だが、ノートで殺った青狸の「本体」の残骸が見つけられた場合、先程まで一緒にいた自分が疑われるのは明白だろう。
しかしそれは余り心配しなくてもいい。



スネオやジャイアンは奴の残骸を見つける事は絶対に出来ないだろう。
青狸は奴らの助力を受けている様子は全く無かった。則ち、今回の事は完璧に奴の単独行動。理由は恐らく全滅を防ぐため。

まあ、俺の能力が謎だった訳だから、それは賢明な判断だろう。

青狸の単独行動故に「隠れ場所」を二人が知っている可能性は極めて低い。
多分、場所も自分達では発見が困難な場所だろう。
奴らに見つけられるということは、逆を返せば自分にも見つけられる所であるということだからだ。
故にもう青狸の心配はしなくていい。
今、大切なのは明日の策だ。

のび太は再び思考を巡らせる。



―そして10分後―


のび太「よし、これでいくか……。」
のび太は一通り考えがまとまると、岩の上から立ち上がった。
そしてポケットを探りアカネから貰ったディスクを取り出す。
のび太「今日は徹夜の作業だな……。
まあ、全ての仕上げと考えるか!キシシシシ。」
のび太はそう呟き、夜の闇に消えた。

冷たい夜風は容赦なく青い鉄クズを吹き付けていた。



「チッ、チッ、チッ、チッ。」
すがすがしい小鳥の鳴き声。
明けない夜は無い。
昇らぬ朝日は無い。

時間システムのある、ポケモン金銀ではちゃんと朝も用意されている。
しかし、今は9時30分なのでその朝もゲームのシステム上、あと少しで終わってしまうが。

のび太「………眠いな……。」
といった呟きが聞こえるや否や、テントの中から一人の少年が現れる。

睡眠不足の為、目の下には隈が浮かんでいたが、その顔は腫れ物が落ちたかのような清々しさに満ちていた。

のび太は辺りを見回す。
既に人々はいそいそと今日も働いている。
自分も最後の仕事をせねばならない。

「設定」した時間までまだあと少し時間がある。
この計画は一人より二人、二人より三人の方が楽しいだろう。
ジャイアンやスネオも呼んでやらねば。
最大級の恐怖を与えてやる為に。

のび太は行動を開始した。

その顔は朝日には似合わぬ邪悪さが感じられた。



自然公園。

ここには、今回の事件で捕えられたロケット団員達が拘束され、集められていた。
一般のトレーナーなどは見当たらない。
拘束されているとはいえ、ロケット団はロケット団。
やはり恐れが残るのだろう。

そのせいで、緑で一杯であるハズのそこは何故か黒一色。

とても異様な光景だ。

しかし、その黒一色は突如崩される事になる。
その自然公園内に緑とオレンジのシャツを着た二人組が入って来たからだ。名をスネ夫、ジャイアンといった。

スネ夫「ジャイアン、のび太は?」
ジャイアン「見当たらねえな。」
二人はキョロキョロと辺りを見回す。
しかし、辺りは黒い連中のみ。

のび太の姿は見当たらない。
どうやら二人はのび太に呼び出されたらしい。

ジャイアン「アイツ自分から呼び出しといて何をしてるんだ?」

スネ夫「多分、まだここについて無いんだよ。のび太の癖に生意気だな。」
二人は口々にのび太の悪口を言う。
まあ、呼び出された二人にとってはのび太が居ないとどうしようも無いので、各々好きな事をして待つ事にした。

スネ夫は持って来たいかりまんじゅうを右手にそこらを散策、ジャイアンは手持ちを鍛える為に草むらへと入っていった。



スネ夫「ほむほむほむ。それにしても………。」
一通り散策を終えたスネ夫はいかりまんじゅう片手に目の前の景色に感嘆の声を上げる。

スネ夫が見ているのは、一面に広がる黒装束の集団。
これだけの人数に多少の脅威は感じるが、全員が拘束され、身動きが取れないので恐怖には値しない。

連中に興味が沸いてきたスネ夫は彼らに近づき、ジロジロ視線を投げ掛ける。
すると、団員の一人と目があった。
団員はこちらをガン見している。

スネ夫「なっ、なんだよ、お前!」
生来のビビリであるスネ夫は少しオドオドしたが、じきにその団員の視線がスネ夫の右手に有るものに向けられている事に気づいた。団員の口からはヨダレが垂れている。

スネ夫「腹が減ってるの?」
スネ夫が訊く。団員は狂った様に頭を上下させた。
スネ夫「そうか……。仕方ないなぁ。」
スネ夫は団員の顔の前にまんじゅうを差し出す。

団員「まごぉぉおぉッ!」
団員はそれに食い付いた。
スネ夫「残念~。あげな~い。」
スネ夫はさっとまんじゅうを引き、団員の目の前で自分の口の中に入れた。

スネ夫「ホントに貰えると思ったの?プフフ!」
スネ夫は高笑いする。

すると、横から他の団員が言った。
「最低……。」



スネ夫は、キッ、とそちらを睨む。
そこには、以前見た顔があった。

コガネデパートで激戦を繰り広げた、ロケット団幹部の紅一点、キキョウである。

キキョウ「ホントにアナタ最低。
そんな、弱者をもて遊ぶ様な行為……。
負けた自分が馬鹿みたいで恥ずかしいわ。」
キキョウが吐き出す様に言った。
その目は赤い。

キキョウ「アナタ達は知らない。
私達が今まで受けてきた仕打ち、辱め、虐待……。
この世の中はいつもそう。
ただ、人より少し境遇が違う、貧富の差が違う、それだけでこんな屈辱を受けなければならない……。
分かる?分からないでしょう?」

スネ夫は何も言えない。

キキョウは続ける。
キキョウ「私達にはロケット団しか無かった。
私達の苦しみを分かってくれるのはトシミツ様しか居なかった。
この苦しみを分からない世間に伝えたかった。
ただ知らなくて私達を嘲る人々に分かって欲しかった。」
キキョウの目から涙が溢れる。

キキョウ「だから私達はラジオ塔をのっとった。これが本当の理由。
世間に私達の想いを伝える為に……。」
キキョウの言葉が言葉にならなくなった瞬間だった。
彼女の横で誰かが言った。
「間違ってる!」



キキョウは驚きの顔でその団員を見る。
その団員は続けた。

団員「僕はそれは間違ってると思います。
『誰かに何かを伝える』、これは大切な事だし、素晴らしい事だと思う。

でも、でも他人を傷つけたり、迷惑をかけてそれを伝えたとしても、その気持ちは誰にも伝わらない。心は誰とも繋がらない。
声は誰にも響かない。
傷からは……何も生まれない!」

団員の言葉にスネ夫心から、何かむずがゆいものが込みあげてきた。

彼らの境遇がどうだったのかは知らないが、確かに今まで自分は目の前の人々がゲームの中の人物と思い、軽く扱ってきた。
しかし、彼らも考えて自分の時間を生きている。
それは既に現実の人間と変わらないのでは無いか。

スネ夫はそう考えるとさっきの自分の行為が許せなくなってきた。

とりあえず、ここは謝ろう。悪かったのは自分だし。

スネ夫「僕も……僕も悪かっ……」


そこでスネ夫の言葉は中断された。
後ろからやってきた人物の声がスネ夫の言葉を遮ったからだ。

ソイツは言った。
のび太「キシシシシシシ。
ゲームのキャラ如きが最もらしいことを言ってるや。笑えるなあ。」



スネ夫は突然後ろから響いた声に驚き、振り向いた。

そこにはメガネを書けた冴えない少年、すなわちのび太がニヤニヤしながらこっちを向いていた。
スネ夫「の、のび太……?」
スネ夫は力ない声を上げる。

それは突然ののび太の出現、それと彼のとは思えない発言による驚きによるものだった。

今だのび太の発言が信じられないスネ夫。
しかし、それにのび太は止めを刺した。

のび太「伝えるため?気持ち?声?
ふん。バカバカしいや。
カスが何を言おうと無駄無駄。
所詮お前らは作られた存在。ただのプログラム。
電導体の集まりが偉そうな口をきいてんじゃねえ。
っていうか、それに同情するキツネ、お前も本当にバカだろ。マジで笑えるな。」
のび太はそう言い、キシシシシシシと下品な笑い声をあげる。

スネ夫「のび太、お前本気で言ってるのか?」
普段は人道を外れた行為をとるスネ夫も、流石にこれには怒りを隠せない。
スネ夫はのび太の胸ぐらを掴んだ。
釣り目で下からのび太を睨み上げるスネ夫。
スネ夫「所詮プログラムだって?
見損なったよ、のび太。」
スネ夫はそう言い、手を放す。

のび太はダルそうにその襟首を直しながら言った。



のび太「見損なう事は無いよ。だって………」

その時だった。

ドサッ。
何かが倒れた。そんな音がした。
スネ夫は本能的にその方を向いた。

すると、そこには黒ずくめの一人の女性が目を見開き体を震わせていた。

キキョウ「ううううう……く、苦し……」

スネ夫「キキョウさん!」
スネ夫はのび太そっちのけでキキョウの方に駆け寄る。
まだ幼さの残る顔は、チアノーゼで変色し、既に息は無かった。

また、目の前で人が死んだ。
スネ夫はそのショックでまた体が震えた。
自分の死より、他人の死の方が怖かった。

だが、スネ夫はその死の感慨にふける暇は全く無かった。
キキョウがいる地点から少し離れた場所から、またもや人の倒れる音がしたのだ。

のび太「どうやら時間のようだな。キシシシシシシ。」
のび太が言ったが、スネ夫は全く聞こえていなかった。

ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ。

右の人、左の人、全ての人が苦しみながら順番に体を横たえてゆく。
のび太「キシシシシシシ。スゲエ、やっぱ時間を少しずつずらして良かった!まるでドミノやウェーブみたいだ!面白れえ!」
のび太はケラケラと笑い声をあげる。



今度はスネ夫はちゃんとのび太の言葉を聞き取れた。
のび太の言葉、状況、どれを取ってももはや疑い無い。

スネ夫「まさか、のび太……お前……。」

スネ夫の震える声を聞き、のび太はいっそう大きな笑いを上げた。
顔は笑いで歪んだ。
のび太「キシシシシシシ!
そうさ!俺が時間犯罪者だ!」
のび太は高らかに宣言した。