ドラえもん・のび太のポケモンストーリー@wiki

ルビー その14

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akakami

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決勝戦前日。
「ふわぁーあ……」
朝の日差しに照らされ、不本意ながら起きるのび太。
目を擦りながら、暫く同じ体制を取っている。
「……ダメだ!」
のび太が被っていた布団を放り投げ、立ち上がる。
『今日でなるべくポケモンを鍛えるんだ……今のままじゃ、勝てない!』
拳をギュッと握り締め、部屋を出るのび太。
そして、ダッシュで宿を出る。
目的はポケモンを鍛えることだ。

「あ……」
のび太が宿から出ると、そこには見覚えのある人影があった。
服はオレンジ色で、がっちりとした体型の少年。
「よう、のび太」
その少年はいつになく真剣な表情で、のび太の前に立ちはだかっている。
そして懐からモンスターボールを取り出し、のび太の眼前に突き出して見せた。
「のび太……勝負だ!」
のび太の眼前に突き出されたボールが、朝の日差しに照らされて光る。
来客者の名は、剛田武――ジャイアンだ。



「えっ……勝負?」
なんとも情けない、弱々しい声をあげるのび太。
「ああそうだ。俺に負けてるようじゃ、アイツには勝てねぇ。俺がテストしてやるよ」
「テスト……?」
のび太はようやくジャイアンの意図を悟った。
ウォーミングアップといったら少し違うかも知れないが、明日の為にはなるだろう。
「わかった。やろうよ」
のび太の返事を聞くと、ジャイアンはフッと笑ってボールを放った。
「まずはコイツだ!カイリキー!」
「よーし……いけ、ベトベトン!」
ジャイアンとのび太。
清々しい朝の風が吹く中、二人の対決が始まった。


決着がついたのは、それから約1時間後のこと。
「メタグロス、コメントパンチ!」
ジャイアンのボーマンダが、鉄の拳を受けて倒れる。
「はぁはぁ……やるじゃねえか、のび太」
荒い息をつくジャイアン。
その顔には、何かを成し遂げたような達成感みたいなものが表れていた。
「ま、まぁね……」
戦い終えた二人はその場に寝転び、空を見上げていた。



街の民家に明かりがつく。
空を茜色に染めていた夕焼けが消えていく。
夕方が夜に変わる瞬間だった。

ここはトクサネシティの宿。
「はぁ……」
のび太は色々な用を済ませ、疲労困憊の状態で仰向けになっていた。
『大丈夫だよな、みんなから貰ったアレもあるし』
考えているのは、無論明日の試合の事だ。
昨日には頭の中で巡っていた不安も、少し和らいでいた。
『……明日に備えて寝るか。今日が最後の夜かも知れないし』
枕に頭を乗せ、深い眠りにつくのび太だった。

所変わって、サイユウシティ。
「いよいよ、明日ね」
自分の傍らにいる「何か」に語りかけるリン。
だが、その「何か」は返事をしない。
「明日は……頼んだわよ」
再び傍らの「何か」に語りかけたリンは、夜空に目を移した。

今宵はいつもより増して、星が多かった。
そしてその輝きも、普段のものよりいっそう美しく空を彩っていた。
まるで、明日に行われる決勝戦の前夜祭のように――



翌朝――
決勝戦当日のこの朝、のび太は耳障りな音によって起こされた。
前日にセットしておいた目覚まし時計の音だ。
「はぁ……まだ眠いよ」
朝の清々しい気分を見事に打ち砕かれたのび太。
虚ろな目のまま用意を済ませ、宿を出る。
『今日でこの宿も最後か……』
のび太は心の中で宿に別れを告げると、ペリッパーに乗って飛び立った。

程なくして、サイユウシティのドーム。
「はぁ……はぁ……」
ダッシュで闘技場の階段をかけ上がるのび太。
だが、その足は闘技場の入り口で止まってしまう。
「……よし!」
のび太は自らを奮い立たせ、光溢れる闘技場へと入っていった。

「ワー!ワー!ワー!ワー!」
決勝戦だけに、観客の多さは尋常じゃない。
それに比例して、観客席の盛り上がり様も凄かった。
「ホラ、早く位置について」
審判に促されるのび太。
対戦相手のリンは、既に定位置についていた。
そしてのび太がリンと対峙し、審判が高らかに旗をあげる。
「それでは決勝戦、のび太対リン……始め!」
審判の旗が大きく振り下ろされ、ホイッスルが会場全体に響き渡った。
ついに決勝戦が始まったのだ。



ほぼ同時にボールを放つ両者。
のび太はペリッパー、リンはライコウを繰り出した。
「ラ、ライコウだって?」
てっきり伝説の鳥ポケモンが来ると思っていたのび太は、素っ頓狂な声をあげる。
すると、そんなのび太を他所に、ライコウの電撃がペリッパーを襲った。
無論、耐えきれるハズがない。
「早いよ……いけぇっ!ベトベトン!」
のび太が次に選んだのはベトベトンだ。
「ライコウ、十万ボルト」
強力な電撃がベトベトンを襲うも、ベトベトンは気にする様子も見せない。
「まもる、ね」
チッと舌打ちしたリンの目には、青い防御壁で包まれているベトベトンの姿があった。
『さすがに相手が悪いわね、なら……』
「ライコウ、吠える!」
ライコウの雄叫びが響き渡り、それに臆したベトベトンはボールに戻ってしまう。
代わりに出てきたのはハリテヤマだった。
「ビルドアップ!」
のび太がハリテヤマに指示したのは、意外にも補助技のビルドアップ。
当然、この隙を逃すリンではない。
「十万ボルト!」
次の瞬間、強力な電撃がハリテヤマに直撃した。



「地震だあっ!」
不意に、ハリテヤマの後方からのび太の声が聞こえてくる。
それを聞いたハリテヤマは、指示通りに辺りを揺らした。
「くっ……戻りなさい、ライコウ」
さっき積んだビルドアップの効力もあってか、ライコウは一撃で沈んでいた。
しかも、さっき受けたハリテヤマの傷も少し癒えている。
持ち物「かいがらのすず」によるものだ。
「次は……スイクン!」
美しい鬣を靡かせ、スイクンが登場する。
「毒毒よ!」
スイクンが猛毒を発し、ハリテヤマに浴びせる。
ハリテヤマは猛毒状態となった。
『毒毒……ということは、長期戦狙いか』
おそらくリンはスイクンの耐久力を利用し、長期戦での蓄積ダメージに頼るつもりだろう。
だが、のび太にも対策がないというワケではない。
「ハリテヤマ、日本晴れ!」
日差しが強くなり、水タイプの技の威力を弱める日本晴れ。
これで、少しはダメージを軽減できるだろう。
「スイクン、ダイビングよ!」
そのリンの指示を聞くと、少し安堵したような表情を見せるのび太。
『ダイビングは読んでいたさ』
のび太が合図すると、ハリテヤマが二度目のビルドアップを行った。



攻撃技を指示しても、ダイビングを行っているスイクンには当たらない。
だからのび太は補助技を積んで、出てきた所を倒すという作戦を選んだのだ。
「スイクン!」
スイクンがダイビング攻撃をヒットさせるも、日本晴れのお陰でダメージは少ない。
そして、作戦通りに攻撃力を上げたハリテヤマの攻撃がスイクンに直撃した。
「何とか、ってとこね」
スイクンはまだ持ち応えている。
流石は伝説のポケモン、と言ったところか。
「スイクン、冷凍ビーム!」
水技の威力が弱まった今、リンの選択はやはり氷技だった。
その期待通りのダメージでハリテヤマの体力を奪い、ハリテヤマの体力は残り僅かとなってしまう。
「次の攻撃でハリテヤマは終わりね」
「いや、次は無いよ」
自信満々のリンに、のび太が即座に反論する。
「何故なら……ハリテヤマ、起死回生だあっ!」
ハリテヤマの体力は残り僅か。
それにより増加された起死回生の威力は、スイクンを倒すには十分すぎる程だった。
「いっけええええ!」
フルパワーで繰り出される攻撃を受けたスイクンは、ゆっくりとその体を地に倒した。



スイクンが倒れた時、ハリテヤマの体力も毒のダメージで限界を迎えていた。
「お疲れ、ハリテヤマ……」
のび太がハリテヤマをボールに戻す。
かくして両者共に二匹を失い、試合は中盤戦に入った。

「ダーテング!」 「ミュウツー!」
両者、ボールを放つ。
リンのミュウツーを見た瞬間、のび太はガッツポーズを取った。
天候は晴れ。ダーテングのスピードは2倍となる。
「ダーテング、大爆発だ!!」
対出木杉戦の時にも使用した戦術、日本晴れからの大爆発が見事に決まった。
爆発によって起きた砂埃の中から現れたのは、戦闘不能になった二匹。
のび太は再びガッツポーズを取った。

所変わって、観客席。
「凄い、凄いわ!のび太さん!」
希望に満ちた表情で、喜ぶしずか。
だが、この男――スネ夫は違っていた。
「確かにのび太は強くなったよ。でも……」
「でも?」
「でも、何でかな……なんか嫌な予感がするんだよ……」

スネ夫が言い終えたその時だった。
日本晴れの効力が切れ、さっきまでの晴天がウソのように暗雲が空を覆い尽くした。
一瞬にして、辺りが暗くなってしまう。
次第に観客席からざわめきの声が聞こえる。
空は全く晴れる様子を見せない。
あの時――スネ夫がリンに負けた時と同じ光景だった。



「ベトベトン!」 「レックウザ!」
空が暗雲に覆われている中、再びボールを投げる二人。
『レックウザか……なら!』
頭の中で戦略を固めるのび太。
対して、リンも慎重な様子だ。
『私のレックウザにはベトベトンを一撃で倒せる術はない……。でも、二発目を打ち込めれば!』
先程のライコウ戦で少し消耗しているベトベトンだったが、まだまだ体力は残っている。
「レックウザ、ドラゴンクロー!」
飛翔していたレックウザが急降下し、鋭い爪でベトベトンを切り裂く。
だが、やはり一撃では倒れない。
『よし!』
心の中でガッツポーズを決めるのび太。
「ベトベトン、おきみやげだ!」
おきみやげ。自らが戦闘不能になるかわりに、相手の攻撃と特攻を2段階下げる技だ。
ベトベトンがドロドロになり、レックウザが苦しみ出す。
やがて瀕死になったベトベトンは、赤い光を伴ってボールに戻っていった。
「お疲れ、ベトベトン」
そう言うと、のび太は次なるボールを投げた。



「いけ!ラグラージ!」
のび太が出したのはラグラージ。
本来、のび太が持っているハズのないポケモンだ。
では、何故のび太がラグラージを持っているのか――その答えは昨日に遡る。

昨日――決勝戦前日――
「ふぅ……」
ジャイアンとの戦いを済ませ、のび太は宿へ戻っていった。
そしてのび太が自分の部屋に入った――その時だ。
「こんにちは、のび太さん」
のび太の部屋に居たのはしずか。
いや、しずかだけじゃない……スネ夫、出木杉、ジャイアンの3人も居た。
「な、なんだい?皆揃って」
のび太が聞くと、しずかが一つのボールをのび太に手渡した。
「出してみてよ」
スネ夫が言うと、のび太は恐る恐るボールを投げた。
「これは……ラグラージじゃないか!」
話によると、このラグラージは出木杉がデボンの中で見つけたドラえもんのミズゴロウを、
皆で育成して進化させたものらしい。
「このラグラージはのび太へのプレゼントってワケさ」
スネ夫が言う。
「みんな……ありがとう!ありがとう!」
喜んで感謝するのび太を、一同は微笑ましく見守っていた。



舞台は戻る。
『このドラえもんのラグラージで……勝ってみせるよ』
レックウザの攻撃を容易く耐えたラグラージが、冷凍ビームで反撃する。
レックウザは一撃で沈んだ。
『アイツのポケモンは残り二匹、僕も二匹……ここからが本当の勝負だ!』
腹を括り直し、表情を改めるのび太。
その時、のび太の顔に水滴が零れ落ちてきた。
「雨……」
先程まで空一面を支配していた暗雲は更に黒みを増し、雨を降らせていた。
リンは気にする様子も無い。
ボールを選ぶ素振りを見せ、一つのボールを手にとった。
だが、普通のボールではない。
そのボールは真っ黒で、モンスターボールよりも少し大きかった。
『なんだあのボール……嫌な予感がする……』
ふと、のび太の頭に不安が過る。
実際、その予感は見事に的中していた。
リンが投げたそのボールから出てきたのは――
「え……ドラえもん……?」
そう、現れたのは囚われの身となったのび太の親友――ドラえもんだった。



「ドラえもん!ドラえもーん!」
のび太が呼びかけるも、ドラえもんは返事をしない。
「無駄よ。この子は私のペットなの」
「え……?」
一瞬、のび太はリンが何を言っているのかわからなかった。
「デボンの技術を持ってすれば容易いことよ……ふふふ」
残虐な笑みを浮かべるリン。
対して、のび太は握った拳を震わせていた。
「お前……ドラえもんを……よくも!ラグラージッ!」
「あら、ダメよ」
のび太が指示を出そうとするが、リンがそれを阻んだ。
「攻撃したら、この子どうなるかわからないわよ?」
ハッとするのび太。
いくらロボットとは言え、ポケモンの攻撃を食らえばタダじゃ済まない。
「……やめろ、ラグラージ」
「アハハ!それでいいのよ」
のび太が攻撃しない事を確認したリンは、ドラえもんに合図をする。
すると、ドラえもんがラグラージに対し、無数の空気砲を放った。
「ラ、ラグラージ!」
ラグラージはギリギリ持ち応えている。
だが、次の攻撃を食らえば間違い無く戦闘不能だ。



のび太は涙を流していた。
「ドラえもん……このラグラージを見てもわからないの?僕、野比のび太だよ?」
だが、ドラえもんは何も言わない。
「いつも虐められてて、テストで0点ばっかりで……」
次第に涙は勢いを増していく。
「そんな僕をいつも助けてくれたのは君じゃないか!ドラえもん!」
必死に呼びかけるのび太。
だが、それも同じ結果に終わってしまう。
ザーザーと無情に降り続く雨の音だけが聞こえていた。

「ドラ……えもん……」

のび太の涙が、顔から零れ落ちて地面に落ちる。
もうダメだ……と、のび太が諦めかけた時だった。
「おーい、ノビター!」
観客席から若い男の声が聞こえてくる。
のび太はゆっくりと声のした方向を見た。
「え……ダイゴさん……?」
そこにいたのは紛れも無く元リーグチャンピオン・ダイゴ。
のび太も、観客席に居たスネ夫達も、リンも驚きを隠せなかった。
対リン戦でミュウツーの火炎放射を受け、死んでしまったハズのダイゴがいるのだ。
「エアームド!」
ダイゴはエアームドに乗り、のび太のいる闘技場へ降り立った。
「何で僕がここにいるのか……詳しいことは今から説明しよう」



ダイゴは対峙しているリンを睨みつけると、今までの経緯を話し始めた。
「あれは僕がミュウツーの攻撃を受ける、正にその時だった。
もう終わりだ……と思って諦めた僕は、運良くある事を思い出したんだ。
それは僕のポケットに入っている……ドラエモンの道具だよ。
それにより、僕は辛うじて攻撃を避けることが出来た……だが、一つだけ問題があった。
暗い空間に入って……しばらくの間戻れなかったんだ。
そして、やっとこさ出てきて今、ここに居るんだよ……」
言い終えると、ダイゴはエアームドを戻した。
「良かった……ダイゴさん……」
鼻水を垂らしながら喜ぶのび太。
「でも、今は再開した喜びに浸る時じゃない……僕があのドラエモンを何とかするよ」
そう言うと、ダイゴはエアームドの背に乗せていたノートパソコンを取り出した。
「あっ……それは!」
口を開け、驚くリン。
どうやら、彼女にとって何か都合の悪いモノのようだ。
「このパソコンは、デボンの全てのプログラムを管理出来る……」
ドラえもんを操っているのは、十中八九デボンの作った何かしらの道具だ。
ダイゴは画面を見ながら、大急ぎでキーボードを叩いた。
パソコンの画面には良くわからない文字列が羅列している……。
「よし、出来た!」
ダイゴが締め括りに一つのキーを押すと、ドラえもんの目に生気が戻った。



「今だノビタ!ドラえもんについているチップを壊せ!」
ダイゴはドラえもんの頭部についているチップを指指し、そう言った。
「はい!ラグラージ、かわらわりだ!」
ラグラージの手刀がドラえもんの頭についていたチップを壊す。
すると、ドラえもんはのび太の方へ駆け寄ってきた。
「のび太くーん!」
「ドラえもん!」
再開出来たこと心から喜び、涙を流し合う二人。
ダイゴはそれを優しく見守っていた。
「今は勝負中よ……」
不意に、3人の耳にリンの声が響き渡る。
見ると、リンがデオキシスを繰り出していた。
「倒しなさい!しんそく!」
デオキシスが猛スピードで突っ込み、ラグラージの巨体を倒す。
「ここにいると邪魔になる……少し下がろう、ドラエモン」
ダイゴはそう言うと、ドラエモンを連れて闘技場の端の方へ行った。
「はぁ……はぁ……最後のポケモンを出しなさい……潰してあげるわ」
ドラえもんが元に戻ったことにより、怒り狂うリン。
その目には邪悪なものが宿っていた……。



「頼んだよ、メタグロス!」
両者共にポケモンは残り一体……この勝負に勝ったほうがバトルの勝者だ。
「デオキシス!」
リンが叫ぶ。
すると、デオキシスがドロドロになり、形を変えた。
「これがデオキシス……アタックフォルムよ」
のび太はその言葉にハッとする。
『アタックフォルム……確か、攻撃に特化したタイプだった』
そうなると、かなり危機的状況だ。
メタグロスはデオキシスより遅い……つまり、先に攻撃を受けて倒れる可能性がある。
だが、そんな事を考えている暇はなかった。
一刻の猶予も与えず、リンが命令を降したのだ。
「デオキシス、炎のパンチ!」
デオキシスの拳が炎を纏い、メタグロスに当てられる。
「メタグロォス!!」
のび太が叫ぶ。
すると、戦いの行方が明らかになる。
「これは……」
立っていたのは無傷のデオキシス、そして……
「いいぞ!メタグロス!」
傷を受けながらも辛うじて立っているメタグロスだった。



「そ、そんな……」
対リン戦の時のスネ夫のように、ただただ狼狽するリン。
「そんな攻撃じゃあ倒れないよ……僕は負けられないからね」
「何で、何で……」
リンが言うと、のび太は仲間達のことを思い出す。
『僕と共に戦ってきた仲間……しずかちゃん、スネ夫、ジャイアン、出木杉……
どんな時でも僕を助けてくれたダイゴさん……そして……』
のび太は闘技場の端にいる、自らの親友を見据える。
『皆がいたからここまで来れた……皆がいたから……!』
「だから……僕は負けられない!メタグロス、コメットパンチ!!」
メタグロスの鉄の拳がデオキシスを襲う。
防御能力の低いデオキシスがそれに耐えられるハズがない……。
「勝者、のび太!」
観客席から、どっと歓声があがる。
「何で……」
自分の敗北を信じられないリン。
そんなリンを見て、のび太がゆっくりと口を開いた。
「僕が勝てたのは、仲間達のおかげさ。あの時、ダイゴさんが来てくれなかったら……
この大会中、僕を支えてくれる仲間がいなかったら……僕は負けていた。
仲間達が、僕を強くしてくれたんだよ」



ダイゴもリンの方へ駆け寄り、言った。
「これでわかったろう?この世界を滅ぼすなんてこと、神が許してくれるハズがない。
これからは人間として正しい道を歩むんだ」
ダイゴが言い終えると、リンはフラフラと会場を出ていこうとした。
「待って!」
呼びとめたのはのび太。
「ほら、きなよ。表彰式だよ!」
リンが振り向くと、そこにはのび太とスネ夫、それに出木杉の姿があった。
3人ともベスト4に入ったトレーナーだ。
「まさか、この僕に勝っておいて表彰式に出ないってことはないよね?」
「いい戦いだったよ。さぁ、一緒に表彰を受けようよ」
スネ夫と出木杉だ。
「……う、うん……」
リンの顔には涙が零れていた。
その顔は輝きに満ちていて、ミュウツー襲撃事件の時の無邪気なリンにそっくりだった。

かくして4人は表彰状を貰い、大会は閉会式を迎えた。
長い長い戦いが今、終わりを告げたのだ――――



ドラえもんの話によると、この世界がシナリオ通りに進んでいないのはバグによるものらしい。
「本当にゴメン……」と、何回も頭を下げるドラえもん。
だが、皆が怒鳴ることはなかった。

「まぁいいんじゃない?結構楽しかったし」スネ夫。
「そうだよ!そこまで謝らなくてもいいって」のび太。
「終わり良ければ全部良しっていうだろ!」ジャイアン。
「そんなに気にすることないわ、ドラちゃん」しずか。
「寧ろこっちの方が良かったと思うな」出木杉。

ドラえもんはその言葉を聞くと、ありったけの涙を流した。
「まったく、何回泣くんだよドラえもんは……」
「そういうのび太君こそ、泣いてるじゃないか……」
いつもより一層美しい夕暮れの空の下、6人は旅の疲れを癒していた。



「ねえ皆、今日は宿に泊まって、明日元の世界に戻らない?」
のび太が提案する。
「お、いいアイデアじゃん!のび太にしては」
少しばかり皮肉を込めて言うスネ夫。
だが、顔は紛れも無く笑っていた。
「よし、そうしよう!」
ドラえもんが決断すると、皆は宿へ戻った。

のび太の部屋。
「もう……寝ようかな」
宿に戻って1時間、既に彼の身体は限界を迎えていた。
戦いによる疲労なのは言うまでもない。
「思えば、色々あったよなぁ……」
この世界に来てからの事を思い出すのび太。
『最初にポケモンを貰って、そして……』
そこまで考えたとき、のび太の目は既に閉じられていた。

戦いは終わった。
それと同時に、ポケモンの世界で過ごすのも今日で終わりになる。
この世界での思い出を胸に、心地良い眠りにつくのび太達だった――



翌朝――
一同はトクサネシティの砂浜に集まっていた。
「未練はあるだろうけど……戻ろうか」
ドラえもんがもしもボックスを出す。
皆無言のまま、それを見つめる。
そしてドラえもんが大声で言った。
「戻ろう……元の世界へ!!」
6人の身体が、眩い光に包まれていく。
その時だった。
「おーい!」
二つの人影が、砂浜の方へ走っていく。
ダイゴとリンだった。
「どうしたんだい、みんな?」
光に包まれている6人を見て、疑問を抱くダイゴ。
ダイゴはのび太達が別の世界から来たことを知らないのだ。
「僕達、元の世界へ帰るんです」
「元の世界だって?」
わけがわからない、という表情のダイゴ。
のび太は必死で涙を堪え、言った。
「最後に……今までありがとうございました!」
次の瞬間、のび太達の身体は跡形も無く消えていた――



のび太達が元の世界に戻ると、真っ先に蝉の鳴き声が耳に入った。
「僕達……戻ってきたんだよね」
自分の部屋の畳を触り、感触を確かめるのび太。
「あ、そうだ……」
のび太は何かを思い立つと、立ち上がって自分の机の上にある時計を手に取った。
「これは……あの日から全く時間が過ぎてない!」
時計を見て、驚くのび太。
「そりゃそうさ、僕達は今までデータの中に居たんだからね」
あっけらかんとして答えるドラえもん。
他の皆は……まだ起きていなかった。

ジージーと耳障りな蝉の鳴き声。
これでもか、と言うぐらいに照り付ける真夏の太陽。
そして、あの頃から全く動いていない時計――

今日からまた、今まで通りの日常生活が始まるのだ。



時を同じくして、ポケモンの世界。
「なるほど、こういう事だったのか……」
自分のノートを見て、独りでに呟くダイゴ。
ノートにはのび太達が別の世界から来たことが詳しく記述されてあった。
そしてダイゴはノートに何かを書き記し、部屋を後にする。
記述されていたことはこうだ。

今日、ノビタ達が元の世界とやらに戻った。
彼等にはとても感謝している。
いや、感謝してもしきれないかも知れない。
リンはデボンで働くことになった。
それもこれも、全て彼等のおかげだ。
彼等が元の世界で幸せに過ごせるよう、ここに祈っておく。



かくして、のび太達の冒険は終わった。
時は全く進んでいないが、ポケモンの世界での思い出は彼等の心の中に残っている。
そして、それは消えることなく、いつまでも彼等の心に居座り続けるだろう。
ポケモンの世界――それは他でもない、彼等の心が生み出した世界なのだから。

彼等が望めば、再びポケモンの世界は現れるだろう。
いつか、きっと、必ず――――


―――完―――



あとがき

177 名前:ルビー ◆ChfQmyJ5GM [sage] 投稿日:2007/05/03(木) 18:01:26 ID:???
ふう、やっと完結しました。
総記事数、実に240ジャストです。
未熟ながらここまで書きましたが、どうでしたか?
感想等くれればありがたいです。

俺が書き始めたのは1月13日。
最初は「――」の使いすぎを指摘されたりと、色々大変でした。
でも、物語が進むにつれ、「面白い」や「乙」などのやる気になるコメントを頂き、何とかやってこれました。
読者の皆さん、ありがとうございました。

さて、完結したことだし次回作の話でも。
結論から言うと、書きます(前から言ってたけど、一応、ね)。
もちろん名前とトリップは変えて書きます。
いつから書くのかは、まだ未定と言っておきます。
自分が満足出来るような作品にしようと思っているので、楽しみにしておいて下さい。

では、伝えることも伝えたのでそろそろ終わりにしますか。
最後に一言、本当にありがとうございました。
それでは。


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