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 拝啓 ドラえもんさま。
 こんばんは、野比のび太です。
 陽春の候、いかがお過ごしでしょうか。
 さて、あなたに誘われるままポケットモンスター金銀の世界にやって来てから、
 六時間ほどが経過いたしました。
 言い出しっぺのあなたがゲームの世界に来ないとは正直予想外でした。
 おかげでぼくはウツギ博士にお使いを頼まれ、先ほどやっとそれを終え、
 一人だけ大幅に遅れをとっています。
 博士からのお礼は特にありません。
 早くも現実の世界に帰りたくなってしまいました。
 スペアポケットとは言いません。
 せめてウラシマキャンデーを、ウラシマキャンデーをください。
 冗談です。
 それでは、またお会いいたしましょう。
 敬具



 ここはヨシノシティ
 かわいい花の香る町

「へぇ、ゲームの世界にも季節ってあるんだぁ」
のび太は感嘆の声を洩らした。
この町にはその説明の通り、至る所に花がある。
もちろん、春を象徴する桜もその花を咲かせている。
「きれいだなぁ……」
のび太はのび太らしい率直な感想を述べた。
「ほらヤドン、桜きれいだよ」
しかし、のび太のパートナーであるヤドンは桜に一瞥も与えず、
ただぼんやりと月の浮かんだ夜空を眺めている。
のび太はやれやれと思いながらポケギアに目を落とす。
「次の町はキキョウシティか。みんなもう着いてるんだろうなぁ……」
のび太は溜め息を漏らした。
ヤドンはまだ空を見ている。
ウツギによれば、もともとのび太たちがもらえるはずだったポケモンたちは、
数日前に何者かに盗まれてしまったらしい。
のび太は不安を感じずにはいられない。
「そういうイベント、なのかなぁ?」
のび太の独り言に答えるものはいなかった。
考えていてもしょうがないと判断したのび太は、
ヤドンを連れて30番道路に向かった。



 ここは30番道路
 キキョウシティ …… ヨシノシティ

「ここを抜ければキキョウシティなんだね」
のび太はなんとなく、そばにあった大きな木に手をついた。
そして、木の上からなにかがぶら下がっていることに気付いた。
「うわッ!」
のび太は驚き、慌てて後ろに下がった。
そのなにかの正体は野生のイトマル。
のび太は胸を撫で下ろす。
「はぁ、どきどきしたぁ……」
のび太はイトマルをよく捉えようとして、そのつぶらな瞳と目が合った。
「よし、捕まえてみよう」
そう決めるや否やのび太は傍らのヤドンに命じる。
「体当たり!」
気を抜いていたらしいイトマルにヤドンのピンク色の体がぶつかった。
「よし、モンスターボール!」
射撃が得意なだけあって、のび太の投げたボールは見事にイトマルに命中し、
当たったボールは揺れもしなかった。
「やった、えへへ」
初めて自力でポケモンを捕まえ、頬が紅潮している。
「やっぱり考えすぎだったな」
のび太は実に単純な構造の脳みその持ち主だった。



 ここはキキョウシティ
 懐かしい香りのする町

「だれかと一緒に行けばよかったかしら」
しずかはぽつりと呟いた。
しずかはこの世界に来た四人の中で唯一、ポケモンをプレイしたことがない。
みんなのプレイを見ていた程度だ。
経験不足はしずかを焦らせ、結局ここまで一人で来てしまったのだった。
「別に優勝するつもりもないのに」
そう、ゲームには勝者がつきものだ。
今回の場合は最初にチャンピオンになれば優勝である。
しかし、しずかは勝ち負けにはあまり興味がなく、
どちらかと言えばかわいいポケモンと一緒にいたいという気持ちだった。
どうせ黙っていてもだれかが優勝するだろうと考え、
これからは自分のペースで進むことにした。
「それじゃナゾノクサ、お散歩にでも行きましょ」
パートナーのナゾノクサを連れて、しずかもまた31番道路へ歩き出した。



 ここはマダツボミの塔
 ポケモンの修行をなされよ

「オニスズメ、つつく!」
ジャイアンはマダツボミの塔で坊主相手に修行をしていた。
修行と言っても、マダツボミ狩りと言い換えることができるほど一方的なものだった。
ジャイアンのパートナーはワンリキーだが、
マダツボミやホーホーを相手にしてはその実力は発揮できない。
そこで新入りのオニスズメの出番というわけだ。
そしてとうとう、マダツボミの塔において最も強い坊主、コウセイをも倒してしまった。
「あんたも弱いなぁ。全然手応えなかったぜ」
ジャイアンは勝ち誇った笑みを浮かべる。
そんなジャイアンを見据え、コウセイは口を開く。
「確かにそなたは強い。だが」
「負け犬のくせに説教かよ」
ジャイアンを無視してコウセイは続ける。
「そなたはポケモンに対する愛情が足りない」
途端にジャイアンの顔が不愉快そうになった。
「愛情なんて強さに関係ねぇよ」
「どう思おうと勝手だが、そのままではこれ以上強くはなれまい」
いつものジャイアンならばとっくにコウセイを殴っていただろうが、
コウセイの持つ密かな迫力に圧倒されてしまっていた。
「ちッ、ばかじゃねぇの。なにが愛情だよ」
ジャイアンはそう吐き捨て、塔をあとにした。



 キキョウシティ ポケモンジム
 リーダー ハヤト
 華麗なる飛行ポケモン使い!

「それじゃよろしくお願いします」
「こちらこそ」
その頃、スネ夫はキキョウジムに挑戦していた。
ハヤトはポッポを、スネ夫はパートナーであるケーシィを繰り出す。
「ポッポ、体当たり!」
先手を打ったのはハヤトだった。
スネ夫は動じず、ケーシィに指示を出す。
「テレポート!」
ポッポから攻撃を受ける直前にケーシィの姿がかき消えた。
「どこに行った?」
「後ろだよ」
ケーシィはポッポの背後に回っていた。
「ポッポ、風起こし!」
「ケーシィ、テレポート!」
スネ夫はただただ、ケーシィにテレポートを命じ、
ポッポの攻撃をケーシィがテレポートで避ける、という行為が幾度も繰り返される。
「どういうつもりだ!」
スネ夫はそれには答えない。
そして、ハヤトはスネ夫のその意図に気が付いた。
(悪あがき狙いか!)
そう、スネ夫は技ポイント切れによって悪あがきを発動させようとしているのだ。
(舐めた真似を)
「テレポート!」
怒りに震えるハヤトにスネ夫の声が聞こえた。
(今のが十四回目のテレポートだな)
テレポートの技ポイントは十五。
ならば、とハヤトは考える。



ケーシィが最後のテレポートを使ったときに、
ポッポに守るを使用させれば悪あがきを防ぐことができるだろう。
「ケーシィ」
スネ夫が指示を出そうとした。
「ポッポ、守る!」
ハヤトの命令を受け、ポッポが自身を丸め、防御しようとしたそのとき。
「悪あがき!」
ケーシィはテレポートではなく、悪あがきを発動した。
「なにッ!」
防御体勢が万端でなかったポッポは、悪あがきをまともに食らい倒れた。
「ばかな!なぜ……」
スネ夫がいやらしい笑みを浮かべて言う。
「技ポイントが常に満タンとは限らないよ?」
その言葉にハヤトははっとする。
「なるほど、おれと戦う前にテレポートの技ポイントを一だけ減らしておいたのか」
テレポートの連発が悪あがき狙いであることが気付かれるのは、
スネ夫にとっては計算のうちだったのだ。
「仕方ない。出てこい、ピジョン!」
ハヤトが繰り出したのは、切り札でもあるピジョン。
「先制攻撃だ、泥かけ!」
もはや攻撃を避けるすべを持たないケーシィは、泥かけを食らってしまった。
「ケーシィ、悪あがき!」
命中率が下がっているケーシィの悪あがきは虚しく空を切る。
「ピジョン、風起こし!」
もともと防御力の高くないケーシィは、ピジョンの攻撃で戦闘不能となった。
「戻れ、ケーシィ。次はこいつだ!」
スネ夫が出したのはハネッコ。
「ハネッコ、だと?」
草タイプのハネッコは飛行タイプのピジョンとは相性が悪い。
「どこまでも舐めたものだな」
ハヤトは呆れかえっている。
それを見て、スネ夫はにやりと笑った。



「ピジョン、体当たり!」
ハヤトの指示を受けたピジョンは、ハネッコ目がけて走り出した。
(効果抜群な風起こしを使わないなんて、随分と手を抜いてるじゃないか)
ハヤトが本気を出していないことが分かり、スネ夫はほくそ笑む。
「舐めてるのはぼくじゃない、あんたの方さ。ハネッコ、毒の粉!」
ハネッコの至近距離にいたピジョンに毒の粉が直撃した。
「ハネッコ、続いてフラッシュ!」
ハヤトとピジョンに少しの暇も与えず、スネ夫はハネッコに命令した。
眩い光がジムを照らす。
「目が、目がぁッ!」
ピジョンはもちろん、ハヤトも思わず目をつぶった。
スネ夫はどこに持っていたのか、しっかりとサングラスを装着している。
「秘伝マシンを持っていたのか……」
ハヤトは目を押さえながら呟いた。
そう、フラッシュを含むすべての秘伝マシンは、
ポケモン図鑑やポケギアと同様に、
ゲームが開始したと同時にプレイヤーに配られている。
一つしか手に入らないものであるため、
二人以上でプレイするときは全員に配られるように設定されているのだ。
スネ夫はさらにフラッシュを命じ続ける。
ハヤトの目が回復するころには、ハネッコはすでに六回目のフラッシュを終えていた。
それからは一方的な戦いだった。
ハネッコに攻撃はほとんど当たらず、たまに当たってもすぐに光合成で回復してしまう。
ピジョンはと言うと、毒に少しずつ体力を奪われ、加えて攻撃を食らっていた。
それから数分後、ピジョンはとうとう体力が尽きて倒れた。
「……おれの負けだ。これを受け取ってくれよ」
ハヤトはスネ夫にジムバッジと技マシンを渡す。
「ありがとうございます」
(技マシンは泥かけか。正直いらないなぁ)
スネ夫は口先でだけ礼を言うと、ジムを出た。
上機嫌で鼻歌など歌うスネ夫の耳に、聞き慣れたあの声が聞こえた。
「スネ夫、勝負だ!」



ジャイアンからしてみれば、さしたる理由はなかった。
ただむしゃくしゃしていたから、そしてその目の前をスネ夫が通ったから、
ジャイアンはスネ夫に勝負を挑んでいた。
「ジャ、ジャイアン。それはちょっと勘弁してくれないかなぁ」
スネ夫は必死でジャイアンとの勝負を避けようとする。
今戦える手持ちはハネッコしかいないのだ。
「ぼく、一応ジム帰りだから手持ちが」
「うるせぇな、勝負しねぇなら全財産よこせ!」
さすがジャイアン、めちゃくちゃである。
スネ夫の脳みそは経験上、こう言っている。
機嫌の悪いジャイアンに逆らうことは最も無駄な行為の一つであり、
無駄どころか危険なのでやめた方が賢明だ、と。
諦めがついたスネ夫はハネッコを出した。
ジャイアンはオニスズメを繰り出す。
結果は言わずもがな、ジャイアンの楽勝であった。
「ありがとな、スネ夫。いいストレス解消になったぜ」
ジャイアンはスネ夫の所持金の半分を奪い、ジムへと向かっていった。



 ここは31番道路
 キキョウシティ …… ヨシノシティ

「やっと着いたよ、キキョウシティ」
のび太はキキョウシティ入口を前にして呟いた。
「正確にはまだ31番道路だけどね」
あと一息、と入口に入ろうとしたそのとき。
「ぐはッ!」
扉が勢いよく開き、のび太の顔面にクリティカルヒットした。
ついでに鼻血が出た。
「あっ、ごめんなさい!」
のび太の耳にかわいらしい声が届いたが、当然その程度では痛みは治まらない。
「ごめんですんだら警察はいらないんだよ、ってしずちゃん!」
「あら、のび太さん!」
扉を開いたのはのび太の思い人、しずかだった。
「ほんとにごめんなさい!」
「いや、全然平気だから気にしないで」
しずかは腰を深く折り、のび太に謝罪する。
のび太は鼻にティッシュを詰めている。
「そんなことより、しずちゃんはどうして戻ってぐふッ!」
のび太の言葉はそこで途切れた。
驚きながらしずかが呟く。
「あれは……ホーホー?」
のび太は今度は野生のホーホーに後頭部を攻撃されたのだ。



「この……ヤドン、体当たり!」
ヤドンの体当たりがホーホーに当たり、ホーホーは千鳥足になる。
「よし、あれ?」
のび太はポケットを探るが、モンスターボールがないことに気付く。
どうやらイトマルと会ったときに、驚いて落としてしまったらしい。
「仕方ないや。しずちゃん、ボールを投げて!」
「わかったわ!」
しずかはボールを取り出し、ホーホーに投げつけた。
ボールは二、三度揺れて動きを止めた。
「よかったね、しずちゃん」
初めてポケモンを捕まえたしずかはうれしそうだ。
「そうだわ、のび太さん」
しずかは名案を思い付いたかのような顔でのび太に尋ねる。
「一緒に行かない?」
のび太から誘うことはあっても、しずかから誘われるなど滅多にないことだ。
これは千載一遇のチャンス、逃してなるものか。
「とんでもない、喜んで!」
いまいちどちらなのか判断しづらい返事をしてしまった。
「それってどっち?」
しずかの一言でのび太は冷静になった。
「えぇと、オッケーってことです」
「よかったわ。これからよろしくね、のび太さん」
しずかの言葉にのび太はすっかり舞い上がってしまった。



 ここはヒワダタウン
 ポケモンと人とが共に仲良く暮らす町

「やっと着いたぁ……」
息も絶え絶えにスネ夫は呟いた。
「確か次はヤドンの井戸にいるロケット団を追っ払うんだっけ?」
だいぶ前とは言え、ゲームのポケモン金銀をクリアしているスネ夫は、
ゲームのおおまかな流れを覚えている。
「はぁ、めんどくさ……あれ?」
ヒワダジムの入口がスネ夫の視界に入った。
ゲーム通りならば入口を塞いでいるはずの人間は、そこにはいない。
「もしかして、やらなくても」
ジムに近付き、窓から中を覗き込んだ。
中ではたくさんのトレーナーたちが挑戦者を待ち構えている。
「いいみたいだね……ふわぁ」
スネ夫から欠伸が一つ洩れた。
そう、時刻はもうすぐ夜明け。
ジムの中には目を赤くしている者、睡眠を取っている者もいる。
「ジムのトレーナーも大変だなぁ」
ジムには後で挑戦することにし、スネ夫はポケモンセンターへ向かった。



「もう、どこだよここは!」
ジャイアンは頭をぼりぼり掻きむしりながら呟いた。
ほとんど叫んでいるようなものであったが。
「洞窟ってこんなんなんだなぁ」
ジャイアンはRPGのダンジョンをほとんどすべてスネ夫にやらせていた。
そのためジャイアンは、たとえ地図があったとしてもまったく進めないのだ。
話も聞かなければ地図も読めない。
つまり剛田武という人間は、RPGはさっぱり向いていないのだが、
本人はそういったゲームが大好きなのだ。
俗に言う下手の横好きというものである。
「くそッ、せっかく早起きしたのに」
まさかのタイムロスに舌打ちをする。
そんなジャイアンの脳裏に、ある一つの考えが浮かんだ。
「なぁ、あんた」
ジャイアンは近くにいる眼鏡の男に尋ねる。
「あんたはこの洞窟の出口までの道程を知ってるか?」
男はいきなり話しかけられ、少し驚いたようだが、ジャイアンの質問に答える。
「あぁ、知ってるが。それがどうかしたのか?」
物分かりの悪い男に若干いらつきながらも、ジャイアンは続ける。
「ここであんたとバトルしておれが勝ったら、
 速やかに所持金をよこすと共におれを出口まで連れていってほしいんだよ」
それを聞いた男は明らかに不満そうな顔をする。
「それじゃ、オレだけが損じゃねぇか」
「話は最後まで聞いてくれよな」
ジャイアンはさらに続ける。
「その道中で出てくる野生ポケモンは全部おれが倒すし、
 もしあんたが勝ったら、おれの所持金と手持ちを全部やるよ」
しばしの沈黙。
それを破ったのは男の方だった。
「分かった。その話に乗ってやるよ」
男の言葉にジャイアンは、ガキ大将らしかぬ笑みを浮かべた。



「気持ちのいい朝だなぁ」
窓から差し込む日光を浴びて、背伸びをするのび太。
「……ってもう十時じゃん!」
ポケギアを確認したのび太は慌てて身支度を整える。
息を切らして部屋を出れば、そこではしずかが待っていた。
「しずちゃん、おはよう……」
のび太は謝罪の意味を含んだニュアンスで言った。
「のび太さん、こんにちは」
一見すれば普通の挨拶だが、自分の「おはよう」に対し、
わざわざ「こんにちは」で返している辺りから、のび太はしずかが、
「もう朝じゃなくて昼よ。いつまで寝てるのよ、まったく!」
ということでも考えているのでは、などと邪推してしまう。
しかし、
「ゆっくり眠れたみたいでなによりだわ」
しずかはにっこり微笑みながら言った。
のび太の杞憂は数秒で吹っ飛び、代わりに押し寄せてきたのは、
心優しいしずかを疑ってしまった自分に対する情けなさ。
「そ、それじゃ、進もうか!」
それを誤魔化すため、のび太は不自然なくらい大きな声を出した。
すると、
「あぁッ、いたいたいたいたいたいたいたいた!」



一人の男が二人に近付いてきた。
「まさかまだ寝ていたとは……。いやぁ、探しましたよ」
白衣の男はにこやかに言い、のび太は不躾にも尋ねる。
「えっと、だれですか?」
「ぼくです。ウツギ博士の助手ですよ」
「……あぁ、おはようございます」
思い出せはしなかったが、とりあえずのび太は頭を下げた。
「のび太くん、もう朝じゃなくて昼ですよ。
 いつまで寝てるんですか、まったく!」
のび太の邪推は微妙な形で当たってしまった。
すると助手は、鞄からなにかを取り出した。
「これをのび太くん、きみに届なければならなくて」
「これって、あのタマゴですか?」
そう、前日にのび太がウツギに頼まれて、
ポケモンじいさんに見せにいったタマゴである。
それに対する助手の首肯。
続いてタマゴについての大まかな説明を施し、
そういう訳なので、とのび太にタマゴを手渡して去っていった。
「なにが生まれるのかしらね」
しずかが興味深そうに言い、
のび太はそのおかしな模様のタマゴをじっと見つめていた。



ヒワダタウン ポケモンジム
 リーダー ツクシ
 歩く虫ポケ大百科

「やっぱりできちゃった」
ジムバッジを握った右手を見つめてスネ夫が洩らした。
ツクシの使用する虫タイプに対して、相性のよくない二匹ではなく、
新入りのウパーで戦ったおかげで楽勝だった。
「それにしても、あの青狸め。ちゃんと説明しろよな、まったく」
スネ夫はここにはいない相手に悪態を吐きながら、町の入口を一瞥した。
「ジャイアンはまだ来てないみたいだし、いい感じだ」
このペースで進めればいいんだけど、と呟いて、スネ夫はウバメの森へ向かう。
スネ夫にとって、町の人間が困っているだとか、悪事を働いている人間がいるだとか、
そういったことは、まったく興味の対象になりえなかった。



「お前の全財産はありがたくもらっとくぞ」
眼鏡の男はジャイアンを見下ろしながら言った。
ジャイアンの持ち掛けたバトルは、男による一方的な戦いに終わった。
ジャイアンはこの世界では初めての惨敗を味わったのだった。
戦う前に自分が決めたルールの通りに、
手持ちのポケモンが入ったボールを渡そうとするジャイアンを、男は両の手で制する。
「あぁ、ポケモンはいらねぇよ。最初からもらうつもりもなかったからな」
男はさらに続ける。
「お前には絶対に勝てるって思ったから、お前の話に乗ったんだ。
 バトルに手持ちポケモンを賭けるような奴は、弱いに決まってるからな」
男の言葉にジャイアンは俯いたまま。
「まぁ道案内くらいならしてやるよ。オレも鬼じゃないしな」
今のジャイアンにとって、男のその申し出は屈辱以外のなにものでもなかった。
しかし一人では洞窟を抜けられない。
ジャイアンは結局、男に誘われるまま黙って付いていった。



 ゲートを抜けるとウバメの森

「うぅ、気味悪いなぁ」
スネ夫が心底、嫌そうに呟いた。
ウバメの森は空も見えないほど木が鬱蒼と生い茂り、
その空気は水分を孕み、じっとりとしている。
幽霊が出てもおかしくなさそうなくらいだ。
「こんな細かいところまでリアルにするなよなぁ」
すると足下から、がさがさという音。
「うひゃッ!」
恐る恐る見てみると、そこにいたのは背中に二つの茸を持つポケモン。
「なんだ、野生のパラスかぁ……」
状態異常で攻めて攻めて攻めまくるのが、スネ夫のポケモンにおいての常套手段。
特にパラセクトは、スネ夫もゲームで愛用していた。
「よし、捕まえてやろう」
ありがたく思えよ、と右手でパラスを指差しながら、
スネ夫は左手でモンスターボールを構えた。



一方、のび太としずかは繋がりの洞窟にいた。
「あぁ、のび太さんと一緒でよかったわ」
しずかがぼそりと洩らした。
その言葉にのび太は心の中でガッツポーズ。
ちなみにしずかにとってその台詞は、
一人でなくてよかった、という意味合いでしかなかった。
「しずちゃん、メリープを捕まえておいてよかったね」
薄暗い洞窟を照らしているのはしずかのメリープ。
それのおかげで二人は迷うことなく進んできた。
「のび太さんもサンドを捕まえられたわよね」
「まぁほとんど偶然なんだけどね」
そう、たまたま落としたモンスターボールが転がっていき、
そこでぼーっとしていたサンドに当たったのだ。
「なんでぼくの手持ちって、こんなのばっかりなんだろうなぁ」
のび太は溜め息を吐いた。
「あれかしら。類は友を呼ぶって言うじゃない」
「……」
しずちゃん、それはあれでしょうか。フォローのつもりなのでしょうか。
まさか嫌味ですか。それとも天然ですか。
ぼくの特に繊細というわけでもない心は、ほんの少しだけ傷つきました。
のび太はそんなことを思いつつ、とりあえず笑顔でいた。



ヒワダジムの前でジャイアンは立ち尽くしていた。
あの男は洞窟を抜けるとすぐに、用事があるから、と言って去っていった。
あのとき、男が紡いだ台詞。
そして記憶は逆上り、マダツボミの塔でコウセイに言われた言葉も蘇る。
「おれは……」
そう言うと、ジャイアンは深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。
自分のモンスターボールを見つめ、両の手でそれらをぎゅっと握り締めた。
「おれはッ……!」
このときのジャイアンは、涙こそ流してはいなかったが確かに泣いていた。
その理由は、たくさんありすぎた。
ジャイアンはやっと、それらに気付くことができたのだ。
しばらくして、ジャイアンはジムの中へ消えていった。