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今日は、8月6日。
真夏の太陽の照りつける中で、心地よい風が吹き抜けていく。
少年、野比のび太はいつものように自分の部屋で座布団を枕に横になっていた。
22世紀からやってきたネコ型ロボットのドラえもんは未来へ出かけていて今は不在だ。
未来デパートへ行っているらしい。
タイムマシンが使えるならどうして出かけた直後に帰ってこないのかという疑問が残るが、ドラえもんはいつもそうなのだ。
銀河超特急のチケットを買いに行ったときなど無断で3日間も家を空けた。
しかし、今回の場合ドラえもんの不在はのび太にとって大好きな昼寝を悠々とするまたとないチャンスである。
のび太はドラえもんが大好きだったが、子守ロボットの宿命としてドラえもんは何かと口うるさいのだ。
昨日も宿題をきちんとやってね、と言い残して引き出しの中に潜り込んでいった。
ドラえもん、何やってるのかな・・・
心の片隅でわずかながらドラえもんを案じながら、のび太は眠りへ落ちていった―――

知らない間にのび太が眠りに落ちてどれくらい経ったろう、のび太の安眠を破るものは突然現れた。
「おーい、のび太ー!!」「のび太ー!」
下で大柄の少年、剛田武が叫んでいる。
あの声はジャイアンか。
目を覚ましたのび太はゆっくりと起き上がり、あくび交じりに窓から顔を出す。
「なに~?」
「これから僕のウチでポケモンやるから、DS持ってのび太も来なよ」
骨川スネ夫が奇妙な髪型を風になびかせてそう言った。
「わかったー!先に行っててよ!」
「じゃあな、絶対来いよ!来ないとぶん殴るからな!」
ジャイアンがそう言うと二人はスネ夫の家の方角目指して駆けていった。
「えーっと、DSDS・・・」
昨年の誕生日までに宿題を終わらせるという条件で頼み込んで買ってもらったものだ。
ちなみに、ポケモンはひみつ道具の「サンタえんとつ」の力である。
のび太が時計にちらと目をやると3時前を指していた。
さあ、行くか。必死で育てたポケモンの力を見せてやる。もうぼくをバカにはさせないぞ。
のび太は階段を駆け下りるといつもの調子で行ってきますの言葉を残して自宅を後にした。



スネ夫の家に着き、とりあえずみんなでDSの電源を入れてピコピコやっていると、不意にインターホンが鳴った。
「あ、しずちゃん!」
そういってスネ夫は部屋を後にし、玄関へ向かった。
「しずちゃんも来るのかぁ・・・」
しずちゃんと呼ばれた来客、源静香はのび太と同い年の美少女である。性格も優しく、多くの男の子の憧れの存在であった。
しずちゃんにいいとこ見せなくちゃ。
のび太がそう思っているところにしずかがスネ夫につれられ部屋に入ってくる。しかし、その後ろには・・・
「出木杉!」
のび太は思わず叫んだ。出木杉英才はのび太の恋敵、そしてなんでもソツなくこなす天才少年だ。
「やあ、のび太くん、武くん」
「こんにちは」
2人が口々に挨拶するとジャイアンは陽気に「おう!」と返した。のび太はDSに没頭するフリをして何も言わない。
「のび太くん、どうしたの?」
のび太に勝手にライバル視されているとも知らない出木杉はどうやら心配したらしい。
「いや、なんでもない」
「ならいいんだけど・・・」
「みんなそろったところで対戦しようよ」
二人の会話をスネ夫がさえぎり、のび太vsジャイアン、スネ夫vs出木杉の対戦が始まった。しずかは興味深そうに見守る。
のび太の家を出るときの闘志はまだ衰えてはいなかった。今日こそは勝ってやる!
「よーし、行くぞジャイアン!」

結果は惨敗であった。お互い相性を良く覚えきっていない対戦では力押し主体のジャイアンの戦い方の方が有利だったのだ。
それに加えてジャイアンは自分のポケモンが一匹倒れるごとにのび太を殴ろうとするし、散々だ。
「ふん!いまのはたまたま!」
一敗程度で闘志は衰えない。そのままジャイアンに再挑戦するも、やはり歯が立たない。
その後の対戦相手、スネ夫と出木杉にも赤子の手をひねるようにあしらわれ、のび太の戦跡は全敗であった。



恒例行事のジャイアン・スネ夫によるのび太いびりのあと、スネ夫がこんなことを言い出した。
「出木杉、頼んだものは持ってきた?」
「うん、持って来たよ。」
出木杉はカバンを探るとゲームボーイカラーを取り出した。スネ夫も同様にGBCを取り出す。
「じゃあ約束どおり対戦しようか」
「何だそれ?」
ジャイアンがたずねる。出木杉が説明を始めた。
「これはポケモン金だね。スネ夫くんのは銀さ。
 今から7年以上前に発売したものだけど、今のDS版のシステムのベースを作り上げた作品さ。」
「へぇ・・・」
「さすが出木杉さんね」
ジャイアンとしずかはただ感心する。のび太は「ちぇっ」と漏らした。
かなり長かったスネ夫と出木杉の対戦が終わるとスネ夫はいつものように自慢話を始めた。
「このポケモン銀はボクが3歳のときに・・・」
まーたはじまった。スネ夫の自慢話は大概いやらしくて長い。
でも、僕もポケモン金銀遊んでみたいかも・・・。
そうだ、ドラえもんが帰ってきたら頼んでみよう。明日は誕生日、何とかなるかもしれない。
のび太がそこまで考えたとき、スネ夫の自慢話が終わったようだ。
「・・・って感じなんだけど、のび太、聞いてる?ま、持ってないやつには分からないだろうけどね」
「分かるさ!」
「へぇ、どの辺が?」
「それは・・・」
「ほら、やっぱり答えられないじゃないか」



ジャイアンとスネ夫は満足げに笑う。そこでしずかが流れをさえぎった。
「でも、スネ夫さんの話聞いてたらあたしもやりたくなってきちゃったわ、ポケモン」
でも、のび太はしずかに・・・何も出来ない!
そこで出木杉がGBCを差し出しながら言った。
「じゃあ、僕のを貸してあげるよ。もうやりつくしちゃったし」
「スネ夫、もちろん俺には今すぐ貸してくれるんだろうな?」
隣でジャイアンはいつもの調子のままスネ夫に詰め寄る。
「わ・・・わかった、貸すから貸すから。」
そういってジャイアンにGBCを差し出すスネ夫。満足げに頷き、ジャイアンはのび太のほうを向いた。
「のび太!しばらくしたらまた相手になってやるぜ!あ、もちろんこの銀の方でな」
「ジャイアン、のび太は持ってないんだって」
「そうだったそうだった、ガハハハ」
「あー、もういいよ!じゃあね、スネ夫!おじゃましました!」
のび太はDSを引っつかみ、泣きながら骨川邸を後にした。

「たけしさん、スネ夫さん、言いすぎよ」
「うん、僕もそう思うな」
良識派の二人はジャイアンとスネ夫をとがめるが、いつもどおりのどこ吹く風だ。
「大丈夫大丈夫、またドラえもんに道具でも出してもらうんじゃねーの?」
「ま、ポケモンが強くなる道具があるとは思えないけどね、それにのび太だし」

当ののび太は以前泣きながら通りを走っていく。
その口からは不在だと分かりつつもいつもの名前が飛び出してきた。
「ドラえも~~~~~ん!!!」



「なんだ、まだ帰ってないのか。肝心なときにいないんだから!」
イライラしながらのび太がおやつを食べていると、引き出しが開いて、ドラえもんが帰ってきた。
ニコニコ笑っている。
「やあ、のび太くん、ただい「ドラえもーん!!」「わっ!」
「遅かったなぁ、何やってたの?」
「ふふふ、秘密」
「それよりドラえもん、ポケモン出してよ」
「え?ポケモンならもう持ってるじゃないか」
「そうじゃなくて!ポケモン金銀!」
のび太は今スネ夫の家であったことを話した。
「ふうん。仕方がないなあ」
「じゃあ、出してくれるんだね!」
「ふふふ、みんなを呼んできて」
「なんでポケモンを出すのにみんなを呼ぶの?」
「いいから、早く」
「??? じゃあ、呼んでくるよ」

のび太はスネ夫の家に電話をかけた。まだみんないるらしい。
「とにかく、ドラえもんが来いって言うんだよ」
「ふうん、まあドラえもんがそういうなら悪いことはなさそうだな。
 わかった、みんなに言ってみるよ」



数十分後。のび太の部屋に5人が集まった。ジャイアンはドラえもんに大声でたずねる。
「ドラえもん、なにがあるっつーんだよ!」
「いいからいいから」
ドラえもんは無言でポケットを探っている。
「シミュレー塔!!」
ポケットからドラえもんの背丈ほどもある道具が飛び出してきた。
トゲのついた黒い巻貝のような形で、ライトのようなものがついている。
魔王の城、といった要望に、一同はあっと声を上げた。
「これは22世紀の新商品で、パラレルワールドを作り出す道具なんだ」
ドラえもんが説明を始める。出木杉、しずか、スネ夫は意表を疲れたような顔で黙って聞き、のび太とジャイアンは興味津々の様子だ。
「パラパラワールド?ドラミちゃんの言ってた?」
のび太のお約束の間違いを訂正しつつも、ドラえもんは説明を続ける。
「パラレルワールド!要するに平行世界、僕らの住んでるのとは別の空間にある世界だね。
 この道具は未来のダウンロード販売で買った世界のデータを取り込んで、そこに入り込めるんだ。
 もしもボックスと違うのは、世界の様子が初めから決まっているのと、クリアするまで出られないことかな。
 もちろん途中リタイアはできるし、設定もある程度は出来るんだけどね」
「へぇ。面白そう」
さすがは出木杉である。小学生ながら今の説明を一発で理解したらしい。
「なんだかよくわかんないや」
のび太は対称的にほとんど理解できなかったようだ。スネ夫としずかは何とか理解しようと少し難しい顔をしている。
「よく分からないけど、俺たちをどっかの世界に連れてってくれるんだな!」
ジャイアンはいつもせっかちだ。
「ま、そういうこと。のび太くん、もしもボックスと気ままに夢見る機を組み合わせたような道具って言えば分かる?」
「うーん、分かったような分からないような・・・」
「で、ドラえもん。ボクたちをどんな世界に連れて行ってくれるの?」
「見たほうが早いよ」



ドラえもんがシミュレー塔の取っ手を引くと、ノートパソコンのようなものが出てきた。
スネ夫およびみんなの最大の関心事に答える、世界データの管理画面のようである。
真っ先に覗き込んだスネ夫が文字を読み上げる。
「ポケットモンスター・・・金銀クリスタル・・・ジョウト・カントー地方・・・これは!」
「ガハハハ、さすがドラえもん」
「わあ、あたしもやってみたかったの」
「いいね、ポケモンの世界かぁ・・・」
少年少女は口々に期待のコメントをする。ここでのび太が口を挟んだ。
「ドラえもん、さっき言ってた秘密ってこれ?なんでこんなにすごいもの買ってきたの?」
「だから、秘密」
ドラえもんは笑顔のまま秘密を守り通すつもりだ。
苦楽をともにしてきたのび太にはドラえもんの意図がすぐに掴めた。

「んー・・・でも」
そこで言葉を切り、終始笑顔だったドラえもんの表情が若干曇る。
「今やってるDS版にしたあげたかったんだけど少し高くて・・・」
「気にしないでよ、ドラえもん。ありがとう」
「照れるなぁ・・・じゃあ出発の前にみんなにルールを説明しておくね。設定は終わってるから」
ドラえもんはルールの説明を始めた。



1.最後までチャンピオンだった人の勝ち。危険なものを除いて好きな秘密道具を1日自由に使える
2.勝者のポケモン世界からの出口はチャンピオンのワタルが開いてくれる
3.ワカバタウンからスタート
4.あくまでも世界を作り出す道具なので全てシナリオどおりに行くとは限らない。
 ゲームにないイベントが起こることもある
5.現実世界の1秒はポケモン世界の1万秒、つまりポケモン世界では時間が1万分の1のペースで流れる
6.クリアに必要な道具は人数分あるが、それ以外の道具はそうとは限らない
7.戦闘、進化、技などはダイヤモンド・パール版の設定に準ずる

「よし、じゃあいくよ!出発ー!」
「ドラえもんも来るの?」
「見てるだけじゃつまんないから」
ドラえもんがそういいながらボタンを押すとライトのようなものが光り、照らされた場所は抜け穴のようになった。
「さ、早く早く!」
「よーし!」
ドラえもんは5人を手招きして出発を見送った後、ふっとこう呟いた。
「1日早いけど、ま、いっか」
そしてドラえもんも、踵を返すとポケモンの世界へと旅立っていった―――

窓から夕日が差し込んでいる。
オレンジ色に染まった西の空には雲ひとつない。明日の天気は快晴なのだろう。
これから始まる旅への期待へ胸膨らます、6人の気持ちを映すように・・・。



柔らかい日差しが芽吹いてきた新たな命を包み込む。こちらの世界では春のようだった。
穴はドラえもんの説明どおりワカバタウンに繋がっていた。
いつものようにのび太を一番下にして6人が折り重なって倒れている。
どうやらここは広場のようになっているらしい。なぜかいつもの空き地にどことなく雰囲気が似ている。
民家が立ち並ぶ中で一際目を引く建物はウツギ研究所だろう。
「いててて・・・へぇー、ここがポケモンの世界?」
真っ先に立ち上がったスネ夫が誰ともなしに感想をつぶやく。
他の5人も立ち上がって泥を払っている。
「そうだよ。じゃあ、ここからは一人一人別々に行動をとって競争しよう!」
「オーッ!ってちょっと待って。何もないのにどうやって旅しろって言うのさ」
のび太にしてはまともな疑問である。ゲームの場合にもポケギアやら最初のポケモンやら旅の準備というものがある。
「そこにリュックがあるでしょ。中に必要なものが全部入ってる」
いつの間にやらそれぞれの傍らにリュックが置いてあった。しずかのものは丸っこい、少し違う形をしている。



既にリュックをあさり始めていたジャイアンは、中から手のひらサイズのボールを取り出した。
「お、モンスターボールだぜ!行けっ!」
中から現れたのは水色のワニ。おおあごポケモン、ワニノコである。
「おう!気に入ったぜ!よろしくな」
ジャイアンはゲームでスネ夫からもらった(というか横取りした)オーダイルがかなり気に入っていたのだった。
「ボクのオーダイル・・・ん、あった!何が出るかな?」
スネ夫のモンスターボールから出てきたのはヒノアラシ。
背中の炎の温度を肌で感じたスネ夫はポケモン世界に来た実感がようやく湧いてきた。
ポカポカした陽気も手伝い、夢見心地のスネ夫。
そしてその夢見心地を破るものはいつもの男である。
「おい、スネ夫!何を寝ぼけてんだよ?今から俺と勝負しようぜ!」
「えぇえ!?」
まさに寝耳に水。かくして半ば強引に二人はバトルを始めることとなった。



その隣では残りのメンバーがポケモンを取り出していた。
ドラえもんはチコリータ、しずかはピンプクがパートナーとなった。
広場の端っこでリュックの中身を検めていた出木杉のボールからはホーホーが飛び出してきた。
リュックの中にはポケギア、ポケモン図鑑、トレーナーカードなどの他にも歯ブラシ・タオル・石鹸といった生活用品まで入れられていた。
そしてなぜか、小さなヒメグマのぬいぐるみ。ティッシュは葉っぱで代用できてもこれは外せないと小さな説明が付いていた。
そんなリュックの中身がのび太の周りに散らばっている。
「ない・・・ない・・・えーっと・・・あった!君に決めた!」
一度やってみたかったとばかりに定番のセリフを吐いたのび太の前に現れたのは・・・
「わっ!」
仰向けに倒れたのび太の顔の上ではみずうおポケモン、ウパーがぴょこぴょこ飛び跳ねていた。
「わぁ・・・かわいいじゃない」
しずかは抱きかかえてみたが、ウパーはすぐに逃げ出してのび太の顔面にもう一度ダイブした。
しずかは仕方がないとばかりにクスリと笑うとリュックを背負って踵を返すと、こちらを振り向いてこう言った。
「じゃ、あたしは行くわ。のび太さん、ドラちゃん、出木杉さんもまた会ったときにね」
「そうだね。じゃ、僕も行こうかな」
出木杉も準備が出来たらしい。
「またね、のび太くん、ドラえもん」
「うん、じゃあね」
「うー・・・」
出木杉としずかの挨拶にうめき声で答えると、のび太は手の先でモンスターボールをつかみ、ウパーを戻した。
「ドラえもん・・・ぼくウパーイヤだよ・・・」
ドラえもんは返事もしないで広場の奥を見ていた。どうやらジャイアンとスネ夫の勝負が終わったらしい。
「勝った勝った。やっぱり俺様はこっちの世界でも最強だな。じゃあなスネ夫!のび太、お前もせいぜい頑張れよ!」
ジャイアンは意気揚々と飛び出して行った。
「やっぱりジャイアンはジャイアンだなぁ・・・」
ドラえもんは呆れたように言った。スネ夫を見やると、ブツブツ文句を言いながらリュックを背負っていた。
ちらりとこちらを見やった後、何も言わずにスネ夫は広場を出て行った。



こうして広場に残っているのは仰向けに倒れたままへばっているのび太と呆れたようにそれを眺めるドラえもんのみとなった。
「やっぱりのび太くんだねぇ・・・」
ドラえもんはポケットにリュックをしまう。
「仕方ないだろ!こいつが悪いんだよ、こいつが!」
「ポケモンのせいにしたって仕方ないじゃないの」
「だってこいつが「ぎいやあああああああああ!!!!」
ドラえもんはいきなり飛び上がった!のび太もつられて飛び上がってしまった。
のび太には分かる。ドラえもんがこういうリアクションを取るのはネズミを見たときだけだ。でも、どこに?
「ネズミ!ネズミ!ネズミ!」
ドラえもんは広場を10週はしたかと思うと道へ出て猛スピードで走り去っていった。

のび太は突然の出来事に放心していたが、しばらくしてハッと我に返った。
見ると、広場の入り口にぎょっとしたように突っ立っている短パンを履いた少年がいて、その足元でコラッタが怯えている。
この世界の人間に出会うのは初めてだ。のび太は若干ドキドキしながら話しかけた。
「やあ、おろど・・・驚かせちゃってゴメン。あれ、ぼ、ぼくの友達なんだ」
「え?あ、ああ、ゴメ、ゴメン」
「ぼくはのび太っていうんだ」
「俺はゴロウ」
数秒間気まずい沈黙が流れる。・・・沈黙を破ったのはゴロウのほうだった。
「のび太、君はポケモン持ってるだろ?せっかくだから勝負しないか?」
怪訝そうな顔をして主人を見ていたコラッタは「勝負」の一言にきっとした表情になった。
「あ、う、うん。わかった・・・」
貰ったばかりのウパーに一抹の不安を抱きつつも、のび太の初戦が幕を開けることとなった。



「行け!コラッタ!」「い……行くんだ! ウパー!」
ポケギアのバトルガイド機能によるとこちらのレベルは5、対して相手は4。
レベルでは若干こちらが有利だ。力押しで勝てる。
自分が有利、ということで若干緊張がほぐれたのか、のび太の表情から曇りが取れた。
「ウパー、水鉄砲だ!」「遅い! 電光石火!」
一瞬の間にコラッタはとてつもないスピードへ加速していた。速い。水鉄砲もかわされてしまっている。
気が付けば、ウパーは攻撃を受けて倒れている。かわす暇もなかったようだ。なおコラッタは砂埃を上げて駆け回っている。
「ウパー、速さにひるんじゃダメだ! 構わず水鉄砲を続けろ!」

しかし同じことであった。電光石火の動きに追いつけるほどの動体視力がウパーには備わっていない。
水鉄砲をかわされては電光石火でダメージを受ける。そのような光景が何度か続いた。
緊張が取れて表情が晴れたのなど束の間の話であった。のび太の額には早くも冷や汗が光りはじめている。
何度水鉄砲を指示してもかわされては攻撃を受けてしまう。もうウパーの体力は半分もない。
のび太は勝負をあきらめ始めていた。
初めての勝負でいきなり負けるだなんて、こっちの世界に来てもぼくは……
いいんだ、ぼくは。いつもこうなんだから。テストも0点、ジャイアンやスネ夫にバカにされ、ママにも叱られて……
現実世界での暗い日常がスライド写真のようにのび太の脳裏をよぎる。

だが、のび太がそのような暗い思いに浸っている間にもウパーは攻撃を受け続けているのであった。
「勝負の最中に暗い顔なんかするな! コラッタ、とどめの電光石火!」
我に返ったのび太が慌てる暇もなく、ゴロウのコラッタはウパー目掛けて突進していた。



傷だらけになったウパーには立ち上がる気力もないように見えた。
自らの出した水鉄砲で水溜りだらけになった広場にうつ伏せで這いつくばっている。
「久しぶりの勝ちだな。お疲れ、コラッタ」
対してゴロウのコラッタは無傷だ。うれしそうにゴロウのもとへ寄ってくる。
「……ありがとう、ゴロウくん」
のび太は礼を言うと暗い気持ちのままコラッタをボールに戻すゴロウを眺めていた。
「あぁ。ところでのび太、君はトレーナーになったばかりか?」
ゴロウは身支度を整えながらこんなことを訊いてきた。
「うん。そうだけど……」
「じゃあもっとポケモンをいたわることを覚えるんだな。
 俺はまだ弱いトレーナーだけど、コイツのことは一番分かってやれる自信がある。
 お前のウパーは相手の俺から見てもかわいそうだったぞ。
 ん? ウパーを見てみろよ。……後はのび太の仕事だな」
賞金を受け取り、じゃあな、と言い残してゴロウは広場を出て行った。
いわれたとおりウパーを見るとのび太の方を見て尻尾に力を込めては立ち上がろうとしているのだった。

取り残されたのび太とウパーの周りには咲きそこなった桜のつぼみが転々と散らばっていた……



ゴロウが去ってからどれくらいの時が経ったろう。
ポケギアを見ると実際は10分も経ってないのだが、とてつもなく長い時間に思えた。
のび太は依然と暗い顔のまま傷だらけのウパーを前にして広場にしゃがみこんでいた。
まだウパーはのび太の目を見ては立ち上がろうとしているのだ。
不意にのび太はボールを取り出すと戻れ、とつぶやいてウパーをボールに収めた。
やりきれない思いだった。
「ウパーがかわいそうだったぞ」、とゴロウの声が脳内をぐるぐる回っている。
勝負の最中に勝手に自分が落ち込んだせいでウパーをこんなにも傷だらけにさせてしまった。
自分はウパーを疎ましく思っていたが、思えばウパーは自分を気に入っていたようなのだ。
ボールから出していきなり飛びついてきたり、最後まで自分の方を見て立ち上がろうとしていたのだから。
どうしてぼくはそれに気が付かなかったんだろう。挙句の果てにはドラえもんに「ウパーはイヤだ」とまで言って……
ぼくの方にもウパーを大切に思う気持ちがあれば……それに、ぼくにもっとトレーナーとしての力量があれば……
とにかく、ウパーをこんな状態にしておくわけにはいかない。
そう決心したのび太はウツギ研究所の方角へ駆け出していた。
目にいっぱいの涙をたたえながら。