ドラえもん・のび太のポケモンストーリー@wiki

ルビー その13

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ドーム控え室。
「待ってよ!出木杉!」
無言で立ち去る出木杉を心配し、追いかけるのび太。
「うるさい!来るな!」
出木杉が大きな声で怒鳴る。
いつも温厚な出木杉にしては珍しかった。
「さっさと出ていってくれ!目障りだ!」
立ち尽くしているのび太を他所に、続ける出木杉。
彼は今、凄まじいほどの屈辱に襲われていた。
『なんで僕が……野比君に……』

出木杉は現実世界で何においてものび太より上だった。
勉強も、スポーツも、何もかも。
だが、あろうことか全てが自分より下回っているのび太に負けたのだ。

『なんで……なんで……』
のび太が手を差し出そうとするが、出木杉はありったけの力で振り払った。
「いいから……さっさと出てけよ!」
出木杉が怒鳴るのはこれで3度目になる。
のび太はしぶしぶ部屋を出ていった。



ドーム観客席。
「あ、のび太さん」
遠くから走ってくるのび太を見て、しずかが言った。
「はぁ……はぁ……」
全速力で走ったのか、ゼエゼエと息をつくのび太。
「のび太、しずかちゃん。スネ夫の試合が始まるぜ」
ジャイアンが首で促した。

ドーム闘技場。
「話はのび太から聞いた。お前は僕がここで倒すさ」
試合開始前から挑発するスネ夫。
「口だけなら何とでも言えるわ……本当に私を倒せるのかしら?」
リンは何事も無いように言い返した。
「これから証明してあげるよ。そんな口がきけなくなるようにね……」
「じゃあ、楽しみにしてるわね」
両者言い終えると、それぞれの位置についた。
『対策は万全。勝つのは僕だ!』
『あの威勢……いつまで持つのか楽しみね』
それぞれの思いを抱えながら、ボールを構える二人。
そして、試合開始のホイッスルが吹かれた。
「それでは、準決勝第二試合、始め!」



両者からボールが放たれる。
スネ夫はテッカニン、リンはファイヤーだ。
「身代わり!」
ボールから出てくるやいなや、テッカニンが身代わりを作り出す。
「火炎放射」
テッカニンの身代わりが破壊される。

その後も同じような光景が繰り返されていた。
『そろそろだな』
「テッカニン!」
頭の中で計算を済ませたスネ夫が叫ぶ。
すると、テッカニンが輝き始めた。
「チイラの実の効力さ。そして……バトンタッチ!」
そう、スネ夫の目的はバトンタッチで補助効果を引き継がせる事だったのだ。
「戻れテッカニン……そしていけ、ナマズン!」
満を辞して登場したのはナマズン。
それも数回の加速とチイラの実により、素早さと攻撃力が数段アップしている。
『このナマズンで一気に押し切ってやるさ』
次の指示で、ナマズンのがんせきふうじがファイヤーをとらえた。



「出てきなさい、フリーザー」
煌びやかに光る両翼を羽ばたかせ、フリーザーが現れる。
「一撃で散ってもらう!がんせきふうじ!」
ナマズンが先手を取って攻撃する。
だが、がんせきふうじはフリーザーを捕えきれていなかった。
「くそ、外したか!」
がんせきふうじの命中率は80パーセント。
リンのフリーザーにとっては危惧すべき技なのだが、リンは全く動じていない。
『どういうことだ……』
スネ夫が怪しく思ってフリーザーを見ると、案の定キラキラと光る粉が見つかった。
『光の粉か……。だけど、次は外さないさ』
「フリーザー、心の目!」
フリーザーがナマズンに照準を合わせる。
『心の目から絶対零度か……ここで外せば、間違い無くやられる!』
少し戸惑うスネ夫。
だが、すぐに指示を出した。
「何をしたのか知らないけど……決めなさい!絶対零度!」
突如、猛吹雪が発生する。
「さあ、終わりよ」
吹雪はナマズンを完全に捕えていた――



「フン……甘いんだよ」
猛吹雪で姿が隠れているスネ夫が、嘲笑うかのように言い放った。
「これは……まだ倒れてないのね」
ナマズンはまだピンピンしている。
その周囲は青い防御壁で囲われていた。
「まもる、だよ」
吹雪が止み、うっすらとスネ夫の姿が現れた。
スネ夫は絶対零度が放たれる直前に、ナマズンにまもるを指示。
そして、見事に攻撃を避けたというワケだ。
「トドメだ!がんせきふうじ!」
二発目は当たり、フリーザーを一撃の下に降した。

ドーム観客席。
「スネ夫、すげえ……こんなに強かったのか」
驚きの声をあげるジャイアン。
それにのび太が反論する。
「ジャイアンはスネ夫と戦っただろ?今更言うことじゃないんじゃない?」
対して、ジャイアンはいつになく真面目な顔で答えた。
「いや、俺と戦った時よりも強い……これは、勝てるかも知れないぜ!」
「そうね……このペースなら、勝てる可能性は十分にあるわ」
しずかもジャイアンに賛同する。
だが、のび太はイマイチそんな気がしなかった。
『確かに、スネ夫は強いけど……アイツはまだ切り札を隠してる、そんな感じがする』
言うなれば、真っ暗闇の奥に何かがある……そんな感じだ。
一抹の不安を抱えながら闘技場を見つめるのび太だった。



「さあ、次は何を出す?」
試合の流れが自分に向いているからか、余裕のスネ夫。
対して、リンは顔色一つ変えずにボールを放った。
「ミュウツー!」
繰り出されたのは破壊神、ミュウツー。
「あなたもすぐに葬ってあげるわ……あの御曹司のようにね」
ナマズンが地震を起こすも、ミュウツーの体力は残ってしまう。
「サイコキネシス!」
ミュウツーから強力な念波が放たれる。
だが、これも同様に体力を奪いきることは出来なかった。
「もう一度、地震だっ!」
スネ夫が二回目の地震を指示する。
『これで倒れてくれ……』
だが、スネ夫の願いも虚しくミュウツーの体力は残っていた。
そのままミュウツーがサイコキネシスを放ち、遂にナマズンが倒れてしまう。
「ふふ、あなたの手持ちにミュウツーを倒せるポケモンはいるのかしら?」
ナマズンを倒したことにより、勝ち誇ったような笑みを浮かべるリン。
ミュウツーは絶対に倒されない――彼女はそんな雰囲気を醸し出していた。

――だがこの男、スネ夫は違った。
『いくら強いミュウツーでも、僕の前では無力さ』
「いけぇっ!」
スネ夫が次なるモンスターボールを放った。



繰り出されたのは、モンスターボールさながらのポケモン。
その周りでは電気がバチバチと音を立てていた。
「これは……マルマインね」
リンが苦い表情をする。
「ふふ……先手を取って倒させてもらうよ」
マルマインのスピードはミュウツーのそれを上回っている。
スネ夫は、ミュウツーに攻撃される前に倒してしまおうというのだ。
『急ピッチで育てた甲斐があったってもんだよ……』

二日前――
『ミュウツーか……どうやって倒そう』
先程のダイゴとリンの試合で、ミュウツーの圧倒的な強さを見せられたスネ夫。
彼は今、ミュウツーの対策法を考えていたのである。
『今のポケモンじゃ、間違い無く勝てないな』
ミュウツーは凄まじい破壊力に加えて、素早さも高い。
覚える技も豊富なので、弱点を突かれて一撃死ということも十分に考えられる。
『仕方ない……アイツを使おう』
スネ夫が考え出した対策法は、至極単純なものだった。
『こっちが先手の一撃で倒せばいいんだ。それをやるにはアイツしかいない』
スネ夫は大急ぎでビリリダマを捕まえ、育て始めたのだった。

舞台は戻る。
『今のミュウツーなら、大爆発を使わなくても倒せるな』
「マルマイン、十万ボルト!」
強力な電撃がミュウツーの体力を奪った。



無言でミュウツーをボールに戻すリン。
その顔は屈辱で歪んでいる。
さすがの彼女も、ミュウツーが倒されたことには動揺を隠せないようだ。
「……サンダー!」
リンが次に選んだのはサンダーだ。
甲高い咆哮をあげ、スネ夫を威圧する。
『サンダーならマルマインにあまりダメージは与えられないハズ……どういうことだ?』
スネ夫は疑問を抱く。
だが、既に彼の腹は決まっていた。
「マルマイン、大爆発!」
マルマインの体に光が集まっていく――
そして、次の瞬間……それは一気に弾けた。
「やったか!」
目をこらし、爆発のあった所を見るスネ夫。
彼の目は期待に満ちていた。だが……
「……残念ね」
不意に、リンの声が聞こえてくる。
スネ夫は更に目をこらし、勝敗の行方を確かめる。
「これは……しまった!」
スネ夫が見たのは元気に羽ばたいているサンダーと、力尽きて倒れているマルマインだった。



落胆するスネ夫を嘲るかのように、空中を旋回するサンダー。
「あなたが大爆発を指示する前に、見切りをさせたのよ」
見切り……守ると同じく、相手の攻撃を無効化できる技だ。
「……くそ!」
自らの判断ミスを恨むスネ夫。
何せ、冷静になっていれば簡単に予測できた事なのだ。
「ふふ、勝負を焦りすぎたわね……」
リンがほくそ笑む。

ドーム観客席。
「ああっ!スネ夫のバカ!」
顔を真っ赤にしながら地団駄を踏むジャイアン。
それに、すかさずしずかがフォローを入れる。
「でも、スネ夫さんの優勢は変わらないわ。あっちは3匹も消耗しているんですもの」

舞台は闘技場へ。
「いけ、ユレイドルッ!」
大爆発の不発によって落胆したスネ夫だったが、落ち着きを取り戻してボールを放つ。
「鋼の翼よ」
サンダーの翼がユレイドルを切り裂く。
「負けるなユレイドル!原始の力!」
今度はユレイドルが反撃する。
その後、もう一度同じ光景が繰り返され、サンダーが先に倒れた。



「やったぞ、ユレイドル!」
歓喜の叫びをあげるスネ夫。
リンは愚者を見るような目でサンダーを見つめていた。
「戻りなさい、サンダー……」
サンダーをボールに戻し、ため息をつくリン。
そのままボールを取り出し、放り投げた。
「レックウザ!」
レックウザ……これまた伝説のポケモンだ。
「ドラゴンクロー」
即座に指示が降され、レックウザの鋭い爪がユレイドルを襲う。
先程の蓄積ダメージもあり、ユレイドルは耐えることが出来なかった。
「こうなったら……フライゴン!」
ボールからフライゴンが出現し、すぐさまレックウザに一撃を与える。
「ドラゴンクローね……なら、こっちもよ!」
レックウザも反撃する。
食らったダメージはフライゴンの方が大きかった。
「フライゴン、もう一度!」
またもやフライゴンが攻撃し、レックウザの反撃が待ち受ける。
フライゴンが次の攻撃を受け切るのは不可能だった――



『敵のレックウザはかなり消耗している……ならば!』
今なら一撃でレックウザを倒せると悟ったスネ夫。
無造作にボールを取り出し、それを放った。
「ジュカイン!」
繰り出されたのは幾度と無くスネ夫のピンチを救ってきた相棒、ジュカイン。
即座にレックウザに飛びつき、必殺のドラゴンクローを浴びせる。
「どんなもんだい!」
思わずガッツポーズを決めるスネ夫。
だが、レックウザをボールに戻すリンの顔からは余裕さえ感じられた。
『奴の手持ちは残り1匹……こっちは体力全快のジュカインと、残り体力が僅かなテッカニンだ』
数では勝っているが、テッカニンは相手に一発当てるのが限度。
ジュカインでなるべく相手の体力を減らさねばならない。
「……もう、終わりね」
冷たい表情で最後のボールを取り出すリン。
その雰囲気から見るに、自分が負けるとは思っていないようだ。
「出てきなさい……」
リンがふんわりとそのボールを投げる。
「こ、これは……!」
繰り出されたポケモンを目の当たりにして、絶句するスネ夫。

現れたのは、赤と緑で彩られたなんとも奇妙な生き物だった。
その肩と思われる部分からは触手のようなモノが伸びていて、その異形をより引き立てている――

――そんな異様な姿を露にしたそのポケモンの名は、デオキシスという。



「デオキシス……だって?」
口をポカンと開けたまま、立ち尽くすスネ夫。
その存在は知っていたが、まさか使うトレーナーがいたとは……。
「まさか、あなた如きに切り札を出す事になるとはね」
驚くスネ夫を他所に、嫌らしい笑みを浮かべるリン。
「冷凍ビーム」
「させない、見切りだ!」
デオキシスから氷の光線が放たれるも、ジュカインはそれを避ける。
だがこの時、スネ夫は悟っていた。
『ジュカインじゃデオキシスには勝てない……』
例え一撃目を避けたとしても、次なる攻撃が待ち構えている。
「冷凍ビーム」
スネ夫は見切りを指示したが、やはり失敗。
ジュカインはまともに冷凍ビームを受け、倒れた。
「お疲れ、ジュカイン」
ジュカインをボールに戻すスネ夫。
『後は……残り体力僅かのテッカニンだけか』
だが、スネ夫は安堵した。
『テッカニンのスピードは、デオキシスよりも上!この勝負、勝った!』
デオキシスの耐久力ならば、先制の一撃で倒せるだろう。
スネ夫は余裕の表情で最後のボールを放った。



「いけ、テッカニン!」
ブンブンと羽を羽ばたかせ、テッカニンが姿を現す。
依然無表情のままのリンを見て、スネ夫が口を開いた。
「僕の……勝ちだよ」
だが、リンは全く動じていない。
どこかスネ夫を哀れむような、そんな雰囲気を醸し出していた。
「何言ってるの?あなた」
挑発気味に言い放つリン。
それを聞いたスネ夫は、余裕をかまして言った。
「デオキシスなら、テッカニンは確実に先手を取れる。そして、デオキシスの防御力は極端に低い。これがどういうことかわかる?」
リンは鬱陶しそうにスネ夫の方を見ている。
その態度が気に食わなかったのか、スネ夫はテッカニンに指示を出した。
「それは……お前が負けるってことなんだよ!テッカニン、シャドーボール!」
テッカニンが漆黒の玉を作り出す。
そして、それをデオキシス向かって放ち――

「どうしたんだ!テッカニン!」
テッカニンは黒い玉を作り出したまま、動かない。
先程ののび太と出木杉の試合を観戦していたスネ夫は、ようやくこの事態を悟った。
「テッカニンの方が遅いということは、まさか……先制技かっ!」
そう、スネ夫はデオキシスが覚える唯一の先制技の存在を失念していたのだ。

そして――
「残念だったわね。先に動くのはデオキシスよ」
首を振って目の前の光景を否定するスネ夫を嘲笑うかのように、リンが囁いた。



「しんそくっ!」
リンの命令と共に、デオキシスが姿を消す。
「あ、あ、あ……」
依然首を横に振ったまま、狼狽するスネ夫。
焦点の定まっていないその目で、必死にデオキシスの行く手を探る。
そして――
「デオキシス!」
リンの声が響き渡る。
その瞬間、デオキシスの姿で太陽が隠れた。
「テ、テッカニン!」
テッカニンの姿が、デオキシスの暗い影に覆われる。
だが、それと同時に闘技場全体――いや、観客席までもが暗くなっていた。

刹那、轟音を伴って雷鳴が轟く。
それは丁度デオキシスとテッカニンの居る位置を捕え、その周囲を照らす。
「決めなさい!」
眩い光を伴いながら、テッカニン向かってフルパワーで突進するデオキシス。
次の瞬間には衝撃音が聞こえ、テッカニンは鈍い音を立てて倒れた。
「勝者、リン選手!」
審判の声を聞くと、リンは満足げな表情で闘技場を出る。
「そ、そんな……」
テッカニンをボールに戻さず、天を仰ぐスネ夫。
その時、彼の顔に一滴の雫が落ちた。
「ああ……」
土砂降りの雨に打たれながら、ただただ立ち尽くすスネ夫だった。



「というワケで、決勝戦は明後日となります」
司会の声が会場に響く。
そして、それを神妙な顔で聞いていた少年が一人。
「明後日、か……」
その顔はいつものふぬけた顔ではなく、強い決意が表れている顔だった。
雨に打たれ、真剣な眼差しで司会を見つめている。
「そして、決勝戦に進めるのはこの二名です!」
観客席の上の方にあるボードに、決勝戦に出場する選手の名前が映される。

野比のび太 ― リン・サブラス

それを見ると、少年は少し安堵したような表情を見せる。
すると少年は闘技場に背を向け、観客席と下の階を繋ぐ廊下を進む。
聞こえるのは、切なく響くトン、トンという足音だけだ。
少年は廊下を渡り終え、階段を下りていく。
明かりが全くついていない、暗い階段。
そして最後の一段を踏みしめた時、一階の明かりによって少年の顔が照らし出される。
その少年――野比のび太は真っ直ぐ扉を見据え、会場を後にした。



トクサネシティの宿。
のび太がここに戻って数時間、まだ雨は降り続いていた。
何のためらいも無く寝転ぶのび太だったが、彼には一つ気がかりな事があった。
『ドラえもん……』
そう、リンに奪われたであろうドラえもんの事だ。
ダイゴの日記にそう記してあったから、おそらく間違いはないだろう。
『そうだ!』
拳で手のひらを叩くのび太。
どうやら何かを閃いたらしい。
のび太は急いでレインコートを羽織り、宿を出てペリッパーに乗る。
その行き先は――サイユウシティ。

「はぁ……はぁ……」
ペリッパーから降りるやいなや、ドームへ向かって走り出すのび太。
そのままドームの扉を開け、中に入った。
「よし、行こう」
ゼエゼエと荒い息をつきながらも、のび太は走る。
彼が足を止めたのは、闘技場だった。
「やっぱり……」
のび太は数日前の事を思い出していた。
ここ、闘技場でリンに会った日の事だ。
そして、今も数日前と同じ――闘技場にリンが立っていたのだ。
「あら、あなたなの」
リンは、以前と同じ冷たい表情でのび太を見つめた。



のび太はゆっくりと口を開いた。
「ドラえもんをどうした」
その声は小さいものだったが、妙な威圧感が混じっていた。
リンは依然表情を変えない。
「ああ、あのロボットのことね」
まるで「忘れていた」とでも言いたげな感じだ。
「あのロボットは、御曹司さんが見つけたものを私が貰ったのよ」
「それは知ってる。そこからを知りたいんだ」
今の事は、ダイゴの日記に記してあった事と同じ。
のび太はその先を知りたいのだ。
「大丈夫よ。壊しはしてないわ」
「じゃあ、どうしたんだ」
間髪入れず、鋭く問うのび太。
「ただ……ポケットの道具を取っただけよ。ついでにそのポケットもね」
その言葉を聞くと、のび太は安堵した。
ドラえもんはまだ生きている、ということがわかったからだ。
「わかった。だけど、これで終わりじゃない」
のび太が、今度はハッキリと聞こえる声で言った。
「何?まだ何か用なの?」
鬱陶しそうに聞くリン。
それをのび太は厳しい表情で見据え、口を開いた。
「ドラえもんを……返せ!」



のび太の声が響き、リンが静まる。
だが、それも束の間だった。
「……アハハ!そんなにあのロボットを返してほしいの……」
「ああ、そうだ」
のび太が言い終えると、リンは意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「ダメよ」
一瞬、その場が静まり返った。
そして、数秒が経つとのび太が沈黙を破った。
「何で!何でだ!」
「だって、面白くないもの。その代わり……私に勝ったら返してあげるわ」
のび太は悟った。
もう、バトルで勝つしかない。
それ以外にドラえもんを取り返す手段は皆無なのだ。
しかも、のび太が負けたらリンの望みが叶ってしまう。
世界が滅ぶなんて事になったら、最早ドラえもんどころの騒ぎじゃない。
「ああ、受けて立ってやる」
そう言うと、のび太はボールからペリッパーを出した。
「勝負は明後日……その時にケリをつけてやる!」
ペリッパーに乗り、雨に打たれながら飛び立つのび太。
彼は闘技場の方を振り向かずに、サイユウシティを後にした。



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