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~~ある日の夜――

鉄に響く靴音がだんだん近づいてくる。
気づいたジャイ子は格子の奥から覗いた。
「……誰?」
「しっ!静かに……へへ」
そいつは鍵を使い、錠を外す。
「あなた、もしかして」「いいから、早く出るんだ」
ジャイ子は牢を抜け出した。
スネツグに腕を引っ張られながら。

「ちょっと、スネツグ!あたしは逃げたくないのに」
「いいんだ。あいつが連れて来いって言ってるんだよ!」
スネツグのポケモンで眠っている守衛の間を駆け抜けて、外へ出た。
月明かりの下、路地裏へ入る。

「連れて来た」
壁に突き当たると、スネツグが声を出す。
すると、上からペリッパーが降りてきた。
静かに羽ばたきながら着地する。
「よくやってくれた。スネツグ君」
ペリッパーの背にいたのは、ドラえもんだ。



モテ夫は創られたこの世界を支配しようとした。
まず、のび太をある場所に監禁し、この世界の崩壊を防いだ。
そしてギンガ団首領、アカギを見つけて接触した。
現実世界でゲームをプレイしていたモテ夫。
当然神と呼ばれしポケモンのことも知っていた。
それを話にすると、アカギは好意的にモテ夫を迎え入れた。
モテ夫のお陰で、ギンガ団の研究は進んでいった。
当然モテ夫の地位も上がり、首領と肩を並べるほどになったのだ。
だけど、実際はうまくいかなかった。
ゲームとこの世界との差異。
モテ夫はそれに気づき、考えを巡らした。
このままでは好意的だった組織の連中から信用が消える。
だから秘密裏にロケット団と手を組んだ。
これによりアカギはそう簡単にモテ夫に手を出せなくなったわけだ~~

「君たちが話してくれたことは有難かった」
ギンガ団本部内。
ドラえもんは礼を伝えた。
「なぁに、お安いごようさ」
スネツグがどこか楽しげに言う。
「もうモテ夫は僕らの上にいない。
 あんな奴はとっととやられちまって正解さ!」
ドキッとしながら、ドラえもんはスネツグを振り向いた。

実はまだ、ドラえもんはモテ夫の死を誰にも話していないのだ。



研究室――そう扉には書かれている。
三人は足を止めた。
「……ジャイ子ちゃん。ここが本部なんだよね?」
ドラえもんが質問した。
「ええ。
 だから多分、モテ夫さんが話した神と呼ばれしポケモンに対することがあるんだと思う」
「なら、きっとこの中に何かあるはずだ。
 もしかしたらギンガ団の奴らがいるかもしれないから気をつけて」
もっとも、すぐそばのドームでポケモンリーグが開催されている。
ここがリーグ本部とされているのだから当然ギンガ団主催のはずだ。
きっと連中は今忙しい。
ドラえもんはそう踏んで、ここへ来ていたのだ。
扉にグッと手を押し付け、引いた。
研究室へ。

「ようこそ」
研究室内には、一人の少年が座っている。
三人は一瞬かたまった。
「出木杉……」
搾り出すようなドラえもんの声。
出木杉は微笑みながら、頬杖をつく。



「どうしてここにいる!?」
ドラえもんが手を突きつける。
「君らがここに来るのはわかっていたんだ。
 ジャイ子を仲間に入れていることを知っていたからね。
 けど、残念だったね。ここはギンガ団のアジトじゃないんだよ」
「そ、そんなはずはないわ!モテ夫さんはあたしに」
話し出すジャイ子をドラえもんが手で制す。
「モテ夫はロケット団と組んでから、ギンガ団のアジトを離れていた。
 その間にギンガ団はここを離れたんだ。
 周りの人間がギンガ団の存在を疎ましがったから。
 ちょうどテンセイやまの反対側だよ。現アジトはね」
「なるほど。状況はわかった」
ドラえもんは目を据える。
「君はわざと、スネツグを泳がせたんだ」
「ぼ、僕を!?」
スネツグが自分の名前に思わず反応する。
「ああ、僕が君を見つけなければ、僕はジャイ子を脱走させなかった。
 それに恐らく出木杉、お前は守衛にも仕込んだな」
すると、出木杉は静かに笑った。
「ああ、ロケット団をね。
 あいつらは使えるよ。その気になれば政府にだって干渉出来る。
 しかし何故わかったんだ?」
「理由はまだ聞いてないが、ジャイアンとスネ夫がある囚人を脱走させた。
 その時、僕はスネツグがやった方法を薦めたんだ。
 だけど翌日にはもう新聞に取り沙汰されていた。
 だから気づいたんだ。僕がジャイ子を助けたときは意図的な理由があるって」



パチパチと、出木杉は拍手した。
「素晴らしいよ。ドラえもん。
 やはり未来のロボットというだけのことはある」
「ふん、お世辞は終わりだよ」
ドラえもんは鋭く告げた。
「さあ教えるんだ。出木杉。
 君は何の目的でギンガ団と手を組んでいる?」
やがて、出木杉は頷く。
「もちろん。そのために君たちを集めたんだ。
 僕の目的はこの世界を支配することだよ。
 しかもモテ夫より確実な方法で、誰にも縋ることなくね」
「……いったいどうやって?」
ドラえもんが聞いた。
「簡単だよ。
 人々を支配する絶対の方法。
 力の行使だよ。それ以外に何がある?」
「みんなを支配するほどの力がお前のどこにあるんだ?出木杉」
「……来るんだよ」
呟く様に、出木杉は言った。
「いるんだ。今このリーグに来ている連中に。
 力を呼ぶものがね」
「いったいどういう――」「さて、そろそろ帰ってもらわなきゃ」
出木杉はポケモンを繰り出す。
「逃げよう!」
真っ先に言って駆け出したのはスネツグだ。
三人は出口目掛けて駆けて行く。



「くろいまなざし!」
出木杉の声が響く。
「うわ!」「きゃ!」
「スネツグ!ジャイ子!」
ドラえもんは振り返ろうとするが、
「いいんだ、ドラえもん!早く!」
「外へ出て、ドラえもん!」
逃げられない二人が必死で懇願する。
「で、でも」
「いいこと教えてあげるよ。ドラえもん」
躊躇っているドラえもんへ、出木杉が声を掛ける。
「ギンガ団はリーグ関係者としてテンセイやまにいる。
 山での予選が終わったら実験を始める気だよ。
 早々に止めに行けば、僕の計画を止められるかもね」
ドラえもんは悔しそうに駆けていった。

「わからないな」
スネツグが動かない足の上で話す。
「何がだい、スネツグ?」
「どうしてあんなことをわざわざばらすんだい?」
すると、出木杉はにやりと笑う。
「実験と僕の計画は関係無いからね。
 出来れば実験も成功してほしいけど、ちょっとぐらいスリリングでもいいと思ってね。
 さて、言いたいことが済んだなら眠ってもらうよ」

ドラえもんはギンガ団本部から出てきた。
リーグはまだ続いている。



「いた、トレーナーだ!!」
スネ夫はカラと並走して茂みを駆け抜け、飛び出した。
「……スネ夫さん?」
しずかは眉を顰めてスネ夫を見つめる。
「あ、やぁしずちゃん。来てたんだね、やっぱり」
スネ夫は呼吸を整えながら、三兄弟を見た。
「ぅわぉ、丁度三人いるじゃないか!
 しずちゃん、一人は僕が倒すよ!」

「くそぉ~、俺らを小物扱いしやがって」
三兄弟の次男、クガツが舌打ちする。
「兄貴、とっととやっちまおうぜ!」
と言いながら、逃げようとする三男のクガノの腕を掴んで引き戻した。
「えぇ~、逃げようよ~」
なんて長男のクガイは愚痴たれたが、クガツは聞く耳もたずに進み出た。
「やいやい、そっちも三人なら丁度いい。
 一対一で勝負しようぜ!
 そして一番強い奴は俺と戦え!」

(うへぇ~、あれは面倒そうだな)
スネ夫が細い目でクガツを見ている間に、しずかが歩み出る。
「いいわ、あたしがやる」
それは流石にスネ夫もスルー出来なかった。
「い、いいのしずちゃん?」
すると、しずかはコクンと頷いた。
「えぇ、問題ないわ。
 スネ夫さんたちは他のを頼むわ」



スネ夫の対戦相手は、三男のクガノとなった。
三組はばらばらに離れ、それぞれで戦闘を開始する。
(……ふう、とっとと終わらせなきゃな)
スネ夫は溜め息をつき、クガノを冷めた目で見つめた。
「君、勝負棄権しないかい?
 メダル置いておきゃ見逃してあげてもいいよ」
クガノは一瞬ビクッとしたが、すぐに胸を張る。
「ふ、ふん!僕だって戦えるよ。
 だって戦わなきゃクガツ兄さんに何言われるかわかったもんじゃないからね!」
(……だめか。仕方ない)「わかった。やろうか」
がっくりと肩を落としながら、スネ夫はボールを握る。

数分で勝負がついた。
クガノのヤミラミも、ミカルゲも倒された。
周りの茂みはすっかり凍り、冷気を発している。
まるでその場だけブリザードに襲われたかのように。
全て、スネ夫の繰り出したポケモンの技によるものだ。
「そ、そんな。こんな簡単に負けるなんて」
クガノががっくりと膝をつく。
「フフ、そりゃそうでしょ。
 だって動けなきゃ意味無いんだから。どんなポケモンでもね」
スネ夫は意地悪く笑いながら、手を突き出す。
「さあ、メダルを渡してもらおうか」
クガノが渋々スネ夫に、銅メダルを渡す。
その時だった。
「っな、何だあれ!!」
クガノが空を指して叫んだ。



(あれって何だ?)
スネ夫は首を傾げながら振り向いた。
「な、あれは――!!」
スネ夫の頭で、記憶が蘇ってくる。

洞窟――騒音と凄まじい野生の力――封印と、緑の海――

その雷鳴轟く姿に、スネ夫は驚愕した。
空中を舞う姿は猛々しく、鋭敏な羽が弾け続ける。
「サンダー!!?」
スネ夫は口をあんぐりと開ける。
「バカな! あいつは洞窟に戻らなかったのか……
 いったい誰がサンダーを」
目線を下げ、スネ夫はそのトレーナーを探す。
「えぇい、行ってみよう」
茂みの中へ、スネ夫は駆け出した。
しばらく進むと、弾ける電気の音が大きくなってくる。
次第に増す音量と、感じる静電気。
「ピギャ――――!!!!」
突如、誰かが絶叫した。
同時に、スネ夫は茂みを抜ける。
そこにいたのは、倒れているクガイとビーダル。
そしてボールを握るカラだけだった。



カラがサンダーをボールに戻す。
「お、おいお前!」
ハッとして、スネ夫が呼びかける。
「ん?なんだお前、何かあったのか?」
不思議そうな顔をするカラ。
「何かって、こっちが聞きたいんだ!
 どうしてお前がサンダーを持っているんだ?
 伝説のポケモンだろ?」
「別に、たまたま捕まえたんだ。
 その時にはとっくに弱っていて、可哀想だから捕まえたんだ。悪いか?」
(弱ってた……あぁ、そういやそうだった。
 じゃあこいつは本当にたまたま捕まえたのか……くそ、羨ましい)
スネ夫は力が抜けたように溜め息をつく。
そんなスネ夫の姿を見て、カラは一つ提案する。
「何なら交換してやろうか?」
ガバッと、スネ夫は起き上がる。
「い、いいのか!?」
「あぁ、伝説に拘る気は無いからな。
 何か珍しい電気タイプのポケモンでもくれれば交換してあげてもいい」

(電気ポケモン……いないな。くそ、どうしよう)
スネ夫は考え、結論を出す。
「わかった。すぐには出来ないけど、いつか絶対交換するからな!」



「あら、いいの。本当に」
しずかは質問する。
「……ケッ、とっとと持って行けばいい。
 手持ち全滅されてまで守るんもんじゃねえからな」
クガツはそう吐き捨て、瀕死のガーディを抱えた。
しずかは金メダルを握り、少しの間見つめていた。
「いらないわ」
すると、クガツは怪訝そうな顔つきになる。
「どういう意味だ?」
しずかはメダルをクガツに放り投げた。
クガツがそれを受け取ると、しずかは話す。
「こういう意味よ。
 そんなもの、もう十分足りているから」
しずかはそう言うと、踵を返した。
クガツは止めようとしたが、はたと止まる。
今しがた、しずかの実力を見たばかりだ。
圧倒的――まさにその言葉どおり。
しずかの力は理解できた。
クガツ自身では太刀打ちできないことも。
そう考えているうちに、クガツの手は自然と降ろされていく。
「ケッ、覚えてろよ」
クガツは言い残し、その場を去った。

しずかは既に持っている五枚のメダルを確認しながら、茂みに入った。
計画通り。
「……終わりましたか。しずかさん」
声を掛けたのはミカン、その場の四人の一人。



「お安い御用よ。
 四人多く潰すなんてわけないわ」
しずかはそう言うと、メダルを渡し始めた。
「すまぬ。
 俺らはフスリの件でギンガ団に顔が割れているかも知れんからな」
謝りながら金メダルを受け取ったのは、ハヤトだ。
「迷惑を掛けてしまった」
すると、しずかは首を横に振った。
「仕方ないもの。
 あたしに出来ることはこのくらいですから」
続いて、しずかはゲンに、銀メダルを二つ渡した。
「一つはトウガンさんに」
「あぁ、わかっているさ。
 あの人にはちゃんと渡しておくよ」
ゲンはしずかを見て頷く。
「負傷しているくせに作戦に加わるあの人が悪いんだ
 そっちは何も気にすることないぜ」
やがて、しずかはミカンに銅メダルを渡す。
「さて、これで全員メダルを得ました。
 山を降りますよ」
鋼同盟の面々は一様に頷き、立ち上がる。
まずはドーム傍で待っているトウガンに会うこと。
そうして全員リーグに参加することが、ボスの指令だった。  ――



「うぉおぉぉぉ!!」
ジャイアンは叫びながら、山道を駆け抜けていた。
狙っているのは、木の上を飛び移るエイパムが持つ銀メダル。
もともと持っていたのはジャイアンだ。
「っくそ!あの泥棒猿が!
 テッカニン、きりさくで追い詰めろ!!」
ジャイアンはボールからテッカニンを繰り出した。
その黄色い体が、次第に加速していく。
木の枝を切り進み、だんだんと窃盗犯との距離が縮まる。
「ぉおし、もう少しだ!
 捕まえたらただじゃおかね――」「なげつける!」
突然誰かが指示を出した。
エイパムは振り返り、高速で迫るテッカニンに銀メダルを投げつけた。
咄嗟の対応が間に合わず、テッカニンは激突する。
そのまま力無く落下していった。
「テッカニン!」(い、いったいだれが)
動揺するジャイアンだったが、とりあえずテッカニンを戻すと追跡を続けた。
(これで残るは負傷したコドラと、こいつだけ)
嫌な汗が、ジャイアンの頬を伝う。
それを紛らわすように、ジャイアンは声を荒げた。
「おい!いったい誰なんだ、こんなことする奴はぁ!!」
……返答は無い。
ジャイアンは舌打ちすると、手ごろな木の枝と石を拾った。
「へ、俺様をなめるなよ!」
そう吐き捨てると、ジャイアンは木の枝で石を打った。
石は空を翔け、放物線を描きながらエイパムにヒットする。
「!エイパム!」



誰かが茂みから出てくる。
小柄な痩せた少年は、落下するエイパムを拾うとジャイアンを睨んだ。
「おいお前!なんてことするんだぁ!!」
その言葉が、ジャイアンを逆撫でた。
「うるせえ、こっちの台詞だ!メダルを返せ!!」
「嫌だ!お前なんかに誰がやるもんか!」
相手も必死で反抗してきた。
「く、なら力ずくだ!
 この俺様に逆らったことを後悔させてやるぁ!!
 いけ、コドラ!」
ジャイアンはボールを振るう。
繰り出されたコドラは多少よろけながら、ジャイアンの意志を感じて闘志を出す。
一方相手もポケモンを繰り出した。
「ゴウカザル、エイパムの敵を討て!」
炎を纏った猿が、その場に繰り出され、攻撃を開始する。

‘い、いい加減タイプ相性を覚え……’
そんなことを訴えたそうに、コドラは力尽きた。
「……戻れコドラ」
蒼褪めた顔で、ジャイアンはボールにコドラを収める。
(これで、あいつを出さなければならない)
ジャイアンの体に緊張が走った。
その『問題児』は、未だにジャイアンの言うことをきかない。
ゲームでいうとレベルが高すぎるのだ。
「どうした?もう終わりか?」
相手は挑発してきた。



「チッ、冗談じゃねえ!
 これからが本番だぜ、覚悟しとけ!」
「それはよかった。
 こっちもまだまだ本気じゃ無いんでね!」
相手はあからさまに怒りを露にした。
(ケッ、そんなにポケモンが大事なのかよ。
 俺はとてもこいつのことを……いや、そんなこと言ってる場合じゃない)
「……仕方ない。
 行って来い!言うこと聞いてくれよ!」
ジャイアンは最後のポケモンを繰り出した。
力強く、地面で弾み、赤い光線が発射される。
そうして、一匹のポケモンがその場に繰り出された。

橙の体と、尖った耳。
その長い尻尾と、縞模様を見ると、ジャイアンは思い出す。
洞窟から、凄惨な光景そして――悪魔まで。
ゾッと身震いするジャイアンは、首を横に振る。
(あんなこと、思い出してんじゃねえ!
 今はこいつだ)
ジャイアンは落ち着いて、そのポケモンを見据えた。
――ライチュウだ。
「ライチュウ、頼むから俺の言うことを聞いてくれよ」
ジャイアンが耳打ちすると、ライチュウは振り返った。
微かに首を傾げて、ジャイアンを見つめる。

「ゴウカザル、さっさとやっちまえ!」
相手が指示を出すと、ゴウカザルは拳を握り締めて攻撃体勢に入る。
「インファイトだ!」
ライチュウの腹目掛け、ゴウカザルが飛び出した。



ジャイアンは見た。
ライチュウが頬に電気を弾けさせているのを――
「またか!」
急いで叫び、ジャイアンはその場を引いた。
丁度ゴウカザルが、ライチュウに殴りかかろうとした時。
電撃がライチュウの周りに発射された。
『ほうでん』だ。
雷鳴に似た音が近距離で発生し、ジャイアンは反射的に耳を閉じる。
漸くその場が確認できるようになった頃には、ゴウカザルは動けなくなっていた。
「も、戻れ、ゴウカザル!」
相手は慌ててボールを取り出すと、瀕死のゴウカザルを戻した。

ジャイアンはふと思いついた。
(今なら簡単に、メダルを取り戻せるんじゃないか?)
相手はライチュウの強さに驚いている。
今ならその威を借りて脅迫すればメダルは戻ってくるだろう。
だけど――何故かジャイアンはその気になれなかった。
「おい、まだポケモンはいるよな?」
ジャイアンは相手に確かめた。
「もちろん……いるさ!今度こそ敵討ちだ!」
相手は威勢良くそう答えてきた。
ジャイアンはライチュウを俯瞰する。
(俺はまだこいつを使いこなせてねえ。
 そんな奴を俺のポケモンの中に入れとくわけにはいかない)
ジャイアンは決意した。
ここで、ライチュウを使いこなせるようになろうと。 ―――



「いけ、オコリザル!」
相手が三体目のポケモンを繰り出した。
オコリザルは鼻息荒く、ライチュウを睨みつける。
「けたぐり!」
相手の指示のもと、オコリザルは駆け出した。
「でんこうせっかで逃げろ!」
ジャイアンの指示。
しかし、ライチュウは動かない。
そのままオコリザルは突撃して――すり抜けた。
(これはかげぶんしんじゃんか……まあ避けたから許容範囲だな)
ジャイアンが頷く最中、オコリザルは木を蹴り倒す。
軋みが大きくなり、幹割かれていく音が伝わってくる。
「ライチュウ、でんじはで動きを止めろ!」
ここぞとばかりにジャイアンが言う。
ライチュウは頬に電気を溜め、オコリザル目掛け放電する。
それは確かな攻撃技だった。
「お、おいライチュウ、俺はでんじはって……」
ジャイアンは言葉を切り、オコリザルの変化に息を呑む。
(あ、麻痺してる)
体から電気を弾けさせ、オコリザルは苦しそうに唸っていた。

こんな調子で、戦いは続いていった。
もとからライチュウのレベルが高すぎたせいもあるだろう。
オコリザルはどんどん体力を消耗していった。



オコリザルの拳を、ライチュウが『こうそくいどう』でかわす。
「おい、ライチュウ!俺はでんこうせっかと言ったんだぞ!」
そうジャイアンが叫んでも、ライチュウは空中を翔け回るだけ。
‘なんかわるい~?’とその目は問いかけてきた。
「チッ、あの野郎……しかしこのままなら」
「オコリザル、おしおきだ!」
相手は空中のライチュウを指差した。
オコリザルは顔を上に向け、足をかがめる。
そして一気に空中へと跳びあがった。
『おしおき』は相手の能力が上がっていれば上がっているほど威力が上がる技。
『こうそくいどう』などですばやさが上がっているライチュウにも適用される。
「!ライチュウ!!」
オコリザルの鉄拳が、目を見開くライチュウに振り下ろされる。
ライチュウの体は衝撃で急速に落下していった。
「ぅおお!」
ジャイアンはいても立ってもいられず、駆け出す。
落ちてくるライチュウの体をがっしりと掴み、その場に転げ回る。
生々しく皮膚が擦れる音。
僅かに土煙を上げて、ジャイアンの体は止まった。

少し経って、ライチュウは腕のあいだかひょっこりと這い出る。
倒れているジャイアンを不思議そうな目で見下ろした。
「よ~し、これで懲りたようだな」
対戦相手がそう言うと、オコリザルを呼ぶ。
「さて、俺は敵を討ったから帰ると――」
言葉が言い終わらないうちに、相手の体目掛け青白い電撃が迸る。
放電したポケモンはキッと相手を睨み付けていた。



「……うぅ、ここは?」
ジャイアンがハッと目を覚ます。
地面に体を横たえていた。
皮膚が痛む――そして自分の体が傷ついているのに気づいた。
「ん?」
更に、自分の体が誰かに引っ張られていることもわかった。
ゆっくりと顔を向けると、袖が咥えられているのが見える。
「ラ、ライチュウ、お前」
すると、当のライチュウはビクッとして口を開ける。
ジャイアンは痛みを堪え、呻きながら起き上がった。
「ぁ~あ~、ドロだらけじゃねえか。
 いったいどんだけの距離引きずってきたんだよ」
愚痴たれるジャイアンの顔を、ライチュウは細い目で見上げた。
「何だよ、不満でもあるのかよ!」
ジャイアンが手を伸ばし、ライチュウを掴もうとする。
だけど、ライチュウは身を避け、代わりにメダルをのせた。
相手が持っていた銀メダルだ。
「お前、これ取ってきてくれたのか?」
ライチュウは少し止まって、それから頷いた。
ジャイアンはにっと笑ってライチュウの頭を撫でた。
「ありがとうよ!ようやく俺の部下らしくなってきたな!ガッハッハ!」
次第にジャイアンの力が強くなってくる。
それがライチュウには気に食わなかったようだ。
再び細めでジャイアンを睨む。

山中で電撃が迸る頃。
丁度120名のメダル獲得者が決まったのだ。


ジャイアンはドームへ戻ってくる。
『まひ』はクラボの実で既に回復していた。
ライチュウもボールに戻してある。
「ふう、大分遅れた気がするぜ。
 もう他の奴らはみんな、メダル持ってここへ来たのかな」
少し考えたが、兎に角ドームの中へ入っていった。

入り口――
奥へ進むための道は三つ。
扉の上には金の垂れ幕、銀の垂れ幕、銅の垂れ幕がある。
「これは……」
ジャイアンはハッとして自分のメダルを取り出した。
銀のメダルが掌中で光る。
「つまり、このメダルの種類で道が選別されるってわけか」
そう気づくと、ジャイアンは銀の垂れ幕がある扉へ歩んでいった。
扉を開けると、ライトがある台を照らしている。

銀の扉――
ケーシィが一匹、台の上で眠っていた。
「何だ、どうしてケーシィが」
疑問を呟くジャイアンは、フッと台にのった紙に気づいた。
そこには、ルールが記載されている。



二次予選――ルール
  • 自分のメダルをケーシィに持たせると、ケーシィは目を覚ます。
  • そのケーシィが自分のパートナーとなる。
  • 参加者がメダルを持たせたケーシィに触れると、ケーシィは『テレポート』を発動する。
  • そこはメダルでわけた各グループごとに違う、巨大地下迷路の入り口である。
  • 参加者は常にパートナーのケーシィを肩に載せていなければならない。
  • そのケーシィが瀕死になったり、持っているメダルが外れれば『テレポート』が発動し、ここへ戻される。
  • ゲームのクリア条件は『迷路を抜けること』のみ。
  • 各グループ、ゴール先着10名ずつが本選へ出場できる。

「えぇ~と……じゃあこのメダルをケーシィに、ん、待てよ」
ジャイアンはふと気づいた。
「ここに残っているのはこいつだけ。
 ってことはなんだ。俺が一番最後ってこと……あぁ~!!」
ジャイアンは急いでケーシィに銀メダルを持たせる。
ケーシィはハッと目を覚ました。
すぐさま手を伸ばすジャイアンに、すかさず待ったを掛ける。
「な、なんだよ」
ケーシィが指した方向には、ポケモンセンターでよく見る回復機があった。
「そうか、俺今ライチュウしか残っていなかったんだ」
ジャイアンは急いで回復機を作動させる。

「さて、頼むぞケーシィ!」
回復を済ませ、ジャイアンはケーシィに触れる。
一瞬の閃き。
ケーシィの体が発光し、ジャイアンを包み込んだ。
『テレポート』だ。