ドラえもん・のび太のポケモンストーリー@wiki

ミュウ その12

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  • 『ミュウの決意』

ガラッ
「はぁ…はぁ…玉子、赤ちゃん、赤ちゃんはどこ?」
俺は病室に勢い良く入り、言った。
「の、のび助さん!仕事はどうしたのよ!」
「あ……まぁ許して貰えるよ。だって今日は…」
「あう!あうぅ」
二人の会話を遮る様に赤ちゃんが泣き出した。
そう、今日は俺の息子が産まれた日なのだ。
「おーよしよし。あの人があなたのパパでしゅよー」
玉子は泣いている赤ちゃんをなだめる様に言う。
パパ…?
あ、そうだ。俺はこの子のパパになったんだ。
「俺がパパかぁ」
俺は暖かい布団にくるまれている小さな息子を抱き上げた。
『小さい手だな……』
まだ小さいが、元気に動いている手。
これがいつか自分の様に大きくなるのだと考えると、
俺はとても不思議な気持ちになった。
「あなた……泣いてるの?」
「えっ?…」
玉子の言葉に驚き、自分の頬を触る。
不思議だ。自分でも気づかない内に涙が頬を伝っていた。
「何でもないよ」
俺は服で涙を拭き、玉子に笑顔を見せた。

この時俺は誓ったんだ。
絶対に……この息子を守ると。
この小さな手を……ずっと支えていこうと



「パパ!」
のび太の手が俺の手を掴む。
その手はあの時よりかなり大きくなり、
あの時とは逆で、俺の体がのび太の手に支えられていた。
「のび太…離してくれ。
 ママを救うには、俺に掛けてある保険金が必要なんだよ。
 お前だってママが居なくなるのは、嫌だろ?」
「僕はパパが死ぬのも嫌だ!」
のび太の悲痛の叫びがドームに響く。
ジャイアン達が二人を助けようと
ポケモンを出そうとするが、警備員がそれを許さない。
「うあぁぁぁ!」
のび太は、必死で腕の激痛に耐えていた。
80kgを超える大人の体は、のび太の細腕じゃ支えきれないのだ。
会場の観客は皆、手を合わせ二人の無事を祈っている。
そう、ただ一人を除いて……
「はっはっはっ!最高だ、最高だよ!あの二人!」
VIPルームの出木杉が大声で笑う。
家族を失う悲しみ。
それを一番理解しているはずの出木杉が、
人が家族を失う瞬間を見て、笑っている。
『何て奴だ!…』
ミュウは、そんな出木杉の姿をすぐ隣で見ていた。
怒りで血管が浮かびあがる。
だが、ミュウは必死でその怒りを抑えていた。
今、ミュウが裏切ってることがバレれば必ず……
「ミュウ」「…はい」
突然の出木杉の声。ミュウは慌てず、返事をした。

「新しい任務だ。
 あの二人を仲良く沈めてやれ」



「な!?…」
ミュウが驚きの声をあげる。
「どちらか一方が生き残るってのもかわいそうだろ?
 だったら二人共死ねば良い、違うか?ミュウ」
出木杉が正論の様にそう述べた。
《間違ってる!》
ミュウの思考回路がそう訴える。
だが、口には出ない。いや……出せない。
今のび太達を助けに行けば、絶対に殺されてしまうから。
「のび太、手を離せ!」
スクリーンのスピーカーから声が発せられる。
「嫌だ!パパが居なくなる何て僕は絶対嫌だ!」
『嫌だ!』
あの時、弟が連れて行かれる時……ミュウもそう叫んだ。
必死で声をあげる自分。
止まってくれない、大切な人。

込み上げる絶望と哀しみ。
『あの時……私は大切な人を助けられなかった。
 だけど今回は……今回は助けられるじゃないか!自分の力で!』
「ミュウ、どうした?早くやれ」
ミュウの肩に出木杉が手を置く。
だが、その手はミュウによって弾かれた。
「つっ!ミュウ……お前!」
初めての反抗に驚く出木杉。だが、ミュウは反抗を止めない。
ミュウの指が出木杉の頭を指さした。

「出木杉……私はもうお前の操り人形にはならない!」



「ミュウ、お前…死にたいのか?……」
出木杉が小さい声でそう言った。
血の気が引く。だが、もう後には引けない!
「波動砲!」
一撃で出木杉を吹き飛ばし、
ミュウは一瞬でフィールドに姿を現した。
「あ、あいつ…」
ジャイアンが驚いて、ミュウを指さす。
だが、スネ夫は安心し、言った。
「ジャイアン、大丈夫。あいつは味方だ」

「サイコキネシス!」
声と同時に、のび太とパパが光に包まれる。
「これは……」
二人の体が宙に浮く。
ミュウは、一瞬でフィールドの泥を乾かし、
固くなった地面の上へと、ゆっくり二人を移動させた。
「ミュウ、お前はいったい…」
「話は後だ。
 お前、のび助と言ったか。その玉子って女は私が助けてやる、行くぞ!」
話が飲み込めない二人。
だが、ママを助けると言うミュウの言葉を信じることにし、
ミュウの言う通りにすることを決めた。
「早く行くぞ!
 私は出木杉に追われてるんだ!」
鬼気迫るミュウの言葉。
その言葉に圧され、パパは一言だけ言った。
「玉子は家に居るはずだ」
その言葉を発した瞬間、二人はミュウと一緒に光に包まれる。
ミュウは初めて微笑み、二人を見た。
「安心しろ、私はお前らの味方だ」



のび太の家に着いた三人。
ママはミュウの姿に驚いたが、すぐに話を理解し、ミュウを信用した。
「ミュウ、ママ…治りそう?」
のび太が不安そうにミュウに尋ねる。
「安心しろ。
 出木杉が私に実行した実験は、
出木杉が自分の母親を蘇させる為のものだ。
 この程度の病気、私から見れば、ただの風邪と変わらないよ」
母親を蘇させる?
少し気になる言葉があったが、のび太は深くは聞かないことにした。
「少し外に行っててくれ。
 ……力を使っている姿は、あまり見られたくないんだ」
二人はミュウの言う通り、家の外で待つことにした。
バタン
「……………」
二人の間を沈黙の時間が流れる。
さっきまで戦っていた二人。
急に仲良く喋り合うのは、さすがに気恥ずかしいものがあった。
「のび太…」パパが沈黙を破る。
「強く……なったな。完敗だったよ」
「うん……ママが助かって良かったよね」
「ああ…俺も……ひと安心だよ」

そして二人は同時に言った。
「ごめん…」



「終わったぞ」
ミュウが家の中から出てきた。
するとのび太とパパは、
ミュウの横を一瞬で駆け抜け、家の中へ中に入っていった。
「まるで子供だな」
ミュウは一人でそう言った。
誰かがあちらの方から走ってこちらに向かって来る。
…ジャイアンとスネ夫だ。
おそらく、のび太を心配して様子を見に来たのだろう。
「…のび太のママは?」
二人はミュウの姿を見つけ、そう言った。
ミュウは無言でうなずく。
拳を上へ突き上げるジャイアン。軽く涙目になるスネ夫。
そんな二人を見て、ミュウは言った。
「顔……見せてきたらどうだ?きっと、みんな喜ぶと思うぞ」
二人はミュウの言葉を聞くと納得した様な顔をし、
二人仲良くのび太の家の中へ入っていった。

『羨ましいな……私にもあんな仲間が居たら……』
ミュウの黒い顔を涙が伝う。
『ダメだ!……私とあいつらじゃ……生きる世界が違う』
そして、ミュウはある決意を固めた。

出木杉の所へ行く決意を……



「どけぇ!」
ミュウは警備員を吹き飛ばしながらそう叫んだ。
VIPルームのある3階は、たくさんの警備員が配置されてるのだ。
だが、所詮は人間。
ミュウの敵どころか足止めにもならなかった。
「出木杉!絶対にお前は……お前は私が殺す!」
ついにVIPルームの扉が見えた。
あの扉の先に……出木杉が……
キーーン!
「な…う、うあぁぁぁぁぁ!」
突然の金属音。
その金属音はミュウの脳を刺激し、体中に激痛を与えた。
視界がぼやける。
だが、しっかりミュウは奴の姿を見た。
《で…き…す…ぎぃ!》
痛みで声が出ない。
出木杉は……笑っていた。
「無様だね、ミュウ」
出木杉が手に握られているスイッチを押す。
すると、また金属音が発せられ、体中の神経を刺激された。
「ぐ…ああああ…」
声が渇れる。意識が薄れる。力が……入らない。
「僕がペットに首輪も着けないと思ったのか?
 お前の頭には、特殊な機械が埋め込まれてるんだよ。
 このスイッチを押すと…」
「うあぁあああ!!!!」
「こんな風に体中に激痛が走るんだ。面白いだろ?」
ミュウは汗で濡れた顔を出木杉に向け、力無い目でその顔を見た。
「どうだ?僕に逆らう気は無くなったか?」



「………だ」
ミュウが聞こえない声でそう言う。
「何だ、聞こえないぞ」
「……ろうだ。お前はカス野郎だって言ってるんだよ!」
「くっ!デオキシス、出てこい!」
ボールの中から奇妙な生物が現れる。
「こいつの脳を支配してやれ!」
その言葉の瞬間、ミュウの体に赤と青の触手が突き刺さった。

『みんな……出木杉を倒してくれ……
 そして、もう一度…もう一度だけ……会いたかったよ……ジェフ』

ミュウは最後にそう願い、死んでいった……

「兄貴?」
しずか…いやジンは後ろを振り返った。
誰かに呼ばれた……そんな気がして……



「それじゃ、僕は戻るね。
 ママ、病み上がり何だからあんまり無茶しちゃダメだよ。
 それからパパ、ダイエットしてよ。あの時凄い重くて死ぬかと思ったんだから」
のび太、ジャイアン、スネ夫の三人はのび太の家をあとにし、ドームへ向かった。

「行っちゃったわね…」
「ああ…」
「大丈夫かしら、あの子達。まだ子供なのに……」
「大丈夫さ。……のび太達は、もう充分大人だよ」

もうのび太達の姿はずいぶん小さくなっている。
のび助にはその姿が、少し寂しくも思えた。
シュボッ 「ふぅ…」
タバコの煙が上に上がっていく。
「今夜は久しぶりに二人だけで食事に行こうな、玉子」
この日、野比家に久々の平穏が戻ったのだった……
『VIPルーム』
「出木杉様、お呼びでしょうか」
「来たか…流水」
出木杉の後ろに形が無い、水飴のようなものが現れる。
「計画は順調です。
 あと……約1日で準備が終わると思われます」
「そうか……ハハッ」
出木杉の口から笑い声が漏れる。

「この町の奴らに味あわせてやるんだ……
 終わらない悪夢がどれほど苦しいものかを!……」



  • ゴク

『つまらない…』

「先生!これ小学生の問題じゃないです!」
「ああ?野比、それはお前の才能が無いだけだ。
 あいつを見習え!出木杉、お前この問題を解いてみろ!」
「はい、それは8です」
「そうだ!正解!
 円周率の小数点第三十位の数字は何か……答えは8!
 みんな、出木杉君に拍手をやろう!」

パチパチパチパチ

鳴り響く拍手、みんなからの憧れの視線、一部からの嫉妬
『どうでもいい…』
出木杉はこの世界に絶望していた。
出木杉は少し努力すれば、すぐに何でも出来る天才。
だが、その才能は出木杉の思想をねじ曲げ、
この世界で生きる意味の分からない、孤独な少年へと出木杉を変えてしまった。

天才であるが故の悩み

それは……誰にも相談出来ないが、日に日に大きくなっていく。
『僕は……いったい何の為に生きているんだ?
 どうして神さまは僕にこんな才能を与えたんだ?』気づけば出木杉は感情を心に隠す少年になっていた。
楽しくないのに笑い、怒っているのに笑い、悲しいのにまた笑う。
貼りついた笑顔。
その笑顔の裏の絶望の顔を皆は知らない。
『みんな……消えちまえば良い』
黒い感情が……隠されたその笑顔の裏を……



「遊戯王カードしよ!」
突然の言葉。
ゴクがジャイアンの控え室に入り、そう言った。
「は?」
当然のジャイアンの返事。
だが、ゴクはその言葉が気に入らなかった。
「はっ?……って何だよ!
 せっかくこんな小汚ない部屋にわざわざ来てやったのにさぁ!」
『何だこいつ……DQNか?』
「ゴク、帰れ!
 俺は敵とほんわかするほどお人好しじゃない!」
ジャイアンの怒りの叫び。
しかしゴクはそんな言葉を無視し、
部屋の奥のイスに座り、机に置いてあったせんべえを食べ始めた。
「ふぁふぉんなにおふぉらないおふぉらない。
 ひあいがふぁじまるふぁでひかふぁかほくふぇきないんふぁから」
「……殺すぞ?」
「ゲホッ!」
ジャイアンの一言に驚いたゴクは、側にあった烏龍茶を飲みほした。
「この会話の少し上の会話は、
『まぁそんなに怒らない怒らない。
 試合が始まるまでしか仲良く出来ないんだから』でした。
 パソコンの前の読者は分かったかな?また次回会いましょう!」
呆然とするジャイアン。
そんなジャイアンを置いて、ゴクは帰っていった。

「読者って……誰だ?」
ジャイアンは自分以外誰も居ない部屋の真ん中でそう言った。



《ガガッ…ゴクさん、どうでした?》
「うん、予想通り。
 イアンが試合で使わないのはブーバーンだよ。
 次の試合で使うフィールドは、あの例の奴にしといてね」
《ガガッ…了解しました》
ゴクは通信機の電源を切り、笑う。
「ひひっ、バカだねぇ。
 使わないボールを机の上に置いておく何て…」
ゴクはあの時見ていたのだ。
机の上に置かれたネストボールを……
本当は使わないポケモンを、自然と口に出させるつもりだった。
だが、良い意味での予定外。
ジャイアンは使わないポケモンを、すでに腰から外していたのだ。
「どんなに弱い相手でも徹底的に倒す。
 そうすれば……相手は絶対に僕にひれ伏すんだ。
 どんな奴でも……ね」



…ジャイアン選手の入場です!」
凄まじい程の歓声。
入場は3回目のジャイアンだが、今でもあまりの声の大きさに圧倒される。
「あっ、のび太達だ。あれ?母ちゃんも居るじゃん」
膨大な数の観客だが、
意外にもフィールドからはキチンと顔を判別出来る。
ジャイアンはしばらくの間、この最高の眺めを堪能していた。
「あの…ジャイアン選手?」
「あっ、わりぃわりぃ」
我に還るジャイアン。そう、今は試合。
相手は…
「イアン、早くしてよぉ!退屈しちゃうじゃんかぁ」
清姫極。
圧倒的な強さを持つ幹部のリーダー。
そして、対戦相手を傷つける残虐な性格の持ち主。

『俺は勝つ!』
ジャイアンは、決意を胸に自分の立ち位置へと向かった。
「今回も特殊なフィールドで戦って貰います。……スイッチオン!」
ボゥ!
爆発音と共に周りに、激しい炎に包まれる。
さらに、ドームの上部に現れた巨大なライトから、暑い紫外線が発せられた。
その様子を笑って見ていたゴクは、ジャイアンの方を見て言った。

「教えてやるよ……地獄の炎と呼ばれる僕の実力を……」



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