ドラえもん・のび太のポケモンストーリー@wiki

ルビー その9

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まさに絶体絶命のピンチ。
だが、貫く光線と共に救世主は現れた。
「久しぶりだね、デキスギ」
ご苦労さま、とメタグロスをボールに戻すダイゴ。
対して、出木杉はニヤニヤと笑っている。
「お久しぶりですね。ダイゴさん。ハハハ……」
「何がおかしい……」
拳を握り締めながら、威厳のある声で問うダイゴ。
すると、出木杉はまた笑い出した。
「ハハ……。いやあ、自分の選んだチャンピオンがこうなるとどういう心情なのかな?ってね……ハハ」
その言葉を聞くと、ダイゴはすぐさま懐のボールを取り出した。
「お前はボクが倒す。いけ、エアームド!」
「おっと……もうバトルですか。リザードン、行け!」
ダイゴはエアームド、出木杉はリザードン。
勝負は見えていた。
「一撃で仕留めてやるよ。リザードン、大文字!」
エアームドは避けようとするが、避けきれない。
ダイゴはエアームドをボールに戻し、次のボールを放った。



「いけ、アーマルド!」
出てきたのは、以前にも見た化石ポケモン・アーマルド。
タイプ相性は有利だが、ダイゴは焦っていた。
『さっきの戦いでユレイドルとボスゴドラ、そして薬の大半を失ってしまった……。ボクは勝てるのか?』
そう、前の部屋でダイゴが戦ったのはデボン屈指の戦闘員。
いくらリーグチャンピオンといえど、苦戦は必至なのだ。

「リザードン、大文字!」
先に動いたのはスピードに勝るリザードン。
その攻撃を食らったアーマルドはかなりのダメージを受けた。
しかし、ダイゴは余裕の表情を見せている。
「アーマルド、原始の力!」
原始の力は岩タイプの攻撃。
つまり、リザードンの最も苦手とするタイプの攻撃なのだ。
それを食らい、当然の如くリザードンは沈む。
「戻れリザードン……。次はお前だ、サクラビス!」



サクラビスのハイドロポンプを受け、倒れるアーマルド。
ダイゴは苦しげな表情をしていた。
『残るはネンドールとさっき回復させたメタグロス。サクラビスを倒すのは難しい』
しかし、倒せないというわけではない。

「いけ、ネンドール!」
ダイゴの選択はネンドール。
そして、ボールから出るやいなやネンドールは光を溜め始めた。
「これはソーラービームか……!一撃で仕留めろ、サクラビス!ハイドロポンプ!」
出木杉の指示を聞き入れ、凄まじい勢いの水を打ち出すサクラビス。
だが、ネンドールはその耐久力で何とか持ちこたえた。
「よし!発射だ、ネンドール!」
ネンドールから青白い光が放射される。
だが、こちらの攻撃も相手の体力を奪いきることは出来なかった。

ネンドールの攻撃が終わり、次はサクラビスの攻撃が迫ってくる。
これを受けきることは不可能だ。
ダイゴは一縷の望みを託し、ネンドールに指示を与えた――
「ネンドール、大爆発!」



見事に指示を聞き入れ、爆発するネンドール。
煙が晴れ、瀕死になっている双方のポケモンがあらわになった。
「何故?何故、ネンドールが動いたんだ?」
両手を広げ、怒鳴る出木杉。
ダイゴはネンドールをボールに戻し、言った。
「せんせいのツメの効力さ。ボクの運が良かったみたいだ」

出木杉はチッと舌打ちをすると、サクラビスを戻して次のボールを放った。
「出ろ、コータス!」
「メタグロス!」
ダイゴのポケモンは、さっきエアームドを出したときに回復させたメタグロス。
対して、出木杉のポケモンは鋼タイプに有利なコータス。
「やはり、最後の一体はメタグロスでしたか」
最初からわかっていた、といわんばかりに言い放つ出木杉。
このシチュエーションは彼の想像通りのものだったのだ。

「メタグロス、地震!」
「コータス、火炎放射!」
同時に指示が出され、効果抜群の攻撃は双方の体力を奪う。
『おそらくデキスギにはもう一体、ポケモンがいる。となると、傷を負ったメタグロスじゃ不利だ……』
ダイゴは不安を感じながら、メタグロスに地震の指示を降した。



「ふう……これで最後のポケモンか」
コータスをボールに戻し、最後のボールを放つ出木杉。
出てきたのはボーマンダだった。
「この勝負、僕がもらいましたよ」
余裕の笑みを浮かべる出木杉。

出木杉の残りポケモンは、体力全快のボーマンダのみ。
ダイゴの残りポケモンは、コータス戦で体力を半分ほど奪われたメタグロスのみ。
どう見ても有利なのは出木杉だ。

「ボーマンダ、火炎放射!」
「メタグロス、コメットパンチ!」
繰り出される両者の攻撃。
ボーマンダは特性『威嚇』のおかげで半分ほどのダメージに押さえることができた。
しかし、メタグロスはコータス戦の蓄積ダメージもあって今にも倒れそうだ。
「次の攻撃で僕の勝ちだ……」
もう勝利の快感に浸っている出木杉。
確かに、もうほとんどダイゴの負けは決まったようなもの。
――だが、ダイゴはまだ諦めてはいなかった。
その目は追い詰められた獲物の目ではなく、獲物を見つけた狩人の目だった――



ダイゴの目に、少し不安を感じる出木杉。
「何故……何故、もう負けるのにそんな風にしていられるんだ?」
それに対し、ダイゴはゆっくり話した。
「デキスギ……。君もポケモントレーナーだ。元リーグチャンピオンから一つ教えてやるよ」
出木杉の足は次第に震え出していた。
『なんなんだ、この男は……。こんな状況、どうやって打破するというんだ?』
「ポケモンバトルは最後まで何が起こるかわからない。それ故に、あらゆる可能性を考えてプレイングしなければならないんだ」
ダイゴが言い終えると、突如メタグロスが輝き出した。
「これはスターの実の効力さ。どれかの能力が二段階あがる効果がある木の実だ」
そう、ダイゴはメタグロスにスターの実を持たせていたのだ。
「本来なら先に攻撃するのはボーマンダ。だが、ここで素早さが二段階あがればメタグロスが先に動き、僕の勝ちだ」
どの能力があがるかは完全にランダム。
だが、ダイゴは信じていた。
今までつちかってきた経験とポケモンとの信頼関係を――
「メタグロス!」
「ボーマンダ!」
うなるような両者の声と共に、二体のポケモンが動き出す。
スターの実でメタグロスの素早さがあがっていたら、ダイゴの勝ち。
他の能力があがっていたら、出木杉の勝ち。
次の瞬間、長いバトルは終焉を迎えた――



その瞬間、全ての光景がスローで映った。
火炎放射を放とうとするボーマンダ――
だが、その前にメタグロスの拳がボーマンダをとらえた。
ダイゴの思惑通り、スターの実でメタグロスの素早さがあがったのだ。
「やったか!」
ダイゴの歓喜の叫びと共に、脆く崩れ去るボーマンダ。
出木杉はあっけにとられた表情をしていた。
「負けた……この僕が……」
見開いていた目をゆっくり閉じ、出木杉はその場に倒れ込んだ。
「はぁ……はぁ……。楽しかったよ、デキスギ」
ダイゴも倒れそうになり、今まで傍観していたのび太が手を貸す。
すると、ダイゴは言った。
「次の部屋にいるのが僕の父でありデボンの総帥……。だけど、僕の予想が的中しているのならば……彼はもう死んでいる」
「え?どういうことですか?」
のび太は驚いたような素振りを見せる。
「行けばわかるさ……。さぁ、行こう。そうすればこの戦いは終わりだ」
重い足を動かし、ゆっくりと歩む二人。
その扉の先には一体何があるのだろうか――



扉を開けた先にあったのは、ダイゴの言った通りの光景。
そう、デボンの総帥・ツワブキは死んでいたのだ。
「やはり……そうだったか」
頭から血を流し、無残な形で人生を終えたツワブキ。
自らの父の最後を、ダイゴは悲しい目で見ていた。
「どういうことなんですか?教えてくださいよ、ダイゴさん!」
のび太が聞くも、ダイゴは答えない。
「どうやら僕はもう限界のようだ……。真実は帰ってから話そう」
そう言うと、ダイゴはその場に倒れ込んだ。

トクサネシティポケモンセンター。
重い体を動かし、ここまで帰ってきたのび太達。
彼等の疲労は限界に達していた。
「出木杉とダイゴさんは……まだ寝てるか。」
のび太は誰ともなしに呟いた。
しずかとスネ夫とジャイアンは、宿に帰って休んでいる。

夕日は既に沈みかけていて、辺りの民家に明かりが灯っていく。
どこから見ても平和な光景――もう、戦いは終わったのだ。全て終わったのだ。
だが、その真実はまだ明らかになっていない。
ツワブキの謎に包まれた死……ダイゴの言っていた一人の少女……。
見事に敵を撃破したのび太達だったが、その後味は決して良いと言えるものではなかった。

町中の民家に灯る明かり。そして、暗くなった空に浮かぶ月。
何の変哲も無いその光景が、戦いの終結を祝福しているかのようだった。



翌朝。
のび太達はポケモンセンターにいた。
「おそらく、この子は暗示か何かをかけられていたのでしょうね」
ジョーイが告げる。
この子とは……つまり出木杉のことだ。
診察した結果、出木杉は暗示をかけられていたという事が判明したのだ。

「暗示か……。出木杉は本意でやったわけじゃなかったんだね!」
嬉しそうにいうのび太。
のび太達はまだ眠っている出木杉を残し、宿へ向かっていた。
「でも、誰が何のために暗示をかけたんだろう?ダイゴさんが言ってた一人の少女と関係があるのかな」
口元を押さえ、わからないという表情をするスネ夫。
そうこうしている内に、4人は宿についた。

トクサネシティの宿。
そこには昨日とは打って変わって元気なダイゴがいた。
そして、のび太達を確認するとダイゴは語り始めた。
この事件の真相、その全てを…・・・。



「まず、何から話せばいいのかな……」
戸惑うダイゴ。
すると、間髪入れずにスネ夫が言った。
「前に言っていた一人の少女というのが知りたいです」
「ああ、あの事か……」
ダイゴは窓の外に目を移し、話し始めた。

「僕が初めてその子を見た時は、何とも言えない恐怖に襲われた。
見ただけでわかった。この子の心の中には悪魔が巣食っている、ってね。
その子と父さんが組んでいるのを知ったのも、丁度その時だったんだ。
その子は僕に言った。『私の望みをかなえる為に協力して下さい』と。
だが、その子と父の望みは僕の意思に反するものだった。
その時からだった。僕が父に反感を抱き始めたのは……」

「その少女の望み……それは、この世界を破壊することですか?」
のび太が聞くと、ダイゴはコクリと頷く。
そして、話を続けた。

「父に反感を抱いた僕は、君達と組んで父とその子の野望を阻止した。
いや、正確には一時的な阻止でしかなかったんだけど……。」



「一時的な阻止?」
今まで黙っていたジャイアンが聞く。
ダイゴは更に続けた。
「その子の目的は、この世界を破壊すること。その1回目は僕達が止めた。
だが、その目的を達成するチャンスがもう一度訪れているんだよ……」
ダイゴは一呼吸おいて言った。
「チャンピオン・リーグ。ポケモンリーグのチャンピオンを決める大会さ。
僕とデキスギが辞退したから、近々開かれることになっている……」
「それの何が問題なんですか?」
スネ夫の質問を聞くと、ダイゴは懐から一枚の紙を取り出した。
そこには『チャンピオン・リーグ』と書かれていた。
「これを見ればわかるが、今回のチャンピオン・リーグには不自然な特典がある。
それは優勝者をチャンピオンにするだけでなく、その優勝者の願いをかなえる、
というものなんだ。どうやって願いをかなえるのかはわからないが……」
そこまで聞いた時、一同はハッとした。
「ここまで言えばわかるだろう。その子……リン・サブラスはこの大会に優勝し、
その邪悪な望みを実現させようとしているんだ!」



「リン・サブラス?リン?」
のび太は思い出した。
ミュウツー襲撃事件のあの日に出会った一人の少女。
その名は……リン。
「心当たりがあるのかい?ノビタ」
「リン……。あのミュウツーがたくさん襲撃してきたときに出会った子なんだ」
のび太はダイゴに詳細を話した。
「なるほどね。なんで君達に近づいたのかはわからないな」

たった数秒、その場に沈黙が訪れた。
すると、一呼吸おいてからスネ夫が言った。
「話が切れたとこで悪いんですが、何故デボンの社長が死んでいたのか……教えてくれませんか?」
それを聞くと、ダイゴは悲しげな表情をして言った。
「殺されたんだ。その子……リン・サブラスに!
元々、リンと父とは今回の計画だけの繋がりだった。
ということは、今回の計画が終われば無関係になる。
つまり……計画さえ終われば、僕の父はただの邪魔者なんだ。
父は唯一、彼女の事をよく知っていたからね……」
ダイゴの表情がだんだん怒りに変わっていく。
その拳は強く握られ、震えていた。



全てを話し終え、宿から出て行くダイゴ。
のび太達はそれを見送った。
「ありがとう、ノビタ達。協力してもらった上に嬉しい報告が聞けたよ」
嬉しい報告……出木杉の暗示のことだ。
のび太達は出木杉が本意でやったわけじゃない、という事を告げたのだ。
「次に会う時はチャンピオン・リーグの時か。それじゃあ……さらばだ」
ヒュンとエアームドに乗り、空に舞い上がるダイゴ。
その姿は次第に小さくなり、沈む夕焼けと共に消えていった。

トクサネシティの宿。
のび太は一人、考えていた。
『ダイゴさんの話によると、リンがドラえもんを誘拐している可能性が高い。
それが何のためかはわからないけど……。
とにかく、チャンピオン・リーグまで後一週間だ。
優勝してドラえもんを取り戻して、リンの野望を止めてやる!』
一週間後に開催されるチャンピオン・リーグ。
のび太は強い決意を胸にして、ゆっくりと目を閉じた。



一週間後に開催されるチャンピオン・リーグ。
その情報はすぐに全世界へと広がり、トレーナー達の熱を呼び起こしていた。
そして、それはのび太達も例外ではない。

「よし、ようやく育て終わった」
とある道路でポケモンを育成しているのは……スネ夫だ。
チャンピオン・リーグに向けてポケモンの育成に励んでいる。
「後はアイツとアイツと……あ、アイツも育てなきゃ」
スネ夫が既に育て終えたポケモンは6体。
だが、スネ夫はそれだけでは満足していなかった。
『チャンピオン・リーグはトーナメント戦。
当然、色んなトレーナーと当たることになる。
だから、たくさんのポケモンを育てないとね』
そう、スネ夫はどんなトレーナーにも対応できるように、たくさんのポケモンを育てているのだ。
『優勝してチャンピオンになるはこのボクだ!のび太達にだって、ダイゴさんにだってボクは負けない!』



トクサネシティ。
ジャイアンは特訓を続けていた。
「バシャーモ、スカイアッパー!」
釣り上げたサメハダーにアッパーを食らわすバシャーモ。
当然、サメハダーは一撃で倒れる。
しかし、ジャイアンは満足した様子を見せなかった。
「……まだまだ足りねえ!」
ジャイアンはそう言うと、バシャーモをボールに戻した。
そして、ボーマンダを出す。
「チャンピオンロードにいってくれ、ボーマンダ!」

チャンピオンロード。
そこには強力な野生ポケモン達がひしめいていた。
「出ろ、俺のポケモン!」
ジャイアンはボールから全てのポケモンを繰り出した。
「いけ、みんな!片っ端からぶったおしていけ!」
数多くの野生ポケモン相手に戦うジャイアンのポケモン達。
ジャイアンはこの厳しいバトルによってレベルをあげるつもりなのだ。
『チャンピオンになるのは俺だ!俺は誰にも負けねえ!』
日が沈むまでジャイアンの特訓は続いた。



ポケモン育て屋。
「はい、料金は600円ね」
しずかはそこにポケモンを預けていた。
『これで効率良くレベルを上げれるわ……』
しずかは育て屋を利用することによって、自らの労力を削減していたのである。
『さて……もうすぐクマちゃん達が帰ってくる頃ね』

しずかはポケモンを引き取ると、一旦外に出た。
すると、5匹のマッスグマがしずかの所へ走ってくる。
「ありがとう、クマちゃん」
そう言うと、しずかはマッスグマの持っている道具を預かった。
『ふしぎなアメが1個と技マシンが1個……。まぁまぁね』
マッスグマの特性を利用し、技マシンやふしぎなアメといった優良な道具を手に入れたしずか。
チャンピオン・リーグ出場に向けて、ぬかりはなかった。
『優勝するのは私。ドラちゃんを助けて、あのリンとかいう女の野望を阻止して見せるわ』
しずかは一息つくと、再びマッスグマをボールから出した。



トクサネシティの海辺。
この日、ポケモンセンターから一人の少年が出てきた。
「チャンピオン・リーグ。そこで僕に暗示をかけた奴と戦えるのか……」
呟いたのは少年……出木杉英才。

それは昨日の夜のことだった。
「……はっ!」
突如として目を覚ます出木杉。
それにのび太達が気付いた。
「僕は……どうして……」
戸惑う出木杉に、みんなが優しく説明する。
暗示をかけられていたこと、チャンピオン・リーグ開催のこと。
それを聞いた出木杉はある決意を固めた。
『僕を利用した奴を倒して、絶対に優勝してやる』と。

場面はトクサネシティに戻る。
『レックウザ、ボーマンダ、リザードン、サーナイト、サクラビス、コータス……。
ダメだ。まだ足りない。もっと強くて、どんな相手にも勝てるメンバーで臨まないと』
出木杉は知らず知らずの内に焦りを感じていた。
『相手の運が良かったとはいえ、僕はダイゴさんに負けた。このままじゃ優勝なんて無理だ』
「いくぞ、リザードン」
出木杉はリザードンを出し、新しい戦力を求めて飛び立った。



チャンピオン・リーグ開催前夜。
出場トレーナー達はポケモン一匹一匹を確かめ、最終調整に臨んでいた。

のび太。
 『ついに明日か……。頼んだよ、僕のポケモン達』
しずか。
 『案外早かったわね……。でも、やるべき事は全てやった。万全の状態だわ』
スネ夫。
 『僕が育てたポケモンは9匹。これだけしたんだ。絶対に僕が優勝するさ』
ジャイアン。
 『俺は負けねえ!絶対に!誰にも負けねえ!』
出木杉。
 『この一週間で僕は最高の精鋭達を揃えた。僕が負ける要素なんてない!』

トレーナー達の様々な思いが交錯する決戦前夜。
月明かりが町を照らし、静かな夜を彩った――

サイユウシティ。
チャンピオン・リーグが開催されるここは、改装工事が施されていた。
堂々とそびえたつポケモンリーグはなくなり、代わりに巨大なドームが一つ。
それこそが、トレーナー達がポケモンを戦わせる闘技場なるものだ。
そして、次第にトレーナー達が集結していく――

パン!パン!パン!
花火に似たようなものが打ち上がり、チャンピオン・リーグの開催を告げる。
その場には100人を超えるトレーナーが集まっていた。
「ついに始まりました!トレーナーの頂点、リーグチャンピオンを決める戦い、チャンピオン・リーグ!」
会場に響き渡る大きな声と共に、ルール説明や進行上の決まりが告げられる。
そして、遂に100人以上ものトレーナーが参加するチャンピオン・リーグが始まった。
「それでは、第1回戦はじめ!」

チャンピオン・リーグは一度負けたら終わりのトーナメント戦。
総勢128人のトレーナーが参加していて、初日に1回戦と2回戦をやり終えるという。



「いけ、ドードリオ!」
「負けるな、パッチール!」
会場の所々から聞こえてくるトレーナーの声。
既に1回戦の半分が終了していた。

「次はいよいよのび太だな。頑張れよ!」
既に1回戦を突破したスネ夫が、余裕の表情でのび太に言う。
「のび太さんなら大丈夫よ!」
これまた1回戦を突破したしずかがのび太を励ました。
そう、のび太以外の4人は全員1回戦を突破しているのである。
「次は、野比のび太選手……」
トレーナーを呼び出すアナウンスが聞こえ、のび太はゆっくりとバトルステージへと足を踏み入れる。

「それでは野比のび太選手対ゴロウ選手、はじめ!」
審判によって吹かれる試合開始のホイッスル。
ちなみに、1回戦と2回戦は3VS3のバトルで行われるのだ。
「いけ、ダーテング!」



多大な緊張感とは裏腹に、のび太の試合は終始のび太有利に進んだ。
「トドメだメタグロス!コメットパンチ!」
のび太のメタグロスが相手の最後のポケモンをなぎ倒す。
「勝者、野比のび太!」
審判は高らかにのび太の勝利を告げた。

ドーム控え室。
「やったな、のび太!」
のび太の肩をポンポンと叩き、嬉しそうにいうジャイアン。
こうして全員が1回戦突破を喫したのである。
活気に満ち溢れるのび太達。
だが、次のアナウンスによって、その場には一時の沈黙が訪れることになる。
「次は、リン・サブラス選手……」
一瞬で凍りつく皆の表情。
皆は顔を合わせて頷き、観客席へと向かった。

「はぁ……はぁ……」
息を切らしながら観客席に座るのび太。
それに続いて、他の4人も座っていく。
そこで5人が見たのは、想像を絶する光景だった。



「ファイヤー、火炎放射」
リンのファイヤーが火炎放射を放つ。
そして、相手のポケモンは一撃で沈む。
「火炎放射」
「火炎放射」
試合開始からわずか数秒。
リンはあっという間に相手のポケモンを全て倒した。

ドーム控え室。
「あんなのって……強すぎるよ!」
うつむけた顔をあげ、狼狽するのび太。
彼の頭には、得体の知れない不安が絶え間無くよぎっていた。
「確かに彼女は強いね……。でも、勝てないワケじゃない」
腕を組みながら出木杉が言う。
その表情からは、ちょっとした安心感さえ感じられた。
「今から暗い気持ちになってどうするんだい?その気持ちは負けた時にでもとっておくといいさ」
そう言うと、出木杉は控え室を去っていった。



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