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[――『気ままに夢見る機X』 取扱説明書―ー]

[入り込みたい世界の夢を体験することが出来る道具『気ままに夢見る機』の進化型です。
以前までのこの道具はカセットがあり、その物語をなぞるものでした。
でも、この世界ではなぞる必要は無く、
道具を起動した人物が十分にいい思いをしたと感じれば夢は覚めます。
それ故に物語そのものが存在しないこともあります。
ただ世界の設定を入力するだけでも、登場人物の設定を入力するだけでもいいのです。
それだけで夢が構築されます。
その夢の世界はあらかじめ歴史がつくられています。
また、事前に『ホクロ型受信機』をつけている人は起動した人物で無くとも夢の中へ入り込めます。

この世界をご堪能いただくために、新しい仕組みが設けられました。
現実世界と夢の世界の時間の関係を捻じ曲げてあります。
現実世界での時間の流れは夢の世界において一切気にする必要はありません。
また、夢の世界をより楽しんでいただくために現実世界へ戻る方法を一つだけにしました。
そのため、夢の世界で眠っても現実世界にもどることはありません。
そして、秘密道具は持ち込めなくなりました。

では、この取扱説明書をよく読んで道具を楽しんでください。
あなたの見る夢がきっといいものでありますように……]



~~~
燃え盛る研究所――
彼女はその時、叫んでいた。
博士の名前、友の名前、そしてポケモンの名前。
紅蓮の渦が全てを飲み込む。

目に映るポニータたち。
技を暴れまわり、放火し、駆け回り――

焼き尽くす。何もかも。
博士は死んで、友は出て行き―― 
~~~

彼女は震えながら目を覚ました。
その優美な金の長髪は汗で乱れている。
月光が窓から差し込んでいる。

個室を、彼女以外誰もいない個室を照らす。
彼女の荒い吐息のほかに、聞こえる音は無い。

静かな空間が、彼女を孤独へ苛む。
再び彼女は目を瞑った。
二度と『あの日』の悪夢を見ないよう祈りながら……



「……ミヤよ。聞こえるか?」
袴姿の男は草原で天を仰いでいた。
不気味なほどはっきりと見える青白い月。
その月を刺すように、男は刀を突き上げる。
「聞こえるわけない……貴様の穢れた耳では。
 だが、なぜこんなことを……」

男の気合一声。
刀が男の周りを振るわれる。
一瞬にして、刈り取られる草むら。
男を中心に円形の模様が出来上がる。

刀を鞘に収めると、男は新聞を置く。
「……いつかここに戻ってくる。
 お前の墓を作るために……」

去っていく男が置いた新聞にはこう書かれていた。

[ミヤ容疑者、脱獄
 先日『カデンの洞窟』内から出てきた所を警官隊に取り押さえられたミヤ容疑者だったが
 昨晩脱走したことが警察関係者の報告で明らかとなった。
 ミヤ容疑者といえば、十数軒以上の欠陥住宅を建てた件で全国に指名手配されていた人物。
 逮捕の際には被害者たちの歓喜の声があらゆる町で響き渡ったものだが
 今回、その思いを打ち砕く結果となってしまった。
 警察側はこの件に対して――]



「……見てごらん。ピィ」
少年は目を輝かせて、天体望遠鏡から顔を離す。
肩に乗るピィは興味津々でレンズを覗く。
「見えるだろう?色んな星たちが」
ピィは嬉しそうに頷く〔首がないので体ごと動かして〕。
少年はその様子を優しそうに見つめていた。

少年にとって、このピィは特別な存在だった。
一人の友達から受け取ったポケモン。
ずっと、もう戻ってこないと思っていた友達から。

「ふふ、僕はね。少し前まで思ってたんだ。
 君のパートナーは星になったって」
ピィがレンズから顔を離し、不思議そうな仕草をする。

ピィの見た少年の顔は泣いていた。
でも顔は笑っている。
「ずっと……ずっともう戻ってこないものだと思っていた。
 でも君はまだいるんだね。レイ……」

少年にその情報が伝えられたのは一昨日だった。
近所のおばさんが教えてくれたのだ。
レイが生きている、テンセイシティで見かけた―ーと。



彼はまだ眠っていなかった。
どうしてもリーグのことを考えると眠れないのだ。
それも彼の野性的な性格のせいなのだろうか……。

「……兄貴」
彼は横で大の字に寝転んでいる青年を見て呟く。
兄貴と呼ばれた青年からは大きなあくびが発せられていた。
部屋中を満たす大きな音。
そしてそれと見事に不協和音を織り成す音。
「クガノ……」
彼が呼んだ少年は歯軋りをしながら眠っていた。
いつものことながら悔しそうに歯を食いしばっている。
弱気なその少年はよほどストレスがたまっているのだろう。

彼と二人の少年は兄弟だった。
もっとも、表向きは――

ここは養育所。
親のいなくなった子供たちが集まる場所。

「お前ら……」
彼は少しずつ顔を俯かせる。
あくびも歯軋りもだんだん大きくなっていく。
彼は大きく息を吸い、そして――

「ぅうるせぇんだよおぉぉ!!!」
彼の怒声が養育所に響く。



テンセイシティ――

「……で、ドラえもんは行っちゃったってわけか」
と、確かめたのは自称将来の大物歌手であり天下のガキ大将、ジャイアンだ。
「うん。『あとは君たちに任せる』って残して行っちゃった。
 結局しずちゃんも来ないみたいだしどうする?
 僕としてはもう会場へ入ったほうが――うわぁ!!」
軽妙な早口を遮られた尖がり頭の狐顔、スネ夫はしりもちをつく。
その上にはピッピが飛び乗っていた。
「ああ、ゴメン。また飛びついた!」
そう言いながら、赤い紐でポニーテールを結わえる通称ものまね娘、ユリはピッピを抱える。
「まったく、どうして僕に飛びつくんだ!?」
スネ夫は愚痴を垂れながら立ち上がる。
「うん。ツンツンしてるものを見ると触りたくなるみたいなの」
「僕のどこがツンツンそてるっていうのさ!?」
「だはは、全体的にツンツンしてるっつーの!」
ジャイアンがスネ夫の頭をぽんぽんと叩く。

あの日、リンキタウンで別れてから様々な事が起こっていた。
50日間の時は流れ……
今日は、ポケモンリーグが開催される日――



リーグ参加者はドームの入り口に集められた。

「「リーグ参加者集合の時刻となりました」」
放送がかかる。
「「今回のリーグは参加者の人数が多いため一回戦の前にちょっとした予選があります。
  これから配布される紙にルールが書いてありますのでご覧ください」」

ルールはこうだ。
  • リーグ参加者はこれからテンセイやまに登ってもらう。
  • テンセイやまにいるリーグ関係者を一人倒し、メダルを獲得する。
  • そのメダルを持ってドームの中に入ることがクリア条件。
  • リーグ関係者の人数は120人。
  • メダルを獲得した参加者からメダルを奪ってもいい。
  • 制限時間は日が沈むまで。

「「いつ、どの場所からテンセイやまに登っても構いません。
  それでは予選を開始して下さい!」」
と、放送が終わる。
リーグ参加者たちはチラホラと動き出した。



「どうやら俺たちも山登りしなきゃならないみたいだな」
ジャイアンが山を見据えて言った。
「うん。僕たちも別れようよ。
 一緒に行動しても利点は無さそうだからね。
 人目につきやすいし、もしかしたらリーグ関係者も避けて行っちゃうかも知れない」

結局スネ夫の提案通り、三人は別方向から山へ向かっていった。
……と見えたが
(ふふふ、あいつらちゃんと行ったな……)
スネ夫は一人舌なめずりする。
(わざわざ山へ行くなんてバカらしいや。
 ここで待ち伏せしてメダルを奪っちゃえばいいんだよ。
 くぅ~、僕ってやっぱり冴えてるうぅぅ!!)
心の中で高笑いしながら、スネ夫はドーム前で物陰に隠れた。
入り口の様子がよ~く分かる場所。
スネ夫はそこで獲物を待つことにした。



テンセイやま、西の登山口――
ジャイアンはテンセイやまを見上げた。
「うひゃぁ、でっけーの」
不思議と笑顔になりながら、一歩踏み出す。

ガサッ
突然そばの茂みが揺れ、ジャイアンは身構える。
「な、何だ!?一体――!!」
ジャイアンが見ている最中、茂みから人が現れる。
「あ、あんたは!」
「やあ、ジャイアン君じゃないか!」
茂みから出てきた30代ほどの男は驚いた様子だ。

ジャイアンはその人物を知っていた。
「確か洞窟で会った……ミヤさん?」
すると男は頷く。
「よく覚えておいてくれたね!」
ミヤが言葉を言い終わる瞬間。
ジャイアンはミヤに飛び掛った。
「おっと」
身を翻して避け、ミヤは服を払う。
「危ないなあ。またそんな暴力ばっかり」
「うるせえ!お前のせいで大変な目にあったんだぞ!!
 それに結局、俺とスネ夫を利用しただえろうが!
 いっぺん殴らねえと気がすまね――」
「落ち着け。ジャイアン君」
ジャイアンを制し、ミヤは咳払いする。



「今は争ってる場合じゃないぞ」
ミヤはもっともらしそうに話し出す。
「どんな関係だろうとしても君と私は知り合いだ。
 こういうサバイバルのような状況の場合、仲間を作るほうが得策。
 そうは思わんかね?」
「得策……例えばどんなことだ?」
ジャイアンは警戒を解かずに問う。
「……そうだな。例えば私たちにかかってくる敵がいたとしよう。
 相手と戦うときはサシよりも大勢で倒したほうがいいだろ?
 他にも作戦を立ててメダルを効率よく奪うこともできる」
「み、見つかったら?メダル持ってる奴に逃げられたらどうするんだよ?」
「見つからなければいいのだろう?
 ちゃっちゃと倒してしまえばいい」
ミヤはジャイアンに手を伸ばした。
「さあ、手を組もうじゃないか。
 あの時のことは反省しているよ。騙していたことも謝る。
 だから今ここで君とともに行動してあげたいんだ」

ジャイアンは思考を巡らしていた。
(ミヤには一度騙されたことがある。
 いや、それ以前にこいつには前科があるんだ。
 ……でも、今謝るって言ったよな……)
「本当に、反省しているんだな?」
慎重にジャイアンは確かめた。
ミヤは大きく頷く。
「もちろんだ」



(確かに仲間を増やしたほうがあらゆる面で効率が……上がりそうな)
ジャイアンはだんだんと、誘惑に負けていく。
(こいつの強さは確かだ。
 あの時思ったんだ。
 あんな場所に何日もいて無事でいられる人間なんてそうはいない。
 きっとこいつ……本当はすげえ強いんじゃ)

ジャイアンはゆっくりと手を伸ばす。
ミヤの差し出す手へ。
ミヤの顔は微笑んでいる。

ジャイアンの手が、届く――その時

「ミヤアァぁあぁぁあああ!!!!」
雄叫びがどこからとも無く響いた。
ミヤも、ジャイアンも辺りを見回す。
「!!木が倒れてきた!」
ジャイアンは自分たちに向かってくる木に気づく。
その場の二人は急いで山中へ駆け出した。

木は次々と倒れてくる。
「くそ、どうなってんだ!?」
動揺するジャイアンをよそに、ミヤが呟く。
「これは……まさかササが……何でここに」
「お、おいどうしたんだよミヤさん!?ミヤ――うわあぁああ!!」
ジャイアンの絶叫が響く。
一際大きな大木が倒れてきたのだ。



「ジャイアン君!」
ミヤは急に振り向き、伝える。
「後は任せたよ!」
呆然とするジャイアンを尻目に、ミヤは駆けて行く。
こんな山道でよくもと言うほど速く駆けて行く。

大木が横たわり、ミヤの姿が見えなくなった。
それをボーッと見ながら、ジャイアンは考え付く。
(もしかしたら、あの時、危険な状況下で何日も生きられたのは
 強いとか、そういうんじゃなくて……
 ただ足が速かったから……なのかなあ)

「――ふん。逃げたか」
茂みから着物姿の男が現れる。
その手には真剣が握られていた。

ジャイアンはハッとして声を出す。
「あ、あんた誰だよ!?」
すると、男はジャイアンに顔を向ける。
「なあに。さっきの男を追ってる者だ。
 俺を見捨てた奴を倒すためにな……
 さて、ここにはもう用は――」
「待てよ」
ジャイアンが立ち上がり、制止する。
男は首を傾げながら鼻で笑った。



「おいおい。お主とは戦う意味は無いんだ。
 無駄な殺生はせぬ。私はあの男が倒せれば」
「よくねえんだよ」
ジャイアンが静かに言う。
その顔には徐々に、薄笑いが浮かんでいく。
「……俺は元来ガキ大将として君臨してきたんだ。
 それなのに、あんな野郎にま~た騙された」
ジャイアンは歯を剥き出しにした。
「へへ、ちょっと憂さ晴らしさせろよ!!
 このままじゃ気がすまねえからな!!」

「な、何を言うんだ。
 同じミヤを追う者同士なんだ。争う意味などどこに」
「争うんじゃねえ。俺様が勝つんだ!
 俺様の怒りの捌け口があればそれでいいのさ。
 お前を殺してあいつも殺してやる!!」
すると、着物姿の男は一瞬目を見開く。
だが、その顔も徐々に歪んでいった。
「ふん。お主がその気なら、私も同意見だ」
男は鞘に真剣を収める。
「お主を倒してミヤを倒してやる!
 私の名はササだ。覚えておけ!」
「おう、俺の名はジャイアンだ!!」

二人はボールを握り、ポケモンを繰り出す。
「行け、ココドラ!」「カブトプス、行くんだ!」
こうして戦いは始まった。



テンセイやま、東の山道――
バクーダの火の粉がヒットする。
螺旋状に下降していくドクケイル。
それが地に付く前に、相手はボールに収めた。
相手はリーグ関係者。
「ドクケイル、瀕死確認。
 ……よし、合格だ。はいメダル」
差し出された金メダルを受け取ったのは、ユリ。

関係者がその場を去ると、ユリは一息つく。
「意外と早くメダルが取れてよかった……
 あとはドームに戻ればいいのね」
ユリは金メダルをリュックにしまい、来た道を戻ろうとする。
と、その時
「あ、ちょっと……ピッピ!」
常時抱えているピッピが、ユリの腕をすり抜けた。
そのままとことこと走っていく。
その先の茂みには、茶色と桃色の尖ったものが見える。
(?……あれは)
ユリが首を傾げている間に、ピッピはそれを掴み、引き抜いた。
転がるように出てきたのはピィだ。
「ピィ……誰かのポケモンかなぁ?」
そう呟きながら、ユリはピィに手を伸ばす。



突然茂みから手が伸びてピィを抱えた。
「う、うわぁ!」
「え?」
尻餅をつくユリの前で、茂みから少年が現れる。
年はユリとあまり違わない。
「あ、おどかしてごめんよ」
少年はユリに頭を下げる。
「このピィ、僕がつれてきたんだ」

泥を払いながら、ユリは質問する。
「へぇ、ボクピッピが大好きなんだ!
 そのピィ、あなたのポケモンなの?」
「いや」
少年は少し翳りながら否定した。
「これは僕の友達から預かっているんだ。
 多分このリーグに参加している、友達のね」
その答えは意味深だった。
それにより、ユリの詮索本能に火がつく。
「どんな人なの?」
少年は嫌そうな素振りは見せず、ただ微笑んだ。
「随分前に離れ離れになったから、結構変わっちゃってるかも知れない。
 ……でも、僕と同じで星が大好きだったんだ。
 君、知らないかな?名前はレイって言うんだけど――」
いきなり質問され、ユリはたじろいた。



(なんだろう、こいつ、変な感じ。
 何か隠しているような……)
いろいろと考えていたため、ユリは咄嗟の反応が出来なかった。
「え、あぁ、知らないわね」
(兎に角、とっとと離れたほうがよさそう)
「じゃ、じゃあボクはこれで」
ユリはそう言って振り返り、その場を去ろうとする。

「待ってよ」
少年が呼び止めてきた。
ユリの全身を悪寒が駆け巡る。
「……君さぁ、さっきメダルもらってたよね」
少年はよく透る声で言う。
(……質問じゃないわね。こいつ、知ってる)
それでもユリは頷いて振り返る。
少年は既に、ボールに手を掛けていた。
「僕はまだなんだ。
 ねえ、勝負しようよ。メダルを掛けて」
ユリは暫く、少年を見ていた。
微笑んでいるその顔は、仮面のように実感がわかない。
危険な賭けだと、ユリは感じた。
(でも、ボクもこの50日間で強くなったはず。
 少しは手応えのあるバトルをしてみるのもありかな……)
ユリはボールを握った。



「あ、待って!」
少年がユリを制す。
「やるんだったら、ダブルバトルにしない?
 僕そっちの方が好きなんだ」
突然の提案に、ユリは眉を顰める。
(『好きなんだ』……か)
フッと、ユリは微笑む。
「いいわよ。ダブルバトルで」
(のってやる。鼻を明かしてやろ)
少年は再び頭を下げた。
「ありがとう!僕の名前はユウト」
「ボクの名前はユリ」
自己紹介が終わると、四つのボールが宙を舞う。

ユリのポケモンは、バクーダとピッピ。
ユウトのポケモンは、ソルロックとルナトーン。

(……多分ボクがずっとピッピを抱えていたせい。
 それでピィを放しておいたんだ。あたしがピッピ好きで、寄って来るだろうと踏んで。
 さっきの過去話がホントかどうかはわからないけど……兎に角バトルに持ち込んできた。
 それも好印象を消さずに恐らく得意なダブルバトルに――まあボクには無駄だけど)
そんなふうに相手の心理が読めたのも、ものまねのお陰だった。
ものまねをするときには対象物をよく観察しておかなければならない。
故に相手の心を読む能力がいつの間にか備わっていた。



テンセイやま、西中腹――
「ハァ、ハァ……くそ!
 あの野郎滅茶苦茶だぜ!」
ジャイアンは急いでいた。
一刻も速くササから逃げるために……

ササのカブトプスは相当強かった。
コドラもすでにきつい斬撃を喰らっていたのだ。
その上辺りの木を切り倒し、攻撃してきた。
始めは乗り気だったジャイアンも、木を頭に叩きつけられてハッとしたのだ。
今はこんなことしてる場合じゃなかった――と。
そう思うが速いか、ジャイアンはコドラをボールに収めて駆け出していた。
倒れてくる木に紛れて。

「そうだ。今戦わなくてもいい。
 メダルをリーグ関係者から取ればそれでいいんだった。
 何もあんな野郎と戦わなくても――」
「ふん。敵前逃亡か?」
ヒュッと、ジャイアンの頬に水が当たる。
振り向くと二本の大きな鎌。
(アクアジェットか!)
鎌が襲ってくる瞬間、ジャイアンは急停止して身をかがめる。
鎌は頭の上を掠めた。
「……よもや、このまま逃げるわけじゃああるまいな?」
歯噛みしながら振り向くジャイアンの目に先にササが現れる。



「ふん。敵に背中を向けて逃げられるほど甘くは無いぞ」
「う、うるせえ!さっきは無駄なことはしないって言ってたじゃねえか!」
ジャイアンはカブトプスから距離をとって叫ぶ。
「……これで十分だろう?」
ササが突き出す手の上には、煌く銀のメダル。
「お、お前いつそれを!?」
「ふん。あんまり逃げ回るものだからな。
 その辺にいたリーグ関係者を倒して手に入れた」
ササは平然と言ってのける。
「さあ、お前が戦う理由は出来ただろう?
 そして、私は今お前と戦いたいんだ。
 憂さ晴らしにな!」

いつものジャイアンなら直ぐに逆上して戦っていただろう。
だがジャイアンは感じていた。
野生の勘により――相手の強さを。
「……くそ!いつまでも逃げてるわけにはいかねえ!
 いけ、ルカリオ!」
「交代だ!行け、アブソル」
二体のポケモンが繰り出される。
「あくタイプなら効くはずだ!
 ルカリオ、はどうだん!」
光球がアブソルへ放たれる。
「サイコカッター!」
ササの指示の元、アブソルの一振りが衝撃波となる。
光球と衝撃波はぶつかり合い、そして――
「な!?」
唖然とするジャイアンの目の前で、光球が一刀両断された。



とりあえずはどうだんは効果もあり、アブソルに当たる。
だが同時に衝撃波がルカリオを直撃する。
「ルカリオ!」
駆け寄るジャイアンの前で、ルカリオは倒れた。
(……ルカリオが相当くらってやがる。
 あんな技しらねえけど、アブソルは攻撃が強かったはず。
 つまりこれはぶつり。もしかしてエスパーのか?やっかいだな)
嫌な汗を掻きながら、ジャイアンはルカリオにいいきずぐすりを吹きかける。
ルカリオも少しは回復した様子だ。
「悪い、ルカリオ。回復はあまりないんだ」
「おいおい、まだ終わってはいないだろうな?」
ササが急き立てて来た。
見るとアブソルも悠然と立ち尽くしている。
(く……半分だと威力も減ったか)
「ふん。やはりお前など相手にせず、ミヤを追うべきだったか」
溜め息をつくササ。
その姿を見て、ジャイアンにはふと疑問が浮かぶ。
「なあ、あんた。どうしてササに恨みを持ったんだ?
 家が欠陥住宅だったのか?」
とジャイアンが聞く。
出会った後で見た新聞によると、ミヤは悪徳建築士だったからだ。
「……半分は当たっているな。
 ミヤと私は、昔は友達だった。
 大人になってからも、あいつとは職業上よく会っていた。
 俺は大工だったからな」



「あいつは建築士で、私はその下で家を建てていた。
 あいつの言うとおり、私は精魂込めて建築していたんだ。
 私は楽しかった。
 そのころは何も知らず、ただただ仕事に生きがいを感じていたわけだ」
ササは遠い目になり、話していた。
だんだんと、その顔に血が上っていく。
「だが!ある日私はあいつが設計図を偽装していることに気づいた。
 明らかに家を支える柱数が足らなかったんだ。
 それで私はあいつに言ったんだ。『作り直した方がいい』って。
 ところが、あいつはどうしたと思う!?
 あいつの頭には建築にかかる金のことしかなかった!
 いくら言ってもあいつは考え直さねえ。
 私は怒りで、そこを辞めてやった。
 実家の剣道場であいつのニュースを聞いたさ。あいつが逃亡してるのを。
 そしてやっと捕まって、その次の日にはまた脱獄しやがった!
 ……私はその時誓ったんだ。警察じゃだめだ。あてにならん。
 私があいつに制裁を加えてやる、とな。
 さて、無駄話は終わりだな。俺はそろそろ」
「――待てよ!」
ジャイアンが呼び止める。
ササを見据えていたその目は、さっきまでと変わっていた。

ササはその変化に気づいた。
「どうした?何か私に言いたいことでも――」
「あるさ。
 どうしてお前、ミヤを止めなかったんだ?」



ササは眉を吊り上げる。
「何を言ってるんだ?
 私は止めたさ!何度もあいつを説得して」
「じゃあ何でミヤは欠陥住宅を建てたんだ?
 お前が本当に必死で止めていたらそうはならなかっただろ。
 お前がやったのは『辞めること』だった。
 結局は逃げたんじゃねえか!」
ジャイアンは力強い目でササを睨む。
「……それにお前はただ辞めたんだ。
 偽装のことも何にも、誰にも話さなかったんだろ?
 警察にも言わずに、ばれる時を待っていた」
「ああ、だが私と関係ないだろう?
 警察がちゃんと捜査すればすぐに捕まったはず――」
「そんなことはねえ!お前がもっと早く言っていればミヤはすぐ捕まっていた!
 何が『警察じゃだめだ』だ!ハナから警察を応援しようともしねえ!
 いや、……そうしなかったんだろうな」
「……どういう意味だ?」
ササの疑問を持った声が、ジャイアンの怒りを促進する。
「ミヤと友達のお前なら、どうせ思ったんだろ!!
 『ミヤは友達だ。警察に渡すことはしねえ』ってな!!
 だけどな、そんなん友達って言わねえんだよ!
 相手が悪いことしてるのに、傷つけるのが嫌だからって注意しない奴は友達じゃねえ!
 絶対に、心の友ならしねえ行為なんだよ!!!」
歯をむき出しにして、ジャイアンが熱弁した。

思えばジャイアンが町の子供たちを圧政していた頃。
冴えないのび太が、突然未来の強力な道具により『ジャイアン王政』を崩した。
だが、それはジャイアンにとってもいいことだったのだ。
そのお陰でジャイアンは、『心の友』と呼べる者が得られたのだから――



「ルカリオ!はどうだん!!」
ササに有無を言わさず、光球がアブソルを襲う。
呆気に取られているササの脇で、アブソルが悶えた。
「……く、サイコカッター!」
声を取り戻したようにササは指示を出す。
「ルカリオ!かわしてメタルクロー!」
素早い足のステップで、ルカリオは身を翻す。
衝撃波が土煙を上げると共に、ルカリオはダッシュする。
まっすぐ、アブソルへ向かって――
「みきり!」
間一髪、アブソルは見切った。
メタルクローはアブソルの顔があった位置を貫く。
アブソルは空中へ跳んでいた。
「ルカリオ!跳んではどうだんを当ててやれ!」
後足が地面を強く蹴り、ルカリオは突撃する。
手に力を込めて、上にいるアブソルへ。
「アブソル!かみつく!」
ササの指示。
アブソルの歯が、ルカリオの右肩を噛んだ。
「そのままサイコカッターごと叩きつけろ!」
「ルカリオ!特大のはどうだん当ててやれ!」
白と青の体がぶつかり合い、衝撃波と光球が弾き合い、そのまま落下して――

濛々と粉塵が爆発的に広がる。
轟音を伴い、二体が地面に叩きつけられたのだ。