ドラえもん・のび太のポケモンストーリー@wiki

挑戦者 その14

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「……ぉお!やっと着いた」
ジャイアンは小高い丘の上から町を眺める。
――落ち窪んだ土地に、民家が集まってできた町――
ジャイアンが満足そうに笑みを浮かべていると、後ろからリオルが飛びついてくる。
今日の『一緒に歩くポケモン』はリオルだった。
「ほら、リオル。見てみろよ!」
ジャイアンはリオルを肩に垂らす。
リオルは町並みをじっと見つめていた。
透くような目線は何を考えているのか……
息を荒げて、スズナがジャイアンに並ぶ。
「ねぇ、少し休け」「よし、降りるぞ」「ま、まだ行くのぉ~?」
ジャイアンはリオルと共に丘から飛び降りた。

まさかその下に誰かいるとは思わずに。
「ん!?」
その人物が顔を上げた時にはもう遅く。
「ぅ、うわあ!!」
ジャイアンは叫びながら、

ガツンッ

とその人物に激突する。
星が飛び回っている様子の二人。
ジャイアンの肩からリオルが転げ落ちる。



「いたた」
ジャイアンは呻きながら立ち上がる。
「こ……このガキ!なにしやがる」
今しがたジャイアンとぶつかった、青服の男がジャイアンに怒鳴る。
「いや、あのその……ご、ごめんなさい」
ジャイアンは慣れない風で謝罪するが、青服の男は無視してリオルに近づく。
少しイラッとしながら、ジャイアンは振り向いた。
「おい、あんた!せっかく俺が謝っているんだから何か」
「こ、このリオルは……」
青服の男はジャイアンを完璧に無視してリオルに手を伸ばす。
突然のことだったが、リオルはその男を見てハッとする。
‘あ、あんたは!’
リオルはそう言うような目をした。
「少年、このリオルを捕まえた町はどこだった?
 ……ひょっとしてスモモとかいうジムリーダーがいなかったか?」
いきなり質問され、ジャイアンは戸惑う。
「い、いたけど……それがいったい何なんだよ」
「いや、たいしたことじゃないけど」
その男はリオルを抱えてジャイアンを振り向いた。
「このリオルは元々俺のポケモンなんだ」



町のゲートに着いた。
「俺の名はゲン。
 昔はスモモと一緒にジムをやっていたんだ」
ゲンは少し遠くを見る目になってから話を続けた。
「俺に用事ができて旅に出たとき、リオルをジムに置いてきた。
 まあ元々問題児だったし、まだ修行させておこうとも思ったんだがな。
 ところで、こいつの癖は直ったのか?」
ゲンはいたずら気味にリオルを小突いた。
「う~ん、どうだろ」
ジャイアンが言葉を濁す。
「ちょっと、リオルふてくされているわよ」
スズナの言うとおり、リオルは頬を膨らませていた。

「じゃあ、俺はここで。ジム戦頑張れよ」
ポケモンセンターの前で、ゲンは手を振って二人と別れた。
「……さて、回復も済んだし、ジムへ行くか!」
「ちょっと待って!」
スズナはそう言うとジャイアンに袋を渡す。
きずぐすり、まひなおし、どくけし、こおりなおし、ねむけざまし……
「い、要らねぇよ!こんなもん」
「ダメ!」
ジャイアンの反対を押し切り、スズナは袋を押し付けた。
「いっつも危ない目にあってるんだもの」
仕方なくジャイアンは受け取ることにした。
(くそ、絶対使わないで勝ってやる)
ジャイアンはそう決心する。



ジャイアンとスズナはジムの扉を開ける。
ジョーイさんの話だと、ここのジムは鋼タイプ。
だから鋼を攻撃するときに有効なリオルを出しっぱなしにしておいた。
「よく来た!」
ジムリーダーは定位置で座っていた。
「わしはジムリーダーのトウガンだ」
「俺はジャイアンだ。よろしくな!」
ジャイアンが力強く答えると、トウガンは朗らかに笑った。
「ははは、元気のいい子だ。
 では、ジム戦を――!!」
トウガンは突如目つきを変え、ジャイアンを見つめる。
「?ど、どうしたんだ?おっさん」
心配するジャイアンをよそに、トウガンはハッとしてポケットからメールを出す。
「ひょっとして、ボウズ。これに見覚えがあるな?」
トウガンはそのメール示した。
メカニカルメール――「あ!」――鋼同盟のメールだ。
「やはり知っていたか。なら聞いておかなければならないことがある」
トウガンは咳払いして、鋭い目つきになる。
「わしらの同盟、そう鋼同盟に加盟してくれんか?」



(あ、あ~あ、言っちゃった)
ジャイアンはそ~っとスズナを見る。
実際もうばれてはいたのだが、はっきりとは話していなかったからだ。
スズナはベンチから、一瞬ジャイアンと目を合わせ、すぐに逸らした。
ジャイアンはホッとしたような、見捨てられたような微妙な気持ちになる。
「あ~無理だな。やっぱり。
 俺にもやらなきゃならないことがあるから」
「やはりそうか」
意外なことに、トウガンはすんなりジャイアンの否定を認めた。
「『鋭羽』の加盟を断った時点で、ボウズの気持ちは決まっていただろうとわかっていた。
 しかし、断るのならば同盟流の戦いをしなければならん」
トウガンは溜め息をついて、ジムの奥の台座からボールを取り出す。
「お、おいおっさん!別に同盟流でなくとも、普通にジム戦やればいいじゃ」
「いや、ダメだ。同盟の連中はどこで見ているかわからない。
 ……まぁ、こいつも久々に本気でやりたがっているだろうからな」
トウガンは台座からハイパーボールを取り出し、また定位置につく。
「わしの同盟での名前を教えてやろう」
トウガンはポケモンを繰り出した。
赤い光と共に、鉄の砦が姿を現す。
低く轟く鳴き声が響き渡る。
「『塞竜』……それがわしのもう一つの名前だ」



繰り出されたのは、どっしりと構えるトリデプス。
その咆哮が、ジャイアンの腹の底まで揺れ動かせた。
「わしの使用するポケモンはトリデプス一体。
 ボウズの方はいくらでも使っていい。ただし
 わしは本気でいくぞ」
トウガンは念を押した。
もっとも
「へ、面白そうじゃねえか!」
ジャイアンにはあまり意味のないように思えた。
「俺のポケモンはリオルだ。
 その要塞、こいつで打ち砕いてやるよ!」
リオルはフィールドに現れ、ジャイアンは定位置につく。
ほんの一瞬、トウガンとジャイアンは睨み合った。
――それが、
「リオル、はっけい!」
「トリデプス、てっぺき!」
――試合開始の合図だった。



リオルの俊敏な体が、トリデプスに突撃する。
手は瞬時に首元へ入るが
「!?」
ジャイアンは弾かれるリオルの手を見た。
「な、何だ?」
「はは、トリデプス、たいあたり!」
トリデプスは足をグッと屈め、そして
凄まじい威力の突撃がリオルを直撃する。
「リオル!」
地面を横ずりながら、リオルは何とか立ち上がった。
(ふう、あぶなかった。しかし何て攻撃力だ。ただのたいあたりであんなに。
 ……あれ、でも前にスネ夫に聞いた話だと、トリデプスは防御はいいが攻撃はダメだったような)
「リオル、とにかく隙を突いて、はっけいを繰り出すんだ!」
まださっきの攻撃ほどでは体力は減っていない。
格闘タイプの技で普通に繰り出せるのははっけいだけ。
リオルはトリデプスを視界に入れながら、一定の距離を取る。
リオルが飛び込めば、簡単に手の届く位置。
暫く経って――
ふと、トリデプスの体がぐらついた。
「!! リオル!」
言うが速いか、リオルはトリデプスの首元に飛び込む。
「てっぺき!」
トウガンの指示。
無情にも、リオルの腕は弾かれる。
(くそ、またか!)
「リオル、持ち直せ!くるぞ!」



「トリデプス、たいあたり!」
トリデプスの足が、再び屈められる。
だが、その時、ジャイアンは一つのことに気づく。
「飛び込め!リオル!」
リオルが突撃してくるトリデプスに向かって駆ける。
《トリデプスはとろいからね。使いどころが難しいのさ。ハハ》
ジャイアンの脳裏に、スネ夫の自慢話がよぎった。
(助かったぜ、スネ夫)「受け流してはっけい!」
俊足、リオルはトリデプスの攻撃を避け、そして振りかぶり
「!!てっぺき」
トウガンが必死に命令したが、技は発動しなかった。
『はっけい』がトリデプスにヒットする。
トリデプスの低い呻き。
「くぅ、トリデプス!たいあたり!」
トリデプスの目がキッとリオルを睨み、再び突撃する。
リオルは再び地面を擦って吹き飛ばされた。
だが、何故か同時にトリデプスも呻く。
「く、四倍はきついか」
トウガンが歯噛みして呟いた。
(四倍……格闘だからか。
 でも、そんなん何発も当ててる。当然といえば……!!)
ジャイアンの直感が、凄い勢いで結合されていく。



「リオル、走れ!トリデプスにもう一度!」
リオルは再び駆けだす。
素早い姿が、一気にトリデプスに近づく。
「トリデプス、てっぺき」
「フェイントだぁ!」
途端に、トウガンがハッとする。
「気づいたのか、ボウズ!」
身を固めるトリデプス。
だがそれは空振りに終わる。
リオルは急激な方向転換によって、トリデプスを翻弄。
そして防御を解いたところで
フェイントの一撃がトリデプスを弾き飛ばす。
トリデプスは陥落した。
「……おい、おっさん!思ったとおりだ!
 それ、『てっぺき』じゃなくて『まもる』だろ!」
「ははは、よくわかったな」
トウガンは笑いながら、トリデプスを確認する。
「それにそれだけじゃねえ。
 『たいあたり』も、反動がくる『とっしん』とかだろ!!
 だからトリデプスに予想以上にダメージがためられていたんだ」
トウガンは頷きながら、トリデプスを戻す。
ダメージの蓄積によりもはや立てないと判断したからだ。



「まったく、面倒なことするぜ。
 技の名前を変えたまま覚えさせるなんて」
「はは、そんなに楽なことじゃないぞ。
 まずその技を覚えさせて、次に別の名前で呼びながらその名前で技を発動できるようにしなきゃ……
いまのお前のようになる」
すっかり混乱したジャイアンに、トウガンはバッジを渡す。
「ほら、ボウズ、バッジだぞ」
「ほぇ、あ、ありがとな!おっさん」
ジャイアンはスズナと共に、ジムを後にする。

「さぁて、あと一つだ!」
ジャイアンはポケモンセンターで一人意気込んでいた。
「……ところで、武。
 どうしてジム戦をすることにしたの?」
突然の質問に、ジャイアンは言葉を詰まらせる。
「え、あ、いや」
「やっぱり、リーグ参加する気だから?」
(リ、リーグ?ゲームと同じようにあるのか)
「あ、ああ。そんなもんだ」
「ふぅん……」
スズナがあからさまに浮かない顔をする。
ジャイアンは言い繕いに精一杯であまり気にしていなかったが――



ポケモンセンター――
ジャイアンは一人、ポケモンの回復を待っていた。
スズナは眠いからと、先に宿舎へ行っていた。
センター内の人々もだいぶ疎らになってくる。
そろそろ夜の十時をまわる頃。
「やあ!」
ジャイアンは声を掛けられ、目を向ける。
「あ、あんたは……」
目線の先に、昼間会った青服の男。
「ゲンさん?」
ゲンは頷くと、あたりを見回してから話し掛ける。
「ジム戦はもう行ったのか?」
あまり予想していなかった質問だったが、ジャイアンは頷く。
「そうか」
短く呟くと、ゲンは懐から取り出す。
「あ!」
ジャイアンには既に見覚えがあるもの。
メカニカルメール――鋼同盟のメールだ。
「お、おいそれ、あの」
「静かに!」
ゲンはジャイアンの口を無理やり塞ぐ。
「お前とは戦う気は無いんだ」



そっと、ゲンは手をどけた。
途端に、ジャイアンが質問する。
「どういう意味だ?
 その……そいつらから言われているんじゃないのか。
 俺と戦わなきゃならないって」
すると、ゲンは首を横に振る。
「いや、問題ない。
 俺がそうしておいたからな。
 第一、俺の昔の仲間がいるんだ。戦う気なんて最初から無かった」
ゲンは一呼吸おいた。
その顔は決心したような、それでいてまだ不安を残しているような。
「お前ら、今すぐここを出るんだ」
「へ?」
ジャイアンは首を傾げる。
「同盟は燃えている鉄の如くしつこいから、また追っ手がくるかもしれない。
 そうなったら面倒なことになる。
 俺がお前らを助ける理由はさっき話しただろ。
 だから、速く」
「あ、あんたはいいのかよ?」
率直な問いに、ゲンは苦笑する。
「俺はいい。こんなことしょっちゅうだから」
ますますジャイアンの疑問は深くなったが、結局頷いた。
「わかった。急ぐよ」
ジャイアンは宿舎へ急ぐ。



ジャイアンは宿舎から大慌てでスズナを引っ張り出す。
「にゃ、にゃにが起こったわけぇ?」
「いいから急ぐぞ!」「か、髪はやめぇ、ひゃあぁぁ」

ポケモンの回復は終わっていた。
ジャイアンはボールをリュックにしまうと、一息つく。
「さて、終わったようだな」
ゲンが話し掛けてきた。
「じゃあ、早速行くぞ」
そうして三人は夜の町に赴いた。

だが――

「いたぞ!」「こっちだ!」「見つけたぞ!」
という具合で、あっという間に人々が三人を囲んだ。
「たー、手回しが速いねぇ」
ゲンは額をぺチンと叩く。
「おい、問題ないようにしておいたんじゃなかったのかよ!」
「なかったんだろうな。これじゃ」
そういうゲンの手には既にボールが持たれていた。
「出て来い、ルカリオ」
ポンと、軽く投げられたボールから光が放たれる。
青いしなやかな容姿で、ルカリオが立つ。
「来たぞ、ゲンさんの格闘タイプだ!」「いけ、ユンゲラ―!」「ネイティオ!」「サーナイト!」
「あくのはどう」
ルカリオの突き上げた腕から、禍々しい波導が放たれる。
ジャイアンとスズナはそのすきに駆け出していた。



「ねえ、さっきのは何なの!?」
すっかり慌てふためいているスズナ。
「ええ、まあ、お前も名前だけは知っている。
 ほら、フスリの時に見たって言ってただろ。あのメール」
「……鋼同盟?」「ああ」
「『ああ』じゃないわよ!
 何でこんな夜中にこんな大慌てで駆け回るはめになるの!?
 ああ、やっぱり無理やり聞き出しとくんだった」
「あのとき聞き出しててもどうにもならなかっただろ!?
 とにかくなっちまったもんはしかたねえ。
 ほら、言い合っているうちに出口だぞ」
ジャイアンの言うとおり、ゲートが目前に迫っていた。

「ゲ、ゲンさん。どうして邪魔するんです?」
「?いや、ただ何となく」
ゲンは同盟の下っ端に対して答える。
「俺があいつらに捕まってほしくなかった。それだけだよ」
下っ端は反論しようとしたが、力尽きたように項垂れる。
「ふう、下っ端の養成もちゃんとしておけっていつも言ってたのに」
ぶつくさと文句をあげるゲン。
その後ろでは、三十組ほどのトレーナーとポケモンが倒れていた。



「派手にやったなぁ」
突然声が聞こえて、ゲンは振り向く。
「あぁ、塞竜さん」
安堵するゲンの先で、トウガンが溜め息をつく。
「お前のことだ。どうせまた暇つぶしだろう」
「まあね」
あっさりと答えるゲンに、トウガンは面倒そうな目つきを向けた。
「よくもまあ、そんなに同盟に楯突く気になるものだ。
 お前の同盟での名前……『蒼拳』だったか?」
「よく覚えてたなぁ。すっかり忘れられたと思ってた」
「四幹部だから、一応名簿には残っている。
 だが、もう覚えているものも多くないだろう。
 遊び人め。いつまで放浪を続ける気だ?」
「呼び出しくらうまでですよ」
そう言い残すと、ゲンはその場を去っていく。
トウガンは独りその場に残された。

「なんか、あっさり抜けちゃったわね」
スズナがゲートを後方に見ながら言う。
「ああ。ま、次の町へ行くのがそれだけ早まったってことだな!」
「あ、ぁぁ、そう」
引きつりながらスズナは笑っていた。



ギンガ団アジト、司令室――
アカギはまた連絡を待っていた。
また――そう、もう何度も繰り返されてきたことだ。
結局上の人間が変わっても、そこは変わっていなかった。
アカギはいつものように指で台を叩いている。
と、その時だった。
「やあ、アカギ君」
モニターに映る少年は、仮面をつけていない。
出木杉だ。
その気取った雰囲気はモテ夫と似て非なるもの。
天才の風格が、その怖いくらいに澄んだ目から伝わってくる。

――様々な色を混ぜ合わせるとだんだん黒に近づく。
  だがその黒は拙く、汚いのだ。純粋な漆黒と比べると――

アカギは一礼する。
強請されたわけでもないのに、自分から。
「ちょっと相談することがあるんだ。
 リーグって知ってるよね?」
「はい」
すると、出木杉は満足げに口元をゆるめる。
そうして、ゲームは進行していくのだ。

――純粋な漆黒は、ただの黒をも濁す――



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