ドラえもん・のび太のポケモンストーリー@wiki

挑戦者 その11

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「い、今何か放送がありましたよ」
「みたいね」
町の入り口で、ミヤを追ってきたジュンサ―とジョーイは話し合っていた。
「それに『ロケット団』って言ってましたよ、サコさん」
「名前で呼ばないでちょうだい」
ジュンサーのサコはジョーイを一喝する。
「でも通報しておいたほうがいいわね」
ジュンサーはバイクを降りて無線を取り出す。
「ええと、ナイさん。ここはなんて言う町でしたっけ」
「フスリです」
ジョーイ、ナイが答えると、サコは頷いて無線を繋ぐ。



「っおわ!?」
スネ夫は駆けるジャイ子と衝突してよろける。
ジャイ子は振り向きもせずに扉へ向かった。
「おい待てよ!まだ牢屋の鍵」
スネ夫が言い終わる前に、ジャイ子は鍵を二つ投げつけてきた。
「あれ、何で二つ?」「おい、いいからとっとと開けろ!」
ジャイアンが急かすのでスネ夫は急いで牢屋に向かった。
 スネ夫が去ると、のび太はあることに気づいた。
先ほど、ハクリューが倒れた衝撃で壁の扉が開いていた。
「しずかちゃん!?」
のび太は扉の向こうにある格子の中のしずかに気づいた。
 スネ夫はジャイアンの牢をあけると、のび太を向く。
「のび太、ほら鍵!」
スネ夫の手から放たれた鍵がのび太にわたる。
のび太が格子の脇にある鍵穴に鍵を差し込むと、格子は音を立てて下に沈む。
「しずかちゃん!」 
のび太はしずかに駆け寄る。
しずかは眠っていた。
のび太がしずかを背負って部屋に戻ると、ジャイアンが駆け抜けていった。



「ジャイ子を見つけるんだってさ」
スネ夫がのび太に話しながら近づく。
のび太は頷く。
「じゃあ僕らも後を」「待って」
背後から声を掛けられ、のび太は驚く。
しずかがのび太の背から降り、話し出す。
「話すことがあるの。のび太さん……いいえ」
しずかは一息ついて間を空ける。
「あなたはいったい誰なの?」

スネ夫は妙に緊張している自分に気づいた。
フスリの振興に侵入したとき、しずかに耳打ちされたこと。
のび太が怪しい、と。
その時いくつかの根拠も聞かされた。
スネ夫はそれを思い出していた。
(しずちゃんの言っていること、当たっているのかな)
スネ夫は不思議とわくわくしていた。

「……何言ってるのさ。しずかちゃん」
のび太は笑いながら言う。
「僕は僕だよ?野比のび太だよ」
「いいえ、違うわ」
しずかは否定する。
「どうしてそう思うのさ?しずかちゃ」
「知らないのなら教えてあげるわ。
 のび太さんはあたしのことを『しずかちゃん』とは呼ばないのよ」
突然、のび太の口が閉じた。



「のび太さんはあたしのことを『しずちゃん』と呼ぶの。
 なのにあなたは、ポケモンセンターで会ったときからずっと『しずかちゃん』と呼んできた。
 だから」「ちょ、ちょっと待ってよ」
のび太はしずかの言葉を遮る。
「まさか呼び方がおかしいからって別人だと決め付けるなんて」
「もちろんそれだけじゃないわ」
しずかは余裕を持った表情で告げる。
「のび太さんはね、ポケモンをやったことが無いのよ」

スネ夫はハッとして思い返してみる。
そういえばのび太はいつも流行のゲームを持っていない。
ポケモンもアニメや漫画でしか知らなかった。
だから早いうちにポケモンのゲームを手に入れ、のび太を羨ましがらせるのがスネ夫のいつもの遊びだった。

「それが……いったい何だって言うんだい?」
のび太は言葉を慎重に選んだ様子で聞き返す。
「じゃあきくけど。やったことの無いもので満ち溢れているところで旅するのよ。
 あののび太さんが、そんなことを自分から進んですると思う?
 でもあなたは自分から挙手した。
 旅立ちの日に」
しずかの答えに、のび太は押し黙る。
暫く沈黙。
やがて、のび太が口を開いた。
「ふふ、最初はうまくものまねできたつもりだったんだけどなぁ」
その口調は、のび太のそれとは違っていた。



そののび太がくるっと回ると、一瞬にして姿が変わる。
髪型も、体つきも、服装までもが変化した――

「……あなたの言う通りよ」
のび太の『ものまね』をしていた少女が姿を現した。
少女のポニーテールが、遠心力から解放されてふんわりと重力に引かれる。
「ボクはユリ。みんなから『ものまね娘』って呼ばれてるの」
ユリは短く自己紹介する。
しずかはあまり反応せず、質問する。
「それで、本物ののび太さんはどこにいるの?」
ユリは首を横に振り、
「ボクは知らない。でも『ドラエモン』っていう……なんていうのかな?あれ。
 とにかく『ドラエモン』が知っているはずだよ」
しずかは怪訝そうに首を傾げる。
「本当に?」
すると、ユリは軽く言う。
「本当だよ。だって、『ドラエモン』に頼まれてのび太にものまねしていたんだもの」
暫くしずかは、ユリの発言を秤に掛けているようすだったが、おもむろに駆け出す。
「いくわよ、スネ夫さん……ちょっと、スネ夫さん?」
「……え、ぁあ、痛ッ!!」
しずかは一連の出来事で既に放心状態だったスネ夫の尖がりヘアーを掴む。
「あと、ユリさんもついてきて!!」
そう言うとしずかはスネ夫を引っ張って走り出す。
ユリは意外そうな顔をしていたが、フッと笑い、後を追いかける。



「ドラえもん、ちょっと良いかな」
出木杉は手を上げてドラえもんの解説を遮る。
ドラえもんは不意をつかれ、出木杉を見る。
「なんだい?出木杉君」
出木杉は不敵に小さく笑ってから
「僕はどんなに専門用語や混合言葉が出てきても話の大体の流れを察して推測することができる。
 どれほど話を複雑化しようとしても全くの無駄だよ。
 だから君の考えもわかる。未来の用語を多用して話を複雑化している。
 もちろん僕には問題ないことだが、正直に言うと面倒なんだ。
 さっきの放送で、絶対に邪魔者がやってくるはず。いかに馬鹿な民衆も気づく。
 僕には今、時間がない。どういう意味かわかるよね?」
ドラえもんは悔しげに舌打ちし、出木杉を睨む。
出木杉は蔑んだ目でドラえもんを見つめる。
「……わかったよ、出木杉君」
ドラえもんが重い口を開けると、出木杉は愉快そうに微笑む。
「それはいい考えだ。さて、今までの話でこの世界が何なのかだいたいわかった。
 でも、それなら何故僕たちの親はこの世界にいない?
 いや、それとも現実の住人は子供だけしかいない……と言うべきか」
「……いいだろう」
ドラえもんは慎重に言葉を選び出す。
一呼吸終えると、ドラえもんは説明を始めた。



「僕はお世話ロボットとして開発された内の『質の悪い方』だった。
 だから僕の道具には全てセーフティ・フォア・チルドレン、通称『SFC』が組み込まれている。
 子供の安全を第一に考えた規制だよ。
 僕の道具は、使っている人間が子供の場合、その子供が損しないようになるんだ。
 例えば、のび太は何度も道具を使ってとんでもないことを仕出かすけど、いつも大事にはならない。
 せいぜいのび太が怪我したり、道具が壊れたりするだけだ。
 これらは『SFC』の影響。未来から支給される道具にも、いつも組み込まれている。
 そう、あの道具にも同様に」
「…… なるほど」
出木杉は軽く頷く。
「のび太君にとって、親、もとい大人たちは邪魔な存在。
 あの道具の性質上、そうなるね。
 ずいぶんいろんなことがわかったよ」
出木杉の言葉をドラえもんは鼻息で返す。
「さて、ききたいことはもう」
 バァン!!
突然、扉が爆発的に開かれた。
「モテ夫さん!?」
突然入ってきたジャイ子は、真っ先にそう叫んだ。



ジャイ子の目線が、床で寝そべるモテ夫に集中する。
ジャイ子は息を呑み、モテ夫に駆け寄る。
「モテ夫さん!?あぁ、モテ夫さぁ~ん!」
モテ夫を抱えると、ジャイ子は涙を流す。
「……ドラえもん」
出木杉はドラえもんに声を掛ける。
「彼女を連れて出て行ってくれ」
出木杉はジャイ子をあごで指しながら言う。
ドラえもんは驚いて言葉を返す。
「いや、僕は君を止めに」
「いいのかい?」
出木杉は小さく、しかし鋭く言葉を出した。
「さっきので、僕の力はわかっただろう?
 この世界ではポケモン勝負で強ければそれだけで上だからね」
ドラえもんは言い返そうとしたが、言葉を飲み込み、ジャイ子の元へ行く。
ドラえもんは泣きじゃくるジャイ子を促し、出口へ向かう。
「出木杉君……僕は必ず戻ってくるよ。君を止めに」
ジャイ子をモニター室から出すと、ドラえもんは出木杉に背を向けたまま語った。
「そう。楽しみにしてるよ。この世界の創造主と共に」
ハッとして、ドラえもんは振り返る。
「おい、まさか」「サカキ!」
出木杉が命令し、サカキがドラえもんの腕を掴む。
ドラえもんはサカキに引っ張られ、退室する。
残った出木杉はただ笑うだけだった。



ドラえもんは閉じられたモニター室の扉をじっと見つめた。
(創造主……この世界の……出木杉君、君はもう)
何度考えてもきりがないので、ドラえもんは溜め息をつく。
「ジャイ子~!!」
ジャイアンの声がきこえてきた。
その声はだんだん近づき、ジャイアンが現れる。
ジャイアンは急停止してジャイ子を見つける。
「おぉ、いたか。ジャイ……」
ジャイアンは泣いているジャイ子を見て、言葉を切る。
「ジャイア~ン」「武さ~ん」
しずかとスネ夫が到着する。
その時だった。
「サカキ、来い」
扉の向こうから出木杉の声がきこえ、サカキが動く。
サカキは扉を開け、急いで中に入った。
ドラえもんたちは口を挟む余裕も無く、それを見ていた。
やがてモニター室から爆音が聞こえてくる。
ドラえもんは恐る恐る扉を開けた。
「こ、これは……」
そこはもぬけの殻だ。
天井は開け放たれ、空にはヘリが見えた。
ロケット団のヘリが。



ヘリの中――
「このままでよいのですか?」
サカキはこわごわと、隣席の出木杉にきく。
「何がだい?」
「あいつらです」
サカキはヘリの下の『フスリの振興』を指す。
「ああ、大丈夫だよ。気にすることは無い」
出木杉は笑みを浮かべながら言う。
「モテ夫も馬鹿な男だ。自分の成功で周りを見ていなかった。
 本当はマツバも来ていなかったのに。
 それに、あんないい実験をこんな小さな町を相手に行うなんて愚かだ。はは」
冷たい笑いがヘリの中で伝わる。
「さて、アカギはもう戻っている。僕らも戻るよ」
出木杉が命令すると、ヘリは前進しはじめた。
周りにも『R』の紋章をつけたヘリが集まってきていた。

ロケット団は町中にねむりごなを振りまいた。
民衆は次々と眠りに落ち、町は閑散とする。
ロケット団はその隙に、『フスリの振興』から次々と団員が雪崩れ込んできた。
よくもと言うほど大量の団員が現れる。
その中にはヒョウタの、エリカを抱えながら走る姿もあった。



ロケット団たちがヘリを浮上させ始めた頃だった。
突然地面から火が放たれる。
ガーディやウインディたちの炎。
マサコが呼んだ警察の援軍が現れたのだ。
ヘリの幾つかは燃え盛り、落下する。
それを急いで鎮火させている警察もいた。
ロケット団を捕まえ、色々聞き出そうという考えだろう。
騒々しくことが運ぶうちに、日はどんどん西へ傾いていく。
飛び立つヘリ、墜落するヘリ。
双方が夕映えにより、真っ赤に輝く時頃。
騒ぎは落ち着いてくる――と思われたが。
民衆が次々と起き上がることで、騒ぎは拡散していく。
雑音で満たされる町。
そんな空気の中、フスリの振興から九人がこっそり出てきて、民衆に塗れる。




「はあぁ~、ひどい騒ぎだった」
ポケモンセンターに入りジャイアンが落ち着いた様子で呻く。
「どうやら誤解は解かれたみたいだね。僕らを見ても何もしてこないから」
スネ夫はそう言うと胸を撫で下ろす。
「それはそうと、ドラちゃん」
しずかは話を切り出す。
「話すこと、あるんじゃないの?」
ドラえもんは言葉を詰まらせ、少し考える。
「ハヤトさん、スズナさん。ちょっとだけ席をはずしてもらえるかな」
ハヤト、スズナは少し不満げに見えたが、頷くと離れていった。
「さて、ジャイ子ちゃん」
ドラえもんが、まだモテ夫を抱えているジャイ子に声を掛ける。
「……わかってるわ。
 警察のところに言って、ロケット団のことをいろいろ話してくれば」
「いや、そうじゃない。むしろ逆だよ。
 警察に気づかれないように、僕らの町へ戻ってほしいんだ」
ジャイ子はきょとんとした様子でドラえもんを見る。
「あそこの町のほうが安全なんだ。
 変にこの世界の人々を混乱させてはいけない」
ドラえもんの言葉をきいたジャイ子は、ゆっくりと頷くとモテ夫のポシェットを探る。
やがてボールを取り出すと、ジャイ子はポケモンセンターを出て行った。
「いったいあのボールは何だろう?」
スネ夫が密かに疑問を言う。
「空を飛べるポケモンか何かだろう。
 それからユリさん。君も席をはずしてくれるかい?」
ユリが離れると、いよいよドラえもんが口を開く。
 「さて、話そうか」
ドラえもんが三人と向き合う体制になる。



「君たちの顔に、すこし膨らんだホクロがあるはずなんだ。探してみて」
三人は意外なことを言われて驚くが、素直に顔を探る。
「あった」「あったわ」「お、あった」
三人ともホクロが見つかると、ドラえもんは頷く。
「それがこの世界に来る原因となったホクロだよ。
 君らは現実の世界でそれをつけられたんだ」
「つけられたって、誰に?」
しずかが質問する。
「のび太君だよ」
ドラえもんはこともなげに言う。
三人が息を呑むのを見て、さらに話を進める。
「そのホクロの効果は『つけられたものに道具の効果を及ぼす』こと。
 その道具とは、『見たい夢の世界に入り、体験することができる』道具なんだ。
 のび太君はその道具を使い、ポケモンの世界に入り込む夢を見ている」
「ちょ、ちょっとまって」
スネ夫は口を挟む。
「それなら現実世界ののび太が目覚めれば僕らは元に戻るんじゃ」
「いいや。この道具は、夢の世界は現実世界と時間の流れが違うんだ。
 現実世界ののび太はまだ寝ている。どれくらい寝たのかこっちから検討もつかない。
 それにこの道具自体、よくわからないんだ」



「どういうこと?」
しずかはきく。
「それはドラちゃんの道具なんでしょ?ならどうして」
「違うんだ。僕の道具じゃ無い。未来から送られてきたんだ。
 相手はわからなかった。それに僕が未来デパートに交渉している間、のび太が持ち出してしまったんだ。
 のび太は恐らく……ジャイアンの家にいったんじゃないかな。
 その時にジャイ子ちゃんと出会い、ポケモンのゲームを持っている人を探したんだ」
「で、でも俺はまだ新作買ってなかったぞ」
ジャイアンが意見を述べる。
「そうなのか。ならジャイ子はそう言ったんだ。
 それで落ち込むのび太を見て、ジャイ子はモテ夫君のことを提案したんだ。
 モテ夫君は新作を持っていたんだろう。
 だからのび太は彼の家に向かったんだ」
ドラえもんは一息つく。
「僕がもっと早く未来から帰っていれば。
 ついセワシ君やドラミのところで無駄話をしていたばっかりに……く~!!」
「ドラちゃん、落ち着いて!」
しずかは暴れだすドラえもんを抑える。
「まだ話の途中よ!」
「……ハッそうだった。
 僕が戻ってきたとき、のび太は僕に計画を話した」



「ポケモンの夢を見て、その中で遊ぶって。
 僕は不安だったけど……のび太君が楽しそうに話すものだからつい賛同しちゃった。
 眠りに落ちてみると、しばらくしてのび太が僕を起こす。
 その時、外はまだ暗かった。
 のび太は外のポケモンを見て恐怖を感じたんだ。
 僕は仕方なく『タンマウォッチ』を使い、時間を止めた。
 外の様子を見に行くと、なんとまあリアルなポケモンの恐ろしいこと。
 僕らは機械のあるモテ夫の家に向かうんだ。
 そして機械を調べた。でもどうしても機械が止まらない。
 やむなくモテ夫を動けるようにして、三人で話し合った。
 そして機械を起動したモテ夫が十分に楽しめばいいと気づいた。
 そして、こんどは僕とのび太。
 僕らは兎に角この事件をうやむやにしたかった。
 だからタイムテレビに記録を残すことにしたんだ。
 僕らが世界の変化に驚いている様子をね。
 でもね、のび太君は演技が下手だった。
 だからポケモンの世界にいるはずの『ものまね娘』を探した。
 そしてのび太のものまねをしてもらうことにした。
 のび太はモテ夫を見張ってもらった。
 そうして、タイムテレビに記録すると、君たちの前に現れた。
 僕はその後すぐにのび太の所へ戻っていくつもりだった。
 そしたらなんだ!?突然アカギとかいう男が現れた。
 あんなもんきいていなかった僕はモテ夫の家に向かった。
 でももういなかった。のび太君も一緒に。
 僕は仕方なく、出木杉君が提唱したように、みんなを旅に行かせることを決めた。
 ユリさんにはのび太のものまねをしたまま。いつばれるかわからなかったから」



ドラえもんは急にすまなそうな顔になる。
「ごめんねみんな。こんな危険な旅に」
「もういいんだドラえもん、そんなこと」
ジャイアンが強気で言う。
「俺たちはもうそんなこと気にしちゃいないぜ!」
ドラえもんはハッと顔をあげる。
スネ夫もしずかも、ジャイアンと同じように頷いてくれた。
「さあ、続きを話してくれよ」
スネ夫が急かす。
「うん。
 君らが旅立った後、何日か立つと、出木杉から連絡があった。
 君らと同じように旅に出たいって。
 僕は最初面と向かってことわった。でもあいつは諦めなかった。
 ある日、あいつはタイムテレビを見て、ユリさんのものまねに気づいた。
 僕は出木杉にその弱みを握られた。
 また何日かして、僕は出木杉と共に旅立った。
 ついでに暴走しているモテ夫君を止めようと。
 そして今に至るんだ。
 出木杉はモテ夫を倒し、ロケット団を率いた。
 あの様子。どうやらロケット団と密に連絡を取っていたらしい。
 どこで出会ったのかしらないけど、今の脅威は出木杉に変わったんだ。
 恐らく、モテ夫を満足させても、元の世界に戻れない。
 機械の故障かどうかわからないけど……別の方法で道具を止めるしかない」
ドラえもんは口を閉じる。

  • 注釈1:作者いわく、作品のモチーフは「のび太の夢幻三剣士」
  • 注釈2:『夢の世界に入り込む道具』の補足説明(道具の説明書より抜粋)
(映画等と若干違う点に注意)
  • 夢の世界で眠っても元の世界に戻らない
  • 夢の世界に物語は無く、道具を起動した人物が十分に満足する



「別の方法で、道具を止める。それしかない……か」
スネ夫は小さく呟くと、顔を上げる。
「ドラえもん。どうすればいいか、予想はついていないのかい?」
すると、ドラえもんは意外にも首を縦に振る。
「予想の範囲内だけど……あることにはあるんだ。
 モテ夫君が……もしモテ夫君がこの道具を起動したなら、彼はこの世界の主人公のはず。
 なのに彼はロケット団に加わり、完全な悪の立場にいた。
 そして出木杉君にあっさりと負けてしまった。
 ……そこから考えられることは一つ。
 この夢の主人公。つまり道具を起動した人物は、モテ夫君以外の人物。
 色々考えたけど、それができるのはただ一人。
 のび太君が起動したんだ。そしてこの世界の主人公になった」
「でも」
しずかは口を挟む。
「のび太さんは今、行方不明。モテ夫さんの家から消えたってさっき」
「うん、そうなんだ」
ドラえもんは簡単に頷く。
「だから、モテ夫君が知ってるは……ん!?」
今更ながら、ドラえもんは自分のミスに気づいた。
「あ、アァ―!! 
 モテ夫君たちを帰らせちゃったあぁ!!」
ドラえもんはそう叫ぶとセンターの外へ飛び出す。
残された三人は顔を見合わせ、ドラえもんの後を追った。



外にはがっくりと膝をつくドラえもんがいた。
「お、おいどうしたんだよ?ドラえもん」
ジャイアンが声を掛ける。
「……ごめん、遅かった。
 モテ夫君たち、もう帰っちゃったみたい」
ドラえもんは小さく答えた。
しずかが慰めようとドラえもんに手を掛けるが、ドラえもんは急に立ち上がる。
「あぁ、僕はみんなをこんなひどいめにあわせておいて!!
 また僕が忘れていたせいで、みんなが困った!!
 もうだめだ。こうなったら僕は頭を叩き割って死んで償うしか……ああ!!ポケットがない!!
 はぁ~どうしようどうしよう」
「落ち着いて!ドラちゃん!!」
しずかは慌てて声を掛けるが、ドラ声の絶叫は止まらない。
そろそろ公害と化してきたところで、ある人物が近寄ってくる。
「あなたたち!」
その場の四人はきょとんとしてその人物を見る。
ジュンサーのサコだ。
「あなたたち、フスリの振興から出てきたわよね?」
すると、いち早くスネ夫は前に出る。
「ええ、でも僕たちは決してロケット団の仲間ではなくそいつらを」
「ご協力ありがとうございます!」
サコはスネ夫の高速言い訳を無視して敬礼する。
サコは、ドラえもんたちがロケット団を倒したと気づいてお礼を言いにきたのだ。
十分に礼を言い、サコが帰ると、しずかがドラえもんに声を掛ける。
「ドラちゃん。みんな困ったとか、思っているかも知れないけど、ドラちゃんの説明は役に立ったわ。
 それにさっきのジュンサーさんのように、感謝している人もいる。
 ドラちゃんもちゃんと、みんなに感謝されてるのよ」



ドラえもんが涙を流してしずかに「ありがとうありがとう」と言っている。
そんな所に、再びサコは現れた。
「言い忘れてたわ。そこの少年」
サコはまっすぐジャイアンを示す。
「へ?俺?」
「そう。ちょっとわたしたちの所へ来てくれる?」
途端に場の雰囲気が変わる。
「じゃ、ジャイアン何かしたの?」
スネ夫が恐る恐るきく。
「お、俺は何にもしてねえぞ!いやホントに」
「参考までに話を聞くだけよ。さあ速く」
サコに先導され、ジャイアンは連れて行かれた。
ジャイアンは最後まで仲間たちに言い続けた。
「なあ、俺はホントに何もしてないって!!
 問題ないから!明日には戻ってくるぜ!!ホントだぜ!!」
「待ってるよ~ジャイアン!」(あ~あ、ついにやりやがったなあのゴリラ)
スネ夫は内心ほくそ笑んでいた。
 その後、ドラえもんたちは センター内にいた三人にジャイアンのことだけを話し、宿舎に入る。
センター内は負傷者で混み合っていたため、みんなは部屋に入るとホッとして眠った。



夜中――ジャイアンは交番から出てきた。
「勘違いしていたみたい。本当に悪かったわ。
 早くセンターに帰りなさいよ!」
サコが声を掛けると、ジャイアンは手を振って応える。
「じゃあな!サコさん!」
ジャイアンは取調べの最中、サコの名前を聞き出していた。
「こら、名前でよばないでちょうだい」
サコは一喝すると交番の奥に入っていく。
「っあ~あ、終わった~」
ジャイアンは眠たそうに背筋を伸ばす。
「さ~て、とっとと帰ってとっとと寝て……ん?」
ジャイアンは前方から歩いてくる人物と目が合った。
その人物もジャイアンに気づく。
「ジャイ子!?」「お兄ちゃん!?」
二人はそう言うと、気まずそうに顔を逸らす。
「……あ、アタシ、警察に出頭することにしたの」
ジャイ子は重い口を開けて言う。
「……そうか」
ジャイアンはそう言ったあと、言葉を探すように目線を上に上げる。
「モテ夫はどうしたんだ?」
「ポケモンを使って帰ってもらったわ。
 ……それよりお兄ちゃん。勝手にモンスターボールの中見ちゃったんだけど
 ……あのテッカニン捕まえたんだね」
ジャイアンは不意を突かれたが、「ああ、『あなをほる』覚えているあいつか」と答える。
「あれね、実はアタシのポケモンなの。
 この町まで来るのにどうしても必要で、ツチニンに技マシン使ってそのまま進化させたの」
しばらく、ジャイアンが返答に困っていると、ジャイ子が近寄ってくる。
「あのテッカニンをアタシだと思って、大切にしてね……」
ジャイ子はそう告げると、交番へ走っていった。
ジャイアンには、走り去る背中がとても寂しそうに思えた。
「……一人にはさせねえよ。ジャイ子」
ジャイアンはそう声に出して誓うと、夜の闇に消えた。



モテ夫は『のび太たちの町』に帰ってきた。
ポケモンをしまうと、まずのび太の家に入る。
この町は初めのうち暫く観察していたから、モテ夫は知っていた。
のび太の家に、町を取り仕切る人物が集まっていることを。
モテ夫はやや緊張気味に、のび太の家の玄関を叩く。
中から一人の人物が出迎えてきた。
「ああ、モテ夫さん」
「や、やあ義雄君」
モテ夫は少しぎこちなくその人物の名を呼ぶ。
「……よく僕の名前がわかりましたね。話したことありましたっけ?」
モテ夫は一瞬ドキっとする。
名前を知ったのはもちろん、監視していたからだ。
でも、それを言うわけにはいかない。
「あ、ああ。たまたまね」
義雄は少し首を傾げ、中に案内する。
モテ夫は導かれて、のび太の部屋に入る。
ズル木、金尾が待っていた。
「よく来ました」「待ってましたよ」
唐突にそう言われてモテ夫は怪訝そうな顔つきになる。
「待っていた?どういうことだ」
すると、突然義雄が戸をピシャリと閉める。
「僕らは出木杉さんに頼まれたんです。
 『モテ夫が必ずこの町へ戻ってくる。そいつを逃がすな。始末しろ』とね」
静かに語る義雄の手に、金属バットが握られる。
モテ夫は息を呑み、ズル木、金尾にも顔を向ける。
二人ともすえた顔つきで、手に〔どこから持ってきたのやら〕金棒とムチが握られている。
モテ夫が危機を察したときにはもう、遅かった。
「や、やめろ……やめろよお前ら。なあぁ、やめ、や――やめろおオォオ゛オォぉお゛ぉぁぁあ゛!!!……」
モテ夫の断末魔の叫びが、町中にこだまする。



ギンガ団アジト。
今ここにはモテ夫のおかげでロケット団も数人集まっている――
「入って来い」
アカギは扉のノックを聞きつけ、声を掛ける。
入ってきたのは、マツバだ。
どうやらフスリにはいかず、ギンガ団のアジトにいたらしい。
「サカキ幹部から連絡がありました。
 モテ夫元首領が倒されたそうです」
「倒された?誰にだ?」
アカギは不審そうにきく。
「出木杉英才、という名の少年です」
「出木杉……いったい何者だ?」
「はい、どうやらサカキ幹部が密に連絡を取り合っていた人物だそうで。
 サカキ幹部の話によると、ロケット団を継ぐのにもっとも相応しい人物だそうです」
アカギはしばらく黙り込んだが、やがてマツバに声を掛ける。
「わかった。もう下がっていい」
マツバが一礼して退室すると、アカギは微かに笑った。
「ふん、あのガキめ。自滅したか。くくく」
再びノック音が響き、アカギは声を出す。
「入って来い」
入ってきたのは、マーズだ。
「失礼します。お呼ばれがあったので参りました」
「ああ、そうだった。今日か」アカギはそういうと、制服に手を掛ける。
「ベッドは、こっちだよ」
アカギに案内されて、マーズは軽やかに向かう……

やるべきことを終えたマーズは、アカギの部屋を出て扉にもたれ掛かる。
マーズはアカギの側近だった。
アカギの苦しみを身にしみるほど良くわかっていた。
ギンガ団の首領だったアカギがどれほど悔恨の念を持っているか――



何日か経った。
空が新たな旅立ちを祝うように晴れ渡る早朝――
ドラえもんは小型の携帯のような機械を取り出し、ジャイアン、スネ夫、しずか、そしてユリにも渡した。
「ポケギアだよ。トレーナー同士で連絡が取れる。
 この前のジュンサーさんがお礼に渡してくれたんだ。
 僕はこれからみんなの町に戻る。
 モテ夫君にのび太君のことをきいたら連絡を入れるよ。
 それ以外にも、使う必要があったらどんどん使ってくれ」
ドラえもんはそう言うと、モンスターボールを取り出す。
「歩くのは辛いからね。ゲットしておいたんだ」
ボールからはキャモメが繰り出された。
ドラえもんはキャモメの足にしがみ付くと、みんなに別れを告げる。
「じゃあね。みんな。頑張って」
ドラえもんは飛び去っていく。
残されたのは六人。
みんなドラえもんと話し合って、一つ物事を決めていた。
『とにかく今はこのジム巡りを終わらせること。
 そうすればきっと何か変わるはずだから』
「……じゃ、俺は行くぜ」
まずジャイアンが先陣を切り、スズナがその後をついていく。
「それじゃ、あたしも」
後に続いてしずか。
「僕も」
そして、スネ夫も。
「じゃあ、ボクたちも行こうか。ね?ハヤト」
「ひ、引っ付くな馬鹿!」
ハヤトはユリの手を払って進んでいく。
どうやらまだこの変化に慣れていないようだ。



  • ジャイアン
  • メンバー
【ココドラ】(マスターボールでゲット、目で語る、割と素直)
【テッカニン】(元はジャイ子のポケモン)
【リオル】(収集癖があり、ジムリーダーのスモモと関係がある)
  • 今までの道のり
のび太の町→工場(ココドラゲット・スズナ同行)→ナタネの町(テッカニンゲット)
→スモモ戦(リオルゲット)→フスリ直前(鋼同盟からメールをもらう)→フスリ(謎の夢)
  • その他
ポケモンはルビー・サファイアまで経験済み
スズナ(ユキカブリ二体所持、その他不明)が同行


  • スネ夫
  • メンバー
【ムウマ】(マスターボールでゲット、いたずら好き)
【チルット】(一旦逃がされそうになるが残る)
【ドガース】(どっかの町のゴミ捨て場でゲット)
【ポチエナ】(どろぼうが得意)
  • 今までの道のり
のび太の町(ムウマゲット)→トウキの町(スバメとチルットゲット、スバメ逃がす)
→マツバの町(ドガース既にゲット、ポチエナゲット)→フスリ
  • その他
ポケモンはダイアモンド・パールまで経験済み
ムウマはトレーナーと意識を通わせられる。

  • しずか
  • メンバー
【ナゾノクサ】(マスターボールでゲット、目で語る、素直じゃない)
【クチート】(いつの間にかゲット)
【???】(『フスリの振興』内の研究室で持ったボールの中のポケモン)
  • 今までの道のり
のび太の町→裏山(ナゾノクサゲット)→タケシの町→テッセンの町(鋼同盟からメールをもらう)
→フスリ(クチート既にゲット、???ゲット)
  • その他
こっそりポケモンはダイアモンド・パールまで経験済み

  • ユリ
  • メンバー
【ハスブレロ】(マスターボールでたまたまゲット、マチスの町で進化)
【ドンメル】(ハヤトのエアームド対策のためゲットしたポケモン)
  • 今までの道のり
どこかの町からドラえもんに連れて来られる→のび太の町(ここでものまね)
→学校(ハスボーゲット)→ハヤトの町(ドンメルゲット、ハヤト同行)
→マチスの町(ハスブレロ進化、SOSのメール)→フスリ(ものまねばれる)
  • その他
ポケモン図鑑などは持っているが、実践経験はあまりない
(ハヤト戦でやけに図鑑の説明やわざの効果を気にしていたのはこのため)
ハヤト(エアームド・ズバット・ムックル所持)が同行



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