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異形の怪物は十の目でスネ夫を睨む。
スネ夫は殺気を感じ、ボールに手をかけるが、
「待って!」
しずかの声が入る。「スネ夫さんは先に行って」
 スネ夫は耳を疑い、しずかを見つめる。
「な、何言ってるんだよ、しずちゃん! こんな奴の相手なんか」
「大丈夫、策はあるの」
しずかの台詞は自信に溢れていた。
 スネ夫はますます青い顔になる。
(しずちゃんをここに残していいのかな。大丈夫って言ってるし。
 ……いや! ぼくだって男だぞ! そんなことできるわけ)
 ギラリ、と怪物の眼光がスネ夫を射る。
その瞬間、スネ夫は決心した。
「しずちゃん、任せた!」
 スネ夫は意気揚々と怪物の股をくぐる。
怪物が奇声をあげ、嘴が伸びるが――
「てっぺき!」
 しずかの繰り出したポケモンが、体を強固して嘴を止める。
怪物に動揺の感が走る。
それはスネ夫も同じだった。
「しずちゃん、そのポケモンは!?」
「ええ、道中で仲間になったの」
 しずかの仲間はてっぺきを解く。
象徴的な大きな口――いや、それは角が変形したもの。
 それはクチートだ。
「さあ、行って! スネ夫さん」
 そう言われるが速いか、スネ夫は階段を駆け上った。



スネ夫は二階に着く。
廊下は小奇麗で、壁の白さが際立つ。
赤い絨毯は高級感を漂わせた。
 スネ夫は一先ず呼吸を整える。
(さて、過ぎたことは考えるな。スネツグを探さないと)
 そう、スネ夫の目的はスネツグの奪還。
実を言うとジャイアンたちより先にスネツグを見つけた場合、
二人で脱出しようと考えていた。
スネ夫はにやりとする。
(一人になれたのは都合がいいや。これなら脱出もより簡単になる)
 スネ夫は自分の計画に酔いしれながら、通路を進んだ。
 ところが、脇の扉から突然、意外な人物が飛び出す。
スネ夫は目を見開いた。

「どういうこと?」
しずかは崩れ落ちる怪物を尻目に、その人物を見た。
 その人物はスネ夫と入れ違いに、部屋に入ってきたのだ。
「なに、こいつさ」
その人物は指を鳴らす。
 すると、怪物のそばの空気が揺らぎ、ポケモンが姿を現した。
ゴースだ。
「僕のポケモンのさいみんじゅつで眠ってもらったのさ」
「そんなことをきいているんじゃないわ!」
しずかが語調を強める。「あなたがどうしてこっちに来たのかってことよ! 出木杉さん!」
 その人物、出木杉は肩を竦める。
「ああ、そんなことか。簡単だよ」
 しずかの前に、ぬっとゴースが現れる。
「あなた、約束したわよね。あたしには手を出さないって」
しずかが問いただす。
「安心しろ。ゴースに手なんかないから」
しずかの反論より速く、ゴースのさいみんじゅつ。
 しずかはその場に崩れた。

「スネキチじゃないか!」 スネ夫は絶句した。



 真っ暗。
体の感覚は無い。
周りには何も見えず、どこが上やら下やら……

 突然、視界が晴れてきた。
ぼんやりと、ゆっくりと、光が広がる。
 緑色の――海?
時々泡が視界に入る。
《見えるか……》
言葉が伝わってきた。
言われたのではなく、聞いたのでもなく、ただ伝わってきた。
テレパシーとでも言うのだろうか?
《私の姿が見えるか……》
(……誰だ?)
《私の姿が》
(……誰なんだ!?姿を見せ)
《少し待て》
言葉は短い。
でも、重かった。
一気に心の底に落ちる言葉は、深く、冷たく――それでいて哀れだった。
 視野が変わる。



 牢獄のようだ。
鉄格子の中は小窓から差し込む光によって何とか見える。
ベッドと、その脇に黄色いポケモン。
ベッドの中には誰かいる。
そう、誰かが。
《……こいつだ》
言葉が静かに伝わってくる。
《少年。ベッドの中のこいつを殺せ》
(な!?……何で!?)
《いいから約束しろ》
(……いやだ)
 何故かそう伝えていた。
ベッドの中の誰か。
それは殺してはいけない誰か。
《歯向かうのか?》
(ああ、そうだ)
 視界が再びぼやける。
また、緑色の海。
《私の姿が見えるか》
何度かきいた質問だ。
 だけど、今度は違う。
姿が見える。緑色の海の中に。
そいつの目は閉じていて、でも意識は恐ろしく鋭く、そして……



「ジャイアン!!」
スネ夫の声が、ジャイアンの耳を貫く。
 ジャイアンは目を白黒させ、辺りを見回した。
「あれ……あいつは?」
「あいつって?」 スネ夫が首を傾げる。
「ほら、緑色の海の中に」
 スネ夫は吹き出した。
「ジャイアン、海は青いよ」「いや、だけどさっきまでは」「夢でも見ていたんじゃないの?」
ジャイアンの血液は急流により一気に頭に上る。
「何だと!?このやろ……あれ?」
 ジャイアンは何故か動かない自分の体を見た。
縄で縛られている。
「あれ、俺どうして縄なんかに……というか」
ジャイアンはもう一度辺りを見渡し、スネ夫に焦点を合わせた。
「ここどこだ?」
 スネ夫は呆れたようにため息を突いた。
「ジャイアン、君こそ行方不明になるまでどこにいたんだい?」
 ジャイアンは首を傾げ、そして「あぁ」と思い出した。
ジャイ子と話している最中、後ろから殴られ、気を失った事を。



 スネ夫は話し始めた。
 いなくなったジャイアン、ジャイ子、スズナ、スネツグ。
フスリの振興が民衆を使い、仲間たちを捕らえ始めたこと。
スネ夫としずか、出木杉とドラえもん、のび太とハヤトに別れ、捜索を始めたこと。
そしてスネ夫がしずかと別れ、スネツグに出会ったこと。
「だからこうしてジャイアンのいる牢屋がわかったんだ」
 ジャイアンは押し寄せる情報の大所帯を何とか整理する。
「じゃあ、ここは牢屋ってことか……俺はどうして、誰に襲われたんだ?」
「覚えてないの?」
明らかにスネ夫の期待していない答えを、ジャイアンはする。
「ああ、覚えてない」
スネ夫はがっくりと肩を落とす。
「じゃあ、いったい誰が」
「それは……」
牢屋の入り口で、ガチャリと音がする。
施錠の音が。
ジャイアン、スネ夫は息を呑み、振り向く。
 格子の向こうに、スネ夫の弟、スネツグがいた。
「僕さ」
スネツグは口端を上げる。



「どういうことだ?スネツグ」
スネ夫は静かに質問した。
「言ったとおりだよ、兄さん」
スネツグは腹黒い笑みを浮かべ、話し出す。
「僕がジャイアンを気絶させた。
 ジャイ子とはもともとグルだった。
 だから、ジャイ子がジャイアンの隙を作り、僕が襲った。
 詳しくは言えないが、僕らの任務は兄さんらを捕らえることだ。
 今頃兄さんの仲間たちも僕らの仲間に追い詰められているだろうね。
 まあ兎に角、僕の任務は遂行したんだ。
 僕は行くけど、恨んだりとかしないでね。アハハ」
(流石スネ夫の弟、話が長い)
ジャイアンがぼんやりそんなことを考えてる間に、
スネツグは鍵を指で回しながら去ろうとした。
「……もういいよ」
スネ夫がぼそっと呟く。
 スネツグが振り返る。
「うん?今何かいt――」
スネツグの指先を何かが掠める。
 スネツグはハッと指を見る。
「あっ!」 鍵が消えていた。
「……ムウマ」
スネ夫が〔弟より数段高く〕口端を吊り上げる。
 ムウマが格子の向こうで、得意そうに鍵を持っていた。



 「くそっ、ポケモンを外に残しておいたのか」
スネツグが悪態をつく。
 ムウマが鍵を開け、スネ夫が出て行く。
「ふ、たとえ兄さんでも僕は負け」「行け、ドガース!」
スネツグの話を遮って繰り出されたドガースは、
スネツグの愚痴を無視して煙を撒き散らす。
「ゲホッ……だがこんなえんまく、晴れるのを待てばすぐに」
「残念だったな。これはどくガスさ!」
 スネ夫はそう吐き捨て、牢屋を向く。
「さ、ジャイアン速く」「させるかぁ!!」
スネツグの声が響き、何かが起動する。
 スネ夫の目の前で、何かがせりあがった。
「うぉ!?うぅおおぉぉぉ……」
ジャイアンの叫びがだんだんと小さくなる。
「ジャイアン!?」(何だこの壁。一体どこから飛び出して、飛び出して……)
スネ夫ははたと気づく。
「これは、床ごと上がっているのか!」
「その通り!!」スネツグがガスの中から叫ぶ。
「僕が……ゲホ……今押したのはゆ、床を……グホッガバァぁ……ハァハァ
 押し上げるス、スイッチだったん、がハァ!……だよ」
「よし、ジャイアンは二階に行ったんだな。急がなきゃ」
 実弟の命がけの言葉には耳を貸さず、スネ夫は階段を求めて駆け出した。
「……えんまくと思わせてどくガスを張り、僕を完全に無視するとは……
 さすが兄さん。やることがちが……」
 スネツグはその場で倒れた。



 フスリの郊外――
「……あ、いたよ」
のび太はエアームドの上から指差す。
一人用のテントが、小高い丘にぽつんと建っていた。
「どうやらあれみたいだな」
のび太の後ろからハヤトが顔を出す。
「やれやれ、町中で民衆に追いかけられて冷や汗かいた」
ハヤトはほっとため息をつく。
「もっと早く気づくべきだったね。『仲間なら、町中にいると捕まってしまう』って」
‘全くだ’とでも言うようにムックルが一声鳴いた。
 やがてエアームドはテントの周囲を旋回しながら降下を
「こごえるかぜ」
突如どこからか指示が聞こえてくる。
「よけろ、エアームド!」
ハヤトは指示したが、冷風は既にエアームドを捕らえていた。
 苦しそうな声を上げるエアームド。
速度は急激に落ちていく。
 のび太とハヤトはエアームドから飛び降りた。
「もどれ、エアームド!」
エアームドが墜落する寸前、ハヤトはボールに収めた。
「出てきてもらおうか」
ハヤトがテントに向かって言う。
だが
「って!!」
飛んできた氷の塊とハヤトの頭が鈍い音を奏でる。
「バカね。こっちよ」
ハヤトの背後の岩陰から、スズナとユキカブリが現れた。



「っこのやろ」「待ってよ、ハヤト」
いきり立つハヤトをのび太が抑える。
 のび太はハヤトの前に出る。
「スズナさん。僕らと一緒に来てくれない?」「どこへ?」
「フスリの振興っていう、大きなビルへ」「なんで?」「え、えーと……」
 のび太、ハヤトにバトンタッチ。
「兎に角、お主の連れだった武殿がさらわれたのだ。
 フスリの振興にいるかもしれない。だから俺たちは探している。
 で、お主について来て、一緒に武殿を探してほしい」
 スズナは最初こそ驚いた素振りを見せたものの、無表情を通す。
「だいたい、わかったわ。
 でもあたしはいかない」
 ハヤトは首を傾げる。「どうしてだ?」
「どうしてもよ。どうせあたしは武とは関係無いんだもの。このまま故郷に帰るわ」
「……いや、関係無いことは無いであろう。
 少なくとも旅の間は一緒にいたはず。助け合ってもよいではないか。
 それとも何か助けにいけない事情でも」
「うるさいわね!!行かないって言ってるんだからそれでいいでしょ!」
 スズナに怒鳴られ、ハヤトはカチンとくる。



「ずいぶん冷たいんだな。……やはりこおりタイプのポケモン使いだからか」
「……どういうこと?」
「なに、ひこうタイプのジムで代々伝えられている言葉だ。
 『こおりタイプのポケモントレーナーにろくな人間はいない』ってな!」
 その言葉にスズナは反応した。
 もっとも、ハヤトとは正反対だったが。
「あら、たまたまひこうにこおりがよく効くだけじゃない。言いがかりもいいところね!」
「だが実際そうではないか」ハヤトは食って掛かる。
「初めて会った時だ。貴様、このムックルを思いっきり蔑んでみたな!
 やはりポケモンを蔑むとはろくなトレーナーのすることじゃ」
「別にどんな目で見ててもいいじゃない! 
 そんなんで人間性判断されたんじゃたまったもんじゃ」
「ほう、じゃあ蔑んだのは認めるんだな!えぇ!」
「雑魚を雑魚として見て何がわるいのよ!!」
「あー!!貴様、ムックルを愚弄したな!!愚弄したな!!
 もう許さねぇ。ムックルの威厳の仇をとってやる!」
「やってみなさいよ!ひこうタイプごときで!」
 ハヤトがボールに手を伸ばしたが、
「ちょ、ちょっと待って!!」
のび太の必死の制止が、二人の間に入る。
「僕らの目的はジャイアンたちを救うことだよ!!
 今争っている場合じゃないよ!!」
 のび太の叫びで、喧騒はようやくおさまる。
のび太はほっと息をつき、スズナを向く。
「スズナさん。僕らはジャイアンを救わなきゃならない。
 そして、それにはあなたの力が必要なんです」
スズナは顔を背けながら頷く。
「わかったわよ。行ってあげる」
 のび太は振り返り、ハヤトを向く。
「さ、ハヤト。行くよ。みんなのところへ」
「だが……あの女はムックルを」
呟くハヤトを無視してのび太はハヤトのボールを掴み、エアームドを出す。



 「フスリの振興」最上階――
仮面を被った少年は椅子にもたれ掛かる。
「それで、奴らは?」
少年は気だるそうにモニターに言う。
モニターに映るのはサカキだ。
「現在、しずかという少女一人。
 また、スネツグはやられ、ジャイアンは今クリスチーネの所にいます」
「そうか……スネツグめ。やはり年下は信用できねえ。
 だが、しずかは捕まったか」
 少年はその事実を誇らしそうに思った。
「今でも信じられないよ。
 僕の側に出木杉君がついているなんて」
 実を言うと、しずかは少年にとって一番やっかいな相手だった。
実力は定かでないが、旅に出た四人の中で知力はずば抜けている。
だが、そのしずかももはや手中に収めた。
出木杉の手によって。
「ところで、マツバの計画はまだか?」
少年は話題をかえる。
「ええ。どうやら急いで充填を終わらせたため不備があるようです」
「ふん。まあしかたあるまい。
 ……だが、あれがあれば僕は……ふふ」
 少年は狂喜して高笑いした。

 少年の思い通りに進んでいる。
ここまでは。
そして、もうすぐ思惑は覆る。



 ジャイアンは再び格子の中にいた。
どうやら二階の牢屋に着いたらしい。
初めはポカンとしていたジャイアンも、自分の状況を把握した。
そして、牢屋の前に佇む姿も認識した。
「ジャイ子……」
ジャイアンは力なく呟いた。
 ジャイ子はジャイアンを一瞥し、再び目を逸らす。
「おい、ジャイ子!きこえているんだろ!?
 どうしてこんなことするんだ?」
「お兄ちゃんには関係ないことよ」
ジャイ子は冷たく言い放つ。
「関係ない……そんなことあるもんか!!」
ジャイアンは必死で訴える。「ジャイ子の悩みは俺の悩みだ」
 ジャイ子はひどく疲れたようにため息をつく。
「もういいの。お兄ちゃんなんて。
 ……アタシはあの方についていくことを決めたの」
「誰だ、あの方って?」
 ジャイアンが話を誘いかける。
「ふふ、お兄ちゃんも知っているはずよ」
ジャイ子はゆっくりと顔をあげ、笑みを浮かべながらジャイアンを見る。
 一瞬兄妹は見つめ合った。
ジャイ子から、その名が上げられる。
「あの方、そう、アタシの思いの人。
 この世界にも来ているのよ。
 茂手モテ夫様がね!!」

「……言いやがったな、あの女」
少年はモニターで事を見ていた。
ジャイ子が簡単に乗せられて、話してしまった。
「もうこの仮面も意味はないな」
少年はそう言って仮面を外す。
 茂手モテ夫が不服そうに顔を現した。



「ふん。使えない女だ」
 モテ夫は舌打ちして仮面を回す。
「サカキ、あとどれくらいで完成する?」
モテ夫の後ろの人物から返事がくる。
「マツバからの連絡はまだです」
「……仕方あるまい。まだ待っておくか」
 モテ夫は不満げに言い残す。
 ――この時振り返っていれば、モテ夫は不幸を免れたかもしれない――
 モテ夫の後ろで、サカキはこっそりとポケモンを出す。
異常なまでに小さいコラッタだ。
サカキはコラッタにメールを〔ほとんどコラッタの背中一面に〕つける。
コラッタは音も無くサカキから飛び降り、部屋を出て行った。

「……誰だっけ?それ」
冗談ではない。ジャイアンは純粋にきいた。
 もちろん、ジャイ子は気に食わなかったようだ。
「へえ、覚えてないの」
ジャイ子はそれだけ言うとジャイアンから目をそむけた。
 ジャイアンはあわてて言い繕う。
「わ、悪かったよ。ジャイ子。
 とにかくそのモテ郎ってのが」「モテ夫よ!」「そうか、その……そいつがお前を」
「黙って!」 ジャイ子は一喝する。
 ジャイアンは不意をつかれ、きょとんとするが、すぐに原因がわかる。
 階段を駆け上る音が聞こえる。
誰かが上ってくる。階段から。
 ジャイ子は立ち上がり、牢屋の前に立つ。
ジャイ子の正面には通路。その先には階段。
この階は非常に単純なつくりだ。
 階段から、人物が現れる。
「……ここは、牢屋の階なのかい?」
スネ夫は辺りを見渡しながら言う。



「よくきたわね。お兄ちゃんを救いに」
ジャイ子は仁王立ちしながら言う。
 スネ夫は呼吸を落ち着かせ、笑ってみせた。
「ああ、仕方ないさ。仲間だから」
 ジャイ子は顔色を変えず、話題を変えた。
「アタシがここにいることに疑問を感じないの?」
「ん?なーに、僕の弟がべらべらと喋ってくれたんでね。
 君が僕らの敵だってことも。
 そうそう、ついでにわかったこともあるんだ」
「へぇ、どんなことを?」
ジャイ子は試すようにきいてきた。
「推測だけど。旅立ちの日にマスターボールを盗んだのは出木杉とドラえもん。
 君やスネツグのボールは偽物だ。
 さっき、いったん引き戻してスネツグのボールを確かめたんだ」
 スネ夫は『まだどくガスが残っているかもしれない』という恐怖心から息を止めてスネツグの元へ戻った。
だから急いで階段を上ってきたのだ。
「あいつのボールは、本当になんでも無かった。
 ただの紫色に塗った空のモンスターボールだった。
 おかしかったんだ。ジャイアンを見張るなら如何なる場合でもポケモンを出しておいたほうが効率いい。
 なのにスネツグは生身でいた。
 なんでか……答えは簡単。ポケモンを持っていないから。
 スネツグは誰かに招待されたんだ。
 そして君は彼の仲間。君も招待された人物。
 きいていいかい?君はポケモンを持っているのか?」
 スネ夫は鋭く問う。



「すごい推理ね」
ジャイ子はそれだけ言った。
「でも、ちょっと違う。
 アタシは招待客なんかじゃないわ。
 ちゃんとあの方におつきして来たのよ。
 だから……アタシはもらったの」
 ジャイ子はベルトに手を伸ばす。
モンスターボールだ。
「あの方にもらったのよ。
 自分のポケモンをね」
 ジャイ子は勝機を悟ったように語る。
「さあ、あなたのポケモンはここまで来るのにかなり疲れているはず。
 あなたに勝ち目は無いわ」
「さぁて、どうかな」スネ夫ははぐらかす。
「僕がものすごく運がよくて、体力を温存しているかもしれない。
 逆に危険なのは君じゃないのかい?ポケモンは一体だけのようだし」
 ジャイ子は一瞬歯を食いしばったが、すぐに笑みを浮かべる。
「どうかしら?このポケモンがどれほど強いかわからないわよ」
「この世界はゲームと違ってレベルがわからない。
 強さなんてそう簡単にわかるものじゃないよ」
 スネ夫の言葉にジャイ子は反論しようとした。
 その時だった。
 岩が、ジャイ子の肩を掠めて落ちてくる。
瞬時に青ざめるジャイ子。
それはただ、命の危険を感じたからだった。
だが
「ムウマ!!」 スネ夫が目を見開いて叫ぶ。
 ジャイ子は振り返り、宙に浮く岩を見た。
岩の少し下には鍵があり、悲鳴と共に落下する。
だんだん岩の下がぼやけ、隠れていたポケモンが姿を現す。
 ムウマが弱りきった姿でそこにいた。



 ムウマは姿を消していた。
スネ夫がジャイ子と話している間に、こっそり鍵を盗む。
そして鍵を開け、ジャイアンを救出する――はずだった。
「もどれムウマ」 スネ夫がボールにムウマを戻す。
「ステルスロック」
 突然天井から声が聞こえてくる。
天井を突き破り、幾つかの菱形岩が床に突き刺さる。
(まずい。ポケモンを交代しにくくなった)
スネ夫は舌打ちして天井を見る。
 そこには穴が開き、イワークが首を出していた。
「ジャイ子さん、気をつけて下さいよ」
イワークの頭に跨る青年が朗らかに言う。
「……ええ、ありがとう。ヒョウタ」
 ジャイ子の礼と共に、ヒョウタが降りてくる。
 「ヒョウタ?ジムリーダーじゃないのか?」
スネ夫が問う。
 ヒョウタは肩を竦め、答える。
「確かに昔はジムリーダーだった。
 だが今はロケット団に加わっている」
 ヒョウタはそれを示すように、作業着の「R」の紋章を見せた。
「僕らはジャイ子さんの手助けを任された。
 だから君のような人間と戦わなくてはならないんだ」
「僕ら?」 スネ夫が眉を顰める。「じゃあ他にも仲間が」
「その通り」
女性の声が聞こえてくる。
 スネ夫が辺りを見渡すと、床の異変に気づいた。
「っぅわ!?」
 床から蔓が延び、床板を破壊する。
「こんにちは」
中から和服姿の女性とモンジャラが出てくる。
「エリカです」



(……まずいぞ。一気に不利になった)
スネ夫は歯噛みした。
(ジャイ子を戦力に含めないにしても二対一。
 しかもジムリーダーだ。そこら辺のトレーナーとは違うはず)
「……ぉ、おい、何だ?ジャイ子」
 スネ夫の耳にジャイアンの声が届いた。
見るとジャイ子が牢屋の方を向いて何かしている。
「ジャイアン?どうした!?」
スネ夫は叫んだ。
「ワープ装置を起動させるのよ!」
答えたのはジャイ子だ。
「一気に最上階まで送ってあげる」
「お、おいやめろ!!そんな面倒なこと」
スネ夫は駆け寄ろうとしたが、再び落石が起こる。
「ここは通さないよ」
ヒョウタのイワークがスネ夫の前に立ちふさがる。
「ジャイ子!やめろ。何を……おい何か光って――ぎゃああぁぁあぁ!!」
 ジャイアンの叫び声が、はたと止まる。
 ワープしてしまった。
「さて、アタシも最上階まで行くわ。
 あとは任せたわよ。二人とも」
 ジャイ子はそういうと、ワープする。
 スネ夫は一歩退いた。
(まずいぞ~、これはやば~い)
スネ夫は歯噛みしながら二人を見据える。
「悪いけど、任せるって言われちゃったからね」
ヒョウタが軽く言う。
「逃がしはしません」
エリカが告げた。
(ああぁ、どうにかならないか!?
 一体どうすれば……どうすれば……どう)



 突然破壊音が空間を切り裂く。
その場の三人と二体は壁を見た。
壁が外からの衝撃によって粉々に砕けている。
その衝撃をあたえたのは鋼の怪鳥――
「エアームド?」
スネ夫の呟き通り、それはエアームドだ。
そして
「それに……のび太とハヤト!?」
 エアームドに跨っていたのはのび太とハヤトだった。
「あ、やあスネ夫!」
のび太は朗らかに手を振る。
 その時、壁の穴からまた何かが飛んできた。
いや、それは根っこでエアームドと結びついていた。
 ユキカブリとスズナだ。
「スズナさん……みんな来たんだ!」
(ひゃっほう!僕ってやっぱついてるうぅぅ!!)
スネ夫が高笑いしてる中、空から来た三人は体制を整えた。