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 ポケモンセンターの庭で、まだジャイ子とアカギは話していた。
スズナは建物の柱陰に隠れてその様子を見ていた。
 ジャイ子がアカギに紙を渡す。アカギはそれを受け取ると、ポケットに入れる。
ドンカラスが再び羽ばたきを始める。
 微かな風が、スズナに伝わった。ドンカラスの大きな影が
月明かりの中を飛び去っていく。
ジャイ子は暫く上を向いていた後、踵を返した。
 ふとその顔が硬直する。
目線の先には仁王立ちするスズナがいた。
「……あんた、何していたの?」
 スズナが鋭く問うが、ジャイ子はすぐには答えない。
代わりにジャイ子の顔には笑みが浮かんでいた。
「な~んだ、あなたか……
 お兄ちゃんにきいたわ。ユキカブリしか持っていないって」
ジャイ子はそう呟くとボールを投げる。
ボールが地に着いた瞬間、赤い閃光が駆け出す。
 咄嗟にスズナの腕がボールを掴み――
 爆発的に濛々と煙が立ち込める。
ジャイ子は怪訝そうに眉を吊り上げ、成り行きを待つ。
 煙が晴れると、そこに立っていたのは一体のみ。
ジャイ子の繰り出した赤き闘志、バシャーモだ。
辺りにスズナの姿は無い。
 ジャイ子はピンと来た。
煙じゃない、霧――そう『しろいきり』だと。
「こおりのつぶて!」
建物の入り口側から、バシャーモへ氷の塊が飛ぶ。
「無駄よ……」 ジャイ子は静かに呟いた。
バシャーモの吐いた高温の炎が、氷を水蒸気に変える。
「いくら氷を当てても、バシャーモには」「ユキカブリ!こごえるかぜ」
冷気がバシャーモを襲うが、効果は今ひとつ。
ジャイ子はスズナを探すことに専念した。
 「……一つ教えて」 どこからかスズナの声がする。
「さっきの人と何を話していたの?」



「あなたには関係ないわ」
ジャイ子は冷たく言い放った。「こっちの世界の住人のくせに」
「……どういうこと?」 遅れてスズナの声が聞こえてきた。
「ふふ、話されていないようね」 ジャイ子が笑う。
「あのお兄ちゃんにも分別があったのね」
「武が、何?」 スズナの声が伝わってくる。
「ココで話してもいいのかしら。だって……」ジャイ子は口をつぐんだ。
「どうしたの?どうして話を……!」 スズナははっとする。
 ジャイ子が気づいたのだ。
「ユキカブリ! 急いで!」 「バシャーモ、ブレイズキック」
燃え盛る炎の足が、突如伸びてきた根を焼き払う。
 ユキカブリの苦痛が聞こえてきた。
「バシャーモ!建物内よ!」 ジャイ子の耳は居場所を感知した。
バシャーモが窓の一つに触れると、それは溶け出した。
「なるほど、窓に見せかけた氷ね!」
 ジャイ子の推理通り。氷は水となり、窓が無くなった。
バシャーモは入ろうとするが、ジャイ子はそれを制す。
「バシャーモ、どうせそこにはユキカブリだけよ」
ジャイ子は思い出していた。
あのときスズナの声は確かにジャイ子に届いていた。
もし密閉された部屋からなら、声は聞こえないはず。
「まだ外にいるんでしょ!出てきなさい!」
ジャイ子は叫んだ。
 返事は無い。
「……そう、ならバシャーモ!ユキカブリを」
途端に赤い光がジャイ子の後ろの木立からあの部屋に伸びる。
 ジャイ子はニヤリとした。
ユキカブリをボールに戻している。
なら、その方向には必ず……「バシャーモ!向こうよ!」
 ジャイ子が木立を指す。



「ユキカブリ!今よ!」
スズナの命令がジャイ子を動揺させた。
「な、バシャーモ逃げ、きゃぁ!」
ジャイ子の咄嗟の命令も無駄だった。
 根はジャイ子の足元から伸び、ジャイ子を縛った。
「く、どうして……?」 ジャイ子が苦痛に呻く。
「バシャーモをボールに戻して」 スズナの要求が響く。
ジャイ子はこの場の打開策が見つからず、しかたなく従った。
「どうやら気づかなかったようね」
 バシャーモがいなくなると木立からスズナは出てきた。
ユキカブリと共に。
 ジャイ子が明らかに不思議そうな顔をしたのでスズナは笑みを浮かべる。
「あの氷はダミーよ。あたしは始めからユキカブリと一緒に逃げていたの。
 もっともこのユキカブリとだけど」
スズナが言うと、ボールをもう一つ出す。そこから出てきたのはもう一体のユキカブリ。
「こっちが部屋の中にいたユキカブリ。
 降りてくる時に置いてきたのよ。窓を開けて氷を張るよう指示してね。
 外のユキカブリがしろいきりを出してる間ねをはるでバシャーモを
 捕らえるように指示しておいた。
 あなたはバシャーモのねをはるに気づいたわ。
 でも外のユキカブリの、あなたへのねをはるには気づかなかったようね。
 それに二度目の指示がきこえたとしても、
 最初にバシャーモへ攻撃しておけばあなたは咄嗟にバシャーモのことだと思ってしまう」
 ジャイ子はふと、ジャイアンからきいたことを思い出した。
「ユキカブリしか持っていない……手持ち全部ユキカブリなの?」 するとスズナは笑う。
「そういうわけじゃないわ。武からきいたのよね。でもそれは」
「メタルクロー!!」
鋭い命令と共に、小さな体が根を切り裂いた。
 ジャイ子が解放される。
小さな体はココドラ。スズナはそれを確認した。
スズナははっとして顔をあげる。
 ジャイアンがそこにいた。



 ジャイアンの顔は険しかった。
「お兄ちゃ~ん」
ジャイ子が高い声を出しながらジャイアンに駆け寄っていく。
「……ジャイ子」 ジャイアンは優しく声をかける。「センターの入り口にいてくれ」
ジャイ子は建物の入り口へ向かった。
 ちらりと振り返るそのスズナへ向ける目は、勝ち誇っていた。
 ジャイアンはその目に気づいていない。
 ただスズナを睨んでいた。
「武……あの」「しゃべるな!!」
ジャイアンが大声で制す。「行ってくれ」
「どこへ?」「どこでもだ!この場からいなくなればどこでもな!」
 スズナは首を横に振る。「武、だから違うの!あれは」
スズナの言葉は途切れた。
 足元でココドラが見つめている。
「そうだ、ココドラ。追いやってくれ」
ジャイアンが命令する。
 ココドラはスズナを見上げていた。
スズナはまだジャイアンを見つめている。
「……話くらいきいたっていいじゃない」
「嫌だ」 ジャイアンはきっぱりと言った。「だいたい始めからおかしかった」
「何が?あたしが何したって」 「どうして俺らはこの町に着いたんだ?」
 スズナははっとする。その質問が的を射ていたからだ。
「俺は」 ジャイアンは静かに語り始めた。
「お前のタウンマップを借りた。
 よく考えれば、そのマップはお前の町へ続くマップのはず。
 そう、俺の持っていたマップとは違うはずだろ。
 それでどうして俺は、最初に持っていたマップの通りに来たんだ?
 どうして俺はお前のマップでここまで来れた?
 俺は始め、俺がジムめぐりをしていると話したから、
 お前がジムのある町を通ったんだと思った。
 でもこの町にはジムが無い。お前がここに連れてくる意味も無い。
 何故か……答えはそれしか無かった。
 あれは俺のマップ。失くしたと思っていた俺のマップだったんだ」



 ジャイアンは一息ついた。
 スズナは歯噛みしている。
「なあ、俺の言った通りなのか?」 ジャイアンは確かめた。
「……そうよ」 スズナは言った。
「あのマップはあたしが盗んだの。あんたと始めてあったあの工場でね。
 あたしがあんたと旅を共にするために」
 スズナは今までに無いほど冷たい顔をしていた。
 ジャイアンはガックリと肩を落とす。
「じゃあ、さっきのも」「違う。さっきのは」「黙ってくれ!!」
「……それはあんたでしょ」「何だと!?」
「確かにあたしはあんたを騙してたわ。
 でも、あんただってあたしを騙しているじゃない」
「……いったい何の」 気がつくと、スズナはジャイアンの目の前まで詰め寄っていた。
「あのメールは何?」
 質問は一気にジャイアンの心の底に落ちた。
「……見たのか?」 ジャイアンの問いにスズナは頷く。
「お前には関係ない」 ジャイアンはなるべく目を合わせないようにしながら答えた。
「まだあるわ」 スズナは視線を曲げずに言った。
「『この世界』ってどういうこと?」
質問は怒涛の勢いでジャイアンの心の底を突き破った。
「あんたの妹が言ってたわ。あたしがこの世界の住人って。……どういう意味?」
ジャイアンは冷や汗をかきながら首を横に振る。
「お前には関係な」「はぐらかさないで!」
 ジャイアンはスズナを睨みつけた。
 スズナもまっすぐな瞳で睨み返す。
「……行ってくれよ」「そればっかりじゃないの!!ほかに何とか」
「ココドラ!」 ジャイアンが叫ぶ。
 ココドラがスズナに飛び掛った。
 スズナはそれを避ける。
「……話してくれないってわけね」
「そうだ」 ジャイアンが断言する。
「!!……」 スズナは言葉をかみ締めて木立へ駆けていった。



 ジャイアンはスズナが見えなくなるとため息をついた。
「行ったか……ココドラ、帰rへぼぉ!?」
ココドラのメタルクローがジャイアンの頬を打つ。
ココドラは混乱するジャイアンを置いて駆け出していった。
‘兄貴の馬鹿ヤローォォ!!’その目は潤んでいた。
 ココドラはセンターの庭園まで駆けてきていた。
‘くそぉ、兄貴の野郎、何でスズナを……何で’
‘ふん、情け無いな’
突然鋭い視線を感じ、ココドラは辺りを見回す。
‘誰だ!?出てきやがれ’‘ふん。貴様のような泣き虫にだす顔など’
‘そこかぁ!’
ココドラのメタルクローが、一束の葉を襲う。
‘……な!’
ココドラの爪は葉に巻きつかれ、勢いが止まった。
‘ふん、温いな’葉の束は土から出る。
ナゾノクサだ。
‘お前、確かあのしずかとかいう奴の’
‘ほう、知っていたか。そう。しずかのパートナーだ’
‘おいこら、葉を離しやがれ! 俺はこれからスズナを探しにいくんだ’
‘いいのか?お前のパートナーが探しているぞ’
ナゾノクサの言葉をきいて、ココドラは耳を澄ましてみた。
 ジャイアンが叫んでいる。ココドラ!ココドラ!と。
‘……それがどうした’ココドラは再びナゾノクサを睨む。
‘俺は兄貴に失望したんだ。もうあんなやつのところには’
‘小僧、ふざけたことをぬかすな!’
ナゾノクサが力強く睨む。
‘お前はあいつのパートナーだろう?
 何故あいつに付かんのだ?’
‘いくらパートナーでも、気に入らなければ別に’‘必要ないと?’ココドラは頷いた。
‘ふん。お前のようなパートナーを持って、あいつも悲しいだろうな。
 別の人間に現を抜かし、逃げ出すようなパートナーとはな!
 いや、あいつにも見る目が無かったのだろう’



‘てめえ、兄貴を侮辱するな!’ココドラは歯噛みした。
‘ほう?失望していたのにもう鞍替えか?随分と甘ったるいな’
‘うるせえ!’ ココドラは爪に再び力を込め、葉から脱出する。
‘どうする?これでもまだ行くのか?’ナゾノクサは試すような視線を向ける。
‘……わかったよ。いかねえよ!’
 ココドラはジャイアンの方に体を向ける。
‘でもな’ココドラは片目をナゾノクサに向けた。
‘てめえ、いつか俺が倒してやる’
‘ほう、面白い。貴様如きが我に歯向かうと?
 貴様など手を汚さずに地に沈めてくれる’
‘当たり前だろ。手が無いんだからな!’
ココドラは非難の視線を浴びる前に駆けていった。
‘あの馬鹿め……庭園を踏み荒らしおって’ナゾノクサは舌打ちした。
 実はナゾノクサがココドラを止めたのも、ココドラが庭園を踏み荒らしたからなのだ。
だがナゾノクサは本当のことを言えない性格だった。

 センター入り口――
ジャイアンはココドラを抱えてジャイ子のところへ向かった。
「お兄ちゃん!!無事だった?」
「ああ、……なあジャイ子」
「何?」
ジャイアンは少しためらって、しゃべりだした。
「お前、スズナになんて言った?」
途端にジャイ子の顔がこわばる。
「お前、この世界が俺たちの世界とどうのこうの話したのか?」
「きいたのね」
ジャイ子は静かに言う。
「ああ、でも何が……!!」
 その時、ジャイアンの意識は、強烈な一撃と共に消えた。
「しょうがないなあ、お兄ちゃんは」
ジャイ子は不気味に告げた。



 その町のジョーイはジュンサーが来るのを待っていた。
 連絡があったのは昨日。
ジュンサーがある人を探していた。
ジョーイが覚えていたあの少年を。
 微かなエンジン音が次第に大きくなり、やがてポケモンセンターの前で止まる。
「来たわね」
ジョーイは外へ出た。
 日は既に暮れている。
 ジュンサーがバイクから降りた。
「ジュンサーです。連絡を受けて参りました」
ジョーイがお辞儀すると、ジュンサーは紙を取り出した。
「この男の子に見覚えがあるとききましたが?」
 その紙に書かれていたのは、少しポッテリした少年の姿。
ジョーイはコクンと頷いた。
「ええ、ほんの少し前にセンターに寄りました。
 この子が何か? 何かあったのですか?」
「はい。実は……驚かれるでしょうが
この子はあの悪徳建築士のミヤと繋がりがあると思われます」
 ジョーイははっとして口を抑える。
 ミヤとはおよそ一年前に近辺を騒がせた悪徳建築士。
低価格で建築を行う見た目は優しげな男性だった。
だが裏では噂に聞く闇の組織『ロケット団』と手を組んでいた。
奴は自分の建てた物件全ての床下に穴を開けていた。
そこにロケット団員がディグダで入り込み、金目のものやポケモンを盗んでいたのだ。
ミヤは牢獄に送られた。
だがその手下が今もそこら中にいるというのが専らきく都市伝説だ。
「それは……確かなのですか?」
ジョーイは恐る恐るきく。
「確かな証拠はありません。
ただ、この子がミヤと関わりがあるという証言ならあります。
私の町のジムリーダーが、その少年にミヤの関係者でしか知りえない方法で
倒されました。
さらにその少年は、私たちがミヤ建築士のものとして調べていた
テントに滞在していました。
私たちは以上のことから、その少年の捜査に乗り出しました」



「……」
ジョーイは暫く考えたあと、何かを呟いた。
「? 何です?」
ジュンサーは眉を吊り上げ、問う。
「ええ、ちょっと気になることがありまして。
 ジュンサーさんは覚えているかしら?
 この町を騒がせた下着ドロのことを」
ジュンサーは少し考えて、頷いた。
「ええ、あまりにも規模が大きいので私たちもこっちの警察と共同で
 捜査していましたから。
 確か一人のトレーナーがいなくなってから事件がパッタリとやんだとか。
 そのトレーナーが誰だったかは覚えていませんが、
 事件はもう終わったものと処理されてるはず。
 その事件が何か?」
ジョーイは一息つく。
「実は、その少年が関わっているかもしれないんです。その下着ドロと」
「何ですって!?」
ジュンサーは全く予想外のこの質問に驚いた。
「実は数日前に下着ドロが一日だけ復活したんです。
 その話を少年にした途端、少年は、そう逃げていったんです。
 わたしには彼が下着ドロと何か関わりがあるようにしか思えないんです。
 いえ、今となってはミヤ建築士とも」
「きっとそうでしょう!」
ジュンサーは声を上げ、ジョーイの肩を握る。
「ええ、あなたの証言は参考になります!
 それで、その少年はどこに?」
「はい。あのあといろいろと聞き込みをしてみたんです。
 そしたらこの町を出て、フスリの方へ向かったと」
ジュンサーは急いでメモを取り、バイクに乗り込む。
「さあ、ジョーイさんも乗って!」
「わ、わたしもですか!?」 いきなりの話にジョーイは驚いた。
「ええ、ぜひ!」 ジュンサーは半ば強引にジョーイを引き込んだ。
 バイクは町を駆け抜け、フスリへ向かう。



 朝――
まず騒いでいたのはスネ夫だ。
騒ぎを聞きつけ、最初に駆け寄ってきたのはしずか。
「どうしたの? スネ夫さん?」
スネ夫はベソをかきながらしずかに抱きつく。
「スネツグが、スネツグがいないんだぁあぁぁ」
 やがて、のび太、ハヤト、ドラえもん、出木杉がおきて来る。
そうしてやっと全員が、ジャイ子とジャイアン、スズナもいないことにきづいた。
「いったいみんなどこにいったんだろう?」
「まだこの町にいるみたいだね」 
出木杉が言う。「全員荷物はまだ部屋の中にあるよ」
「じゃあいったいどこへいってるのさ?」
スネ夫がヒステリー気味に声を出す。
 しずかは咄嗟にハヤトと目を合わせた。
ハヤトも感づいていたらしい。
「みんな、聞いてくれ」 ハヤトが話を切り出す。
「もしかしたらいなくなった奴らは、フスリの振興にいるかもしれない」
「どうしてそうなるの?」
しずかが言葉を発する。
 ハヤトはその言葉から自分を試す意図を感じ取った。
「それは……奴らは裏ではある組織と手を組んでいる。
 『ロケット団』というらしい。
 奴らは優秀なポケモンやトレーナーを集め、私利私欲のために使っている。
 ……というのが巷の都市伝説だ。
 と、兎に角、そのジャイアン殿や、他のものたちもあのビルにいる可能性が高い」
 ハヤトは嫌な汗を掻きながら話を終わらす。
 その場が暫く静かになった。
「そのビルにいってみるしか無いと思う」
そう切り出した出木杉にみんなの視線が注目する。
「表向きじゃ多分、駄目だ。こっそり侵入してみんながいるかどうか確認する。
 もしいれば助ける。いなければ他を探してみよう」



 出木杉の提案に反対するものはいなかった。
「じゃあ、班分けをしよう。そうしたほうが効率がよくなるから。
 まず誰かが――」
出木杉の言葉は大きな騒音で遮られる。
それはスピーカーのようだ。
「「民衆に告ぐ! 今すぐ『フスリの振興』正面入り口に集まれ!!」」
 その場にいた全員が外へ飛び出した。
 ハヤトが町の中央に聳える十一階建ての建物を指す。
全員がそのビルを目指して走った。
「待って!」
出木杉がみんなを制し、路地裏へ誘い込む。
「どうしたんだよ!速くいかなきゃ」
「黙って!きっとこのままいっちゃ危ない」
出木杉がスネ夫に話す。
「少し奴らの動きを待とう」
 フスリの振興正面には多くの人々が集まってきた。
「「よく来た!民衆よ!!」」
町中のスピーカーから声がする。
「「これから掲示する顔を見つけ次第、我がビル内に連れてくるのだ」」
スピーカーからその声が聞こえた途端、十一階から垂れ幕が下がる。
 垂れ幕には五人の顔が書かれていた。
その光景に一同は絶句する。
 出木杉、ドラえもん、のび太、しずか、スネ夫――
「ど、どうして僕たちの顔が!?」 スネ夫が動揺する。
「どうやら奴らから行動を始めたようだ」 出木杉が呟く。
「班分けの続きだ。僕とドラえもんが民衆を引き付ける。
 しずちゃんとスネ夫君はその隙にビルに入るんだ。
 それとのび太君とハヤトさん、君らは別の所を探してくれ。
 一度に全滅しては意味が無いからね」
 出木杉は口早に説明したが、異論は無い。
(ジャイアンじゃ絶対こうはならないな) スネ夫はふと思った。
 出木杉とドラえもんは頷きあい、表へ飛び出す。



 民衆の動きも幾らかあったようだ。
彼らは雄叫びを上げながら町中を駆け回っている。
 それでも入り口の人口はどんどん減っていった。
(ドラえもんと出木杉がうまくやっているようだな)
スネ夫は状況が好転しているのを感じてほっとした。
 のび太とハヤトは既に別れた。
(あいつらちゃんとやってくれるかな……)
スネ夫はふと心配になる。
 と、頭の中に入り口の様子が鮮明に映し出される。
実はドサクサに紛れてムウマを偵察に出していたのだ。
 入り口はガランとしている。
(ムウマ、今行く) 「行こう。しずちゃん」
「ええ」
しずかも準備が整ったようだ。
 二人は路地裏からそっと表へ出た。

 「随分簡単に入れたものだなあ」
スネ夫はつい声を出した。
 あのあと二人はムウマを落ち合って、ビルの裏手に回った。
そしてビルの裏口からムウマを忍び込ませ、鍵を開けさせた。
 通路の全てに赤い絨毯が敷かれている。
通路の両側に扉が並んでいるが、扉に看板などは掲げられていない。
「確かにちょっと不安ね……ところでスネ夫さん」
しずかに突然声を掛けられ、スネ夫は振り向く。
「なんだい?しずちゃん」
しずかは周りをちらっと見たあと、スネ夫に囁く。
「昨日あたしたちはポケモンセンターで落ち合ったけど誰が怪しいか、
気づいている?」
「怪しいって言うと、……誰がボールを盗んだかってこと?」
「はっきりとそうとは限らないけど……」
しずかの困ったような顔を見て、スネ夫の頭脳が働く。
「ああ、怪しい奴なら見当がついている」
「本当!?」 途端にしずかが明るく言う。
スネ夫はもっともらしく頷いた。



「うん。でも僕も心配なんだ。
 僕の予想も当たっているかどうかはわからない。
 だから、しずちゃんの予想もきかせてくれないかな?」
そうスネ夫が言うと、しずかは嬉しそうに頷く。
「いい? あたしの予想は……」

 無論、この時のスネ夫に見当など付いていなかった。
だがスネ夫はその重要性を悟り、しずかからききだした。

 スネ夫は何とか表情を取り繕った。
「あ、ああ、僕も似たような考えだった」
(全く、とんでもない話を聞かされたぞ……でも興味あるなあ)
思考を巡らしているスネ夫をよそに、しずかがスッキリした面持ちで前を向く。
「さ、速くいきましょ。武さんもここにいる可能性が圧倒的だし」
「うん」 (しかし、しずちゃんってこんなに頭がきれたっけ……)
スネ夫は微かな疑問を胸に、しずかについて行った。
 だがその歩みもすぐに止まる。
「何かしら?この音」
しずかは呟いた。
 何かの呻きのような、叫びのような音が通路に響いていた。
震え上がるスネ夫をよそに、しずかは一つの扉の前に立つ。
「この部屋からみたい……」
しずかはノブを握る。
「ま、待ってよ! ……あ、開けるの?」
スネ夫が不安そうに問う。
「もしかしたら武さんがこの中にいるかもしれないわ」
しずかはそう言い張った。
(確かにあの呻きは怪物みたいだけど……いや、いくらなんでも
あのジャイアンも人間だ。
 あんな怪物のような声……でもなあ)
スネ夫が不安に駆られている間に、しずかは扉を開けた。
 同時に、ゴウゴウと機械音がその場を満たす。



「……ここは?」
スネ夫は恐る恐る中を見た。
 白黒のチェッカー模様の床がまず目に映る。
部屋の脇に並んだカプセル。それぞれのカプセルが上からチューブに繋がれている。
部屋の中央には大きなテーブル。上には黒いボールが敷き詰められてある。
「これって……ゴージャスボールよね?」
しずかはボールの一つを手に取る。
 刹那、怒涛の勢いで何かが弾け、ベル音が響く。
「「実験室V『留守番システム』異常発生!! 侵入者!! 侵入者!!」」
「うるさいわね……ロックバンドの公演でもあったの?」
「いや、こんな歌詞じゃ売れないだろうねってそうじゃな――」
 そのときスネ夫は、はっと言葉を途切らす。
「何かたくさん来てるようだけぉ!?」
確かに大勢の足音が近づいてくる。
「逃げましょ――」「いたぞ!! 侵入者だ!!」 「きたああぁぁあ!!」
 スネ夫は叫びながら扉を振り返る。
『R』の紋章をつけた黒服の集団が集まっている。
「貴様ら! そこで大人しく」
 なんて言ってる間に二人はテーブルに飛び乗り駆け出す。
「スネ夫さん!! あそこ!」
しずかは正面を指差した。
 そこには二階へ続く階段がある。
「よし、あそこへ」 「貴様らぁ! 話を最後まで」 「くそ! うるさいなあの野郎!!」
 スネ夫は咄嗟に下のボールを掴み、投げつける。
驚いたことに中からはカビゴンが飛び出す。
「おぉお!!?」 ロケット団たちは突然出てきたカビゴンに立ち止まる。
 スネ夫はまた頭脳を働かせた。
「カビゴン!そいつらを抑えるんだ!!」
するとカビゴンはロケット団たちの前でどっしりと構えた。
 スネ夫の命令をきいて、ロケット団たちを抑えているのだ。
 丁度二人はテーブルから降りた。
「だったらこうしてやる!!」
スネ夫はムウマを繰り出し、サイケ光線でテーブルの端を下から持ち上げた。
 ゴージャスボールは雪崩の如くロケット団たちに襲い掛かる。



 ロケット団たちの悲鳴が聞こえる。
だが、スネ夫の作戦はこれだけではない。
 ゴージャスボールは次々と開き、中からポケモンが飛び出す。
 ハピナス、カビゴン、ルカリオ、クロバット、ミミロップ――
なつき進化するポケモンばかりだ。
 「みんな!! 壁になってくれ!!」
スネ夫が指示を出す。
 ポケモンたちは一斉にロケット団たちに襲い掛かる。
ロケット団たちの、とても文字に表せない叫びが響く。
「スネ夫さん、やったわね!」
 しずかがスネ夫に激励する。
「いやあ大した事ないよ。それより、次 部屋へ」
 二人は阿鼻叫喚をあとにして階段に向かう。
 だが、二人の前に突如、何かが飛び出してきた。
それは奇怪な叫び声を上げている。
 「こ、これは扉の前できいた声」
スネ夫はあの気味の悪いうめき声を思い出した。
「どうやらこれが音源だったようね……」
しずかは断言した。
 スネ夫は咄嗟に辺りを見渡し、一つの大きなカプセルを捕らえる。
今さっき破られたばかりのようなカプセルを。
 スネ夫の頭脳が働く。
(実験室V ――破られたカプセル――そしてこのポケモン――Rの紋章)
「どうやらこっちの世界のロケット団は」
スネ夫は目の前の怪物を見上げながら呟く。
「こんなものを実験として作っているようだね」
 怪物は叫んだ。
 各々の口から違った響きが重なり合い、凄まじい不協和音を奏でる。

それは五本首のドードリオだ。
(……いやまて、五本だからトリオじゃないのか)
スネ夫はふとそんなことを考えた。