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 ドラえもんはのび太の家の屋根に立っていた。
(みんなが旅立って丸十日……)
ドラえもんは口を真一文字に結んだまま空を見上げた。
――自分のしたことは本当によかったのだろうか?
  僕は取り返しのつかない行為をしているのではないだろうか?――
「……のび太、それにみんな」
ドラえもんは目を瞑り、室内へ戻っていった。
 町内はスパイセットとロボッターで見回っている。
その映像は常に小型テレビに送られてきていた。
 ドラえもんはそれを一瞥しながら、部屋をでた。
(どうせたいした変化が起こるはずもない)
 ふと、電話が鳴る。
静かな空間を振動させる震えは、ドラえもんを必要以上に緊張させた。
(何だろう)
ドラえもんは心の一部で呟き、また別の一部で不思議な感じをわかせていた。
 ――ロボットにも直感というのがあるのだろうか――
ドラえもんは馬鹿げたことだと思いつつも電話を取った。



 ……それはロボットの一機能なのだろうか。
それとも心を持つもの全てが偶発的に起こすものなのだろうか。
未来の科学者の力がここまでのことをできたのか、わからない。だが
 ド ラ え も ん の 予 感 は 当 た っ た
「……言いたいことはわかった」
 ドラえもんは相手にそう言った。
相手はきっと電話の向こうでにやりと笑っているのだろう。
 相手はドラえもんの不安を打破する、あることを言った。
それはドラえもん自身も大きな賭け。 それでもこれで……
おそらく相手の計画通りだろうが、ドラえもんは肯定した。
 電話は一方的に切られた。
あとに残るコール音はドラえもんの耳から、心をつついた。
(のび太くん、しずかちゃん、ジャイアン、スネ夫くん……せめて何事もないように)
 ドラえもんは気づいていない。
ドラえもんの決断は、このゲームを大きく揺るがすことになるのだ。
少年少女たちに、過酷な試練を与えると共に……



「終わったわね……」

しずかははっきりと宣告した。
 その射るような口調の前で、テッセンは顔を青くして立っていた。
(わ……わしのポケモンたちが一瞬で……しかもたった一体に)
テッセンは体を震わせながら、地面に横たわるライボルトをボールに収めた。
「わしの負けじゃ」
テッセンはそう小さく言うと、しずかに歩み寄った。
「テッセンさん。気にしなくていいわ」
しずかはバッジを受け取りながら言う。
「でんきタイプのジムですもの。
 たとえじめんタイプを出されてもでんきだけで戦ったのは偉いわ」
 その言葉は優しかった。
テッセンはそのとき初めて、しずかが年相応の子供に見えた。
テッセンは胸を撫で下ろす。
(ああ、そうじゃ。タイプの相性が悪かっただけ。
 それ以外の何でもないわい。
 一体この少女に何があると思っていたんじゃ? わしは。
 優しそうな少女じゃないか……)
テッセンは自然と笑顔になり、しずかを見送った。

 しずかはジムを一瞥し、溜め息をついた。
「所詮まだ序盤ってことね」
しずかは帰路につく。



 ポケモンセンターはトレーナー用の宿場でもある。
だがしずかが生きていく上で最低限必要なものはかけていた。
しずかは昼間のうちに、その渇望を満たしてくれる建物を見つけていた。
鼻歌混じりにくぐった暖簾。
そこには象徴が書かれている。
血のように赤い中三本の歪められた線が楕円の中から突き出ているマーク――
……要するに銭湯である。

 しずかは湯につかり、欲望の満たされる感覚に酔いしれていた。
周りには人がいない。しずかは浴場を占領していた。
温かい乳白色の湯はしずかの疲労した体を清める。
 ここ数日、しずかは精神的に疲労していた。
ポケモンは野生と戦わせておけば自分から技のレパートリーを増やす。
しずかはその技を確認しては戦闘方法を編み出し、ポケモンに教えていた。
(でも、まだ足りないのよ……何かが)
しずかは眉に皺を寄せた。ここ数日、ずっとやってきたことだ。
 やがてしずかは、その「満たされない欲望」をまた心にしまいこみ、湯をでた。
 だ が、 そ の 時 は 異 常 に 早 く 来 た。
「……?」
しずかは服を入れた籠の中に、メールが置いてあることに気づいた。
しずかはそのメールを手に取り、広げる。

 ――しずかは単調なゲームの世界に飽きていたのだ
  しずかの欲望、それはゲームのように操られている状態から脱すること――



 しずかは口元に笑みを浮かべ、メールをたたんだ。
地の色がグレーで、コイルのマークがついたメール。
その宛名にはある組織の名が書かれていた。
――鋼同盟――と。


 ――夜が明ける頃。
ジャイアンは霧の中、野営地へ戻ってきた。
ここ最近ジャイアンは体力を上げるため早朝じょぎんをしているのだ。
ジャイアンは足踏みをゆっくりと止め、一息つく。
と、その時自分のテントの入り口に何かが置かれていることにきづいた。
かたいいしが重石になり、「それ」が風で飛ばされるのを防いでいる。
「……何だこれ……?」
 ジャイアンは軽く首を傾げる。
「それ」はメールだった。

「……武?」
突然声を掛けられ、ジャイアンは狼狽した。
程なくその声が、テントから出てきたスズナのものとわかる。
「な、なんだよスズナ! おどかすなよ」
ジャイアンは苦笑いしながら手を後ろに回す。
「おどかしてなんか……あれ、今何か隠さなかった?」
スズナの鋭い指摘に、ジャイアンは首を傾げた。
「さ、さあ知らないなぁ」
ジャイアンの素振りを怪しがるスズナ。だが、



 ジャイアンはスズナの後ろをだれかが通った気がして、首だけ振り返る。
「 ?今何か通ったか?」 
ジャイアンの急な話題変換にスズナはますます訝しがる。
 しかしスズナのテントから物音が聞こえてくると、その様子は消えた。
ジャイアンもスズナのテントを見つめる。
「何かいるみたいだな」
ジャイアンはそういうとテントに入った。

 (ふう、さて今のうちに)
ジャイアンはテントに完全に入るとメールをポケットにしまった。
 そのメールの色はグレー、そしてコイルのマーク。
宛名には――鋼同盟――の文字。なぜなら彼もまた……
 ジャイアンはふと目の前にいる「そいつ」に気づいた。
「て、てめえ! なにしてやが――!」
ジャイアンの怒鳴り声は途切れ、「そいつ」はテントから飛び出した。

「な、なに!?」
スズナは自分のテントから飛び出した小動物に驚く。
青い仔犬のような顔に子供のような小さい体のポケモン。それは
「リオル!?」
スズナは滅多に野生ではお目にかからないそのポケモンの名を叫んだ。
「そういうポケモンなのか。あいつは」
ジャイアンはテントから出てきた。



 リオルはジャイアンと間合いを取る。
ジャイアンはココドラを繰り出した。
「……スズナ、あれ、取り替えそうか?」
ジャイアンはどこか恥ずかしげに問う。
「え? 一体何を盗まれたの? ねえ」 「あれだよ、あれ」
ジャイアンはリオルを指差した。
 よく見るとリオルの手にはひらひらと……
 ココドラはそれに気づいていた。
気づいた瞬間、リオルに対してたった一つの感情しかわかなかった。
‘メ几
  木又,
「……うん。お願い」
スズナは消え入るように答えた。
「よし、ココドラ! 思う存分やれ!」 
 ココドラは目に殺意しか浮かべずに突撃していく。



「ココドラ、頭突き!」
ココドラが踏み込む。リオル目掛けて。
だがリオルはでんこうせっかで左へ逃げ、攻撃は空を切る。
 ココドラは着地ざま右前足を軸にリオルへ向く。
刹那、リオルの手刀がココドラの首を捕らえる。
苦痛を上げるココドラ。 「ココドラ! メタルクロー!」 
その目は再び活力、いや殺意を戻す。
 硬度の上がった爪が瞬時にリオルを裂く。
リオルは顔を歪め、膝をつく。
「ココドラ、とっしん」
突撃するココドラの気迫に、思わずリオルは目をつぶる。
 しかしココドラはリオルを襲わず、脇を通り抜けた。
しっかりスズナの下着を奪い返して……

 リオルがゆっくり目を開けると、目の前にジャイアンが仁王立ちしていた。
‘……何だよ。俺に何の用だ……’といった目つきでジャイアンを睨むリオル。
ジャイアンは無表情から、次第に顔を綻ばす。
「お前、なかなか強いな!」
ジャイアンはリオルを撫でて、テントに戻っていった。
 呆然と立ち尽くすリオルを残して……



「スズナ~、もう行くぞ」
ジャイアンは苛立ちながらスズナを待っている。
 ジャイアンはとっくにテントを片し、荷物をまとめていた。
「ま~だ。 髪がまだなの」
ジャイアンはスズナの言い訳に歯噛みした。
「そんなに時間がかかるくらいならその髪全部切っちゃえ……いや待てよ。
 そうすると弱点が無くなっちまうじゃんか。
 じゃあ一体どうすれば……どうなるんだっけ? あれ?」
 ジャイアンは慣れないことをぶつぶつ呟きながら頭を抱えた。
その試みはスズナがテントを片すまで続いていた。
「ほら、もう行くよ!」
完全に立場が逆転したところで、ジャイアンははっとする。
「スズナ、どうして空は青いんだ?」  「青いから青いんでしょ」
ジャイアンなりに複雑に絡み合った思考からの質問をさらりと返される。
そこでようやくジャイアンは元に戻った。
 ところが、歩き始めてすぐに、二人は気づいた。
振り返ると、そこにリオルが立っていた。
リオルはジャイアンを見上げている。‘仲間に入れてくれ' という風に……
 ジャイアンにもその想いが伝わったらしい。
ジャイアンはリオルに近寄り、モンスターボールを取り出す。
そのスイッチがリオルの額に触れると、リオルはボールに吸収された。
 不満そうなスズナをよそに、ジャイアンは立ち上がる。
「さあて、次の町へ行こうか」
 それから次の町に着くまでは意外と早かった。