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シンオウ冒険譚 その3」(2008/03/15 (土) 22:06:13) の最新版変更点

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[[前へ>シンオウ冒険譚 その2]]           現在の状況 ・のび太 203番道路 手持ち  ヒコザル ♂ LV13      モモン(コリンク) ♂ LV9 ・静香  203番道路 手持ち  ペンちゃん(ポッチャマ) ♂ LV15      ムーちゃん(ムウマ) ♀ LV15 ・スネ夫 ??? 手持ち  エル(ナエトル) ♂ LV12 ・出木杉 ??? 手持ち  ミニリュウ ♂ LV16      ユンゲラー ♂ LV17      他不明 ----   ――クロガネジム―― 「ペンちゃん、泡」 の攻撃に、ジムリーダー・ヒョウタのズガイトスが怯む。 この攻撃で、静香は既にイワークを撃破していた。 静香の戦い方は見事だった。 相性で有利とはいえ、敵を寄せつけずに完封している。 それにくらべて、僕は…… ――ルーキー狩りとの勝負、勝ったのは僕だった。 衝突の瞬間、エレキッドの攻撃は成功しなかった。 幸運なことに、連発していた雷パンチのPPが切れていたのだ。 でも、所詮それは運に助けられただけの結果。 PP切れがなければ、きっと僕は負けていた。 安易な挑発にのって、何レベルも上の敵に突っ込んで行って…… ホント、馬鹿みたいだ。 「もう一度泡!」 ダメ押しといわんばかりの泡攻撃で、ズガイトスが崩れ落ちた。 敵の残りポケモンはもういない、ということは…… 「やった! 静香ちゃんの勝ちだ!」 思わず、観客席のベンチから飛び上がってしまった。 フィールドでは、静香がペンちゃんを笑顔で抱きかかえている。 と、その時。 突然、ペンちゃんの体が眩い光に包まれた。 「まさか……」 話は何度も聞いているが、生で見るのは初めてだ。 ポケモンの、進化を見るのは…… ---- 光が消えた時、そこにいたのは今までのペンちゃんではなかった。 体は倍以上大きくなり、つぶらな瞳は小さく鋭くなり、何よりいままでより逞しく見えた。 「し、しんかした……ペンちゃんが……」 静香も僕と同じく、しばらく呆然としていた。 おそらく彼女も、進化を生で見るのは初めてだったのだろう。 それが自分の腕の中で起こったのだから、尚更のことだ。 「進化したか……おめでとう、静香さん」 歩み寄ってきてヒョウタの一言で、静香はようやくその事実に気付いたようだ。 先程よりもよりも何倍も眩しい笑顔で、ポッタイシになったペンちゃんを抱きかかえている。 しばらくして、バッジを受け取った静香が僕のところへ戻って来た。 「バッジゲットとペンちゃんの進化、おめでとう」 僕がそう言うと、静香は照れくさそうに笑みを浮かべた。 そしてその後、やや真剣な顔に戻って言う。 「次はのび太さんの番ね、がんばって」 そう、続いては僕がヒョウタに挑む番だ。 僕は意を決して、フィールドへと近づいて行く。 一歩、また一歩と近づいて行く。 ヒョウタが戦いに備えてポケモンを回復させているのが見えた。 胸の鼓動が激しさを増して行く。 今までにないくらい、緊張しているのだ。 ようやくフィールドに辿り着いた僕は、大声でヒョウタに呼びかけた。 「よ、よ、よろちっ……よろしくおねがいします!」 ---- 正面にいるヒョウタが、苦笑いを浮かべてボールを構える。 いきなり噛んでしまったが、バトルではこうはいかせない。 覚悟を決め、ヒコザルのモンスターボールを放り投げた。 敵はイワーク、ヒコザルの苦手な岩タイプだ。 こちらの手持ちのタイプは炎・雷……敵の使う岩タイプには不利だ。 しかも、モモンには多くを期待できない。 最低でも、ヒコザルだけでイワークは倒さなければ…… 「イワーク、体当たりだ!」 ヒョウタの命令を聞き、迫り来るイワーク。 ヒコザルは、ジャンプしてあっさりとそれをかわす。 そして、上空から火の粉を放って攻撃する。 「よし、いいぞヒコザル! その調子だ!」 思い描いていた通りの展開に、ニンマリと笑みを浮かべる。 先の静香のバトルで、イワークのスピードを観察させてもらった。 巨体にしては意外と素早い動きだった。 だがヒコザルなら、あの程度はなんなく避けられる。 そういう確信があったから、“敵の攻撃を避けつつひたすら火の粉を撃つ”という作戦に出たのだ。 ……そして、どうやらその作戦は的中のようだ。 イワークの体当たりを、ヒコザルはまたも難なくかわす。 その姿を見て、自信が生まれてくる。 この勝負、勝てるかもしれない。 ---- 「凄いね、君のヒコザル。 体当たりを当てられる気が、全くしないや」 ふと、ヒョウタがそんなことを言って苦笑いする。 僕は嬉しそうに、「ありがとうございます」と返す。 それを聞いたヒョウタは、またも笑みを浮かべて言う。 「だから、もう直接攻撃はしないことにするよ」 こんどは苦笑いではなく、楽しそうに笑っていた。 「イワーク、岩落としだ!」 ヒョウタの命令と共に、イワークがいくつもの岩を宙から降らせる。 「まずい、あれに当たったらかなりのダメージが!」 ヒコザルは、フィールドを縦横無尽に駆け回る。 そして、岩の一つ一つを丁寧にかわして行く。 「へえ……この技も見事に避けるとはね。 でも――」 彼が言おうとしたその続きは、なんとなく予想できた。 『このままでは、ヒコザルは攻撃に転じることができない』 そう言いたかったのだろう。 このままいくと、いずれ岩が命中してやられてしまう。 そうなる前に、どうにかしなくてはならない。 なら―― 「ヒコザル、岩を避けながら火の粉!」 僕が命令すると、ヒコザルは一瞬躊躇いを見せながらも、それを実行する。 効果はいま一つとはいえ、何度も火の粉を浴びたイワークはだいぶ弱っている。 「よし、いけるぞヒコザ…… 「甘いよ、のび太君」 僕の嬉しそうな声を、ヒョウタが遮る。 その時だった。 ヒコザルの頭上に、巨大な岩が迫っていたのは。 ---- フィールドに響き渡る、鈍い音。 次いで目に入ってきた、うずくまるヒコザル。 その姿を見て、ヒョウタが声を上げる。 「よし、この隙に体当たり!」 イワークが、その重い体をヒコザルへと近づけて行く。 「まずい! ヒコザル、立って!」 とっさに、そう叫んでいた。 だが、ヒコザルは動けない。 岩落としのダメージは、相当なものだったようだ。 次の瞬間。  ヒコザルはイワークと衝突し、吹っ飛ばされた。 「ヒコザル、戦闘不能!」 審判員であるジムの門下生の声が響き渡った。 「ヒ、ヒコザル! 大丈夫か!」 慌てて、ヒコザルに駆け寄る。 ヒコザルは笑みをつくり小さく頷いた。 「お疲れ様、休んでいいよ」 僕はそう言って、ヒコザルをモンスターボールに戻した。 これで残りは一体、後がなくなってしまった。 ---- 「慌てて、無理やり攻撃に転じようとしたのが失敗だったね。 火の粉のほうに気が向いて、守りが疎かになってしまったみたいだ」 ヒョウタのアドバイスが、痛いほど身にしみた。 こちらは残り1体、しかもレベルでも相性でも不利なモモンだ。 おまけにモモンは、これが始めての戦闘である。 不安要素を挙げ始めたら、キリがない。 これじゃあ、九分九厘負けは決まったようなものだ。 でも、もしかしたら勝てるかもしれない…… 心の底で、そんな淡い希望を抱いていた。 敵は2体といっても、1体目のイワークはもう倒れかけだ。 うまくイワークを切り抜けて、相性で互角なズガイトスと一対一に持ち込む。 後は……なるようになるさ、きっと。 もしかしたら、モモンが物凄く強い可能性だってあるんだし。 そんなふうに考えて、必死に希望を見いだす。 そしてその希望に縋りながら、モモンのボールを投げた。 ----           現在の状況 ・のび太 クロガネジム 手持ち  ヒコザル ♂ LV13      モモン(コリンク) ♂ LV9 ・静香  クロガネジム 手持ち  ペンちゃん(ポッタイシ) ♂ LV16      ムーちゃん(ムウマ) ♀ LV15 ・スネ夫 ??? 手持ち  エル(ナエトル) ♂ LV12 ・出木杉 ??? 手持ち  ミニリュウ ♂ LV16      ユンゲラー ♂ LV17      他不明 ---- ボールから出てきたモモンは、キョロキョロと辺りを見回す。 どうやら、初めてのバトルに戸惑っているようだ。 ふと顔を見上げると、そこにいるのは自分の何十倍も大きなイワーク。 そして、そのイワークと目が合う。 瞬間、イワークは激しい雄叫びを上げる。 モモンの体が、硬直した。 思えばこの時、すでに勝負はついていたのかもしれない。 「イワーク、体当たり!」 ヒョウタの命令で、イワークが迫ってくる。 「モモン、避けて体当たり!」 それくらいしか戦略を思いつかなかった僕は、慌てて命令する。 だが、モモンは動かない。 ……いや、動けないというべきか。 そして、イワークの体当たりが直撃した。 「モ、モモン! だ、大丈夫か?」 慌てて叫ぶと、モモンはなんとか立ち上がった。 だが、そのダメージはかなり深刻そうだ。 よく見ると、その目は完全に怯えきっていた。 「もう一度、体当たり!」 再び、イワークが迫り来る。 モモンは、必死に走ってその攻撃から逃れようとする。 「いいぞモモン、体当たりで反撃するんだ!」 僕は、ガッツポーズを取りながら命令する。 だが、モモンはその言葉の通りには行動してくれない。 モモンは、ただひたすらに逃げ回っていた。 ---- それから2分ほどたったが、依然状況は変わらない。 モモンは、一心不乱にイワークが逃げ続けている。 「どうしたモモン、なんで反撃しないんだ!」 僕が、怒りの篭った声で言う。 だが、その言葉はモモンに届かない。 「のび太さん、もう無理よ!」 静香の声が聞こえてくる。 たぶん、もうバトルを止めろと言いたいのだろう。 でも、でも…… バトルはまだ、終わったわけじゃないんだ。 ここで止めるなんて、ただの“逃げ”じゃないか。 そんな時突然、イワークの姿が消えた。 ヒョウタが、ボールの中に戻したのだ。 「審判、もうバトルは終わりだ」 彼は冷ややかに、そう宣言した。 「え……あ、はい! 以上でこの試合を終了とする!」 審判は戸惑い、慌てて試合終了の宣言をする。 ---- 「どういうことですか、ヒョウタさん! まだ、バトルは終わってなかったじゃないですか!」 勝負を終わらせたヒョウタに、僕は食って掛かる。 納得がいかなかった。 こんなふうに挑戦を退けられるなんて、あんまりだ。 「どういうことと言われても…… 見ての通り、もうこれ以上戦う必要はないと判断したからさ」 当然のように言い放つヒョウタに、僕はますます怒りを覚える。 「そんなの……やってみなきゃ分からないじゃないですか!」 僕がそう言った、ヒョウタは少々語気を強めて言い返した。 「いい加減にするんだ、のび太君。 ……先程のバトル、君のコリンクがどれだけ苦しんでいたか気付かなかったのかい? あんな怯えきったポケモンに、バトルを強制するなんて…… あんなのは……ただの“虐待”だよ」 その言葉を聞いた瞬間、目の前が真っ白になった気がした。 “虐待”だって? 僕が、モモンを? そんなわけがない、モモンは僕の大切な仲間だ。 ――でも、でも何故だろうか。 ヒョウタに、反論するための言葉が見つからないのは…… ---- それから、何分ほどの時間が経ったのだろうか? 僕はずっと、顔を俯けたまま立ち尽くしていた。 近くで、ヒョウタが門下生に何か話しているのが見えた。 『あの挑戦者のようなバトルは、してはいけないよ』 そんな風な、アドバイスをしているのかもしれない。 悔しかった。 悔しかったが、やはり否定することはできない。 「のび太さん……」 静香が、心配そうに近づいてきた。 僕は、まだ顔を上げることができない。 「初めてのジム戦で、いろいろ戸惑っていたのはわかる。 ……でも、私もヒョウタさんと同じ意見なの」 「えっ?」 静香の目にも、映ったのだろうか。 僕が、モモンを虐待しているように…… 「のび太さんの目には、バトルに勝つことしか映ってないみたいだった。 正直、モモンがかわいそうだったわ……」 静香はそう言ったあと、黙り込んでしまった。 しばらく気まずい沈黙が続く…… ---- それからはジムを出て、ポケモンセンターまで無言で歩いていった。 ポケモンを回復させるため、二つのモンスターボールを取り出す。 その時ふと、モモンの様子が気にかかった。 ボールから、モモンを出してみる。 その時、愕然とした。 モモンの目は、態度は、明らかに僕を避けていたのだ。 一度目があったが、またすぐに目をそらされる。 こんな姿、全く想像がつかない。 仲間になった時は、あんなに幸せそうだったモモンからは…… 「のび太さん……」 傍らにいる静香が、何か言おうとして止めた。 僕はそんな彼女の目を見て問う。 「ねえ、静香ちゃん。 ……やっぱり、僕は間違っていたのかな?」 彼女は少し躊躇ったあと、小さく「おそらく」と呟いた。 「そっか、そうだよね……」 僕も同じように小さく呟き、モモンをボールにしまった。 ---- 自分自身を戒めるように、頬を強くつねってみた。 自分が、歯がゆくて仕方がなかった。 ポケモンの気持ちなど全く考えず、ただ勝つためだけにバトルをしていた自分が。 今のモモンに、僕の姿はどう映っているのだろうか? おそらく、もうパートナーとしては見てくれていないんじゃないのか? そんな疑問が頭の中を駆け巡り、自分がますます嫌になった。 ――そして僕は決意したんだ。 不甲斐ない、自分に別れを告げようと。 少しでも、ポケモンたちのパートナーに近づこうと。 「ねえ、静香ちゃん。」 静香に向き合って、自分の真剣な気持ちを告げる。 「僕は、もう一度モモンのパートナーに戻りたい。 そして、再びジム戦に挑んで勝ちたい。 今日みたいな、独りよがりな戦いじゃなく…… 今度は、今度はヒコザルやモモンと一緒に!」 「のび太さん、私……」 静香はしばらく呆然とした後、僕に微笑みかけた。 「そう言ってくれて、嬉しいわ」 その言葉につられ、僕の顔にも自然と笑みが浮かんだ。 ---- それからしばらく、静香とこれからのことを話して合った。 「とりあえず、もっとレベルを上げなきゃきついわね…… 思い切って、新しいポケモンを捕獲するって手もあるけど?」 「悪くないけど……僕はいまの2匹でもう一度戦おうって決めてるんだ。」 静香の提案に、そう答える。 今度も、ヒコザルとモモンとともに戦って勝とう。 その決意を、曲げるつもりはなかった。 「そう。 だったら、問題はレベル上げをする場所だけど……」 「うーん、どこにするべきかな……」 そうやって僕らが悩んでいるところに、誰かが歩み寄ってきた。 灰色の作業服に、黒縁の眼鏡…… つい先程バトルをしたジムリーダー、ヒョウタだった。 どうやら、彼もポケモンを回復させに来たみたいだ 「レベル上げなら、クロガネ炭鉱をおすすめするよ。 あそこの野性ポケモンはそこそこレベルが高いし、何より岩ポケモンが多いからジム戦の対策もできる」 「でも、あそこって許可がないと入れないんでしょう……」 ヒョウタの提案を聞いた静香が、残念そうに呟く。 「大丈夫。 僕は、あの炭鉱の責任者でもあるんだ。 僕が許可するから、遠慮なく使うといい」 彼がそう言うと、静香は嬉しそうに微笑んだ。 そんな様子を見ていた僕は、怪訝そうに問う。 「ありがたいんですけど……なんで僕にそこまでしてくれるんですか?」 ---- ヒョウタはつい先程、僕を非難したばかりだ。 それなのに、今度は僕の力になろうとしている。 そのことが不思議でたまらなかったのだ。 そんな僕の問いに、ヒョウタは恥ずかしそうに頭を掻きながら答える。 「いやあ、さっきのあれはちょっといいすぎちゃったよ。 つい熱くなっちゃって……やっぱり僕はジムリーダーとしてはまだまだみたいだよ。 それに……」 「それに?」 「全ての挑戦者たちの、可能性を伸ばしてあげる…… それが、ジムリーダーたる者の使命なんだよ。 君の再挑戦を、楽しみにしているよ」 ヒョウタはそう言うと、僕たちに背を向けて去って行った。 僕はその背中に小さく「ありがとう」と呟いた。 その後回復したポケモンを受け取った僕は、静香に告げる。 「行こう、クロガネ炭鉱へ! そしてそこで腕を磨いて、もう一度ヒョウタさんに挑むんだ!」 ――たぶん、僕は今やっとスタート地点に着いたんだ。 ポケモンマスターになるための、長く険しい道のりの。 そして、今から始まるんだ。 ジム戦という、最初の壁を越えるための挑戦が。 ----
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手持ち  エル(ナエトル) ♂ LV12 ・出木杉 ??? 手持ち  ミニリュウ ♂ LV16      ユンゲラー ♂ LV17      他不明 ---- ボールから出てきたモモンは、キョロキョロと辺りを見回す。 どうやら、初めてのバトルに戸惑っているようだ。 ふと顔を見上げると、そこにいるのは自分の何十倍も大きなイワーク。 そして、そのイワークと目が合う。 瞬間、イワークは激しい雄叫びを上げる。 モモンの体が、硬直した。 思えばこの時、すでに勝負はついていたのかもしれない。 「イワーク、体当たり!」 ヒョウタの命令で、イワークが迫ってくる。 「モモン、避けて体当たり!」 それくらいしか戦略を思いつかなかった僕は、慌てて命令する。 だが、モモンは動かない。 ……いや、動けないというべきか。 そして、イワークの体当たりが直撃した。 「モ、モモン! だ、大丈夫か?」 慌てて叫ぶと、モモンはなんとか立ち上がった。 だが、そのダメージはかなり深刻そうだ。 よく見ると、その目は完全に怯えきっていた。 「もう一度、体当たり!」 再び、イワークが迫り来る。 モモンは、必死に走ってその攻撃から逃れようとする。 「いいぞモモン、体当たりで反撃するんだ!」 僕は、ガッツポーズを取りながら命令する。 だが、モモンはその言葉の通りには行動してくれない。 モモンは、ただひたすらに逃げ回っていた。 ---- それから2分ほどたったが、依然状況は変わらない。 モモンは、一心不乱にイワークから逃げ続けている。 「どうしたモモン、なんで反撃しないんだ!」 僕が、怒りの篭った声で言う。 だが、その言葉はモモンに届かない。 「のび太さん、もう無理よ!」 静香の声が聞こえてくる。 たぶん、もうバトルを止めろと言いたいのだろう。 でも、でも…… バトルはまだ、終わったわけじゃないんだ。 ここで止めるなんて、ただの“逃げ”じゃないか。 そんな時突然、イワークの姿が消えた。 ヒョウタが、ボールの中に戻したのだ。 「審判、もうバトルは終わりだ」 彼は冷ややかに、そう宣言した。 「え……あ、はい! 以上でこの試合を終了とする!」 審判は戸惑い、慌てて試合終了の宣言をする。 ---- 「どういうことですか、ヒョウタさん! まだ、バトルは終わってなかったじゃないですか!」 勝負を終わらせたヒョウタに、僕は食って掛かる。 納得がいかなかった。 こんなふうに挑戦を退けられるなんて、あんまりだ。 「どういうことと言われても…… 見ての通り、もうこれ以上戦う必要はないと判断したからさ」 当然のように言い放つヒョウタに、僕はますます怒りを覚える。 「そんなの……やってみなきゃ分からないじゃないですか!」 僕がそう言った、ヒョウタは少々語気を強めて言い返した。 「いい加減にするんだ、のび太君。 ……先程のバトル、君のコリンクがどれだけ苦しんでいたか気付かなかったのかい? あんな怯えきったポケモンに、バトルを強制するなんて…… あんなのは……ただの“虐待”だよ」 その言葉を聞いた瞬間、目の前が真っ白になった気がした。 “虐待”だって? 僕が、モモンを? そんなわけがない、モモンは僕の大切な仲間だ。 ――でも、でも何故だろうか。 ヒョウタに、反論するための言葉が見つからないのは…… ---- それから、何分ほどの時間が経ったのだろうか? 僕はずっと、顔を俯けたまま立ち尽くしていた。 近くで、ヒョウタが門下生に何か話しているのが見えた。 『あの挑戦者のようなバトルは、してはいけないよ』 そんな風な、アドバイスをしているのかもしれない。 悔しかった。 悔しかったが、やはり否定することはできない。 「のび太さん……」 静香が、心配そうに近づいてきた。 僕は、まだ顔を上げることができない。 「初めてのジム戦で、いろいろ戸惑っていたのはわかる。 ……でも、私もヒョウタさんと同じ意見なの」 「えっ?」 静香の目にも、映ったのだろうか。 僕が、モモンを虐待しているように…… 「のび太さんの目には、バトルに勝つことしか映ってないみたいだった。 正直、モモンがかわいそうだったわ……」 静香はそう言ったあと、黙り込んでしまった。 しばらく気まずい沈黙が続く…… ---- それからはジムを出て、ポケモンセンターまで無言で歩いていった。 ポケモンを回復させるため、二つのモンスターボールを取り出す。 その時ふと、モモンの様子が気にかかった。 ボールから、モモンを出してみる。 その時、愕然とした。 モモンの目は、態度は、明らかに僕を避けていたのだ。 一度目があったが、またすぐに目をそらされる。 こんな姿、全く想像がつかない。 仲間になった時は、あんなに幸せそうだったモモンからは…… 「のび太さん……」 傍らにいる静香が、何か言おうとして止めた。 僕はそんな彼女の目を見て問う。 「ねえ、静香ちゃん。 ……やっぱり、僕は間違っていたのかな?」 彼女は少し躊躇ったあと、小さく「おそらく」と呟いた。 「そっか、そうだよね……」 僕も同じように小さく呟き、モモンをボールにしまった。 ---- 自分自身を戒めるように、頬を強くつねってみた。 自分が、歯がゆくて仕方がなかった。 ポケモンの気持ちなど全く考えず、ただ勝つためだけにバトルをしていた自分が。 今のモモンに、僕の姿はどう映っているのだろうか? おそらく、もうパートナーとしては見てくれていないんじゃないのか? そんな疑問が頭の中を駆け巡り、自分がますます嫌になった。 ――そして僕は決意したんだ。 不甲斐ない、自分に別れを告げようと。 少しでも、ポケモンたちのパートナーに近づこうと。 「ねえ、静香ちゃん。」 静香に向き合って、自分の真剣な気持ちを告げる。 「僕は、もう一度モモンのパートナーに戻りたい。 そして、再びジム戦に挑んで勝ちたい。 今日みたいな、独りよがりな戦いじゃなく…… 今度は、今度はヒコザルやモモンと一緒に!」 「のび太さん、私……」 静香はしばらく呆然とした後、僕に微笑みかけた。 「そう言ってくれて、嬉しいわ」 その言葉につられ、僕の顔にも自然と笑みが浮かんだ。 ---- それからしばらく、静香とこれからのことを話して合った。 「とりあえず、もっとレベルを上げなきゃきついわね…… 思い切って、新しいポケモンを捕獲するって手もあるけど?」 「悪くないけど……僕はいまの2匹でもう一度戦おうって決めてるんだ。」 静香の提案に、そう答える。 今度も、ヒコザルとモモンとともに戦って勝とう。 その決意を、曲げるつもりはなかった。 「そう。 だったら、問題はレベル上げをする場所だけど……」 「うーん、どこにするべきかな……」 そうやって僕らが悩んでいるところに、誰かが歩み寄ってきた。 灰色の作業服に、黒縁の眼鏡…… つい先程バトルをしたジムリーダー、ヒョウタだった。 どうやら、彼もポケモンを回復させに来たみたいだ 「レベル上げなら、クロガネ炭鉱をおすすめするよ。 あそこの野性ポケモンはそこそこレベルが高いし、何より岩ポケモンが多いからジム戦の対策もできる」 「でも、あそこって許可がないと入れないんでしょう……」 ヒョウタの提案を聞いた静香が、残念そうに呟く。 「大丈夫。 僕は、あの炭鉱の責任者でもあるんだ。 僕が許可するから、遠慮なく使うといい」 彼がそう言うと、静香は嬉しそうに微笑んだ。 そんな様子を見ていた僕は、怪訝そうに問う。 「ありがたいんですけど……なんで僕にそこまでしてくれるんですか?」 ---- ヒョウタはつい先程、僕を非難したばかりだ。 それなのに、今度は僕の力になろうとしている。 そのことが不思議でたまらなかったのだ。 そんな僕の問いに、ヒョウタは恥ずかしそうに頭を掻きながら答える。 「いやあ、さっきのあれはちょっといいすぎちゃったよ。 つい熱くなっちゃって……やっぱり僕はジムリーダーとしてはまだまだみたいだよ。 それに……」 「それに?」 「全ての挑戦者たちの、可能性を伸ばしてあげる…… それが、ジムリーダーたる者の使命なんだよ。 君の再挑戦を、楽しみにしているよ」 ヒョウタはそう言うと、僕たちに背を向けて去って行った。 僕はその背中に小さく「ありがとう」と呟いた。 その後回復したポケモンを受け取った僕は、静香に告げる。 「行こう、クロガネ炭鉱へ! そしてそこで腕を磨いて、もう一度ヒョウタさんに挑むんだ!」 ――たぶん、僕は今やっとスタート地点に着いたんだ。 ポケモンマスターになるための、長く険しい道のりの。 そして、今から始まるんだ。 ジム戦という、最初の壁を越えるための挑戦が。 ----

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