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「シンオウ冒険譚 その3」(2008/03/15 (土) 22:06:13) の最新版変更点
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現在の状況
・のび太 203番道路
手持ち ヒコザル ♂ LV13
モモン(コリンク) ♂ LV9
・静香 203番道路
手持ち ペンちゃん(ポッチャマ) ♂ LV15
ムーちゃん(ムウマ) ♀ LV15
・スネ夫 ???
手持ち エル(ナエトル) ♂ LV12
・出木杉 ???
手持ち ミニリュウ ♂ LV16
ユンゲラー ♂ LV17
他不明
----
――クロガネジム――
「ペンちゃん、泡」
の攻撃に、ジムリーダー・ヒョウタのズガイトスが怯む。
この攻撃で、静香は既にイワークを撃破していた。
静香の戦い方は見事だった。
相性で有利とはいえ、敵を寄せつけずに完封している。
それにくらべて、僕は……
――ルーキー狩りとの勝負、勝ったのは僕だった。
衝突の瞬間、エレキッドの攻撃は成功しなかった。
幸運なことに、連発していた雷パンチのPPが切れていたのだ。
でも、所詮それは運に助けられただけの結果。
PP切れがなければ、きっと僕は負けていた。
安易な挑発にのって、何レベルも上の敵に突っ込んで行って……
ホント、馬鹿みたいだ。
「もう一度泡!」
ダメ押しといわんばかりの泡攻撃で、ズガイトスが崩れ落ちた。
敵の残りポケモンはもういない、ということは……
「やった! 静香ちゃんの勝ちだ!」
思わず、観客席のベンチから飛び上がってしまった。
フィールドでは、静香がペンちゃんを笑顔で抱きかかえている。
と、その時。
突然、ペンちゃんの体が眩い光に包まれた。
「まさか……」
話は何度も聞いているが、生で見るのは初めてだ。
ポケモンの、進化を見るのは……
----
光が消えた時、そこにいたのは今までのペンちゃんではなかった。
体は倍以上大きくなり、つぶらな瞳は小さく鋭くなり、何よりいままでより逞しく見えた。
「し、しんかした……ペンちゃんが……」
静香も僕と同じく、しばらく呆然としていた。
おそらく彼女も、進化を生で見るのは初めてだったのだろう。
それが自分の腕の中で起こったのだから、尚更のことだ。
「進化したか……おめでとう、静香さん」
歩み寄ってきてヒョウタの一言で、静香はようやくその事実に気付いたようだ。
先程よりもよりも何倍も眩しい笑顔で、ポッタイシになったペンちゃんを抱きかかえている。
しばらくして、バッジを受け取った静香が僕のところへ戻って来た。
「バッジゲットとペンちゃんの進化、おめでとう」
僕がそう言うと、静香は照れくさそうに笑みを浮かべた。
そしてその後、やや真剣な顔に戻って言う。
「次はのび太さんの番ね、がんばって」
そう、続いては僕がヒョウタに挑む番だ。
僕は意を決して、フィールドへと近づいて行く。
一歩、また一歩と近づいて行く。
ヒョウタが戦いに備えてポケモンを回復させているのが見えた。
胸の鼓動が激しさを増して行く。
今までにないくらい、緊張しているのだ。
ようやくフィールドに辿り着いた僕は、大声でヒョウタに呼びかけた。
「よ、よ、よろちっ……よろしくおねがいします!」
----
正面にいるヒョウタが、苦笑いを浮かべてボールを構える。
いきなり噛んでしまったが、バトルではこうはいかせない。
覚悟を決め、ヒコザルのモンスターボールを放り投げた。
敵はイワーク、ヒコザルの苦手な岩タイプだ。
こちらの手持ちのタイプは炎・雷……敵の使う岩タイプには不利だ。
しかも、モモンには多くを期待できない。
最低でも、ヒコザルだけでイワークは倒さなければ……
「イワーク、体当たりだ!」
ヒョウタの命令を聞き、迫り来るイワーク。
ヒコザルは、ジャンプしてあっさりとそれをかわす。
そして、上空から火の粉を放って攻撃する。
「よし、いいぞヒコザル! その調子だ!」
思い描いていた通りの展開に、ニンマリと笑みを浮かべる。
先の静香のバトルで、イワークのスピードを観察させてもらった。
巨体にしては意外と素早い動きだった。
だがヒコザルなら、あの程度はなんなく避けられる。
そういう確信があったから、“敵の攻撃を避けつつひたすら火の粉を撃つ”という作戦に出たのだ。
……そして、どうやらその作戦は的中のようだ。
イワークの体当たりを、ヒコザルはまたも難なくかわす。
その姿を見て、自信が生まれてくる。
この勝負、勝てるかもしれない。
----
「凄いね、君のヒコザル。
体当たりを当てられる気が、全くしないや」
ふと、ヒョウタがそんなことを言って苦笑いする。
僕は嬉しそうに、「ありがとうございます」と返す。
それを聞いたヒョウタは、またも笑みを浮かべて言う。
「だから、もう直接攻撃はしないことにするよ」
こんどは苦笑いではなく、楽しそうに笑っていた。
「イワーク、岩落としだ!」
ヒョウタの命令と共に、イワークがいくつもの岩を宙から降らせる。
「まずい、あれに当たったらかなりのダメージが!」
ヒコザルは、フィールドを縦横無尽に駆け回る。
そして、岩の一つ一つを丁寧にかわして行く。
「へえ……この技も見事に避けるとはね。 でも――」
彼が言おうとしたその続きは、なんとなく予想できた。
『このままでは、ヒコザルは攻撃に転じることができない』
そう言いたかったのだろう。
このままいくと、いずれ岩が命中してやられてしまう。
そうなる前に、どうにかしなくてはならない。
なら――
「ヒコザル、岩を避けながら火の粉!」
僕が命令すると、ヒコザルは一瞬躊躇いを見せながらも、それを実行する。
効果はいま一つとはいえ、何度も火の粉を浴びたイワークはだいぶ弱っている。
「よし、いけるぞヒコザ…… 「甘いよ、のび太君」
僕の嬉しそうな声を、ヒョウタが遮る。
その時だった。
ヒコザルの頭上に、巨大な岩が迫っていたのは。
----
フィールドに響き渡る、鈍い音。
次いで目に入ってきた、うずくまるヒコザル。
その姿を見て、ヒョウタが声を上げる。
「よし、この隙に体当たり!」
イワークが、その重い体をヒコザルへと近づけて行く。
「まずい! ヒコザル、立って!」
とっさに、そう叫んでいた。
だが、ヒコザルは動けない。
岩落としのダメージは、相当なものだったようだ。
次の瞬間。
ヒコザルはイワークと衝突し、吹っ飛ばされた。
「ヒコザル、戦闘不能!」
審判員であるジムの門下生の声が響き渡った。
「ヒ、ヒコザル! 大丈夫か!」
慌てて、ヒコザルに駆け寄る。
ヒコザルは笑みをつくり小さく頷いた。
「お疲れ様、休んでいいよ」
僕はそう言って、ヒコザルをモンスターボールに戻した。
これで残りは一体、後がなくなってしまった。
----
「慌てて、無理やり攻撃に転じようとしたのが失敗だったね。
火の粉のほうに気が向いて、守りが疎かになってしまったみたいだ」
ヒョウタのアドバイスが、痛いほど身にしみた。
こちらは残り1体、しかもレベルでも相性でも不利なモモンだ。
おまけにモモンは、これが始めての戦闘である。
不安要素を挙げ始めたら、キリがない。
これじゃあ、九分九厘負けは決まったようなものだ。
でも、もしかしたら勝てるかもしれない……
心の底で、そんな淡い希望を抱いていた。
敵は2体といっても、1体目のイワークはもう倒れかけだ。
うまくイワークを切り抜けて、相性で互角なズガイトスと一対一に持ち込む。
後は……なるようになるさ、きっと。
もしかしたら、モモンが物凄く強い可能性だってあるんだし。
そんなふうに考えて、必死に希望を見いだす。
そしてその希望に縋りながら、モモンのボールを投げた。
----
現在の状況
・のび太 クロガネジム
手持ち ヒコザル ♂ LV13
モモン(コリンク) ♂ LV9
・静香 クロガネジム
手持ち ペンちゃん(ポッタイシ) ♂ LV16
ムーちゃん(ムウマ) ♀ LV15
・スネ夫 ???
手持ち エル(ナエトル) ♂ LV12
・出木杉 ???
手持ち ミニリュウ ♂ LV16
ユンゲラー ♂ LV17
他不明
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ボールから出てきたモモンは、キョロキョロと辺りを見回す。
どうやら、初めてのバトルに戸惑っているようだ。
ふと顔を見上げると、そこにいるのは自分の何十倍も大きなイワーク。
そして、そのイワークと目が合う。
瞬間、イワークは激しい雄叫びを上げる。
モモンの体が、硬直した。
思えばこの時、すでに勝負はついていたのかもしれない。
「イワーク、体当たり!」
ヒョウタの命令で、イワークが迫ってくる。
「モモン、避けて体当たり!」
それくらいしか戦略を思いつかなかった僕は、慌てて命令する。
だが、モモンは動かない。
……いや、動けないというべきか。
そして、イワークの体当たりが直撃した。
「モ、モモン! だ、大丈夫か?」
慌てて叫ぶと、モモンはなんとか立ち上がった。
だが、そのダメージはかなり深刻そうだ。
よく見ると、その目は完全に怯えきっていた。
「もう一度、体当たり!」
再び、イワークが迫り来る。
モモンは、必死に走ってその攻撃から逃れようとする。
「いいぞモモン、体当たりで反撃するんだ!」
僕は、ガッツポーズを取りながら命令する。
だが、モモンはその言葉の通りには行動してくれない。
モモンは、ただひたすらに逃げ回っていた。
----
それから2分ほどたったが、依然状況は変わらない。
モモンは、一心不乱にイワークが逃げ続けている。
「どうしたモモン、なんで反撃しないんだ!」
僕が、怒りの篭った声で言う。
だが、その言葉はモモンに届かない。
「のび太さん、もう無理よ!」
静香の声が聞こえてくる。
たぶん、もうバトルを止めろと言いたいのだろう。
でも、でも……
バトルはまだ、終わったわけじゃないんだ。
ここで止めるなんて、ただの“逃げ”じゃないか。
そんな時突然、イワークの姿が消えた。
ヒョウタが、ボールの中に戻したのだ。
「審判、もうバトルは終わりだ」
彼は冷ややかに、そう宣言した。
「え……あ、はい!
以上でこの試合を終了とする!」
審判は戸惑い、慌てて試合終了の宣言をする。
----
「どういうことですか、ヒョウタさん!
まだ、バトルは終わってなかったじゃないですか!」
勝負を終わらせたヒョウタに、僕は食って掛かる。
納得がいかなかった。
こんなふうに挑戦を退けられるなんて、あんまりだ。
「どういうことと言われても……
見ての通り、もうこれ以上戦う必要はないと判断したからさ」
当然のように言い放つヒョウタに、僕はますます怒りを覚える。
「そんなの……やってみなきゃ分からないじゃないですか!」
僕がそう言った、ヒョウタは少々語気を強めて言い返した。
「いい加減にするんだ、のび太君。
……先程のバトル、君のコリンクがどれだけ苦しんでいたか気付かなかったのかい?
あんな怯えきったポケモンに、バトルを強制するなんて……
あんなのは……ただの“虐待”だよ」
その言葉を聞いた瞬間、目の前が真っ白になった気がした。
“虐待”だって?
僕が、モモンを?
そんなわけがない、モモンは僕の大切な仲間だ。
――でも、でも何故だろうか。
ヒョウタに、反論するための言葉が見つからないのは……
----
それから、何分ほどの時間が経ったのだろうか?
僕はずっと、顔を俯けたまま立ち尽くしていた。
近くで、ヒョウタが門下生に何か話しているのが見えた。
『あの挑戦者のようなバトルは、してはいけないよ』
そんな風な、アドバイスをしているのかもしれない。
悔しかった。
悔しかったが、やはり否定することはできない。
「のび太さん……」
静香が、心配そうに近づいてきた。
僕は、まだ顔を上げることができない。
「初めてのジム戦で、いろいろ戸惑っていたのはわかる。
……でも、私もヒョウタさんと同じ意見なの」
「えっ?」
静香の目にも、映ったのだろうか。
僕が、モモンを虐待しているように……
「のび太さんの目には、バトルに勝つことしか映ってないみたいだった。
正直、モモンがかわいそうだったわ……」
静香はそう言ったあと、黙り込んでしまった。
しばらく気まずい沈黙が続く……
----
それからはジムを出て、ポケモンセンターまで無言で歩いていった。
ポケモンを回復させるため、二つのモンスターボールを取り出す。
その時ふと、モモンの様子が気にかかった。
ボールから、モモンを出してみる。
その時、愕然とした。
モモンの目は、態度は、明らかに僕を避けていたのだ。
一度目があったが、またすぐに目をそらされる。
こんな姿、全く想像がつかない。
仲間になった時は、あんなに幸せそうだったモモンからは……
「のび太さん……」
傍らにいる静香が、何か言おうとして止めた。
僕はそんな彼女の目を見て問う。
「ねえ、静香ちゃん。
……やっぱり、僕は間違っていたのかな?」
彼女は少し躊躇ったあと、小さく「おそらく」と呟いた。
「そっか、そうだよね……」
僕も同じように小さく呟き、モモンをボールにしまった。
----
自分自身を戒めるように、頬を強くつねってみた。
自分が、歯がゆくて仕方がなかった。
ポケモンの気持ちなど全く考えず、ただ勝つためだけにバトルをしていた自分が。
今のモモンに、僕の姿はどう映っているのだろうか?
おそらく、もうパートナーとしては見てくれていないんじゃないのか?
そんな疑問が頭の中を駆け巡り、自分がますます嫌になった。
――そして僕は決意したんだ。
不甲斐ない、自分に別れを告げようと。
少しでも、ポケモンたちのパートナーに近づこうと。
「ねえ、静香ちゃん。」
静香に向き合って、自分の真剣な気持ちを告げる。
「僕は、もう一度モモンのパートナーに戻りたい。
そして、再びジム戦に挑んで勝ちたい。
今日みたいな、独りよがりな戦いじゃなく……
今度は、今度はヒコザルやモモンと一緒に!」
「のび太さん、私……」
静香はしばらく呆然とした後、僕に微笑みかけた。
「そう言ってくれて、嬉しいわ」
その言葉につられ、僕の顔にも自然と笑みが浮かんだ。
----
それからしばらく、静香とこれからのことを話して合った。
「とりあえず、もっとレベルを上げなきゃきついわね……
思い切って、新しいポケモンを捕獲するって手もあるけど?」
「悪くないけど……僕はいまの2匹でもう一度戦おうって決めてるんだ。」
静香の提案に、そう答える。
今度も、ヒコザルとモモンとともに戦って勝とう。
その決意を、曲げるつもりはなかった。
「そう。 だったら、問題はレベル上げをする場所だけど……」
「うーん、どこにするべきかな……」
そうやって僕らが悩んでいるところに、誰かが歩み寄ってきた。
灰色の作業服に、黒縁の眼鏡……
つい先程バトルをしたジムリーダー、ヒョウタだった。
どうやら、彼もポケモンを回復させに来たみたいだ
「レベル上げなら、クロガネ炭鉱をおすすめするよ。
あそこの野性ポケモンはそこそこレベルが高いし、何より岩ポケモンが多いからジム戦の対策もできる」
「でも、あそこって許可がないと入れないんでしょう……」
ヒョウタの提案を聞いた静香が、残念そうに呟く。
「大丈夫。 僕は、あの炭鉱の責任者でもあるんだ。
僕が許可するから、遠慮なく使うといい」
彼がそう言うと、静香は嬉しそうに微笑んだ。
そんな様子を見ていた僕は、怪訝そうに問う。
「ありがたいんですけど……なんで僕にそこまでしてくれるんですか?」
----
ヒョウタはつい先程、僕を非難したばかりだ。
それなのに、今度は僕の力になろうとしている。
そのことが不思議でたまらなかったのだ。
そんな僕の問いに、ヒョウタは恥ずかしそうに頭を掻きながら答える。
「いやあ、さっきのあれはちょっといいすぎちゃったよ。
つい熱くなっちゃって……やっぱり僕はジムリーダーとしてはまだまだみたいだよ。
それに……」
「それに?」
「全ての挑戦者たちの、可能性を伸ばしてあげる……
それが、ジムリーダーたる者の使命なんだよ。
君の再挑戦を、楽しみにしているよ」
ヒョウタはそう言うと、僕たちに背を向けて去って行った。
僕はその背中に小さく「ありがとう」と呟いた。
その後回復したポケモンを受け取った僕は、静香に告げる。
「行こう、クロガネ炭鉱へ!
そしてそこで腕を磨いて、もう一度ヒョウタさんに挑むんだ!」
――たぶん、僕は今やっとスタート地点に着いたんだ。
ポケモンマスターになるための、長く険しい道のりの。
そして、今から始まるんだ。
ジム戦という、最初の壁を越えるための挑戦が。
----
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現在の状況
・のび太 203番道路
手持ち ヒコザル ♂ LV13
モモン(コリンク) ♂ LV9
・静香 203番道路
手持ち ペンちゃん(ポッチャマ) ♂ LV15
ムーちゃん(ムウマ) ♀ LV15
・スネ夫 ???
手持ち エル(ナエトル) ♂ LV12
・出木杉 ???
手持ち ミニリュウ ♂ LV16
ユンゲラー ♂ LV17
他不明
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――クロガネジム――
「ペンちゃん、泡」
の攻撃に、ジムリーダー・ヒョウタのズガイトスが怯む。
この攻撃で、静香は既にイワークを撃破していた。
静香の戦い方は見事だった。
相性で有利とはいえ、敵を寄せつけずに完封している。
それにくらべて、僕は……
――ルーキー狩りとの勝負、勝ったのは僕だった。
衝突の瞬間、エレキッドの攻撃は成功しなかった。
幸運なことに、連発していた雷パンチのPPが切れていたのだ。
でも、所詮それは運に助けられただけの結果。
PP切れがなければ、きっと僕は負けていた。
安易な挑発にのって、何レベルも上の敵に突っ込んで行って……
ホント、馬鹿みたいだ。
「もう一度泡!」
ダメ押しといわんばかりの泡攻撃で、ズガイトスが崩れ落ちた。
敵の残りポケモンはもういない、ということは……
「やった! 静香ちゃんの勝ちだ!」
思わず、観客席のベンチから飛び上がってしまった。
フィールドでは、静香がペンちゃんを笑顔で抱きかかえている。
と、その時。
突然、ペンちゃんの体が眩い光に包まれた。
「まさか……」
話は何度も聞いているが、生で見るのは初めてだ。
ポケモンの、進化を見るのは……
----
光が消えた時、そこにいたのは今までのペンちゃんではなかった。
体は倍以上大きくなり、つぶらな瞳は小さく鋭くなり、何よりいままでより逞しく見えた。
「し、しんかした……ペンちゃんが……」
静香も僕と同じく、しばらく呆然としていた。
おそらく彼女も、進化を生で見るのは初めてだったのだろう。
それが自分の腕の中で起こったのだから、尚更のことだ。
「進化したか……おめでとう、静香さん」
歩み寄ってきてヒョウタの一言で、静香はようやくその事実に気付いたようだ。
先程よりもよりも何倍も眩しい笑顔で、ポッタイシになったペンちゃんを抱きかかえている。
しばらくして、バッジを受け取った静香が僕のところへ戻って来た。
「バッジゲットとペンちゃんの進化、おめでとう」
僕がそう言うと、静香は照れくさそうに笑みを浮かべた。
そしてその後、やや真剣な顔に戻って言う。
「次はのび太さんの番ね、がんばって」
そう、続いては僕がヒョウタに挑む番だ。
僕は意を決して、フィールドへと近づいて行く。
一歩、また一歩と近づいて行く。
ヒョウタが戦いに備えてポケモンを回復させているのが見えた。
胸の鼓動が激しさを増して行く。
今までにないくらい、緊張しているのだ。
ようやくフィールドに辿り着いた僕は、大声でヒョウタに呼びかけた。
「よ、よ、よろちっ……よろしくおねがいします!」
----
正面にいるヒョウタが、苦笑いを浮かべてボールを構える。
いきなり噛んでしまったが、バトルではこうはいかせない。
覚悟を決め、ヒコザルのモンスターボールを放り投げた。
敵はイワーク、ヒコザルの苦手な岩タイプだ。
こちらの手持ちのタイプは炎・雷……敵の使う岩タイプには不利だ。
しかも、モモンには多くを期待できない。
最低でも、ヒコザルだけでイワークは倒さなければ……
「イワーク、体当たりだ!」
ヒョウタの命令を聞き、迫り来るイワーク。
ヒコザルは、ジャンプしてあっさりとそれをかわす。
そして、上空から火の粉を放って攻撃する。
「よし、いいぞヒコザル! その調子だ!」
思い描いていた通りの展開に、ニンマリと笑みを浮かべる。
先の静香のバトルで、イワークのスピードを観察させてもらった。
巨体にしては意外と素早い動きだった。
だがヒコザルなら、あの程度はなんなく避けられる。
そういう確信があったから、“敵の攻撃を避けつつひたすら火の粉を撃つ”という作戦に出たのだ。
……そして、どうやらその作戦は的中のようだ。
イワークの体当たりを、ヒコザルはまたも難なくかわす。
その姿を見て、自信が生まれてくる。
この勝負、勝てるかもしれない。
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「凄いね、君のヒコザル。
体当たりを当てられる気が、全くしないや」
ふと、ヒョウタがそんなことを言って苦笑いする。
僕は嬉しそうに、「ありがとうございます」と返す。
それを聞いたヒョウタは、またも笑みを浮かべて言う。
「だから、もう直接攻撃はしないことにするよ」
こんどは苦笑いではなく、楽しそうに笑っていた。
「イワーク、岩落としだ!」
ヒョウタの命令と共に、イワークがいくつもの岩を宙から降らせる。
「まずい、あれに当たったらかなりのダメージが!」
ヒコザルは、フィールドを縦横無尽に駆け回る。
そして、岩の一つ一つを丁寧にかわして行く。
「へえ……この技も見事に避けるとはね。 でも――」
彼が言おうとしたその続きは、なんとなく予想できた。
『このままでは、ヒコザルは攻撃に転じることができない』
そう言いたかったのだろう。
このままいくと、いずれ岩が命中してやられてしまう。
そうなる前に、どうにかしなくてはならない。
なら――
「ヒコザル、岩を避けながら火の粉!」
僕が命令すると、ヒコザルは一瞬躊躇いを見せながらも、それを実行する。
効果はいま一つとはいえ、何度も火の粉を浴びたイワークはだいぶ弱っている。
「よし、いけるぞヒコザ…… 「甘いよ、のび太君」
僕の嬉しそうな声を、ヒョウタが遮る。
その時だった。
ヒコザルの頭上に、巨大な岩が迫っていたのは。
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フィールドに響き渡る、鈍い音。
次いで目に入ってきた、うずくまるヒコザル。
その姿を見て、ヒョウタが声を上げる。
「よし、この隙に体当たり!」
イワークが、その重い体をヒコザルへと近づけて行く。
「まずい! ヒコザル、立って!」
とっさに、そう叫んでいた。
だが、ヒコザルは動けない。
岩落としのダメージは、相当なものだったようだ。
次の瞬間。
ヒコザルはイワークと衝突し、吹っ飛ばされた。
「ヒコザル、戦闘不能!」
審判員であるジムの門下生の声が響き渡った。
「ヒ、ヒコザル! 大丈夫か!」
慌てて、ヒコザルに駆け寄る。
ヒコザルは笑みをつくり小さく頷いた。
「お疲れ様、休んでいいよ」
僕はそう言って、ヒコザルをモンスターボールに戻した。
これで残りは一体、後がなくなってしまった。
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「慌てて、無理やり攻撃に転じようとしたのが失敗だったね。
火の粉のほうに気が向いて、守りが疎かになってしまったみたいだ」
ヒョウタのアドバイスが、痛いほど身にしみた。
こちらは残り1体、しかもレベルでも相性でも不利なモモンだ。
おまけにモモンは、これが始めての戦闘である。
不安要素を挙げ始めたら、キリがない。
これじゃあ、九分九厘負けは決まったようなものだ。
でも、もしかしたら勝てるかもしれない……
心の底で、そんな淡い希望を抱いていた。
敵は2体といっても、1体目のイワークはもう倒れかけだ。
うまくイワークを切り抜けて、相性で互角なズガイトスと一対一に持ち込む。
後は……なるようになるさ、きっと。
もしかしたら、モモンが物凄く強い可能性だってあるんだし。
そんなふうに考えて、必死に希望を見いだす。
そしてその希望に縋りながら、モモンのボールを投げた。
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現在の状況
・のび太 クロガネジム
手持ち ヒコザル ♂ LV13
モモン(コリンク) ♂ LV9
・静香 クロガネジム
手持ち ペンちゃん(ポッタイシ) ♂ LV16
ムーちゃん(ムウマ) ♀ LV15
・スネ夫 ???
手持ち エル(ナエトル) ♂ LV12
・出木杉 ???
手持ち ミニリュウ ♂ LV16
ユンゲラー ♂ LV17
他不明
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ボールから出てきたモモンは、キョロキョロと辺りを見回す。
どうやら、初めてのバトルに戸惑っているようだ。
ふと顔を見上げると、そこにいるのは自分の何十倍も大きなイワーク。
そして、そのイワークと目が合う。
瞬間、イワークは激しい雄叫びを上げる。
モモンの体が、硬直した。
思えばこの時、すでに勝負はついていたのかもしれない。
「イワーク、体当たり!」
ヒョウタの命令で、イワークが迫ってくる。
「モモン、避けて体当たり!」
それくらいしか戦略を思いつかなかった僕は、慌てて命令する。
だが、モモンは動かない。
……いや、動けないというべきか。
そして、イワークの体当たりが直撃した。
「モ、モモン! だ、大丈夫か?」
慌てて叫ぶと、モモンはなんとか立ち上がった。
だが、そのダメージはかなり深刻そうだ。
よく見ると、その目は完全に怯えきっていた。
「もう一度、体当たり!」
再び、イワークが迫り来る。
モモンは、必死に走ってその攻撃から逃れようとする。
「いいぞモモン、体当たりで反撃するんだ!」
僕は、ガッツポーズを取りながら命令する。
だが、モモンはその言葉の通りには行動してくれない。
モモンは、ただひたすらに逃げ回っていた。
----
それから2分ほどたったが、依然状況は変わらない。
モモンは、一心不乱にイワークから逃げ続けている。
「どうしたモモン、なんで反撃しないんだ!」
僕が、怒りの篭った声で言う。
だが、その言葉はモモンに届かない。
「のび太さん、もう無理よ!」
静香の声が聞こえてくる。
たぶん、もうバトルを止めろと言いたいのだろう。
でも、でも……
バトルはまだ、終わったわけじゃないんだ。
ここで止めるなんて、ただの“逃げ”じゃないか。
そんな時突然、イワークの姿が消えた。
ヒョウタが、ボールの中に戻したのだ。
「審判、もうバトルは終わりだ」
彼は冷ややかに、そう宣言した。
「え……あ、はい!
以上でこの試合を終了とする!」
審判は戸惑い、慌てて試合終了の宣言をする。
----
「どういうことですか、ヒョウタさん!
まだ、バトルは終わってなかったじゃないですか!」
勝負を終わらせたヒョウタに、僕は食って掛かる。
納得がいかなかった。
こんなふうに挑戦を退けられるなんて、あんまりだ。
「どういうことと言われても……
見ての通り、もうこれ以上戦う必要はないと判断したからさ」
当然のように言い放つヒョウタに、僕はますます怒りを覚える。
「そんなの……やってみなきゃ分からないじゃないですか!」
僕がそう言った、ヒョウタは少々語気を強めて言い返した。
「いい加減にするんだ、のび太君。
……先程のバトル、君のコリンクがどれだけ苦しんでいたか気付かなかったのかい?
あんな怯えきったポケモンに、バトルを強制するなんて……
あんなのは……ただの“虐待”だよ」
その言葉を聞いた瞬間、目の前が真っ白になった気がした。
“虐待”だって?
僕が、モモンを?
そんなわけがない、モモンは僕の大切な仲間だ。
――でも、でも何故だろうか。
ヒョウタに、反論するための言葉が見つからないのは……
----
それから、何分ほどの時間が経ったのだろうか?
僕はずっと、顔を俯けたまま立ち尽くしていた。
近くで、ヒョウタが門下生に何か話しているのが見えた。
『あの挑戦者のようなバトルは、してはいけないよ』
そんな風な、アドバイスをしているのかもしれない。
悔しかった。
悔しかったが、やはり否定することはできない。
「のび太さん……」
静香が、心配そうに近づいてきた。
僕は、まだ顔を上げることができない。
「初めてのジム戦で、いろいろ戸惑っていたのはわかる。
……でも、私もヒョウタさんと同じ意見なの」
「えっ?」
静香の目にも、映ったのだろうか。
僕が、モモンを虐待しているように……
「のび太さんの目には、バトルに勝つことしか映ってないみたいだった。
正直、モモンがかわいそうだったわ……」
静香はそう言ったあと、黙り込んでしまった。
しばらく気まずい沈黙が続く……
----
それからはジムを出て、ポケモンセンターまで無言で歩いていった。
ポケモンを回復させるため、二つのモンスターボールを取り出す。
その時ふと、モモンの様子が気にかかった。
ボールから、モモンを出してみる。
その時、愕然とした。
モモンの目は、態度は、明らかに僕を避けていたのだ。
一度目があったが、またすぐに目をそらされる。
こんな姿、全く想像がつかない。
仲間になった時は、あんなに幸せそうだったモモンからは……
「のび太さん……」
傍らにいる静香が、何か言おうとして止めた。
僕はそんな彼女の目を見て問う。
「ねえ、静香ちゃん。
……やっぱり、僕は間違っていたのかな?」
彼女は少し躊躇ったあと、小さく「おそらく」と呟いた。
「そっか、そうだよね……」
僕も同じように小さく呟き、モモンをボールにしまった。
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自分自身を戒めるように、頬を強くつねってみた。
自分が、歯がゆくて仕方がなかった。
ポケモンの気持ちなど全く考えず、ただ勝つためだけにバトルをしていた自分が。
今のモモンに、僕の姿はどう映っているのだろうか?
おそらく、もうパートナーとしては見てくれていないんじゃないのか?
そんな疑問が頭の中を駆け巡り、自分がますます嫌になった。
――そして僕は決意したんだ。
不甲斐ない、自分に別れを告げようと。
少しでも、ポケモンたちのパートナーに近づこうと。
「ねえ、静香ちゃん。」
静香に向き合って、自分の真剣な気持ちを告げる。
「僕は、もう一度モモンのパートナーに戻りたい。
そして、再びジム戦に挑んで勝ちたい。
今日みたいな、独りよがりな戦いじゃなく……
今度は、今度はヒコザルやモモンと一緒に!」
「のび太さん、私……」
静香はしばらく呆然とした後、僕に微笑みかけた。
「そう言ってくれて、嬉しいわ」
その言葉につられ、僕の顔にも自然と笑みが浮かんだ。
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それからしばらく、静香とこれからのことを話して合った。
「とりあえず、もっとレベルを上げなきゃきついわね……
思い切って、新しいポケモンを捕獲するって手もあるけど?」
「悪くないけど……僕はいまの2匹でもう一度戦おうって決めてるんだ。」
静香の提案に、そう答える。
今度も、ヒコザルとモモンとともに戦って勝とう。
その決意を、曲げるつもりはなかった。
「そう。 だったら、問題はレベル上げをする場所だけど……」
「うーん、どこにするべきかな……」
そうやって僕らが悩んでいるところに、誰かが歩み寄ってきた。
灰色の作業服に、黒縁の眼鏡……
つい先程バトルをしたジムリーダー、ヒョウタだった。
どうやら、彼もポケモンを回復させに来たみたいだ
「レベル上げなら、クロガネ炭鉱をおすすめするよ。
あそこの野性ポケモンはそこそこレベルが高いし、何より岩ポケモンが多いからジム戦の対策もできる」
「でも、あそこって許可がないと入れないんでしょう……」
ヒョウタの提案を聞いた静香が、残念そうに呟く。
「大丈夫。 僕は、あの炭鉱の責任者でもあるんだ。
僕が許可するから、遠慮なく使うといい」
彼がそう言うと、静香は嬉しそうに微笑んだ。
そんな様子を見ていた僕は、怪訝そうに問う。
「ありがたいんですけど……なんで僕にそこまでしてくれるんですか?」
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ヒョウタはつい先程、僕を非難したばかりだ。
それなのに、今度は僕の力になろうとしている。
そのことが不思議でたまらなかったのだ。
そんな僕の問いに、ヒョウタは恥ずかしそうに頭を掻きながら答える。
「いやあ、さっきのあれはちょっといいすぎちゃったよ。
つい熱くなっちゃって……やっぱり僕はジムリーダーとしてはまだまだみたいだよ。
それに……」
「それに?」
「全ての挑戦者たちの、可能性を伸ばしてあげる……
それが、ジムリーダーたる者の使命なんだよ。
君の再挑戦を、楽しみにしているよ」
ヒョウタはそう言うと、僕たちに背を向けて去って行った。
僕はその背中に小さく「ありがとう」と呟いた。
その後回復したポケモンを受け取った僕は、静香に告げる。
「行こう、クロガネ炭鉱へ!
そしてそこで腕を磨いて、もう一度ヒョウタさんに挑むんだ!」
――たぶん、僕は今やっとスタート地点に着いたんだ。
ポケモンマスターになるための、長く険しい道のりの。
そして、今から始まるんだ。
ジム戦という、最初の壁を越えるための挑戦が。
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