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トキワ英雄伝説 その14」(2008/02/12 (火) 17:33:21) の最新版変更点

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[[前へ>トキワ英雄伝説 その13]]        #31「決断」 ―――ドラえもんが、Mr.ゼロ…… 「う、うそでしょ……ドラえもんが、Mr.ゼロだなんて……」 突然投げかけられた真実に、戸惑いと悲しみを隠しきれないのび太。 そんなのび太を、ドラえもんの言葉が追い詰めていく。 「うそなんかじゃないさ。 この大会を取り仕切っていたのは、僕とドラミの2人なのさ」 「そ、そんな……」 のび太が床に膝をつく。 いままでずっと、憎んできた男。 みんなの命を守るため、戦わねばならない……“敵”。 それがまさか、自分にとって何よりも大切な存在だったドラえもんだとは…… 「のび太君、きみは先程僕たちと戦うと言ったよね。 つまりそれは、この僕と戦うということになるんだよ」 「僕が、ドラえもんと……」 突きつけられた非情な現実に、苦しむのび太。 同じくショックを受けている仲間たちは、彼を見守ることしかできない。 「辛いのなら、やめた方がいい。 どうせ最初から、君たちに勝ち目などないのだから……」 ドラえもんは、冷酷に言い放った。 ---- 「僕は、僕は……」 のび太が両手で顔を覆い、うずくまる。 みんなを救うためには、ドラミやドラえもんと戦わなければならない。 それは、あまりにも酷なことだった。 でも自分が逃げ出せば、この大会の出場者全員が死ぬことになる。 ―――だから自分は、ドラえもんと戦わなければいけない。 本当は、自分の取るべき道など分かっていた。 みんなを見殺しにすることなど、絶対にできない…… でも、決心がつかなかった。 ドラえもんと戦うのが、怖くてたまらなかった。 他の人に、決断をゆだねてしまいたい。 自らの口で、ドラえもんと戦うことを宣言するのが嫌だった。 ……そうだ。 このまま誰かが決断するのを待てばいいじゃないか。 いくら自分がドラーズのリーダーだからといって、全ての決定をゆだねられる義務はない。 だいたい、こんなに心の弱い自分がリーダーになったこと自体が間違いだったのだ。 きっと誰かが、自分に代わって決断を下してくれるはずだ。 だから、それを待つことにしよう…… 「……ねえ、みんな」 のび太が待ち続けることを決めた時だった。 「この決断は、のび太さんに任せるべきだと思うの」 静香が、強い意志を持った言葉を発したのは…… ---- のび太はうつむいたまま、静香の言葉の続きを待っていた。 他の3人も、無言で静香の方を見つめている。 「確かに私たちも、ドラちゃんたちと戦うのはつらい。 私なんていまだに、必死に今起こっていることを信じまいとしている。 ……でも、のび太さんは私なんかとは比べ物にならないくらい悲しいはずなの」 (なら……そう思うなら放っておいてくれよ。) のび太は、俯いたままそう考える。 自分がこの決断をするのがいかにつらいか分かっているのなら、何故自分にそれを押し付けようとするんだ。 怒りにも似た感情が、のび太の胸にこみ上げてくる。 「のび太君は、だれよりも深いショックを受けている。 そう思うのなら、彼に決断を任せない方がいいんじゃないのかい?」 いままで黙っていた出木杉が、思わず口を開く。 「本当は、そうする方がのび太さんにとっていいことなのかもしれない。 でも……この決断は非常に重要なことよ。 だからやっぱり……私は、この決断はだれよりもドラちゃんに関わってきたのび太さんに任せるべきだと思うの」 静香が話を終えると、再び場は静まり返る。 と、そのとき、いままで黙り込んでいた男が口を開いた。 「僕も、静香ちゃんの意見に賛成だな」 声の主は……スネ夫だ。 ---- 「僕は、のび太とドラえもんの絆がいかに深いかを昔から見てきた。 だからやっぱり、この決断を任せられるのはのび太しかいないと思う」 いままでこういうときは、あまり自分の意見を言おうとしなかったスネ夫。 そんな彼の一言には、彼の強い意志が感じられた。 「確かに、それが正しいのかもしれないね……」 「当然、俺も賛成だぜ!」 出木杉とジャイアンも、2人の言葉に動かされるようにして発言した。 そして、4人の視線がのび太へと集まる。 「僕は、僕は……」 ―――ドラえもんと、戦う 続く言葉が、なかなか口から出てこない。 頭の中では、結論は出ているのに…… あと少し、勇気が足りなかった。 ---- 「のび太君……僕たちは君がどんな道を選んでも、恨んだりしないよ」 「そうだ、俺たちはお前についていくぜ」 そんなのび太を支える、仲間たちの声。 少しずつ、のび太の心を溶かしていく。 「がんばれ、のび太!」 スネ夫が腹の底から大声を上げた。 だんだん、不安な気持ちが薄れていく。 静香が無言で手を差し伸べる。 のび太はその手を握り、ついに立ち上がった。 「みんな、ありがとう」 のび太は仲間たちにそう告げると、ドラえもんの方を向く。 みんなが背中を押してくれた。 みんなが勇気を与えてくれた…… いつのまにか、怖さなどどこかへ吹き飛んでいた。 「ドラえもん……僕は、君と戦う!」 のび太はついに、決断を下した。 ---- 「な、何を言っているんだ! 本当に戦うつもりなのかい? やるだけ無駄なんだよ?」 慌てふためき、必死にのび太を止めようとするドラえもん。 だが、のび太の決意は変わらない。 「馬鹿な! なぜだ、なぜだああああああぁぁぁ!」 「落ち着いてください、ゼロ様!」 狂乱する兄を、ドラミが必死でなだめる。 ………………………… それからは、一刻一刻がとても長く感じられた。 モンスターボールを構え、戦闘態勢をとっているのび太たち。 それを阻止しようとするジョーカーズの選手と、いつのまにか会場に駆けつけていた係員たち。 彼らの方を見向きもせず、何かを話し合っているドラえもんとドラミ。 しばらくすると、話し合いを終えたドラえもんがマイクを取り出した。 これからどんな言葉が待ち構えているのか……会場の全員がドラえもんに注目する。 「明日、僕たちと君たち選手勢で7人同士でのチームバトルを行う。 順番に1人ずつ戦っていき……君たちのうちの一人でも負けたときは、選手全員の命を絶つ。 こちらはジョーカーズの4人に、僕とドラミと6thを加えた7人だ。 そちらも人数を揃えておいてくれ、地下室の中の者から選んでも構わない。 思い知らせてあげよう……君たちはどんなに足掻いたって無駄だってことを」 ……まだ先程の混乱を引きずったような荒い声で、ドラえもんは宣言した。 突然放たれた意外な一言に、のび太たちは呆然として立ち尽くしていた。 ---- それから、10分ほどが経過した。 ドラえもんとドラミはあの宣言のあと、足早に姿を消していった。 ジョーカーズの選手たちはすでに会場を出て行き、係員たちももとの持ち場に戻っている。 会場にはいま、のび太たちだけが残っていた。 「さて、なんだかとんでもない展開になっちゃたね」 困惑したような声を出す出木杉。 「あのまま集団で戦えば僕たちを潰せたのに、なんでわざわざこんなチャンスをくれたんだろうか?」 スネ夫が浮かべる疑問は、この場にいる全員が抱いているものだ。 「いいから戦おうよ!  僕もよくわからないけど、とにかく敵が土俵を用意してくれた。 僕たちに選択肢なんてない、この勝負には絶対に乗らなきゃいけないんだ!」 のび太が仲間たちの顔を見回す。 仲間たちは、大きく頷いて返答した。 「じゃあ早速、明日の試合に向けて動き始めなきゃね。 まずは、どんなメンバーで戦いに挑むかだけど……」 出木杉の言葉を受け、5人は早速話し合いを始めた。 ―――決戦の時は、刻一刻と近づいている…… ----        #32「7人の戦士」 「昨日までここにいたというのに、なんだか懐かしい感じがするなあ……」 部屋に入るなり、出木杉がポツリと呟いた。 いま彼らは、敗者が集まる例の地下室に来ていた。 ……残り2人の出場者を選ぶために。 そのために、今日はこの部屋に特別に通してもらったのだ。 「みんな、大丈夫だった?」 出木杉は早速、『チーム・コトブキ』の仲間たちに話しかけている。 「心配すんなって、ちょっと殴られたくれーだよ」 「みんな、たいした怪我はしてないわ」 仲間たちはみな無事だったようで、出木杉は一安心という感じだ。 そんな明るいムードの彼らとは対照的に、他の選手たちは完全に静まり返っていた。 その視線は、のび太たちに向けられている。 「さて、この中から誰を選ぶべきか……」 のび太が、選手たちに聞こえないように囁く。 「できれば四天王くらいの実力者が味方してくれれば心強いんだけね」 そう提案するスネ夫に対し、 「大事なのは強さよりやる気だ。 この状況で必要なのは、自ら戦おうとする勇気がある奴だ」 と言うジャイアン。 なかなか、考えがまとまらない。 「とりあえず聞いてみようよ。 この中で、僕たちと一緒に戦ってくれる人はいませんか!」 のび太が、大声を張り上げた。 その声を聞いて立ち上がる者は、誰一人としていなかった。 ---- 「0人、か……」 いつのまにか、のび太たちのもとに戻ってきていた出木杉が呟いた。 「まさか1人もいないなんて…… ……そうだ。 出木杉、君の仲間たちはどうなの?」 のび太がひっそりと囁く。 「彼らもやっぱり、戦おうという意思はないみたいだ。 ……それに、正直言って彼らの実力ではあの敵には到底及ばない。 それも分かった上で、戦いたくないんだと思うよ」 「そっか……」 戦うのが怖い、その考えはのび太たちにも理解できた。 この部屋には大きなモニターがついている、だから誰もが敵の強さを痛感しているはずだ。 それに、明日の試合は1人でも負ければここにいる全員が死ぬことになる。 そんなプレッシャーの中で、あの相手と戦う……怖がるのも無理はないだろう。 実際のび太たちだって、先程からずっと不安な気持ちを抱えているのだから。 「さて、どうすればいいのかしら……」 「やっぱり、強いトレーナーに出てもらうよう頼むしかないかな……」 のび太たちが困り果てていたその時―― 「私が、君たちと共に戦おう」 突如そう言って、のび太たちのもとへ歩み寄ってくる人物。 全員の視線が、彼……『レジスタンス』リーダーのフォルテの方へ向けられた。 ---- 「フォルテさん、でしたよね……レジスタンスのリーダーの」 「ああ」 のび太が確認すると、フォルテは小さく頷いた。 「で、どうするんだ?」 ジャイアンが小さな声で囁く。 『どうする』、というのは勿論、彼を選手に加えるかどうかということだろう。 「どうするもこうするも、仲間にする以外の選択肢があるのかい?」 出木杉が問うと、皆一斉に首を横に振った。 フォルテがかなりの実力者であることは、この中の誰もが知っていた。 仲間にするとしたら、この中の誰よりも心強い存在だ。 とすれば当然、答えは決まっていた。 「よろしくお願いします、フォルテさん。 共に、戦いましょう」 のび太はそう言って手を差し伸べ、フォルテと握手を交わす。 その時、もう1人名乗りを上げるものが現れた。 「わ、私も、一緒に戦う!」 のび太たちは慌ててその人物を見て……絶句した。 そこにいたのは、彼らが良く見知っている人物…… 「ジャ、ジャイ子……本気で言ってるのか?」 その目に固い決意を宿らせる妹に、ジャイアンが慌てて問うた。 ---- 「勿論、本気よ」 ジャイ子の態度は、真剣そのものだ。 「ふざけんな! 危険すぎるだろうが!」 そんな妹を、ジャイアンは叱り付ける。 ジャイ子は黙り込んでしまったが、まだ決意を変えてはいない。 「……でも、ジャイ子の実力はかなりのものだと思うよ。 メンバーに入れるのに、十分ふさわしいんじゃないかな……」 2人の様子を見ていたスネ夫が口を挟む。 その言葉を聞いたジャイアンは、無言でスネ夫を睨みつける。 だが、スネ夫は怯んではいない。 彼もまた無言で、ジャイアンを見つめていた。 たしかにスネ夫の言うとおり、ジャイ子は強い。 それに、彼女にはレックウザもいるのだ。 そんなことは、一度戦ったジャイアンも十分承知している。 だが、それでもジャイ子を戦わせたくはなかった その時、ジャイ子が再び口を開いた。 「スネ夫さんの言うとおり、私だって足手まといにはならないはずよ! ……それに、それに私は少しでも罪を償いたいの!」 「罪を……償う?」 突然出てきたその言葉に、ジャイアンは唖然としている。 「そうよ。 私はあいつらに操られて、ここにいるみんなにひどいことをたくさんしてきた。 そしていままでずっと、そのことを嘆いてきた。 だから私は明日の試合に勝って、今度はみんなの役に立ちたいの! それがきっと、いまの私にできる唯一の罪滅ぼしのはずなの…… だからお兄ちゃん……私を、明日の試合のメンバーに選んでほしいのよ!」 その言葉こそが、ジャイ子がこの部屋に入ってから考え抜いた結論だった。 ---- 一方のジャイアンは、妹の強い言葉にただただ圧倒されていた。 ここまで強い意志をもった妹の姿を、彼は見たことがなかった。 いままでずっと、妹は自分が守らなければ……と思っていた。 でもいつのまにか妹は、1人で考え、1人で戦う決意を決められるほどに成長していた。 もう、自分の保護なんて必要ないくらいに…… 「わかったよ、ジャイ子。 ……一緒に、戦おう」 ジャイアンは悩み抜いた末、ついに彼女が加わることを認めた。 「よし、これでついにメンバーが決まったね……」 のび太はそう言い、全員の顔を見回す。 静香、ジャイアン、スネ夫、出木杉、フォルテ、そしてジャイ子。 不足はない、これが奴らと戦うことができる最高のメンバーだ。 ---- 「じゃあ、そろそろ部屋に戻ろうか……」 「ちょっと待って!」 部屋を出ようとした面々を、呼び止める声。 出木杉の仲間、『チーム・コトブキ』の選手たちだ。 「悪いけど俺たちじゃあ、お前たちと一緒に戦うことができない。 ……だけど、少しでもお前たちの力になりたいんだ。 だから……」 コウジとバクはそう言って、出木杉にモンスターボールを一つずつ渡す。 「私は……静香、あなたの力に……」 ヒカリは、静香にモンスターボールを託した。 「……が、がんばれ! みんな!」 その時突如、そんな声が飛んだ。 彼らのやり取りを見ていた、大勢の選手のうちの1人だ。 「絶対に負けないでくれよ!」  「俺たちの命、あんたたちに預けさせてもらうぜ!」 「あなたたちなら、きっとあいつらに勝てるわ!」 それに続き、選手たちが彼らに声援を送り始めた。 「ありがとうみんな。 僕たちは、明日……」 のび太が、仲間たちの顔を見回す。 仲間たちは、笑顔で頷きを返した。 そして選手たち全員のエールを受け取った7人は、皆の前で勝利を誓う――   「「「「「「「絶対に、勝ってみせる!」」」」」」」 ----        #33「対戦相手」 「さて、それでは作戦会議を始めようか」 組んだ両手の上に顎を乗せている出木杉が、会議の開始を告げる。 「僕は少しでも、奴らの正体に近づきたいな。 今日、僕らは奴らに負けなかった。 いまのままじゃあ、明日もまた……」 スネ夫はそこで、言葉を区切った。 「そうさせないためにも、少しでも奴らのことを知っておく必要がある。 もしかしたら、あいつらの弱点を知ることができるかもしれないしな。 ……ジャイ子、お前は何か知っていないのか?」 ジャイアンが、かつて奴らのもとにいたジャイ子に尋ねる。 「……それが……ごめんなさい……私、いまいち何があったか思い出せないの…… だって……」 「操られていたから……か」 ジャイアンの顔に、怒りの表情がこみ上げてくる。 ―――ジャイアンがジャイ子を倒したあの日、確かにジャイ子は言った。 『自分はおそらく、操られていた』、と。 ジャイ子は非人道的なことを、何度も誰かの手でやらされていたのだ。 ジャイアンはいまも、そのことにたいして抑え切れない怒りを感じていた。 ---- 「いまだに信じがたいな……操られていた、なんて」 「おい出木杉! お前ジャイ子が信じられないってかぁ?」 ポツリと呟いた出木杉に、ジャイアンが掴みかかる。 「い、いやそういうわけじゃないんだけど…… ただ、あまりにも非現実すぎて……」 「そうか、確かにそうだよな…… さっきは悪かったな、ゴメン」 「いや、構わないよ。 僕の言い方が悪かったのも事実だしね」 2人ともそれ以上は何も言わず、ジャイ子が操られていた件に関してはこれ以上話されなかった。 「……どうやら、敵のことはこれ以上考えても時間の無駄みたいだな。 とりあえず、先に一番大切なことを考えないか?」 いままで黙り続けていたフォルテが、突如口を開いた。 「一番大切なことって?」 のび太が、わけが分からないというふうに聞き返す。 「勿論、だれがだれと戦うか、だよ」 フォルテのその言葉で、場に緊張が走った。 ---- 全員が無言で視線を交わす。 その中で、最初に口を開いたのはジャイアンだ。 「のび太、まずはお前からだ!」 「僕からって、何が?」 のび太が間の抜けた返事をする。 だがその表情は、次のジャイアンの一言で真剣味を帯びた。 「当然、お前がドラえもんと戦うかどうかってことだよ」 のび太は確かに言った、ドラえもんと戦うと。 だが、敵は7人いるのだ。 無理してドラえもんと戦うくらいなら、他の敵と戦った方がいい。 ジャイアンはそう考えて、のび太に問うたのだ。 だが、のび太の決意は揺るがない。 「大丈夫だよ、ジャイアン。 ……僕は、ドラえもんと戦う!」 「そうか……なら、ドラえもんはお前に任せるぜ!」 そう言うジャイアンの顔は、どこか嬉しそうだった。 ---- 「さて、じゃあ他の人たちの対戦相手も決めなきゃね」 のび太がみんなの顔を見回す。 「私は、ドラミちゃんと戦うわ」 最初にいきなり、静香が意外な発言をする。 みんなが驚いた表情で、静香の方に目を向けた。 「本気なのかい、静香ちゃん?」 のび太の問いに、静香ははっきり答える。 「ええ。 のび太さん1人を、苦しませるわけにはいかないから。 それに私は、バトルを通して確かめてみたいの。 なんであの2人が、こんなことをしているのかをね」 彼女の声には、いままでにない覚悟が宿っていた。 「なら俺は、1stとやるぜ!」 続いてはジャイアン、再び全員の視線が動く。 「そ、そんな! だって、1stは……」 スネ夫がうろたえ、止めようとする。 おそらく、彼を心配してのことなのだろう。 「大丈夫だ、心配すんなスネ夫。 俺も戦いたいんだ、あの人と……」 笑みを浮かべるジャイアンに、スネ夫はそれ以上何も言えなかった。 ---- 「残りの4人は、誰か戦いたい人とかいるの?」 のび太の問いに、残った4人が順々に答えていく。 「えっと、じゃあ私は6thかな。 ……その、同じチームだったから弱点とかもよく知ってるから……」 と、ジャイ子。 「私は4thとやらせてもらうよ。 その、実は彼とは知り合いでね……」 とフォルテ。 どうして彼が4thと知り合いなのか、気になったがいまは誰も聞かなかった。 まだ他人という感じがする彼に、なんとなく近寄りがたかったのだろう。 「僕は特に戦いたい相手はいないけど、出木杉は?」 「じゃあ、僕は2ndとやらせてもらおうかな」 「なら、僕は3rdということになるね」 スネ夫と出木杉も、それぞれの戦う相手を決めた。 ---- 「よし、じゃあそれぞれの対戦相手も決まったことだし………どうしよう?」 こんな状況だというのに、のび太は何をすべきか思いつかない。 敵の正体もわからないし、取るべき対策も思いつかない。 つまり、特に話し合うことがなかったのだ。 「別に、何もしなくていいんじゃねぇの?」 そんなのび太に、能天気なことを言うジャイアン。 「そうだね、とくにこれといってすることもないし…… 僕はちょっと考えたいことがあるから、失礼させてもらうよ」 出木杉が部屋を出て、別の空き部屋へと移っていく。 それを機に、他の者たちも次々と部屋を出て行く。 いま残っているのは、のび太とジャイアンだけだ。 「うーん、こんな調子で大丈夫かなぁ……」 のび太が不安気に呟いた。 「いいと思うぜ。 たしかに俺たちは仲間、協力しあうことは大切だ。 でも戦うときは一対一、1人の戦いなんだ。 たまには、1人で考えることも大切だと思うぜ」 ジャイアンは、のび太の呟きに対してそう答えた。 「そっか、そういえばそうかもしれないね。 確かに、僕もいまは1人で考え事をしたい気分だな……」 その言葉を聞いて、のび太の気が少し楽になる。 「じゃあ俺も、そろそろ出て行かせてもらうぜ」 ジャイアンも出て行き、部屋にはのび太1人が残された。 [[次へ>トキワ英雄伝説 その15]] ----
[[前へ>トキワ英雄伝説 その13]]        #31「決断」 ―――ドラえもんが、Mr.ゼロ…… 「う、うそでしょ……ドラえもんが、Mr.ゼロだなんて……」 突然投げかけられた真実に、戸惑いと悲しみを隠しきれないのび太。 そんなのび太を、ドラえもんの言葉が追い詰めていく。 「うそなんかじゃないさ。 この大会を取り仕切っていたのは、僕とドラミの2人なのさ」 「そ、そんな……」 のび太が床に膝をつく。 いままでずっと、憎んできた男。 みんなの命を守るため、戦わねばならない……“敵”。 それがまさか、自分にとって何よりも大切な存在だったドラえもんだとは…… 「のび太君、きみは先程僕たちと戦うと言ったよね。 つまりそれは、この僕と戦うということになるんだよ」 「僕が、ドラえもんと……」 突きつけられた非情な現実に、苦しむのび太。 同じくショックを受けている仲間たちは、彼を見守ることしかできない。 「辛いのなら、やめた方がいい。 どうせ最初から、君たちに勝ち目などないのだから……」 ドラえもんは、冷酷に言い放った。 ---- 「僕は、僕は……」 のび太が両手で顔を覆い、うずくまる。 みんなを救うためには、ドラミやドラえもんと戦わなければならない。 それは、あまりにも酷なことだった。 でも自分が逃げ出せば、この大会の出場者全員が死ぬことになる。 ―――だから自分は、ドラえもんと戦わなければいけない。 本当は、自分の取るべき道など分かっていた。 みんなを見殺しにすることなど、絶対にできない…… でも、決心がつかなかった。 ドラえもんと戦うのが、怖くてたまらなかった。 他の人に、決断をゆだねてしまいたい。 自らの口で、ドラえもんと戦うことを宣言するのが嫌だった。 ……そうだ。 このまま誰かが決断するのを待てばいいじゃないか。 いくら自分がドラーズのリーダーだからといって、全ての決定をゆだねられる義務はない。 だいたい、こんなに心の弱い自分がリーダーになったこと自体が間違いだったのだ。 きっと誰かが、自分に代わって決断を下してくれるはずだ。 だから、それを待つことにしよう…… 「……ねえ、みんな」 のび太が待ち続けることを決めた時だった。 「この決断は、のび太さんに任せるべきだと思うの」 静香が、強い意志を持った言葉を発したのは…… ---- のび太はうつむいたまま、静香の言葉の続きを待っていた。 他の3人も、無言で静香の方を見つめている。 「確かに私たちも、ドラちゃんたちと戦うのはつらい。 私なんていまだに、必死に今起こっていることを信じまいとしている。 ……でも、のび太さんは私なんかとは比べ物にならないくらい悲しいはずなの」 (なら……そう思うなら放っておいてくれよ。) のび太は、俯いたままそう考える。 自分がこの決断をするのがいかにつらいか分かっているのなら、何故自分にそれを押し付けようとするんだ。 怒りにも似た感情が、のび太の胸にこみ上げてくる。 「のび太君は、だれよりも深いショックを受けている。 そう思うのなら、彼に決断を任せない方がいいんじゃないのかい?」 いままで黙っていた出木杉が、思わず口を開く。 「本当は、そうする方がのび太さんにとっていいことなのかもしれない。 でも……この決断は非常に重要なことよ。 だからやっぱり……私は、この決断はだれよりもドラちゃんに関わってきたのび太さんに任せるべきだと思うの」 静香が話を終えると、再び場は静まり返る。 と、そのとき、いままで黙り込んでいた男が口を開いた。 「僕も、静香ちゃんの意見に賛成だな」 声の主は……スネ夫だ。 ---- 「僕は、のび太とドラえもんの絆がいかに深いかを昔から見てきた。 だからやっぱり、この決断を任せられるのはのび太しかいないと思う」 いままでこういうときは、あまり自分の意見を言おうとしなかったスネ夫。 そんな彼の一言には、彼の強い意志が感じられた。 「確かに、それが正しいのかもしれないね……」 「当然、俺も賛成だぜ!」 出木杉とジャイアンも、2人の言葉に動かされるようにして発言した。 そして、4人の視線がのび太へと集まる。 「僕は、僕は……」 ―――ドラえもんと、戦う 続く言葉が、なかなか口から出てこない。 頭の中では、結論は出ているのに…… あと少し、勇気が足りなかった。 ---- 「のび太君……僕たちは君がどんな道を選んでも、恨んだりしないよ」 「そうだ、俺たちはお前についていくぜ」 そんなのび太を支える、仲間たちの声。 少しずつ、のび太の心を溶かしていく。 「がんばれ、のび太!」 スネ夫が腹の底から大声を上げた。 だんだん、不安な気持ちが薄れていく。 静香が無言で手を差し伸べる。 のび太はその手を握り、ついに立ち上がった。 「みんな、ありがとう」 のび太は仲間たちにそう告げると、ドラえもんの方を向く。 みんなが背中を押してくれた。 みんなが勇気を与えてくれた…… いつのまにか、怖さなどどこかへ吹き飛んでいた。 「ドラえもん……僕は、君と戦う!」 のび太はついに、決断を下した。 ---- 「な、何を言っているんだ! 本当に戦うつもりなのかい? やるだけ無駄なんだよ?」 慌てふためき、必死にのび太を止めようとするドラえもん。 だが、のび太の決意は変わらない。 「馬鹿な! なぜだ、なぜだああああああぁぁぁ!」 「落ち着いてください、ゼロ様!」 狂乱する兄を、ドラミが必死でなだめる。 ………………………… それからは、一刻一刻がとても長く感じられた。 モンスターボールを構え、戦闘態勢をとっているのび太たち。 それを阻止しようとするジョーカーズの選手と、いつのまにか会場に駆けつけていた係員たち。 彼らの方を見向きもせず、何かを話し合っているドラえもんとドラミ。 しばらくすると、話し合いを終えたドラえもんがマイクを取り出した。 これからどんな言葉が待ち構えているのか……会場の全員がドラえもんに注目する。 「明日、僕たちと君たち選手勢で7人同士でのチームバトルを行う。 順番に1人ずつ戦っていき……君たちのうちの一人でも負けたときは、選手全員の命を絶つ。 こちらはジョーカーズの4人に、僕とドラミと6thを加えた7人だ。 そちらも人数を揃えておいてくれ、地下室の中の者から選んでも構わない。 思い知らせてあげよう……君たちはどんなに足掻いたって無駄だってことを」 ……まだ先程の混乱を引きずったような荒い声で、ドラえもんは宣言した。 突然放たれた意外な一言に、のび太たちは呆然として立ち尽くしていた。 ---- それから、10分ほどが経過した。 ドラえもんとドラミはあの宣言のあと、足早に姿を消していった。 ジョーカーズの選手たちはすでに会場を出て行き、係員たちももとの持ち場に戻っている。 会場にはいま、のび太たちだけが残っていた。 「さて、なんだかとんでもない展開になっちゃたね」 困惑したような声を出す出木杉。 「あのまま集団で戦えば僕たちを潰せたのに、なんでわざわざこんなチャンスをくれたんだろうか?」 スネ夫が浮かべる疑問は、この場にいる全員が抱いているものだ。 「いいから戦おうよ!  僕もよくわからないけど、とにかく敵が土俵を用意してくれた。 僕たちに選択肢なんてない、この勝負には絶対に乗らなきゃいけないんだ!」 のび太が仲間たちの顔を見回す。 仲間たちは、大きく頷いて返答した。 「じゃあ早速、明日の試合に向けて動き始めなきゃね。 まずは、どんなメンバーで戦いに挑むかだけど……」 出木杉の言葉を受け、5人は早速話し合いを始めた。 ―――決戦の時は、刻一刻と近づいている…… ----        #32「7人の戦士」 「昨日までここにいたというのに、なんだか懐かしい感じがするなあ……」 部屋に入るなり、出木杉がポツリと呟いた。 いま彼らは、敗者が集まる例の地下室に来ていた。 ……残り2人の出場者を選ぶために。 そのために、今日はこの部屋に特別に通してもらったのだ。 「みんな、大丈夫だった?」 出木杉は早速、『チーム・コトブキ』の仲間たちに話しかけている。 「心配すんなって、ちょっと殴られたくれーだよ」 「みんな、たいした怪我はしてないわ」 仲間たちはみな無事だったようで、出木杉は一安心という感じだ。 そんな明るいムードの彼らとは対照的に、他の選手たちは完全に静まり返っていた。 その視線は、のび太たちに向けられている。 「さて、この中から誰を選ぶべきか……」 のび太が、選手たちに聞こえないように囁く。 「できれば四天王くらいの実力者が味方してくれれば心強いんだけね」 そう提案するスネ夫に対し、 「大事なのは強さよりやる気だ。 この状況で必要なのは、自ら戦おうとする勇気がある奴だ」 と言うジャイアン。 なかなか、考えがまとまらない。 「とりあえず聞いてみようよ。 この中で、僕たちと一緒に戦ってくれる人はいませんか!」 のび太が、大声を張り上げた。 その声を聞いて立ち上がる者は、誰一人としていなかった。 ---- 「0人、か……」 いつのまにか、のび太たちのもとに戻ってきていた出木杉が呟いた。 「まさか1人もいないなんて…… ……そうだ。 出木杉、君の仲間たちはどうなの?」 のび太がひっそりと囁く。 「彼らもやっぱり、戦おうという意思はないみたいだ。 ……それに、正直言って彼らの実力ではあの敵には到底及ばない。 それも分かった上で、戦いたくないんだと思うよ」 「そっか……」 戦うのが怖い、その考えはのび太たちにも理解できた。 この部屋には大きなモニターがついている、だから誰もが敵の強さを痛感しているはずだ。 それに、明日の試合は1人でも負ければここにいる全員が死ぬことになる。 そんなプレッシャーの中で、あの相手と戦う……怖がるのも無理はないだろう。 実際のび太たちだって、先程からずっと不安な気持ちを抱えているのだから。 「さて、どうすればいいのかしら……」 「やっぱり、強いトレーナーに出てもらうよう頼むしかないかな……」 のび太たちが困り果てていたその時―― 「私が、君たちと共に戦おう」 突如そう言って、のび太たちのもとへ歩み寄ってくる人物。 全員の視線が、彼……『レジスタンス』リーダーのフォルテの方へ向けられた。 ---- 「フォルテさん、でしたよね……レジスタンスのリーダーの」 「ああ」 のび太が確認すると、フォルテは小さく頷いた。 「で、どうするんだ?」 ジャイアンが小さな声で囁く。 『どうする』、というのは勿論、彼を選手に加えるかどうかということだろう。 「どうするもこうするも、仲間にする以外の選択肢があるのかい?」 出木杉が問うと、皆一斉に首を横に振った。 フォルテがかなりの実力者であることは、この中の誰もが知っていた。 仲間にするとしたら、この中の誰よりも心強い存在だ。 とすれば当然、答えは決まっていた。 「よろしくお願いします、フォルテさん。 共に、戦いましょう」 のび太はそう言って手を差し伸べ、フォルテと握手を交わす。 その時、もう1人名乗りを上げるものが現れた。 「わ、私も、一緒に戦う!」 のび太たちは慌ててその人物を見て……絶句した。 そこにいたのは、彼らが良く見知っている人物…… 「ジャ、ジャイ子……本気で言ってるのか?」 その目に固い決意を宿らせる妹に、ジャイアンが慌てて問うた。 ---- 「勿論、本気よ」 ジャイ子の態度は、真剣そのものだ。 「ふざけんな! 危険すぎるだろうが!」 そんな妹を、ジャイアンは叱り付ける。 ジャイ子は黙り込んでしまったが、まだ決意を変えてはいない。 「……でも、ジャイ子の実力はかなりのものだと思うよ。 メンバーに入れるのに、十分ふさわしいんじゃないかな……」 2人の様子を見ていたスネ夫が口を挟む。 その言葉を聞いたジャイアンは、無言でスネ夫を睨みつける。 だが、スネ夫は怯んではいない。 彼もまた無言で、ジャイアンを見つめていた。 たしかにスネ夫の言うとおり、ジャイ子は強い。 それに、彼女にはレックウザもいるのだ。 そんなことは、一度戦ったジャイアンも十分承知している。 だが、それでもジャイ子を戦わせたくはなかった その時、ジャイ子が再び口を開いた。 「スネ夫さんの言うとおり、私だって足手まといにはならないはずよ! ……それに、それに私は少しでも罪を償いたいの!」 「罪を……償う?」 突然出てきたその言葉に、ジャイアンは唖然としている。 「そうよ。 私はあいつらに操られて、ここにいるみんなにひどいことをたくさんしてきた。 そしていままでずっと、そのことを嘆いてきた。 だから私は明日の試合に勝って、今度はみんなの役に立ちたいの! それがきっと、いまの私にできる唯一の罪滅ぼしのはずなの…… だからお兄ちゃん……私を、明日の試合のメンバーに選んでほしいのよ!」 その言葉こそが、ジャイ子がこの部屋に入ってから考え抜いた結論だった。 ---- 一方のジャイアンは、妹の強い言葉にただただ圧倒されていた。 ここまで強い意志をもった妹の姿を、彼は見たことがなかった。 いままでずっと、妹は自分が守らなければ……と思っていた。 でもいつのまにか妹は、1人で考え、1人で戦う決意を決められるほどに成長していた。 もう、自分の保護なんて必要ないくらいに…… 「わかったよ、ジャイ子。 ……一緒に、戦おう」 ジャイアンは悩み抜いた末、ついに彼女が加わることを認めた。 「よし、これでついにメンバーが決まったね……」 のび太はそう言い、全員の顔を見回す。 静香、ジャイアン、スネ夫、出木杉、フォルテ、そしてジャイ子。 不足はない、これが奴らと戦うことができる最高のメンバーだ。 ---- 「じゃあ、そろそろ部屋に戻ろうか……」 「ちょっと待って!」 部屋を出ようとした面々を、呼び止める声。 出木杉の仲間、『チーム・コトブキ』の選手たちだ。 「悪いけど俺たちじゃあ、お前たちと一緒に戦うことができない。 ……だけど、少しでもお前たちの力になりたいんだ。 だから……」 コウジとバクはそう言って、出木杉にモンスターボールを一つずつ渡す。 「私は……静香、あなたの力に……」 ヒカリは、静香にモンスターボールを託した。 「……が、がんばれ! みんな!」 その時突如、そんな声が飛んだ。 彼らのやり取りを見ていた、大勢の選手のうちの1人だ。 「絶対に負けないでくれよ!」  「俺たちの命、あんたたちに預けさせてもらうぜ!」 「あなたたちなら、きっとあいつらに勝てるわ!」 それに続き、選手たちが彼らに声援を送り始めた。 「ありがとうみんな。 僕たちは、明日……」 のび太が、仲間たちの顔を見回す。 仲間たちは、笑顔で頷きを返した。 そして選手たち全員のエールを受け取った7人は、皆の前で勝利を誓う――   「「「「「「「絶対に、勝ってみせる!」」」」」」」 ----        #33「対戦相手」 「さて、それでは作戦会議を始めようか」 組んだ両手の上に顎を乗せている出木杉が、会議の開始を告げる。 「僕は少しでも、奴らの正体に近づきたいな。 今日、僕らは奴らに勝てなかった。 いまのままじゃあ、明日もまた……」 スネ夫はそこで、言葉を区切った。 「そうさせないためにも、少しでも奴らのことを知っておく必要がある。 もしかしたら、あいつらの弱点を知ることができるかもしれないしな。 ……ジャイ子、お前は何か知っていないのか?」 ジャイアンが、かつて奴らのもとにいたジャイ子に尋ねる。 「……それが……ごめんなさい……私、いまいち何があったか思い出せないの…… だって……」 「操られていたから……か」 ジャイアンの顔に、怒りの表情がこみ上げてくる。 ―――ジャイアンがジャイ子を倒したあの日、確かにジャイ子は言った。 『自分はおそらく、操られていた』、と。 ジャイ子は非人道的なことを、何度も誰かの手でやらされていたのだ。 ジャイアンはいまも、そのことにたいして抑え切れない怒りを感じていた。 ---- 「いまだに信じがたいな……操られていた、なんて」 「おい出木杉! お前ジャイ子が信じられないってかぁ?」 ポツリと呟いた出木杉に、ジャイアンが掴みかかる。 「い、いやそういうわけじゃないんだけど…… ただ、あまりにも非現実すぎて……」 「そうか、確かにそうだよな…… さっきは悪かったな、ゴメン」 「いや、構わないよ。 僕の言い方が悪かったのも事実だしね」 2人ともそれ以上は何も言わず、ジャイ子が操られていた件に関してはこれ以上話されなかった。 「……どうやら、敵のことはこれ以上考えても時間の無駄みたいだな。 とりあえず、先に一番大切なことを考えないか?」 いままで黙り続けていたフォルテが、突如口を開いた。 「一番大切なことって?」 のび太が、わけが分からないというふうに聞き返す。 「勿論、だれがだれと戦うか、だよ」 フォルテのその言葉で、場に緊張が走った。 ---- 全員が無言で視線を交わす。 その中で、最初に口を開いたのはジャイアンだ。 「のび太、まずはお前からだ!」 「僕からって、何が?」 のび太が間の抜けた返事をする。 だがその表情は、次のジャイアンの一言で真剣味を帯びた。 「当然、お前がドラえもんと戦うかどうかってことだよ」 のび太は確かに言った、ドラえもんと戦うと。 だが、敵は7人いるのだ。 無理してドラえもんと戦うくらいなら、他の敵と戦った方がいい。 ジャイアンはそう考えて、のび太に問うたのだ。 だが、のび太の決意は揺るがない。 「大丈夫だよ、ジャイアン。 ……僕は、ドラえもんと戦う!」 「そうか……なら、ドラえもんはお前に任せるぜ!」 そう言うジャイアンの顔は、どこか嬉しそうだった。 ---- 「さて、じゃあ他の人たちの対戦相手も決めなきゃね」 のび太がみんなの顔を見回す。 「私は、ドラミちゃんと戦うわ」 最初にいきなり、静香が意外な発言をする。 みんなが驚いた表情で、静香の方に目を向けた。 「本気なのかい、静香ちゃん?」 のび太の問いに、静香ははっきり答える。 「ええ。 のび太さん1人を、苦しませるわけにはいかないから。 それに私は、バトルを通して確かめてみたいの。 なんであの2人が、こんなことをしているのかをね」 彼女の声には、いままでにない覚悟が宿っていた。 「なら俺は、1stとやるぜ!」 続いてはジャイアン、再び全員の視線が動く。 「そ、そんな! だって、1stは……」 スネ夫がうろたえ、止めようとする。 おそらく、彼を心配してのことなのだろう。 「大丈夫だ、心配すんなスネ夫。 俺も戦いたいんだ、あの人と……」 笑みを浮かべるジャイアンに、スネ夫はそれ以上何も言えなかった。 ---- 「残りの4人は、誰か戦いたい人とかいるの?」 のび太の問いに、残った4人が順々に答えていく。 「えっと、じゃあ私は6thかな。 ……その、同じチームだったから弱点とかもよく知ってるから……」 と、ジャイ子。 「私は4thとやらせてもらうよ。 その、実は彼とは知り合いでね……」 とフォルテ。 どうして彼が4thと知り合いなのか、気になったがいまは誰も聞かなかった。 まだ他人という感じがする彼に、なんとなく近寄りがたかったのだろう。 「僕は特に戦いたい相手はいないけど、出木杉は?」 「じゃあ、僕は2ndとやらせてもらおうかな」 「なら、僕は3rdということになるね」 スネ夫と出木杉も、それぞれの戦う相手を決めた。 ---- 「よし、じゃあそれぞれの対戦相手も決まったことだし………どうしよう?」 こんな状況だというのに、のび太は何をすべきか思いつかない。 敵の正体もわからないし、取るべき対策も思いつかない。 つまり、特に話し合うことがなかったのだ。 「別に、何もしなくていいんじゃねぇの?」 そんなのび太に、能天気なことを言うジャイアン。 「そうだね、とくにこれといってすることもないし…… 僕はちょっと考えたいことがあるから、失礼させてもらうよ」 出木杉が部屋を出て、別の空き部屋へと移っていく。 それを機に、他の者たちも次々と部屋を出て行く。 いま残っているのは、のび太とジャイアンだけだ。 「うーん、こんな調子で大丈夫かなぁ……」 のび太が不安気に呟いた。 「いいと思うぜ。 たしかに俺たちは仲間、協力しあうことは大切だ。 でも戦うときは一対一、1人の戦いなんだ。 たまには、1人で考えることも大切だと思うぜ」 ジャイアンは、のび太の呟きに対してそう答えた。 「そっか、そういえばそうかもしれないね。 確かに、僕もいまは1人で考え事をしたい気分だな……」 その言葉を聞いて、のび太の気が少し楽になる。 「じゃあ俺も、そろそろ出て行かせてもらうぜ」 ジャイアンも出て行き、部屋にはのび太1人が残された。 [[次へ>トキワ英雄伝説 その15]] ----

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