「ミュウ その17」(2007/12/09 (日) 17:00:45) の最新版変更点
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「どうしよう…全然作戦が思い浮かばない……
早くしないと見つかるし、何か、何か作戦を考えなくちゃ…」
のび太は焦っていた。
余りに広大なフィールドに姿の見えない敵。
これ程作戦を立てにくいバトルは初めてだからだ。
「サンダーにはホウオウが使えない……
ルカリオに苦戦してたら負けは決まる様なもんだ。
隙を突いて、ルカリオになるべくノーダメージで倒さな…」
のび太の言葉はそこで途切れた。
「うわぁっ!?」
突然轟音が鳴り響き、店の商品がいくつも落ちてきたのだ。
音を立てないようゆっくりと立ち上がり、窓から外を眺めるのび太。
その目に映った物は――
―――――――――――
「フン、この店には居なかった様だな。
ルカリオ、面倒だ。 片っ端から建物に波動弾を放て!」
ルカリオの手に、光が集まる。
そして、その光は多数に分かれ、多くの建物に向かって放たれた。
「し、しまっ…」
その光の一片は、真っ直ぐのび太の居る方に向かってくる。
のび太は後ろに跳び、頭を伏せた。
「う、うわぁぁぁぁぁッ!!!」
音をたて崩れる雑貨屋。
その雑貨屋から響く叫び声を、ジンは聞き逃さなかった。
「フン、そこか」
----
「フフッ、のび太さーん。
そこに居るのは分かってるのよ。 出てきてぇー」
無惨に崩れさった店に、わざとらしい声で呼び掛けるジン。
もちろん、のび太から返事が返ってくる事はない。
「フフッ、のび太さんの意地悪。 私怒っちゃった。
今から、この店の残骸をぜーんぶ消しちゃうんだから。 ルカリオ」
ルカリオが待ってましたと言わんばかりに両手を上に掲げた。
「……消せ」
両手に集められた巨大な光の弾が、元は雑貨屋だった物に直撃する。
その瞬間、辺りは光に包まれ、光の中から小さなクレーターが現れた。
「……ばいばい、のび太さ…」
「ちょっと待ってよ」 「!?」
のび太の声が後ろから聞こえ、ジンは振り返った。
「何故お前が…」
「咄嗟に店にあった"穴抜けの紐"を使ったんだよ。
もう少しで死ぬ所だったじゃないか、全く!」
「……少し、甘いんじゃないか?」
のび太を見て、ジンはニヤリと笑う。
「余りに突然の事で、ポケモンを出すのを忘れてるぞ?
俺が一声かければ、ルカリオの拳に貫かれて、お前は死ぬ!」
ジンがそう言うと、ルカリオは戦闘体勢をとった。
「フン、「爪が甘かったな、ジン!」
「何!?」
のび太がジンの言葉を遮ると同時に、ルカリオの下から黄色い尻尾が飛び出た。
「こいつは!?」
「ピカチュウ、アイアンテールで地中に引きずり込め!」
----
ピカチュウに捕まり、ルカリオの姿は一瞬で見えなくなった。
「ルカリオ、そんなネズミ引き剥がしちまえ!」
ルカリオはジタバタと足を下へ振り回そうとする。
だが、地中では上手く体を動かせない。
ルカリオはおとなしく地面に埋まっていくしかなかった。
「ルカリオのスピードも、地面の中なら関係無い。
このままピカチュウが止めを刺して終わりだ!」
自信満々にそう言い放つのび太。
だが、ジンは眉間にしわを寄せて叫んだ。
「俺達を舐めるな!
ルカリオ、真下に向かって波動弾だ!」
地中にも届く程の声でジンがそう叫ぶと、ルカリオが拳に光を溜める。
そして、次の瞬間地面から光が吹き上がった。
地中から飛び出すピカチュウとルカリオ。
二体の体は、波動弾の暴発を間近で受け、傷ついていた。
「自分の体を傷つけてまで脱出するなんて…」
ルカリオの鬼気迫る表情に、足を下げるのび太。
のび太は確信した。
『このルカリオは……他のポケモンと格が違うのだと』
「フン、終わりだ。
ルカリオ、波動弾でネズミごとメガネを消し去れ」
----
「…僕は……僕はまだ負けられない!」
「ぐっ、この煙は!?」
大きな音が鳴り、ジンの視界を真っ白な煙が包み込んだ。
のび太が使ったのは煙玉。
雑貨屋に置いてあった、逃走を確実に成功させる為の道具だ。
「……チッ、メガネの分際で!」
バタンッ 「波動弾!」
音が聞こえた方に、波動弾が放たれる。
だが、そこに居たのは、住人が居ない間に空き巣に入ろうとしていたオッサンだった。
「フン、ゴミが……
精々必死に逃げてろ、メガネ!
逃げてばっかじゃ俺には勝てないがなぁ!フハハハハハハ!!!」
住人を消した商店街に、ジンの笑い声が鳴り響いた。
その笑い声を背に、悔しさを圧し殺して走るのび太。
「ぴか、ぴかぴぃ…」
ピカチュウも飼い主を心配をしている。
のび太は、そんなピカチュウに優しく笑いかけ、言った。
「ピカチュウ、大丈夫だよ。
昔の僕なら、プライドを守る為にあの場に残ってた。
でも、今は違う。
僕は自分の為に戦ってるんじゃないんだ」
のび太の足が止まる。
まずジンが居ない事を確認し、息を整えた。
そして周りを見つめ、冷静になった頭で作戦を構成していく。
その目に、もう恐れは無かった。
「……プライドなんか、もういらない。
どんなにカッコ悪くても、僕はしずかちゃんを、皆を助け出すんだ!」
----
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「どうしよう…全然作戦が思い浮かばない……
早くしないと見つかるし、何か、何か作戦を考えなくちゃ…」
のび太は焦っていた。
余りに広大なフィールドに姿の見えない敵。
これ程作戦を立てにくいバトルは初めてだからだ。
「サンダーにはホウオウが使えない……
ルカリオに苦戦してたら負けは決まる様なもんだ。
隙を突いて、ルカリオになるべくノーダメージで倒さな…」
のび太の言葉はそこで途切れた。
「うわぁっ!?」
突然轟音が鳴り響き、店の商品がいくつも落ちてきたのだ。
音を立てないようゆっくりと立ち上がり、窓から外を眺めるのび太。
その目に映った物は――
―――――――――――
「フン、この店には居なかった様だな。
ルカリオ、面倒だ。 片っ端から建物に波動弾を放て!」
ルカリオの手に、光が集まる。
そして、その光は多数に分かれ、多くの建物に向かって放たれた。
「し、しまっ…」
その光の一片は、真っ直ぐのび太の居る方に向かってくる。
のび太は後ろに跳び、頭を伏せた。
「う、うわぁぁぁぁぁッ!!!」
音をたて崩れる雑貨屋。
その雑貨屋から響く叫び声を、ジンは聞き逃さなかった。
「フン、そこか」
----
「フフッ、のび太さーん。
そこに居るのは分かってるのよ。 出てきてぇー」
無惨に崩れさった店に、わざとらしい声で呼び掛けるジン。
もちろん、のび太から返事が返ってくる事はない。
「フフッ、のび太さんの意地悪。 私怒っちゃった。
今から、この店の残骸をぜーんぶ消しちゃうんだから。 ルカリオ」
ルカリオが待ってましたと言わんばかりに両手を上に掲げた。
「……消せ」
両手に集められた巨大な光の弾が、元は雑貨屋だった物に直撃する。
その瞬間、辺りは光に包まれ、光の中から小さなクレーターが現れた。
「……ばいばい、のび太さ…」
「ちょっと待ってよ」 「!?」
のび太の声が後ろから聞こえ、ジンは振り返った。
「何故お前が…」
「咄嗟に店にあった"穴抜けの紐"を使ったんだよ。
もう少しで死ぬ所だったじゃないか、全く!」
「……少し、甘いんじゃないか?」
のび太を見て、ジンはニヤリと笑う。
「余りに突然の事で、ポケモンを出すのを忘れてるぞ?
俺が一声かければ、ルカリオの拳に貫かれて、お前は死ぬ!」
ジンがそう言うと、ルカリオは戦闘体勢をとった。
「フン、「爪が甘かったな、ジン!」
「何!?」
のび太がジンの言葉を遮ると同時に、ルカリオの下から黄色い尻尾が飛び出た。
「こいつは!?」
「ピカチュウ、アイアンテールで地中に引きずり込め!」
----
ピカチュウに捕まり、ルカリオの姿は一瞬で見えなくなった。
「ルカリオ、そんなネズミ引き剥がしちまえ!」
ルカリオはジタバタと足を下へ振り回そうとする。
だが、地中では上手く体を動かせない。
ルカリオはおとなしく地面に埋まっていくしかなかった。
「ルカリオのスピードも、地面の中なら関係無い。
このままピカチュウが止めを刺して終わりだ!」
自信満々にそう言い放つのび太。
だが、ジンは眉間にしわを寄せて叫んだ。
「俺達を舐めるな!
ルカリオ、真下に向かって波動弾だ!」
地中にも届く程の声でジンがそう叫ぶと、ルカリオが拳に光を溜める。
そして、次の瞬間地面から光が吹き上がった。
地中から飛び出すピカチュウとルカリオ。
二体の体は、波動弾の暴発を間近で受け、傷ついていた。
「自分の体を傷つけてまで脱出するなんて…」
ルカリオの鬼気迫る表情に、足を下げるのび太。
のび太は確信した。
『このルカリオは……他のポケモンと格が違うのだと』
「フン、終わりだ。
ルカリオ、波動弾でネズミごとメガネを消し去れ」
----
「…僕は……僕はまだ負けられない!」
「ぐっ、この煙は!?」
大きな音が鳴り、ジンの視界を真っ白な煙が包み込んだ。
のび太が使ったのは煙玉。
雑貨屋に置いてあった、逃走を確実に成功させる為の道具だ。
「……チッ、メガネの分際で!」
バタンッ 「波動弾!」
音が聞こえた方に、波動弾が放たれる。
だが、そこに居たのは、住人が居ない間に空き巣に入ろうとしていたオッサンだった。
「フン、ゴミが……
精々必死に逃げてろ、メガネ!
逃げてばっかじゃ俺には勝てないがなぁ!フハハハハハハ!!!」
住人を消した商店街に、ジンの笑い声が鳴り響いた。
その笑い声を背に、悔しさを圧し殺して走るのび太。
「ぴか、ぴかぴぃ…」
ピカチュウも飼い主を心配をしている。
のび太は、そんなピカチュウに優しく笑いかけ、言った。
「ピカチュウ、大丈夫だよ。
昔の僕なら、プライドを守る為にあの場に残ってた。
でも、今は違う。
僕は自分の為に戦ってるんじゃないんだ」
のび太の足が止まる。
まずジンが居ない事を確認し、息を整えた。
そして周りを見つめ、冷静になった頭で作戦を構成していく。
その目に、もう恐れは無かった。
「……プライドなんか、もういらない。
どんなにカッコ悪くても、僕はしずかちゃんを、皆を助け出すんだ!」
----
「出木杉、全てを憎め。
お前を苦しめたこの世界に、復讐するんだ。
大丈夫、わしの言うことさえ聞けば、全てお前の思い通りに行く……
わしに……従うんだ」
闇の中で潜む老人は、笑みを浮かべながらそう言った。
僕の体は、その言葉を拒まない。
むしろ、自らが望む様に、僕はその老人の手を取った。
「はい、従います。 だから教えて下さい。
この世界に、僕と同じ苦しみを与える方法を……」
----
「フン、あのメガネ……どこ行きやがった」
ジンは、のび太を見付けられずに居た。
煙玉で見失い、この商店街、
いや、この広い町のどこかに逃げたのび太を、1人で探すのは流石に困難なのだ。
と言っても、闇雲に町を破壊すれば、相手に自分の居場所を教えることになる。
さっきのように、のび太が商店街に入るのを見ていたのなら話は別だが、
今回の様な場合では、地道に町を見回っていくのが、最善の策と言えるのだ。
「クソッ、メガネの分際で…
俺にこんな無駄な歩行をさせるとは、絶対に許さんぞ!」
商店街の出口が見えてきた。
どうやらのび太は商店街から抜け出したようだ。
「フン、ちょこまかと…」
だが、そんなジンの予想を、簡単に裏切られる事になる。
プシュッ! 「つッ!」
ジンの後頭部に、何かが当たった。
プシュッ! 「舐めるな!」
今度は一瞬でそれに反応し、その何かを掴む。
「……これは」
それは小さなエアガン用の弾。
それが誰が発射した物かは、もうハッキリしている。
「メぇガネェェェェェェェェェェッ!!!!」
叫び声と共に、1人の少女と1匹は走り出した。
----
「こんなショボい弾で、俺を倒せると思ったかァァァッ!」
女とは思えないスピードで、のび太との距離を縮めるジン(しずか)。
どら焼屋の屋根に座るのび太の姿が、だんだんハッキリしていく。
「フハハ、100000000倍返しだ!
お前の後頭部をグチョグチョにしてやるッ!!!」
だが、またもジンの予想を裏切る展開が待っていた。
「くっ、何だこれは!?」
小さな爆発音が数発鳴り、ジンの視界を白い煙が包んでいく。
「クソが! またさっきの煙幕か!
逃げてばかりじゃ俺は倒せないぞ!」
煙を掻き分けながら、ジンはそう叫んだ。
すると、その言葉に反応する様に、隣から声が聴こえた。
「おっはー」 「ルカリオ、波動弾だ!」
すかさずルカリオの攻撃がその音の主を襲う。
だが、そこに居たのは……
「ただの……テレビ…だと? クソッたれ!!!」
それは、のび太がリモコンで操作した電気屋のテレビの音だった。
そして、更なる混乱がジンとルカリオを襲う。
「ピカチュウ、かみなりだ!」
何処からともなく聴こえたのび太の声で、上空から雷光が降り注いだ。
----
「ル、ルカリオ!」
雷の直撃を受け、膝を着くルカリオ。
だが、ジンは見逃さなかった。
雷を撃たれる直前の一瞬の輝きを。
ポケモンが雷を撃つ前に、必ず起こるその光を。
「そこだ、ルカリオ!」
ジンの指を見た瞬間、全てを理解するルカリオ。
そして、膝を着いた状態のまま腕を上げた。
「 波 動 弾 ! 」
波動弾は、方向さえ合えば確実に相手を捉えてくれる。
ジンは勝利の笑みを浮かべながら、その閃光の様子を眺めていた。
「戻れ、ピカチュウ」 「何!?」
だが、今回はのび太の方が一枚上手だった。
全ての攻撃を確実に避ける唯一の方法。
それは、ポケモンをモンスターボールに戻す事だ。
普通のバトルでは次のポケモンがダメージを負ってしまうが、
今回はステージ上ではなく、広い町中。
デメリットなど何も無い。
のび太はその事を充分に理解していたのだ。
「ルカリオ、立て!
今のでメガネの場所が分かった! 追い掛けるぞ!」
その言葉で、フラフラと立ち上がるルカリオ。
すぐに二人は、ピカチュウが戻される時に見えた光の元に走った。
そして、煙の空間を抜ける。
「メガネ、ガキの遊びもここまでだッ!」
----
「バカな、俺はすぐに走ったはずだ……
あの男が、こんなに早く見えなくなるなんて…ある訳が……」
ジンは、だだっ広い空間の真ん中で、そう呟いた。
誰も居ない、真っ直ぐ続く商店街の道の真ん中で。
「…殺してやる……」
ジンの、本能とも言うべき何かが、目覚めていく。
「…あのメガネを……八つ裂きにしてやる……」
久しぶりに味わった敗北感が、ジンの中で野生を蘇らせた。
ルカリオは、その静かなる殺意に体の震えを抑えられない。
「ルカリオ、怯えなくて良いぞ。
俺は少し、今まで感情に流され過ぎていた様だな」
ルカリオの頭を撫でながら、そう話すジン。
その目は、のび太に対する静かで激しい憎悪に満たされていた。
「行くぞ、ルカリオ。
今まで受けた屈辱を、全てアイツに返してやるんだ」
コツ…コツ……コツ………コツ…………コツ……………コ…
ジン達の足音が遠退いていく。
地下に隠れていたのび太は、ゆっくりとため息を吐いた。
「ふぅ、何とかやり過ごしたぞ…」
----
のび太がジンに見つからなかった理由。
それは、のび太がマンホールの中に身を隠していたからだ。
だが、それだけじゃない。
あの時、のび太はジンから逃げるのではなく、ジンに近づいたのだ。
視界にマンホールの蓋が見えれば、必ずジンは不審に思うだろう。
だが、マンホールがジンより後方に有れば、話は別だ。
つまりあの時、マンホールは煙の中にあったのだ。
もちろん、あらかじめ蓋が開いた状態で。
のび太が屋根の上に居たのも、蓋が開いてるのがバレない為。
あれは、ジンの視線を上に集中させるのが最大の目的だったのだ。
これだけの作戦を、のび太が思い付くのは少し不思議に思う人が居るだろう。
だが、これは別に不思議な事でも有り得ない事でも無い。
のび太は、人を困らせる力と、道具を最大限に活かす力に昔から長けていた。
その2つの力が、この戦いにおいて大きな戦力になっている。
のび太はこの時、
自分でも気付かない内に、天才戦略家としての才能に目覚めようとしていた。
----
「これでルカリオの体力は僅か……
でもさっきの様子だと、もうジンに半端な作戦が通用するとは思えない。
ここは、どうするべきかな?」
のび太の手持ちにあるのは、もう穴抜けの紐2本に煙玉1つ。
どこかでアイテムを補充するのも良いかも知れない。
だが、それは同時にジンに不意討ちされる可能性も高くなる。
のび太は気持ちを落ち着かせ、ゆっくりと思考を回転させてみた。
『―ルカリオ―アイテム―下水道―次のポケモン―町中―』
のび太の頭の中で、勝利の設計図が高速で作成されていく。
そして、その設計図はのび太の考えを1つの答えへと導いた。
『何でだろ? 僕は今、とても冴えてる。
ジンの行動パターンも、それを打ち破る策も手に取る様に分かる。
行けるぞ…これならあのジンに必ず勝てる!』
「ハッサム、出てきて」
そののび太の声を合図に、ハッサムが姿を現した。
ハッサムは、以前のジンとの戦いでルカリオに一蹴されている。
ハッサムからしたら、ルカリオは因縁の、どうしても戦いたい相手だ。
「ルカリオには、君で止めを刺したい。 出来るかい?」
ハッサムは短くうなづいた。
----
「フン、メガネめ……何のつもりだ?」
――数分前
大きな轟音が鳴り響いた。
そしてジンが様子を見に来ると、商店街の道の脇から大量の水が吹き出していた。
「水道管を破裂させたか。
すると、狙いはピカチュウの電撃だな。
だったら……ルカリオ、俺の体を持て 」
ルカリオがジンの体を持ち、足に力を入れた。
一方、のび太は屋根の上で待っていた。
ジンが、ここに上って来るのを……
「来い…ジン」
下で音がした。 のび太の前方に、ジンとルカリオが姿を現す。
ジンは少し驚いたが、すぐに状況を理解して言った。
「待ち伏せ……いや、待っていた、と言うのが正しいか。
メガネの分際でサシの戦いを望むとは、舐めてくれるじゃないか」
ジンとのび太の距離は、およそ10m。
店を1つ隔てて、二人は直線上で睨み合っている。
「フン、どうせまた狡い手で逃げながらルカリオの体力を削る気だろ?
悪いが、もう俺に策は通じん。 徹底的に……潰すぞ」
ジンが、強烈な殺気を出しながらそう言う。
のび太はその殺気に震えた。
だが、足は引かない。 逆に一歩踏み出す。 そして言った。
「来い!!!ジン!!!」
----
「ルカリオ、神速だ!」
のび太がそう叫んだ瞬間、ジンはそう叫び返した。
のび太の脳裏に、以前の記憶がよぎる。
以前の戦い、ルカリオの攻撃で腹に瀕死の怪我を負った時の事を。
更に思い出す。
数日前、洞窟内でした修行の事を。
『裁きの穴で学んだ事……それは、勇気』
数多くのポケモンに命を狙われた。
そして、多くの傷を負い、多くの事を学んだ。
ビュゥッ!
ルカリオが目前に迫る。 風が切れる音がした。
『怖くない…避けられる』
のび太は足を後ろへ伸ばし、腹の位置を数cmズラす。
すると、ルカリオの右ストレートはズラす前の腹の位置を真っ直ぐ貫いた。
「な、なん…」
瞬間の中で、人が出来る行動なんてほんの僅かだ。
だが、そのほんの僅かな行動が、人の生死を分ける事になる。
「ぐぁッ!」 のび太の顔が歪んだ。
さっきの攻撃、当たらなかったのではなく、実はカスっている。
のび太は、避ける為に体を動かしたのではなく、勝つ為に体を動かしたのだ。
本来ルカリオの攻撃は回避不可だが、怪我をする覚悟さえあれば話は別。
急所を外すだけなら、一瞬の、ほんの僅かな行動で充分なのだ。
「…だと!?」
そして、ルカリオの居る場所。
つまり、のび太がさっき立っていた場所の下から、
屋根を突き破ってハッサムが姿を現した。
----
のび太は、ハッサムにこう言っていた。
「僕が、ルカリオの注意を一秒牽く。
だからその一秒で……君にルカリオを倒して貰いたい」と。
ハッサムは、ずっと屋根の下から耳を澄ましていた。
そして、風を切る音を聞いた。
足に力を込め、一気に飛び上がる。
「君は、僕を信じて真上を全力で貫けば良いんだ」
あれだけの信頼を自分にくれた主人の為、ハッサムは全身の力をその右手に込めた。
思い切り……振り抜く。
コンクリートの砕ける音が響き、目の前にルカリオの姿が見えた。
拳がルカリオに当たる。
ルカリオの体は、その一撃で勢い良く吹き飛んだ。
そしてハッサムは静かに着地し、横で倒れる主人の方を見る。
「……ハッサム、良いパンチだったよ」
主人の破けた服の下から、紫色の皮膚が見えた。
……酷い怪我だ。
きっと、かなりの激痛がしているだろう。
「ハッサム、僕の事は良い。 それよりも…」
ルカリオはフラフラと立ち上がった。
もう目は虚ろ……明らかに限界を超えている。
だがルカリオは、何かを訴える様に大きな唸り声をあげた。
「ルカリオ、もう良い。 後は……俺達がやる。
お前は良くやった」
ルカリオは動かない。 立ったまま気絶したのだ。
ジンは、ゆっくりとそのルカリオをボールへ戻した。
----
「また、お前の策にやられちまったようだな」
下を向いたまま、ジンが短く笑う。
その表情はとても穏やかだが、隠しきれない殺意を漏らしていた。
「フン、さっきのお前の勇気と覚悟、恐れいったよ。
お前達の事を舐めていたのは俺達だったのかもしれないな」
ジンは空にボールを投げ上げた。
そのボールから、雷電から奪い取ったサンダーが現れる。
「だけど次のポケモンには、覚悟も勇気も通じないぞ。
さぁ、どうする? フハハハ…」
ジンの言葉に対し、のび太はこう言い返した。
「もちろん…………逃 げ る さ ! 」
また煙玉を下へ投げつけるのび太。
「サンダー、高速移動」
だが、その瞬間目の前にサンダーが現れた。
「なっ!?」
「フン、二度も同じ手を食らえばサルでも学習する」
のび太の額に冷や汗が伝う。
頭の中で『ハッサム、メタルクロー』と言う指示を出すが、声にならない。
「サンダー、10万ボルト」
のび太の視界を、真っ白な光が包み込んだ。
----
「死ね、メガネェー!」
ジンはのび太の行動を予想し、サンダーに指示を出していた。
不覚。それは、相手の力量を量り間違えた事による失敗。
のび太の思考回路が動き出す頃には、サンダーの攻撃準備は完了していた。
『ダメだ!殺られる!』
隣のハッサムに指示を出す前に、自分は黒コゲになる。
もう、間に合わない。 そう、思った時だった。
「ハ、ハッサム!?」
電流が弾け飛び、ハッサムの体を焦がしていく。
ハッサムは自らのび太の前に飛び出し、のび太の盾となった。
のび太の指示を聞く前に、自分の意思でのび太を助けに入ったのだ。
「……はっ、ピカチュウ、出てこい!」
倒れ込むハッサムを一瞬眺めていたのび太だったが、
直ぐ様に我に返り、ピカチュウをサンダーの目前へ呼び出した。
「サ、サン…」 「ヴォルテッカー!」
戦いの中で、想定外の事が起きるのは極めて自然な事だ。
大切なのは、いかにそれに適当な対応が出来るか。
今回は、一瞬その対応が早かったのび太に軍配が上がった。
「ピカチュウ、走るぞ!」
攻撃を加えると、のび太は直ぐ様後ろへと走り出した。
屋根の上ではサンダーの格好の的になる。
そして、のび太にはまだ策が残っているのだ。
サンダーが態勢を整えると、直ぐにフラッシュで目を眩まし、
のび太は商店街からの脱出に成功した。
----
「ピカチュウ、大丈夫か?」
商店街から500m程離れた地点。
そこでピカチュウは、力無く地面へと倒れ込んだ。
無理もない。
ピカチュウは一度ルカリオの波動弾の暴発を、間近で受けている。
その上、この緊迫した戦いでの度重なる呼び出し、そしてヴォルテッカー。
逆に、今意識を保っているのが不思議なくらいだ。
『ピカチュウの体力は僅か、ハッサムは約半分……だけど麻痺状態』
ハッサムを温存しておいたおかげで、体力が充分に残ってるのが唯一の救いだ。
ジンのまだ見ぬ切り札の為にも、ホウオウは無傷のままにしておきたい。
そして、あの作戦の為にも……
「ん?ピカチュウ、どうした?」
ふと横を見ると、ピカチュウが顔を真っ青にして震えていた。
こんな顔をするのは珍しい。
のび太はピカチュウの視線の先に、恐る恐る顔を向けた。
「…な、なんだ? あれ?」
さっきまで自分達が居た場所の上空に、眩しく光る何かが浮かんでいる。
のび太は、本能で察知した。
『ここに居たら死ぬ』と。
体力が残ってないピカチュウを抱かえ、のび太は走り出した。
「はぁ! はぁ!」
どんどん膨張していく、その光。
どこまで大きくなるのかとのび太が思った瞬間、その光は……一筋の光線となり、のび太に襲い掛かった。
----
「フン、よくやった、サンダー」
ジンは、上空のサンダーを見上げながらそう言った。
雷電が自ら改造を施した、この特別なサンダーの特性はリミッター解除。
ダイゴ、シロナペアとの戦いで見せた技がそれである。
このサンダーに、能力向上効果のある技のリミッターは無い。
つまり、このサンダーが充電(次の技の威力が倍になる)を使えば、
1度目で2倍、2度目で4倍、3度目で8倍と、誰にも止められない技となるのだ。
実際、今の技で町の一部分が跡形も無く消し飛んでいる。
このサンダーは、策も罠も必要としない、最強で純粋なパワータイプと言えるのだ。
「8倍でこれくらいか……
フン…なら次は16倍で行くぞ」
ジンの指示に、黙って従うサンダー。
その目は、どこか悲しく、とても冷たい目をしていた。
「…ふぅー、間一髪!」
のび太は壁に寄りかかり、安堵のため息を吐いた。
すぐ近くには、残骸と化したスネ夫の家が転がっている。
のび太達は、ギリギリの所であの電撃を避ける事が出来たのだ。
「そう言えばスネ夫が言ってたな。
あのサンダー、まるで能力の限界が無いみたいだ、って」
のび太は、あの作戦を実行に移す為の作戦を考えてみた。
あのサンダーの技を食らわずに、あの場所まで導く方法を。
「一か八か……これに賭けるしか無いかもね」
のび太は高まる心音を抑えつけ、ジンの所へと向かった。
----
「…よし、次は8倍だ」
ジンの指示で、ゆっくりと光が大きくなっていく。
その眩しさは、もう太陽の比では無い。
「フン、次はどこを狙うかな…」
次々と家を指で差していき、屋根がピンク色の家で指を止めた。
「あれだ……サンダー、16倍にしろ!」
光が、先程よりも更に大きくなっていく。
そして、遂にその光は全ての準備を完了した。
「クックック、メガネ……消し飛びなぁー!!!」
ジンがそう叫んだ、その時だった。
「ピカチュウ、今だ!」 「!?」
その言葉と同時に、ピカチュウがジンの前に現れる。
そして、瞬きをする間もなく、ピカチュウはジンの周りを回り始めた。
「な、何だ!? 何のつもりだ!?」
「お前を倒しに来たんだよ」
ジンの前に立つのび太。
それだけ言うと、のび太は片手を思い切り後ろへと引いた。
「ぐ、ぐぁッ!?」
突然の胸の圧迫感に、驚くジン。
のび太はニヤリと笑い、手に持っている物を見せた。
「そ、それは…」
「ピカチュウに"あなぬけの紐"をくわえさせていたのさ。
使用法は違うけど、これでお前はもう動けないぞ! ジン!」
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「フハハ!正気か?
ここに来るってことはサンダーの的になるってことだぞ?
お前は、わざわざここに死にに来たのかぁ?」
そうあざけ笑うジン。
だが、のび太には考えがあった。
「へんだ、的にはならないよ。
だって今サンダーが攻撃をすれば、お前も巻き込まれて死ぬからね」
そう、サンダーの弱点……それはその余りあるパワー。
威力を上げることは出来ても、下げることは出来ない。
今、もしのび太を狙って攻撃すれば、もちろん近くに居るジンにも当たる。
つまり、サンダーの攻撃の恐怖から確実に逃れる方法は、
離れるのではなく、逆に近付くことだったのだ。
「…フン、次はどうするつもりだ?
俺を殺して、試合を終わらせるか?
それとも…このままずっと黙り状態を続けるつもりか?」
圧倒的不利な状況だが、ジンの目にはまだ余裕が溢れている。
のび太には、それが不気味でならなかった。
だが、それに臆せず、のび太は会話を続ける。
「お前を殺したりはしない。
お前の体が…しずかちゃんの物だって可能性も捨てきれないからね。
だから、僕はお前との戦いに、ポケモンでケリをつける!」
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『メガネめ、俺をどこに連れていくつもりだ?』
のび太はジンを拘束した状態で、ある場所へと向かっていた。
それも砂嵐で視界を無くしながらという、最悪の状態で。
『……フン、バカめ。
お前が油断した瞬間、一瞬で縄を切って逃げ出してやる。
せいぜい無意味な作戦を実行してるんだな』
ジンは、横目で後ろを覗き見た。
ハッサムが体を重そうにすぐ後ろに付いている。
サンダーは、頭上でこちらの様子を伺ってるようだ。
『フハハ、これなら…上手くいくぞ!』
勝機を感じるジン。
だが、そうしてジンが周りを見渡していると、足場に変化に気が付いた。
『……この足の感触、町を出たのか?』
砂場に似た感触を、足に感じる。
だが、のび太は何も言わず、ただ歩いていくだけ。
『ちっ…少し早いが、実行に移すか』
ジンは足場の変化に焦り、予定よりも早く行動を始めた。
『あのカニもどきは、明らかに麻痺状態だ。
必ず、必ず一瞬……体が動かせない瞬間がある』
ジンが横目でじっくりと凝視する。
しばらく見つめていると、予想通りその瞬間は訪れた。
『フハハハハ! 見たぞ! 今の動作ぁ!』
ハッサムが一瞬体を硬直させた瞬間、
素早く縄を切り、回し蹴りをハッサムの腹に決めた。
体の中で唯一柔らかい部分を狙われたハッサムは、たまらずしゃがみこむ。
更に、ジンはその隙にのび太から10m程の距離を空けた。
「フハハハハ! 爪が甘かったなぁ!
サンダー、あのメガネ猿に雷だッ!!!」
待ってましたとばかりに唸り声を上げるサンダー。
そして、目映い閃光がのび太へと放たれた。
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大量の砂煙が辺りを満たす。
その中心で、ジンは満足そうな笑みを浮かべながら立っていた。
「フハハハハ、メガネぇ残念だったなぁ!
結局、お前は女一人守ることが出来ない…クズなんだよぉ!」
砂嵐の中を笑い声が響き渡り、その静けさを更に引き立てる。
だが、その沈黙は突然破られた。
「ハッサム!」 「!?」
砂の中からハッサムが現れ、空中へと飛び上がった。
『どういうことだ!?
砂を被ったくらいじゃあの雷は防げないはずだ!』
疑問はつきない。
だが考えてる暇は無い。
「サンダー、10万ボルトで撃ち落とせ!」
その指示に素早く従うサンダー。
「ハッサム、戻れ!」
だが、その瞬間ハッサムはボールの中に戻されてしまった。
「ジン、投げたボールからポケモンが出てくる条件を、知ってる?」
突然、のび太はジンにそんな質問をした。
「スイッチを押してから何か衝撃を加えると、ポケモンは現れるんだ」
そう言いながら、のび太は懐からエアガンを取り出す。
「さっきハッサムには、ボタンを押したままの状態のボールを持たせていた。
サンダーの近くまで来たら、出来るだけ高く投げ上げろって指示をしてからね」
ジンが驚いて上を見ると、サンダーの頭上に、赤い何かが見えた。
それにのび太は狙いを定める。
「つまりオモチャの鉄砲の衝撃でも、ポケモンはボールから現れるんだよ!」
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パンッ、という炸裂音がした。
風圧、距離、物質の落下速度までも計算されたその弾が、
真っ直ぐに赤い球へと飛んでいく。
当たった。
そして、ピカチュウが現れる。
サンダーのすぐ頭上。 絶好な位地にピカチュウは現れた。
何も言わなくても、分かる。
身体中の電力を一点に集中し、サンダーの左翼へと突っ込んだ。
別に倒し切らなくても良い。
のび太がこの場所を選んだ理由は、良く分かる。
ピカチュウは、サンダーを地面に落とすことに全てを賭けた。
「サンダー!?」
片翼を失ったサンダーは、力無く地面へと落ちていく。
だが、それではまだ勝てない。
その事を知っているのび太は、勝利を決定付ける言葉を言った。
「カバルドン達、地震を頼む」
そう、この場所は、以前のび太が修行に使っていた裏山の砂漠地帯。
ここで沢山の修行をしたのび太は、
カバルドン達にその実力を気に入られ、仲間に認められていたのだ。
さっきの雷も、カバルドン達が盾になって防いでくれていた。
地面タイプのカバルドン達が一緒に戦ってくれれば勝てる。
それを見越して、のび太はこの場所で戦おうと決めたのだ。
地面へと吸い込まれていくサンダー。
それをカバルドン達が起こした地震が待ち受ける。
「ジン、悪いけど…僕には一緒に戦ってくれる、仲間が居るんだよ」
こうして、サンダーは遂に倒れた。
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「皆、集まってくれたようだな」
暗闇の中に、無数の人影が集まる。
ジンとのび太の戦いの最中、町の地下では出木杉の計画が進行していた。
「諸君の頑張りのおかげでようやく見付かったんだよ。
この計画に絶対に必要な、あのポケモンを。
今から捕まえにいく。 皆、僕の後に付いて来い」
ここには光が届かず、酸素も少ない。
流水によって取り付けられた機械により、人の出入りが可能になっている。
その暗黒空間を、出木杉は躊躇もせず進んでいった。
「ここだ…」
出木杉が立ち止まり、手を前に出す。
その瞬間、空間に歪みができ、周りに居た部下達を驚かせた。
「ふふっ、驚かなくて良い。
ここが、ポケモン世界と現実世界の間……通称"暗黒世界"なんだ。
この先に、僕達がまだ見たことが無いプログラムが隠されてるんだよ」
その場の皆が唾を飲む。
未知の世界への不安と、遂に来た計画実行への期待。
その2つが混じった、例えようもない空気が周りを満たしている。
その空気を切り裂くように、出木杉が口を開けた。
「それでは、この計画の最後の役割を決める!
僕の周囲を守る幹部は、流水、清姫君、業火……そして雷電!
他の者は反乱分子の鎮圧、及びタイムパトロールへの警戒だ!
分かったなら返事をしろ!」
暗闇の中を幹部達の叫びが響く。
出木杉は、その様子を見て笑みを浮かべた。
『野比君、せいぜい頑張って足掻くが良いさ。
僕の計画は絶対に止められない。 そう、絶対にだ……』
ついでにその頃、地上のゴクは最終決戦に着る衣装に悩んでいた。
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「戻れ、ピカチュウ」
瀕死になったピカチュウを、のび太はボールへと戻した。
「遂に、最後だね。 ジン」 「…………」
「僕はお前に勝って、必ずしずかちゃんを助けだす。
早く……最後のポケモンを出せ!」
「最後のポケモン、か…フハ、フハハハハハ!」
突然笑い出すジン。
それにのび太は驚き、怒りの言葉を発した。
「な、何がおかしいんだ!」
「何が? お前が言ったことが笑えるんだよ」
ジンの言葉の真意が分からない。
のび太は更に声を強め、叫んだ。
「どこがだよ! 僕は最後のポケモンを出せって…言っただけ…」
この時、のび太は2つの疑問の存在に気付いた。
目の前に居る、しずかの姿をした男。
もし、この男がしずかを操っているなら、あのブレスレットはどこにある?
どうして、あのルカリオはあんなにも強かった?
その2つの疑問が意味している答えは、1つ。
「ジン、お前はまさか……ウワッ!」
突風がのび太を襲った。
砂嵐は一瞬勢いを増し、そして晴れていく。
辺りは、砂煙に包まれてしまった。
「メガネ……お前の実力は認めてやるよ」
砂煙がゆっくりと消えていく。
正体を現したジンが、のび太の目前に現れた。
「だが、これで終わりだ」
今まで感じていた、ジンに対する恐怖感。
その理由を、ようやくのび太は理解した。
「ミュウ…ツー…」
何故なら自分が戦っていた相手は、人間ではなかったのだから。
[[次へ>ミュウ その18]]
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