「ギンガ その14」(2007/12/30 (日) 00:58:09) の最新版変更点
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『ヒャーハッハッハッハッハッハッハ』
耳障りな笑い声が頭に響く。うるさい。誰だ?
だが確認することはできない。なぜならこの空間が暗闇に包まれているからだ。
なにがそんなに面白いのだろう? 俺には分からない。
俺が『そいつ』に声をかけようとした時、突然『そいつ』の周囲が照らされる。
その時、俺は目を疑った。
照らされた地面には、血に塗れ息絶えたスネオが居た。
『うわぁああぁぁぁぁああぁぁあああ!!』
反射的に悲鳴を上げる。
その時連鎖反応を起こすかのように、また『そいつ』の周囲が照らされる。
そこにはスネオと同じく、無残な姿の静香、ジャイアンが居た。
体の血液が全て逆流し、全身が凍り付いていく感覚に襲われる。
何か喋ろうと思っても、喉に何かが詰まったように言葉が出てこない。
また照らされる。ちょうど俺の目前だ。
「あ……あ……」
そこに居たのはのび太―――死人の顔をしていた。
俺は地面を這い蹲りながら、のび太だった物に近づき、抱き上げる。
しかし次の瞬間、のび太だった物は砂に変化し俺の手を流れていった。
続いて、他の三人も砂となり地面に吸い込まれていく。
俺は『そいつ』を見上げる。憤怒に満ちた目で。
しかし『そいつ』は俺を見ると、ニヤリと笑みを浮かべる。
そして―――
----
『うわぁああぁああぁぁぁああぁあ!!』
思わず飛び上がった。
周囲を見渡す。木で出来た壁、畳、俺の下半身を包む布団。
なんだ……夢か……
額の汗を裾で拭う。ベッタリの手首の辺りが湿った。
それにしても嫌な夢だった、皆が死ぬ夢を見るなんて……縁起でもない。
あれ? そういえば皆はどこ行ったんだ?
時計に目をやる。すると既に八時を回っていた。
「俺が起きるの遅かったんだな……」
布団を畳み、俺は居間のほうへと向かった。
居間には全員が揃ってる。空気が重い。嫌な予感がする。
「なにか……あったみたいだな」
「うん、落ち着いて聞いてね、ナナシ君」
「ポケモンリーグがギンガ団に占領された」
----
耳を疑う。ポケモンリーグが占領されただと?
「私が出かけているうちに……不覚だったわ」
シロナは下唇を噛み締め、苦い表情を浮かべる。
そうか、チャンピオンであるシロナが不在だったのか、それを狙って……
糞ッ……姑息な手を使いやがって。
「少し一人にさせてちょうだい、食事なら昨日の残りがあるわ」
額を右手で押さえながら、シロナは寝室に戻っていった。
よほどショックだったのだろう。
シロナが戻った後は、気まずい空気が流れていた。
無理も無い。シンオウで最強のトレーナーが集まるポケモンリーグが占領されたのである。
それが意味することはただ一つ。
今のギンガ団には四天王を上回る力があるということだ。
こんな相手に俺たちは勝てるのか……?
圧倒的な恐怖に押しつぶされそうになる。怖い。
体中から脂汗が滲み出る。視界もぼやけて来た。
俺が完全に恐怖に屈しようとしていたその時だった。
『諦めるなッ!』
----
突然ジャイアンが立ち上がり大声を発する。それは家中に響き渡った。
『ポケモンリーグが支配されたからなんだ!? 四天王を倒したからなんだ!?
それなら俺たちがギンガ団より、もっと強くなればいいじゃねーか!
どうせ避けては通れねぇ道なんだ! 何時までもクヨクヨしてたってしょうがねーだろ!!』
ジャイアンを見上げる。その表情には一寸の迷いも無かった。
あぁ……ジャイアンは強いな。虚勢ばかり張っている俺なんかよりもずっと、ずっと……
「そうだよね……僕らが諦めてどうするんだ、僕だってバッジを八つ集めたんだ」
のび太が次に立ち上がった。続いて静香も。
「私のポケモン達だってコンテストだけじゃないのよ、ちゃんと四天王に挑戦する権利は得ているわ!」
「ぼ、僕だって! いいい今までみたいに逃げてばかりじゃないんだぞ!」
スネオが立ち上がる。それと同時にシロナが居間に戻ってきた。
「一番しっかりしなきゃいけない私が醜態を見せてしまったようね」
皆の姿を見て不思議と心が軽くなる。そして俺も立ち上がった。
「どうやら変な夢を見て弱気になっていたようだな、俺は決めたんだ。自分の過去にけじめをつけると!」
この瞬間、皆が一つにまとまった気がした。
----
「それに仲間は私たちだけじゃない、もっとたくさん居るわよ」
仲間がたくさん居る? 心当たりが全く無い、のび太たちもそれは同じのようだ。
「ポケモンリーグを占領した、即ちそれはポケモンリーグに関わる人間全てに喧嘩を売ったことになるわ
四天王、ジムリーダー、そしてポケモンリーグを目指す数多くのトレーナーにね」
そうか……ギンガ団を討伐しようと思っているのは俺たちだけじゃない。
他にもたくさんのトレーナーが―――おかしい。
この時、俺の中には一つの疑問が生まれた。
「なんでギンガ団はそんなリスクの高い行動をしてまで、ポケモンリーグを乗っ取ったんだ?」
四天王にジムリーダー、その他数々のトレーナーを相手にするのは正直無謀だ。
そんな明らかにリスクの高い行動を、アカギが取るとは思えない。
「言われてみればそうね……無謀にも近い行動をあの男が取るなんて」
なぜポケモンリーグあそこまでリスクを犯して、ポケモンリーグを乗っ取ったのか?
おそらく乗っ取らざるを得なかった。そしてその理由。
力を見せ付けたかった? 違う。確かに最も効果的かもしれないが代償が大きすぎる。
他の理由だ……他の理由を考えろ。何かまだ隠された謎がある。記憶の片隅まで―――
この時、俺はあることを思い出した。
ギンガトバリビルにある、謎の部屋。
そこには幹部のIDカードですら、鍵を解除することができない。無論俺のカードでも不可能だ。
あそこには総裁、つまりアカギのカードでしか入ることができない。
あの部屋には一体何があったんだろう?
----
この部屋のことを皆に話した。
「アカギ自らのカードでしか入れない秘密の部屋……そこに何かがあるのは間違いないわね」
何か……それが分かれば話は早いのだが、生憎その正体は知らない。
当たり前か、厳重に保管されているものだ。
とりあえず整理してみよう、現在の謎は……
・ポケモンリーグを占領した理由
・アカギのカードでしか入室できない謎の部屋
「後は出木杉がなぜエムリットを捕獲しようとしていたかだな。
それにあいつがキッサキで俺を襲った理由も分からない、どうやって正体を知ったかもだ」
「後は……私が突然倒れてしまうことね」
「静香ちゃん……倒れる寸前どんな感じなの?」
「えーと……突然頭の中が真っ黒になって……急に眠くなってくる感じ……
これ以上はあまり思い出したくないわ、ごめんなさい、のび太さん…」
「ごめん、ありがとう、静香ちゃん」
頭の中が真っ黒になって突然眠くなるか……よく分からんな。
この四つくらいか、他にもいくつか気になることはあるが……
とりあえずそれは頭の片隅に置いておこう。
頭の中で整理がつき、ソファに腰をかけようとしたまさにその時だった。
巨大な爆発音や、けたたましい悲鳴が耳に飛び込んできたのは
そして、ギンガ団がカンナギに責めて来たのは―――
ナナシ
ルカリオLv58、クロバットLv55、ロトムLv54、
ラグラージLv56、グレイシアLv54
----
----全員で扉の外に出る。そこには百人近くのギンガ団員。
そして、それを率いている幹部達の姿があった。
「ハハハハハ、この町を焼け野原に変えてやれ!」
「「「「「「分かりました、サターン様!」」」」」」
団員は一斉に返事をすると、それぞれモンスターボールを放り投げる。
そこからはさまざまなポケモンが飛び出し、周囲を攻撃しだした。
「私の故郷を襲撃するなんて……許せない、ミロカロス、マニューラお願い!」
出てきた二体のポケモンは、ギンガ団のポケモンを一匹ずつ蹴散らしていく。
「あなたたちもお願い! なんとかギンガ団の猛攻を食い止めて!」
シロナの声は、いつもには無い気迫が込められている。
その声に返事をすると、俺たちはそれぞれ違う方向に飛び出していった。
----
「ヒョヒョヒョ~噂の元幹部様のお出ましか
アカギ様の息子だからっていい気になってんじゃねぇよ、行け、ドクケイル!」
「そうや、ワイらは裏切り者なんかには負けへんで! ズガイドス!」
『どけ!』
「「うわああぁ…」」
ロトムとグレイシアが、二体のポケモンを一気に戦闘不能になる。
その光景を見て腰を抜かした二人を尻目に、俺は走り出した。
周囲には戸惑う人々が居る。
家を破壊され、金品を奪われ、ポケモンを奪われ―――
こんな組織に俺は加担していたのかと思うと、胸が痛む。
だからこそ崩壊させねばならない。そのためにも今は走る。
ひたすら走りぬけ、やがて一人の幹部と対峙することになった。
その幹部は俺と同じくらいの背丈、そして年齢だ。
「まさか幹部だったとはな……出木杉」
「………」
----
驚いてはみたものの、薄々は感づいていた。
いくらなんでも一人で、伝説のポケモンを捕獲するのは不可能。
となると、何らかの組織に加入していることになる。
ギンガ団に居た頃、敵対組織の名前は聞いたことが無い。
そして、ここ二、三日で出来た組織が十分な戦力を所持しているとは思えない。
つまり元からあった組織に属していることになる。幹部だったのは意外だが。
「ここで決着をつけようか、そして聞かせてもらおう。なぜギンガ団に加入したかな」
「まだ僕はこんなところで負けるわけには行かないよ、行け、ユキメノコ!」
出木杉がボールが弧を描く。中からは雪女と呼ぶに相応しいポケモン、ユキメノコが出てきた。
「ユキメノコか……前から不思議に思ってたんだ」
「なんだい? 言ってみなよ」
「前に217番道路で戦った時に、なぜそのポケモンを出さなかった?」
この質問を投げかけたとき、出木杉が半歩下がるのを俺は見逃さなかった。
「217番道路は霰も降っていて、ユキメノコを活躍させるには最高の場だった
それなのに出さなかった、いや出せなかったんだ」
息を吸い込む。そして吐き出した。
「お前のユキメノコは俺たちが戦っていたところより、十数メートル程離れた場所に居たんだ」
----
出木杉はギロッとこちらを睨む。その顔には焦りが見え始めている。
「今考えてみると都合が良すぎたんだ……俺の遭難はな
おそらくあのバトルの真の目的はクロバットを潰すこと、空を飛んで逃げられるのを避けるためだ
クロバットを潰せさえすれば用は無い。そこで吹雪を使いバトルを中断させた
後は簡単、天候が酷くなるようになんらかの技を使い、俺を追い詰める
やがて吹雪に力尽き、凍死ってわけだ
シャワーズで俺に水をかけたのも意図的だな、念には念を入れたのだろう
どうだ、出木杉? 最もまだ俺は生きているけどな、ここまでしたのに残念だ」
「長々とご苦労、だけどあの時あの場所で会ったのはあくまで偶然だ
僕が待ち伏せでもしていた証拠はあるのかい?」
流石出木杉、中々のしぶとさを見せる。だが俺は待ち伏せしていたのは分かっているんだ。
「あるさ、お前は俺との勝負の後に、キッサキシティに向かって飛んでいっただろ?
ジムに挑戦していないお前が、なぜムクホークで飛んでゆけた?
修行してた……なんてのは通じないぞ、お前の戦力ではスズナを倒すのは容易だったはずだからな」
威勢を張っているものの、それは虚勢に過ぎない。
あの戦闘にそこまで念密な殺害計画が組み込まれていたことと、誰がこの計画を考えたか
この二つが恐怖となって、俺に付きまとってきた。
「ついでにキッサキで俺を襲った時も、宝玉を取り返すのが目的では無く
あくまで俺を殺すためだな……全然気づかなかったよ」
「正解だよ……あれだけのヒントでよくここまで推理できたね、尊敬に値するよ」
出木杉は悪びれる様子も無く、淡々と答える。
「黙れ! 一体誰がこの計画を考えた? 答えろ!」
「君に教える義務なんか無いさ! そろそろお喋りはお終いにしようか、冷凍ビーム!」
「チッ……電撃波だロトム!」
----
冷気と電撃がぶつかり合う事で、白い霧が発生した。
「追撃だ、冷凍ビーム!」
霧の中から冷凍ビームが発射され、ロトムに命中する。
「お喋りに熱中してるからこうなるんだよ、今はバトルちゅ―――」
「怪しい風だ!」
ロトムが怪しい風を発生させる。
その風はユキメノコを襲い、さらに霧まで吹き飛ばした。
「確かに冷凍ビームは命中したはずなのに……」
「さっきのは身代わりだ、それに冷凍ビーム一発程度じゃロトムを倒すことなどできない」
出木杉の足元には、凍りついた身代わり人形が倒れている。
それを見て出木杉は口元を歪めた。
さっきの怪しい風はユキメノコに対して効果抜群、次の攻撃を受ければ耐えることは不可能だろう。
予想通り冷凍ビームを耐えたロトムは、二回目の怪しい風でユキメノコを戦闘不能にした。
----
「行け、エレキブル!」
ユキメノコに変わって出てきたのはエレキブル。周囲を電磁波が舞っている。
こいつの特性は『電気エンジン』
電気タイプの攻撃を無効化し、自分の素早さを上昇させる特性だ。
なら怪しい光でペースをかき回してやる。
怪しい光を発生させ、エレキブルは混乱する。
しかし一瞬にして、エレキブルの混乱は回復してしまった。
そして、エレキブルの炎のパンチでロトムは戦闘不能になってしまった。
「エレキブルにキーの実を持たせていたんだよ、君はよく混乱を狙ってくるからね」
読まれていたか……不覚だった。
「悪かったロトム……行け、ラグラージ!」
ロトムの次に出すのはラグラージ、電気タイプの唯一の弱点である地面タイプの攻撃が使えるからだ。
エレキブルにはラグラージを倒す手段は無いはず、一撃は食らうかもしれんが構わん。
ここは地震で……
「エレキブル、冷凍パンチ!」「ラグラージ、地震だ!」
技と技のぶつかり合い、勝負も中盤に入ろうとしているときだった。
怪しい一つの影が俺たちに忍び寄ろうとしていたのは……
ナナシ
ルカリオLv58、クロバットLv55、ロトムLv55
ラグラージLv56、グレイシアLv55
出木杉
ユキメノコLv56 エレキブルLv58 残りの手持ち不明
----
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『ヒャーハッハッハッハッハッハッハ』
耳障りな笑い声が頭に響く。うるさい。誰だ?
だが確認することはできない。なぜならこの空間が暗闇に包まれているからだ。
なにがそんなに面白いのだろう? 俺には分からない。
俺が『そいつ』に声をかけようとした時、突然『そいつ』の周囲が照らされる。
その時、俺は目を疑った。
照らされた地面には、血に塗れ息絶えたスネオが居た。
『うわぁああぁぁぁぁああぁぁあああ!!』
反射的に悲鳴を上げる。
その時連鎖反応を起こすかのように、また『そいつ』の周囲が照らされる。
そこにはスネオと同じく、無残な姿の静香、ジャイアンが居た。
体の血液が全て逆流し、全身が凍り付いていく感覚に襲われる。
何か喋ろうと思っても、喉に何かが詰まったように言葉が出てこない。
また照らされる。ちょうど俺の目前だ。
「あ……あ……」
そこに居たのはのび太―――死人の顔をしていた。
俺は地面を這い蹲りながら、のび太だった物に近づき、抱き上げる。
しかし次の瞬間、のび太だった物は砂に変化し俺の手を流れていった。
続いて、他の三人も砂となり地面に吸い込まれていく。
俺は『そいつ』を見上げる。憤怒に満ちた目で。
しかし『そいつ』は俺を見ると、ニヤリと笑みを浮かべる。
そして―――
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『うわぁああぁああぁぁぁああぁあ!!』
思わず飛び上がった。
周囲を見渡す。木で出来た壁、畳、俺の下半身を包む布団。
なんだ……夢か……
額の汗を裾で拭う。ベッタリの手首の辺りが湿った。
それにしても嫌な夢だった、皆が死ぬ夢を見るなんて……縁起でもない。
あれ? そういえば皆はどこ行ったんだ?
時計に目をやる。すると既に八時を回っていた。
「俺が起きるの遅かったんだな……」
布団を畳み、俺は居間のほうへと向かった。
居間には全員が揃ってる。空気が重い。嫌な予感がする。
「なにか……あったみたいだな」
「うん、落ち着いて聞いてね、ナナシ君」
「ポケモンリーグがギンガ団に占領された」
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耳を疑う。ポケモンリーグが占領されただと?
「私が出かけているうちに……不覚だったわ」
シロナは下唇を噛み締め、苦い表情を浮かべる。
そうか、チャンピオンであるシロナが不在だったのか、それを狙って……
糞ッ……姑息な手を使いやがって。
「少し一人にさせてちょうだい、食事なら昨日の残りがあるわ」
額を右手で押さえながら、シロナは寝室に戻っていった。
よほどショックだったのだろう。
シロナが戻った後は、気まずい空気が流れていた。
無理も無い。シンオウで最強のトレーナーが集まるポケモンリーグが占領されたのである。
それが意味することはただ一つ。
今のギンガ団には四天王を上回る力があるということだ。
こんな相手に俺たちは勝てるのか……?
圧倒的な恐怖に押しつぶされそうになる。怖い。
体中から脂汗が滲み出る。視界もぼやけて来た。
俺が完全に恐怖に屈しようとしていたその時だった。
『諦めるなッ!』
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突然ジャイアンが立ち上がり大声を発する。それは家中に響き渡った。
『ポケモンリーグが支配されたからなんだ!? 四天王を倒したからなんだ!?
それなら俺たちがギンガ団より、もっと強くなればいいじゃねーか!
どうせ避けては通れねぇ道なんだ! 何時までもクヨクヨしてたってしょうがねーだろ!!』
ジャイアンを見上げる。その表情には一寸の迷いも無かった。
あぁ……ジャイアンは強いな。虚勢ばかり張っている俺なんかよりもずっと、ずっと……
「そうだよね……僕らが諦めてどうするんだ、僕だってバッジを八つ集めたんだ」
のび太が次に立ち上がった。続いて静香も。
「私のポケモン達だってコンテストだけじゃないのよ、ちゃんと四天王に挑戦する権利は得ているわ!」
「ぼ、僕だって! いいい今までみたいに逃げてばかりじゃないんだぞ!」
スネオが立ち上がる。それと同時にシロナが居間に戻ってきた。
「一番しっかりしなきゃいけない私が醜態を見せてしまったようね」
皆の姿を見て不思議と心が軽くなる。そして俺も立ち上がった。
「どうやら変な夢を見て弱気になっていたようだな、俺は決めたんだ。自分の過去にけじめをつけると!」
この瞬間、皆が一つにまとまった気がした。
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「それに仲間は私たちだけじゃない、もっとたくさん居るわよ」
仲間がたくさん居る? 心当たりが全く無い、のび太たちもそれは同じのようだ。
「ポケモンリーグを占領した、即ちそれはポケモンリーグに関わる人間全てに喧嘩を売ったことになるわ
四天王、ジムリーダー、そしてポケモンリーグを目指す数多くのトレーナーにね」
そうか……ギンガ団を討伐しようと思っているのは俺たちだけじゃない。
他にもたくさんのトレーナーが―――おかしい。
この時、俺の中には一つの疑問が生まれた。
「なんでギンガ団はそんなリスクの高い行動をしてまで、ポケモンリーグを乗っ取ったんだ?」
四天王にジムリーダー、その他数々のトレーナーを相手にするのは正直無謀だ。
そんな明らかにリスクの高い行動を、アカギが取るとは思えない。
「言われてみればそうね……無謀にも近い行動をあの男が取るなんて」
なぜポケモンリーグあそこまでリスクを犯して、ポケモンリーグを乗っ取ったのか?
おそらく乗っ取らざるを得なかった。そしてその理由。
力を見せ付けたかった? 違う。確かに最も効果的かもしれないが代償が大きすぎる。
他の理由だ……他の理由を考えろ。何かまだ隠された謎がある。記憶の片隅まで―――
この時、俺はあることを思い出した。
ギンガトバリビルにある、謎の部屋。
そこには幹部のIDカードですら、鍵を解除することができない。無論俺のカードでも不可能だ。
あそこには総裁、つまりアカギのカードでしか入ることができない。
あの部屋には一体何があったんだろう?
----
この部屋のことを皆に話した。
「アカギ自らのカードでしか入れない秘密の部屋……そこに何かがあるのは間違いないわね」
何か……それが分かれば話は早いのだが、生憎その正体は知らない。
当たり前か、厳重に保管されているものだ。
とりあえず整理してみよう、現在の謎は……
・ポケモンリーグを占領した理由
・アカギのカードでしか入室できない謎の部屋
「後は出木杉がなぜエムリットを捕獲しようとしていたかだな。
それにあいつがキッサキで俺を襲った理由も分からない、どうやって正体を知ったかもだ」
「後は……私が突然倒れてしまうことね」
「静香ちゃん……倒れる寸前どんな感じなの?」
「えーと……突然頭の中が真っ黒になって……急に眠くなってくる感じ……
これ以上はあまり思い出したくないわ、ごめんなさい、のび太さん…」
「ごめん、ありがとう、静香ちゃん」
頭の中が真っ黒になって突然眠くなるか……よく分からんな。
この四つくらいか、他にもいくつか気になることはあるが……
とりあえずそれは頭の片隅に置いておこう。
頭の中で整理がつき、ソファに腰をかけようとしたまさにその時だった。
巨大な爆発音や、けたたましい悲鳴が耳に飛び込んできたのは
そして、ギンガ団がカンナギに責めて来たのは―――
ナナシ
ルカリオLv58、クロバットLv55、ロトムLv54、
ラグラージLv56、グレイシアLv54
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----全員で扉の外に出る。そこには百人近くのギンガ団員。
そして、それを率いている幹部達の姿があった。
「ハハハハハ、この町を焼け野原に変えてやれ!」
「「「「「「分かりました、サターン様!」」」」」」
団員は一斉に返事をすると、それぞれモンスターボールを放り投げる。
そこからはさまざまなポケモンが飛び出し、周囲を攻撃しだした。
「私の故郷を襲撃するなんて……許せない、ミロカロス、マニューラお願い!」
出てきた二体のポケモンは、ギンガ団のポケモンを一匹ずつ蹴散らしていく。
「あなたたちもお願い! なんとかギンガ団の猛攻を食い止めて!」
シロナの声は、いつもには無い気迫が込められている。
その声に返事をすると、俺たちはそれぞれ違う方向に飛び出していった。
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「ヒョヒョヒョ~噂の元幹部様のお出ましか
アカギ様の息子だからっていい気になってんじゃねぇよ、行け、ドクケイル!」
「そうや、ワイらは裏切り者なんかには負けへんで! ズガイドス!」
『どけ!』
「「うわああぁ…」」
ロトムとグレイシアが、二体のポケモンを一気に戦闘不能になる。
その光景を見て腰を抜かした二人を尻目に、俺は走り出した。
周囲には戸惑う人々が居る。
家を破壊され、金品を奪われ、ポケモンを奪われ―――
こんな組織に俺は加担していたのかと思うと、胸が痛む。
だからこそ崩壊させねばならない。そのためにも今は走る。
ひたすら走りぬけ、やがて一人の幹部と対峙することになった。
その幹部は俺と同じくらいの背丈、そして年齢だ。
「まさか幹部だったとはな……出木杉」
「………」
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驚いてはみたものの、薄々は感づいていた。
いくらなんでも一人で、伝説のポケモンを捕獲するのは不可能。
となると、何らかの組織に加入していることになる。
ギンガ団に居た頃、敵対組織の名前は聞いたことが無い。
そして、ここ二、三日で出来た組織が十分な戦力を所持しているとは思えない。
つまり元からあった組織に属していることになる。幹部だったのは意外だが。
「ここで決着をつけようか、そして聞かせてもらおう。なぜギンガ団に加入したかな」
「まだ僕はこんなところで負けるわけには行かないよ、行け、ユキメノコ!」
出木杉がボールが弧を描く。中からは雪女と呼ぶに相応しいポケモン、ユキメノコが出てきた。
「ユキメノコか……前から不思議に思ってたんだ」
「なんだい? 言ってみなよ」
「前に217番道路で戦った時に、なぜそのポケモンを出さなかった?」
この質問を投げかけたとき、出木杉が半歩下がるのを俺は見逃さなかった。
「217番道路は霰も降っていて、ユキメノコを活躍させるには最高の場だった
それなのに出さなかった、いや出せなかったんだ」
息を吸い込む。そして吐き出した。
「お前のユキメノコは俺たちが戦っていたところより、十数メートル程離れた場所に居たんだ」
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出木杉はギロッとこちらを睨む。その顔には焦りが見え始めている。
「今考えてみると都合が良すぎたんだ……俺の遭難はな
おそらくあのバトルの真の目的はクロバットを潰すこと、空を飛んで逃げられるのを避けるためだ
クロバットを潰せさえすれば用は無い。そこで吹雪を使いバトルを中断させた
後は簡単、天候が酷くなるようになんらかの技を使い、俺を追い詰める
やがて吹雪に力尽き、凍死ってわけだ
シャワーズで俺に水をかけたのも意図的だな、念には念を入れたのだろう
どうだ、出木杉? 最もまだ俺は生きているけどな、ここまでしたのに残念だ」
「長々とご苦労、だけどあの時あの場所で会ったのはあくまで偶然だ
僕が待ち伏せでもしていた証拠はあるのかい?」
流石出木杉、中々のしぶとさを見せる。だが俺は待ち伏せしていたのは分かっているんだ。
「あるさ、お前は俺との勝負の後に、キッサキシティに向かって飛んでいっただろ?
ジムに挑戦していないお前が、なぜムクホークで飛んでゆけた?
修行してた……なんてのは通じないぞ、お前の戦力ではスズナを倒すのは容易だったはずだからな」
威勢を張っているものの、それは虚勢に過ぎない。
あの戦闘にそこまで念密な殺害計画が組み込まれていたことと、誰がこの計画を考えたか
この二つが恐怖となって、俺に付きまとってきた。
「ついでにキッサキで俺を襲った時も、宝玉を取り返すのが目的では無く
あくまで俺を殺すためだな……全然気づかなかったよ」
「正解だよ……あれだけのヒントでよくここまで推理できたね、尊敬に値するよ」
出木杉は悪びれる様子も無く、淡々と答える。
「黙れ! 一体誰がこの計画を考えた? 答えろ!」
「君に教える義務なんか無いさ! そろそろお喋りはお終いにしようか、冷凍ビーム!」
「チッ……電撃波だロトム!」
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冷気と電撃がぶつかり合う事で、白い霧が発生した。
「追撃だ、冷凍ビーム!」
霧の中から冷凍ビームが発射され、ロトムに命中する。
「お喋りに熱中してるからこうなるんだよ、今はバトルちゅ―――」
「怪しい風だ!」
ロトムが怪しい風を発生させる。
その風はユキメノコを襲い、さらに霧まで吹き飛ばした。
「確かに冷凍ビームは命中したはずなのに……」
「さっきのは身代わりだ、それに冷凍ビーム一発程度じゃロトムを倒すことなどできない」
出木杉の足元には、凍りついた身代わり人形が倒れている。
それを見て出木杉は口元を歪めた。
さっきの怪しい風はユキメノコに対して効果抜群、次の攻撃を受ければ耐えることは不可能だろう。
予想通り冷凍ビームを耐えたロトムは、二回目の怪しい風でユキメノコを戦闘不能にした。
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「行け、エレキブル!」
ユキメノコに変わって出てきたのはエレキブル。周囲を電磁波が舞っている。
こいつの特性は『電気エンジン』
電気タイプの攻撃を無効化し、自分の素早さを上昇させる特性だ。
なら怪しい光でペースをかき回してやる。
怪しい光を発生させ、エレキブルは混乱する。
しかし一瞬にして、エレキブルの混乱は回復してしまった。
そして、エレキブルの炎のパンチでロトムは戦闘不能になってしまった。
「エレキブルにキーの実を持たせていたんだよ、君はよく混乱を狙ってくるからね」
読まれていたか……不覚だった。
「悪かったロトム……行け、ラグラージ!」
ロトムの次に出すのはラグラージ、電気タイプの唯一の弱点である地面タイプの攻撃が使えるからだ。
エレキブルにはラグラージを倒す手段は無いはず、一撃は食らうかもしれんが構わん。
ここは地震で……
「エレキブル、冷凍パンチ!」「ラグラージ、地震だ!」
技と技のぶつかり合い、勝負も中盤に入ろうとしているときだった。
怪しい一つの影が俺たちに忍び寄ろうとしていたのは……
ナナシ
ルカリオLv58、クロバットLv55、ロトムLv55
ラグラージLv56、グレイシアLv55
出木杉
ユキメノコLv56 エレキブルLv58 残りの手持ち不明
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----エレキブルは地震の一撃で戦闘不能になる。出木杉が悔しそうにエレキブルを戻した。
「地面タイプに電気タイプで無理に挑むからだ、相性くらい考えて行動するんだな」
出木杉を挑発する。すると出木杉はギロッとこちらを睨み付けた。
「余裕を見せてられるのも今のうちさ! 行け、ムクホ――」
出木杉が新たなモンスターボールを投げようとしたその時、急に頭上が暗くなる。
「……カビゴン……のしかかり」
そして次の瞬間、巨大な何かがフィールド場に落下してきた。
「ぐあぁ!」「うわっ!」
砂煙が周囲を包む。思わず腕で目を庇った。
「一体なんだ!?」
砂煙が引いたその場所には気絶しているラグラージ、巨大なカビゴン。
そして黒いローブを羽織った、背の低い人間が居た。
----
まずい、こいつがギンガ団の人間だったら数的不利に陥る。
そうしたら勝ち目など、彼方へと吹き飛んでしまう。
一瞬のうちでそこまで考えが広がり、思わず顔が強張ってしまった。
「……………」
黒いローブの人間は何も喋らない、そのうえピクリとも動かない。
だが黒いローブの奥から見える瞳は、まるで黒曜石の様に邪悪な光を放っていた。
こいつは本当に、人間なのか。
「心配ない、僕一人で十分だ! シャワーズ!」
出木杉は、黒ローブから逃げるような形でシャワーズを繰り出す。
「頼むぞ、クロバット! クロスポイ――」
クロバットに指示を出そうとしたその瞬間、出木杉がこちら目掛けて全力疾走してくる。
咄嗟に腕でガードしたが、差し出した腕を掴まれ、押し倒されてしまった。
「僕は絶対に失敗してはならないんだ、邪魔をしないでもらいたいね」
「退け、退かないとクロバットで攻撃するぞ?」
「出来るのかな、君に?」
出木杉のその瞳は確信していた。俺が絶対に危害を加えないと。
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「シャワーズ、池の中に潜れ!」
出木杉の掛け声で水中に身を隠すシャワーズ。
「クロバットは攻撃技だけじゃない、催眠術だ!」
「無駄だよ、催眠術は相手の目を見ない限り掛かることは無いからね」
出木杉が地面の方向を向いているせいで、催眠術は失敗に終わる。
「今だ、冷凍ビーム!」
池の中から冷凍ビームが発射され、それはクロバットの右翼を貫く。
レベルの差もあったせいか、一瞬にして凍り付いてしまう。
右翼が使えなくなったクロバットは、こちら側に落下してきた。
「ぐあっ……くそぉ」
クロバットが落下してくる寸前に、出木杉は上手く俺の体から離れる。。
だが俺は避けることができず、自分の体でクロバットを受け止める形となってしまった。
身体のあちこちが痛むが、立ち上がるのには何ら支障はない。
「どうやら立ち上がることができたみたいだね、クロバットはもう瀕死みたいだけど」
クロバットは気絶している。それであいつのシャワーズの強さを再認識させられた。
「僕一人でも勝てる……僕一人でも大丈夫なんだ……」
出木杉は呪文のように呟く。いつの間にか黒ローブは居なくなっていた。
シャワーズを倒すには、出し惜しみなんてできない。
ここは最強のルカリオでケリをつける。
「行け、ルカリオ!」
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「確かルカリオは、君のパーティの中で最強だったね」
「あぁ……今からそれを証明してやる、池の中のシャワーズに波動弾をかましてやれ!」
水中に潜られると、普通は中々攻撃を命中させることは出来ない。
だが波動弾は例外、相手が見えていれば絶対に外さない。
水中に隠れていようとなんだろうと、この技の前には無意味。
……そのはずだったが、何故かルカリオは波動弾を発射せず、未だにシャワーズを探している。
「どうした、ルカリオ?」
「フフフ……シャワーズは水に溶ける性質を持っている。相手が見えなきゃ波動弾でも当たらない」
ルカリオが悔しそうに下唇を噛み締める。
「……なら悪の波動だ、池全体を攻撃しろ!」
悪の波動は広範囲を一気に攻撃できる技。見えないならその全部を攻撃すればいい。
「悪の波動は確かに広範囲を一気に攻撃できる。
だがその分、通常時より威力は落ちるのを忘れているようだね」
思わず舌打ちをしてしまう。
池に深く潜ってしまえば悪の波動は届かないのだ。
「今度はこっちから行くよ、波乗りだ!」
池の水が噴出し、ルカリオに襲い掛かる。
それから逃れることのできなかったルカリオは、波に飲み込まれ、池の中へと引きずり込まれていった。
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一分もしないうちに、ルカリオは水中から飛び出してくる
だが表情には疲労の色が見え、息も上がっていた。
「どうやら水中で必死に抵抗したようだね、水中では圧倒的にシャワーズのほうが有利なのに」
これ以上ルカリオを酷使するわけにはいかず、俺はルカリオをボールに戻した。
「水に溶けているシャワーズを倒す方法なんて無い、だからさっさと立ち去るんだ」
出木杉の言う通り、水に溶けているシャワーズを倒す方法なんて―――?
水に、溶けている。
倒す可能性は、まだ残されている。
あの手を使えば倒せるかもしれない。
「立ち去るわけには行かない、まだ俺のポケモンは残ってるからな、頼むぞ、グレイシア!」
華麗な舞を踊るかのように、真っ白なグレイシアが姿を現す。
グレイシアこそが、シャワーズを倒す逆転の切り札だ。
「グレイシア……まさか!?」
「そのまさかだ、池全体を凍らせろ!」
グレイシアは息を吸い込み、池全体に強力な冷気を放つ。
見る見るうちに池は凍りついていった。
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「これでシャワーズは封じた、さぁ次のポケモンを出せ」
池が凍結すると、すぐにシャワーズは液体から戻る。
既に、戦闘を行うほどの気力は無かった。
「くそ……だが、これで終わりだ。行け、ムクホ―――」
出木杉が最後のポケモンを出そうと、モンスターボールを掲げた瞬間。
大人数の声が響き、熱気が伝わる。
理由は分からなかったが、出木杉のポケッチからの伝言で事態を把握することが出来た。
≪撤退だ、大量のトレーナーがカンナギに入ろうとしている!≫
「くそっ……ムクホーク!」
ムクホークが姿を現す。二度も逃がしてたまるか!
「そうは行くか、冷凍――」「糸を吐くだ、ケムッソォ!」
俺の足に粘着力のある糸が絡んでくる。それに足を捕られ転倒してしまった。
「ヒョヒョヒョヒョヒョ~俺を忘れてもらっちゃ困るなぁ」
「ま、待て!」
俺が声を上げたとき、既に出木杉は地上には居なかった。
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「めざめるパワー!」「うわああぁああ!!」
ケムッソを一撃で戦闘不能にさせる。そして足に絡み付いている糸も焼き払った。
一部は既に逃亡したようだが、まだたくさんの下っ端が戦闘を繰り広げている。
出来るだけ相手の戦力を削ぐべきと判断し、俺は走り出した。
何人かの下っ端を戦闘不能にしながら走り続ける。グレイシア一匹しか居ないが順調に勝ち進んでいる。
このまま誰かと落ち合えれば―――ッ!?
不意に黒い物体が物凄い速さで横切る。それに足が竦んで立ち止まってしまった。
その数秒後、頬に鋭い痛みを感じる。
その位置に触れ、指を見ると血が滲んでいた。
この時初めて俺は布で頬を切ったこと、そして横切った物体が先ほどの黒ローブだと気づく。
……嫌な予感が過ぎる。奴の来た方角は、のび太と静香が向かった場所だ。
俺は、ローブの人間が来た道を走り始めた。
そしてすぐに、嫌な予感は的中する。
俺の眼に飛び込んできたもの、それは草原にうつ伏せになって倒れているのび太だった。
ナナシ
ルカリオLv58、クロバットLv55、ロトムLv55
ラグラージLv56、グレイシアLv55
出木杉
シャワーズLv62、ムクホークLv59、エレキブルLv58
ユキメノコLv56、残りの手持ち不明
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今、目の前には、数種類の木の実とチョコレートでトッピングされた巨大なパフェがある。
周囲にはのび太、スネオ、ジャイアン、シロナが居て
それぞれ目の前に、盛り付けられた料理が並べられている。
ここまで言えば分かるかもしれないが、俺たちは今ファミレスに来ていた。
「昨日はご苦労様、私が御代を出すから気にせず食べてね」
今日は昨日のギンガ団撃退のお疲れ会を開催したのだ。
「そんなに暗くならないで、色々あったけどあなたたちはギンガ団を撃退したのよ」
そう、確かに俺たちはギンガ団を撃退した。
だがその代償は決して小さい物では無かった。
――――
あの時、気絶しているのび太の肩を掴み揺さぶった。
するとのび太はすぐに目覚める。この一瞬は安堵したがこれはすぐに崩れ去った。のび太の一言で。
『静香ちゃんがギンガ団に連れ去られた』
一気に血の気が引く。そして初めて気が付いた。のび太と一緒に居たはずの静香が居ないことに……
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のび太と静香は、二人でサターンを追い詰めていたようで
途中までは上手く行っていたが、黒ローブが乱入してきたことで事態は一変。
あいつの出したポケモンが、次々とのび太たちのポケモンを葬っていった。
だが、それだけでは終わらなかった。
ちょうど全てのポケモンが戦闘不能になった時、またしても静香が倒れたらしい。
のび太は静香に近寄ったが、その時猛烈な眠気が襲い掛かる。
薄れ行く意識の中で、のび太が最後に見たものは
静香を抱えて、その場から消滅するサターンの姿だった。
―――
これがのび太の言っていた出来事だ。
ジャイアンやスネオも、ギリギリまで追い詰められたようで
もう少し加勢が遅かったら、大変な事態になっていたらしい。
そして、俺にもそれは言える。
なんとか出木杉に一矢報いることは出来たが、あの後まともに戦っていたら勝ち目は無かっただろう。
仮にシャワーズを撃破できたとしても、まだあいつには別のポケモンが最低でも一体残ってた。
ここまで来て、自分の無力さを痛感させられてしまった。
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スプーンでチョコアイスを抄くって、口に運ぶ。
このモモンと熟したチーゴの甘みと、オレンの酸味が絡み合って美味しい。
小さい時から一度は食べてみたかったんだよな、美味い……
……変に気持ちを盛り上げようとするのも、疲れる。
思わずため息をついてしまった……ッ!!?
『辛ッ!!』
舌に特有の刺激を感じ、すぐさまテーブルの上のコップを手に取る。
そして水を流し込み、深く溜め息をついた。
そういえばこのパフェは『レインボー木の実パフェ』だった。
辛いクラボの実も入ってるんだった……不覚。
「ガハハハハ、お前辛い物苦手なのかよ」
ジャイアンが、豪快な笑い声を上げながら話しかけてくる。
「し、仕方ないだろ、小さい頃にノワキの実を食べて火ぃ吐いたことあるんだ!」
「プッ…ナナシ……前から思ってたんだが、お前って結構子供っぽいよな
甘い物好きだったり、辛い物駄目だったり。さっきのお前凄い嬉しそうな顔してたぜ」
「な……」
ジャイアンが口元にカレーを付着させ、ニヤリと口端を吊り上げる。
「わ、悪いかよ……甘い物好きで…」
「別に悪いなんて言ってねーよ。大体お前俺たちと同じで十歳じゃんか
変に大人っぽくするなよ、疲れるぜ?」
ジャイアンが先ほどの表情を保ったまま、こちらを見据える。思わず俯いてしまった。
『子供っぽく』か。
考えてみると変に大人っぽく振舞っていたかもしれない。
昔から周囲は大人ばかりで、見下されたくなかったから。
「そうだな……ハハハ」
何か心が軽くなった気がする。
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「子供と言えば、小さい頃のことで全く記憶に無いことがあるんだよな」
不意にこの事を思い出した。
旅している間はすっかり忘れていたが、俺は一度だけ妙な出来事を体験したことがある。
だが、そのことは全く覚えていない。
覚えてないことを覚えているのだ。
不意に記憶が途切れて、気が付いた時は自分の部屋で眠っていた、とだけなぜか鮮明に覚えている。
「そんなこといちいち気にするなよ、俺だって記憶が曖昧なことくらいあるぜ!」
「ちょっと変な話だね……そういえば僕もたまに記憶が抜けてることがあるけど」
ジャイアンは相変わらずの反応だが、スネオは若干考え込むような動作をしている。
「それくらい誰にだってあるよ。最近は無いけど、
僕なんて行った事も無い場所のことを覚えてたりするんだから」
「皆、子供なのに痴呆? 私なんかそんなこと一度も無いわよ」
シロナが口元に手を当て笑い声を上げる。
その姿を見て、少し腹が立った。
その後も当たり障りの無い雑談がしばらく続く。
こんな状況下に置かれていなければ、純粋に楽しむことが出来ただろう。
俺はどこか腑に落ちない点を残しながら、話を続けていた。
僅かに残ったパフェを食べようとスプーンを伸ばした時、シロナが身を乗り出す。
「そろそろ今後のことを話してもいい?」
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のび太達は、シロナの言葉を聞き、口を閉じる。
今回の真の目的は、今後の相談。
静香が誘拐され、さらに土壇場まで追い詰められる。
ちゃんと計画を立てて抵抗しないと、次は『死』すら訪れるかもしれない。
俺は深呼吸をして、話に参加する準備をした。
「皆の話を聞く限り、ギンガ団は確実に戦力を増大している
昨日の戦闘で少しは削れたかもしれないけど、まだまだ足りない」
昨日の戦闘で、ギンガ団の下っ端を十数人捕らえることが出来た。
だがそれは全勢力の一割にも満たない数。まだまだ膨大な数の戦闘員が残っているのだ。
それに幹部や出木杉。さらに黒ローブなどの実力者も揃ってる。
そしてアカギも、いつかこの手で倒さねばならない。
「たくさんの下っ端や実力者である幹部たちを倒すためには
やっぱりこっちも実力を上げるしかないと思う」
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シロナが強く、はっきりとした口調で告げる。
その答えが返ってくるのを分かっていたのか、三人は表情を崩さなかった。
「それは構いませんが……どこで修行するつもりなんですか?」
のび太が僅かに眉を下げ、不安そうな口調で尋ねる。
チャンピオンロードが定番となってるが、あそこは今ギンガ団に占領されている。
それに、強力なギンガ団相手に普通の修行では、遠く及ばない気がした。
「それだけど……バトルゾーンでの修行を検討してるわ」
バトルゾーン、シンオウ地方の北東にある島のことだ。
ここには珍しいポケモンや強力なトレーナー、さらにバトルタワーやハードマウンテン等もある。
修行する場所としては、これ以上に無いほどの環境だろう。
あそこはポケモンリーグを制覇しないと出入り禁止だったが
チャンピオンであるシロナなら、ある程度の無理は通るのだろう。
「でもシロナさん、僕達が居ない間にギンガ団がまたトレーナー狩りを始めたらどうするんですか?」
今度はスネオが不安そうに尋ねる。
しかしシロナは表情を崩さない。どうやら策があるようだ。
「ジムリーダーには自分の持ち場を離れないように言ってあるし、ジムリーダーが居ない町には四天王を配置してるわ」
「ただ何時までも呑気に修行しているわけには行かないわ、期限は一週間
最低でも全ポケモンのレベルが七十を越すように、あと手持ちが六体になるようにして」
全ポケモンのレベルを七十以上にするうえに、手持ちをあと一体増やすのか……
相当厳しい物となりそうだ。だがそのくらいの努力をしなければギンガ団を打ち破ることなどできない。
「分かりました、一週間でギンガ団を倒すだけど実力を身につけてみせます!」
こうして俺たちは、修行のためにバトルゾーンへと向かった。
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ナナシ
ルカリオLv58、クロバットLv55、ロトムLv55
ラグラージLv56、グレイシアLv55
のび太
カイリューLv58、ライチュウLv56、アゲハントLv50、
ムウマージLv51、エテボースLv53
スネオ
ゴウカザルLv58、トリトドンLv56、テッカニンLv52
ヌケニンLv51、カクレオンLv45
ジャイアン
ドダイトスLv57、カイリキーLv56、サマヨールLv56
ガブリアスLv62
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