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[[前へ>トレーナー その7]] No.021『Hey! You! What do you see?』 のび太が孵化作業という名のマラソンを始めた丁度その頃、島の北の浜辺には、世にも奇妙な生物が出現していた。 青い体に二頭身、それにあのヒゲに鈴。 そう、みんなも大好きドラえもんだ。 「よし、支給品の確認も済んだし、のび太君を探しに行くか」 ドラえもんはそう言うと砂浜から立ち上がり、おもむろに自らの腹のポケットを探りだした。 「どこかな……あ、あった。 『尋ね人ステッキ』~」 すると中から出てきたのは何やら怪しい一本の棒。 しかしただの棒ではない。 「これを立てて、知りたい人の名前を言いながら手を離す。 するとその人が居る方角にステッキが倒れるんだ! (たまに外れる時が有るけどね)」 誰か居る訳でも無いのに説明を始めるドラえもん。 日頃の癖という奴であろうか。 ドラえもんはその不思議で便利なステッキを立てる。そしてドラえもんは言う。 「のび太君はどこかな~?」 そしてステッキを支えていた手を離す。 倒れたステッキは森の方角を指していた。 「よし、森か!待っててね、のび太君。 今から行くから!」 ドラえもんはのび太を探すべく魔の住む森の中に突入した。 ---- そしてそのドラえもんの様子を影で見ていた人物が一人。 「あんこ、いい支給品貰っただなぁ。 あぎゃんもんをぶんどればマンソンも簡単に見つかるかもしんねっぞ とんかく後を追うべ」 ドラえもんにも一人、影の追跡者がついた。 * * * * 「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」 静かな森を走るのび太。 木々はそよ風に吹かれて涼しげだが、リュックを担いで孵化のために走る彼は、見るからに暑苦しい。 「ヒィ、ヒィ、ヒィ。これは…作業じゃない……重労働だよォ……」 背中のリュックに汗が染み込む。リュックのバンドが肩に食い込む。 しかもこの湿度の高い森の中。体感温度は実際の数字より、確実に高い。 そしてそれらは着実にのび太の体力を削り、水の消費スピードも格段に上げる。 そしてまた10分が立ち、500mlの水は無くなってしまった。 「とりあえず地図を見て水場を探そう… これじゃあ、脱水症状で死ぬ…」 幸い、地図によると水場は近かった。 ここからおおよそ200メートル。 「辿りつけるかなぁ…ハァ」 のび太は再び走りだした。 その時、 ビシッ。 のび太のリュックの中から何かがヒビ割れる音がした。 ---- * * * 所は変わってサントアンヌ号船内の一室。 そこは通常の航海では船長室として使われているが、今日は大量のモニターが並び、まるで船長室としての面影を残していない。 そしてその大量のモニターを眺める少女が一人。 整った顔つきに露になった腰の部分が悩ましい。 「キャハハハハハハハ! あの子ポケモン孵化させてないじゃん! マジでウケる! キャハハハハハハハ!」 彼女の名はナタネ。 ハクタイジムのジムリーダーであり、第三次試験官である。 ちなみに彼女の嘲笑の対象は……いや、読者諸君のご想像にお任せしよう。 彼女が爆笑していると、不意に背後のドアがノックされる。 「ハハハハ………どうぞ…」 ナタネの許可とともにドアが開く。 すると、二人の幼い女の子が中に入ってきた。 二人とも三編みにお揃いの服を来ている。 だが、お揃いなのは服装や髪型だけではない。 顔立ち、目の色や髪の色が、まるでコピーしたかのように一緒だったのだ。 その二人にナタネが言う。 ---- 「はーい、あなたたちのお名前はなんですかー?」 まるで教育テレビのお姉さんような口調で語りかけるナタネ。 そして二人はテレビのチビッ子よろしく、元気良く答えた。 「マリちゃんでーす!」 「リンちゃんでーす!」 「「二人合わせてー、リンマリでーす!」」 「かぁわぁいいぃぃぃ!!!」 皆さんはもう気づきかも知れないが、この二人実は一卵性双生児、いわゆる双子ちゃんなのだ。 その年齢は実に6歳。一次試験のゴロウより、更に年下である。 通常、試験は10歳からしか受けられないので、10歳以下でトレーナーをやってるのは有り得ないのだが、『特例』だそうだ。 ちなみに、トクサネジムのフウとランも、その『特例』の恩恵を預かっている。 「見て見て~、あれが試験受験者だよ~」 ナタネはモニターを指さす。 「じゅけんちゃ…たん? じゅけんちゃたんってタヌキたんやキツネたんや過齢臭のしそうなオッサンもいるんでちゅか。すごいでちゅ~」 「そうよマリちゃん、あれが受験者たんですよ~。 ちなみにあのオジサンは今年で受験が15回目のベテランさんですよ~」 「へぇー、あれがいつまでも叶わない変な夢見て人生無駄に浪費してる人間カスでちゅか。クソキモいでちゅ~」 「はーい、リンちゃん、よくできましたー。 皆はちゃんと自分の限界見計らってそれを超えたでしゃばった事をしないようにね~」 「「はーい」」 ………これはひどい。 ---- 「あれ? ナタ姉たん、なんであの人はあそこでおネンネしてるでちゅか?」 不意にリン(そっくりだからマリかもしれない)がモニターを指さす。 それには倒れてる一人の男が映し出されていた。 ナタネはそれを見ても慌てる様子はなく、双子ちゃんに言う。 「あれは脱水症状で倒れている男の人ですよー。 分かる?脱水症状って」 「はいッ!」 「はい、どうぞ。マリちゃん」 「激しい発汗などによる大量の体内の水分の喪失によって引き起こされる夏の風物詩でちゅね、ナタ姉たん」 「はい、よくできました、マリちゃん」 「でも、でもナタ姉たん、なんであのヘタレは配られた水を飲まないんでちゅか?」 リンが訊く。 ナタネは笑顔でそれに応える。 「それはねー、水や食糧を少なめに支給してるからよ。 それとあの人がバカだから試験が始まった瞬間、水源とかも確認せずに、貴重な水をがぶ飲みしたんでしょうねー。 倒れてるけどほっときますよ。 トレーナーにアホは要りませんからねー」 「そうでちゅねー。 でも、ナタ姉たん。 なんで食糧と水をわざと少なめに支給したんでちゅか?」 ---- 「マリちゃん、良いところに目をつけました! さぁ、二人は分かるかなぁ?」 「「うーん……分かんないでちゅうぅ…」」 「うーん、まだ二人には早かったかもねぇ。 あのね、もしも貴方たちがもし食べ物が無くて、他の人が食べ物を持ってたらどうする?」 「「ブチ殺ちてでも奪いとりまーす」」 「はい、それが正解。 食糧を少なめに支給した理由はですねー、受験者同士で食糧や水を奪い合わせて、互いに潰し合いをさせるためですよー」 「すごい頭いいでちゅ!ナタ姉たん!」 「頭いいでちゅ!ナタ姉たん!」 「ありがとうー。アタシ嬉しいよ、マリちゃん、リンちゃん。 じゃあこれから皆で楽しく受験者の潰し合いを観察しましょうねー」 「観察するでちゅ」 「観察するでちゅ。あのメガネ、ダメ男オーラが漂ってるでちゅ」 三人はみんな仲良く哀れな受験者どもの観察を始めた。 ここにゴロウが居たら、きっとこう言うだろう。 「嫌な女共だ……」 と。 ---- * * * そして、視点はダメ男………いや、のび太に戻る。 ビシ、ビシビシッ。 背後から響く音。これはまさしく……。 「孵化だぁぁぁぁぁぁ!」 のび太は叫び、いそいそとリュックを下ろしてその様子を確認しようとする。 しかし、タマゴは孵化どころが、ヒビ一つ入っていない。 「あれ……? なんで?確かに音がしたハズなのに……」 のび太は首を傾げる。 すると、 バキッ。 「え、バキッ?」 のび太がそう言うが早いか、 「うわぁぁぁぁぁぁぁ」 ドスン。 突如、空から人と、木の枝が落ちてきた。 のび太は人物が何処から落ちたかは正確には見ていないが、あのバキッと、ドスンの時間差から考えると、結構な高さから落ちたということは予想出来た。 「うわぁ……痛そう…。大丈夫ですかぁ……?」 のび太はその落ちた人物に駆け寄る。 人間は高所から落ちた時は必ず、体の中で最も重い頭が下にくる。 その人物も例に漏れず頭から落ちてきたようだ。 頭が地面にめり込んでいる。地面が柔らかな腐葉土でなかったら、死んでいたかも知れない。 ---- 「ムムムムムーン!ムムムムムーン!」 地面に顔を埋めながら体をバタつかせる『誰か』。 「大丈夫ですか?今、助けますからね!」 のび太はそいつを救出すべく、畑の株を引き抜くように『誰か』の体を引っ張る。 「よいしょ、よいしょ」 「ムムムムムー!モモモモモー!」 「え、引っ張る力が弱い? じゃあ、もっと強く……うんしょっと!」 のび太は引っ張る力を更に強める。 少しずつだが、抜ける兆しが見えてきた。そして……。 「ムムムムムムムムムムーン! ムモモ……ぶぱあ! 何すんだよ! 首が外れるかと思ったじゃないか! このダメのび太!」 やっと地面から首を引き抜けた人物は、そうのび太にイチャモンをつける。 腐葉土の湿り気で、特徴的な髪のドンガリ感を少し失ってはいるものの、その嘴のようなとんがった口、性格の曲がってそうな目で、のび太はそれが誰か、すぐに分かった。 「スネ夫じゃないか!」 顔面真っ黒な友人を見て、のび太は素っ屯狂な声を上げた。 ----  ABCDEFGHIJK 1船■■■■■■■■■■ 2■■■□□□□■■島■ 3■■□□森森□□■■■ 4■□森森池森森森□■■ 5■□森森森森森森森□■ 6■□□森森森森池森□■ 7■□□森森森森森森□■ 8■■岩□□森森森□□■ 9■山山岩岩□□□■■■ 10■■■■■■■■■■■ 島:小島です ■:海 □:浜辺 森:森林地帯 山:小さな小山 船:サントアンヌ号 岩:岩場 池:水源 【現在位置】 のび太、スネ夫、???6―E ドラえもん、???8―J ???7―E ???9―H ---- 注)この島はなだらかな山になっており、島の中心に行く程位置が高くなります。 注)山は他の場所よりも少し高い程度の高地と考えて下さい 注)一マスは約300m四方です 注)上が北です 注)この地図は参加者全員に渡されてます 注)この島はある場所にある実在の島です これは後々物語に関わってきます ---- No.022『FIGHT!FIGHT!FIGHT!』 「………………………」 「………………………」 今度は二人の間に先ほどとはうって変わって気まずい雰囲気が流れる。 のび太はスネ夫をジッと見つめていた。 それもそのハズ。 のび太にとって、スネ夫は友人であるが、どちらかというと、のび太はスネ夫の事を『試験という点では、最も信用をおけないタイプ』と認識している。 例えば、現実で他人を激しく傷つけたりする時、人は少なからず罪の意識や良心の呵責に苛なまれる。 しかしそれが、相手にそこまで甚大なリスクを与えず、ちゃんとルールという法が存在する『ゲーム』という形ならどうだろう。 その人への良心の呵責や罪の意識は激減される。 例を挙げると、道を歩く人を殴れと言われれば抵抗が生じるが、ボクシングの対戦相手をボコボコにするのには余り抵抗を感じない。 こういう事である。 恐らく生死のかかった真剣勝負なら、彼はさほど恐くは無い(スネ夫が小心者であるという点も含めて)。 しかし、ゲームという点では、彼は狡猾な知恵をフルに利用した、恐ろしい敵へと変貌するのである。 ---- 「オイ…、のび太」 一通り顔の泥を拭い終わると、突如、沈黙をスネ夫が破った。 「のび太、ちょっと話があるんだけどいいかい?」 「待ってスネ夫! 近寄らないで!話はこのままで聞く!」 スネ夫の動きをのび太が手で制する。 スネ夫は顔に泥がついて目が開けられない状態でも、相手が自分だと分かっていた(声で判別したのかも知れないが、地面の中に耳がある状態では限りなく分かりにくかったハズ)。 故に、現れる前から自分の存在や動向を知っていた可能性が高い。 だとすると同時に何かを企んでいる可能性も高いという事だ。 警戒は緩めてはいけない。 * * * 沈黙を破ったのはスネ夫だった。 「のび太……」 先ののび太の言葉を受けて、スネ夫はヤレヤレといった様子で肩をすくめる。そして一言。 「まさか僕を疑っているのかい?」 核心をつかれ、のび太は一瞬ドキッとしたが、のび太は無言でそれに頷く。 自分は人を余り、嘘は得意ではないし、ここは誤魔化してもキリがない。 「まいったなぁ…」 さほど参ってもなさそうな表情を浮かべ、スネ夫は頭を掻きむしる。 そしてポツリと一言言った。 「せっかくこの試験を確実にパスできる必勝法があるのになぁ」 ---- 「必勝……法?」 「そう、必勝法。 僕、見つけちゃったんだよ 一人ではなかなか達成し難い策なんだけどね」 必勝法という言葉を聞き、思わず反応するのび太を見て、スネ夫はニンマリと笑みを浮かべる。 「知りたいかい?」 ここぞとばかりに切り出すスネ夫。 話を聞くだけでも損は無いと思ったのだろうか、のび太はコクりと頷く。 そしてスネ夫は続ける。 「分かった。 なら、僕の策に協力するかどうかは話を聞いてからにしてくれてもいいから、まず聞いてくれ」 スネ夫はそう言うと、顔についた僅かな泥を払う。 そして言った。 「最初に訊くけどのび太、この試験に合格するための必要条件は何だ?」 「コラッタを三匹捕まえることかい?」 「うん、半分だけ正解」 何を当たり前の事を、と思いながら答えるのび太。 しかし同時に、それが違うと言われ意外だという顔をする。 スネ夫は言った。 「コラッタを三匹捕獲する事も、確かに合格条件としては必要だ。 しかしね、実は合格条件はまだあるんだ。 それは『期日まで生き残ること』だよ」 ---- 「期日まで生き残る?どういうこと?」 のび太が聞く。 スネ夫はそんなのび太を見やると、のび太の持っているバッグを指さして言った。 「のび太…。 気づいていると思うけど、それだけの食糧じゃこれから先、生きていけないよな? 実はね、僕も食糧が無いんだよ。 さっきすれ違った人に確認したけど、バッグの食糧がどう多めに見ても二食分しかないんだ。 今日、朝、昼と食べればそれだけで食糧が尽きてしまう。 流石にこれじゃあこの厳しい戦いになる二日間、飢えでまともに戦えないだろう だとしたらのび太、お前ならどうする?」 そう聞かれ、のび太は考える。 (落ち葉を食べる?それじゃあお腹壊しそうだしなぁ 他の人から貰えればいいけどそんな人居ないだろうし……あっ!) 「多分だけど、他人から奪う?」 「ブッブー。ハズレ~。 食べ物の奪いあいなんてジャイ……野蛮なブタゴリラのすることだよ もっと頭良くスマートにするのさ」 野蛮なブタゴリラが誰なのかは置いておいて、それならどうするのだろうか。 いくら考えても分からない。 まさか本当に落ち葉を食べる訳ではあるまい。 ---- 「分からないや」 のび太は答える。所詮のび太の思考なんてこんなものである。 スネ夫はそれに満足気な笑みを見せると、声のトーンを低くして言った。 「僕が考える必勝法。 それは……『物々交換』さ!」 「物々交換~?」 のび太は首を傾げた。 交換する?何を? そんなのび太を横目に、スネ夫は続ける。 「この島にはコラッタが200匹居る。 そうすると、僕達受験者は同じく200人いるから、必ず『コラッタを三匹捕まえるという合格条件』が満たせない居るわけだ。 すると合格者の椅子は、最高で66個あるということになる。 しかし実際には66名は絶対に受からない。 中途半端にコラッタを二匹とか一匹とか所有している人、すなわち『無駄な点』を持って不合格になる人がたくさん存在するからだ。 例えば、『あと一匹で合格だったのに~』という人が三人居れば、合格者の枠は二つ減ることになる。 しかし、ここで考えを一つ進めてみるとどうだろう。 もし、人為的に『無駄な点』を大量に作りだすことが出来たらどうだろう。 大量にこの試験の合格者の枠を削ることができ、ライバルをより多く潰すことができる。 要するに、余分なコラッタを大量に捕獲しておけば『コラッタを三匹捕まえる』っていう合格条件を満たせなくなったノロマな連中が、ボロボロ落ちてくってことだよ」 ---- 「と……いうことはスネ夫の言う必勝法っていうのは『コラッタをより多く捕まえる』ってことだね」 のび太は言う。 しかし、スネ夫は「甘いよ」とばかりに指を振る。 「残念ながら、またハズレだね、のび太。 それも確かに良策の一つだけど、流石に何人も考えついているだろう。 ちょっと考えれば小学生にだって分かる事だしね。 そして、僕の策はそういう『過剰収集組』の人達を利用する!」 「どういうこと?」 のび太が訊く。 スネ夫は今日何度目か分からない笑い顔を浮かべて、それに答えた。 「先ほども言ったけどね、この試験は全体的に食糧が不足しているんだ。 もちろんそれは『過剰収集組』の人も変わらない。 そこで『過剰収集組』の人に、こう持ちかけるんだ。 『僕の食糧一食分あげるから、貴方の過剰収集したコラッタを僕にください』とね 彼らは大量にコラッタのストックを余らせてるだろうから、交渉は容易に進むハズだ」 「えっ、大切な食糧あげちゃうの!?」 すっとんきょうな声をあげるのび太。 そんなのび太の口をスネ夫が塞ぎつつ、彼は話を続ける。 ---- 「話は最後まで聞くもんだよ、のび太。 例えば僕らが彼らのうちの誰かと、 『食糧一食分とコラッタ五匹の物々交換』に成功したとする。 すると僕らには『コラッタ二匹分の余裕』が産まれるわけだ。 そして、その産まれた余裕を使い、今度は『合格条件分のコラッタを持っていない人』に僕らのコラッタと相手の食糧の交換を持ちかけるんだ 例えば、コラッタ一匹と食糧二日分を交換したとしよう すると、アラ不思議! なんと合格基準を満たせ、食糧も増えてしまった」 「うぉおぉぉぉぉ!!!!!! 凄いィィィィィ!!!! 魔法みたいだ!必勝法だぁぁぁぁーッ!」 興奮しはしゃぎ回るのび太。 先ほどまでのスネ夫への疑いの眼差しが嘘のようだ。 スネ夫は続ける。 「この策にも実は欠点があってね、それはなかなか食糧を交換してくれる人が居ないことなんだ しかしね、実は『支給品』が食糧である場合もあるんだ。 そういった人は食糧を無駄に余らせてる可能性が高い だから僕らはその人達を狙う」 「凄いッ!凄いよスネ夫ッ!」 のび太はスネ夫の手を握る。 流石スネ夫だ!三次試験でも、持ち前の頭脳でなんともないぜ! そして数々の賛辞の言葉を述べるのび太に対しニヤリと笑むと、スネ夫は言った。 「と、いうわけなんだけどね、実は策の成功にはのび太の協力が必要不可欠なんだ」 ---- 「僕の協力?」 のび太は首を傾げる。 何故にスネ夫は自分を策の協力者として選んだのだろうか。 自分で言うのも何だが、野比のび太は筋金入りのアホって事はよく分かっているだろうに。 そんな譜に落ちないのび太の表情を察してか、スネ夫は言う。 「大丈夫だよ、のび太。 お前にそんな難しい仕事はやらせない それに、別に組むのはお前じゃなくても良かったんだから」 自分でなくてもよい? どういうことであろうか。 のび太はまたもや首を傾げる。 スネ夫は言った。 「実はね、この作戦はかなりリスクが高い。 食糧を一度交換したら、再び交換が成立するまで食糧無しで過ごさなきゃならないからだ。 だからと言ってちょっとばかりの食糧じゃあ、誰も交換してくれないし、交換が成立したとしても儲けは微々たる物。一人じゃこの交換策は圧倒的に『食糧の元手』が足りない。 しかし、のび太、君が僕の策に乗れば『元手』は二倍になる。 すると積極的に交換に乗り出す事ができ、大きな取引もできるようになるって事だよ」 「……………つまり……どういうこと?」 どうやらのび太の頭は今の話についていけなかったようだ。 スネ夫はため息をつく。 「要するにだね、僕の策は食糧が多ければ多い程成功しやすいから、君の食糧を僕に投資してくれって事だよ!」 ---- スネ夫の必死の説明に、ようやくのび太もスネ夫の策の概要を理解できたようだ。 どうやらスネ夫は自分の策のための物資を提供してくれる人物を探していたらしい。 のび太は言う。 「成程。 投資という事は、僕にも見返りがあるんだね?」 スネ夫は無言で首を縦に振る。 「具体的にどのくらい?」 「50:50。つまりイーブンさ コラッタを10匹手に入れたら君には5匹のコラッタが分け前として分配される 奇数になった場合は君にあげよう これでどうだい?」 労力はスネ夫任せで報酬は自分に利がある五分五分。食糧をスネ夫に預けるとはいえ、かなりの好条件である。 この破格の提案、断れるワケなど無い。 「スネ夫、僕、君の策に協力するよ!」 のび太の言葉に、スネ夫はニヤリと笑みを浮かべた。 ---- 「よし、なら僕に食糧を見せてくれ。 現段階でどのくらい有るのか確認したいから」 スネ夫に言われ、のび太は自らのバッグをあさる。 そして二食分の食糧と支給品の大きなキノコをスネ夫に差し出した。 スネ夫はそれを無言で受け取り、袋の中を確認する。 食糧はちゃんと二日分入っている。 スネ夫はそれを見て、今度は不敵な笑みを浮かべる。 まるでもう既に策は終了したかのような。 「とこでさ…」 そして、不意になにやら切り出すスネ夫。 のび太は不安げな表情になる。 何か不具合でもあったのであろうか。 そしてナーバスなのび太をよそにスネ夫はもう一言。 「のび太、お前の後ろを見てみなよ」 ---- 「えっ?」 のび太は後ろを振り返る。 辺りは森が広がるだけで何も無い。 「何も無いけど………」 のび太は前に向き直った。 すると目の前には信じられない光景が目に飛込んできた。 なんと、目の前に居たハズのスネ夫が居ないのだ。 「えっ!?」 驚いたのび太は辺りを見回す。 すると50m程先の方に何故か自分を置いて走り去ってゆくスネ夫の姿が見えた。 のび太は一瞬、何が起きたのか分からなかった。 何故スネ夫は走ってる? 策のため?自分には分からない必勝法? 考えるのび太。 尚もスネ夫は走ってゆく。そして言った。 「のび太、君は本当に馬鹿だねぇ。 いつも……コロッと騙される」 この瞬間、のび太は自分の状況を確信した。 自分はスネ夫に騙されてしまった事を。 ---- * * * 「ケケケケケ。やっぱりのび太はドジで間抜けだな」 森の中を走りつつ抑えきれぬ笑いを漏らすスネ夫。 彼がのび太を【6―E】で見掛けたその時から、彼はのび太を騙すつもりであった。 自分が考えた必勝の策に利用するために。 時間は全く要らなかった。 のび太なら確実に丸め込める、その絶対的な自信が、スネ夫にはあったからだ。 そして実際に丸め込む事に成功した。 「待てぇ!スネ夫! 僕の食糧を返せぇ!」 後方からあの馬鹿の声が聞こえる。 スネ夫は後ろを振り向いて、その馬鹿に返答する。 「バーカ、何信用しちゃってんだよ。 学校でも遊びでも試験でも、いつもいつもあっさり信じこんじゃって。 だからお前はいつも騙される側なんだよォーッ! 悔しかったら追い付いてみろよバーカ アハハハハハハハ。いい気分だ」 最高にハイな気分の中、スネ夫は森を爆走した。 * * * ---- 「クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!」 分かっていたのに。スネ夫は『試験』という枠組みでは信用してはいけないと分かっていたのに。 いつのまにか、スネ夫への疑いを無くし、良いように丸め込まれてしまった。 楽をしたい、簡単な近道で試験を突破したい、そんな気持ちを狙われた。完璧に油断しきっていた。 のび太ね目に涙が浮かぶ。 思えばいつもそうだった。自分は素直で騙されやすい人間だった。 エイプリルフールではいつも皆から騙されてばっかりだし、ジャイアンにアイスを騙し取られた事も有った。 そう、どう考えても自分は騙され続ける存在。 間抜けなカモに過ぎなかったのだ………。 のび太の目から大粒の涙が溢れる。 いよいよ足が動かなくなってきた。呼吸も、泣いてるせいもあり激しく乱れてきた。 どうやら限界らしい。 終わった。のび太はそう思った。 しかし、世の中には奇跡的な偶然という物が有るのだろうか。 運命は必然じゃなく偶然で出来てる。 まさにそんな出来事。 ビシッ。 「まさか………」 のび太のタマゴが孵化を開始した。 ----  * * * 一方、その頃【7―I】にて――― 木の生い茂る【7―H】の森の中を、手も足も真ん丸な世にも奇妙な生物が歩いていた。 彼の名はドラえもん。 22世紀からのび太少年をサポートしにやってを来たネコ型ロボットだ。 「のび太君は…………居ないなぁ」 辺りを見回し、ドラえもんは呟く。 彼の今回の試験の目的は合格ではない。 のび太を最大限サポートしてやることだ。 しかし、先ほどから尋ね人ステッキを使ってるにも関わらず、当ののび太が全く見当たらない。これではサポートのしようがない。 「困ったなぁ」 ドラえもんは丸い頭を抱えて座り込む。 すると、 ガサガサッ と近くの草むらから音が聞こえた。 「誰だ!」 音の発生原に向かい、身構えるドラえもん。しかし草むらからの反応は無い。 「出てこないなら、こっちから行くぞ!」 ドラえもんは草むらへと歩み寄った。 ---- だが、それがいけなかった。 ドラえもんは忘れていた。この試験の内容を。 良く考えれば音の発生原は何か予想はつくのだ。 しかしドラえもんはのび太捜索という目的を重視する余り、この試験の内容を忘れていた。 草むらから、黒い影が飛び出した。 それはドラえもんが最も苦手とする……… 「ネズミだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 ネズミポケモンのコラッタだった。 ---- 「うぁぁぁぁぁぁ!アババババババババァァァァァァ!」 パニックに陥るドラえもん。 こうなった時のドラえもんは恐ろしい。 冷静な判断力が消え、トンデモ行動に入る。 以前も野比家でネズミが出たとき、『熱線銃』でブチ殺そうとしたり、『地球破壊爆弾』で地球ごとネズミをやっつけようとしたくらいだ。 「うぼららららららぁぁぁぁぁ!きーぽーざぺいー!」 ドラえもんは一目散にその場から逃げ出した。 しかし何を思ったのか、コラッタはその逃げるドラえもんを追い掛けてきたのだ。 いわゆる『にげられない!』という奴である。 「ついてくるなぁぁぁーーッ! 糞糞糞糞糞糞糞糞糞ッ! 畜生……こうなったら……行けッ!」 ドラえもんはモンスターボールを四次元ポケットから取り出し、投げた。 ポンッ、という小気味の良い音と共に、腹に袋をつけた巨大なポケモンを繰り出される。 ガルーラだ。 ---- 「ガルーラ!ふみつけろ!」 ガルーラのふみつけがコラッタにヒットする。 「踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけェェェッ!」 コラッタはその怒涛の攻撃に耐えられるハズも無かった。 コラッタは瀕死状態になる。 「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……思い知ったか……。………戻れ、ガルーラ」 ドラえもんはボールにガルーラを戻すと、コラッタをほおって去っていった。 そしてそのドラえもんを見張る影が呟く。 「あんこ、狂暴だべなぁ。ポゲモンもつええし。 しっかしなぜにコラッタ捕まえんかったんだろ? まぁいいだ。オラは儲けたし」 男はそう呟くと、瀕死のコラッタに元気の欠片を与え、捕獲用のモンスターボールでコラッタを捕まえ、ドラえもんの後を追った。 ----
[[前へ>トレーナー その7]] No.021『Hey! You! What do you see?』 のび太が孵化作業という名のマラソンを始めた丁度その頃、島の北の浜辺には、世にも奇妙な生物が出現していた。 青い体に二頭身、それにあのヒゲに鈴。 そう、みんなも大好きドラえもんだ。 「よし、支給品の確認も済んだし、のび太君を探しに行くか」 ドラえもんはそう言うと砂浜から立ち上がり、おもむろに自らの腹のポケットを探りだした。 「どこかな……あ、あった。 『尋ね人ステッキ』~」 すると中から出てきたのは何やら怪しい一本の棒。 しかしただの棒ではない。 「これを立てて、知りたい人の名前を言いながら手を離す。 するとその人が居る方角にステッキが倒れるんだ! (たまに外れる時が有るけどね)」 誰か居る訳でも無いのに説明を始めるドラえもん。 日頃の癖という奴であろうか。 ドラえもんはその不思議で便利なステッキを立てる。そしてドラえもんは言う。 「のび太君はどこかな~?」 そしてステッキを支えていた手を離す。 倒れたステッキは森の方角を指していた。 「よし、森か!待っててね、のび太君。 今から行くから!」 ドラえもんはのび太を探すべく魔の住む森の中に突入した。 ---- そしてそのドラえもんの様子を影で見ていた人物が一人。 「あんこ、いい支給品貰っただなぁ。 あぎゃんもんをぶんどればマンソンも簡単に見つかるかもしんねっぞ とんかく後を追うべ」 ドラえもんにも一人、影の追跡者がついた。 * * * * 「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」 静かな森を走るのび太。 木々はそよ風に吹かれて涼しげだが、リュックを担いで孵化のために走る彼は、見るからに暑苦しい。 「ヒィ、ヒィ、ヒィ。これは…作業じゃない……重労働だよォ……」 背中のリュックに汗が染み込む。リュックのバンドが肩に食い込む。 しかもこの湿度の高い森の中。体感温度は実際の数字より、確実に高い。 そしてそれらは着実にのび太の体力を削り、水の消費スピードも格段に上げる。 そしてまた10分が立ち、500mlの水は無くなってしまった。 「とりあえず地図を見て水場を探そう… これじゃあ、脱水症状で死ぬ…」 幸い、地図によると水場は近かった。 ここからおおよそ200メートル。 「辿りつけるかなぁ…ハァ」 のび太は再び走りだした。 その時、 ビシッ。 のび太のリュックの中から何かがヒビ割れる音がした。 ---- * * * 所は変わってサントアンヌ号船内の一室。 そこは通常の航海では船長室として使われているが、今日は大量のモニターが並び、まるで船長室としての面影を残していない。 そしてその大量のモニターを眺める少女が一人。 整った顔つきに露になった腰の部分が悩ましい。 「キャハハハハハハハ! あの子ポケモン孵化させてないじゃん! マジでウケる! キャハハハハハハハ!」 彼女の名はナタネ。 ハクタイジムのジムリーダーであり、第三次試験官である。 ちなみに彼女の嘲笑の対象は……いや、読者諸君のご想像にお任せしよう。 彼女が爆笑していると、不意に背後のドアがノックされる。 「ハハハハ………どうぞ…」 ナタネの許可とともにドアが開く。 すると、二人の幼い女の子が中に入ってきた。 二人とも三編みにお揃いの服を来ている。 だが、お揃いなのは服装や髪型だけではない。 顔立ち、目の色や髪の色が、まるでコピーしたかのように一緒だったのだ。 その二人にナタネが言う。 ---- 「はーい、あなたたちのお名前はなんですかー?」 まるで教育テレビのお姉さんような口調で語りかけるナタネ。 そして二人はテレビのチビッ子よろしく、元気良く答えた。 「マリちゃんでーす!」 「リンちゃんでーす!」 「「二人合わせてー、リンマリでーす!」」 「かぁわぁいいぃぃぃ!!!」 皆さんはもう気づきかも知れないが、この二人実は一卵性双生児、いわゆる双子ちゃんなのだ。 その年齢は実に6歳。一次試験のゴロウより、更に年下である。 通常、試験は10歳からしか受けられないので、10歳以下でトレーナーをやってるのは有り得ないのだが、『特例』だそうだ。 ちなみに、トクサネジムのフウとランも、その『特例』の恩恵を預かっている。 「見て見て~、あれが試験受験者だよ~」 ナタネはモニターを指さす。 「じゅけんちゃ…たん? じゅけんちゃたんってタヌキたんやキツネたんや過齢臭のしそうなオッサンもいるんでちゅか。すごいでちゅ~」 「そうよマリちゃん、あれが受験者たんですよ~。 ちなみにあのオジサンは今年で受験が15回目のベテランさんですよ~」 「へぇー、あれがいつまでも叶わない変な夢見て人生無駄に浪費してる人間カスでちゅか。クソキモいでちゅ~」 「はーい、リンちゃん、よくできましたー。 皆はちゃんと自分の限界見計らってそれを超えたでしゃばった事をしないようにね~」 「「はーい」」 ………これはひどい。 ---- 「あれ? ナタ姉たん、なんであの人はあそこでおネンネしてるでちゅか?」 不意にリン(そっくりだからマリかもしれない)がモニターを指さす。 それには倒れてる一人の男が映し出されていた。 ナタネはそれを見ても慌てる様子はなく、双子ちゃんに言う。 「あれは脱水症状で倒れている男の人ですよー。 分かる?脱水症状って」 「はいッ!」 「はい、どうぞ。マリちゃん」 「激しい発汗などによる大量の体内の水分の喪失によって引き起こされる夏の風物詩でちゅね、ナタ姉たん」 「はい、よくできました、マリちゃん」 「でも、でもナタ姉たん、なんであのヘタレは配られた水を飲まないんでちゅか?」 リンが訊く。 ナタネは笑顔でそれに応える。 「それはねー、水や食糧を少なめに支給してるからよ。 それとあの人がバカだから試験が始まった瞬間、水源とかも確認せずに、貴重な水をがぶ飲みしたんでしょうねー。 倒れてるけどほっときますよ。 トレーナーにアホは要りませんからねー」 「そうでちゅねー。 でも、ナタ姉たん。 なんで食糧と水をわざと少なめに支給したんでちゅか?」 ---- 「マリちゃん、良いところに目をつけました! さぁ、二人は分かるかなぁ?」 「「うーん……分かんないでちゅうぅ…」」 「うーん、まだ二人には早かったかもねぇ。 あのね、もしも貴方たちがもし食べ物が無くて、他の人が食べ物を持ってたらどうする?」 「「ブチ殺ちてでも奪いとりまーす」」 「はい、それが正解。 食糧を少なめに支給した理由はですねー、受験者同士で食糧や水を奪い合わせて、互いに潰し合いをさせるためですよー」 「すごい頭いいでちゅ!ナタ姉たん!」 「頭いいでちゅ!ナタ姉たん!」 「ありがとうー。アタシ嬉しいよ、マリちゃん、リンちゃん。 じゃあこれから皆で楽しく受験者の潰し合いを観察しましょうねー」 「観察するでちゅ」 「観察するでちゅ。あのメガネ、ダメ男オーラが漂ってるでちゅ」 三人はみんな仲良く哀れな受験者どもの観察を始めた。 ここにゴロウが居たら、きっとこう言うだろう。 「嫌な女共だ……」 と。 ---- * * * そして、視点はダメ男………いや、のび太に戻る。 ビシ、ビシビシッ。 背後から響く音。これはまさしく……。 「孵化だぁぁぁぁぁぁ!」 のび太は叫び、いそいそとリュックを下ろしてその様子を確認しようとする。 しかし、タマゴは孵化どころが、ヒビ一つ入っていない。 「あれ……? なんで?確かに音がしたハズなのに……」 のび太は首を傾げる。 すると、 バキッ。 「え、バキッ?」 のび太がそう言うが早いか、 「うわぁぁぁぁぁぁぁ」 ドスン。 突如、空から人と、木の枝が落ちてきた。 のび太は人物が何処から落ちたかは正確には見ていないが、あのバキッと、ドスンの時間差から考えると、結構な高さから落ちたということは予想出来た。 「うわぁ……痛そう…。大丈夫ですかぁ……?」 のび太はその落ちた人物に駆け寄る。 人間は高所から落ちた時は必ず、体の中で最も重い頭が下にくる。 その人物も例に漏れず頭から落ちてきたようだ。 頭が地面にめり込んでいる。地面が柔らかな腐葉土でなかったら、死んでいたかも知れない。 ---- 「ムムムムムーン!ムムムムムーン!」 地面に顔を埋めながら体をバタつかせる『誰か』。 「大丈夫ですか?今、助けますからね!」 のび太はそいつを救出すべく、畑の株を引き抜くように『誰か』の体を引っ張る。 「よいしょ、よいしょ」 「ムムムムムー!モモモモモー!」 「え、引っ張る力が弱い? じゃあ、もっと強く……うんしょっと!」 のび太は引っ張る力を更に強める。 少しずつだが、抜ける兆しが見えてきた。そして……。 「ムムムムムムムムムムーン! ムモモ……ぶぱあ! 何すんだよ! 首が外れるかと思ったじゃないか! このダメのび太!」 やっと地面から首を引き抜けた人物は、そうのび太にイチャモンをつける。 腐葉土の湿り気で、特徴的な髪のドンガリ感を少し失ってはいるものの、その嘴のようなとんがった口、性格の曲がってそうな目で、のび太はそれが誰か、すぐに分かった。 「スネ夫じゃないか!」 顔面真っ黒な友人を見て、のび太は素っ屯狂な声を上げた。 ----  ABCDEFGHIJK 1船■■■■■■■■■■ 2■■■□□□□■■島■ 3■■□□森森□□■■■ 4■□森森池森森森□■■ 5■□森森森森森森森□■ 6■□□森森森森池森□■ 7■□□森森森森森森□■ 8■■岩□□森森森□□■ 9■山山岩岩□□□■■■ 10■■■■■■■■■■■ 島:小島です ■:海 □:浜辺 森:森林地帯 山:小さな小山 船:サントアンヌ号 岩:岩場 池:水源 【現在位置】 のび太、スネ夫、???6―E ドラえもん、???8―J ???7―E ???9―H ---- 注)この島はなだらかな山になっており、島の中心に行く程位置が高くなります。 注)山は他の場所よりも少し高い程度の高地と考えて下さい 注)一マスは約300m四方です 注)上が北です 注)この地図は参加者全員に渡されてます 注)この島はある場所にある実在の島です これは後々物語に関わってきます ---- No.022『FIGHT!FIGHT!FIGHT!』 「………………………」 「………………………」 今度は二人の間に先ほどとはうって変わって気まずい雰囲気が流れる。 のび太はスネ夫をジッと見つめていた。 それもそのハズ。 のび太にとって、スネ夫は友人であるが、どちらかというと、のび太はスネ夫の事を『試験という点では、最も信用をおけないタイプ』と認識している。 例えば、現実で他人を激しく傷つけたりする時、人は少なからず罪の意識や良心の呵責に苛なまれる。 しかしそれが、相手にそこまで甚大なリスクを与えず、ちゃんとルールという法が存在する『ゲーム』という形ならどうだろう。 その人への良心の呵責や罪の意識は激減される。 例を挙げると、道を歩く人を殴れと言われれば抵抗が生じるが、ボクシングの対戦相手をボコボコにするのには余り抵抗を感じない。 こういう事である。 恐らく生死のかかった真剣勝負なら、彼はさほど恐くは無い(スネ夫が小心者であるという点も含めて)。 しかし、ゲームという点では、彼は狡猾な知恵をフルに利用した、恐ろしい敵へと変貌するのである。 ---- 「オイ…、のび太」 一通り顔の泥を拭い終わると、突如、沈黙をスネ夫が破った。 「のび太、ちょっと話があるんだけどいいかい?」 「待ってスネ夫! 近寄らないで!話はこのままで聞く!」 スネ夫の動きをのび太が手で制する。 スネ夫は顔に泥がついて目が開けられない状態でも、相手が自分だと分かっていた(声で判別したのかも知れないが、地面の中に耳がある状態では限りなく分かりにくかったハズ)。 故に、現れる前から自分の存在や動向を知っていた可能性が高い。 だとすると同時に何かを企んでいる可能性も高いという事だ。 警戒は緩めてはいけない。 * * * 沈黙を破ったのはスネ夫だった。 「のび太……」 先ののび太の言葉を受けて、スネ夫はヤレヤレといった様子で肩をすくめる。そして一言。 「まさか僕を疑っているのかい?」 核心をつかれ、のび太は一瞬ドキッとしたが、のび太は無言でそれに頷く。 自分は人を余り、嘘は得意ではないし、ここは誤魔化してもキリがない。 「まいったなぁ…」 さほど参ってもなさそうな表情を浮かべ、スネ夫は頭を掻きむしる。 そしてポツリと一言言った。 「せっかくこの試験を確実にパスできる必勝法があるのになぁ」 ---- 「必勝……法?」 「そう、必勝法。 僕、見つけちゃったんだよ 一人ではなかなか達成し難い策なんだけどね」 必勝法という言葉を聞き、思わず反応するのび太を見て、スネ夫はニンマリと笑みを浮かべる。 「知りたいかい?」 ここぞとばかりに切り出すスネ夫。 話を聞くだけでも損は無いと思ったのだろうか、のび太はコクりと頷く。 そしてスネ夫は続ける。 「分かった。 なら、僕の策に協力するかどうかは話を聞いてからにしてくれてもいいから、まず聞いてくれ」 スネ夫はそう言うと、顔についた僅かな泥を払う。 そして言った。 「最初に訊くけどのび太、この試験に合格するための必要条件は何だ?」 「コラッタを三匹捕まえることかい?」 「うん、半分だけ正解」 何を当たり前の事を、と思いながら答えるのび太。 しかし同時に、それが違うと言われ意外だという顔をする。 スネ夫は言った。 「コラッタを三匹捕獲する事も、確かに合格条件としては必要だ。 しかしね、実は合格条件はまだあるんだ。 それは『期日まで生き残ること』だよ」 ---- 「期日まで生き残る?どういうこと?」 のび太が聞く。 スネ夫はそんなのび太を見やると、のび太の持っているバッグを指さして言った。 「のび太…。 気づいていると思うけど、それだけの食糧じゃこれから先、生きていけないよな? 実はね、僕も食糧が無いんだよ。 さっきすれ違った人に確認したけど、バッグの食糧がどう多めに見ても二食分しかないんだ。 今日、朝、昼と食べればそれだけで食糧が尽きてしまう。 流石にこれじゃあこの厳しい戦いになる二日間、飢えでまともに戦えないだろう だとしたらのび太、お前ならどうする?」 そう聞かれ、のび太は考える。 (落ち葉を食べる?それじゃあお腹壊しそうだしなぁ 他の人から貰えればいいけどそんな人居ないだろうし……あっ!) 「多分だけど、他人から奪う?」 「ブッブー。ハズレ~。 食べ物の奪いあいなんてジャイ……野蛮なブタゴリラのすることだよ もっと頭良くスマートにするのさ」 野蛮なブタゴリラが誰なのかは置いておいて、それならどうするのだろうか。 いくら考えても分からない。 まさか本当に落ち葉を食べる訳ではあるまい。 ---- 「分からないや」 のび太は答える。所詮のび太の思考なんてこんなものである。 スネ夫はそれに満足気な笑みを見せると、声のトーンを低くして言った。 「僕が考える必勝法。 それは……『物々交換』さ!」 「物々交換~?」 のび太は首を傾げた。 交換する?何を? そんなのび太を横目に、スネ夫は続ける。 「この島にはコラッタが200匹居る。 そうすると、僕達受験者は同じく200人いるから、必ず『コラッタを三匹捕まえるという合格条件』が満たせない居るわけだ。 すると合格者の椅子は、最高で66個あるということになる。 しかし実際には66名は絶対に受からない。 中途半端にコラッタを二匹とか一匹とか所有している人、すなわち『無駄な点』を持って不合格になる人がたくさん存在するからだ。 例えば、『あと一匹で合格だったのに~』という人が三人居れば、合格者の枠は二つ減ることになる。 しかし、ここで考えを一つ進めてみるとどうだろう。 もし、人為的に『無駄な点』を大量に作りだすことが出来たらどうだろう。 大量にこの試験の合格者の枠を削ることができ、ライバルをより多く潰すことができる。 要するに、余分なコラッタを大量に捕獲しておけば『コラッタを三匹捕まえる』っていう合格条件を満たせなくなったノロマな連中が、ボロボロ落ちてくってことだよ」 ---- 「と……いうことはスネ夫の言う必勝法っていうのは『コラッタをより多く捕まえる』ってことだね」 のび太は言う。 しかし、スネ夫は「甘いよ」とばかりに指を振る。 「残念ながら、またハズレだね、のび太。 それも確かに良策の一つだけど、流石に何人も考えついているだろう。 ちょっと考えれば小学生にだって分かる事だしね。 そして、僕の策はそういう『過剰収集組』の人達を利用する!」 「どういうこと?」 のび太が訊く。 スネ夫は今日何度目か分からない笑い顔を浮かべて、それに答えた。 「先ほども言ったけどね、この試験は全体的に食糧が不足しているんだ。 もちろんそれは『過剰収集組』の人も変わらない。 そこで『過剰収集組』の人に、こう持ちかけるんだ。 『僕の食糧一食分あげるから、貴方の過剰収集したコラッタを僕にください』とね 彼らは大量にコラッタのストックを余らせてるだろうから、交渉は容易に進むハズだ」 「えっ、大切な食糧あげちゃうの!?」 すっとんきょうな声をあげるのび太。 そんなのび太の口をスネ夫が塞ぎつつ、彼は話を続ける。 ---- 「話は最後まで聞くもんだよ、のび太。 例えば僕らが彼らのうちの誰かと、 『食糧一食分とコラッタ五匹の物々交換』に成功したとする。 すると僕らには『コラッタ二匹分の余裕』が産まれるわけだ。 そして、その産まれた余裕を使い、今度は『合格条件分のコラッタを持っていない人』に僕らのコラッタと相手の食糧の交換を持ちかけるんだ 例えば、コラッタ一匹と食糧二日分を交換したとしよう すると、アラ不思議! なんと合格基準を満たせ、食糧も増えてしまった」 「うぉおぉぉぉぉ!!!!!! 凄いィィィィィ!!!! 魔法みたいだ!必勝法だぁぁぁぁーッ!」 興奮しはしゃぎ回るのび太。 先ほどまでのスネ夫への疑いの眼差しが嘘のようだ。 スネ夫は続ける。 「この策にも実は欠点があってね、それはなかなか食糧を交換してくれる人が居ないことなんだ しかしね、実は『支給品』が食糧である場合もあるんだ。 そういった人は食糧を無駄に余らせてる可能性が高い だから僕らはその人達を狙う」 「凄いッ!凄いよスネ夫ッ!」 のび太はスネ夫の手を握る。 流石スネ夫だ!三次試験でも、持ち前の頭脳でなんともないぜ! そして数々の賛辞の言葉を述べるのび太に対しニヤリと笑むと、スネ夫は言った。 「と、いうわけなんだけどね、実は策の成功にはのび太の協力が必要不可欠なんだ」 ---- 「僕の協力?」 のび太は首を傾げる。 何故にスネ夫は自分を策の協力者として選んだのだろうか。 自分で言うのも何だが、野比のび太は筋金入りのアホって事はよく分かっているだろうに。 そんな譜に落ちないのび太の表情を察してか、スネ夫は言う。 「大丈夫だよ、のび太。 お前にそんな難しい仕事はやらせない それに、別に組むのはお前じゃなくても良かったんだから」 自分でなくてもよい? どういうことであろうか。 のび太はまたもや首を傾げる。 スネ夫は言った。 「実はね、この作戦はかなりリスクが高い。 食糧を一度交換したら、再び交換が成立するまで食糧無しで過ごさなきゃならないからだ。 だからと言ってちょっとばかりの食糧じゃあ、誰も交換してくれないし、交換が成立したとしても儲けは微々たる物。一人じゃこの交換策は圧倒的に『食糧の元手』が足りない。 しかし、のび太、君が僕の策に乗れば『元手』は二倍になる。 すると積極的に交換に乗り出す事ができ、大きな取引もできるようになるって事だよ」 「……………つまり……どういうこと?」 どうやらのび太の頭は今の話についていけなかったようだ。 スネ夫はため息をつく。 「要するにだね、僕の策は食糧が多ければ多い程成功しやすいから、君の食糧を僕に投資してくれって事だよ!」 ---- スネ夫の必死の説明に、ようやくのび太もスネ夫の策の概要を理解できたようだ。 どうやらスネ夫は自分の策のための物資を提供してくれる人物を探していたらしい。 のび太は言う。 「成程。 投資という事は、僕にも見返りがあるんだね?」 スネ夫は無言で首を縦に振る。 「具体的にどのくらい?」 「50:50。つまりイーブンさ コラッタを10匹手に入れたら君には5匹のコラッタが分け前として分配される 奇数になった場合は君にあげよう これでどうだい?」 労力はスネ夫任せで報酬は自分に利がある五分五分。食糧をスネ夫に預けるとはいえ、かなりの好条件である。 この破格の提案、断れるワケなど無い。 「スネ夫、僕、君の策に協力するよ!」 のび太の言葉に、スネ夫はニヤリと笑みを浮かべた。 ---- 「よし、なら僕に食糧を見せてくれ。 現段階でどのくらい有るのか確認したいから」 スネ夫に言われ、のび太は自らのバッグをあさる。 そして二食分の食糧と支給品の大きなキノコをスネ夫に差し出した。 スネ夫はそれを無言で受け取り、袋の中を確認する。 食糧はちゃんと二日分入っている。 スネ夫はそれを見て、今度は不敵な笑みを浮かべる。 まるでもう既に策は終了したかのような。 「とこでさ…」 そして、不意になにやら切り出すスネ夫。 のび太は不安げな表情になる。 何か不具合でもあったのであろうか。 そしてナーバスなのび太をよそにスネ夫はもう一言。 「のび太、お前の後ろを見てみなよ」 ---- 「えっ?」 のび太は後ろを振り返る。 辺りは森が広がるだけで何も無い。 「何も無いけど………」 のび太は前に向き直った。 すると目の前には信じられない光景が目に飛込んできた。 なんと、目の前に居たハズのスネ夫が居ないのだ。 「えっ!?」 驚いたのび太は辺りを見回す。 すると50m程先の方に何故か自分を置いて走り去ってゆくスネ夫の姿が見えた。 のび太は一瞬、何が起きたのか分からなかった。 何故スネ夫は走ってる? 策のため?自分には分からない必勝法? 考えるのび太。 尚もスネ夫は走ってゆく。そして言った。 「のび太、君は本当に馬鹿だねぇ。 いつも……コロッと騙される」 この瞬間、のび太は自分の状況を確信した。 自分はスネ夫に騙されてしまった事を。 ---- * * * 「ケケケケケ。やっぱりのび太はドジで間抜けだな」 森の中を走りつつ抑えきれぬ笑いを漏らすスネ夫。 彼がのび太を【6―E】で見掛けたその時から、彼はのび太を騙すつもりであった。 自分が考えた必勝の策に利用するために。 時間は全く要らなかった。 のび太なら確実に丸め込める、その絶対的な自信が、スネ夫にはあったからだ。 そして実際に丸め込む事に成功した。 「待てぇ!スネ夫! 僕の食糧を返せぇ!」 後方からあの馬鹿の声が聞こえる。 スネ夫は後ろを振り向いて、その馬鹿に返答する。 「バーカ、何信用しちゃってんだよ。 学校でも遊びでも試験でも、いつもいつもあっさり信じこんじゃって。 だからお前はいつも騙される側なんだよォーッ! 悔しかったら追い付いてみろよバーカ アハハハハハハハ。いい気分だ」 最高にハイな気分の中、スネ夫は森を爆走した。 * * * ---- 「クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!」 分かっていたのに。スネ夫は『試験』という枠組みでは信用してはいけないと分かっていたのに。 いつのまにか、スネ夫への疑いを無くし、良いように丸め込まれてしまった。 楽をしたい、簡単な近道で試験を突破したい、そんな気持ちを狙われた。完璧に油断しきっていた。 のび太ね目に涙が浮かぶ。 思えばいつもそうだった。自分は素直で騙されやすい人間だった。 エイプリルフールではいつも皆から騙されてばっかりだし、ジャイアンにアイスを騙し取られた事も有った。 そう、どう考えても自分は騙され続ける存在。 間抜けなカモに過ぎなかったのだ………。 のび太の目から大粒の涙が溢れる。 いよいよ足が動かなくなってきた。呼吸も、泣いてるせいもあり激しく乱れてきた。 どうやら限界らしい。 終わった。のび太はそう思った。 しかし、世の中には奇跡的な偶然という物が有るのだろうか。 運命は必然じゃなく偶然で出来てる。 まさにそんな出来事。 ビシッ。 「まさか………」 のび太のタマゴが孵化を開始した。 ----  * * * 一方、その頃【7―I】にて――― 木の生い茂る【7―H】の森の中を、手も足も真ん丸な世にも奇妙な生物が歩いていた。 彼の名はドラえもん。 22世紀からのび太少年をサポートしにやってを来たネコ型ロボットだ。 「のび太君は…………居ないなぁ」 辺りを見回し、ドラえもんは呟く。 彼の今回の試験の目的は合格ではない。 のび太を最大限サポートしてやることだ。 しかし、先ほどから尋ね人ステッキを使ってるにも関わらず、当ののび太が全く見当たらない。これではサポートのしようがない。 「困ったなぁ」 ドラえもんは丸い頭を抱えて座り込む。 すると、 ガサガサッ と近くの草むらから音が聞こえた。 「誰だ!」 音の発生原に向かい、身構えるドラえもん。しかし草むらからの反応は無い。 「出てこないなら、こっちから行くぞ!」 ドラえもんは草むらへと歩み寄った。 ---- だが、それがいけなかった。 ドラえもんは忘れていた。この試験の内容を。 良く考えれば音の発生原は何か予想はつくのだ。 しかしドラえもんはのび太捜索という目的を重視する余り、この試験の内容を忘れていた。 草むらから、黒い影が飛び出した。 それはドラえもんが最も苦手とする……… 「ネズミだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 ネズミポケモンのコラッタだった。 ---- 「うぁぁぁぁぁぁ!アババババババババァァァァァァ!」 パニックに陥るドラえもん。 こうなった時のドラえもんは恐ろしい。 冷静な判断力が消え、トンデモ行動に入る。 以前も野比家でネズミが出たとき、『熱線銃』でブチ殺そうとしたり、『地球破壊爆弾』で地球ごとネズミをやっつけようとしたくらいだ。 「うぼららららららぁぁぁぁぁ!きーぽーざぺいー!」 ドラえもんは一目散にその場から逃げ出した。 しかし何を思ったのか、コラッタはその逃げるドラえもんを追い掛けてきたのだ。 いわゆる『にげられない!』という奴である。 「ついてくるなぁぁぁーーッ! 糞糞糞糞糞糞糞糞糞ッ! 畜生……こうなったら……行けッ!」 ドラえもんはモンスターボールを四次元ポケットから取り出し、投げた。 ポンッ、という小気味の良い音と共に、腹に袋をつけた巨大なポケモンを繰り出される。 ガルーラだ。 ---- 「ガルーラ!ふみつけろ!」 ガルーラのふみつけがコラッタにヒットする。 「踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけェェェッ!」 コラッタはその怒涛の攻撃に耐えられるハズも無かった。 コラッタは瀕死状態になる。 「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……思い知ったか……。………戻れ、ガルーラ」 ドラえもんはボールにガルーラを戻すと、コラッタをほおって去っていった。 そしてそのドラえもんを見張る影が呟く。 「あんこ、狂暴だべなぁ。ポゲモンもつええし。 しっかしなぜにコラッタ捕まえんかったんだろ? まぁいいだ。オラは儲けたし」 男はそう呟くと、瀕死のコラッタに元気の欠片を与え、捕獲用のモンスターボールでコラッタを捕まえ、ドラえもんの後を追った。 ---- * * * 「チッ、意外と粘るな」 森の中を走りつつ、スネ夫は呟く。 しかしのび太の体力を考えると、既に限界。何しろ奴の運動能力は学校でもワースト1を争う。そんなレベル。 もうそろそろ引き離せるだろう。 そういえば、今、自分は闇雲に逃げてるがココは何処なのだろうか。 スネ夫はポケットから方位磁針を取り出し、方向を確認する。 自分が進んでいる方向は南だ。すると現在位置は【6―E】の南端か【7―E】の北側。 ヤバイ、二つの点でヤバイ。 一つ目は【4―E】の水場から遠ざかっていること。 二つ目はこのまま直進すれば時期に森を抜けてしまうということだ。そうしたら、のび太を撒くことは非常に困難になる。 どちらにしても、早くのび太を振り切ってしまわねばならない。 「よし、スピードを上げるか……あれ?」 その時、ビトッと何かが張り付くような感触をスネ夫は自分の足に感じた。 「何ッ!?」 そして次の瞬間、 「グヘァ」 スネ夫はもんどりうって、その場に転んでしまった。 自分の転んだ原因は明らかである。 足についた『何か』だ。 ---- 「なんじゃこりゃぁぁぁぁッ!」 スネ夫は自分の足首についていたものを見て驚愕する。 その足には何やら太い、ネバネバした『糸』が巻かれていた。 「クソッ!」 スネ夫はそれを懸命に千切ろうとするが、全く糸はビクともしない。 一体これは何なのだ。 ヤバイ、このままでは奴に……のび太に追い付かれてしまう。 そして………、 「やっと追い付いたよ……スネ夫……。 そして僕は本当に運が良かった……。 このタイミングでこのポケモンが孵化するなんて……!」 のび太がスネ夫の目の前に来た。 のび太の傍らには何かが居る。 しかし木の影で何だか見えない。しかし、今のスネ夫はそんな事はどうでも良い。 今は逃げなければならないのだ。 スネ夫は逃げようと糸をどうにかしようとするが、糸は全く千切れる様子を見せない。 「千切れない……だと……どうすれば…………… そうだ!」 スネ夫はソックスを脱ぎ捨てた。 ソックスごと足首の糸も外れる。 「浅はかだね!のび太! 僕の方が一枚上手なんだよッ!ボケがッ!」 そうスネ夫は捨て台詞を吐きながら走ってゆく。 のび太はヤレヤレと言った様子でそれを見ると、静かに言った。 「逃がしちゃいけない。クモの巣だ」 ---- するとのび太の傍らに居た『何か』がモゾモゾと動きだし、その姿を現す。 『何か』は口から放射状にクモの巣を発し、スネ夫の退路を塞いだ。 六本足に、人の顔のような模様のついた背中。スネ夫は一目でそのポケモン何なのかが分かった。 糸吐きポケモンのイトマルである。 「イトマルだとォーッ!」 スネ夫は叫ぶ。 しかし、それが分かったところでスネ夫はどうしようも無い。 成す術も無く、道を塞がれる。 そして、イトマルに命じ、スネ夫の足をイトマルの糸で縛らせた。退路の封鎖、足の戒め、これで100%スネ夫は逃げられない。 のび太は言った。 「スネ夫……もう逃げられないぞ……! 僕の食糧を返せ!」 のび太は身構えた。 ---- スネ夫の退路を塞ぎ、完璧に追い詰めた。 と、のび太は思った。 しかし、 「フフフフフ……。 のび太、これしきの事で、僕を追い詰めたつもりかい?」 スネ夫は笑う。 何か策が有るのだろうか? 今の状況を、一瞬にして打開できるような、強力なポケモンが居るのだろうか? いや、それはおそらく無い。 そんな戦力が有るなら、こんな回りくどい方法など使わずに、力ずくで食糧を奪い取っているだろう。 ならば、策はポケモン以外、と、考えて間違いはない。 しかし、のび太の予想は見事に裏切られる事になる。 スネ夫は、自らのモンスターボールに手をかけた。 ---- そしてスネ夫は言う。 「のび太…。 もう一度言うが、こんな糸では、僕を追い詰めたとは到底言えない 実際、僕は、動揺も、不安も全く感じない 何故なら、この状況を100%打開出来ると思っているから」 自信満々、そう言った形容が最もフィットするスネ夫の態度。 ハッタリじゃない。 しかし、スネ夫はモンスターボールを取り出した。 ならば、やってくる事は、ゲームをしていたのび太には、なんとなく予想がつく。 この状況を脱するとなると、『あの技』を使うしか、方法は無い。 思い起こせば、『あの技』を使えるポケモンは、余り攻めの性能が高いとは言えないポケモンばかり。 先程の考えにも、矛盾は生じない。 多分、そうなのだろう。 読めた、とばかりに、のび太の口元が弛む。 そして、スネ夫はモンスターボールを投げた。 「いけッ!クヌギダマッ!」 ---- ボールから飛び出す、巨大なマツボックリの様なポケモン。 読み通り。 のび太は、そう思った。 「アハハハハハハ! スネ夫ッ! 君のしたい事は分かってるよ! どうせ、『高速スピン』だろ! イトマルの『クモの巣』を解除するには、これくらいしか方法が無いからね でも、    無   駄 なんだよォーッ! イトマルッ!」 のび太はイトマルに命じ、『クモの巣』を放出させる。 そして、その、クモの糸を、ガチガチにクヌギダマの体に巻き付け、回転など出来ないように固定した。 「残念だねッ! もう、これでクヌギダマは動けない! さぁ、食糧を返せ!」 のび太がスネ夫に、そう迫る。 勝負は完全についたハズだった。 ---- しかし、スネ夫は笑っていた。 ズル賢さを際立たせる、あの笑い。 その笑いは、のび太をゾッとさせる為には、十分な威圧感を放っていた。 「フフフフフ。 のび太、お前は本当に馬鹿だなぁ。 確かに、クヌギダマは『動き』は封じられた。 しかし、『技』は封じられていない それに…………」 スネ夫はイトマルをチラリと見、何がなんだか分からない、といった顔をしているのび太を見やった。 そして、言った。 「解除方法は一つじゃない」 その言葉を聞き、のび太は、ハッ、と何かに気付いた。 「イトマルッ! 逃げ………」 しかし、もう遅かった。 「クヌギダマッ!大爆発だッ!」 ---- スネ夫の指示がクヌギダマに届いた瞬間、凄まじい爆発が【6―E】の森、そしてのび太のイトマルに襲いかかった。 「イトマルゥゥゥウウゥウッ!」 おびただしい爆煙と共に、赤い光線がのび太の腰へと飛んでゆく。 イトマルが瀕死になったらしい。 と、言うことは、スネ夫の糸は解除されてしまったと言うことだ。 しかし、その全貌は確認出来ない。 爆発によって上がった爆煙が、視界を著しく悪くしているのだ。 これでは、スネ夫の動きが分からない。 「クソッ! イトマルの糸を解除しつつ、爆煙を上げて逃げるシチュエーションを整える! 一石二鳥の作戦か!」 のび太は唇を噛み、辺りを見回す………が、やはり爆煙に遮られて何も分からない。 このままでは、スネ夫に逃げられてしまう。 しかし、ここが森である事が幸いした。 ここは、腐葉土質の森ながら、落ち葉が大量に落ちている。 それが、ガサッ、ガサッと、地を踏む度に音を発し、位置を知らせるのだ。 のび太は、何かが南の【7―E】の方向に逃げていく音を、聞き逃さなかった。 「クソッ!待てぇッ!」 のび太は手探りながら、後を追った。 ---- しかし、追いながら、ちょっとした違和感に気づく。 異様に、一回の足音と足音との間隔が狭いのだ。 「なんだか、足の短い物が逃げているような……」 のび太は不安を抱えつつも、後を追う。 爆発の現場から、40mほど離れた所で、視界がスッキリしてきた。 そして、のび太は愕然とした。 爆発から逃げ出した足音の正体が、分かったからだ。 それはスネ夫ではなく…… 一匹のコラッタだった。 ご丁寧に、背中には、「アホ」と書いた張り紙が貼られてある。 恐らく、スネ夫が事前に捕獲していたコラッタだろう。 そして、それは囮に使われた事は明白。 ---- 「と、いうことは……」 のび太はさっきの道を、30mほど引き返す。 そこに、スネ夫の姿は無い。 やられた。ハメられたのだ。 「しまったぁぁぁぁぁああぁぁぁあああッ!」 のび太の絶叫が森に響いた。 食糧を全て取られ、スネ夫からは逃げられた。 しかし、憂慮すべき事はこれだけでは無い。 先程のやりとりで、かなりの汗をかいてしまった。 かなりの量の、水分を消耗してしまった。 水筒の水は枯渇、水場である【4―E】からの距離もかなりあるのに。 脱水症状を起こすには絶好(?)とも言えるシチュエーションだ。 絶望的状況。 やもすると、死ぬかもしれない。 そう思った瞬間、のび太は軽い目眩を感じた。 「あれっ?」 言うが早いか、のび太はスゥッと、天に登るような心地好い感覚に襲われた。 次の瞬間、のび太の目の前は真っ白になった。 ----  * * * 【7―E】 そこに一人の少年がやってきた。 整った顔つき、誰が見ても、美少年と呼べるものだった。 彼の名は出木杉英才。 ○×小学校に通う、いわば優等生と呼ばれる少年である。 「爆発の音がしたんだけど……」 少年は辺りを見回す。 すると、【6―E】と【7―E】の境界線の辺りの地面が、黒く焦げているのが見えた。 「あそこで爆発が起こったのか…… 一体何があったんだろう?」 少年は小走りで、その現場に向かう。 すると、近くに誰かが居るのが見えた。 「誰だい?」 少年は身構える。 しかし、相手は地面に臥せたまま、動かない。 少年は不思議に思い、その臥している人間に近づいた。 そして、彼はその倒れている人間がクラスメートである人物と気づいた。 「のび太君!」 森に、出木杉の叫びがこだました。 ----

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