「セカンド その11」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

セカンド その11」(2007/08/12 (日) 03:20:24) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

[[前へ>セカンド その10]] テンガン山、頂上。 「ふふふふ……はっははははは!」 強風が吹きつける中、出木杉は一人高笑いする。 その出木杉の目線の先には、先程復活させた二体の伝説のポケモンが居た。 「これが……伝説のポケモン!」 出木杉はその威容に臆することなく、吸い寄せられるように二体に近づいていく…… 「待て!」 不意に、出木杉の後方から声がする。 出木杉は振り向かずとも、声の主の正体を悟った。 「もう来たのか……野比君」 そう言って、出木杉が後ろを振り向く。 そこには、荒い息をつきながらモンスターボールを取り出すのび太の姿があった。 「はぁ……はぁ……勝負だ……出木杉!」 のび太がモンスターボールを投げる。 繰り出されたのはドラピオンだ。 「ったく面倒だなぁ……」 出木杉は露骨に嫌そうな顔をして、仕方なくボールを取り出す。 「わざわざ伝説のポケモンを使うまでもないよ……いけ、フーディン!」 ---- 「フーディン、きあいだまだ!」 出木杉のフーディンが、きあいだまをドラピオンに撃つ。 「効くもんか!かみくだけ、ドラピオン!」 ドラピオンがフーディンを噛み砕く。 防御力の低いフーディンが、それを耐えきれる筈もない。 「ふん……一匹倒したからっていい気になるなよ!いけ、ルカリオ!」 「ルカリオだって?」 見たことのない珍しいポケモンの登場に、のび太が思わず声を上げる。 「剣の舞だ、ルカリオ」 ルカリオが体を捻り、攻撃力を上げる。 「ドラピオン、炎の牙!」 「ははっ!そんな攻撃無駄無駄無駄ァ!ルカリオ、地震!」 ルカリオが齎した大きな揺れは、一撃でドラピオンの体力を奪った。 のび太はドラピオンをボールに戻す。 「ねえ、出木杉」 「ん?」 突然呼びかけられ、出木杉は首を傾げる。 「一つ聞きたい。何で……何でこんな事を?」 出木杉から目を逸らさず言うのび太。 その射るような鋭い視線に、出木杉は一瞬たじろいだ。 だが、少し間が開くと出木杉は笑い出す。 「……はは、ははは、ははははは!」 ---- 「何が……おかしい……」 搾り出すようなのび太の声。 それを聞いた出木杉は、楽しそうに告げた。 「何でかって?強いて言えばこのゲームを面白くしたかったからかな。 普通に冒険しているだけじゃつまらない……何かこう、スリルが必要なんだよ。 伝説のポケモンを復活させて、この僕がこの世界を制圧する……面白いだろう? まぁ、僕が元の世界に戻れたのは偶然だったけどね~」 「……出木杉、お前はそのスリルとやらの為に僕達を危険な目に遭わせたのか?」 のび太が握った拳をプルプルと震わせる。 出木杉の返答はすぐに返ってきた。 「多分そんなとこだろうね~。 別に君達の危険なんてどうでもいいし。 今となっては君達がどうなろうと関係ないんだ。 僕はこのシンオウ地方を征服する!そしてシンオウ地方の神になる!」 出木杉の高らかな声がテンガン山山頂に響く。 「…………じゃない」 「ん?」 「お前はもう、昔の出木杉じゃない……僕がここでお前を止める!」 のび太がギャロップを繰り出す。 「フレアドライブ!!」 炎の塊となり、ルカリオに突っ込んでいくギャロップ。 攻撃がルカリオに直撃した瞬間、爆発音にも似た衝突音が響いた。 ---- ギャロップのフレアドライブでルカリオが瀕死になる。 「……まさか最後の一匹まで追い詰められるとはね。 でも、コイツは絶対に倒せない! 出でよ、ガブリアス!」 出木杉がエース、ガブリアスを出す。 「そんな奴すぐに倒してやる!ギャロップ、フレアドライブ!」 「そんなチンケな攻撃は効かないんだよ!ガブリアス、地震だ!」 のび太のギャロップが地震を食らい、力尽きる。 「クソォ!負けるもんか……いけライチュウ!」 怒りに任せ、ポケモンを繰り出すのび太。 だが、ライチュウ……そして次に出したヨルノズクさえも一撃の下に降されてしまう。 「僕の……負け……」 ヘナヘナと崩れ落ち、唖然とするのび太。 出木杉はそれを見て、満足そうに笑った。 「ははは!所詮君みたいな落ちこぼれがどう足掻こうと僕には勝てない……。 さて、冥土の土産に見せてやろうか……コイツ等の力を」 出木杉が後方のディアルガ、パルキアを指さす。 少し離れたのび太からでも、その飲み込まれそうなまでの威圧感はひしひしと伝わってきた。 「さあ、まずはディアルガ……リッシ湖にときのほうこう!」 ディアルガが力を溜め、リッシ湖にときのほうこうを放つ。 山頂からそこを一望したのび太は、目を丸くして驚いた。 澄み渡った湖は完全に干乾び、生い茂っていた木々はすっかり枯れてしまっている。 これが本当にリッシ湖なのか?と疑うような光景がそこに広がっていた……。 ---- 「ディアルガの力を持ってすれば、木々を枯れさせ湖を干乾びさせることも容易い。 次はパルキアの力を見せてやる!」 「や、やめろ……」 出木杉を止めようと試みるのび太だったが、足が動かない。 伝説のポケモンの威圧感と、さっきの攻撃の凄まじさによる恐怖がのび太の体に重く圧し掛かっていた。 「じゃあ行くぞ!パルキア、リッシ湖にあくうせつだん!」 パルキアが、巨大な腕を勢い良く水平に振る。 それによって空気の刃にも似たようなものが発生し、それは真っ直ぐリッシ湖へ飛んでいった。 「木が……リッシ湖の木が!」 のび太が再び目を丸くして驚く。 パルキアのあくうせつだんの範囲内の木は、全てどこへともなく消え去っていた。 「凄い!想像以上だ……この力を使えば……ぐふふふふ」 出木杉は二体の力に狂喜し、いかれた声色で笑う。 「さて、次はどこかの町でも消そうかな。パルキア、あくうせつ……」 「ゴウカザル、マッハパンチ!」 突然のび太の後方からゴウカザルが飛び出し、パルキアに拳を当てる。 それを受けたパルキアは、少しよろめいた。 ゴウカザルは攻撃を終え、俊敏な動きで戻っていく。 「ゴウカザル……まさか!」 出木杉が舌打ちをしてゴウカザルが戻っていった方向を見る。 先に口を開いたのはのび太だった。 「スネ夫!それにみんな……やっと来たんだね!」 ゴウカザルが戻っていった方向にはスネ夫、ドラえもん、静香、ジャイアンの四人が居た。 「くそ……邪魔者が次々と!」 憤怒の表情で悪態をつく出木杉を見て、スネ夫が満足げに言い放つ。 「悪いな、のび太。ヒーローってのは遅れて登場するもんだからね!!」 ----
[[前へ>セカンド その10]] テンガン山、頂上。 「ふふふふ……はっははははは!」 強風が吹きつける中、出木杉は一人高笑いする。 その出木杉の目線の先には、先程復活させた二体の伝説のポケモンが居た。 「これが……伝説のポケモン!」 出木杉はその威容に臆することなく、吸い寄せられるように二体に近づいていく…… 「待て!」 不意に、出木杉の後方から声がする。 出木杉は振り向かずとも、声の主の正体を悟った。 「もう来たのか……野比君」 そう言って、出木杉が後ろを振り向く。 そこには、荒い息をつきながらモンスターボールを取り出すのび太の姿があった。 「はぁ……はぁ……勝負だ……出木杉!」 のび太がモンスターボールを投げる。 繰り出されたのはドラピオンだ。 「ったく面倒だなぁ……」 出木杉は露骨に嫌そうな顔をして、仕方なくボールを取り出す。 「わざわざ伝説のポケモンを使うまでもないよ……いけ、フーディン!」 ---- 「フーディン、きあいだまだ!」 出木杉のフーディンが、きあいだまをドラピオンに撃つ。 「効くもんか!かみくだけ、ドラピオン!」 ドラピオンがフーディンを噛み砕く。 防御力の低いフーディンが、それを耐えきれる筈もない。 「ふん……一匹倒したからっていい気になるなよ!いけ、ルカリオ!」 「ルカリオだって?」 見たことのない珍しいポケモンの登場に、のび太が思わず声を上げる。 「剣の舞だ、ルカリオ」 ルカリオが体を捻り、攻撃力を上げる。 「ドラピオン、炎の牙!」 「ははっ!そんな攻撃無駄無駄無駄ァ!ルカリオ、地震!」 ルカリオが齎した大きな揺れは、一撃でドラピオンの体力を奪った。 のび太はドラピオンをボールに戻す。 「ねえ、出木杉」 「ん?」 突然呼びかけられ、出木杉は首を傾げる。 「一つ聞きたい。何で……何でこんな事を?」 出木杉から目を逸らさず言うのび太。 その射るような鋭い視線に、出木杉は一瞬たじろいだ。 だが、少し間が開くと出木杉は笑い出す。 「……はは、ははは、ははははは!」 ---- 「何が……おかしい……」 搾り出すようなのび太の声。 それを聞いた出木杉は、楽しそうに告げた。 「何でかって?強いて言えばこのゲームを面白くしたかったからかな。 普通に冒険しているだけじゃつまらない……何かこう、スリルが必要なんだよ。 伝説のポケモンを復活させて、この僕がこの世界を制圧する……面白いだろう? まぁ、僕が元の世界に戻れたのは偶然だったけどね~」 「……出木杉、お前はそのスリルとやらの為に僕達を危険な目に遭わせたのか?」 のび太が握った拳をプルプルと震わせる。 出木杉の返答はすぐに返ってきた。 「多分そんなとこだろうね~。 別に君達の危険なんてどうでもいいし。 今となっては君達がどうなろうと関係ないんだ。 僕はこのシンオウ地方を征服する!そしてシンオウ地方の神になる!」 出木杉の高らかな声がテンガン山山頂に響く。 「…………じゃない」 「ん?」 「お前はもう、昔の出木杉じゃない……僕がここでお前を止める!」 のび太がギャロップを繰り出す。 「フレアドライブ!!」 炎の塊となり、ルカリオに突っ込んでいくギャロップ。 攻撃がルカリオに直撃した瞬間、爆発音にも似た衝突音が響いた。 ---- ギャロップのフレアドライブでルカリオが瀕死になる。 「……まさか最後の一匹まで追い詰められるとはね。 でも、コイツは絶対に倒せない! 出でよ、ガブリアス!」 出木杉がエース、ガブリアスを出す。 「そんな奴すぐに倒してやる!ギャロップ、フレアドライブ!」 「そんなチンケな攻撃は効かないんだよ!ガブリアス、地震だ!」 のび太のギャロップが地震を食らい、力尽きる。 「クソォ!負けるもんか……いけライチュウ!」 怒りに任せ、ポケモンを繰り出すのび太。 だが、ライチュウ……そして次に出したヨルノズクさえも一撃の下に降されてしまう。 「僕の……負け……」 ヘナヘナと崩れ落ち、唖然とするのび太。 出木杉はそれを見て、満足そうに笑った。 「ははは!所詮君みたいな落ちこぼれがどう足掻こうと僕には勝てない……。 さて、冥土の土産に見せてやろうか……コイツ等の力を」 出木杉が後方のディアルガ、パルキアを指さす。 少し離れたのび太からでも、その飲み込まれそうなまでの威圧感はひしひしと伝わってきた。 「さあ、まずはディアルガ……リッシ湖にときのほうこう!」 ディアルガが力を溜め、リッシ湖にときのほうこうを放つ。 山頂からそこを一望したのび太は、目を丸くして驚いた。 澄み渡った湖は完全に干乾び、生い茂っていた木々はすっかり枯れてしまっている。 これが本当にリッシ湖なのか?と疑うような光景がそこに広がっていた……。 ---- 「ディアルガの力を持ってすれば、木々を枯れさせ湖を干乾びさせることも容易い。 次はパルキアの力を見せてやる!」 「や、やめろ……」 出木杉を止めようと試みるのび太だったが、足が動かない。 伝説のポケモンの威圧感と、さっきの攻撃の凄まじさによる恐怖がのび太の体に重く圧し掛かっていた。 「じゃあ行くぞ!パルキア、リッシ湖にあくうせつだん!」 パルキアが、巨大な腕を勢い良く水平に振る。 それによって空気の刃にも似たようなものが発生し、それは真っ直ぐリッシ湖へ飛んでいった。 「木が……リッシ湖の木が!」 のび太が再び目を丸くして驚く。 パルキアのあくうせつだんの範囲内の木は、全てどこへともなく消え去っていた。 「凄い!想像以上だ……この力を使えば……ぐふふふふ」 出木杉は二体の力に狂喜し、いかれた声色で笑う。 「さて、次はどこかの町でも消そうかな。パルキア、あくうせつ……」 「ゴウカザル、マッハパンチ!」 突然のび太の後方からゴウカザルが飛び出し、パルキアに拳を当てる。 それを受けたパルキアは、少しよろめいた。 ゴウカザルは攻撃を終え、俊敏な動きで戻っていく。 「ゴウカザル……まさか!」 出木杉が舌打ちをしてゴウカザルが戻っていった方向を見る。 先に口を開いたのはのび太だった。 「スネ夫!それにみんな……やっと来たんだね!」 ゴウカザルが戻っていった方向にはスネ夫、ドラえもん、静香、ジャイアンの四人が居た。 「くそ……邪魔者が次々と!」 憤怒の表情で悪態をつく出木杉を見て、スネ夫が満足げに言い放つ。 「悪いな、のび太。ヒーローってのは遅れて登場するもんだからね!!」 ---- 現れた四人のかつての友を見て、出木杉は苦い表情をする。 だが、それはすぐに不敵な笑みへと変貌していった。 「ははは、面白くなってきたじゃないか……。 いいだろう、君達と僕の総力戦だ!」 ディアルガとパルキア、そしてガブリアスが出木杉の前に立つ。 のび太側の四人も、それぞれポケモンを繰り出した。 「ほら、のび太にもこれやるよ!」 スネ夫がボールを一つ取り出し、のび太に放り投げる。 宙を舞うそれは、慌てるのび太の手の中に納まった。 「これ、何?」 「前、ギンガ団に捕られたドダイトスさ!僕がアジトの中から見つけてきたんだ。感謝しろよ」 「あ、ありがとう!」 のび太が懐かしそうにボールを見つめる。 「よし、久しぶりのバトルだぞ!いけ、ドダイトス!」 のび太がボールを投げ、ドダイトスが出てくる。 「さあて、もういいかい?僕待ちくたびれちゃったよ」 出木杉がリラックスしながら言う。 傍らの伝説のポケモンとガブリアスは既に戦闘体勢を整えていた。 「ああ、もういいよ」 スネ夫が言い、ジャイアン達が一歩前へ出る。 その場に訪れた一瞬の沈黙を経て、ポケモン達が動き出した。 ---- 前へ出たジャイアン、ドラえもん、静香が声を張り上げる。 「へん、伝説のポケモンなんて関係ねえ!いけドンカラス!」 「そうよ、私達は負けない。パチリス、行きなさい!」 「いけえ、ムクホークとバリヤードッ!」 ジャイアン、静香、ドラえもんのポケモン達が、果敢にディアルガに攻撃を仕掛ける。 ――この時、のび太達は「まだ勝てるかもしれない」と思っていた。 いくら相手が伝説のポケモンだろうと、ポケモンの数ではこちらの方が上。 寧ろ、勝てる確率の方が大きいんじゃないのか……そんな感覚さえ脳裏に過ぎっていた。 そんな淡い希望が、すぐに無くなってしまう事も知らずに―― 「雑魚がいくら群れても同じだ!ディアルガ、ときのほうこう!」 出木杉の指示を受け、ディアルガが口に粒子を溜める。 その様子をジャイアン達の後ろから見ていたのび太は、何か嫌な予感をしていた。 また、さっきみたいな惨劇が起こるのではないか。 リッシ湖を一瞬にして荒れ果てた荒野に変えた、あの惨劇が―― 「きゃあああああ!」 「ぐおおおおおおおお!」 「うわあああああ!」 三人の耳を劈くような悲鳴を聞いて、のび太はいつの間にか俯けていた顔を上げる。 そこで彼は見てしまった。 ときのほうこうを受けた三人とそのポケモン達の姿が光に包まれ、消えてしまうところを……。 「ジャイアン!静香ちゃん!ドラえもオオオオオン!!!」 ---- やがて三人を包んでいた眩い光が消える。 そこにジャイアン、静香、ドラえもんの三人の姿は無かった。 「そ、そんな……嘘でしょ……?」 のび太は気が動転し、その場に崩れ落ちる。 ドラえもん達が消えてしまった……信じたくない事実がのび太の心にグサリと突き刺さる。 「ドラえもん……静香ちゃん……ジャイアン……うわああああアアァァア!」 「お、落ちつけのび太!ここはあくまでゲームの世界なんだぞ!ドラえもん達はまだ死んでいない」 怒り狂うのび太を必死にスネ夫が止める。 「!……ドダイトス、地震だ!」 ドダイトスの齎した大きな揺れが、攻撃を終えたディアルガを襲う。 「ま、まずい。攻撃を止めろガブリアス!」 出木杉の命令で、ディアルガのダメージを少しでも減らすためにガブリアスが攻撃を受ける。 攻撃は運良く急所に当たり、ガブリアスは一撃で倒れてしまった。 「チィ……だが、この二体だけでもお前等を倒すのには十分だ!」 余裕を見せつけ、声を張り上げる出木杉。 だが、そのせいで彼は気付くことが出来なかった。 俊敏な動きでディアルガに迫ってくる、黒い影に。 「今ならときのほうこうを放ったから動けないだろ? ゴウカザル!インファイトオオオオオオォ!」 「な、何ぃ!?」 スネ夫の声がして、ゴウカザルがディアルガに畳み掛ける。 ディアルガの悲痛な叫び声が、テンガン山山頂に響いた。 ---- 悲痛の叫び声を上げて倒れるディアルガを前にして、出木杉が驚愕する。 「そ、そんな……ディアルガが……ぐうぁっ!?」 ――! この時、出木杉は自分の体の中で、何か糸が切れたような感覚を得ていた。 糸が切れて、何かが自分の心の中に入ってくる。 ドラえもん……? 静香ちゃん……? 武君……? 出木杉の頭に浮かんできたのは、先程ときのほうこうで消えていったかつての友人達の姿。 三人はそれぞれ出木杉に何かを告げ、また闇の中へと消えていった。 「うぅっ!」 パルキアがスネ夫のポケモンをふっ飛ばした衝突音で、出木杉はようやく現実に引き戻された。 だがその瞬間、彼は急に頭を抱えてその場に崩れてしまう。 「う、うぁ……うあぁぁああぁ……」 急に、今まで全く感じていなかった罪悪感が出木杉の体を蝕んでいく。 ゲームの世界とはいえ、ドラえもん、静香、ジャイアンの三人を消してしまった罪悪感が。 「う、ぐぐ、ぐあ、ぐおおぉぉぉぉおおぉぉおぉ!」 出木杉が再び悲痛の叫び声を上げた、丁度その時だった。 パルキアがポケモン達をなぎ倒し、のび太とスネ夫の方へ向かっていったのは―― ---- 「や、やめろパルキア!そいつらを殺すなああ!」 頭を抱えながらも、大声でパルキアを止めようと試みる出木杉。 だが、彼の声はパルキアには届かない。 パルキアはあくうせつだんでゴウカザルとドダイトスを山頂から消し、怯えるのび太達の目の前に現れた。 「…………!」 「…………!」 間近でパルキアの威容を見て、のび太とスネ夫は声すら出せなかった。 パルキアはまず、スネ夫を狙う。 「や、やめろオオオオォォォオオオ!」 出木杉がパルキアの方へ走り出すが、時既に遅し。 パルキアは、迷いも無くスネ夫の身体を突き刺していた。 恐ろしいほど赤い大量の血が、一気に噴き出す。 隣ののび太は恐怖や悲しみを通り越して、混乱状態に陥っていた。 スネ夫の血を被ったその顔、その目に最早生気は宿っていない。 雷が轟くと同時に、パルキアが再び攻撃体勢をとる。 そして、その爪をのび太に突き刺そうとした瞬間―― 「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」 ---- のび太の体を貫こうとしたパルキアの腕を止めたのは出木杉だった。 「野比君は……殺させない……!」 非力ながらも必死に力を加え、腕に食らいつく出木杉。 だが、すぐにそれも無駄だとわかる。 パルキアが思いっきり腕を振り、出木杉は一瞬の内に吹き飛ばされた。 ~~俺は今、俺を殺そうとした奴を殺そうとしているだけだ……それの何が悪い……~~ 「な、何だと!?」 その時、出木杉は確かにパルキアの声を聞いた。 禍禍しいその声色に、出木杉は一瞬体中が凍てつくような感覚を得る。 その間にパルキアが一気にのび太の体を貫くも、出木杉は何も言えない。 何故なら、彼は直感で感じていたからだ。 次は自分がやられる番だ……と。 ~~さあて、お前は世界征服だのなんだの言ってるが俺には全く関係ない~~ ゆっくりと近づいてくるパルキアを見て、出木杉は尻を地面につけながらも後ずさる。 ~~お前が無能だからディアルガはやられたんだ……そんな奴が世界征服?笑わせてくれる~~ 「……あ、ぁ、あ、ぁああ」 出木杉が更に退こうとした時、彼は不意に右手に違った感触を感じる。 その感触は間違い無く、山頂の端。 逃げ場を無くした出木杉を見ても、パルキアは依然歩みを止めない。 ---- 一旦、物語の場面はテンガン山頂上から離れる。 同時刻、一人の男が重い足を引きずってテンガン山内を進んでいた。 その男は悲痛な表情を浮かべながらも、何かを決意したような雰囲気を醸し出している。 (下っ端の報告によると出木杉のかつての仲間と三人の幹部がここに……。 マーズ、ジュピター、サターン……もしお前等がテンガン山頂上に居るのなら無事ではないだろう。 この異常な強風からして、出木杉は伝説のポケモンを復活させている……。 それなら出木杉のかつての仲間達も、もう既にやられているのかも知れない。 こうなったのも、私が出木杉を止められなかったせいだ……。 私が頂上へ行き、奴とのケリをつける) 男は荒い息をつきながら、尚も歩き続ける。 まだ手遅れではない――そんな一縷の望みを抱えて。 男は強風に逆らい、尚も前へと進んでいく。 今現在、テンガン山頂上で起きている惨劇も知らずに。 ---- 同時刻、テンガン山頂上。 異常なまでの強風により、死を覚悟した出木杉の髪が靡く。 目前に立ちはだかるパルキアを前に、彼の目は焦点が定まっていない。 最早意識を保つことすらままならない彼は、意を決してその場から飛び降りた。 ―――どんどんパルキアが遠ざかっていく。 僕はもう終わりなのか? このまま落ちれば、間違い無く死ぬ。 こうなったのも全部僕のせいだ。そう、全部僕の。 ―――もうすぐ僕は死ぬ。 静香ちゃん、骨川君、武君、ドラえもん、そして――― ……………… 僕も君達と同じ所へ……行ける……の……かなぁ―――…… ---- 再びテンガン山頂上。 「…………!」 やっとの事でここに辿り着いたアカギは、かつてない光景を目の当たりにして絶句する。 倒れていたのはのび太とスネ夫、それにディアルガとパルキア。 それと、端の方に出木杉の血痕が残っている。 「手遅れだったか……」 アカギは力無くそう呟く。 丁度その時、三人の幹部……マーズとジュピターとサターンが現れた。 三人は急いでアカギの下へ駆け寄っていく。 アカギは三人の方を見やると、切なそうに漏らした。 「これが私達のやろうとしていた事の結末だ。 私達は、間違っていた…………お前達もわかっただろう? ギンガ団は今日をもって解散する…………いや、しなければならないんだ」 その言葉を聞いた三人の幹部は、何も言えなかった。 それから程無くして、倒れているディアルガとパルキアの体に異変が起きた。 不思議な光を放ち、ニ体の体は消滅していく。 その光は天まで届き、やがてシンオウ地方全土を覆い尽くす。 シンオウ地方の時間が狂い、空間が歪んでいく―――― ---- シンオウ地方全土に齎された時間と空間の異変は、どの都市にも影響を与えていた。 景色が歪み、時間は狂い、人々の断末魔の叫びが絶えず響く。 木々は枯れ、湖や川は渇水していく。 この歪んだ時間と空間は、最早誰にも止められない。 やがて、人々の叫び声は聞こえなくなる。 シンオウ地方全土が、荒廃していく。 暴走した時間と空間は、容赦無く全てを飲み込む。 ---- それから数年後―――― 木々は香り、澄んだ湖には青い空が映る。 シンオウ地方の大地を照らす太陽は、今までのそれよりどこか暖かく感じられた。 木々が生い茂った森の方からは、そこを住処とするポケモン達の鳴き声が聞こえてくる。 時折緩やかな風が吹き、豊かな大自然を包み込む。 その風によって草木が揺れる音が、その場に安らぎを齎していた。 空では、ムックル達が楽しそうに飛び交っている。 地上では、チェリンボ達が日の光を浴びながら踊っている。 ここでは全ての自然が調和し、共存しているのだ。 やがて、その場に一陣の風が吹く。 それに奮い立たされたムックルが一本の木から飛び出し、仲間達の下へ飛んでいった――― 【セカンド完】 ----

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
記事メニュー
目安箱バナー