「ギンガ その10」(2007/08/04 (土) 22:16:41) の最新版変更点
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「………クソッ」
出木杉と別れてから、何時間経過しただろうか――?
ポケッチも通じず、上空からは一切光を感知することができない。
なんとかロトムの明かりで、白銀の大地を踏みしめられている。
さらに、吹雪のせいで前方五メートルすら直視することすらままならない。
俗にこれを遭難って言うんだろうな。
濡れた衣服のせいで余計に体温を奪われる……
脱いでしまいたいが、脱いだら脱いだで大変なはずだ。
荷物が重い…手が震える…目が霞む。
もう駄目だ……歩くのをやめたい――
こう思ったとき、突然ロトムが突然ソワソワとしだす。
それに反応して、ロトムの視線の先を覗くと
なんと洞窟があったのだ。
助かった……吹雪が止むまでここで休もう。
最後の力を振り絞って、洞窟へと進む
そのときの足取りは、不思議と軽かった。
----
「ハァ……ハァ……」
洞窟の地面に腰をかける。湿っていて気持ち悪いが
こんなことを気にしていられる状況ではない。
休憩が取れたことを感謝せねばな……
「ありがとうロト――」
俺の左肩付近に浮遊していたロトムは
まるで糸が切れた人形のように、地面に横たわっていた。
「ロ、ロトム!?」
すっかり冷え切ってしまっているロトム。
顔がいつもより紅潮している。
これ以上、ロトムを出しておくのは危険だ……
「……ありがとう、ロトム」
ロトムをモンスターボールに収納する。
もう俺の手持ちは一体しか残っていない……
あの白いイーブイだ。
リュックを漁り、最後のモンスターボールを取り出す。
中からは、美しい体毛を兼ね備えた白いイーブイが出てきた。
----
イーブイはボールから出てくると、その円らな瞳で俺を見上げる。
俺はイーブイを抱きかかえ、洞窟の壁にもたれかかった。
……温かい。
雪の様に真っ白な体毛だが、その見かけとは正反対に温かく
冷え切った体に、温もりを取り戻してくれる。
イーブイも最初は驚いた素振りを見せていたが
次第に落ち着いてきたようで、今は眼を閉じ、寝息を上げている。
……急に目蓋が重くなってくる。
この状況に安心してしまったのか、眠気が襲ってきたのだ。
……俺も少し寝るか……ここなら吹雪の影響は無いし
温かいイーブイを抱えていたら、凍死することはまず無いだろう。
……お休み、イーブイ。
----
……なんだ? これはポケモンの鳴き声?
なにかのポケモンの鳴き声で、目を覚ます。
イーブイもこの鳴き声を聞き取ったのか、俺の体から降りて
洞窟の入り口で、警戒体勢を取っていた。
「どうしたんd……
俺が声を出すより早く、イーブイに黒い物体が襲い掛かる。
そいつの攻撃を受け、イーブイは洞窟の壁に叩きつけられた。
こいつは……ニューラ。それも何匹も居る。
まずい、ここはニューラ達の縄張りだったのか。
ニューラがイーブイに追い討ちをかけようとする。
俺はリュックの中を素早く漁り、ナイフを取り出す。
そのまま俺は、ニューラの元へ駆けていった。
『イーブイから離れろっ!』
大声を上げ、ニューラにナイフで一閃する。
しかしその攻撃は、空しく宙を掠めただけだった。
くそっ……早く次の攻撃を――
俺が体勢を整えようとしたとき、突然、右腕に焼けるような痛みが走る。
そして、俺の足元には真紅の液体が広がっていた。
----
『ァガァァアァアアァアアァァアアァアアア』
声にならない悲鳴を上げる。
体勢を立て直そうとしたとき、さっきのとは別のニューラに腕を切裂かれたのだ。
俺の腕を切裂いたニューラは、爪に付着した鮮血をペロリと舐める。
握っていたナイフは地面に落としてしまい、もう抵抗する方法が無い。
「に、逃げろ、イーブイ!」
このイーブイの特性は逃げ足、この状況から離脱するのもさほど難しくは無いだろう。
お前だけでもここから逃げるんだ……さようなら。
死を覚悟した瞬間――
目の前のニューラに、紅い球体が直撃した。
----
ニューラは短い悲鳴を上げ、地面に膝を着く。
今のは……イーブイ?
洞窟の入り口付近で、鋭い眼光をニューラ達に向けている。
だがその足は、恐怖と寒さによって震えている。
ニューラ達はその姿を見て、醜い笑みを浮かべる
そして、一気に襲い掛かった。
『ブィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー』
イーブイはその小さな体からは考えられないほどの、大声を張り上げ
再び紅い球体を発射した。
その紅い球体を受けたニューラは、二度目ということもあり瀕死になった。
あの技はなんなんだ?おそらく色からして炎タイプの技。
だがイーブイは炎タイプの技は……そういえば
『目覚めるパワー』の技があった。
『目覚めるパワー』は、そのポケモンごとのタイプと威力の違う技であり、無限の可能性を秘めている技―
----
「なんで……なんで逃げないんだよ……」
今も俺の目の前でイーブイは、ニューラ達と死闘を繰り広げている。
数匹は撃破できたものの、状況は明白。圧倒的にイーブイが不利だ。
なのにイーブイは逃げようとしない。簡単にこの場から離脱できるはずなのに……
このままじゃ本当に死ぬかもしれないんだぞ……どうして…どうしてなんだよ。
何発目か分からない目覚めるパワーが、ニューラを瀕死にする。
イーブイは既に息が上がっており、限界だというのは誰にでも分かる。
それをニューラ達はチャンスだというように、一斉に飛び掛った。
『イーブィイイイイイイイ!!』
俺が叫んだその時、イーブイが眩い光に包まれる。
その閃光に、ニューラ達は目を潰される。
これは……進化?
やがて光が収まり、イーブイが居た場所には、真っ白なグレイシアが居た。
----
その後の勝負は圧倒的だった。
グレイシアの特攻は凄まじく、イーブイの頃の目覚めるパワーより三倍近く威力が跳ね上がっていた。
さらに防御力も上がっていたことで、ニューラ達の攻撃を物とせず
気がついたときは、全てのニューラが地面にひれ伏していた。
俺の元へ駆け寄ってくるグレイシア。その体には、無数の切り傷があった。
「ありがとう……グレイシア」
グレイシアを強く抱きしめる。その体はイーブイの時と変わらず温かかった。
ナナシ
ルカリオLv47、クロバットLv45、ロトムLv44、
ラグラージLv46、グレイシアLv43
----
「やっと……到着した」
空は晴天、眩い陽光が真っ白な大地に反射している。
俺はなんとか、キッサキシティに辿り着くことができたのだ。
あの後、そのまま洞窟で一晩明かすことにした。
腕の傷は思ったより浅く、持ち歩いていた治療用具で傷を塞いだ。
多分すぐに治るだろう。病院には行く必要は無いな。
ポケモンセンターでポケモンを回復させると、急に恐ろしいほどの眠気が襲い掛かってくる。
その眠気に屈してしまい、ベッドに潜り込んでしまった。
----
――キッサキジム
「ミミロップ、炎のパンチ!」「波動弾だルカリオ!」
かなりの時間のロスはあったが、なんとかジムに挑戦することが出来た。
ここのジムリーダーのスズナは氷タイプの使い手。
フィールドには霰が降り注いでいて、少しずつ俺のポケモンの体力を蝕んでいく。
霰が降っている原因は、最初にスズナが出したユキノオーの特性『雪降らし』だ
すぐに倒したものの、出た瞬間から発動する特性は防ぐことができず
この天候になっているわけだ。
「なかなかやるわね……雷パンチよ!」
電気を帯びた拳がルカリオを襲う。
辛うじて回避することができたが、いつもより動きが鈍い。
寒さで思うように動けないのか……そこまで計算に入れているのかスズナは。
「距離を取って波動弾だ!」
ルカリオは後退するが、ミミロップはすぐに追いつき、攻撃の隙を与えない。
「寒さに慣れたミミロップを甘く見ない方がいいわよ……スカイアッパー!」
地面の氷を抉るほどの強力なアッパーが、ルカリオを襲う。
ルカリオは宙へと跳ね上げられた。
「屋根を使って、炎のパンチ!」
ミミロップは屋根を足で蹴って、ルカリオの方へ落下する。
「護るだ!」
ルカリオは球状の防御壁に包まれ、炎のパンチを防ぐ。
そのまま落下のダメージも無効化した。
----
「護るのタイミングがいいわね……だけど防御だけじゃ勝てないわよ!」
ミミロップはすぐさま体勢を整え、踏み込んでくる。
電光石火は地面が凍結しているせいで、使用することができない。
地面が凍ってる?……こうなったら……
「すぐそこの地面に波動弾を撃て!」
ルカリオは、目前の地面に波動弾を撃ち込む。
周囲の氷が飛び散り、氷には亀裂が走る。
「ミミロップ止まりなさい!」
スズナの指示も空しく、ミミロップは割れた地面に足を取られ転倒する。
「この氷の地面じゃ、急停止なんてできるわけが無い……波動弾」
零距離からの波動弾の威力は、ミミロップのHPを一瞬で無にするのも難しくは無かった。
----
スズナの最後のポケモンはマンムー。
その巨体から発せられる威圧感に、思わず身を震わす。
ルカリオの体力は残り僅かだ…無理はさせられない。
「戻れ、ルカリオ。行け、グレイシア!」
グレイシアが姿を現す。氷の世界によく似合うポケモンだ。
「色違いのグレイシアじゃない! いいなぁ……ね、ちょうだい? バッジあげるから!」
「断る」
誰がやるか、さっさとジム戦の続きを始めよう。
「冷凍ビームだ!」「氷の礫よ」
冷凍ビームをマンムーに向けて撃ち込む。
だがその攻撃は、弾丸のように発射された氷の礫に命中した。
冷凍ビームを受け、氷の礫は巨大化する。
巨大な氷の塊は、そのままグレイシアを襲った。
----
タイプの相性、元々の防御力の高さから、そこまでダメージは大きくなかったものの
発射した冷凍ビームが吸収されたという事実には、冷や汗が出る。
「どんどん行くよ、雪雪崩!」
無数の氷塊がグレイシアを襲う。
「回避し……」
駄目だ。攻撃範囲が広すぎて、攻撃を回避することができない。なら……
「マンムーに水の波動!」
少しでも相手のHPを削り取るしかない。幸い相手は攻撃中で隙だらけだ。
だが、水の波動はマンムーを外して、ジムの壁に命中した。
「な……」
驚愕しているグレイシアに、雪雪崩が命中した。
「大丈夫か!?」
雪に埋もれていたグレイシアは姿を現す。無事のようだ。
だがなんで水の波動が外れたんだ……
「マンムーの特性は『雪隠れ』霰状態だと、たまに攻撃を回避することができるのよ」
なるほど……この天候に適したポケモンということか。
ポケモンの選択のバランスもいい、流石はジムリーダー。
戦闘前から既にジム戦は始まっているということか……
----
「マンムー、突進よ!」
マンムーは、その巨体からは考えられないほどのスピードで迫ってくる。
接近することで改めて感じる威圧感。思わずたじろいでしまう。
「み、水の波動だ!」
接近してきたマンムーに水の波動を命中させるが、まるで効いていない様な素振りを見せる。
そのままグレイシアに突進を命中させた。
立ち上がるグレイシアを見るが、思ったよりもダメージが激しい。
どうやら急所に命中してしまったようだ……運が無い。
「水の波動で足元を狙え!」
水の波動でマンムーの足元を狙う。
転倒してくれれば嬉しかったが、回避され僅かな水飛沫がマンムーの足にかかっただけだ。
「甘いわよ、もう一度突進!」「凍える風!」
グレイシアが凍える風を繰り出し、マンムーを襲う。
……これでマンムー撃破の準備ができた。
「馬鹿ね、その程度の技でマンムーを押さえ込めるわけが無いわよ!」
「それはどうかな? マンムーをよく見てみるんだな」
スズナはマンムーに目を向ける。そこには突進を停止し、体を小刻みに震わせているマンムーが居た。
「寒さには滅法強いはずなのに……なんでマンムーが」
「体が濡れていれば当然寒さは感じやすくなる。例え氷タイプにもその効果はある
さらにこの天候、そして凍える風、マンムーの体温を奪うには十分のようだったみたいだな」
スズナは下唇は噛み、フィールドから目を逸らす。
「これで終わりだ、冷凍ビーム――」
----
「はぁ……私の完敗かぁ……グレイシャバッジよ」
七つ目のバッジを手に入れる。後一つでコンプリートか。
「最近連敗続きだなぁ……昨日も眼鏡の子と連れの女の子にやられちゃったし……」
眼鏡の子と連れの女の子? まさか――
「その二人……のび太と静香って名前か!?」
目を鋭くし、スズナに詰め寄る。
「ちょ…怖いわよ……そうよ、あの二人の知り合い?」
「ああ、そうだが……」
知り合い……そうなるのだろう。
「昨日、静香ちゃんが私との対戦後に急に倒れちゃって……
今もここのポケモンセンターに居ると思うから、見に行ってあげたら?」
同じ町に居たとは……会わなくて良かった。
さっさとこの町から立ち去ろう。
「ああ、じゃあ行ってくる」
「バイバイ、最後のジム戦も頑張ってね!」
スズナが手を振る中、俺はジムの扉を開け、外へと踏み出した。
ナナシ
ルカリオLv48、クロバットLv45、ロトムLv44、
ラグラージLv46、グレイシアLv44
----
[[前へ>ギンガ その9]]
「………クソッ」
出木杉と別れてから、何時間経過しただろうか――?
ポケッチも通じず、上空からは一切光を感知することができない。
なんとかロトムの明かりで、白銀の大地を踏みしめられている。
さらに、吹雪のせいで前方五メートルすら直視することすらままならない。
俗にこれを遭難って言うんだろうな。
濡れた衣服のせいで余計に体温を奪われる……
脱いでしまいたいが、脱いだら脱いだで大変なはずだ。
荷物が重い…手が震える…目が霞む。
もう駄目だ……歩くのをやめたい――
こう思ったとき、突然ロトムが突然ソワソワとしだす。
それに反応して、ロトムの視線の先を覗くと
なんと洞窟があったのだ。
助かった……吹雪が止むまでここで休もう。
最後の力を振り絞って、洞窟へと進む
そのときの足取りは、不思議と軽かった。
----
「ハァ……ハァ……」
洞窟の地面に腰をかける。湿っていて気持ち悪いが
こんなことを気にしていられる状況ではない。
休憩が取れたことを感謝せねばな……
「ありがとうロト――」
俺の左肩付近に浮遊していたロトムは
まるで糸が切れた人形のように、地面に横たわっていた。
「ロ、ロトム!?」
すっかり冷え切ってしまっているロトム。
顔がいつもより紅潮している。
これ以上、ロトムを出しておくのは危険だ……
「……ありがとう、ロトム」
ロトムをモンスターボールに収納する。
もう俺の手持ちは一体しか残っていない……
あの白いイーブイだ。
リュックを漁り、最後のモンスターボールを取り出す。
中からは、美しい体毛を兼ね備えた白いイーブイが出てきた。
----
イーブイはボールから出てくると、その円らな瞳で俺を見上げる。
俺はイーブイを抱きかかえ、洞窟の壁にもたれかかった。
……温かい。
雪の様に真っ白な体毛だが、その見かけとは正反対に温かく
冷え切った体に、温もりを取り戻してくれる。
イーブイも最初は驚いた素振りを見せていたが
次第に落ち着いてきたようで、今は眼を閉じ、寝息を上げている。
……急に目蓋が重くなってくる。
この状況に安心してしまったのか、眠気が襲ってきたのだ。
……俺も少し寝るか……ここなら吹雪の影響は無いし
温かいイーブイを抱えていたら、凍死することはまず無いだろう。
……お休み、イーブイ。
----
……なんだ? これはポケモンの鳴き声?
なにかのポケモンの鳴き声で、目を覚ます。
イーブイもこの鳴き声を聞き取ったのか、俺の体から降りて
洞窟の入り口で、警戒体勢を取っていた。
「どうしたんd……
俺が声を出すより早く、イーブイに黒い物体が襲い掛かる。
そいつの攻撃を受け、イーブイは洞窟の壁に叩きつけられた。
こいつは……ニューラ。それも何匹も居る。
まずい、ここはニューラ達の縄張りだったのか。
ニューラがイーブイに追い討ちをかけようとする。
俺はリュックの中を素早く漁り、ナイフを取り出す。
そのまま俺は、ニューラの元へ駆けていった。
『イーブイから離れろっ!』
大声を上げ、ニューラにナイフで一閃する。
しかしその攻撃は、空しく宙を掠めただけだった。
くそっ……早く次の攻撃を――
俺が体勢を整えようとしたとき、突然、右腕に焼けるような痛みが走る。
そして、俺の足元には真紅の液体が広がっていた。
----
『ァガァァアァアアァアアァァアアァアアア』
声にならない悲鳴を上げる。
体勢を立て直そうとしたとき、さっきのとは別のニューラに腕を切裂かれたのだ。
俺の腕を切裂いたニューラは、爪に付着した鮮血をペロリと舐める。
握っていたナイフは地面に落としてしまい、もう抵抗する方法が無い。
「に、逃げろ、イーブイ!」
このイーブイの特性は逃げ足、この状況から離脱するのもさほど難しくは無いだろう。
お前だけでもここから逃げるんだ……さようなら。
死を覚悟した瞬間――
目の前のニューラに、紅い球体が直撃した。
----
ニューラは短い悲鳴を上げ、地面に膝を着く。
今のは……イーブイ?
洞窟の入り口付近で、鋭い眼光をニューラ達に向けている。
だがその足は、恐怖と寒さによって震えている。
ニューラ達はその姿を見て、醜い笑みを浮かべる
そして、一気に襲い掛かった。
『ブィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー』
イーブイはその小さな体からは考えられないほどの、大声を張り上げ
再び紅い球体を発射した。
その紅い球体を受けたニューラは、二度目ということもあり瀕死になった。
あの技はなんなんだ?おそらく色からして炎タイプの技。
だがイーブイは炎タイプの技は……そういえば
『目覚めるパワー』の技があった。
『目覚めるパワー』は、そのポケモンごとのタイプと威力の違う技であり、無限の可能性を秘めている技―
----
「なんで……なんで逃げないんだよ……」
今も俺の目の前でイーブイは、ニューラ達と死闘を繰り広げている。
数匹は撃破できたものの、状況は明白。圧倒的にイーブイが不利だ。
なのにイーブイは逃げようとしない。簡単にこの場から離脱できるはずなのに……
このままじゃ本当に死ぬかもしれないんだぞ……どうして…どうしてなんだよ。
何発目か分からない目覚めるパワーが、ニューラを瀕死にする。
イーブイは既に息が上がっており、限界だというのは誰にでも分かる。
それをニューラ達はチャンスだというように、一斉に飛び掛った。
『イーブィイイイイイイイ!!』
俺が叫んだその時、イーブイが眩い光に包まれる。
その閃光に、ニューラ達は目を潰される。
これは……進化?
やがて光が収まり、イーブイが居た場所には、真っ白なグレイシアが居た。
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その後の勝負は圧倒的だった。
グレイシアの特攻は凄まじく、イーブイの頃の目覚めるパワーより三倍近く威力が跳ね上がっていた。
さらに防御力も上がっていたことで、ニューラ達の攻撃を物とせず
気がついたときは、全てのニューラが地面にひれ伏していた。
俺の元へ駆け寄ってくるグレイシア。その体には、無数の切り傷があった。
「ありがとう……グレイシア」
グレイシアを強く抱きしめる。その体はイーブイの時と変わらず温かかった。
ナナシ
ルカリオLv47、クロバットLv45、ロトムLv44、
ラグラージLv46、グレイシアLv43
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「やっと……到着した」
空は晴天、眩い陽光が真っ白な大地に反射している。
俺はなんとか、キッサキシティに辿り着くことができたのだ。
あの後、そのまま洞窟で一晩明かすことにした。
腕の傷は思ったより浅く、持ち歩いていた治療用具で傷を塞いだ。
多分すぐに治るだろう。病院には行く必要は無いな。
ポケモンセンターでポケモンを回復させると、急に恐ろしいほどの眠気が襲い掛かってくる。
その眠気に屈してしまい、ベッドに潜り込んでしまった。
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――キッサキジム
「ミミロップ、炎のパンチ!」「波動弾だルカリオ!」
かなりの時間のロスはあったが、なんとかジムに挑戦することが出来た。
ここのジムリーダーのスズナは氷タイプの使い手。
フィールドには霰が降り注いでいて、少しずつ俺のポケモンの体力を蝕んでいく。
霰が降っている原因は、最初にスズナが出したユキノオーの特性『雪降らし』だ
すぐに倒したものの、出た瞬間から発動する特性は防ぐことができず
この天候になっているわけだ。
「なかなかやるわね……雷パンチよ!」
電気を帯びた拳がルカリオを襲う。
辛うじて回避することができたが、いつもより動きが鈍い。
寒さで思うように動けないのか……そこまで計算に入れているのかスズナは。
「距離を取って波動弾だ!」
ルカリオは後退するが、ミミロップはすぐに追いつき、攻撃の隙を与えない。
「寒さに慣れたミミロップを甘く見ない方がいいわよ……スカイアッパー!」
地面の氷を抉るほどの強力なアッパーが、ルカリオを襲う。
ルカリオは宙へと跳ね上げられた。
「屋根を使って、炎のパンチ!」
ミミロップは屋根を足で蹴って、ルカリオの方へ落下する。
「護るだ!」
ルカリオは球状の防御壁に包まれ、炎のパンチを防ぐ。
そのまま落下のダメージも無効化した。
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「護るのタイミングがいいわね……だけど防御だけじゃ勝てないわよ!」
ミミロップはすぐさま体勢を整え、踏み込んでくる。
電光石火は地面が凍結しているせいで、使用することができない。
地面が凍ってる?……こうなったら……
「すぐそこの地面に波動弾を撃て!」
ルカリオは、目前の地面に波動弾を撃ち込む。
周囲の氷が飛び散り、氷には亀裂が走る。
「ミミロップ止まりなさい!」
スズナの指示も空しく、ミミロップは割れた地面に足を取られ転倒する。
「この氷の地面じゃ、急停止なんてできるわけが無い……波動弾」
零距離からの波動弾の威力は、ミミロップのHPを一瞬で無にするのも難しくは無かった。
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スズナの最後のポケモンはマンムー。
その巨体から発せられる威圧感に、思わず身を震わす。
ルカリオの体力は残り僅かだ…無理はさせられない。
「戻れ、ルカリオ。行け、グレイシア!」
グレイシアが姿を現す。氷の世界によく似合うポケモンだ。
「色違いのグレイシアじゃない! いいなぁ……ね、ちょうだい? バッジあげるから!」
「断る」
誰がやるか、さっさとジム戦の続きを始めよう。
「冷凍ビームだ!」「氷の礫よ」
冷凍ビームをマンムーに向けて撃ち込む。
だがその攻撃は、弾丸のように発射された氷の礫に命中した。
冷凍ビームを受け、氷の礫は巨大化する。
巨大な氷の塊は、そのままグレイシアを襲った。
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タイプの相性、元々の防御力の高さから、そこまでダメージは大きくなかったものの
発射した冷凍ビームが吸収されたという事実には、冷や汗が出る。
「どんどん行くよ、雪雪崩!」
無数の氷塊がグレイシアを襲う。
「回避し……」
駄目だ。攻撃範囲が広すぎて、攻撃を回避することができない。なら……
「マンムーに水の波動!」
少しでも相手のHPを削り取るしかない。幸い相手は攻撃中で隙だらけだ。
だが、水の波動はマンムーを外して、ジムの壁に命中した。
「な……」
驚愕しているグレイシアに、雪雪崩が命中した。
「大丈夫か!?」
雪に埋もれていたグレイシアは姿を現す。無事のようだ。
だがなんで水の波動が外れたんだ……
「マンムーの特性は『雪隠れ』霰状態だと、たまに攻撃を回避することができるのよ」
なるほど……この天候に適したポケモンということか。
ポケモンの選択のバランスもいい、流石はジムリーダー。
戦闘前から既にジム戦は始まっているということか……
----
「マンムー、突進よ!」
マンムーは、その巨体からは考えられないほどのスピードで迫ってくる。
接近することで改めて感じる威圧感。思わずたじろいでしまう。
「み、水の波動だ!」
接近してきたマンムーに水の波動を命中させるが、まるで効いていない様な素振りを見せる。
そのままグレイシアに突進を命中させた。
立ち上がるグレイシアを見るが、思ったよりもダメージが激しい。
どうやら急所に命中してしまったようだ……運が無い。
「水の波動で足元を狙え!」
水の波動でマンムーの足元を狙う。
転倒してくれれば嬉しかったが、回避され僅かな水飛沫がマンムーの足にかかっただけだ。
「甘いわよ、もう一度突進!」「凍える風!」
グレイシアが凍える風を繰り出し、マンムーを襲う。
……これでマンムー撃破の準備ができた。
「馬鹿ね、その程度の技でマンムーを押さえ込めるわけが無いわよ!」
「それはどうかな? マンムーをよく見てみるんだな」
スズナはマンムーに目を向ける。そこには突進を停止し、体を小刻みに震わせているマンムーが居た。
「寒さには滅法強いはずなのに……なんでマンムーが」
「体が濡れていれば当然寒さは感じやすくなる。例え氷タイプにもその効果はある
さらにこの天候、そして凍える風、マンムーの体温を奪うには十分のようだったみたいだな」
スズナは下唇は噛み、フィールドから目を逸らす。
「これで終わりだ、冷凍ビーム――」
----
「はぁ……私の完敗かぁ……グレイシャバッジよ」
七つ目のバッジを手に入れる。後一つでコンプリートか。
「最近連敗続きだなぁ……昨日も眼鏡の子と連れの女の子にやられちゃったし……」
眼鏡の子と連れの女の子? まさか――
「その二人……のび太と静香って名前か!?」
目を鋭くし、スズナに詰め寄る。
「ちょ…怖いわよ……そうよ、あの二人の知り合い?」
「ああ、そうだが……」
知り合い……そうなるのだろう。
「昨日、静香ちゃんが私との対戦後に急に倒れちゃって……
今もここのポケモンセンターに居ると思うから、見に行ってあげたら?」
同じ町に居たとは……会わなくて良かった。
さっさとこの町から立ち去ろう。
「ああ、じゃあ行ってくる」
「バイバイ、最後のジム戦も頑張ってね!」
スズナが手を振る中、俺はジムの扉を開け、外へと踏み出した。
ナナシ
ルカリオLv48、クロバットLv45、ロトムLv44、
ラグラージLv46、グレイシアLv44
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キッサキシティから出ている船で、ナギサシティまで向かうことにした。
正確にはトバリシティまでだが……そこからは徒歩だ。
磯の香りが鼻をくすぐる……久々に時間的余裕ができたな。
あのダークライ捕獲作戦から、217番道路での遭難、そしてジム戦――
本当に最近忙しかったとおm……ダークライ捕獲後は五日も休憩してたな。
なのに疲労が癒された気がしない。あの五日間は流れるように時間が過ぎていったからな……
それほどまでにダークライ捕獲作戦は体力を使用したのか……
次の作戦も忙しい物になりそうだ、今のうちにゆっくりしておこう。
うっ……急に吐き気がしてきた、やばい……眩暈も。
そういえば……俺は乗り物酔いが激しかったんだ…
「ちょ…大丈夫か、坊主? 顔色が悪いってレベルじゃねーぞ
向こうにトイレがあるから、早く吐き出してくるんだ!」
「ありがとうござ……うっ……やべ………」
思わず口を押さえる。まずい、このままでは酷い事態に……
早くト…イレに……うっ…間に合……
----
「…み……起き……」
薄らだが声が聞こえる。誰の声だろう?
『起きろ、トバリに着いたぞ!』
この声を聞き、急に目が冴えてくる。もうそんな時間か……
上半身を起こすと、体には毛布がかけられている。
「トイレまで行ったら、アンタ気絶しちゃったからさ……
そのまま寝かしといてやったよ、大丈夫かい?」
「あ…ありがとう、船苦手だったの忘れてたからさ……」
「気にするな! それじゃあな、ナギサに行くんだろ?」
「あぁ……それじゃあ、船乗せてくれてありがとう」
船長に挨拶をし、船から下りる。
ナギサに行くには214番道路を……やべっ……溜まってたのが一気に……
口を押さえて、一目散に走り出す。トイレまで間に合わn……
その後のことはとくに語る必要は無いだろう、いや語りたくも無い。一生の恥だ。
----
悲惨な出来事は記憶に片隅に葬りやるとして、俺は今214番道路を歩いている。
そういえばスモモに敗北したとき、ここで一生懸命修行したっけな……
初めての敗北は大きかったな……今となってはいい思い出だが。
………ん? あれは……
「ほんまギンガ団に入って良かったわ、珍しい恐竜ポケモン大量ゲットやで」
「無駄無駄ァ~君みたいな単細胞が強力なポケモン持ってても、宝の持ち腐れだよ」
「なんやて!? 本当に宝の持ち腐れか勝負してみるか!?」
「別にいいよぉ、でも後悔しても責任は取らないからな、アヒャヒャヒャヒャヒャ」
ニット帽を被った関西弁と、お河童で丸眼鏡の二人が、リッシ湖の入り口で戦闘態勢を取っている。
俺がしばらく見物していると、関西弁が俺の方にズカズカと立ち寄ってくる。
「なんや自分は!? ワイらは泣く子も黙るギン「お、おい!その人は……」
丸眼鏡は急に腰を低く据える、関西弁も俺の左腕を見ると、顔が引き攣りだした。
「す、すいません幹部殿、この単細胞が無礼な行為を……」
こいつら……さっきまでとは態度が全然違う。この虫野朗……
「そんなことはどうでもいい! リッシ湖では何をやっているんだ?」
「伝説のポケモン、アグノムの捕獲をやっております~ワイらはその見張……」
アグノムの捕獲だと!? 俺の知らないところでこんなことが行われてたなんて……
気がつくと、俺の足は既にリッシ湖内へと進んでいた。
「ところで俺たちの出世の話は……」
「HA☆NA☆SE」
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リッシ湖内の水は干上がっており、そこら中でコイキングが跳ねている。
中では大勢のギンガ団員が居て、その中心には青い髪の男、サターンが居た。
「そこで何をしているんだ!?」
「見張りの奴に聞かなかったのか? アグノムの捕獲をしているんだ」
「そうだとしても……なんで湖の水が!?」
「こうした方が楽だからだ、目的の物を手に入れるためなら他の物などどうなっても構わん」
思わず拳を握り締める。いくらなんでも酷すぎる。こんなことは……
「いつまで甘い考えを持っているのだ? 私達はギンガ団の幹部なんだぞ?
何よりも最優先せねばならぬものがあるはずだ!」
何よりも優先させねばならぬもの……ギンガ団の野望、世界を作り変えることだ。
だが……それでも……
「……マーズやジュピターも他の湖で伝説のポケモンを捕獲しに行っている
時期に再び大きな仕事が舞い込んでくる……それを心の中に閉まっておけ」
心臓が一気に凍りつく感覚が襲う。この仕事では間違いなく再びのび太達と戦うことになる。
その時は……くそっ……なぜ俺はこんなに迷ってるんだ。
サターンは俺の視界からは既に消えている。
俺もここから立ち去るか……
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ナギサシティに到着した。ジムに入ろうと思ったら、今日は休業日だった。
仕方ないから、ジムの近くにあったハンバーガーショップに入ることにした。
店の前には、赤い髪のピエロが突っ立っている。よくできているが模型のようだ。
この店は元々シンオウ地方には無かったらしいが、一人の四天王の強い要望で立てられたらしい。
旅の途中でもよく見かけた気がする。
注文したハンバーガーは、五分ほどで俺の手元にやってきた。
結構混んでたな……人気あるのか?味の方はいかほどに………これわっ!
野菜を中心に、肉とソースが絶妙な味わいで舌に絡んでくる。すばらすぃー。
……あ~上手かった。オマケに買ったフライドポテトも中々の味わいだ。
よし、今日はやることも無いし、食料の買い足しは明日やればいいな。
……明日のジム戦に備えて、センターで休むか。
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夕食を終え、俺は月光を浴びながら布団に潜っていた。
今日一日を振り返ることで、リッシ湖での出来事を思い出す。
干上がった湖で空しく跳ねるコイキング、それらには目もくれないギンガ団員、そしてサターンの言葉――
《時期に再び大きな仕事が舞い込んでくる……それを心の中に閉まっておけ》
大きな仕事……それがどんな物になるのかは分からない。
ただ分かるのは、確実にのび太達と争いを繰り広げることになることだ。
ダークライ捕獲作戦でも、俺達のせいでたくさんの人々が傷ついた。俺自身も直接人を傷つけた。
ナタネ、ジャイアン、静香、そしてスネオ――彼は無事なのだろうか?
あれ以来全く姿を見ていない。俺は無事を願いたい。
だが無事だった場合は、再び俺に牙を向くことになるだろう。それならば――
「くそっ……一体どうすればいいんだ!?」
頭が痛くなってくる。俺は……俺は………
……今は休もう、そのうち、いつか答えは出るはずだ。それまでは……
いつの間にか俺は眠っていた。
ナナシ
ルカリオLv49、クロバットLv46、ロトムLv45、
ラグラージLv47、グレイシアLv45
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