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僕のボールから現れたポケモンを見たスネ夫は苦笑する。
「出木杉、お前そんなポケモンで僕に挑む気か?」
僕の一体目、ポリゴンZをスネ夫は嘲笑った。
そんなスネ夫の1匹目は、電気タイプ最強とまで謳われるエレキブルだ。
黄色と黒のツートンカラー、虎を連想させる姿をしたエレキブル。
対してポリゴンZは、まるで壊れた玩具のような・・・とても強そうとは言いがたい風貌をしている。
だれがどう見ても、このポリゴンZの勝ちを連想する人はいないだろう・・・僕を除いては。
「出木杉、お前から来ていいよ。」
スネ夫の余裕の挑発を、僕は受け取ることにした。
「それじゃあ遠慮なく・・・ポリゴンZ、破壊光線!」
僕が勢いよく叫び、エレキブルが破壊光線の餌食になる。
「ふう、いきなり破壊光線とは・・・驚いたじゃないか、出木杉。
じゃあ、今度は僕の番・・・え、そんな馬鹿な!」
スネ夫が驚くのも無理はない・・・エレキブルはすでに倒されているのだから。
「僕から言えば当然の結果だよ、スネ夫君。
もともと特攻がかなり高いポリゴンZ。
それに適応力の特性と拘り眼鏡によって強化された破壊光線だ。
これを受けて立ち上がれるポケモンなんてほんの一握りしかいないよ。」
説明する必要は全くなかったのだが、僕はあえて誇らしげに語ってみせた。
「ふざけやがって・・・行け、ミロカロス、ハイドロポンプだ!」
スネ夫は2番手にミロカロスを出し、早速攻撃を仕掛けてきた。
攻撃の反動で動けないポリゴンZにハイドロポンプが迫る。
だが、それはポリゴンZの横を虚しく通過していった。
今の状況・・・ポリゴンZを倒すには命中率の高い波乗りを選ぶべきだった。
スネ夫は馬鹿にしていたポリゴンZに一撃でポケモンを倒された上に、
僕がポリゴンZがいかに恐ろしいかを語ったせいで、早くこいつを倒さなければ、という焦りが生まれたのだ。
そしてその焦りが彼に、命中率は低いが威力が高いハイドロポンプを使わせたのだ。
次の瞬間、反動が消えたポリゴンZが破壊光線を放った。
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破壊光線は完璧に命中した・・・だがミロカロスはまだ倒れない。
「ミロカロスの耐久力を甘く見られちゃあ困るね。
お前はさっき、この破壊光線に耐えられるポケモンはほんの一握りだけだと言ったな。
ミロカロスはその一握りに含まれるポケモンだったのさ、ハハハハハ!」
今度はスネ夫が自慢する番となった。
そして自慢の的となったミロカロスは波乗りで確実にポリゴンZを仕留めた。
次に僕はサーナイトを出し、10万ボルトでミロカロスを倒した。
ミロカロスの次にスネ夫が出したポケモン、その姿を見た僕の表情が固くなる。
「こいつは、あのハッサム・・・」
そこにいたのは、まぎれもなくジャイアンと静香の2人を殺害したハッサムだった。
元々赤かったその腕は、2人の血によってさらに濃く赤く彩られている。
そんな姿を見ても、僕がハッサムにうろたえることはなかった。
こんな状況でも僕は恐ろしいほどの集中力を保っている・・・これも修行のおかげだろうか。
「サーナイト、催眠術だ。」
ハッサムを眠らされたスネ夫は思わず舌打ちをする。
おそらく、スネ夫の狙いは剣の舞や高速移動を積んでからのバトンタッチだ。
ならば取る手は一つ、ハッサムに積み技を使わせないことだ。
逆にこちらは、ハッサムが寝ている間に瞑想で確実に能力を上げている。
「よし、やっと起きた、ハッサム、高速移動だ!」
目覚めたハッサムはやっと一回積むことに成功したが、次のターンには再び眠らされてしまった。
「そろそろ行くか。サーナイト、気合球!」
瞑想を3回積んだ僕は気合球を命じる。
ハッサムの体力は残り3分の1ほどまで減る、積んだ成果があった。
だがこのターン、ハッサムが起きて2度目の行動機会を得た。
そしてスネ夫が選んだ選択肢は、バトンタッチだった。
どうやらこれ以上積むのは諦めたようだ。
「出木杉、ビビッて逃げ出したりするなよ。」
スネ夫がニヤニヤしながら出したポケモンはバンギラスだった。
岩のようなその巨体に僕は圧倒された。
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突然あたりに砂嵐が吹き始めた、バンギラスの特性“砂起こし”によるものだ。
相手はおそらくこれまで戦ってきた中でもっとも強いポケモンだろう。
だが、バンギラスは格闘が4倍という弱点がある。
瞑想を積んだ今のサーナイトの気合球なら、一撃で倒せるはずだ。
「それはどうかな? バンギラス、噛み砕くだ!」
スネ夫は僕の考えを見透かしたかのように嘲笑い、バンギラスに命令した。
そして次の瞬間、僕は目を疑った。
バンギラスがサーナイトをスピードで上回り、気合球を使われる前に倒したのだ。
「高速移動がバトンタッチで受け継がれていたことを忘れたのか、馬鹿め!」
スネ夫に言われて初めて気付いた・・・バンギラスの姿に圧倒されてすっかり忘れてしまっていたのだ。
出来ればもうちょっと後まで残しておきたかったが、ここはこいつを使うしかないか・・・
僕は決意を固め、切り札ボーマンダを繰り出した。
ダメージ4倍の瓦割りが一撃でバンギラスを葬った・・・はずだった。
だがバンギラスはまだ立っていた、その手には気合の襷が握られている。
「ハハハ、惜しかったな! バンギラス、ストーンエッジでボーマンダを葬り去れ!」
無数の岩に襲われて大ダメージを受けるボーマンダ。
だがボーマンダは持ちこたえ、次の瓦割りでバンギラスを仕留めた。
「そんな、あれをくらって立ち上がるだなんて・・・」
「こちらも気合の襷を持たせていたのさ、僕のほうが一枚上手だったようだね。」
僕がしてやったりという笑みを浮かべると、スネ夫はバンギラスに向かって悪態をつきはじめた。
「クソッ、使えない奴! お前を育てるのにどれだけ苦労したと思っているんだよ!」
倒れて動けない、それどころか意識すらないバンギラスの体を蹴り上げるスネ夫。
その姿に、かつて現実世界でクラスメイトだったころの彼の面影はなかった。
「そういえば、そもそも何故君は友人を手にかけてまで世界征服をしようと思ったんだい?
所詮ここはゲームの中の作り物の世界・・・
ここで支配者になったとしても、現実世界に戻れば無力な小学生なんだよ。」
僕の言葉を聞いたスネ夫は、この言葉から話を始めた。
「出木杉、お前には絶対に分からないだろうな・・・」
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スネ夫は冷静に話を続けた。
「僕は勉強も、スポーツも、喧嘩も、何をしても中途半端な人間だった。
何か特別に誇れるようなものはなかった・・そう、お前とは正反対の人間なんだ。
僕が名声を得るには、周りの人間とうまく付き合って、その人間の恩恵をもらうしかないんだ。
だから僕はジャイアンに取り入った、学校一強い彼の傍にいれば、力がなくとも自然№2になることができる。
でもそんな僕に返ってきたのは欲していた名声とは正反対のものだったよ。
“骨皮スネ夫はずる賢い”“他人を利用しなければ生きていけない卑怯者”
僕ができる唯一の生き方は、他人からは卑怯者と侮辱されたんだ・・・」
「そんな、少なくとも僕はそう思ったことはないよ。」
「じゃあお前は僕が居合い切りの秘伝マシンを手に入れたとき、僕を馬鹿にしなかったのか?
あの時の僕の手持ちはサイホーンと相性が悪すぎた、とても戦える状況じゃなかったんだ。
だから僕はジャイアンに月の石との交換を要求した、それをお前たちは卑怯と言った!
何もせずに秘伝マシンを貰ったドラえもんには何も言わなかったのに、だ!」
僕は言い返すことができなかった、あの時彼を心の中で侮辱したのは事実なのだから。
今思えば、彼はあの時ああするしか方法がなかったのかもしれなかったのに・・・
「スネ夫君・・・認めるよ、僕が君を馬鹿にしたことを。
たしかに僕は間違っていた、だがそれは君も同じだ・・・他人を利用する生き方なんておかしいよ!
それに、さっきも言ったけどここはゲームの世界なんだ、現実世界じゃないんだよ!」
僕の言葉を聞いたスネ夫は狂ったように笑い出した。
「出木杉、僕だってこの世界の支配者になって満足しているほど馬鹿じゃないよ。
ところで知ってるか? このゲームで願いを叶える方法はチャンピオンになること以外にもあるんだ。」
なんだって? チャンピオンになる以外に願いを叶える方法・・・初めて聞く情報だ。
「それはなあ、“自分以外の参加者を全員消すこと”だよ。
僕はバトルに負けたお前を殺して、この世界と現実世界を一つにするんだ。
そうすれば、僕は現実世界の支配者にもなれる・・・
そして、今まで僕を馬鹿にしてきた全ての人間を僕に服従させるんだ!」
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スネ夫の真の目的は、現実世界の支配・・・
もしこの勝負に僕が負けてしまったら、先生や友人、家族までもがスネ夫にひれ伏すことになる。
そうと分かればこの勝負、ますます負けるわけには行かなくなった。
しかしそう思った矢先、残り体力が1だったボーマンダはハッサムにやられてしまった。
それにしても、スネ夫は何故こんな事をしたのだろうか。
たしかに彼は劣等感を抱いていたのかもしれない、自分の生き方を否定され、苦しんでいたのかもしれない。
でも・・・現実世界でいた頃の彼は、それでも仲間と笑いあっていた。
あの笑顔が偽りだなんて、僕にはとても考えられない。
彼にもう一度、以前のように笑って欲しい・・・それは不可能なのだろうか?
いや、一つだけ可能性が残されている、こいうつなら、こいつならきっと・・・
僕は希望をこめてモンスターボールからサンダースを放つ。
サンダースは10万ボルトでハッサムを倒した、その姿を見て僕は言う。
「君はこの世界に来てから、このサンダースを大事に育てていた。
10万ボルトやシャドーボールといった技マシンまで使って、だ。
もう一度戻れないのかい、このサンダースを育てていたあの頃の君に・・・」
僕の言葉にスネ夫はこう答えた。
「その、サンダース・・・お前が捕まえていたのか。
そいつ、目障りだったんだよ・・・僕が逃がしてもしつこくついてきやがった・・・だから、消してやるよ。」
スネ夫は予想外の言葉を発し、ボールからガブリアスを繰り出した。
のび太を消しさったあの破壊光線を、サンダースにも放とうというのだろうか?
「まずい! サンダース、シャドーボールで倒せ!」
ガブリアスがシャドーボール一発で倒れるわけがないのに、僕はこう叫んでいた。
だがシャドーボールはガブリアスに当たることすらなかった。
砂嵐によって特性“砂隠れ”が発動しているのだ、バンギラスを出したのも作戦のうちだったのだろう。
それを見抜けなかった自分を責めていると、いつのまにかガブリアスが破壊光線の準備をしていた。
「やめろ、やめてくれー!」
僕の叫びも虚しく、破壊光線はサンダース目掛けて放たれた。
激しい衝撃が起こった後、サンダースの姿はもうそこにはなかった。
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大切にしていたサンダースを消そうとスネ夫は考えた。
もう彼を元に戻す手段は残されていない・・・なら、倒すしかない。
僕は決意を固め、トドゼルガを繰り出した。
「くそ、氷タイプのポケモンか・・・」
スネ夫がうろたえたのも無理はない、氷タイプはガブリアスの最大の弱点なのだから。
早速、トドゼルガは破壊光線の反動で動けないガブリアスに冷凍ビームを撃つ。
だが、今度も砂隠れの影響で外れてしまった。
でもこの状況が何度も続くとは考えられない、次のターンこそガブリアスを仕留めれるはず。
そんな僕の願いをスネ夫の次の一言が打ち消した。
「ガブリアス、影分身だ。」
スネ夫は回避率をさらに上げ、冷凍ビームを完全に当てさせない手にでた。
この調子だと冷凍ビームを当てる前に倒されてしまう。
それに、もしトドゼルガが倒されたとすれば、次はリザードンで回避率が上昇したガブリアスと戦うことになる。
そうなれば、もう僕の勝機はほぼゼロと言っていいだろう。
どうすればいいんだ・・・と落胆して俯く僕の耳に何者かの叫びが聞こえてくる。
「諦めるな、出木杉!」
その声を聞いた僕は慌てて顔を上げる。
砂嵐に囲まれている今の状況では周りが見えない、でも確かにあれはイブキの声だった。
向こうからもこちらは見えないはず・・・イブキは僕のピンチを本能的に察したとでも言うのだろうか。
ありえない事でもないな、あの人なら・・・そう思いながら苦笑する。
そうだ! 最後まで諦めてはいけない・・・そう思うと頭が冴えてくる、戦略が思い浮かぶ。
「トドゼルガ、アンコールだ。」
その言葉を聞いたスネ夫は慌てだす、アンコールを受けたポケモンは同じ技を繰り返すのだ。
つまり、ガブリアスはずっと影分身をし続ける、その間に冷凍ビームを打ち続ければいつかは当たるはずだ。
そして2発目の冷凍ビームが命中し、ガブリアスは倒れた。
これで敵は残り一体、こちらは2体・・・この勝負貰った。
だが、スネ夫の次のポケモンは僕の希望を再び打ち砕いた。
紫と白の2色に彩られたそのポケモンの名はミュウツー、最強のポケモンとまで呼ばれている・・・
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最強のポケモンミュウツー、その圧倒的なオーラが僕を威圧する。
「な、何故君がミュウツーを・・・」
うろたえながら聞く僕を見て、スネ夫は満足気に答える。
「忘れたのかい、ドラえもんだった僕が修行場所に選んだのが“ハナダの洞窟”だったことを・・・」
ハナダの洞窟・・・ミュウツーの生息場所として知られる場所だ。
つまりスネ夫はあの時、修行ではなくミュウツーを捕まえるためにハナダの洞窟へ言ったのだ。
そして彼は見事にミュウツーを捕獲し、手持ちに加えたというわけだ。
「じゃあ早速ミュウツーの力を見せてあげるよ・・・10万ボルトだ!」
ミュウツーの10万ボルトは、一撃でトドゼルガを瀕死状態にしてしまった。
いくら効果抜群とはいえ、体力満タンのトドゼルガを一撃で倒すなんて。
僕にこんなポケモンを倒すことができるのだろうか・・・
圧倒的な力を目の前にして苦しむ僕、その脳裏に先程のイブキの言葉が過ぎる。
『諦めるな!』
そうだ、諦めてはいけない・・・最後の最後まで。
僕は最も見慣れたモンスターボールを硬く握り締め、フィールドへ放つ。
「頼んだよ、リザードン!」
旅立ちからずっと行動を共にしたパートナー、リザードンにすべてを全てを託すことにした。
「さっきのトドゼルガと同じ目にあわせてやる、10万ボルトだ!」
攻撃は見事に命中した、だがリザードンは生き残った。
僕は勝ち誇った顔で言う。
「堪えるで攻撃に耐え、カムラの実でスピードを上げた・・・これで先手をとれる。
そして猛火で威力が上がったオーバーヒートで、ミュウツーを倒す!」
業火に包まれるミュウツーを見ながら僕は祈る、『頼む、倒れてくれ』と。
だが炎が消えると、そこにはオーバーヒートに耐え抜いたミュウツーの姿があった。
「僕の勝ちだ! ミュウツー、10万ボルト!」
2度目の10万ボルトをくらったリザードンは、ついに倒れてしまった。
スネ夫の勝ち誇った高笑いが、部屋中に響き渡った。
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「惜しかったな出木杉、もう少しで勝てたのに・・・
まあそう落ち込むなよ、すぐに楽にしてやるから・・・」
スネ夫が笑いながらこちらへ向かってくる。
「出木杉・・・最後に一言、何か言わせてやるよ。」
スネ夫がまさに悪役、といった感じで僕に行ってきた。
僕は答えた。
「―――まだ、このバトルは終わっていないよ。」
スネ夫は一瞬焦ったが、すぐに気を持ち直して笑い出した。
「何言ってるんだよ、もうお前の手持ちポケモンは全部倒れたじゃないか。
死を目の前にして、気が触れたのか?」
そんな彼を嘲笑うかのように僕は答えた。
「僕の気が触れた、そういうわけじゃないんだよ・・・今から、それを証明してあげよう。」
僕は一つのモンスターボールを取り出し、フィールドに投げる。
中から現れたポケモンを見て、スネ夫は腰を抜かしている。
「そんな馬鹿な・・・なんでこいつがここに?」
中から現れたのは、ガブリアスに殺されたと思われていたポケモン、サンダースだった。
「あの時、破壊光線はサンダースには当たらなかったんだ。
サンダースに、“光の粉”を持たせていたからね。
そしてその後、バトンタッチでボールに戻した・・・君は殺されたと勘違いしたみたいだけどね。」
「嘘だ、こんなのありえない・・・僕は認めないぞおおお!」
必死に叫ぶスネ夫を気にせず、僕はゆっくりと右手を突き上げる。
そして、振り下ろすと同時に高らかに宣言した。
「サンダース、シャドーボール!」
サンダースが放った黒い球体が、ミュウツーの体を貫いた。
砂嵐が消え、目を丸くしてこちらを見ているカツラ、カンナ、イブキと目が合った。
目の前に膝をついてうな垂れるスネ夫の姿が見えた。
それらを見た僕は初めて気付いた、『自分は勝ったのだ』と。
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勝利の喜びに浸る僕とは対照的に、正面にいるスネ夫はまさに悲しみのどん底といった姿をしている。
「僕が負けた? ありえない、ありえない、ありえない!」
そんな彼に近寄るものがいた、かつては彼の手持ちポケモンだったサンダースだ。
サンダースが自身の顔でスネ夫に頬ずりをする、しかしスネ夫は全く動じない。
どうやら今の彼には、サンダースを振り払う気力もないようだ。
そんな彼に、僕は優しく告げた。
「スネ夫君。君は苦しみに耐えられなくなって、こんなことをした。
でも何かに悩み、苦しんでいるのは君だけじゃない。
剛田君も、静香ちゃんものび太君も、そして僕だって悩みがある。
でも皆その苦しみに耐え、勝ち抜いてきた! なのに君はそれに負けてしまった・・・」
そう、僕にだって悩みがある・・・
僕は天才と呼ばれ、常に他人の期待に答え続けなければならなかった。
だれも僕の苦しみを理解してくれない、そのことで何度も悩んできたのだ。
でも僕はそれらに耐え抜いてきた、だからスネ夫が許せなかったのだ。
「出木杉、お前の言うことは正しいよ・・・
そうだよな、悩んでるのは僕だけじゃないんだ。
なのに僕はそんな事にも気付かず、自分の悩みに負けてついには仲間を殺してしまった。
僕はこんな人間だから、だれからも好かれなかったんだろうな・・・」
「それは違うよ。」
顔を俯けたまま話すスネ夫に向かって僕は言い放った。
「思い出してごらん・・・君がこの世界で死んだとき、みんな君を生き返らせるために戦ったんだ!
それにそのサンダースだってそうだ。
光の粉があるからといって、回避率が格段に上がるわけじゃない。
僕はこう思うんだ、君を救いたいというサンダースの思いが、破壊光線を避けさせたんじゃないかってね。」
僕の話を聞いたスネ夫は顔を上げ、涙を流し始めた。
「みんなが、みんなが僕のことを友だちだと思ってくれていた・・・卑怯者といわれたこの僕を。
それなのに、僕は何てことを・・・うわああああああ!」
彼の悲痛な叫びは、しばらくこの部屋中に響き渡っていた。
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あれからしばらくの時間が経った、スネ夫はようやく落ち着きを取り戻している。
目を赤くした彼は、僕に向かってこう言った。
「出木杉、やっと覚悟が決まったよ。」
???
スネ夫の言っていることがよく理解できない、一体彼は何の覚悟を決めたというのだろうか。
困惑する僕をよそに、スネ夫はサンダースの顔を撫でながら言った。
「サンダース、僕にミサイル針を打つんだ。」
一瞬頭が混乱したが、すぐにスネ夫の言っていることがわかった。
彼は、自らの命を絶とうとしているのだ。
そんな命令を下されたサンダースもまた、困惑した表情を浮かべている。
「さあ、早くするんだサンダース!」
スネ夫の叫びを聞き、かれの決意の強さを読み取ったサンダースはミサイル針を放った。
この一瞬の出来事を、僕は止めることが出来なかった。
目の前にいるスネ夫の体からは大量の血が流れている。
その痛みに耐えながら、スネ夫は必死に声を絞り出していった。
「出木杉・・・お前に会えて、よかっ・・・た・・・・・・」
スネ夫は笑っていた。
涙と鼻水にまみれたグシャグシャの顔だった・・・
でも、それは今まで僕が見た彼のどんな笑顔よりも美しかった。
「どうして、どうしてこんなことをするんだよ、何で死ぬ必要があるんだよ!
ねえ、答えてよスネ夫君。答えてよおおお!」
僕はもう動かなくなった彼の肩を何度も揺さぶりながら叫んでいた。
僕の叫びもまた、この部屋中に響き渡っていたことだろう。
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スネ夫の死体から手を離し、愕然とその場に座り込む僕。
そんな僕の耳に、とつぜん聞いたことのない声が聞こえてきた。
「プレイヤーが1人になったため、あなたの優勝が決定しました。
願いを一つ、言ってください。」
その声は僕の腕に巻かれたポケッチから発せられていた。
これを聞いて、スネ夫の言っていたことを思い出した。
『プレイヤーがみんな消えれば、残ったものが優勝者になれる。』
そう、このゲームに参加したプレイヤーは僕以外皆死んでしまった。
つまり、僕が優勝したことになるのだ。
「皆を、この世界に来た他のプレイヤーたちを生き返らせてくれ!」
無我夢中で叫ぶ僕に、ポケッチは残酷な答えを出した。
「複数の人物を対象にすることはできません。
一度の願いで蘇らすことができるのは1人のみです。」
生き返らすことができるのは、1人だけ・・・
それはあまりにも残酷な言葉だった。
仲間たちの中から1人だけを選ぶ・・・そんなこと、僕にはできない。
ふと、今朝見た夢を思い出した。
僕たちが楽しく空き地で遊んでいた夢だ。
ふたたびあの夢のように笑いあうことができたら、どんなにいいだろうか・・・
もう一度あの日々に戻りたい、幸せだったあの日々に。
そう考えているとふと、ある考えが僕の頭を過ぎった・・・
僕の顔に躊躇いはない、早速考えていたことをポケッチに告げた。
「僕の願い、それは・・・」
願いを告げた僕は光に包まれ、ポケモン世界から姿を消した。
----
―――そして
「出木杉さん、今日は何して遊ぶ?」
静香の声が聞こえる・・・当たり前だ、僕は今彼女の部屋にいるのだから。
今度はチャイムの音が聞こえてくる、それを聞いた静香は慌てて玄関へ向かう。
数分後、静香が部屋に戻ってきた。
静香は、先程の来客はのび太で、僕たちを空き地へ呼び出したことを告げた。
空き地へ向かう途中、僕は少し前のことを思い出す。
あの時、僕が告げた願いは
『自分をポケモン世界に来る一日前に戻すこと』だった。
そしてその日に戻って来た僕は、真っ直ぐに自分の家へと向かった。
家の中にいた出木杉英才は驚いただろう、自分と同じ人物が目の前に現れたのだから。
僕は本物の僕に、ポケモン世界での冒険の話を全て打ち明けた。
それを聞いた彼は、僕が帰ってくるまでだれとも会わないようにする事を誓ってくれた。
とても大変なことだが、彼はきっと裏切ったりはしないだろう。
何と言っても、僕の思いを誰よりも分かってくれる人物なのだから。
そして僕は、彼のかわりに静香の家へ向かい、今空き地へ向かっている。
空き地には既にドラえもん、ジャイアン、スネ夫、のび太の姿があった。
早速ドラえもんがポケットから機械を取り出し、今からポケモン世界へ行くことを決めた。
みんなが驚く、僕も驚いたフリをする。
そしていろいろ話し合った結果、行き先は未来のカントー地方に決まった。
ドラえもんが機械を起動し、そこから放たれた眩い光が僕の目を閉じさせる。
何も見えない暗闇の中で僕は決意を固める。
『今度こそ、6人全員で笑いながら帰ってみせる』と。
そして目を開けると、そこには一度見たマサラタウンの姿があった。
これから皆の冒険、そして僕の2度目の冒険が始まる。
また、新たな「出木杉の未来大冒険」が動き始めるのだ・・・・・・
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947 名前:出木杉の未来大冒険 ◆dqVzDvT5pM [sage] 投稿日:2007/06/06(水) 19:27:23 ID:???
これで、出木杉の未来大冒険は完結です。
書き始める前は「金銀物語の倍くらいの大長編にしよう」と思っていたのに、
終わってみれば、以前とほとんど投下回数が変わらなかったことに驚いています。
(変わったことといえば、投下速度が遅くなったことくらいでしょうか)
おそらく聞かれると思うので、一応次回作について話をしておきたいと思います。
以前にも言いましたが、構想は既に考えてあります。
ただまだそれを文章にするかは未定です。
これも以前書きましたが、受験生なのでこれから忙しくなるからです。
でも、「書きたい」という思いはあります。
もしまた新たな作品を書くことになった時は、その時もよろしくお願いします。
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