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[[前へ>ポケモンとのび太とノートと その15]] 「ズズズーーーーーーン!!!!」 凄まじい爆発音が鳴り響き、ラジオ塔が崩壊してゆく。 その衝撃や惨状はコガネゲート前にいた人々や、今だクモの巣をかきわけているスネ夫にも容易に観測出来た。 ある人々は驚き、またある人は余りに衝撃的な光景に目を疑う。 しかし、ここに一人例外がいた。 しとしと降る雨にうたれながらも、その顔は狂喜で歪んでいる。 のび太「計画通り………。 そして、時間通り……正確だ。」 のび太は時計を見ながら微笑みを浮かべた。 「計画通り」「時間通り」「正確だ」 この三つは何を意味しているのだろう。 それはこれから順を追って説明せねばならない事になる。 と、いう訳で時間を少しばかり巻き戻してみよう。 ---- 時はドラえもんがラジオ塔に侵入した時、すなわち、コウがのび太に騙し討ちをしようとした時間まで遡る。 コウを追い詰めたのび太。 一方コウはのび太に不意打ちを食わせようと、クロバットとエアームドをのび太の背後に忍ばせていた。 雨のせいか、後ろの二匹に全く気づかないのび太は言う。 のび太「安心しろ。死ぬ運命は避けられないが、苦しくはない。 大人しくしてろよ……。」 コウ『言っとけ………。 あと2m………。』 鼻血を出し、地面に叩きつけられ惨めな姿になっても、コウは今だ最後の望みに全てを賭けている。 のび太に迫る二つの影。 まだ気づかれてはいない。 コウ「後少し……もう少し……。」 そして二匹は、完全にのび太への射程距離内に侵入することに成功した。 完璧に気配を殺し、エアームドがその鋭い刃の羽を振り上げる。 コウ『今だッ!!!殺せぇぇッ!!!』 鋼の翼がのび太の勁動脈に襲いかかる。 のび太「!!!!!」 ---- 人間の神経系を駆け巡るインパルスの中でも、最速のものは18m/sの速さを記録するらしい。 それが速いと思うか、遅いと思うかはここでは置いておこう。 ともかく、のび太への攻撃は通常、上で挙げた常人の反射の速さでは到底防げるものではなかった。 しかし、エアームドからの斬撃はのび太の首を少しかすめただけで、完璧にかわされたのである。 コウ「ば………バカな……タイミングは完璧だったのに……。 よ、避けられる訳が……。」 最後の策も尽き、コウはうめく様に言う。 のび太「ハア……ハア……ハア……。 野郎……死ぬとこだったじゃねえか……。」 のび太はそう言いながら自分の首筋を触る。 指には微かに血が滲んでいた。 のび太「血……。このオレが血を……。 ………このクソ鳥共がぁああああ!!!!」 のび太は逆上し、それに合わせるかの様に、ゲンガーがエアームドとクロバットにシャドーボールを雨霰の如く浴びせる。 二羽が完全に動かなくなった後もそれはしばらく続き、一分後、シャドーボールのPPが切れてやっとそれは中断される。 二体のその姿は、目もあてられない様なものになっていた。 それを見たのび太は、満足そうに指についた血をしゃぶり、荒い息を整え始める。 一通り感情も爆発し終えて、気分も落ち着いてきたようだ。 ---- のび太「ふぅ……。危なかった。 雨で音は消えていたし、気配は完全に消されていた……。 下手したら、マジで死んでたかもしんねえ……。」 のび太は言い、またコウヘ一歩踏み出す。 その顔に不気味な笑みを浮かべながら。 コウ「ヒイイイイイ!!!! なっ、なっなっ、何故ぇぇッ!」 コウは怯えながらも騙し討ち失敗の原因を聞こうとする。 発狂寸前。口からはだらしなく涎が垂れている。 のび太「ん?何故俺がお前の不意打ちに気づいたか知りたいのか? いいだろ。教えてやる。」 のび太はコウの、言葉にならない言葉を汲み取り言った。 のび太「お前の体には俺の背後を映し出す物が一つだけあった。 そして俺はそれで偶然気づいた。それだけだ。」 コウ『じっ、自分の、かっ、体?そっ、そんなものは………。』 コウは半狂乱の頭で考える。 映し出す……。鏡……。光? まさか! コウは反射的にその部位を押さえた。 ---- のび太「そう!!正解だ!お前の瞳にあの鳥が映っていたんだよ!」 のび太はそう言い、コウの頭を掴む。 のび太「これから言う質問に答えたら、無事に逃がしてやる。 お前の手持ちポケモンを全て言え。 ええと、なになに………。」 のび太はコウのポケモン達を黒い冊子のノートに書き込んでゆく。 一通り書き終えた所で次の質問に入った。 のび太「お前のコウという名前は本名(フルネーム)か?」 コウは無言で頷く。 のび太「そうか……。」 のび太は冊子に次々と何かを書き込んでゆく。 そして二分後。 「パタン!」 のび太は何かを書き終え、冊子を閉じて言った。 のび太「お疲れさん。 これは餞別だ。親が変わるから進化するかもな。 まあとにかく頑張れよ。」 のび太はコウにモンスターボールを渡し肩を叩く。 モンスターボールの中身は誰にも知らせていないアイツだ。 ---- コウは突然の恐怖からの解放され、渡されたモンスターボールを手にポカーンとしている。 のび太「早く行けってんだよカスが!!!」 のび太はコウの尻に蹴りをかました。 その勢いで彼の体は一回転し、水溜まりに叩きつけられる。 コウ「うわあああああああ!!!」 水溜まりの水を撒き散らし、恐怖の叫びをあげながら、コウの姿は雨の中へと消えてしまった。 降り頻る雨の中、残されたのび太は一人呟く。 のび太「よし、これが上手くいけば、脱出にかなり有利になれる………。 デキスギとかいう奴らも出し抜けるぞ!」 のび太は再びノートを開き、そこに細部を書き込み始めた。 その内容は以下の通り。 名前【コウ】 死因【爆死】 手持ち【クロバット・エアームド・リザードン・オニドリル・ゴローニャ】 死の前の状況【コガネシティのラジオ塔に向かうが、途中で体の汚れが気になり、近くの無人の民家で体を洗い服を着替える。 その後再びラジオ塔へ向かい、首領を倒そうとするも他人から貰ったゴローニャが言うことを聞かず、200X年 X月X日 午後4時44分、自らのポケモンの爆発に巻き込まれ死亡】 のび太は満足そうな表情をし、ノートを閉じた。 のび太は自らの勝利を揺るぎない物と確信していた。 ---- それからの展開は早かった。 ドラえもんとトシミツは通り抜けフープにより、間一髪爆死の危機を免れ「ドンブラ粉」を使い地面への衝撃も防ぐことが出来た。 その後、トシミツは破壊されたラジオ塔を見て、抵抗する事を断念。 数分後、ラジオ塔に駆け付けたコガネのトレーナー達に自ら身柄を引き渡した。 ドラえもん達もスネ夫、のび太、そして生存が確認されたジャイアンと合流することに成功し、ジャイアンの無事を一人を除いて心から喜んだ。 ちなみにその時、幹部のカホウ、キキョウは身柄が拘束され、後にラジオ塔の三階からコウの物と見られる爆死体が発見された。 コガネの住民はすぐにでも我が家に帰りたいという意思を示したが、雨の為の事故、大人数の移動による大混乱を引き起こす可能性があり、それは却下。 次の日から少しずつ移動することに取り決められた。 色々とあってあっけない幕切れの様だが、今回の事件は一応の解決を見る事になる。 しかしある人物達の戦いは、まだ終わってはいなかった。 ---- ジャイアン「ブハァ!うめえ!」 ジャイアンはペットボトル一杯のサイコソーダを一気に飲み干す。 現在はラジオ塔の事件解決の宴の真っ只中。 家に帰れない住民達が、せっかくだからと良心で取り繕ってくれたのだ。 ジャイアンは山の様に積まれた料理を鬼の如く食い荒し、一方スネ夫は今回の事件でのエピソードを、色々と肉をつけて住民達に話し、いい気分に浸っていた。 ドラえもんに至ってはまさに「溺れる様に」、どら焼きを貪り続けている。 皆楽しそうだ。 しかし、全員がそうであった訳ではない。 「そいつ」の中では、まだ事件は終わってはいなかった。 アカネ「なんや、あんまり楽しそうやないなあ?」 アカネは「そいつ」に近づき、顔を覗き込む。 アカネは「そいつ」の席の隣に座った。 アカネ「なんか、まだ難しそうな顔してんなあ。 事件は終わったっちゅーのに。 まだなんかあるんか?のび太。」 アカネはのび太に訊く。 のび太はコップの飲み物で少し喉をうるわすと静かに言った。 のび太「例の物は……。例の物は用意したかい……?」 ---- のび太に言われ、アカネはポンと手を叩く。 アカネ「ああ、アンタの言っとった「アレ」か。 一応用意しといたで。」 アカネは胸ポケットから小さなディスクを取り出す。 のび太「ありがとう。」 のび太はそれを受け取り、一礼した。 アカネ「でもなあ、アンタそれ、何に使うん?」 アカネは好奇心からか聞いてくる。 のび太はそれを軽く受け流した。 のび太「これから一番大切な事……さ。」 のび太はアカネに見えない角度で薄気味の悪い笑みを浮かべる。 ラジオ塔の爆破も、ディスクを手に入れた事も、ジャイアン達を始めその他のトレーナー達が自分の言うことを守ってくれたのも、全て自分の策通り。 あとは仕上げだけ。 いうなれば画竜点睛。 竜の絵に瞳を入れるのは自分! のび太はそう確信していた。 ドラえもん「ウップ、ウップ。食べ過ぎた……。」 すると、そこに腹に大量のどら焼きを抱えた奇妙生物が二人の目の前を通り過ぎようとした。 アカネ「ああ、ちょっとそこの青狸君、待ちいや。」 ドラえもん「僕は狸じゃない!」 アカネはドラえもんを呼び止めた。 ---- アカネはドラえもんに言う。 アカネ「アンタ、誰か忘れたけど呼ばれよったで。 向こうのテントで待ってるやて。」 テント?ドラえもんは頭を捻る。 これから誰かを呼ぶつもりだが、誰かに呼ばれるような記憶は無い。 ドラえもんが必死に大きな頭を抱えていると、彼が探していた少年が視界に飛込んできた。 のび太はドラえもんに気づいてか気づかずか、しらんぷりをしている。 ドラえもんはそれに近づく。 のび太の計画では今日は何も起らないハズだった。 しかし耳元で囁かれたドラえもんの言葉は、のび太の計画そのものに危険をきたすものであった。 ドラえもん「僕の用事が終わったら、君と二人っきりで話がしたい。 場所は作戦会議用のテント。時間は20分後。 遅れないようにね。」 のび太『何ッ!?』 ドラえもんはそう言い、その場所を離れてゆく。 のび太「…………あいつ……。」 残されたのび太は、ただ呆然とその後姿を見送る事しかできなかった。 ----
[[前へ>ポケモンとのび太とノートと その15]] 「ズズズーーーーーーン!!!!」 凄まじい爆発音が鳴り響き、ラジオ塔が崩壊してゆく。 その衝撃や惨状はコガネゲート前にいた人々や、今だクモの巣をかきわけているスネ夫にも容易に観測出来た。 ある人々は驚き、またある人は余りに衝撃的な光景に目を疑う。 しかし、ここに一人例外がいた。 しとしと降る雨にうたれながらも、その顔は狂喜で歪んでいる。 のび太「計画通り………。 そして、時間通り……正確だ。」 のび太は時計を見ながら微笑みを浮かべた。 「計画通り」「時間通り」「正確だ」 この三つは何を意味しているのだろう。 それはこれから順を追って説明せねばならない事になる。 と、いう訳で時間を少しばかり巻き戻してみよう。 ---- 時はドラえもんがラジオ塔に侵入した時、すなわち、コウがのび太に騙し討ちをしようとした時間まで遡る。 コウを追い詰めたのび太。 一方コウはのび太に不意打ちを食わせようと、クロバットとエアームドをのび太の背後に忍ばせていた。 雨のせいか、後ろの二匹に全く気づかないのび太は言う。 のび太「安心しろ。死ぬ運命は避けられないが、苦しくはない。 大人しくしてろよ……。」 コウ『言っとけ………。 あと2m………。』 鼻血を出し、地面に叩きつけられ惨めな姿になっても、コウは今だ最後の望みに全てを賭けている。 のび太に迫る二つの影。 まだ気づかれてはいない。 コウ「後少し……もう少し……。」 そして二匹は、完全にのび太への射程距離内に侵入することに成功した。 完璧に気配を殺し、エアームドがその鋭い刃の羽を振り上げる。 コウ『今だッ!!!殺せぇぇッ!!!』 鋼の翼がのび太の勁動脈に襲いかかる。 のび太「!!!!!」 ---- 人間の神経系を駆け巡るインパルスの中でも、最速のものは18m/sの速さを記録するらしい。 それが速いと思うか、遅いと思うかはここでは置いておこう。 ともかく、のび太への攻撃は通常、上で挙げた常人の反射の速さでは到底防げるものではなかった。 しかし、エアームドからの斬撃はのび太の首を少しかすめただけで、完璧にかわされたのである。 コウ「ば………バカな……タイミングは完璧だったのに……。 よ、避けられる訳が……。」 最後の策も尽き、コウはうめく様に言う。 のび太「ハア……ハア……ハア……。 野郎……死ぬとこだったじゃねえか……。」 のび太はそう言いながら自分の首筋を触る。 指には微かに血が滲んでいた。 のび太「血……。このオレが血を……。 ………このクソ鳥共がぁああああ!!!!」 のび太は逆上し、それに合わせるかの様に、ゲンガーがエアームドとクロバットにシャドーボールを雨霰の如く浴びせる。 二羽が完全に動かなくなった後もそれはしばらく続き、一分後、シャドーボールのPPが切れてやっとそれは中断される。 二体のその姿は、目もあてられない様なものになっていた。 それを見たのび太は、満足そうに指についた血をしゃぶり、荒い息を整え始める。 一通り感情も爆発し終えて、気分も落ち着いてきたようだ。 ---- のび太「ふぅ……。危なかった。 雨で音は消えていたし、気配は完全に消されていた……。 下手したら、マジで死んでたかもしんねえ……。」 のび太は言い、またコウヘ一歩踏み出す。 その顔に不気味な笑みを浮かべながら。 コウ「ヒイイイイイ!!!! なっ、なっなっ、何故ぇぇッ!」 コウは怯えながらも騙し討ち失敗の原因を聞こうとする。 発狂寸前。口からはだらしなく涎が垂れている。 のび太「ん?何故俺がお前の不意打ちに気づいたか知りたいのか? いいだろ。教えてやる。」 のび太はコウの、言葉にならない言葉を汲み取り言った。 のび太「お前の体には俺の背後を映し出す物が一つだけあった。 そして俺はそれで偶然気づいた。それだけだ。」 コウ『じっ、自分の、かっ、体?そっ、そんなものは………。』 コウは半狂乱の頭で考える。 映し出す……。鏡……。光? まさか! コウは反射的にその部位を押さえた。 ---- のび太「そう!!正解だ!お前の瞳にあの鳥が映っていたんだよ!」 のび太はそう言い、コウの頭を掴む。 のび太「これから言う質問に答えたら、無事に逃がしてやる。 お前の手持ちポケモンを全て言え。 ええと、なになに………。」 のび太はコウのポケモン達を黒い冊子のノートに書き込んでゆく。 一通り書き終えた所で次の質問に入った。 のび太「お前のコウという名前は本名(フルネーム)か?」 コウは無言で頷く。 のび太「そうか……。」 のび太は冊子に次々と何かを書き込んでゆく。 そして二分後。 「パタン!」 のび太は何かを書き終え、冊子を閉じて言った。 のび太「お疲れさん。 これは餞別だ。親が変わるから進化するかもな。 まあとにかく頑張れよ。」 のび太はコウにモンスターボールを渡し肩を叩く。 モンスターボールの中身は誰にも知らせていないアイツだ。 ---- コウは突然の恐怖からの解放され、渡されたモンスターボールを手にポカーンとしている。 のび太「早く行けってんだよカスが!!!」 のび太はコウの尻に蹴りをかました。 その勢いで彼の体は一回転し、水溜まりに叩きつけられる。 コウ「うわあああああああ!!!」 水溜まりの水を撒き散らし、恐怖の叫びをあげながら、コウの姿は雨の中へと消えてしまった。 降り頻る雨の中、残されたのび太は一人呟く。 のび太「よし、これが上手くいけば、脱出にかなり有利になれる………。 デキスギとかいう奴らも出し抜けるぞ!」 のび太は再びノートを開き、そこに細部を書き込み始めた。 その内容は以下の通り。 名前【コウ】 死因【爆死】 手持ち【クロバット・エアームド・リザードン・オニドリル・ゴローニャ】 死の前の状況【コガネシティのラジオ塔に向かうが、途中で体の汚れが気になり、近くの無人の民家で体を洗い服を着替える。 その後再びラジオ塔へ向かい、首領を倒そうとするも他人から貰ったゴローニャが言うことを聞かず、200X年 X月X日 午後4時44分、自らのポケモンの爆発に巻き込まれ死亡】 のび太は満足そうな表情をし、ノートを閉じた。 のび太は自らの勝利を揺るぎない物と確信していた。 ---- それからの展開は早かった。 ドラえもんとトシミツは通り抜けフープにより、間一髪爆死の危機を免れ「ドンブラ粉」を使い地面への衝撃も防ぐことが出来た。 その後、トシミツは破壊されたラジオ塔を見て、抵抗する事を断念。 数分後、ラジオ塔に駆け付けたコガネのトレーナー達に自ら身柄を引き渡した。 ドラえもん達もスネ夫、のび太、そして生存が確認されたジャイアンと合流することに成功し、ジャイアンの無事を一人を除いて心から喜んだ。 ちなみにその時、幹部のカホウ、キキョウは身柄が拘束され、後にラジオ塔の三階からコウの物と見られる爆死体が発見された。 コガネの住民はすぐにでも我が家に帰りたいという意思を示したが、雨の為の事故、大人数の移動による大混乱を引き起こす可能性があり、それは却下。 次の日から少しずつ移動することに取り決められた。 色々とあってあっけない幕切れの様だが、今回の事件は一応の解決を見る事になる。 しかしある人物達の戦いは、まだ終わってはいなかった。 ---- ジャイアン「ブハァ!うめえ!」 ジャイアンはペットボトル一杯のサイコソーダを一気に飲み干す。 現在はラジオ塔の事件解決の宴の真っ只中。 家に帰れない住民達が、せっかくだからと良心で取り繕ってくれたのだ。 ジャイアンは山の様に積まれた料理を鬼の如く食い荒し、一方スネ夫は今回の事件でのエピソードを、色々と肉をつけて住民達に話し、いい気分に浸っていた。 ドラえもんに至ってはまさに「溺れる様に」、どら焼きを貪り続けている。 皆楽しそうだ。 しかし、全員がそうであった訳ではない。 「そいつ」の中では、まだ事件は終わってはいなかった。 アカネ「なんや、あんまり楽しそうやないなあ?」 アカネは「そいつ」に近づき、顔を覗き込む。 アカネは「そいつ」の席の隣に座った。 アカネ「なんか、まだ難しそうな顔してんなあ。 事件は終わったっちゅーのに。 まだなんかあるんか?のび太。」 アカネはのび太に訊く。 のび太はコップの飲み物で少し喉をうるわすと静かに言った。 のび太「例の物は……。例の物は用意したかい……?」 ---- のび太に言われ、アカネはポンと手を叩く。 アカネ「ああ、アンタの言っとった「アレ」か。 一応用意しといたで。」 アカネは胸ポケットから小さなディスクを取り出す。 のび太「ありがとう。」 のび太はそれを受け取り、一礼した。 アカネ「でもなあ、アンタそれ、何に使うん?」 アカネは好奇心からか聞いてくる。 のび太はそれを軽く受け流した。 のび太「これから一番大切な事……さ。」 のび太はアカネに見えない角度で薄気味の悪い笑みを浮かべる。 ラジオ塔の爆破も、ディスクを手に入れた事も、ジャイアン達を始めその他のトレーナー達が自分の言うことを守ってくれたのも、全て自分の策通り。 あとは仕上げだけ。 いうなれば画竜点睛。 竜の絵に瞳を入れるのは自分! のび太はそう確信していた。 ドラえもん「ウップ、ウップ。食べ過ぎた……。」 すると、そこに腹に大量のどら焼きを抱えた奇妙生物が二人の目の前を通り過ぎようとした。 アカネ「ああ、ちょっとそこの青狸君、待ちいや。」 ドラえもん「僕は狸じゃない!」 アカネはドラえもんを呼び止めた。 ---- アカネはドラえもんに言う。 アカネ「アンタ、誰か忘れたけど呼ばれよったで。 向こうのテントで待ってるやて。」 テント?ドラえもんは頭を捻る。 これから誰かを呼ぶつもりだが、誰かに呼ばれるような記憶は無い。 ドラえもんが必死に大きな頭を抱えていると、彼が探していた少年が視界に飛込んできた。 のび太はドラえもんに気づいてか気づかずか、しらんぷりをしている。 ドラえもんはそれに近づく。 のび太の計画では今日は何も起らないハズだった。 しかし耳元で囁かれたドラえもんの言葉は、のび太の計画そのものに危険をきたすものであった。 ドラえもん「僕の用事が終わったら、君と二人っきりで話がしたい。 場所は作戦会議用のテント。時間は20分後。 遅れないようにね。」 のび太『何ッ!?』 ドラえもんはそう言い、その場所を離れてゆく。 のび太「…………あいつ……。」 残されたのび太は、ただ呆然とその後姿を見送る事しかできなかった。 ---- ―のび太がドラえもんとの約束終えた10分後― ガチャ。 例の部屋の中に一人の人影が立ち入る。 「キョロ、キョロ。」 その人影は辺りを見回すと、まだここには誰も居ない事を確認した。 のび太である。 ドラえもんに呼び出されたのび太は、これからの事態に対処すべく、約束の時間よりも少し早い時間にきていた。 のび太「さて……。これからどうするか……。」 のび太はノートを開き呟く。 のび太はドラえもんの名前を知っている。 殺ろうと思えばいつでも殺れる。 しかし、ここでヘタに殺す訳にはいかない。 奴は、多分仲間に「のび太は時間犯罪者だ」とまでは言っていないだろうが、「僕が不自然に死んだらのび太を疑え」というような「保険」をかけてる可能性がある。 ジャイアンとスネ夫はすぐに動き出すだろう。 そうなれば策を実行する時間が無くなる上に、デキスギ達との戦いが有利に進まなくなる。 だが、場合によっては殺す事も考えなければならない。 のび太は事前にその準備をするためにここに来たのである。 ---- のび太は、シャープペンシルを取り出しノートにいそいそと何かを書き始めた。 記入内容は以下の通り 名前【トラえもん】 手持ち【ヌオー・キマワリ・デンリュウ・エイパム】 トラえもんは間違いではない。 非常事態に備えての策である。 必要な時、いつでも濁点を入れて名前を完成させる事が出来る。 ノートは切り取ってポケットの中に入れておけば話ながら自然に奴を殺せる。 のび太「よし……。 これで準備は整った……。後は奴がどのように攻めてくるか……」 のび太は呟き、ふと時計を見る。 時計の針はいつの間にか10分の時が過ぎた事を告げていた。 部屋にはカチカチと秒針が時を刻む音が支配し、他の音の存在を許さない。 しかし、すぐに静寂は破られる。 目の前のドアがギィと開き、そこから大きな青い球が顔を出した。 ドラえもん「待たせたね……。」 [[次へ>ポケモンとのび太とノートと その17]] ----

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