「挑戦者 その19」(2007/03/29 (木) 13:39:46) の最新版変更点
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……やがてその場が澄み渡っていく。
ジャイアンの目にもはっきり映った。
ルカリオとアブソルが、重なり合って倒れているのを――
「同士討ちか……」
ジャイアンは呟きながらルカリオをボールに収める。
ワンテンポ遅く、ササもアブソルを戻した。
「テッカニン!」「ストライク!」
繰り出された二体は互いに睨み合う。
(……何なんだ、こいつは)
ササの思考が疑問を上げる。
ミヤのことを警察に突き出さなかったのも、ジャイアンの言ったとおり。
警察がミヤを捕まえてくれれば、それで済むと思ったから。
そして、ミヤは捕まり、その後脱獄した。
だから自分で制裁を――
(それは俺のわがままなのか……)
「テッカニン、きりさくだ!」
瞬間飛び込むテッカニンの先。
佇む相手に刃が触れる瞬間。
赤い光が、ストライクを包んだ。
「!?……え」
空を切るテッカニンの攻撃を見ながら、ジャイアンは目を見開く。
----
「終わりだ」
ササが一声告げ、銀のメダルが投げられる。
弧を描きながらそれはジャイアンの前に落ちた。
「すまないな。こんな戦いさせてしまって……
私は間違っていたようだ」
そう告げると、ササは立ち去ろうとする。
ジャイアンは銀メダルを拾い、そして
「待てよ!」
と一声掛けてササの元へ向かう。
振り返るササにメダルを突き出す。
「俺はいらないよ。
あんたも十分強かったからな!」
目を見開くササ。
ジャイアンは微笑みながら、返答を待つ。
すると、ササもにっと笑い、メダルを受け取った。
「私は先にドームへ向かおう。
お前も勝ち残れよ!」
ササはそう言って、山を降りていった。
「とりあえずは……助かったみたいだ」
ジャイアンは冷や汗を拭う。
(危なかった……俺の中で残っているのはテッカニンと……)
ジャイアンはボールを確かめる。
コドラ、ルカリオ、テッカニンのボール、そしてその脇にもう一つ。
(こいつだけだ……)
その問題児がもうすぐ日の光を浴びることになるとは、ジャイアンはまだ知らない。
----
東の山道――
逆巻く『ほのおのうず』が木々を焚きつける。
燃え盛る炎が辺りを紅で包み込む。
戦いはどんどん激しさを増していく。
ふと、二体の巨石が宙に浮かび上がった。
(……『じゅうりょく』の効果が切れたんだ!)
舌打ちしながら、ユリはボールに手を掛ける。
(またハスブレロを戻してピッピを――)
「ハッハァ!!」
突如茂みから飛び出してきたスキンヘッズ。
ユリと、ユウトの視線もそいつに向けられた。
「俺の名はジョウ!
今さっきメダルを取られたリーグ関係者と出会ったぁ!
さあ、メダルを持っているのはどっちだぁ!?」
(!チャンス)「あっちよ!!」
ユリはすかさずユウトを指す。
「え?えぇ!?」
不意を突かれたユウトを後に、ユリは駆け出す。
ハスブレロもバクーダもしっかり戻して――
「よおし、こっちだな!」
ジョウはにやりと笑いながらユウトの前に立ち塞がる。
「行け、カゲボウズ、コロボーシ、チェリンボぉ!!」
一気に三体のポケモンがジョウによって繰り出される。
「あいつからメダルを奪えぇ!!」
飛び掛るポケモンたちも、それを指揮するジョウ自身も気づいていなかった。
ユウトが笑っていることに――
----
「……ふう、危なかった」
大分駆けた所で、ユリは木に支えられて一息つく。
(あのままじゃ危険だった。
ダブルバトルのせいかしら。かなり強かった……
ま、速くドームへ戻っちゃえばいいんだけどね!)
ユリは思考を切り替え、ドームへ向かっていく。
「……ちょっと聞きたいんだけどさぁ」
ユウトはメダルを弄りながら言う。
「な、なんだ……」
下敷きにされているジョウは、痛々しげに聞き返す。
辺りに散らばる三匹とも、ジョウのポケモン。
今は『さいみんじゅつ』のあとの『ほのおのうず』により瀕死状態。
「どうしてメダルを持っているのに僕のメダルを欲しがったの?」
「……あ、ああ。簡単なこと。
メダルを余分に持っておけば、もしも強敵に出会った時にも逃げられる。
そのほうがライバルも減らせ……ぶっ!」
ユウトはジョウの顔を足蹴に地面に降り立つ。
「ふうん。やっぱりそうか」
頷くユウトの後ろで、ジョウがゆっくり立ち上がる。
「こ、の……くそ野ろ」「さいみんじゅつ」
ルナトーンの目が光り、ジョウは白目をむいて倒れた。
「やっぱり、同じことを考える人もいるんだねえ」
ユウトの弄ぶメダルは二つあった。
両方とも銅色のメダルだ。
----
少し時間を戻し――
ドーム入り口――
(しめしめ、現れたぞ……)
スネ夫は段々と近づいてくる男を見つけた。
間違いなく銅メダルを持っている。
(あと少し……もうちょい近づいたら……)
男はにこやかに笑いながら走っている。
恐らく早い内にメダルを取れたことがうれしかったのだろう。
(ふふ、すぐに僕のになるけどね~!)
男とドームの間には何も無い。
スネ夫は静かに、グラエナの『どろぼう』が出来る範囲を考えた。
(もうちょい、もうちょい……今!)
「グラエナ、どろぼう!」
繰り出されたグラエナは四肢を唸らせて飛び込んでいく。
その黒い毛並みを凝視する男。
そして――
「なに!?」
スネ夫が息を呑む。
グラエナと男の間に突然つるが伸びてきたのだ。
つるは男の体に結びつき、浮かび上がらせる。
グラエナもそこまで届かない位置に。
急いで辺りを確認すると、つるの先にマスキッパ。
それに二人の人影が見える。
(くそ!僕の獲物を!)
スネ夫は物陰から飛び出した。
----
マスキッパのつるに縛られた男は苦痛で呻いている。
「た、助けてくれー!!」
スネ夫がふと目をやると、男は左手の指を三方向に伸ばしていた。
(なんだあの手の形……癖かな?)
スネ夫はまだ知らない。
もうじきこの左手の形に多大な恩恵を受けることを。
ただ、これは現実世界の話なので今は関係ない。
(そんなことより)
「グラエナ!つるをかみくだけ!!」
猛進するグラエナの牙に捕らえられ、つるはブチブチと切られた。
解放される男はバランスを保つ。
「少年、ありがとう!!」
男はスネ夫に礼を言う。
見るとやっぱり、左手の指が三方向に。
「あの、いったいそれは何――」
「つるのムチ!」
鋭い声が届く。
同時に緑のつるがスネ夫と男の間を突き刺す。
スネ夫が目を向けると、二人の女が走ってきているのがわかった。
(くそ、あいつら諦めてないな……
!!そうだ、こうなったら)
「あの、あなた名前は!?」
なるべく切羽詰った風で、スネ夫は男に聞く。
「ああ、少年。名乗るのが遅れたね。
私の名前はミング。
しかしてあの連中はいったい?」
「ミングさん。
あいつらはあなたからメダルを奪おうとした悪い奴らです!」
----
二人の女はスネ夫たちと対峙した。
マスキッパを連れているのは、和服姿の女。
もう一人は短い金髪をたなびかせている。
「やい、お前ら!メダルを取ろうとしたな!!」
(よし、これで!)
「まさか仲間がいたとはね……」
声を出したのは金髪の女。
「サエ!やっちまいな!!」
「マスキッパ、さっきの男を捕らえて!」
サエと呼ばれた和服女は指示を出す。
つるのムチがミングの周りを旋回し、そして――
「ライボルト、ほのおの牙」
ミングの繰り出すポケモンが、つるのムチを焼き切る。
「カラ、そっちは任せたよ!」
サエは金髪の女に告げ、ミングと向かい合う。
カラと呼ばれた方の女はポケモンを繰り出した。
静電気を弾けさせながら現れた、小柄な白い体。
でんきりすポケモン、パチリスだ。
(ふふふ、やったぞ!
ミングは完全に僕のことを味方だと思ってる!)
スネ夫は笑いを堪えながら、勝利への算段をした。
(なんとか一対一に持ち込めたんだ。
ミングはきっと勝てるだろう。
油断しているすきにグラエナの『どろぼう』でメダルを奪い、とっととドームへ――)
「パチリス、メロメロ!」
パチリスが相手にアピールする。
----
(……メロメロ?
あれ、僕はまだポケモンを――)
途端に青ざめながら、スネ夫は振り返る。
グラエナがいた。
すっかり興奮した様子でパチリスを凝視しながら。
「し、しまったぁ!」
(まあずいぞ!すっかり出したままなのを忘れてた。
グラエナがメロメロにかかっちまった!
これではまともに戦えないな……いったん戻さなきゃ)
ダラダラとよだれを垂らすグラエナをボールに収めながら、考え直す。
(こうなれば……絶えずミングの戦いを監視して
勝ちそうなところでグラエナと交代すればいい!)
「ほら、早く次を出しな!」
と、カラが催促してくる。
(うるさい奴だな……
兎に角次は……次は……!!
あれ、性別なんて図鑑ないから分からないぞ?)
スネ夫は相手を『どく』や『ねむり』にするのが大好きだ。
弱っている相手を叩きのめせる……なんと楽しいことだろう!
だがそれ故に、自分のポケモンが状態異常になることは嫌っていた。
『メロメロ』も『こんらん』も、すぐに対策を打たなければ気がすまないのだ。
だから手持ちにはいつもオスとメスのポケモンを入れておいた。
だけど――今、性別はわからない。
(こうなったら……50%の確立に賭ける!)
スネ夫の思考が一つの答えを導き出す。
(50%で絶対に『メロメロ』を解いてみせるぜ!)
決心して、スネ夫はポケモンを繰り出す。
----
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……やがてその場が澄み渡っていく。
ジャイアンの目にもはっきり映った。
ルカリオとアブソルが、重なり合って倒れているのを――
「同士討ちか……」
ジャイアンは呟きながらルカリオをボールに収める。
ワンテンポ遅く、ササもアブソルを戻した。
「テッカニン!」「ストライク!」
繰り出された二体は互いに睨み合う。
(……何なんだ、こいつは)
ササの思考が疑問を上げる。
ミヤのことを警察に突き出さなかったのも、ジャイアンの言ったとおり。
警察がミヤを捕まえてくれれば、それで済むと思ったから。
そして、ミヤは捕まり、その後脱獄した。
だから自分で制裁を――
(それは俺のわがままなのか……)
「テッカニン、きりさくだ!」
瞬間飛び込むテッカニンの先。
佇む相手に刃が触れる瞬間。
赤い光が、ストライクを包んだ。
「!?……え」
空を切るテッカニンの攻撃を見ながら、ジャイアンは目を見開く。
----
「終わりだ」
ササが一声告げ、銀のメダルが投げられる。
弧を描きながらそれはジャイアンの前に落ちた。
「すまないな。こんな戦いさせてしまって……
私は間違っていたようだ」
そう告げると、ササは立ち去ろうとする。
ジャイアンは銀メダルを拾い、そして
「待てよ!」
と一声掛けてササの元へ向かう。
振り返るササにメダルを突き出す。
「俺はいらないよ。
あんたも十分強かったからな!」
目を見開くササ。
ジャイアンは微笑みながら、返答を待つ。
すると、ササもにっと笑い、メダルを受け取った。
「私は先にドームへ向かおう。
お前も勝ち残れよ!」
ササはそう言って、山を降りていった。
「とりあえずは……助かったみたいだ」
ジャイアンは冷や汗を拭う。
(危なかった……俺の中で残っているのはテッカニンと……)
ジャイアンはボールを確かめる。
コドラ、ルカリオ、テッカニンのボール、そしてその脇にもう一つ。
(こいつだけだ……)
その問題児がもうすぐ日の光を浴びることになるとは、ジャイアンはまだ知らない。
----
東の山道――
逆巻く『ほのおのうず』が木々を焚きつける。
燃え盛る炎が辺りを紅で包み込む。
戦いはどんどん激しさを増していく。
ふと、二体の巨石が宙に浮かび上がった。
(……『じゅうりょく』の効果が切れたんだ!)
舌打ちしながら、ユリはボールに手を掛ける。
(またハスブレロを戻してピッピを――)
「ハッハァ!!」
突如茂みから飛び出してきたスキンヘッズ。
ユリと、ユウトの視線もそいつに向けられた。
「俺の名はジョウ!
今さっきメダルを取られたリーグ関係者と出会ったぁ!
さあ、メダルを持っているのはどっちだぁ!?」
(!チャンス)「あっちよ!!」
ユリはすかさずユウトを指す。
「え?えぇ!?」
不意を突かれたユウトを後に、ユリは駆け出す。
ハスブレロもバクーダもしっかり戻して――
「よおし、こっちだな!」
ジョウはにやりと笑いながらユウトの前に立ち塞がる。
「行け、カゲボウズ、コロボーシ、チェリンボぉ!!」
一気に三体のポケモンがジョウによって繰り出される。
「あいつからメダルを奪えぇ!!」
飛び掛るポケモンたちも、それを指揮するジョウ自身も気づいていなかった。
ユウトが笑っていることに――
----
「……ふう、危なかった」
大分駆けた所で、ユリは木に支えられて一息つく。
(あのままじゃ危険だった。
ダブルバトルのせいかしら。かなり強かった……
ま、速くドームへ戻っちゃえばいいんだけどね!)
ユリは思考を切り替え、ドームへ向かっていく。
「……ちょっと聞きたいんだけどさぁ」
ユウトはメダルを弄りながら言う。
「な、なんだ……」
下敷きにされているジョウは、痛々しげに聞き返す。
辺りに散らばる三匹とも、ジョウのポケモン。
今は『さいみんじゅつ』のあとの『ほのおのうず』により瀕死状態。
「どうしてメダルを持っているのに僕のメダルを欲しがったの?」
「……あ、ああ。簡単なこと。
メダルを余分に持っておけば、もしも強敵に出会った時にも逃げられる。
そのほうがライバルも減らせ……ぶっ!」
ユウトはジョウの顔を足蹴に地面に降り立つ。
「ふうん。やっぱりそうか」
頷くユウトの後ろで、ジョウがゆっくり立ち上がる。
「こ、の……くそ野ろ」「さいみんじゅつ」
ルナトーンの目が光り、ジョウは白目をむいて倒れた。
「やっぱり、同じことを考える人もいるんだねえ」
ユウトの弄ぶメダルは二つあった。
両方とも銅色のメダルだ。
----
少し時間を戻し――
ドーム入り口――
(しめしめ、現れたぞ……)
スネ夫は段々と近づいてくる男を見つけた。
間違いなく銅メダルを持っている。
(あと少し……もうちょい近づいたら……)
男はにこやかに笑いながら走っている。
恐らく早い内にメダルを取れたことがうれしかったのだろう。
(ふふ、すぐに僕のになるけどね~!)
男とドームの間には何も無い。
スネ夫は静かに、グラエナの『どろぼう』が出来る範囲を考えた。
(もうちょい、もうちょい……今!)
「グラエナ、どろぼう!」
繰り出されたグラエナは四肢を唸らせて飛び込んでいく。
その黒い毛並みを凝視する男。
そして――
「なに!?」
スネ夫が息を呑む。
グラエナと男の間に突然つるが伸びてきたのだ。
つるは男の体に結びつき、浮かび上がらせる。
グラエナもそこまで届かない位置に。
急いで辺りを確認すると、つるの先にマスキッパ。
それに二人の人影が見える。
(くそ!僕の獲物を!)
スネ夫は物陰から飛び出した。
----
マスキッパのつるに縛られた男は苦痛で呻いている。
「た、助けてくれー!!」
スネ夫がふと目をやると、男は左手の指を三方向に伸ばしていた。
(なんだあの手の形……癖かな?)
スネ夫はまだ知らない。
もうじきこの左手の形に多大な恩恵を受けることを。
ただ、これは現実世界の話なので今は関係ない。
(そんなことより)
「グラエナ!つるをかみくだけ!!」
猛進するグラエナの牙に捕らえられ、つるはブチブチと切られた。
解放される男はバランスを保つ。
「少年、ありがとう!!」
男はスネ夫に礼を言う。
見るとやっぱり、左手の指が三方向に。
「あの、いったいそれは何――」
「つるのムチ!」
鋭い声が届く。
同時に緑のつるがスネ夫と男の間を突き刺す。
スネ夫が目を向けると、二人の女が走ってきているのがわかった。
(くそ、あいつら諦めてないな……
!!そうだ、こうなったら)
「あの、あなた名前は!?」
なるべく切羽詰った風で、スネ夫は男に聞く。
「ああ、少年。名乗るのが遅れたね。
私の名前はミング。
しかしてあの連中はいったい?」
「ミングさん。
あいつらはあなたからメダルを奪おうとした悪い奴らです!」
----
二人の女はスネ夫たちと対峙した。
マスキッパを連れているのは、和服姿の女。
もう一人は短い金髪をたなびかせている。
「やい、お前ら!メダルを取ろうとしたな!!」
(よし、これで!)
「まさか仲間がいたとはね……」
声を出したのは金髪の女。
「サエ!やっちまいな!!」
「マスキッパ、さっきの男を捕らえて!」
サエと呼ばれた和服女は指示を出す。
つるのムチがミングの周りを旋回し、そして――
「ライボルト、ほのおの牙」
ミングの繰り出すポケモンが、つるのムチを焼き切る。
「カラ、そっちは任せたよ!」
サエは金髪の女に告げ、ミングと向かい合う。
カラと呼ばれた方の女はポケモンを繰り出した。
静電気を弾けさせながら現れた、小柄な白い体。
でんきりすポケモン、パチリスだ。
(ふふふ、やったぞ!
ミングは完全に僕のことを味方だと思ってる!)
スネ夫は笑いを堪えながら、勝利への算段をした。
(なんとか一対一に持ち込めたんだ。
ミングはきっと勝てるだろう。
油断しているすきにグラエナの『どろぼう』でメダルを奪い、とっととドームへ――)
「パチリス、メロメロ!」
パチリスが相手にアピールする。
----
(……メロメロ?
あれ、僕はまだポケモンを――)
途端に青ざめながら、スネ夫は振り返る。
グラエナがいた。
すっかり興奮した様子でパチリスを凝視しながら。
「し、しまったぁ!」
(まあずいぞ!すっかり出したままなのを忘れてた。
グラエナがメロメロにかかっちまった!
これではまともに戦えないな……いったん戻さなきゃ)
ダラダラとよだれを垂らすグラエナをボールに収めながら、考え直す。
(こうなれば……絶えずミングの戦いを監視して
勝ちそうなところでグラエナと交代すればいい!)
「ほら、早く次を出しな!」
と、カラが催促してくる。
(うるさい奴だな……
兎に角次は……次は……!!
あれ、性別なんて図鑑ないから分からないぞ?)
スネ夫は相手を『どく』や『ねむり』にするのが大好きだ。
弱っている相手を叩きのめせる……なんと楽しいことだろう!
だがそれ故に、自分のポケモンが状態異常になることは嫌っていた。
『メロメロ』も『こんらん』も、すぐに対策を打たなければ気がすまないのだ。
だから手持ちにはいつもオスとメスのポケモンを入れておいた。
だけど――今、性別はわからない。
(こうなったら……50%の確立に賭ける!)
スネ夫の思考が一つの答えを導き出す。
(50%で絶対に『メロメロ』を解いてみせるぜ!)
決心して、スネ夫はポケモンを繰り出す。
----
「行け、チルット!」
スネ夫はポケモンを繰り出す。
雲のような翼が、光と共に現れた。
(確立は50%……当たってくれよ)
スネ夫はカラのパチリスから目を離さなかった。
「パチリス、メロメロ!」
(来た!)
パチリスのアピールが、チルットの目を釘付けにする。
(チルットがメスなら『うたう』で粘るしかない。
でもオスなら……)
すると、チルットは目つきを変えた。
明らかに好意的な目で、パチリスを見ている。
(当たった!チルットはオスだ)
「オウムがえし!」
ここで技が出せる確立は50%。
一瞬の間――そして
チルットのアピールが始まった。
「!!く、これは」
カラが舌打ちする間に、パチリスは『メロメロ』にかかる。
(これであいつのお得意の『メロメロ』戦法を封じたわけだ。
元来パチリスは攻撃型のポケモンじゃない。
大方、『メロメロ』で相手の自由を奪い、その後しどろもどろしている内に
技を繰り出し、『とっておき』でしめる手筈だったのだろう。
でも、それもパチリス自身が自由を奪われたことで台無しだ!)
スネ夫がにやついてるうちに、カラがパチリスをボールにしまう。
「ふん、いやな顔してるね……でもすぐに――」
カラの台詞は、二人の間に人物が飛んできたことによって遮られた。
----
「ミ、ミングじゃないか!」
スネ夫は駆け寄り、確認した。
「ああ、すまん。負けてしまった……」
ミングは情けなく呟いた。
「カラ―!メダルゲットしたよー!」
と、サエが明るく言っている。
「ミング、お前……」
(強いんじゃねーのかよ!こんなに早く帰ってきたからてっきり)
「さ~て、次はそっちだな!」
心で悪態をついてたスネ夫も、カラの言葉で息を呑む。
「ま、待ってくれ!
僕はメダルを持ってないんだ!」
スネ夫は必死で弁明するスネ夫。
「え?でもそいつと仲間なんじゃ」
「仲間?しらねーよこんな奴!」
スネ夫はミングを足蹴にする。
「お前らと同じだよ!
ここに来た奴らのメダルを取ろうとしたんだ!!」
(くそぅ、なんでこうなるんだ……)
スネ夫はカラと一緒にテンセイやまへ走っていた。
「いいか、まず見つけたら僕んだからな!」
「何言ってんだい。
先に取ったモン勝ちに決まってる!」
言い合いながら、二人は駆けて行く。
その隣の道で、ユリがドームへ向かって駆けていた。
----
「――これで足りるわね」
山中で、トレーナーからメダルをもぎ取る少女が一人。
源静香――たった今手に入れたのは五枚目のメダル。
「くそ、覚えてやがれ!」
典型的な敗者の台詞を吐きながら、相手が駆けていった。
(ふふ、勝手に帰ってくれた。
ねむりごなをかける手間が省けたわね)
しずかは振り向き、彼らの元へ向かおうとする。
「どろぼう!」
どこかから聞こえてくる指示。
枯れ草を連踏する音。
「キレイハナ、くさむすび!」
足元で、キレイハナが地面に手を添える。
背後で何かが倒れた。
振り返るしずか。
目に映ったのは息を切らせたグラエナだ。
(人のポケモンね)
しずかはそれを確認し、キレイハナに指示を出す。
「あまいかおりよ」
空気が花の匂いで満たされていく。
動物なら誰でも寄ってみたくなる匂い。
ただ、この後起こることは、しずかにも予想外だった。
----
「あう~、何かおいしそう~」
「ば、馬鹿兄貴、顔出すな!」
右の茂みから騒動が聞こえてくる。
咄嗟に振り向くしずか。
同時に茂みから人物が出てきた。
(に、人間?)
しかも最初の太目の少年に続いて、もう二人。
ボサボサ頭の少年と、メガネの少年だ。
(な、何この三人組……)
多少引くしずかを尻目に、三人はゆっくり起き上がって――
ところ変わって、リーグ本部――
ドラえもんは裏口を開ける。
「開いたね……ここが本部で合ってるよね?」
ドラえもんは密告者に確認した。
「ああ、その通り」
「あたしが覚えている通りだと、ここが本部よ。
ギンガ団のね」
密告者は二人。
「そう……なんでリーグ開催してるのかは後にして
入ってみるよ。
スネツグ。ジャイ子」
ドラえもんの後ろで、二人は頷く。
「へへ、有難いよ。これであいつをぎゃふんと言わせてやれる」
「死んだ茂手夫さまのためにも、絶対出木杉を見つけてやるわ」
ドラえもんは安心した。
やっぱりこいつらを連れてきて正解だった――と。
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