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[[前へ>挑戦者 その18]] ……やがてその場が澄み渡っていく。 ジャイアンの目にもはっきり映った。 ルカリオとアブソルが、重なり合って倒れているのを―― 「同士討ちか……」 ジャイアンは呟きながらルカリオをボールに収める。 ワンテンポ遅く、ササもアブソルを戻した。 「テッカニン!」「ストライク!」 繰り出された二体は互いに睨み合う。 (……何なんだ、こいつは) ササの思考が疑問を上げる。 ミヤのことを警察に突き出さなかったのも、ジャイアンの言ったとおり。 警察がミヤを捕まえてくれれば、それで済むと思ったから。 そして、ミヤは捕まり、その後脱獄した。 だから自分で制裁を―― (それは俺のわがままなのか……) 「テッカニン、きりさくだ!」 瞬間飛び込むテッカニンの先。 佇む相手に刃が触れる瞬間。 赤い光が、ストライクを包んだ。 「!?……え」 空を切るテッカニンの攻撃を見ながら、ジャイアンは目を見開く。 ---- 「終わりだ」 ササが一声告げ、銀のメダルが投げられる。 弧を描きながらそれはジャイアンの前に落ちた。 「すまないな。こんな戦いさせてしまって……  私は間違っていたようだ」 そう告げると、ササは立ち去ろうとする。 ジャイアンは銀メダルを拾い、そして 「待てよ!」 と一声掛けてササの元へ向かう。 振り返るササにメダルを突き出す。 「俺はいらないよ。  あんたも十分強かったからな!」 目を見開くササ。 ジャイアンは微笑みながら、返答を待つ。 すると、ササもにっと笑い、メダルを受け取った。 「私は先にドームへ向かおう。  お前も勝ち残れよ!」 ササはそう言って、山を降りていった。 「とりあえずは……助かったみたいだ」 ジャイアンは冷や汗を拭う。 (危なかった……俺の中で残っているのはテッカニンと……) ジャイアンはボールを確かめる。 コドラ、ルカリオ、テッカニンのボール、そしてその脇にもう一つ。 (こいつだけだ……) その問題児がもうすぐ日の光を浴びることになるとは、ジャイアンはまだ知らない。 ---- 東の山道―― 逆巻く『ほのおのうず』が木々を焚きつける。 燃え盛る炎が辺りを紅で包み込む。 戦いはどんどん激しさを増していく。 ふと、二体の巨石が宙に浮かび上がった。 (……『じゅうりょく』の効果が切れたんだ!) 舌打ちしながら、ユリはボールに手を掛ける。 (またハスブレロを戻してピッピを――) 「ハッハァ!!」 突如茂みから飛び出してきたスキンヘッズ。 ユリと、ユウトの視線もそいつに向けられた。 「俺の名はジョウ!  今さっきメダルを取られたリーグ関係者と出会ったぁ!  さあ、メダルを持っているのはどっちだぁ!?」 (!チャンス)「あっちよ!!」 ユリはすかさずユウトを指す。 「え?えぇ!?」 不意を突かれたユウトを後に、ユリは駆け出す。 ハスブレロもバクーダもしっかり戻して―― 「よおし、こっちだな!」 ジョウはにやりと笑いながらユウトの前に立ち塞がる。 「行け、カゲボウズ、コロボーシ、チェリンボぉ!!」 一気に三体のポケモンがジョウによって繰り出される。 「あいつからメダルを奪えぇ!!」 飛び掛るポケモンたちも、それを指揮するジョウ自身も気づいていなかった。 ユウトが笑っていることに―― ---- 「……ふう、危なかった」 大分駆けた所で、ユリは木に支えられて一息つく。 (あのままじゃ危険だった。  ダブルバトルのせいかしら。かなり強かった……  ま、速くドームへ戻っちゃえばいいんだけどね!) ユリは思考を切り替え、ドームへ向かっていく。 「……ちょっと聞きたいんだけどさぁ」 ユウトはメダルを弄りながら言う。 「な、なんだ……」 下敷きにされているジョウは、痛々しげに聞き返す。 辺りに散らばる三匹とも、ジョウのポケモン。 今は『さいみんじゅつ』のあとの『ほのおのうず』により瀕死状態。 「どうしてメダルを持っているのに僕のメダルを欲しがったの?」 「……あ、ああ。簡単なこと。  メダルを余分に持っておけば、もしも強敵に出会った時にも逃げられる。  そのほうがライバルも減らせ……ぶっ!」 ユウトはジョウの顔を足蹴に地面に降り立つ。 「ふうん。やっぱりそうか」 頷くユウトの後ろで、ジョウがゆっくり立ち上がる。 「こ、の……くそ野ろ」「さいみんじゅつ」 ルナトーンの目が光り、ジョウは白目をむいて倒れた。 「やっぱり、同じことを考える人もいるんだねえ」 ユウトの弄ぶメダルは二つあった。 両方とも銅色のメダルだ。 ---- 少し時間を戻し―― ドーム入り口―― (しめしめ、現れたぞ……) スネ夫は段々と近づいてくる男を見つけた。 間違いなく銅メダルを持っている。 (あと少し……もうちょい近づいたら……) 男はにこやかに笑いながら走っている。 恐らく早い内にメダルを取れたことがうれしかったのだろう。 (ふふ、すぐに僕のになるけどね~!) 男とドームの間には何も無い。 スネ夫は静かに、グラエナの『どろぼう』が出来る範囲を考えた。 (もうちょい、もうちょい……今!) 「グラエナ、どろぼう!」 繰り出されたグラエナは四肢を唸らせて飛び込んでいく。 その黒い毛並みを凝視する男。 そして―― 「なに!?」 スネ夫が息を呑む。 グラエナと男の間に突然つるが伸びてきたのだ。 つるは男の体に結びつき、浮かび上がらせる。 グラエナもそこまで届かない位置に。 急いで辺りを確認すると、つるの先にマスキッパ。 それに二人の人影が見える。 (くそ!僕の獲物を!) スネ夫は物陰から飛び出した。 ---- マスキッパのつるに縛られた男は苦痛で呻いている。 「た、助けてくれー!!」 スネ夫がふと目をやると、男は左手の指を三方向に伸ばしていた。 (なんだあの手の形……癖かな?) スネ夫はまだ知らない。 もうじきこの左手の形に多大な恩恵を受けることを。 ただ、これは現実世界の話なので今は関係ない。 (そんなことより) 「グラエナ!つるをかみくだけ!!」 猛進するグラエナの牙に捕らえられ、つるはブチブチと切られた。 解放される男はバランスを保つ。 「少年、ありがとう!!」 男はスネ夫に礼を言う。 見るとやっぱり、左手の指が三方向に。 「あの、いったいそれは何――」 「つるのムチ!」 鋭い声が届く。 同時に緑のつるがスネ夫と男の間を突き刺す。 スネ夫が目を向けると、二人の女が走ってきているのがわかった。 (くそ、あいつら諦めてないな……  !!そうだ、こうなったら) 「あの、あなた名前は!?」 なるべく切羽詰った風で、スネ夫は男に聞く。 「ああ、少年。名乗るのが遅れたね。  私の名前はミング。  しかしてあの連中はいったい?」 「ミングさん。  あいつらはあなたからメダルを奪おうとした悪い奴らです!」 ---- 二人の女はスネ夫たちと対峙した。 マスキッパを連れているのは、和服姿の女。 もう一人は短い金髪をたなびかせている。 「やい、お前ら!メダルを取ろうとしたな!!」 (よし、これで!) 「まさか仲間がいたとはね……」 声を出したのは金髪の女。 「サエ!やっちまいな!!」 「マスキッパ、さっきの男を捕らえて!」 サエと呼ばれた和服女は指示を出す。 つるのムチがミングの周りを旋回し、そして―― 「ライボルト、ほのおの牙」 ミングの繰り出すポケモンが、つるのムチを焼き切る。 「カラ、そっちは任せたよ!」 サエは金髪の女に告げ、ミングと向かい合う。 カラと呼ばれた方の女はポケモンを繰り出した。 静電気を弾けさせながら現れた、小柄な白い体。 でんきりすポケモン、パチリスだ。 (ふふふ、やったぞ!  ミングは完全に僕のことを味方だと思ってる!) スネ夫は笑いを堪えながら、勝利への算段をした。 (なんとか一対一に持ち込めたんだ。  ミングはきっと勝てるだろう。  油断しているすきにグラエナの『どろぼう』でメダルを奪い、とっととドームへ――) 「パチリス、メロメロ!」 パチリスが相手にアピールする。 ---- (……メロメロ?  あれ、僕はまだポケモンを――) 途端に青ざめながら、スネ夫は振り返る。 グラエナがいた。 すっかり興奮した様子でパチリスを凝視しながら。 「し、しまったぁ!」 (まあずいぞ!すっかり出したままなのを忘れてた。  グラエナがメロメロにかかっちまった!  これではまともに戦えないな……いったん戻さなきゃ) ダラダラとよだれを垂らすグラエナをボールに収めながら、考え直す。 (こうなれば……絶えずミングの戦いを監視して  勝ちそうなところでグラエナと交代すればいい!) 「ほら、早く次を出しな!」 と、カラが催促してくる。 (うるさい奴だな……  兎に角次は……次は……!!  あれ、性別なんて図鑑ないから分からないぞ?) スネ夫は相手を『どく』や『ねむり』にするのが大好きだ。 弱っている相手を叩きのめせる……なんと楽しいことだろう! だがそれ故に、自分のポケモンが状態異常になることは嫌っていた。 『メロメロ』も『こんらん』も、すぐに対策を打たなければ気がすまないのだ。 だから手持ちにはいつもオスとメスのポケモンを入れておいた。 だけど――今、性別はわからない。 (こうなったら……50%の確立に賭ける!) スネ夫の思考が一つの答えを導き出す。 (50%で絶対に『メロメロ』を解いてみせるぜ!) 決心して、スネ夫はポケモンを繰り出す。 ----
[[前へ>挑戦者 その18]] ……やがてその場が澄み渡っていく。 ジャイアンの目にもはっきり映った。 ルカリオとアブソルが、重なり合って倒れているのを―― 「同士討ちか……」 ジャイアンは呟きながらルカリオをボールに収める。 ワンテンポ遅く、ササもアブソルを戻した。 「テッカニン!」「ストライク!」 繰り出された二体は互いに睨み合う。 (……何なんだ、こいつは) ササの思考が疑問を上げる。 ミヤのことを警察に突き出さなかったのも、ジャイアンの言ったとおり。 警察がミヤを捕まえてくれれば、それで済むと思ったから。 そして、ミヤは捕まり、その後脱獄した。 だから自分で制裁を―― (それは俺のわがままなのか……) 「テッカニン、きりさくだ!」 瞬間飛び込むテッカニンの先。 佇む相手に刃が触れる瞬間。 赤い光が、ストライクを包んだ。 「!?……え」 空を切るテッカニンの攻撃を見ながら、ジャイアンは目を見開く。 ---- 「終わりだ」 ササが一声告げ、銀のメダルが投げられる。 弧を描きながらそれはジャイアンの前に落ちた。 「すまないな。こんな戦いさせてしまって……  私は間違っていたようだ」 そう告げると、ササは立ち去ろうとする。 ジャイアンは銀メダルを拾い、そして 「待てよ!」 と一声掛けてササの元へ向かう。 振り返るササにメダルを突き出す。 「俺はいらないよ。  あんたも十分強かったからな!」 目を見開くササ。 ジャイアンは微笑みながら、返答を待つ。 すると、ササもにっと笑い、メダルを受け取った。 「私は先にドームへ向かおう。  お前も勝ち残れよ!」 ササはそう言って、山を降りていった。 「とりあえずは……助かったみたいだ」 ジャイアンは冷や汗を拭う。 (危なかった……俺の中で残っているのはテッカニンと……) ジャイアンはボールを確かめる。 コドラ、ルカリオ、テッカニンのボール、そしてその脇にもう一つ。 (こいつだけだ……) その問題児がもうすぐ日の光を浴びることになるとは、ジャイアンはまだ知らない。 ---- 東の山道―― 逆巻く『ほのおのうず』が木々を焚きつける。 燃え盛る炎が辺りを紅で包み込む。 戦いはどんどん激しさを増していく。 ふと、二体の巨石が宙に浮かび上がった。 (……『じゅうりょく』の効果が切れたんだ!) 舌打ちしながら、ユリはボールに手を掛ける。 (またハスブレロを戻してピッピを――) 「ハッハァ!!」 突如茂みから飛び出してきたスキンヘッズ。 ユリと、ユウトの視線もそいつに向けられた。 「俺の名はジョウ!  今さっきメダルを取られたリーグ関係者と出会ったぁ!  さあ、メダルを持っているのはどっちだぁ!?」 (!チャンス)「あっちよ!!」 ユリはすかさずユウトを指す。 「え?えぇ!?」 不意を突かれたユウトを後に、ユリは駆け出す。 ハスブレロもバクーダもしっかり戻して―― 「よおし、こっちだな!」 ジョウはにやりと笑いながらユウトの前に立ち塞がる。 「行け、カゲボウズ、コロボーシ、チェリンボぉ!!」 一気に三体のポケモンがジョウによって繰り出される。 「あいつからメダルを奪えぇ!!」 飛び掛るポケモンたちも、それを指揮するジョウ自身も気づいていなかった。 ユウトが笑っていることに―― ---- 「……ふう、危なかった」 大分駆けた所で、ユリは木に支えられて一息つく。 (あのままじゃ危険だった。  ダブルバトルのせいかしら。かなり強かった……  ま、速くドームへ戻っちゃえばいいんだけどね!) ユリは思考を切り替え、ドームへ向かっていく。 「……ちょっと聞きたいんだけどさぁ」 ユウトはメダルを弄りながら言う。 「な、なんだ……」 下敷きにされているジョウは、痛々しげに聞き返す。 辺りに散らばる三匹とも、ジョウのポケモン。 今は『さいみんじゅつ』のあとの『ほのおのうず』により瀕死状態。 「どうしてメダルを持っているのに僕のメダルを欲しがったの?」 「……あ、ああ。簡単なこと。  メダルを余分に持っておけば、もしも強敵に出会った時にも逃げられる。  そのほうがライバルも減らせ……ぶっ!」 ユウトはジョウの顔を足蹴に地面に降り立つ。 「ふうん。やっぱりそうか」 頷くユウトの後ろで、ジョウがゆっくり立ち上がる。 「こ、の……くそ野ろ」「さいみんじゅつ」 ルナトーンの目が光り、ジョウは白目をむいて倒れた。 「やっぱり、同じことを考える人もいるんだねえ」 ユウトの弄ぶメダルは二つあった。 両方とも銅色のメダルだ。 ---- 少し時間を戻し―― ドーム入り口―― (しめしめ、現れたぞ……) スネ夫は段々と近づいてくる男を見つけた。 間違いなく銅メダルを持っている。 (あと少し……もうちょい近づいたら……) 男はにこやかに笑いながら走っている。 恐らく早い内にメダルを取れたことがうれしかったのだろう。 (ふふ、すぐに僕のになるけどね~!) 男とドームの間には何も無い。 スネ夫は静かに、グラエナの『どろぼう』が出来る範囲を考えた。 (もうちょい、もうちょい……今!) 「グラエナ、どろぼう!」 繰り出されたグラエナは四肢を唸らせて飛び込んでいく。 その黒い毛並みを凝視する男。 そして―― 「なに!?」 スネ夫が息を呑む。 グラエナと男の間に突然つるが伸びてきたのだ。 つるは男の体に結びつき、浮かび上がらせる。 グラエナもそこまで届かない位置に。 急いで辺りを確認すると、つるの先にマスキッパ。 それに二人の人影が見える。 (くそ!僕の獲物を!) スネ夫は物陰から飛び出した。 ---- マスキッパのつるに縛られた男は苦痛で呻いている。 「た、助けてくれー!!」 スネ夫がふと目をやると、男は左手の指を三方向に伸ばしていた。 (なんだあの手の形……癖かな?) スネ夫はまだ知らない。 もうじきこの左手の形に多大な恩恵を受けることを。 ただ、これは現実世界の話なので今は関係ない。 (そんなことより) 「グラエナ!つるをかみくだけ!!」 猛進するグラエナの牙に捕らえられ、つるはブチブチと切られた。 解放される男はバランスを保つ。 「少年、ありがとう!!」 男はスネ夫に礼を言う。 見るとやっぱり、左手の指が三方向に。 「あの、いったいそれは何――」 「つるのムチ!」 鋭い声が届く。 同時に緑のつるがスネ夫と男の間を突き刺す。 スネ夫が目を向けると、二人の女が走ってきているのがわかった。 (くそ、あいつら諦めてないな……  !!そうだ、こうなったら) 「あの、あなた名前は!?」 なるべく切羽詰った風で、スネ夫は男に聞く。 「ああ、少年。名乗るのが遅れたね。  私の名前はミング。  しかしてあの連中はいったい?」 「ミングさん。  あいつらはあなたからメダルを奪おうとした悪い奴らです!」 ---- 二人の女はスネ夫たちと対峙した。 マスキッパを連れているのは、和服姿の女。 もう一人は短い金髪をたなびかせている。 「やい、お前ら!メダルを取ろうとしたな!!」 (よし、これで!) 「まさか仲間がいたとはね……」 声を出したのは金髪の女。 「サエ!やっちまいな!!」 「マスキッパ、さっきの男を捕らえて!」 サエと呼ばれた和服女は指示を出す。 つるのムチがミングの周りを旋回し、そして―― 「ライボルト、ほのおの牙」 ミングの繰り出すポケモンが、つるのムチを焼き切る。 「カラ、そっちは任せたよ!」 サエは金髪の女に告げ、ミングと向かい合う。 カラと呼ばれた方の女はポケモンを繰り出した。 静電気を弾けさせながら現れた、小柄な白い体。 でんきりすポケモン、パチリスだ。 (ふふふ、やったぞ!  ミングは完全に僕のことを味方だと思ってる!) スネ夫は笑いを堪えながら、勝利への算段をした。 (なんとか一対一に持ち込めたんだ。  ミングはきっと勝てるだろう。  油断しているすきにグラエナの『どろぼう』でメダルを奪い、とっととドームへ――) 「パチリス、メロメロ!」 パチリスが相手にアピールする。 ---- (……メロメロ?  あれ、僕はまだポケモンを――) 途端に青ざめながら、スネ夫は振り返る。 グラエナがいた。 すっかり興奮した様子でパチリスを凝視しながら。 「し、しまったぁ!」 (まあずいぞ!すっかり出したままなのを忘れてた。  グラエナがメロメロにかかっちまった!  これではまともに戦えないな……いったん戻さなきゃ) ダラダラとよだれを垂らすグラエナをボールに収めながら、考え直す。 (こうなれば……絶えずミングの戦いを監視して  勝ちそうなところでグラエナと交代すればいい!) 「ほら、早く次を出しな!」 と、カラが催促してくる。 (うるさい奴だな……  兎に角次は……次は……!!  あれ、性別なんて図鑑ないから分からないぞ?) スネ夫は相手を『どく』や『ねむり』にするのが大好きだ。 弱っている相手を叩きのめせる……なんと楽しいことだろう! だがそれ故に、自分のポケモンが状態異常になることは嫌っていた。 『メロメロ』も『こんらん』も、すぐに対策を打たなければ気がすまないのだ。 だから手持ちにはいつもオスとメスのポケモンを入れておいた。 だけど――今、性別はわからない。 (こうなったら……50%の確立に賭ける!) スネ夫の思考が一つの答えを導き出す。 (50%で絶対に『メロメロ』を解いてみせるぜ!) 決心して、スネ夫はポケモンを繰り出す。 ---- 「行け、チルット!」 スネ夫はポケモンを繰り出す。 雲のような翼が、光と共に現れた。 (確立は50%……当たってくれよ) スネ夫はカラのパチリスから目を離さなかった。 「パチリス、メロメロ!」 (来た!) パチリスのアピールが、チルットの目を釘付けにする。 (チルットがメスなら『うたう』で粘るしかない。  でもオスなら……) すると、チルットは目つきを変えた。 明らかに好意的な目で、パチリスを見ている。 (当たった!チルットはオスだ) 「オウムがえし!」 ここで技が出せる確立は50%。 一瞬の間――そして チルットのアピールが始まった。 「!!く、これは」 カラが舌打ちする間に、パチリスは『メロメロ』にかかる。 (これであいつのお得意の『メロメロ』戦法を封じたわけだ。  元来パチリスは攻撃型のポケモンじゃない。  大方、『メロメロ』で相手の自由を奪い、その後しどろもどろしている内に  技を繰り出し、『とっておき』でしめる手筈だったのだろう。  でも、それもパチリス自身が自由を奪われたことで台無しだ!) スネ夫がにやついてるうちに、カラがパチリスをボールにしまう。 「ふん、いやな顔してるね……でもすぐに――」 カラの台詞は、二人の間に人物が飛んできたことによって遮られた。 ---- 「ミ、ミングじゃないか!」 スネ夫は駆け寄り、確認した。 「ああ、すまん。負けてしまった……」 ミングは情けなく呟いた。 「カラ―!メダルゲットしたよー!」 と、サエが明るく言っている。 「ミング、お前……」 (強いんじゃねーのかよ!こんなに早く帰ってきたからてっきり) 「さ~て、次はそっちだな!」 心で悪態をついてたスネ夫も、カラの言葉で息を呑む。 「ま、待ってくれ!  僕はメダルを持ってないんだ!」 スネ夫は必死で弁明するスネ夫。 「え?でもそいつと仲間なんじゃ」 「仲間?しらねーよこんな奴!」 スネ夫はミングを足蹴にする。 「お前らと同じだよ!  ここに来た奴らのメダルを取ろうとしたんだ!!」 (くそぅ、なんでこうなるんだ……) スネ夫はカラと一緒にテンセイやまへ走っていた。 「いいか、まず見つけたら僕んだからな!」 「何言ってんだい。  先に取ったモン勝ちに決まってる!」 言い合いながら、二人は駆けて行く。 その隣の道で、ユリがドームへ向かって駆けていた。 ---- 「――これで足りるわね」 山中で、トレーナーからメダルをもぎ取る少女が一人。 源静香――たった今手に入れたのは五枚目のメダル。 「くそ、覚えてやがれ!」 典型的な敗者の台詞を吐きながら、相手が駆けていった。 (ふふ、勝手に帰ってくれた。  ねむりごなをかける手間が省けたわね) しずかは振り向き、彼らの元へ向かおうとする。 「どろぼう!」 どこかから聞こえてくる指示。 枯れ草を連踏する音。 「キレイハナ、くさむすび!」 足元で、キレイハナが地面に手を添える。 背後で何かが倒れた。 振り返るしずか。 目に映ったのは息を切らせたグラエナだ。 (人のポケモンね) しずかはそれを確認し、キレイハナに指示を出す。 「あまいかおりよ」 空気が花の匂いで満たされていく。 動物なら誰でも寄ってみたくなる匂い。 ただ、この後起こることは、しずかにも予想外だった。 ---- 「あう~、何かおいしそう~」 「ば、馬鹿兄貴、顔出すな!」 右の茂みから騒動が聞こえてくる。 咄嗟に振り向くしずか。 同時に茂みから人物が出てきた。 (に、人間?) しかも最初の太目の少年に続いて、もう二人。 ボサボサ頭の少年と、メガネの少年だ。 (な、何この三人組……) 多少引くしずかを尻目に、三人はゆっくり起き上がって―― ところ変わって、リーグ本部―― ドラえもんは裏口を開ける。 「開いたね……ここが本部で合ってるよね?」 ドラえもんは密告者に確認した。 「ああ、その通り」 「あたしが覚えている通りだと、ここが本部よ。  ギンガ団のね」 密告者は二人。 「そう……なんでリーグ開催してるのかは後にして  入ってみるよ。  スネツグ。ジャイ子」 ドラえもんの後ろで、二人は頷く。 「へへ、有難いよ。これであいつをぎゃふんと言わせてやれる」 「死んだ茂手夫さまのためにも、絶対出木杉を見つけてやるわ」 ドラえもんは安心した。 やっぱりこいつらを連れてきて正解だった――と。 [[次へ>挑戦者 その20]] ----

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