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[[前へ>ミュウ その10]] -『雨』 『何だこの建物……黒男内科?』   ママは商店街外れの廃墟の様な建物に入って行った。 見た目はボロボロで人が住んでる様には見えないが、 屋根には錆び付いた看板がしっかりとついている。 どうやらこの建物は私営の内科のようだ。 のび太は怖いのを我慢して建物に近づき、窓から中を覗くことにした。 すると中から声が…… 「待ってたよ。久しぶりだな、玉子」 「のび助さん……いったいどこに居たの?心配してたのよ!」 『玉子はママの本名……あれは!?』 玉子と話していたのは、パパこと野比のび助だった。 だが、何かがおかしい…… パパもママも……どこか暗い表情をしているのだ。 しかし、そんなのび太の心配をよそに、二人は隣の部屋へ入っていった。 『あっちには窓が無い……こうなったら!』 のび太は窓を開け、中へと侵入した。 一瞬、受付のナースに気づかれたかとも思ったが、 何とか気づかれずに中に侵入することが出来たようだ。 そして、のび太は部屋の会話を聞くため、ドアに耳を当てた。   「先生……本当にどうにもならないんですか?」 のび助が震える声で聞く。 「悪いな。いくら俺にも出来ないことはある……諦めてくれ」 「でも!」 「奥さんと最後の思い出でも作るんだな。 奥さんの寿命の……残りの2ヶ月間」 えっ? のび太の思考が止まった。 ---- ザーッザーッ 気づけば外は大雨になっていた。 二人は内科を出て野比家の前まで来ていた。 「それじゃあ……のび太のこと頼んだわよ」 「ああ……安静にしてろよ。必ずお前は俺が助けるから」 玉子の目にうっすらと涙が浮かぶ…… 二人は軽く唇を重ね、玉子は家の中へ入っていった。 『後……二ヶ月か』 今まで……二ヶ月何てかなり早く感じていた。 いつもの様に起き、髭を剃って朝食を食べた後駅まで走る。 変わらないこの日常に充分満足していた。 そう……変わらない日常に……   変化はある日急に訪れた。 いつもの様にのび太が朝食も食べずに学校へ行くのを二人で見送った後の出来事…… 「まったく…のび太の寝坊ぐせはどうやったら治るのかしら」 「ははっ、暖かい目で見守ってやろうよ。 僕も昔は良く寝坊をして怒られたものさ」 「そうね…ゴホッゴホッ」 「玉子?体の調子が悪いのか?」 「ええ……先月からゴホッゴホッ…ゴホッゴホッ!」 「お…おいおい、病院に行った方が良いんじゃないか?」 「ゴホッ、そうね…そう…する……わ」 バタッ 「玉子!おい、玉子!おい!返事をしろ!」   あの日からもうすぐ半年が経つだろうか。 あの日……玉子の体が原因不明の病魔に侵されてることを知った。 そして医者は言った。 その病魔は日本で治すことは不可能で、 治すにはアメリカに行き、ワクチンを射つしか無いと…… ---- 「……パパ」   ドームへ向かっていた俺を、雨の中一人で待っていたのび太が呼び止めた。 雨で全身がずぶ濡れで体が震えている。 だが、その目は俺を真っ直ぐに見つめていた…… 「のび太……風邪…ひくぞ」 「パパ……僕知ってるんだよ。ママのこと」 「そうか……」 「他に……言うことは無いの?ごめんとか……嘘だ……とか」 「……………」 俺は何も答えられ無かった。 どんなに隠したって……これは事実なのだから…… ギュッ のび太が俺の腰に抱きついた。 冷たい…… 雨のせいもある……だが、何か違う。 何か違う……冷たさ…… 「ママが……ママが居なくなる何て嫌だよ!…」 のび太は抱きついたまま大声で泣いた。 まるで赤ん坊の頃に戻ったように…… 俺は持っていた傘を捨て、のび太を両手で強く抱き締めた…… 明日、自分と戦うことになる息子を…… 雨に濡れることも気にせず強く……強く抱き締めた。 大粒の涙を流しながら…… ---- -のび太VSパパ 前編 『世界が変わる数ヶ月前:深夜2時』   スーッ… 音も立てずタンスが開く。 そして、熟睡しているドラえもんに近づく男が一人… 「ねぇ、ドラえもん。起きてよ、ねぇったら!」 「ぐふふ……ミーちゃん…そこは違うよ……」 僕の名前は野比のび太。 未だに一人でトイレに行けないシャイボーイだ。 今日もドラえもんにトイレに付いてきて貰おうと、 熟睡中のドラえもんの体をユッサユッサと揺らしている。 だが、今日のドラえもんは一味違う様だ。 とても心地良い夢を見ているのか、僕の行動は全て失敗に終わってまった。 「良いよもう!一人で行くよ!」 僕は勇気を振り絞り、一人でトイレに行くことを決意した。   「……ひぃっ!」 ギシギシと階段が揺れる。 こう言う時の階段はやたらと怖いものだ。 『後ろには誰も居ない後ろには誰も居ない』 必死で自分にそう言い聞かせながら、僕は何とか階段を下りきった。 カタカタッ カタッ ドクンッ! 心臓が一瞬飛び上がる。 居間から何か物音がしたのだ…… 「だ、だだだだれか居るましゅですか?」 そう言いながら居間の扉を開けた。すると…… 「ひぃっ!…………パパ?」   僕の目に映ったのはパソコンの前に座るパパの姿だった。 ---- 「のび太!…どうしたんだこんな夜中に」 「トイレだけど……パパは何やってるの?  何でこんな夜中にパソコン何か……」 パパは僕の言葉に焦っていた様だが、少し考えた後口を開いた。 「のび太、2ちゃんねるって知ってるか?」 僕はうなずいた。 昨年流行ったドラマ「電波男」内に出てきたこともある有名なサイトだ。 学校でもあの独特の喋り方が一時期流行り、ダイパが発売した時も、 スネ夫が「アルセウスの入手方2chで知ったもんねw」 とか言っていた(何故かスネ夫はアルセウスを見せてくれなかったけど) 「2chがどうかしたの?」 「実はなのび太……  俺は……2chの常連何だよ。俺は2chオタク何だ」 「え?……」 言葉が止まる。今目の前に居るパパが。 このパパが2chオタク?ウソだろ…… 「ママには内緒だぞ。  毎晩こうやって2chのモー娘板を見るのが俺の生き甲斐なんだ。  俺の楽しみを奪わないでくれ……頼む」 僕は無言で居間から出ていった。   僕はそれ以来パパの近くに寄らなくなった。 何かその……キモかったから ---- 僕は控え室でそんな昔のことを思い出していた。 『俺は2chの常連なんだ』 あの言葉。 今考えると、パパの必死の言い訳だったのかも知れない。 パパは僕に頼まれれば2ch用語で喋っていたが、 普段は普通に会話し、2chの話題など出したことが無いのだ。 昨日、パパからママの話を聞いた。 ママの病気のことが分かったのは9ヶ月前。 ママの病気は、まだ日本では研究が進んでいない病気で、 治療に必要なワクチンを手に入れるには、アメリカの大病院に行くしかないらしい。 だが、アメリカに行く費用、高価なワクチンの入手、手術料。 お金が足りないのは明らかだ。 ママを助けたいと言う気持ちはある。 だが、気持ちだけでは奇跡など起こらない。 では、パパはこの9ヶ月間何をしていたのだろうか…… そして、僕はある1つの答えにたどり着いた。 『インターネットでの治療方の検索』だ。 パパはきっと睡眠も取らず、インターネットで治療方を調べていたのだろう。 僕があの時見たのは、「夜中に2chで遊ぶパパ」ではなく、 「妻の為に夜中まで働くパパ」の姿だったのだ。 しかも、僕に心配をさせない為にあんなウソまでついて…… 僕は自分が情けなかった。 尊敬すべき父親を避けていた自分が……情けなくてしかたがなかった…… ---- 「ルギアサイド、のび太選手!」   司会のいつもの言葉で僕は入場した。 パパが腕組みをして僕を待っている。 「この戦いには特別ルールが導入されました。  壁から少し離れてください。……スイッチオン!」 ガコンッ! 大きな音を立てながら周りの壁に変化が起こり始めた。 壁が黒い鉄板に包まれ、その板が赤く光り始めたのだ。 ---- 「これって…」「のび太、触るんじゃない!」 壁に触れようとした僕の手が止まる。 そして、パパはポケットの中からライターを取りだし、 壁に向かって勢い良く投げつけた。   バリバリッ! ライターは音を立て黒コゲになり、地面に落ちた。 「やっぱりな……この壁には高圧の電流が流れてる。違うか?司会者」 「すいません、言い忘れていました。  この壁には約20万ボルトの電流が流れています。  あまり長時間触れているとポケモンでも死んでしまいますよ」 20万ボルト。 気軽に言ってるが笑っていられる物ではない。 ピカチュウの技は10万ボルトとは言っても、せいぜい1000ボルト程度だろう。 アメリカの死刑に使われる電気イスでも最高2000ボルトだと言われている。 20万ボルトの電流などくらったら、間違いなく人は死んでしまうのだ。 僕は血の気が引いていくのを感じた。 「のび太……準備は良いか?  こんな仕掛けに驚いてる様じゃまだまだだぞ」 パパは冷静にそう言う。 『パパの言う通りだ』 僕はそう思い、前に一歩踏み出した。 「パパ、悪いけど……この勝負僕が勝つ!」   僕とパパは同時に腰のモンスターボールを手に取った。 ---- フィールドにピカチュウとウィンディが現れた。   「ウィンディ、高速移動!」 現れてすぐにウィンディはピカチュウに飛びかかった。 だが、ピカチュウはそれを影分身で避け、ウィンディの周りを囲む。 「ウィンディに電磁波!」 「ウィンディ、上にジャンプしろ!」 ウィンディは空中に飛び上がり、電磁波を避けた。 「ウィンディ、地面に大文字!」 大の文字の形をした炎にピカチュウ達は包まれ、フィールドから姿を消した。 地面に着地したウィンディは訳が分からず困惑する。 「今だ、ピカチュウ!」 「甘いぞ、のび太!ウィンディ、後ろに下がれ!」 地面からピカチュウが飛び出し、ウィンディを攻撃した。 だが、ウィンディはそれを紙一重で避けた。 「ウィンディ、フレアドライブ!」 完全に隙を突かれたピカチュウはウィンディの一撃を避けれず、 フィールドの端の壁の近くまで吹き飛ばされる。 「ピカチュウ、電光石化で体勢を戻せ!」 ピカチュウはギリギリの所で壁に当たるのを防いだ。 「大文字!」「10万ボルト!」 炎と電気がぶつかり、お互いに攻撃を打ち消しあった。 ---- 『パパはやっぱり強い!  間違いなく今まで戦ってきた相手の中で一番の強敵だ』 「どうしたのび太?  来ないなら…こっちから行くぞ!」 ウィンディが高速移動でピカチュウとの距離をつめる。 『まずい、後ろにはあの壁が……』 「ピカチュウ、アイアンテールで吹き飛ばせ!」 ピカチュウの勢いある攻撃がウィンディに当たった。 この試合初めての攻撃のヒット。 だが、気を抜く暇は無かった。 「ウィンディ、大文字!」 大きな炎がピカチュウに迫る。 「ピカチュウ、電光石化で炎の真下に飛込め!」 ピカチュウは大文字の小さな隙間に飛び込み、大文字を避けた。 「しまっ…」 「ピカチュウ、そのまま電光石化!」 その一撃でウィンディは吹き飛んだ。 「良し、ピカチュウ。そのままウィンディを電光石化で追え!」 吹き飛ぶウィンディの横にピカチュウが追い付く。 「まずいぞウィンディ!早く体勢を直せ!」 ウィンディは体勢を直そうと体を動かす。 だが、ピカチュウと違い体の大きなウィンディには無理なことだった。 「ピカチュウ!アイアンテールでウィンディを壁に叩き付けろ!」 ピカチュウのとどめの一撃により、ウィンディは壁に直撃した。 そして、電流に焼かれたウィンディは、その場に倒れこみ、動かなくなった。 ---- 「ピカチュウ、戻れ」 ウィンディに勝ったピカチュウだが、少し疲労している様だったので、 のび太は一度ボールに戻し、ピカチュウを休ませることにした。   その様子を見ていたパパは少し笑い、話し始めた。 「のび太、成長したな。  あの特訓で、以前のお前には無い冷静さが身についたようだ」 のび太は久しぶりにパパに褒められたのが、かなり嬉しかった。 だが、のび太はそれを顔には出さず控室での自分の考えを話した。 パパは、本当は2chオタクではなく、 あの時ネットでママの病気の治療方を調べていたのでは無いかと……   のび太が話している間パパは黙ってのび太の話を聞いていた。 そしてのび太が全ての話を終えると、悲しそうな表情で口を開いた。 「正解だ。あの時俺はとっさにウソをついた。  お前に心配をかけない為にな……」 『やっぱりそうか……』 「だが、お前はまだ気づいてないことがあるぞ、のび太」 『えっ……』 のび太は予想外のパパの一言に驚き、はっと前を向いた。 「……気づいてないことって?」 「俺に……町が変わる前の記憶があるってことだよ」 ---- パパの一言に会場の静まりかえった。 司会が慌ててフォローするが、パパは話を止めない。 「ウソ……でしょ?どうしてパパに…そんなこと…」 「のび太、良く考えろ。  この世界ではインターネットが使えなくなってる。  なのに何で俺は2chやインターネットのことを知ってるんだ?」 ……そうだ。 この世界では他の町への通信手段が全て使えなくなっている[[(wiki①参照)>ミュウ その1]]。 パパがインターネットをやれるなど有り得ないことなのだ。 でも……何で…… 「何で……パパはこの町が変わったことを知ってるの?  あの時部屋に居なかったはずなのに……」 「あの時、二階からドタバタと音がしてうるさかったからな。  俺はお前らを注意しに行ったんだ。  そしたら以前見たことがあるドラえもんの道具 「もしもボックス」の周りに集まっているお前らを見つけたんだ。 「何やってんだ?」と言おうとしたら…… まぁそこからはお前が一番分かるよな?のび太」   もしもボックスの効果。 もしもボックスの半径数メートルに居た者の記憶は変わらない。 つまり扉の隙間から部屋を覗いていたパパの記憶も、変わらなかったのだ。 ---- 「じゃあ……パパは世界が変わったことを知っていてこの大会に出たの?」 パパは無言でうなずいた。 「どうしてだよ!この大会が罠だってことくらい分かるだろ!」 「……のび太。世界が変わった後何があったと思う?  出木杉が俺に会いに来たんだ」 『まさか……』 のび太の頭に最悪の考えよぎる。 「出木杉はこの大会で優勝出来れば玉子の病気を直すと約束したんだ。  あのミュウの力を使ってな」   その頃VIPルームの出木杉はミュウと共にこの戦いを観戦していた。 部屋中に響く程大きな声で笑いながら…… 『クソッ、まさか出木杉がこんなことまでしてる何て……』 ミュウはただ自分の失敗を悔み、拳を固く握ることしか出来なかった。 ---- ブォン!!!   ハッサムの拳が、空を斬った。 ハッサムの周りを、何十匹ものオレンジ色の生き物が囲んでいる。   その生き物はライチュウ。 パパの二番手であり、その圧倒的なスピードでハッサムを翻弄している。 影分身で分身出来る数は、普通15、6匹。 だが、このライチュウはその数倍の数の分身を作り出していた。   のび太の顔を汗が流れる。 『何てスピードだ!  こんなスピードじゃ攻撃を当てる所か、狙いを定めることも出来ない!』 「ライチュウ、アイアンテール!」 数十匹ものライチュウのシッポが光り出し、 中央で身構えるハッサムに一斉に飛びかかった。 「いくら数が多くても本物は一匹、攻撃も一回だ!  守るで防げ、ハッサム!」 ガキィィィッ!!   大勢が突撃する見た目と裏腹に、 一発耳障りな金属音が、ドーム内に響くだけで攻撃は終わった。 「良い判断だ」 パパが評価する様に、のび太に言う。 だが、のび太からは今までに無い反応が返ってきた。 「ハッサム、パパに向けて破壊光線!」 「!? ライチュウ、俺を守れ!」 素早くライチュウがパパの前に現れ、破壊光線を代わりに受けた。 破壊光線の威力で軽く後ろに仰け反ったライチュウだったが、まだ戦う体力は残っているようだ。 ---- 「のび太……何の真似だ!」   パパが今までに無いほど冷たい声でそう吐いた。 その目は鋭く、子供を見る目では無い。 だが、のび太も負けないほど鋭い目で睨み返した。 「こうすれば本物のライチュウが分かるだろ?  ライチュウのスピードなら、パパを守りきれるだろうしね。  あと……  僕の指示を評価するのはもう止めろ!」   あまりの声の大きさにパパは驚いた。 だが、さらにのび太は言葉を続ける。 「どうして今まで仲間みたいに接してきたんだよ!  パパは…パパは出木杉の仲間なのに!」 のび太の震えた声がドームに響く。 その声を聞いたパパは、のび太を指さし、静かに言った。   「ライチュウ、雷だ」   驚く間も無くのび太の頭に電流が落ちる。 薄れる意識の中のび太は見た。 涙に濡れた……パパの顔を ---- 「終わったな……」 パパは、そう一言を吐き後ろを向いた。 「待て!」 短い一言がパパの足を止める。  のび太だ。 のび太はふらつきながらも立ち上がり、身構える。 「次は……電圧を最大にして撃つぞ!のび太!」 冷酷な一言。 もはや親子とは思えない会話がドームに 伝わる。 「撃ってみろよ。  撃った瞬間破壊光線がパパに直撃するぞ」 ハッサムの左腕がパパに向けられる。 緊張で喉が渇いてきた。 一瞬の油断でこの試合にピリオドが打たれる。 そう思うと自然に観客までもが、身構えてしまっていた。   カコーン!カコーン!コーン!コーンコン… 誰かがメガホンを落とした音。 静かなドームにそんな小さな音が響き渡る。 だが、その音を合図にするかのように、ドームの静寂は破られた。 「雷!」 太い電気の線が地面に落ちる。 だが、のび太に落ちた訳ではなかった。 「ハッサムか!」 そう。 ハッサムがメタルクローを上に上げて、 避雷針の役目をしたのだ。 ハッサムは焦げ付いた体を動かし、ライチュウに迫る。 だが、ライチュウは、さっきの巨大な雷の反動でしびれて動けない様だ。 「メタルクロー!」 ハッサムの精一杯の攻撃が、ライチュウの腹にめり込んだ。 ---- 一発目の破壊光線はオトリ。 二発目は、破壊光線を撃つと思わせて撃たない。 完全に作戦負けだ。 冷静にならず、実の息子を殺そうとする何て…… 俺は……父親失格だ。   「パパ!」 のび太の一言でパパは気づいた。 まだライチュウが力尽きていないことに…… ライチュウは必死で立ち上がり、パパの方を向く。 『ライチュウ…』 「ライチュウ…ヴォルテッカーだ!」 ハッサムに向かって、電流を帯びたライチュウが走り出す。 「ハッサム、ギガインパクトで迎え撃て!」 最大パワーのライチュウとハッサムが中央で交わった。 轟音が響き、ドームの中央が白い煙に包まれる。   「ハ、ハッサム……」 煙が晴れるとそこにはハッサムがボーッと立っていた。 ライチュウの頭を腹に刺したまま…… だが、ライチュウもその体勢のまま動く気配が無い。 「ハッサム、砂嵐だ」 ハッサムは最後の力を振り絞り、巨大な砂嵐を起こしフィールドに倒れた。 そして……ライチュウもまた、その場に倒れて動かなくなった。 「ピカチュウ、もう一度頼むぞ!」 再びピカチュウが現れ、戦闘体勢を取る。 「この試合を……終わらせてこい、カイリュー!」 ---- 『2ヶ月前』 最近、町にある1つの噂が広まっている。 ドーム周辺にまだ駆け出しのトレーナーのくせに、 プロのトレーナーに挑む小学生が居ると言う少し変わった噂だ。 その噂のせいで、 ドーム周辺にはその小学生を一目見ようとする野次馬や 小学生なら勝てると考えた 性格のねじ曲がったトレーナーが大勢集まっていた。   「おーい、しょうねぇん。生きてるかぁ?」 返事が無い。ただのメガネの様だ。 「まぁ、連れてくかな」 ズリッ ズリッ……ズリッ   「……………はっ!、先生ごめんなさい!」 のび太は気づくと暖かい布団の中に居た。 少し狭い南国風の部屋。 少し先では老人が料理を作っている。 「起きたか?じゃあ、メシにしよう!」 「?」 状況が飲み込めないのび太。 だが、今ののび太にとってそんな疑問どうでもよかった。 のび太が今一番満たしたいのは、この鳴り止まない腹なのだ。 「う、うまい!」 久しぶりの温かい食事。 体の芯まで温まるのをのび太は感じた。 「旨いじゃろ?これはわし特性ゼニガメ汁じゃ」 「えっ?……」   久しぶりの温かい食事。 それは忘れられない小学生の頃の思い出となった。 ---- 「ふわぁぁぁ……良い天気じゃのう…」 「バナバナぁ」 ボリボリと背中を掻く老人。 その横では萎れたフシギバナが日光浴をしている。 「ピカチュウ、10万ボルト!  ストライクは峰打ちだ!」 急に現れた二体のポケモンが老人に攻撃する。 「まだまだじゃのう…」 その瞬間フシギバナの体から無数の触手が飛び出し、 二体の攻撃を一瞬で打ち消した。 「うわぁぁぁぁっ!」 残った触手は、のび太を空中に吊り上げ、動きを奪う。 「ホッホッホ。今日で3日目。  タイムリミットまであと2日しか無いぞ、少年」   事の始まりは3日前。 この謎の老人に助けられたのび太は、老人に「ゲームをしないか」と誘われたのだ。 ゲームの内容は簡単。 5日以内に老人の体に一撃でも攻撃を加えればのび太の勝ち。 攻撃出来なければのび太の負け。 のび太は、助けられた側と言うこともありしぶしぶゲームを始めた。 だが、このゲーム。予想以上に難しい。 と言うよりも、この老人めちゃくちゃ強い! この3日間、のび太は老人が寝てる時でさえ攻撃を加えることが出来なかった。 ---- 「何が足らんか分かるかの?少年」 老人は、のび太を吊り上げたままの状態で問う。 「足りないって?…何が?」 老人はヤレヤレと言った様な顔をし、一言だけ言った。 「逝ってこい」 ブォン! 「ああああぁぁぁぁ!」 ヒュー ドスン! 勢い良くツルに投げられたのび太は柔らかい砂の上に着地した。   「イチチ…何だここは?」 その問いの答えは、すぐに分かった。 理由は1つ。 周りに大量のヒポポタスとカバルドンが居たからだ。 「ここは……裏山のふもとのカバルドンの巣じゃないかぁ!」   その頃、老人は一人茶をすすっていた。 ---- カバルドンが大きな口を開け威嚇する。 それと同時に砂嵐が起き始め、のび太の視界を奪った。 どうやら、さっきまで居た家は裏山のふもとの近くだったようだ。 のび太は周りを見渡して逃げる方法を必死で考える。 『逃げる?どこにだ?』 のび太は気づいた。 こんな視界が悪い 状況じゃここから脱出なんて出来る訳ないと。 《何が足らんか分かるかの?》 あの老人の言葉。 もしかしたらここで戦えばこの言葉の意味が分かるかも知れない。 そして、のび太は腰の2つのボールを手に取った。   「かかってこい!お前らをカバ焼きにしてやる!」 ---- ゲーム開始から5日目。 最近続いていた青空とは異なり、空には曇雲が漂っていた。   「こりゃあ一雨来るのぅ。  いや……それよりも先に小さな客人が来たかの。  違うか?そこの茂みの少年よ」 ガサッ! 茂みの中から少年が飛び出す。 だが、それより先に触手が前を塞ぎ、のび太の体をまた吊し上げた。 「ホッホッホ、甘いのぅ」 老人は満足げにのび太を見る 。 のび太の顔は……笑っていた。 「!?」 周りを砂が混ざった風が覆う。 「ホホッ、どうやら分かった様じゃのぅ!  だけど……砂嵐を起こす程度じゃわしは倒せんぞ!」 砂の中からピカチュウが飛び出す。 しかし、意表は突いたが簡単にフシギバナの触手に捕まってしまった。 ニヤニヤ笑う老人。 だがその時、笑顔を奪うかの様な風が老人を襲った。 「うおぉっ!危ないじゃないか!」 辛うじて避けた老人。 だが、その老人の上にはストライクが鎌を向け、立っていた。 「……ギブアップじゃ」   のび太は満足そうに地面に下り、 ストライクに老人の上から退くよう支持を出した。 「騙されましたね。ストライクは砂嵐何て使えません。  さっきの技は銀色の風です」 ---- 「さぁ何をくれるんですか?」 「はぁ?何言ってるんじゃ?」 『そう言えば……そんな約束して無かったぁ……』 『10分後』 「まぁ、そう泣くな、少年」 「だってぇ…何の為に僕はぁ……」 「でも分かったじゃろ?足りないこと」 のび太はあえて何も言わなかった。 どうせこの老人は、言葉にしなくても全て分かっていそうだから。 「それじゃあ…僕行きますね」 「待った!ちょいとストライクのボール貸してみろ」 老人は強引にボールを奪い取ると、家の中に消えて行った。   「ほいよ」 ボールの中からハッサムが飛び出す。 「ありがとうございます!」 「それとこれは、砂嵐の技マシン。お主なら上手く使えるはずじゃ。  わしが教えることはもう何も無い。後はとにかく戦い続けろ。  バトルで最後に身を結ぶのは……経験値の量じゃ」   その日から町には新たな噂が流れ始めた。 上級トレーナーを狩る、砂嵐を巧みに使う少年トレーナーが現れると言う噂が…… ---- 「くっ、何て嵐だ!」 砂嵐がパパの視界を奪う。 この砂嵐、通常よりかなり風が強く、例えるなら規模を小さくした台風。 きっと、一般人なら目を開けることも出来ないだろう。 だが、メガネの奥ののび太の目はしっかり捉えていた。 フィールドのカイリューの姿を。   「ピカチュウ、アイアンテール!」 カイリューの悲鳴がドームに響く。 ピカチュウは攻撃すると、直ぐ様砂嵐の中に消え、その姿を隠した。 「なるほど……お前のピカチュウ。  砂嵐の中での戦いに慣れているな。だけど、このカイリューは一味違うぞ」 パパはそう言うと、周りの砂嵐を見渡した。 ガリッ 「そこだ!カイリュー、竜巻!」 カイリューが羽をバタつかせると竜巻が現れ、砂嵐の一部分を弾き飛ばした。 砂嵐のあった場所に居たピカチュウは、驚きの表情でカイリューを見る。 「砂壊光線!」 パパはピカチュウを指さし、そう叫んだ。 「まずい!ピカチュウ、電光石火で避けろ!」 ピカチュウが素早くカイリューの頭上へと移動する。 だがカイリューの光線は発射されなかった。 「悪いな、のび太。俺はさっき砂壊光線と言ったんだ。  今から言うのが本当の破壊光線の指示だ」 「しまっ…」「破壊光線!」   破壊光線はピカチュウに直撃し、一撃でピカチュウを瀕死にした。 ---- ハッサムが倒れ、ピカチュウも倒れた。 後は切り札のホウオウのみ。 だが、今回の戦いでホウオウを使うことは、なるべく避けねばならないことだった。 「のび太、どうした?ホウオウを早く出すんだ」 パパがわざとらしくそう言う。 パパはもう気づいてる。 ホウオウでは、カイリューには勝てないと言うことに…… 『もう、あの作戦しか……』 僕は決意を固めた。 投げたボールからホウオウが飛び出す。 その体は、砂嵐に隠れてもなお、美しさを保っていた。 「のび太、お前は良く頑張った。  だが、ここまでだ。カイリュー、雨乞いをしろ!」   ドームの上空に雨雲が現れ、雨を降らす。 その雨は、砂嵐で生まれた砂を泥に変え、フィールドの地面を泥で埋め尽くした。 『後は……もう簡単だ。  ホウオウに雷は効果抜群。そしてこの雨。雷は確実にホウオウを捉える。  この試合……悪いが俺の勝ちだ』   パパは目前の勝利を見据え、笑った。 ---- 「おかしい…」 パパは体に何か違和感を感じた。 そう、まるで足に軽い電流が流れている様な…… 「まさか!」 パパが前を見ると、のび太はホウオウの上に乗っていた。   地面に広がる泥、高電圧のフィールドの壁、電気の漏電…… このヒントが導く答えは1つ。 「そうか! この泥を流れて壁の電流が……」 バリバリッ! 音を発てて、泥の中を電流が勢い良く流れ込む。 「ありがとう…カイリュー」 まさに間一髪。 カイリューがパパを泥の中から救いだし、その背中にパパを乗せた。 だが、パパは気づいていない。 のび太がこのチャンスを狙っていることを…… 「パパ、カイリューの影に隠れて!」 「!?」 高速で接近するホウオウ。 パパを助けるので精一杯だったカイリューは、ホウオウの攻撃に反応出来ない。 「ホウオウ、鋼の翼!」 ホウオウは音も発てずカイリューを切り裂き、その意識は一瞬で吹き飛ばした。 「やった…うあっ!」バリッ! 安心したのび太。 だが、その瞬間のび太に雷が浴びせられた。   白眼を向いたカイリューがのび太達の前に立ちはだかる。 「のび太…まだ…だぞ」 ---- 「パ、パパ…」 「のび太、俺を気遣い危険が少ない技を選んだのが間違いだったな。  もう、これで終わりだ」 パパの指がのび太とホウオウを捉える。 降り続ける雨。……もはや逃げ場は0 張りつめた空気が間に流れ、二人の顔を強張らせる。 「のび太、頼む。負けを認めてくれ…  下は高電圧の電流が流れる泥沼。落ちたら命は無いんだ」 パパの最後の説得。 だが、のび太は負けを認めずこう言った。 「僕は今までずっとパパに守られて生きてきた……  泣き虫で人に頼ってばかりで……本当に情けなかった。  でも……でも今は違う!これからは僕がパパやママを、そしてみんなを守るんだ!  この試合僕が勝つ!」 『のび太…』 パパの目に涙が溢れる。 この試合、自分が負ける。そんな予感がしたのだ。 だが、パパは試合を止めようとはしなかった。 息子の成長を見守る為…親としての義務を果たすために。 「のび太、後悔しないな?」 無言でうなずくのび太。 カイリューの体に周りの粒子が集まっていく。 「これが最後だ…  カイリュー、最大及の雷!」   ドームを一筋の大きな閃光が走った。 ---- 『眩しい!』 観客は皆、雷の光で目が開けられず数秒間目をつぶっていた。 この数秒の間に何が起こったのか。 それを理解している者は、ドーム内にただ一人として居ない。 ただ、今分かることは ホウオウのクチバシがカイリューの腹に突き刺さっているとう目の前の現実だけ。 だが、さっきまで降っていた雨が止んでいることから、 今カイリューが瀕死の状態であることは充分理解出来る。   「のび太、お前いったい何をしたんだ?」 この数秒間の出来事が全く理解出来ないパパが、のび太に問いかけた。 確実に雷はホウオウを捉えたはず。 なのに……何故ホウオウはカイリューに攻撃を…… 「あの時……  ホウオウは僕たちがしゃべっている間、ずっとある攻撃の準備をしていたんだ」 「準備……そうか!」 「そう、ゴッドバードだよ。  あの時、雷の到達速度を上回るスピードで、 ホウオウはカイリューの腹に突進し、腹を貫いたんだ。  いくら雷でも高速で動く目標にあてるのは無理だしね」 のび太は誇らしげにそう話した。 その姿は、まるで父親に百点のテストを見せる子供の様だ…… パパはそんなのび太の姿を笑顔で見つめ、ある決意を固めた。 ---- 「のび太……頼みがある」 いつになく真剣な顔でパパは話す。 「パパ……どうしたの?改まって」 「これからも玉子を……ママを守ってあげてくれ」 そう言うとパパは思いきり足を振り上げ、カイリューに叩きつけた。 ホウオウのクチバシだけで支えられていたカイリューの力無い体が、バランスを崩す。 そしてもちろん……そのカイリューに乗っていたパパの体も地面へと落ちていった。 「じゃあな、のび太…」   泥沼へとパパの体が… バシッ! パパの太い腕をのび太の細腕が掴んだ。 [[次へ>ミュウ その11]] ----
[[前へ>ミュウ その10]] -『雨』 『何だこの建物……黒男内科?』   ママは商店街外れの廃墟の様な建物に入って行った。 見た目はボロボロで人が住んでる様には見えないが、 屋根には錆び付いた看板がしっかりとついている。 どうやらこの建物は私営の内科のようだ。 のび太は怖いのを我慢して建物に近づき、窓から中を覗くことにした。 すると中から声が…… 「待ってたよ。久しぶりだな、玉子」 「のび助さん……いったいどこに居たの?心配してたのよ!」 『玉子はママの本名……あれは!?』 玉子と話していたのは、パパこと野比のび助だった。 だが、何かがおかしい…… パパもママも……どこか暗い表情をしているのだ。 しかし、そんなのび太の心配をよそに、二人は隣の部屋へ入っていった。 『あっちには窓が無い……こうなったら!』 のび太は窓を開け、中へと侵入した。 一瞬、受付のナースに気づかれたかとも思ったが、 何とか気づかれずに中に侵入することが出来たようだ。 そして、のび太は部屋の会話を聞くため、ドアに耳を当てた。   「先生……本当にどうにもならないんですか?」 のび助が震える声で聞く。 「悪いな。いくら俺にも出来ないことはある……諦めてくれ」 「でも!」 「奥さんと最後の思い出でも作るんだな。 奥さんの寿命の……残りの2ヶ月間」 えっ? のび太の思考が止まった。 ---- ザーッザーッ 気づけば外は大雨になっていた。 二人は内科を出て野比家の前まで来ていた。 「それじゃあ……のび太のこと頼んだわよ」 「ああ……安静にしてろよ。必ずお前は俺が助けるから」 玉子の目にうっすらと涙が浮かぶ…… 二人は軽く唇を重ね、玉子は家の中へ入っていった。 『後……二ヶ月か』 今まで……二ヶ月何てかなり早く感じていた。 いつもの様に起き、髭を剃って朝食を食べた後駅まで走る。 変わらないこの日常に充分満足していた。 そう……変わらない日常に……   変化はある日急に訪れた。 いつもの様にのび太が朝食も食べずに学校へ行くのを二人で見送った後の出来事…… 「まったく…のび太の寝坊ぐせはどうやったら治るのかしら」 「ははっ、暖かい目で見守ってやろうよ。 僕も昔は良く寝坊をして怒られたものさ」 「そうね…ゴホッゴホッ」 「玉子?体の調子が悪いのか?」 「ええ……先月からゴホッゴホッ…ゴホッゴホッ!」 「お…おいおい、病院に行った方が良いんじゃないか?」 「ゴホッ、そうね…そう…する……わ」 バタッ 「玉子!おい、玉子!おい!返事をしろ!」   あの日からもうすぐ半年が経つだろうか。 あの日……玉子の体が原因不明の病魔に侵されてることを知った。 そして医者は言った。 その病魔は日本で治すことは不可能で、 治すにはアメリカに行き、ワクチンを射つしか無いと…… ---- 「……パパ」   ドームへ向かっていた俺を、雨の中一人で待っていたのび太が呼び止めた。 雨で全身がずぶ濡れで体が震えている。 だが、その目は俺を真っ直ぐに見つめていた…… 「のび太……風邪…ひくぞ」 「パパ……僕知ってるんだよ。ママのこと」 「そうか……」 「他に……言うことは無いの?ごめんとか……嘘だ……とか」 「……………」 俺は何も答えられ無かった。 どんなに隠したって……これは事実なのだから…… ギュッ のび太が俺の腰に抱きついた。 冷たい…… 雨のせいもある……だが、何か違う。 何か違う……冷たさ…… 「ママが……ママが居なくなる何て嫌だよ!…」 のび太は抱きついたまま大声で泣いた。 まるで赤ん坊の頃に戻ったように…… 俺は持っていた傘を捨て、のび太を両手で強く抱き締めた…… 明日、自分と戦うことになる息子を…… 雨に濡れることも気にせず強く……強く抱き締めた。 大粒の涙を流しながら…… ---- -のび太VSパパ 前編 『世界が変わる数ヶ月前:深夜2時』   スーッ… 音も立てずタンスが開く。 そして、熟睡しているドラえもんに近づく男が一人… 「ねぇ、ドラえもん。起きてよ、ねぇったら!」 「ぐふふ……ミーちゃん…そこは違うよ……」 僕の名前は野比のび太。 未だに一人でトイレに行けないシャイボーイだ。 今日もドラえもんにトイレに付いてきて貰おうと、 熟睡中のドラえもんの体をユッサユッサと揺らしている。 だが、今日のドラえもんは一味違う様だ。 とても心地良い夢を見ているのか、僕の行動は全て失敗に終わってまった。 「良いよもう!一人で行くよ!」 僕は勇気を振り絞り、一人でトイレに行くことを決意した。   「……ひぃっ!」 ギシギシと階段が揺れる。 こう言う時の階段はやたらと怖いものだ。 『後ろには誰も居ない後ろには誰も居ない』 必死で自分にそう言い聞かせながら、僕は何とか階段を下りきった。 カタカタッ カタッ ドクンッ! 心臓が一瞬飛び上がる。 居間から何か物音がしたのだ…… 「だ、だだだだれか居るましゅですか?」 そう言いながら居間の扉を開けた。すると…… 「ひぃっ!…………パパ?」   僕の目に映ったのはパソコンの前に座るパパの姿だった。 ---- 「のび太!…どうしたんだこんな夜中に」 「トイレだけど……パパは何やってるの?  何でこんな夜中にパソコン何か……」 パパは僕の言葉に焦っていた様だが、少し考えた後口を開いた。 「のび太、2ちゃんねるって知ってるか?」 僕はうなずいた。 昨年流行ったドラマ「電波男」内に出てきたこともある有名なサイトだ。 学校でもあの独特の喋り方が一時期流行り、ダイパが発売した時も、 スネ夫が「アルセウスの入手方2chで知ったもんねw」 とか言っていた(何故かスネ夫はアルセウスを見せてくれなかったけど) 「2chがどうかしたの?」 「実はなのび太……  俺は……2chの常連何だよ。俺は2chオタク何だ」 「え?……」 言葉が止まる。今目の前に居るパパが。 このパパが2chオタク?ウソだろ…… 「ママには内緒だぞ。  毎晩こうやって2chのモー娘板を見るのが俺の生き甲斐なんだ。  俺の楽しみを奪わないでくれ……頼む」 僕は無言で居間から出ていった。   僕はそれ以来パパの近くに寄らなくなった。 何かその……キモかったから ---- 僕は控え室でそんな昔のことを思い出していた。 『俺は2chの常連なんだ』 あの言葉。 今考えると、パパの必死の言い訳だったのかも知れない。 パパは僕に頼まれれば2ch用語で喋っていたが、 普段は普通に会話し、2chの話題など出したことが無いのだ。 昨日、パパからママの話を聞いた。 ママの病気のことが分かったのは9ヶ月前。 ママの病気は、まだ日本では研究が進んでいない病気で、 治療に必要なワクチンを手に入れるには、アメリカの大病院に行くしかないらしい。 だが、アメリカに行く費用、高価なワクチンの入手、手術料。 お金が足りないのは明らかだ。 ママを助けたいと言う気持ちはある。 だが、気持ちだけでは奇跡など起こらない。 では、パパはこの9ヶ月間何をしていたのだろうか…… そして、僕はある1つの答えにたどり着いた。 『インターネットでの治療方の検索』だ。 パパはきっと睡眠も取らず、インターネットで治療方を調べていたのだろう。 僕があの時見たのは、「夜中に2chで遊ぶパパ」ではなく、 「妻の為に夜中まで働くパパ」の姿だったのだ。 しかも、僕に心配をさせない為にあんなウソまでついて…… 僕は自分が情けなかった。 尊敬すべき父親を避けていた自分が……情けなくてしかたがなかった…… ---- 「ルギアサイド、のび太選手!」   司会のいつもの言葉で僕は入場した。 パパが腕組みをして僕を待っている。 「この戦いには特別ルールが導入されました。  壁から少し離れてください。……スイッチオン!」 ガコンッ! 大きな音を立てながら周りの壁に変化が起こり始めた。 壁が黒い鉄板に包まれ、その板が赤く光り始めたのだ。 ---- 「これって…」「のび太、触るんじゃない!」 壁に触れようとした僕の手が止まる。 そして、パパはポケットの中からライターを取りだし、 壁に向かって勢い良く投げつけた。   バリバリッ! ライターは音を立て黒コゲになり、地面に落ちた。 「やっぱりな……この壁には高圧の電流が流れてる。違うか?司会者」 「すいません、言い忘れていました。  この壁には約20万ボルトの電流が流れています。  あまり長時間触れているとポケモンでも死んでしまいますよ」 20万ボルト。 気軽に言ってるが笑っていられる物ではない。 ピカチュウの技は10万ボルトとは言っても、せいぜい1000ボルト程度だろう。 アメリカの死刑に使われる電気イスでも最高2000ボルトだと言われている。 20万ボルトの電流などくらったら、間違いなく人は死んでしまうのだ。 僕は血の気が引いていくのを感じた。 「のび太……準備は良いか?  こんな仕掛けに驚いてる様じゃまだまだだぞ」 パパは冷静にそう言う。 『パパの言う通りだ』 僕はそう思い、前に一歩踏み出した。 「パパ、悪いけど……この勝負僕が勝つ!」   僕とパパは同時に腰のモンスターボールを手に取った。 ---- フィールドにピカチュウとウィンディが現れた。   「ウィンディ、高速移動!」 現れてすぐにウィンディはピカチュウに飛びかかった。 だが、ピカチュウはそれを影分身で避け、ウィンディの周りを囲む。 「ウィンディに電磁波!」 「ウィンディ、上にジャンプしろ!」 ウィンディは空中に飛び上がり、電磁波を避けた。 「ウィンディ、地面に大文字!」 大の文字の形をした炎にピカチュウ達は包まれ、フィールドから姿を消した。 地面に着地したウィンディは訳が分からず困惑する。 「今だ、ピカチュウ!」 「甘いぞ、のび太!ウィンディ、後ろに下がれ!」 地面からピカチュウが飛び出し、ウィンディを攻撃した。 だが、ウィンディはそれを紙一重で避けた。 「ウィンディ、フレアドライブ!」 完全に隙を突かれたピカチュウはウィンディの一撃を避けれず、 フィールドの端の壁の近くまで吹き飛ばされる。 「ピカチュウ、電光石化で体勢を戻せ!」 ピカチュウはギリギリの所で壁に当たるのを防いだ。 「大文字!」「10万ボルト!」 炎と電気がぶつかり、お互いに攻撃を打ち消しあった。 ---- 『パパはやっぱり強い!  間違いなく今まで戦ってきた相手の中で一番の強敵だ』 「どうしたのび太?  来ないなら…こっちから行くぞ!」 ウィンディが高速移動でピカチュウとの距離をつめる。 『まずい、後ろにはあの壁が……』 「ピカチュウ、アイアンテールで吹き飛ばせ!」 ピカチュウの勢いある攻撃がウィンディに当たった。 この試合初めての攻撃のヒット。 だが、気を抜く暇は無かった。 「ウィンディ、大文字!」 大きな炎がピカチュウに迫る。 「ピカチュウ、電光石化で炎の真下に飛込め!」 ピカチュウは大文字の小さな隙間に飛び込み、大文字を避けた。 「しまっ…」 「ピカチュウ、そのまま電光石化!」 その一撃でウィンディは吹き飛んだ。 「良し、ピカチュウ。そのままウィンディを電光石化で追え!」 吹き飛ぶウィンディの横にピカチュウが追い付く。 「まずいぞウィンディ!早く体勢を直せ!」 ウィンディは体勢を直そうと体を動かす。 だが、ピカチュウと違い体の大きなウィンディには無理なことだった。 「ピカチュウ!アイアンテールでウィンディを壁に叩き付けろ!」 ピカチュウのとどめの一撃により、ウィンディは壁に直撃した。 そして、電流に焼かれたウィンディは、その場に倒れこみ、動かなくなった。 ---- 「ピカチュウ、戻れ」 ウィンディに勝ったピカチュウだが、少し疲労している様だったので、 のび太は一度ボールに戻し、ピカチュウを休ませることにした。   その様子を見ていたパパは少し笑い、話し始めた。 「のび太、成長したな。  あの特訓で、以前のお前には無い冷静さが身についたようだ」 のび太は久しぶりにパパに褒められたのが、かなり嬉しかった。 だが、のび太はそれを顔には出さず控室での自分の考えを話した。 パパは、本当は2chオタクではなく、 あの時ネットでママの病気の治療方を調べていたのでは無いかと……   のび太が話している間パパは黙ってのび太の話を聞いていた。 そしてのび太が全ての話を終えると、悲しそうな表情で口を開いた。 「正解だ。あの時俺はとっさにウソをついた。  お前に心配をかけない為にな……」 『やっぱりそうか……』 「だが、お前はまだ気づいてないことがあるぞ、のび太」 『えっ……』 のび太は予想外のパパの一言に驚き、はっと前を向いた。 「……気づいてないことって?」 「俺に……町が変わる前の記憶があるってことだよ」 ---- パパの一言に会場の静まりかえった。 司会が慌ててフォローするが、パパは話を止めない。 「ウソ……でしょ?どうしてパパに…そんなこと…」 「のび太、良く考えろ。  この世界ではインターネットが使えなくなってる。  なのに何で俺は2chやインターネットのことを知ってるんだ?」 ……そうだ。 この世界では他の町への通信手段が全て使えなくなっている[[(wiki①参照)>ミュウ その1]]。 パパがインターネットをやれるなど有り得ないことなのだ。 でも……何で…… 「何で……パパはこの町が変わったことを知ってるの?  あの時部屋に居なかったはずなのに……」 「あの時、二階からドタバタと音がしてうるさかったからな。  俺はお前らを注意しに行ったんだ。  そしたら以前見たことがあるドラえもんの道具 「もしもボックス」の周りに集まっているお前らを見つけたんだ。 「何やってんだ?」と言おうとしたら…… まぁそこからはお前が一番分かるよな?のび太」   もしもボックスの効果。 もしもボックスの半径数メートルに居た者の記憶は変わらない。 つまり扉の隙間から部屋を覗いていたパパの記憶も、変わらなかったのだ。 ---- 「じゃあ……パパは世界が変わったことを知っていてこの大会に出たの?」 パパは無言でうなずいた。 「どうしてだよ!この大会が罠だってことくらい分かるだろ!」 「……のび太。世界が変わった後何があったと思う?  出木杉が俺に会いに来たんだ」 『まさか……』 のび太の頭に最悪の考えよぎる。 「出木杉はこの大会で優勝出来れば玉子の病気を直すと約束したんだ。  あのミュウの力を使ってな」   その頃VIPルームの出木杉はミュウと共にこの戦いを観戦していた。 部屋中に響く程大きな声で笑いながら…… 『クソッ、まさか出木杉がこんなことまでしてる何て……』 ミュウはただ自分の失敗を悔み、拳を固く握ることしか出来なかった。 ---- -『のび太VSパパ 完結編』 ブォン!!!   ハッサムの拳が、空を斬った。 ハッサムの周りを、何十匹ものオレンジ色の生き物が囲んでいる。   その生き物はライチュウ。 パパの二番手であり、その圧倒的なスピードでハッサムを翻弄している。 影分身で分身出来る数は、普通15、6匹。 だが、このライチュウはその数倍の数の分身を作り出していた。   のび太の顔を汗が流れる。 『何てスピードだ!  こんなスピードじゃ攻撃を当てる所か、狙いを定めることも出来ない!』 「ライチュウ、アイアンテール!」 数十匹ものライチュウのシッポが光り出し、 中央で身構えるハッサムに一斉に飛びかかった。 「いくら数が多くても本物は一匹、攻撃も一回だ!  守るで防げ、ハッサム!」 ガキィィィッ!!   大勢が突撃する見た目と裏腹に、 一発耳障りな金属音が、ドーム内に響くだけで攻撃は終わった。 「良い判断だ」 パパが評価する様に、のび太に言う。 だが、のび太からは今までに無い反応が返ってきた。 「ハッサム、パパに向けて破壊光線!」 「!? ライチュウ、俺を守れ!」 素早くライチュウがパパの前に現れ、破壊光線を代わりに受けた。 破壊光線の威力で軽く後ろに仰け反ったライチュウだったが、まだ戦う体力は残っているようだ。 ---- 「のび太……何の真似だ!」   パパが今までに無いほど冷たい声でそう吐いた。 その目は鋭く、子供を見る目では無い。 だが、のび太も負けないほど鋭い目で睨み返した。 「こうすれば本物のライチュウが分かるだろ?  ライチュウのスピードなら、パパを守りきれるだろうしね。  あと……  僕の指示を評価するのはもう止めろ!」   あまりの声の大きさにパパは驚いた。 だが、さらにのび太は言葉を続ける。 「どうして今まで仲間みたいに接してきたんだよ!  パパは…パパは出木杉の仲間なのに!」 のび太の震えた声がドームに響く。 その声を聞いたパパは、のび太を指さし、静かに言った。   「ライチュウ、雷だ」   驚く間も無くのび太の頭に電流が落ちる。 薄れる意識の中のび太は見た。 涙に濡れた……パパの顔を ---- 「終わったな……」 パパは、そう一言を吐き後ろを向いた。 「待て!」 短い一言がパパの足を止める。  のび太だ。 のび太はふらつきながらも立ち上がり、身構える。 「次は……電圧を最大にして撃つぞ!のび太!」 冷酷な一言。 もはや親子とは思えない会話がドームに 伝わる。 「撃ってみろよ。  撃った瞬間破壊光線がパパに直撃するぞ」 ハッサムの左腕がパパに向けられる。 緊張で喉が渇いてきた。 一瞬の油断でこの試合にピリオドが打たれる。 そう思うと自然に観客までもが、身構えてしまっていた。   カコーン!カコーン!コーン!コーンコン… 誰かがメガホンを落とした音。 静かなドームにそんな小さな音が響き渡る。 だが、その音を合図にするかのように、ドームの静寂は破られた。 「雷!」 太い電気の線が地面に落ちる。 だが、のび太に落ちた訳ではなかった。 「ハッサムか!」 そう。 ハッサムがメタルクローを上に上げて、 避雷針の役目をしたのだ。 ハッサムは焦げ付いた体を動かし、ライチュウに迫る。 だが、ライチュウは、さっきの巨大な雷の反動でしびれて動けない様だ。 「メタルクロー!」 ハッサムの精一杯の攻撃が、ライチュウの腹にめり込んだ。 ---- 一発目の破壊光線はオトリ。 二発目は、破壊光線を撃つと思わせて撃たない。 完全に作戦負けだ。 冷静にならず、実の息子を殺そうとする何て…… 俺は……父親失格だ。   「パパ!」 のび太の一言でパパは気づいた。 まだライチュウが力尽きていないことに…… ライチュウは必死で立ち上がり、パパの方を向く。 『ライチュウ…』 「ライチュウ…ヴォルテッカーだ!」 ハッサムに向かって、電流を帯びたライチュウが走り出す。 「ハッサム、ギガインパクトで迎え撃て!」 最大パワーのライチュウとハッサムが中央で交わった。 轟音が響き、ドームの中央が白い煙に包まれる。   「ハ、ハッサム……」 煙が晴れるとそこにはハッサムがボーッと立っていた。 ライチュウの頭を腹に刺したまま…… だが、ライチュウもその体勢のまま動く気配が無い。 「ハッサム、砂嵐だ」 ハッサムは最後の力を振り絞り、巨大な砂嵐を起こしフィールドに倒れた。 そして……ライチュウもまた、その場に倒れて動かなくなった。 「ピカチュウ、もう一度頼むぞ!」 再びピカチュウが現れ、戦闘体勢を取る。 「この試合を……終わらせてこい、カイリュー!」 ---- 『2ヶ月前』 最近、町にある1つの噂が広まっている。 ドーム周辺にまだ駆け出しのトレーナーのくせに、 プロのトレーナーに挑む小学生が居ると言う少し変わった噂だ。 その噂のせいで、 ドーム周辺にはその小学生を一目見ようとする野次馬や 小学生なら勝てると考えた 性格のねじ曲がったトレーナーが大勢集まっていた。   「おーい、しょうねぇん。生きてるかぁ?」 返事が無い。ただのメガネの様だ。 「まぁ、連れてくかな」 ズリッ ズリッ……ズリッ   「……………はっ!、先生ごめんなさい!」 のび太は気づくと暖かい布団の中に居た。 少し狭い南国風の部屋。 少し先では老人が料理を作っている。 「起きたか?じゃあ、メシにしよう!」 「?」 状況が飲み込めないのび太。 だが、今ののび太にとってそんな疑問どうでもよかった。 のび太が今一番満たしたいのは、この鳴り止まない腹なのだ。 「う、うまい!」 久しぶりの温かい食事。 体の芯まで温まるのをのび太は感じた。 「旨いじゃろ?これはわし特性ゼニガメ汁じゃ」 「えっ?……」   久しぶりの温かい食事。 それは忘れられない小学生の頃の思い出となった。 ---- 「ふわぁぁぁ……良い天気じゃのう…」 「バナバナぁ」 ボリボリと背中を掻く老人。 その横では萎れたフシギバナが日光浴をしている。 「ピカチュウ、10万ボルト!  ストライクは峰打ちだ!」 急に現れた二体のポケモンが老人に攻撃する。 「まだまだじゃのう…」 その瞬間フシギバナの体から無数の触手が飛び出し、 二体の攻撃を一瞬で打ち消した。 「うわぁぁぁぁっ!」 残った触手は、のび太を空中に吊り上げ、動きを奪う。 「ホッホッホ。今日で3日目。  タイムリミットまであと2日しか無いぞ、少年」   事の始まりは3日前。 この謎の老人に助けられたのび太は、老人に「ゲームをしないか」と誘われたのだ。 ゲームの内容は簡単。 5日以内に老人の体に一撃でも攻撃を加えればのび太の勝ち。 攻撃出来なければのび太の負け。 のび太は、助けられた側と言うこともありしぶしぶゲームを始めた。 だが、このゲーム。予想以上に難しい。 と言うよりも、この老人めちゃくちゃ強い! この3日間、のび太は老人が寝てる時でさえ攻撃を加えることが出来なかった。 ---- 「何が足らんか分かるかの?少年」 老人は、のび太を吊り上げたままの状態で問う。 「足りないって?…何が?」 老人はヤレヤレと言った様な顔をし、一言だけ言った。 「逝ってこい」 ブォン! 「ああああぁぁぁぁ!」 ヒュー ドスン! 勢い良くツルに投げられたのび太は柔らかい砂の上に着地した。   「イチチ…何だここは?」 その問いの答えは、すぐに分かった。 理由は1つ。 周りに大量のヒポポタスとカバルドンが居たからだ。 「ここは……裏山のふもとのカバルドンの巣じゃないかぁ!」   その頃、老人は一人茶をすすっていた。 ---- カバルドンが大きな口を開け威嚇する。 それと同時に砂嵐が起き始め、のび太の視界を奪った。 どうやら、さっきまで居た家は裏山のふもとの近くだったようだ。 のび太は周りを見渡して逃げる方法を必死で考える。 『逃げる?どこにだ?』 のび太は気づいた。 こんな視界が悪い 状況じゃここから脱出なんて出来る訳ないと。 《何が足らんか分かるかの?》 あの老人の言葉。 もしかしたらここで戦えばこの言葉の意味が分かるかも知れない。 そして、のび太は腰の2つのボールを手に取った。   「かかってこい!お前らをカバ焼きにしてやる!」 ---- ゲーム開始から5日目。 最近続いていた青空とは異なり、空には曇雲が漂っていた。   「こりゃあ一雨来るのぅ。  いや……それよりも先に小さな客人が来たかの。  違うか?そこの茂みの少年よ」 ガサッ! 茂みの中から少年が飛び出す。 だが、それより先に触手が前を塞ぎ、のび太の体をまた吊し上げた。 「ホッホッホ、甘いのぅ」 老人は満足げにのび太を見る 。 のび太の顔は……笑っていた。 「!?」 周りを砂が混ざった風が覆う。 「ホホッ、どうやら分かった様じゃのぅ!  だけど……砂嵐を起こす程度じゃわしは倒せんぞ!」 砂の中からピカチュウが飛び出す。 しかし、意表は突いたが簡単にフシギバナの触手に捕まってしまった。 ニヤニヤ笑う老人。 だがその時、笑顔を奪うかの様な風が老人を襲った。 「うおぉっ!危ないじゃないか!」 辛うじて避けた老人。 だが、その老人の上にはストライクが鎌を向け、立っていた。 「……ギブアップじゃ」   のび太は満足そうに地面に下り、 ストライクに老人の上から退くよう支持を出した。 「騙されましたね。ストライクは砂嵐何て使えません。  さっきの技は銀色の風です」 ---- 「さぁ何をくれるんですか?」 「はぁ?何言ってるんじゃ?」 『そう言えば……そんな約束して無かったぁ……』 『10分後』 「まぁ、そう泣くな、少年」 「だってぇ…何の為に僕はぁ……」 「でも分かったじゃろ?足りないこと」 のび太はあえて何も言わなかった。 どうせこの老人は、言葉にしなくても全て分かっていそうだから。 「それじゃあ…僕行きますね」 「待った!ちょいとストライクのボール貸してみろ」 老人は強引にボールを奪い取ると、家の中に消えて行った。   「ほいよ」 ボールの中からハッサムが飛び出す。 「ありがとうございます!」 「それとこれは、砂嵐の技マシン。お主なら上手く使えるはずじゃ。  わしが教えることはもう何も無い。後はとにかく戦い続けろ。  バトルで最後に身を結ぶのは……経験値の量じゃ」   その日から町には新たな噂が流れ始めた。 上級トレーナーを狩る、砂嵐を巧みに使う少年トレーナーが現れると言う噂が…… ---- 「くっ、何て嵐だ!」 砂嵐がパパの視界を奪う。 この砂嵐、通常よりかなり風が強く、例えるなら規模を小さくした台風。 きっと、一般人なら目を開けることも出来ないだろう。 だが、メガネの奥ののび太の目はしっかり捉えていた。 フィールドのカイリューの姿を。   「ピカチュウ、アイアンテール!」 カイリューの悲鳴がドームに響く。 ピカチュウは攻撃すると、直ぐ様砂嵐の中に消え、その姿を隠した。 「なるほど……お前のピカチュウ。  砂嵐の中での戦いに慣れているな。だけど、このカイリューは一味違うぞ」 パパはそう言うと、周りの砂嵐を見渡した。 ガリッ 「そこだ!カイリュー、竜巻!」 カイリューが羽をバタつかせると竜巻が現れ、砂嵐の一部分を弾き飛ばした。 砂嵐のあった場所に居たピカチュウは、驚きの表情でカイリューを見る。 「砂壊光線!」 パパはピカチュウを指さし、そう叫んだ。 「まずい!ピカチュウ、電光石火で避けろ!」 ピカチュウが素早くカイリューの頭上へと移動する。 だがカイリューの光線は発射されなかった。 「悪いな、のび太。俺はさっき砂壊光線と言ったんだ。  今から言うのが本当の破壊光線の指示だ」 「しまっ…」「破壊光線!」   破壊光線はピカチュウに直撃し、一撃でピカチュウを瀕死にした。 ---- ハッサムが倒れ、ピカチュウも倒れた。 後は切り札のホウオウのみ。 だが、今回の戦いでホウオウを使うことは、なるべく避けねばならないことだった。 「のび太、どうした?ホウオウを早く出すんだ」 パパがわざとらしくそう言う。 パパはもう気づいてる。 ホウオウでは、カイリューには勝てないと言うことに…… 『もう、あの作戦しか……』 僕は決意を固めた。 投げたボールからホウオウが飛び出す。 その体は、砂嵐に隠れてもなお、美しさを保っていた。 「のび太、お前は良く頑張った。  だが、ここまでだ。カイリュー、雨乞いをしろ!」   ドームの上空に雨雲が現れ、雨を降らす。 その雨は、砂嵐で生まれた砂を泥に変え、フィールドの地面を泥で埋め尽くした。 『後は……もう簡単だ。  ホウオウに雷は効果抜群。そしてこの雨。雷は確実にホウオウを捉える。  この試合……悪いが俺の勝ちだ』   パパは目前の勝利を見据え、笑った。 ---- 「おかしい…」 パパは体に何か違和感を感じた。 そう、まるで足に軽い電流が流れている様な…… 「まさか!」 パパが前を見ると、のび太はホウオウの上に乗っていた。   地面に広がる泥、高電圧のフィールドの壁、電気の漏電…… このヒントが導く答えは1つ。 「そうか! この泥を流れて壁の電流が……」 バリバリッ! 音を発てて、泥の中を電流が勢い良く流れ込む。 「ありがとう…カイリュー」 まさに間一髪。 カイリューがパパを泥の中から救いだし、その背中にパパを乗せた。 だが、パパは気づいていない。 のび太がこのチャンスを狙っていることを…… 「パパ、カイリューの影に隠れて!」 「!?」 高速で接近するホウオウ。 パパを助けるので精一杯だったカイリューは、ホウオウの攻撃に反応出来ない。 「ホウオウ、鋼の翼!」 ホウオウは音も発てずカイリューを切り裂き、その意識は一瞬で吹き飛ばした。 「やった…うあっ!」バリッ! 安心したのび太。 だが、その瞬間のび太に雷が浴びせられた。   白眼を向いたカイリューがのび太達の前に立ちはだかる。 「のび太…まだ…だぞ」 ---- 「パ、パパ…」 「のび太、俺を気遣い危険が少ない技を選んだのが間違いだったな。  もう、これで終わりだ」 パパの指がのび太とホウオウを捉える。 降り続ける雨。……もはや逃げ場は0 張りつめた空気が間に流れ、二人の顔を強張らせる。 「のび太、頼む。負けを認めてくれ…  下は高電圧の電流が流れる泥沼。落ちたら命は無いんだ」 パパの最後の説得。 だが、のび太は負けを認めずこう言った。 「僕は今までずっとパパに守られて生きてきた……  泣き虫で人に頼ってばかりで……本当に情けなかった。  でも……でも今は違う!これからは僕がパパやママを、そしてみんなを守るんだ!  この試合僕が勝つ!」 『のび太…』 パパの目に涙が溢れる。 この試合、自分が負ける。そんな予感がしたのだ。 だが、パパは試合を止めようとはしなかった。 息子の成長を見守る為…親としての義務を果たすために。 「のび太、後悔しないな?」 無言でうなずくのび太。 カイリューの体に周りの粒子が集まっていく。 「これが最後だ…  カイリュー、最大及の雷!」   ドームを一筋の大きな閃光が走った。 ---- 『眩しい!』 観客は皆、雷の光で目が開けられず数秒間目をつぶっていた。 この数秒の間に何が起こったのか。 それを理解している者は、ドーム内にただ一人として居ない。 ただ、今分かることは ホウオウのクチバシがカイリューの腹に突き刺さっているとう目の前の現実だけ。 だが、さっきまで降っていた雨が止んでいることから、 今カイリューが瀕死の状態であることは充分理解出来る。   「のび太、お前いったい何をしたんだ?」 この数秒間の出来事が全く理解出来ないパパが、のび太に問いかけた。 確実に雷はホウオウを捉えたはず。 なのに……何故ホウオウはカイリューに攻撃を…… 「あの時……  ホウオウは僕たちがしゃべっている間、ずっとある攻撃の準備をしていたんだ」 「準備……そうか!」 「そう、ゴッドバードだよ。  あの時、雷の到達速度を上回るスピードで、 ホウオウはカイリューの腹に突進し、腹を貫いたんだ。  いくら雷でも高速で動く目標にあてるのは無理だしね」 のび太は誇らしげにそう話した。 その姿は、まるで父親に百点のテストを見せる子供の様だ…… パパはそんなのび太の姿を笑顔で見つめ、ある決意を固めた。 ---- 「のび太……頼みがある」 いつになく真剣な顔でパパは話す。 「パパ……どうしたの?改まって」 「これからも玉子を……ママを守ってあげてくれ」 そう言うとパパは思いきり足を振り上げ、カイリューに叩きつけた。 ホウオウのクチバシだけで支えられていたカイリューの力無い体が、バランスを崩す。 そしてもちろん……そのカイリューに乗っていたパパの体も地面へと落ちていった。 「じゃあな、のび太…」   泥沼へとパパの体が… バシッ! パパの太い腕をのび太の細腕が掴んだ。 [[次へ>ミュウ その12]] ----

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