「挑戦者 その13」(2007/03/09 (金) 22:24:25) の最新版変更点
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ラクレとリアは祭りから離れ、とある岩山に着く。
「……おい!いったい何なんだよ!?」
リアはそう叫ぶとラクレの手から逃れる。
「レースに出てよ」
そうラクレが言うと、リアは眉を吊り上げた。
「だから、僕はもう諦めたって」
「リアって昔からポケモンが好きだったよね」
ラクレはリアの言葉に割り込んで話し出す。
リアは首を傾げながら頷く。
「だったら諦めないでレースに出なさいよ。
ずっとレースに参加するのを楽しみにしていたじゃない」
するとリアは慌てだした。
「な、何でそれを知ってるんだ?」
「わかるわよ。ずっとそばにいたんだもの」
ラクレは小さくそう言った。
「なぁ、これ見ていて楽しいか?」
ハヤトは岩陰からユリに聞く。
岩のものまねをしているユリから返事は無い。
「……おい。ユリ。
等間隔に穴が開いた岩なんてないぞ?」
「うるさいなぁ。穴が無きゃ前見えないし音もきこえないし息もできないの!」
傍目から見れば岩がしゃべっているようだ。
もちろんそれはくぐもったユリの声だったが。
「……なぁラクレ。まだ間に合うかな」
リアは〔監視されているなどと露知らず〕話を続けた。
ラクレははっきりと頷いた。
「もうすぐみんな来るわ。ここがレースの始まる岩山だから」
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時がたつにつれ、空の雲が分厚くなっていった。
人々の祭りの騒ぎが一層大きくなる。
レース参加者も岩山に集まってきた。
おそらく他の岩山や塔の下でも、準備が始まっているのだろう。
その騒ぎに乗じて、ハヤトとユリは岩陰から姿を現す。
暫くすると二人のもとにリアが駆けてきた。
「僕、レースに参加することに決めました!」
リアは明るく伝えてきた。
「そう!それはよかったわね!」
何事も無かったかのように明るく激励するユリ。
ハヤトはその姿に、何か得体の知れない恐怖を感じるのであった。
雲は厚みを増していく。
一般人もレース開始の場所に集まってきた。
そんな中、レースの関係者が大きな檻を持ってくる。
「「レース参加者のみなさん!
まもなくレーススタートです。ここに集まってください!」」
関係者はメガホンで叫ぶ。
参加者200余名は指示通り、集まってきた。
「「これより、レースを開始します」」
観客たちも、レース参加者たちも途端に盛り上がる。
その声が冷め遣らぬうちに、檻の扉が開けられる。
レース開始を告げる号砲。
それと共に檻から大量の飛行ポケモンが飛び出してきた。
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「ようは、この中からポケモンを捕まえろってことだな!」
ハヤトはそう言うと他人と共にポケモンの群れに飛び込んだ。
ユリもそれに続く。
飛行ポケモンたちは次々と捕らえられ、何羽かは既にレースに飛び出していた。
ふとハヤトの目にリアの姿が飛び込んでくる。
どうやらポケモンを捕まえることに四苦八苦しているようだ。
ラクレが遠くから心配そうにそれを見ていた。
エアームドやオニドリルたちが、無情にもリアを掠めて飛んでいく。
もうそろそろ出発しなければならない時なのに。
ん!?――と、ハヤトの視点は切り替わる。
突然ハヤトの目の前にスバメが飛び出してくる。
ハヤトは急いで手を伸ばし、スバメを捕まえてメールを縛った。
スバメが大人しくなり、ハヤトは思わず「よし」と声を出す。
すぐにマイクとカメラも取り付け、マトマの実をくわえさせる。
「スバメ、まずは北の岩山に向かうんだ!」
ハヤトはスバメに伝わるマイクにそう指示を出す。
ポケモンたちの姿は町の大型モニターでも見える。
だが、トレーナーたちには当然見えない。
なので大概のトレーナーはレース関係者からスクーターをもらっていた。
スクーターを起動すると、ハヤトは僅かだが宙に浮く。
やがてスクーターはスバメを追って走り出した。
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「お、おぉ、速えぇ!!」
ハヤトは風に吹き付けられながら感激していた。
スバメはハヤトより少し前を飛んでいる。
速いが、その姿ははっきり見受けられた。
暫くすると先頭のトレーナーたちとポケモンが見えてくる。
ハヤトはハッと気づいて、マイクからスバメに指示を出す。
「スバメ、でんこうせっかで攻撃しろ!」
するとハヤトの思った通り、スバメは一瞬高速で動いて目の前の相手を叩き落す。
降ってきたポケモンで、トレーナーたちは慌ててしまい、スクーターが転落する。
潰れたマトマの実が飛び散り、凄惨な光景のように思わせた。
「やっぱり、攻撃できるんだな」
転倒した参加者たちを追い越しながらハヤトは笑っていた。
風がヒュウヒュウ鳴り、体にぶつかってくる。
それでもスクーターは動じない。
それどころか、しなやかに当たる風が心地いいくらい。
地形はあまり変化しなかったが、だんだんと北に近づいている。
「!!あれだ!」
ハヤトは気づいた。
目の前に輪が立っている。
あれを通っていくのだろう。
「スバメ!輪をくぐれ!」
スバメの小さい体は、輪を悠々とくぐりぬける。
ハヤトはその後を追っていく。
「はぁ、はぁ、やっと捕らえた」
リアは息を切らし、それでもにやりと笑う。
「リア!頑張って!」
ラクレの応援がリアの耳に飛び込んでくる。
「あぁ……行ってくるぜ!!」
すっかり豹変した声色だけを残し、リアは駆けていく。
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ハヤトは東の輪も通り抜け、南へ向かっている。
スバメが通り抜ける岩陰。
ねむりにつく飛行ポケモンを追い越し、スクーターが駆けていく。
おいぬいたポケモンはその音で目を覚ましキョロキョロしていた。
「だいぶ慣れてきたな!」
ハヤトは確かな感覚を掴んでいた。
だが
突然後方から何かが飛んでくる。
今までのポケモンより数段上の速さで。
ハヤトはそれがまっすぐスバメに向かっていることに気づく。
「避けろ!スバメ!」
叫びはスバメに届いた。
翼を傾け、それを避けるスバメ。
だが風圧がスバメの体の安定を奪う。
「スバメ!」
ハヤトが声を張り上げる。
スバメはなんとかもちなおし、飛行を続けた。
「へぇ、よく耐えたじゃないか」
突然背後から声を掛けられ、ハヤトは振り返る。
「お、お前は……リア!?」
リアがハヤトの背後にぴったりとついてきていた。
口端を吊り上げて、にやりと笑っている。
「ムクホーク!とっしん!」
リアの声と同時に、さきほどスバメに突っ込んできたポケモン、ムクホークが再びスバメを襲う。
スバメは急旋回して攻撃を回避する。
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岩の一つがムクホークの攻撃により粉砕される。
「ムクホーク、もう一度だ!」
「おいリア!どうしたんだ!?
……なんか性格変わってないか?」
ハヤトはリアを落ち着かせるように話しかける。
「……くく、何も変わっちゃいないぜ。
僕はポケモンを操ってるときはいつもこんな感じだからなぁ!!」
リアが狂ったように笑い、声が岩によって不気味に反響する。
ハヤトは呆然としながら、リアの目を見てハッとする。
のろのろと、大人しかったときとは違う。
びみょうに……しかしはっきりと見える狂気の色。
ただの勢いとかとは違う本気の目だ。
「スバメぇ!急げ!こいつやばいぞ!」
ハヤトは危機を感じて指示を出す。
丁度目の前にトレーナーたちがいた。
シュッという音と共に、スバメとハヤトは翔けていく。
ずらずらと並んでいたトレーナーたちを次々と抜いて。
からっ風のように瞬間的に。
「な、何だ今のは?」「人か?」「速いぞ!」
トレーナーたちは急にどよどよと慌てだす。
そうしているうちにスバメが輪をくぐる。
「よし、これであとは西へ戻ってマトマの実を」
ハヤトはグッと手を握り、ふと後ろを振り返る。
リアがトレーナーたちの前に来た。
「くそ、先を越されちまった」「こうなったらお前を止めてやる!」「覚悟しな!」
「ふきとばし!」
ムクホークが風を巻き上げ、トレーナーたちはほこりのように舞い散った。
ぼろ雑巾のようにのたれるトレーナーたち。
ハヤトは身の危険を感じ、疾走を始めた。
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「スバメ!速く速く!」
ハヤトは急かした。
スバメは翼で空を切り裂き、翔けていく。
マトマの実が潰れないように最大速で飛んでいる。
おそらく相当辛いのだろう。
スバメはそんな顔をしていた。
「こうそくいどう!」
「!!来るぞ!」
後ろからの声に反応してハヤトは叫ぶ。
刹那、ムクホークが現れた。
まるで矢のような速さで。
「よけろぉ!」
ハヤトの声が響く。
スバメは間一髪ムクホークのつばさでうつを避ける。
でも、つばさは岩を次々と破壊していった。
きつい一撃。恐らく食らえばひとたまりも無いだろう。
スバメのような小さいポケモンには特に。
ギラギラとした目つきで、ムクホークが舞い上がる。
「よくよけたなぁ!」
リアがハヤトに話しかける。
「ふん。これでも飛行タイプのジムリーダーなんでな!」
ハヤトはそういうとスピードを上げる。
スバメもそれに呼応していく。
「ムクホーク、かげぶんしんだぁ!!」
リアが大声で命令する。
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西の岩山――
優勝候補であるナギがチルタリスの口からマトマの実を取り、監視員に渡す。
監視員はそれを確認すると、フッと笑顔になる。
「合格です。塔へ行くことを許可します」
「ありがとう」
ナギはそう礼を言うと、塔へ向かう。
そのすぐ後だった。
西の岩山のそばで爆発音がする。
ジリジリと、粉塵を巻き上げながら何かが近づいてくる。
やたらと大きな音がきこえてくる。
いやに激しく、力強く、やかましい音が。
あらあらしく空気をかきあげながら。
「ん?」
監視員が思わず声を出す。
唸り声を上げながら近づいてくるのは、
ハヤトとスバメ、リアとムクホーク。
二人と二羽は監視員の前に強引に止まる。
「「はい!」」
二人は同時にマトマの実を出す。
監視員は唖然としながらも、確認を始める。
「は、はい。合格です。塔へ」
監視員の話が終わらないうちに、二人二羽は塔へ向かう。
「きょ、許可を……」
監視員はポツンと取り残された。
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「あ!」
ハヤトは塔を上っていくチルタリスに気づいた。
ナギのチルタリスだ。
「くそ!もっと速くだ!スバメ!」
ハヤトは歯噛みした。
そう、いくらリアに勝っても、ナギに勝たなければ意味は無い。
スバメと、リアのムクホークはほぼ同一線上に飛んでいる。
そして、塔の下に三鳥の石像が見えてきた。
「スバメ!石像につっつけ!!」
「ムクホーク!面倒だ、嘴で砕け!!」
二人の狂気的なトレーナーが、ポケモンと呼応する。
スバメ、ムクホークはここにきてさらにスピードを増す。
そしてついに――
怒涛の粉塵と爆音と共に、石像が砕け散る。
観客たちに衝撃が走った。
「うわ、あいつらぶっこわしたぞ!!」「どんな威力でぶつかってんだ!?」
「スバメぇ、気にするな。うえだぁ!!」
「ムクホーク、お前も上にのぼれぇ!!」
二羽のポケモンは瓦礫の中から飛び出し、急速に翔けのぼる。
「よし、あとはあのチルタリスを抜けば――」
ハヤトはふと気づいてしまった。
スクーターじゃ塔は上れないことを。
「しまったあぁぁ!!」
ハヤトは急いでスクーターを止めようとするが、ギュッとリアに握られる。
「……ここまで来たんだ。逃げんじゃねえぞおぉぉ!!」
「やめろおぉぉおぉ!!」
「……馬鹿ねぇ」
ナギはスクーターを監視員に預けながら、目の前の突撃事故を見届けていた。
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爆発的な風と共に塵芥が舞う。
ガラガラと、音が聞こえてくる。
観客たちは青ざめて上を見上げる。
「お、おいあれみろ!!」「塔が……町のシンボルが!」「倒れてくるぞぉ!!」
塔は急激に傾き、のぼっていたチルタリス、スバメとムクホークを叩き落とす。
「あ!」
ナギは口を開け、急いでチルタリスのもとに駆け寄る。
塔は傾くことを終えたが、その頂上にある輪は慣性により……
「合格です。塔へいくことを許可します」
監視員がそう言うと、ユリは歓喜の声を上げる。
「さ、速くいくわよ!ホーホー!」
ユリのメールを足に巻いたホーホーが頷くと、一人と一羽は飛び出して
「あれ?」
ユリが呆然として上を見上げる。
空から輪が飛んできたのだ。
輪はまっすぐホーホーのもとへ飛んでいき、すっぽりとホーホーをくぐらせる。
いや、ホーホーが輪をくぐってしまったのだ。
観客たちが一瞬静まり返る。
徐々に、状況が飲み込めたように、観客たちの声が大きくなり、そして
「「ゴォォー――ル!!」」
「へ?」
ユリがぽかんとしている間、観客たちの喚声は大きくなる。
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「はい、これがバッジ」
ナギは表彰の場で、ユリにバッジを渡した。
「まさか負けるとは思わなかったわ」
ナギは参ったという顔をする。
「で、でもホントに運がいいだけで」
「運も実力のうちよ。
それに、ハヤトがいなきゃこうはならなかったわよ」
ナギはそういうと去っていった。
三鳥祭が終わった。
ユリは傾いた塔のもとへ行く。
「よ、ようユリ」
ハヤトがフラフラとしながら立っていた。
「……どうだ?俺のアシストは?」
ユリは思わず噴出す。
「よかったよ!」
数日、ハヤトは療養していた。
リアやラクレも見舞いに来ることがあった。
リアはどうやらレースのことを何も覚えてないとか。
豹変していたときとはまるで違う穏やかな表情でそう言っていた。
やがて、ハヤトの治療が終わり、旅立ちの時が来た。
「ところでユリ」
ハヤトは旅路を行きながら聞く。
「どうしてそのホーホーを連れて行くことにしたんだ?」
「だって、あんなことが起きたのよ!きっといい運気がまわってくるに違いないわよ」
そう決め付けるユリの肩で、夜行性のホーホーはすやすやと眠りについていた。
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スネ夫の目の前で、ソルロックとルナトーンが轟沈する。
確実に強くなった自分のポケモンによって、スネ夫は満足げに笑う。
スネ夫は町に着くと、ジムに入った。
相手はフウとラン。
出してきたのはゲームと同じく、ソルロック、ルナトーン。
そして、スネ夫はたった今、勝利したところだ。
「あ!」
勝利したスネ夫に更なる吉報が訪れる。
ポチエナの体が光に満ちたのだ。
その体はより大柄に――
進化が終わる。
「やった!ポチエナがグラエナに進化した!」
スネ夫は歓喜の声をあげ、グラエナに抱きついた。
グラエナの唸りは、どこか嬉しそうに聞こえた。
暫くしてフウとランが歩み寄ってくる。
「随分と楽しそうですね」
と、ランが微笑みかけてきた。
「いいバトルができたよ!ほら、これがバッジ」
と言いながら、フウがバッジを手渡す。
スネ夫はそれを受け取ると、グラエナを収めて意気揚々とジムを後にする。
(宿舎に戻ったらお祝いしてやろう!
新しい仲間が増えたんだから)
スネ夫の嬉しそうな笑顔は、夕焼けで明るく照らされる。
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日も暮れた頃――
しずかはジムの扉を開ける。
ジムの照明が、リーダーの姿を照らし出した。
「ようこそ。わたしのジムへ」
ライトの先にはジムリーダーのミカンがいた。
しずかは軽く頭を下げ、すぐに話し出す。
「用意はいいわ。早くジム戦を」
「待ってください」
ミカンは静かに、しかし鋭く短い言葉でしずかを制す。
「しずかさん。話は聞いています」
そう言うと、ミカンは一通のメールを取り出す。
「!それは」
しずかは息を呑み、警戒意識を高める。
ミカンの手にあるのは、メカニカルメール。
「ええ。鋼同盟からのメールです」
ミカンはだんだんしずかに歩み寄ってきた。
「そして、わたしも」
あと一、二歩でしずかに届く位置で、ミカンは足を 止める。
「鋼同盟幹部の一人、『切紅』です」
しずかは身構えてきいていた。
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「『鋭羽』から連絡はありました。
あなたと、ジャイアンと言う人が加盟を断ったことを」
(鋭羽……確かハヤトの同盟での名前……)
「確かに、あたしは加盟をことわったわ。でも」
しずかは奇妙に気持ちを高揚させていた。
「……あたしが心変わりしていたら、どうする?」
途端に、ミカンが不審そうな顔になる。
「心変わり……では、同盟に入ると」
「ええ」
実際しずかは同盟に入ることを決めていた。
「あたしは友達と一緒にある人物を追っているの。
あなたたちの同盟に加われば、きっとその人物に会える」
「なぜそう思うんです?」
ミカンの質問は鋭く響いたが、しずかは動じない。
「なぜなら、その人物はあなたたちがいつも相手にしている組織と仲間だから」
ミカンはしばらく考えているようだった。
しずかにはその時間がいやに長く感じられた。
やがて
「……いいでしょう。ただし
あなたに鋼同盟に加盟できるだけの実力があればの話です!」
そうミカンは言うと、定位置に向かう。
しずかは状況を飲み込み、自分の定位置に立った。
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「わたしの使用するポケモンは一体」
ミカンはそう告げてきた。
「なめられたものね」
しずかも強気で反抗する。
どことなく、ミカンが笑った気がした。
しかしすぐに厳格な声が返ってくる。
「そのかわり、本気でいかせてもらいます」
ミカンがボールを構える。
しずかも手にボールを持つ。
二つのボールが宙を舞い、ポケモンを繰り出す。
しずかのポケモンは、優美な二股の尾を閃かせる。
フスリの実験室でたまたまゲットしたポケモン。
妖艶なエーフィの姿が、しずかの目に映る。
その反対側でミカンのポケモンが薄い羽を広げる。
体温調節のための羽を畳むと、真紅の鎧が煌びやかに輝く。
雄々しいハッサムの気合が聞こえた。
「エーフィ!スピードスター!」
「ハッサム!メタルクロー!」
高速の流星とハッサムの鋼がぶつかり合う。
粉砕の衝撃が辺りに広まった。
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粉塵の中、飛び出してきたのはハッサムだ。
「エーフィ、よけて!」
しずかの声のもと、足を踏み切りエーフィは左後ろへ。
ハッサムの右手が空を切る。
するとハッサムは右手を床につけ、そして――
右手が地面を弾いてハッサムは半回転し、エーフィを向く。
その上では力の入った右手が
「エーフィ!でんこうせっ――」
しずかの言葉が終わらない内に、メタルクローはエーフィを叩きつける。
横様にエーフィは吹き飛ばされた。
(ただのメタルクローなのに、何て威力なの!?)
「エーフィ!」
エーフィは何とか持ち直し、立ち上がった。
だがその目の前にハッサムが詰め寄る。
(速い)「エーフィ、でんこうせっか!」
ハッサムの攻撃はエーフィの体を掠めるが、外れた。
(ハッサムなのに、動きが速い。
さっきの攻撃力から考えても、相手のほうが格上。
そして、気になることはもう一つ……)
「ねえあなた!」
しずかはミカンに声を掛ける。
「どうしてポケモンに何も命令しないの?」
そう、ミカンはハッサムを出してから一度も命令をしていない。
それでもハッサムはエーフィを追い詰めてきたのだ。
「……本当に信頼しあえてたら、命令なんて要らないものですよ」
ミカンはもっともらしくそう言う。
しずかはその口調が気に食わなかった。
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(落ち着いて……落ち着いて考えるの)
しずかはエーフィとハッサムの攻防に目を配りながら思考を巡らせる。
(本当の信頼……いえ、そんなものじゃない。
そう仮定しておくのなら考えられることは一つ。
あらかじめハッサムに何かを命令しておくこと。
そしてその命令は短く、明確なもので、その上多くの相手に通用できなければ)
「エーフィ!ねんりき!」
ハッサムの振りかぶった手がピタっと止まる。
「そのまま飛ばして!」
ねんりきにより、ハッサムは反発されるように地面に叩きつけられる。
だが、ハッサムは立ち上がった。
再びメタルクローがエーフィを襲う。
(メタルクロー……そうだ!
さっきからメタルクローしか攻撃技を使っていない!)
エーフィがメタルクローを避けると、しずかはそのまま走り回るよう指示した。
(メタルクローだけを使うように最初から指示していたならば……いったいどうして?
メタルクロー、ハッサム……そうか!)
「エーフィ!すなかけよ!」
エーフィは左足を軸にして急旋回し、砂を飛ばす。
ハッサムは目に砂をを当てられ、メタルクローが外れる。
「エーフィ!回り込んで!」
砂を落としきったハッサムはキョロキョロとあたりを見回す。
「ハッサム!後ろよ!」
ミカンが叫んだ時にはもう遅かった。
「エーフィ、じこあんじ!」
----
ミカンはハッとした。
「気づいたの」
エーフィはハッサムに掛かっていた補助効果を受け継いだ。
その時、ハッサムは慌ててメタルクローを振る。
だけどそれは、エーフィにはもう遅すぎた。
「サイケこうせん!」
瞬間、ハッサムの後ろに回り込んだエーフィの力で、ハッサムは宙に浮く。
「上に叩き上げて!」
ハッサムの体は急速に上昇し、天井へ突撃する。
「スピードスター!」
地から上る流星群がハッサムへ突撃する。
爆発的な音と共に天井が凄まじい勢いで破壊される。
「……確かめたいことがあるわ」
しずかはミカンに話しかける。
「何?」
ミカンは不快そうな声色で言葉を返した。
「あなたのハッサムの特性は『テクニシャン』ね。
メタルクローしか使ってこなかったのはそのため。
『テクニシャン』のハッサムなら、一番威力の高い攻撃はメタルクローだったはず」
「……それで?それがどうしたの」
「あなたは試合前にあらかじめ命令しておいたのよ。
ハッサムに、『メタルクローで攻撃しろ。距離が離れたらこうそくいどう』ってね。
あたしの見ていた限りでは、ハッサムはこの二つの技しか使わなかったわ」
その時、ハッサムが急降下して、地面に叩きつけられた。
----
ハッサムの衝突音の後、ミカンがハッサムをしまう。
既にハッサムは瀕死だったからだ。
「成る程、じこあんじでハッサムの上がった能力をエーフィに刷り込ませた。
エーフィのすばやさにハッサムが勝てるわけも無い」
ミカンはまっすぐにしずかを見つめた。
「素晴らしい洞察力です」
しずかはあまり表情を変えず、質問する。
「じゃあ、勝てたんだから約束は守ってくれるわよね?」
ミカンは暫く沈黙していたが、次第にしずかに歩み寄る。
「合格です」
途端に、しずかの顔が和らぐ。
「ありがとう」
しずかはエーフィを収めながら言う。
「ただ、一つだけお願いがあります」
ミカンは一言そう言うと、しずかにつめより……
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