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ダイパ未来編 その1」(2007/01/26 (金) 16:28:42) の最新版変更点

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「ドラえもうん!」 日曜日の昼下がり、野比家に情けない泣き声が響いた。 声の主は玄関を乱暴に閉め、ばたばたと廊下を走り、 二階へと繋がる階段を上って来る。 「やれやれ」 ドラえもんは溜め息をついた。泣きながら部屋の襖を開けたのは、 ドラえもんの予想通りのび太だったからだ。 「今日はどうしたんだい。ジャイアンに殴られた? スネ夫に馬鹿にされた?  それともしずかちゃんに嫌われた?」 ドラえもんはこういう状況には慣れている。何故なら日常茶飯事だからだ。 しかし、のび太は首を横に振り、 「全部はずれ!」 ドラえもんの言葉を否定し、捲し立てる。 「ポケモンのダイパを持ってないからジャイアンたちに馬鹿にされたんだよう!」 「ジャイアンたちってことはスネ夫もってことだ。だったらはずれじゃないよね」 ドラえもんが珍しく食い下がった。はずれと否定されたのが悔しかったのだろう。 「そんなことどうでもいいよ! お願いだよ、ドラえもん。ダイパを出して!」 しかし、 「それは無理だ。ぼくは出せないよ」 ドラえもんは即答した。 「そんなあ……」 のび太は、ガクリとうなだれたが、 ふと、なにかを思い付いたらしく、ゆっくりと喋り出す。 「ああ……これじゃあ、ぼくだけじゃなくて ドラえもんまで馬鹿にされちゃうだろうなあ」 「なんだって!」 「スネ夫あたりが『ゲームのひとつも出せないなんて役立たずなロボットだな』  とか言ってくるだろうなあ」 これが赤点キング・のび太の作戦だった。 「でも仕方ないよね。出せないものはしょうがないもんね」 (ここまで言えばドラえもんは釣られてくれる……) ドラえもんは仮にも未来から来たネコ型ロボット、そのプライドは低くはない。 ---- 「ぐぬぬぬぬ……」 「それじゃあ、ぼくは空き地に行って来るよ。じゃあね、ドラえもん」 のび太が追い討ちをかけた。すると、 「のび太くん、待った!」 (よし、かかった!) のび太は心の中でガッツポーズをした。 「なに? もしかして……」 のび太がドラえもんのほうへ僅かな期待とともに向き直る。しかし、 「空き地に行ったらみんなを呼んでおいで」 ドラえもんの言葉はのび太の期待を見事に裏切った。 「ええ、なんで?」 「いいから呼ぶんだ。そうそう、ダイパを持って来るように言っておいてね」 ますますわけが分からなくなったのび太だったが、取り敢えず空き地へ向かった。 ---- 数分後、 「ただいまあ、連れて来たよ」 のび太は四人の子供を連れて部屋に戻って来た。 「ほら、ダイパ。ちゃんと持って来たよ」 そのうちのひとり、スネ夫がこれみよがしにゲームを見せ、 「ドラえもん、今日はなにをするつもりなんだ?」 ジャイアンがドラえもんに尋ねた。 「よくぞ聞いてくれました!」 ドラえもんは四次元ポケットを漁り始め、そこから小さな機械を出した。 テケテケン♪ 「ゲームワールド!」 「ドラちゃん、それはなに?」 しずかが尋ねた。 「よくぞ聞いてくれました!」 ドラえもんの言葉にデジャビュを感じずにはいられない五人だったが、 黙って耳を傾ける。 「これはね、ここにゲームを差し込むとゲームの世界に入れる道具なんだ」 五人はそれを理解するのに少し時間がかかったが、 意味が分かると嬉しそうに目を輝かせた。 「すごいだろ?」 ドラえもんは得意気だ。 「それじゃあ、説明書を読むよ。ええと……ポケモンダイパは928Pだな……」 今度は分厚い本を取り出した。ゲームワールドの説明書らしい。 「あったあった。ええと……  “このゲームは最大十二人までが楽しむことが出来ます。  差し込むソフトはひとつで構いません。  ゲームの世界での一日は現実の世界での二十四秒程度です。  だれかひとりがバッジを八つ集め、ポケモンリーグに挑戦し、  見事チャンピオンとなればゲーム終了です”  ……というわけだからスネ夫、ダイパを貸して」 「あっ、うん……はい、ドラえもん」 スネ夫がダイパをドラえもんに手渡す。 ---- 「ありがとう。それじゃあ、準備はいいかな? それではダイパの世界へ……」 「ちょっと待った!」 待ったをかけたのはのび太。 「なんだよ、のび太。トイレか?」 ジャイアンが苛立ちながら言った。早くゲームがしたいようだ。 「ぼくとしずかちゃんはダイパをやったことがないんだよ?  これって不利じゃないかなあ」 「今更なにを言ってんだよ」 今度はスネ夫が言った。 「みんなだって一回クリアしたゲームをまたやったって面白くないんじゃない?」 のび太にしては尤もな意見だ。 「なるほど、確かに一理あるね」 出木杉もそれに賛同した。 「しょうがないなあ、分かったよ」 ドラえもんが機械を弄り出した。 「なにしてるの?」 「時間設定をクリア後に変えるんだ」 しずかの問いにドラえもんが答え、 「時間設定をクリア後に変える?」 のび太が聞き返した。 「そう、これでこのダイパは主人公が殿堂入りして三年たったあとの世界になるよ」 ドラえもんの説明が理解できず、呆然とする五人。 「ああ、主人公っていうのはきみたちじゃなくて……  そう、ゲームのひとりの登場人物として捉えてくれればいい。  きみたちはその主人公が殿堂入りしてからの世界を冒険するんだよ」 「それならゲームのイベントはどうなるんだ?」 ジャイアンが即座に尋ねた。 「さあね……ぼくにも未知の世界なんだ。そっちのほうが楽しみだろ?」 五人の中で首を縦に振らない者はいなかった。 「よし、それじゃあ今度こそ準備はいいかな?  それではダイパの世界へ……レッツゴー!」 ドラえもんが言ったと同時に、六人は不思議な感覚に襲われた。 ---- ここは フタバタウン わかばが いぶく ばしょ 「みんな無事に着いたみたいだね」 ドラえもんが人数を確認しながら言う。 「すっげえ! これがダイパの世界か!」 ジャイアンが大声を上げた。 とてもゲームとは思えないほどのリアルさに他の四人もざわざわと騒ぎ出す。 「それじゃあ、今からポケッチとポケモン図鑑とタウンマップとひでんマシンと  パートナーのポケモンを配るよ」 「そんなに?」 スネ夫が驚いて聞き返した。 「うん。ポケッチのアプリ、ひでんマシンは全種類が揃ってるよ。  とは言ってもバッジを手に入れなきゃ使えないけどね。はい、どうぞ」 ドラえもんが五人に各種アイテムを配り始める。 ここは殿堂入り後の世界。 五人はポケッチやポケモン図鑑などは手に入れることができないのだ。 「みんなに配られたね。それじゃあお待ちかねの……」 ドラえもんは五つのモンスターボールをポケットから取り出した。 「パートナーになるポケモンを配るよ!」 五人から歓声が沸き起こる。 「アイウエオ順だから……まずはジャイアンだね。どうぞ」 ジャイアンが五つのボールのうち、ひとつを選んだ。 ぽんっ! ジャイアンがボールを投げた。現れたのは、 「グレッグルか!」 ジャイアンが嬉しそうに言う。 「おれ、ゲームでも使ってたんだよ! こいつ」 「よしよし。じゃあ次は――」 ---- こうして、出木杉はリオル、のび太はビッパ、スネ夫はスコルピ、 そしてしずかはミミロルを手に入れた。 「ビッパって……」 のび太は嘆いた。 ビッパのことなら知っている。知っているから嘆いたのだ。 ジャイアンとスネ夫はそんなのび太を笑っている。 「ビッパなんてその辺の草むらにいるじゃねえか!」 「まぬけなのび太にはお似合いだね!」 二人はそう言うと、さらにボリュームを上げて笑い続ける。 出木杉は気の毒そうにのび太を見ている。 しずかはのび太さんのポケモンも可愛いわよ、などとフォローしている。 「はいはい」 ドラえもんが手を鳴らして五人の注意をこちらに向けさせた。 「それじゃあいいかな? そろそろ旅に出なきゃ」 「あっ、そう言えば」 のび太がドラえもんに尋ねる。 「ドラえもんは旅をしないの?」 「うん。ぼくはゲームを見守る役なんだ。タケコプターでパトロールするんだよ」 それを聞いて、のび太は少し残念そうな顔をした。 「ああ、そうそう。ポケッチのアプリに電話っていうのがあるよね?」 ドラえもんの言葉に五人は腕にはめたポケッチを見た。 「その機能でぼくはきみたちに、きみたちはぼくに電話をかけれるから  なにかあったら連絡してね」 五人は頷いた。 「これくらいかな。……それじゃあ、みんな」 ドラえもんは大きな声で、はっきりと言った。 「いってらっしゃい!」 201ばんどうろ 草むらを掻き分けて、二人の少年が進む。 「おい、スネ夫! 早く来ねえと置いてくぞ!」 「待ってよ、ジャイアン!」 ジャイアンとスネ夫、現実世界でもこの二人はいつも一緒にいた。 ジャイアンはスネ夫を子分として扱い、 スネ夫はジャイアンを虎の威を借る狐の如く利用しているだけではあったが、 二人はやはりこちらの世界でも一緒に行動している。 「スネ夫、町が見えたぞ! ええと、なんて言う町だっけ……」 「マサゴタウンだよ、ジャイアン」 それも一種の友情なのかもしれない。 とにかくも二人はいち早くマサゴタウンへ辿り着いたのだった。 ---- 「のび太さん、わたしたちは急がずにゆっくり行きましょうね」 「そうだね、しずかちゃん」 のび太としずかは主人公とヒロインらしく、二人で行動している。 (わたし、のび太さんと二人で大丈夫かしら……) (しずかちゃん……やっぱり可愛いなあ) しずかはただ単に自分ひとりだけでは不安であることや、 のび太をひとりにしておくのも不安であることなど、 諸々の理由によってのび太と一緒に行動しているのだが、 のび太には下心がありまくりである。 もしこの場にいたら、ドラえもんは泣いていたに違いない。 「そういえば」 しずかが口を開く。 「出木杉さんはどこに行ったのかしら」 出木杉はドラえもんの言葉が終わるとすぐに駆け出して行ったのだ。 「……さあね。もう次の町についてるのかもよ」 のび太が素っ気なく答えた。 のび太は出木杉に好感を抱いてはいない。 なんでもできる出木杉を見ていると、 なんにもできない自分が惨めに思えて来るからだ。 「そうかしら……」 しずかは首を傾げる。 すると、 「うわっ!」 のび太が声を上げ、 「えっ……きゃあっ!」 野生のムックルが二羽、突っ込んで来た。 二人はその出来事に戸惑いながらも、ボールを投げる。 「行け、ビッパ!」 「がんばって、ミミロル!」 この世界に来てから初のバトル、 しかも主人公・のび太とヒロイン・しずかのタッグバトルが始まった。 ---- 「ビッパ、たいあたり!」 「ミミロル、はたく!」 ビッパのたいあたりとミミロルのはたくが、それぞれムックルたちにヒットする。 ムックルたちは怒ったのかビッパを攻撃する。 ハクタイのもりにしか生息しないミミロルより、 そこらにいるビッパを狙うのも当然だろう。 「くそっ、まるくなる!」 鈍いビッパにムックルの攻撃を避けるのは無理、 ならば防御力を上げて少しでもダメージを減らすしかない。 丸くなるビッパとそれを集中攻撃するムックルたち。 その光景は亀を苛める子どもたちを彷彿とさせた。 「ミミロル、はたくよ!」 突然、しずかの声がして片方のムックルは戦闘不能になった。 もう片方のムックルはミミロルの攻撃に戸惑い、 「ビッパ、たいあたりだ!」 のび太のビッパのたいあたりを急所に食らい、倒れた。 「……あっけなかったね」 のび太が呟いた。 「あら、のび太さんのおかげだわ」 「へっ?」 しずかの言葉にのび太が素頓狂な声を出した。 「のび太さん、ビッパを囮にしたんでしょう?  あれがなかったら駄目だったかもしれないもの」 しずかは壮大な勘違いをしてしまった。 「ま、まあ全部ぼくの計画通りだけどね! あはは……」 のび太が虚勢を張る横で、ビッパは円らな瞳でのび太を見つめていた。 ---- このさき シンジこ きもちを あらわす みずうみ 湖が太陽の光できらきらと輝く。 出木杉はひとりの老人と一緒に湖を眺めている。 出木杉はだれよりも早くそこに着いた。 尤も、出木杉以外はだれひとりとしてそこへは向かわなかったのだが。 シンジこはゲームでは初めてのポケモンを手に入れる場所であるので、 この世界に於いて五人にはおおよそ無縁であるはずの場所だった。 「少年よ」 老人が出木杉に声を掛けた。 「きみはなにをしているのかね」 「……この湖には感情を司る神、エムリットがいますよね」 老人は少し驚き、出木杉の言葉に耳を傾ける。 「ぼくはそのポケモンに興味がありました。……もうここにはいないようですけど」 「少年よ」 出木杉が言い終わるのと同時に老人は言う。 「きみの名は?」 「出木杉です」 「デキスギか……。わたしはナナカマドだ」 「知っています」 出木杉は冷静だった。 ナナカマドは無表情のまま続ける。 「デキスギ、マサゴタウンのわたしの研究所に来なさい。 きみにいいものを見せよう」 出木杉は頷いて、ナナカマドに着いて歩き出した。 ---- ここは マサゴタウン うみにつながる すなのまち のび太としずかが到着したとき、 「なんだね、きみは? 部外者の子どもは出て行きなさい!」 その言葉と共に、ジャイアンがマサゴタウンの研究所から追い出されていた。 「もう、ジャイアン。だから言ったじゃないか」 「どうしたの?」 しずかが尋ねた。 「ああ、しずかちゃんにのび太か。ジャイアンが研究所に入ろうとしたんだよ」 「なんでだよ、なんで入れてくれねえんだよ!」 ジャイアンは腹を立てているようだ。 「だってジャイアン、ぼくたちはただの子どもだよ?  主人公だったら博士と面識があるし、研究所に来るように言われてたけど、  ぼくたちは博士に会ってすらいないんだから」 スネ夫が続ける。 「それにぼくたち、ポケモンもポケモン図鑑も持ってるから、  研究所に用はないんだよ」 「あっ、確かにそうだな」 ジャイアンはやっと納得したらしい。 「だったらさっさとコトブキシティ行くぞ!」 「……そういう訳だから。じゃあね、二人とも」 我が侭ジャイアンと苦労人スネ夫は去って行った。 「スネ夫も大変だなあ……」 のび太がぼそりと呟いた。 のび太としずかはポケモンセンターに行き、 少し休んでから202ばんどうろに行くことにした。 ---- 二人がポケモンセンターに入ったとき、 丁度、出木杉とナナカマドはマサゴタウンに到着した。 「いいんですか? ここまでしてもらって」 「気にするな。わたしはきみが気に入ったんだ」 誤解を招きそうな台詞である。 「さあ、着いたぞ。わたしの研究所はここだ。入りたまえ」 「失礼します」 出木杉はナナカマドの研究所に入って行った。 そして数十分後、出木杉は研究所から出て来た。 「意外と……言ってみるものだね……」 出木杉の呟きは青い空に吸い込まれて行った。 [[次へ>ダイパ未来編 その2]] ----

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