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挑戦者 その2」(2007/01/08 (月) 13:37:42) の最新版変更点

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 のび太は森の中を進んでいた。 と言っても、ボールの中のハスボーはボロボロ。道具も乏しい。 そう、実は迷っていたのだ。 「……ずいぶん奥まで来ちゃったなぁ」 のび太は額の汗を拭い、岩に腰掛けた。 (どうしよう……マップによると、森を越えたらすぐジムのある町なのに……  早くこのゲームをクリアしなきゃいけないのになぁ)  のび太はしばらく悩み、空を見上げた。 別に何か考えているわけではない。この状態ののび太は頭が真っ白だ。  空ではポッポの群れが飛んでいる。その群れを、のび太は無意識に目で追った。 そのとき、ポッポたちの真下の木からオニドリルが飛び出してきた。 (……あ!) のび太は目を見開いた。 ポッポたちは群れを乱し、バラバラに飛び交う。オニドリルはその間を刺すように飛び回った。 数羽のポッポがオニドリルの攻撃をくらい、墜落してくる。 辺りにボトボトと落ちてくるポッポを見て、のび太は立ち上がった。 (あのオニドリルを倒さなきゃ、ポッポが全滅しちゃう!) どうも困っている者を助けずにはいられないのび太はボールに手を掛け、気づいた。 (ぼくのハスボーは弱ってる。それにタイプはくさがついていたはず。ひこうには不利だ) のび太は悔しがりながら上を見た。 いつの間にかオニドリルが三羽になっている。 (あのオニドリル、楽しんでいやがる) のび太はそう感じた。  だがのび太が悪態をついた瞬間、何かが空中を物凄いスピードで飛び交った。 ポッポの雨はおさまり、オニドリルが三羽降ってきて、地面に激突した。 ---- 「戻れ、エアームド」 誰かの声が聞こえ、のび太は振り向いた。 着物姿の男が降りてきたエアームドの脇で立っていた。 「あ、あなたはジムリーダーの……」 のび太は懸命に思い出そうとした。「……ハヤテさん?」 「ハヤトだ」 短い答えが返ってきた。 「あ、すいませんハヤトさん」 のび太は頭を下げた。 「いや、別にいい」 ハヤトは堅かった顔を綻ばせた。「それよりこいつらに何かされなかったか?」 ハヤトはのびているオニドリルたちを見回した。 「ぼくは別に……それよりポッポたちが!」 のび太はことの次第を伝えた。 「……ああそうだ。最近こいつらはポッポに悪さばかりしてるんだ。  まあとにかく、ここは危険だから町へ」   その時、のび太はハヤトの後ろのオニドリル一羽が起き上がるのを見つけた。 「危ない!」 のび太は言葉と同時にボールを投げた。 振り向くハヤトの横でハスボーが繰り出される。 「しぜんのちから!」 のび太は指示を出した。 ハヤトへ向かってドリルくちばしをしてくるオニドリルに黄色い粉が振りまかれる。  しびれごなだ。 粉をまとったオニドリルは身を強張らせ、技を中断した。 「エアームド、スピードスター」 ハヤトが指示し、エアームドの放った星がオニドリルを飛ばす。 ハヤトは振り返った。 「すごい速さだったな」 「え、ああ」 のび太は自分が褒められていることに気づいた。「必死だったんだ」 「お主、名前は?」 ハヤトがきいた。 「ぼく、のび太」 「そうか、のび太殿か」  その後、のび太はハヤトに連れられて森を抜けた。 ----  のび太は町につくと、自分がジムに挑戦しにきたと明かした。 「何と! 挑戦者であったか!」 ハヤトがうれしそうな顔をして言った。「では楽しみにしておるぞ」 「え、」 のび太はきょとんとし、やがて気づいた。(そうか、ジムリーダーはゲーム通りだった)  のび太はハヤトと別れ、ポケモンセンターに来て宿を借りた。 (どうしよう。ハヤトのエアームドは一瞬でオニドリル三羽倒していたし、物凄く強そうだ) のび太は回復を終えたハスボーのボールをなでた。 (ハスボーで勝てるのか? 確かエアームドははがね・ひこうタイプ。……うわ) のび太は頭を抱えた。 (くさ技はちょっとしか効かないじゃないか! ハスボーは全然みず技使えないし)  のび太は頭から湯気がでるくらい考え込んだが、この状況を打破する方法は見つからなかった。 (……ん!? そうだ、ポケモンを捕まえてくれば)  のび太は決心して、外へと出た。 ---- 次の日、のび太はジムに来た。 「思ったより早かったな」 ハヤトがあぐらをかいて待っていた。 「うん。でも、ちゃんと作戦は練ってきたよ」 (相当運に頼ることになるけど) 「そうか。では始めよう」  二人はバトルフィールドに立った。 「行け、ズバット」 ハヤトは繰り出した。「お手並み拝見だ」 (ここで負けるわけにはいかない!) のび太はモンスターボールを投げた。 「行け、ドンメル!」 「ほう、ほのおタイプか」 ハヤトはそう言うとニヤッとした。 「エアームドへの対策と言うわけか。だが、ここで倒せば済むことだ!」  ズバットは一気にドンメルに詰め寄った。「ちょうおんぱ」 ズバットから人間には聞き取れない音が響いた。 「ドンメル!」 のび太は呼びかけた。「ドンメル、ひのこだ!」 だが、ドンメルは火を吹かず、地面を揺らした。 (混乱してるんだ) のび太は歯を噛み締めた。(でも、これはもしかして) 「どうやらマグニチュードのようだな。だがズバットには効かん!ズバット、かみつくだ」 ズバットの歯がドンメルに刺さる。が、 「ドンメル、ひのこ!」 今度はのび太の命令通り火を吹き、ズバットに当たった。 ズバットは噛むことに夢中で不意をつかれ、あっさり炎に包まれた。 「ズバット!」 ハヤトの声もむなしく、耐久の低いズバットはやられた。 「く、もどれ」 ハヤトはズバットをもどした。「ひるまなくてよかったな」 「いや、違うよ。ドンメルはたたかれても気づかないほど鈍い肌なんだ」 (図鑑の説明が通じる世界かどうか不安だったけど、どうやら賭けの一つ目は成功したようだ) のび太は自然と笑っていた。 それがハヤトには気に食わなかったらしい。「ふん。だが次はそうはいかないぞ。行け、エアームド」  ついにのび太の前に、鎧をまとった怪鳥が現れた。 ---- (さあ、次だ!) のび太は意気込んだ。「ドンメル、ひのこ!」 「エアームド、こうそくいどう!」 エアームドはすばやい動きでひのこをかわした。 「ドンメル、マグニチュード!」 「何!?」 ハヤトの疑問の声を無視して、ドンメルは地面を揺らした。 当然エアームドはなんともない。 「どうした? ひこうタイプにじめん技など効くわけが」 「マグニチュード!」 のび太は再び、同じことをした。 「貴様、なめているのか!?」 ハヤトの怒声にも、のび太は反応しない。 「いいだろう、なら終わりだ!! エアームド、こうそくいどうの後つつくだ」 エアームドは高速でドンメルに迫ってきた。 「ドンメル!」 (頼む、来てくれ!) 「マグニチュード!!」 突然大きなゆれがジムを包んだ。最大級のマグニチュードだ。 「お、おい室内でこんなわざしたら……うわっ」 ハヤトが危惧してる間に、ジムの天井が崩れてきた。 「これが狙いか! エアームド、よけるんだ!」 「ドンメル、ひのこをあびせろ!」 ドンメルのひのこと天井の瓦礫がエアームドを襲った。 のび太は瓦礫がどんどん落ちてくるうちに、視界が狭まった。(くそ、よくみえない)  ジムの天井は完全に崩れ、瓦礫が累々とつまれていった。 ----  のび太は瓦礫の上に立った。「ドンメル、どこだ!?」 のび太は瓦礫の下から火がのぼるのを見て、急いで駆け寄った。 「ドンメル、今助け」 と、そのとき目の前に何かが降りてきた。 エアームドだ。 「ドンメルを戻せ」 ハヤトが瓦礫の上に立っていった。 「まだだ、まだドンメルは戦える!」 「違う、早くしないとドンメルが酸欠で死ぬぞ」 のび太は思いもよらない言葉に息をのんだ。「……ポケモンも、死ぬのか」 「ああ、他の生物と同じようにな」 ハヤトが重く告げた。 のび太はドンメルを戻し、立ち上がった。 (最悪のパターンだけど、でももしかしたらあの技で) のび太はハスボーを繰り出した。 「ハスボー、しろいきり!」 のび太の指示を受け、ハスボーは霧を噴出した。 あたりは白く包まれた。 「目隠しか。だが明けたら終わりだ」 ハヤトは静かにそのときを待った。 しばらく何もなかった。 (当然か、ハスボーがエアームドに勝つなど所詮) だが、突如重いものが動く音がして、ハヤトが身構えた。 「な、何だ。何の技」 そして霧がはれた。 その瞬間、「しぜんのちから!」 のび太の声が響いた。 ハヤトが見ると、何故か浮いている岩が、雪崩れのようにエアームドに降り注いだ。 「ば、馬鹿な! これはいわなだれ!どうして ……!!」 ハヤトははっとした。 ---- エアームドが完全に埋まる直前、ハヤトはボールに戻した。 「完敗だ。まさか瓦礫が岩場を作っていたとは。  岩場でしぜんのちからを使うといわなだれになることを忘れていた俺の負けだ」 「はは、うまくいってよかったよ」 のび太は笑いながら言った。 (本当は昨日気づいたばかりなんだけどね。それに瓦礫で岩場と言えるかどうかも不安で) 「笑い事じゃないだろ」 ハヤトの鋭い言葉が、のび太の思考を遮った。 「え?」 のび太はきょとんとする。 「え?じゃない、ここをどうするつもりだ。」 ハヤトはあたりを見回した。ジムの成れの果てを。 「あ、アー!」 のび太は今更ながら気づいた。「ぼ、ぼくはどうしたら」 「弁償だな」 ハヤトは当たり前のように言った。 のび太は目の前が真っ暗になった。…… ---- のび太はポケモンセンターの宿で目を覚ました。 (……ま、まさかここはポケモンセンター。今までのは全部!) のび太は勢いよく飛び起きたが、すぐに堅い表情のハヤトが目に映った。 「ああ、夢じゃないか」 「当然だ」 のび太の気持ちを察したらしく、ハヤトが言った。 「しかし、俺にも考えがある。ちょうどジムが無くなっちまったし、  これを機に旅に出ようと思うんだ」 ハヤトの言葉で、のび太の目に光が戻った。「じゃ、じゃあ弁償は」 「まあ、今のところはいいだろう。但し!」 ハヤトはゆっくりのび太に近寄った。「条件がある」 「な、なんでしょう?」 のび太は身震いした。 「何で?」 のび太は旅支度しながらきいた。 「ん?」ハヤトは荷袋を持ちながら言った。 「不満か。俺がついてきちゃ?」 「……いや、別に」 のび太は嘲笑ぎみに言った。 ----  ――とある荒廃した町。 表向きには廃墟が広がり、空気は汚れ、人の生活しているような環境じゃない。 だがその町で、密かに隠れ住む集団がいた。 崩れたビル、焼きただれた民家のさらに奥。この世を二分するように巨大な山脈の麓。 見た目はただの岩。だがその地下で集団はアジトを築きあげていた。 毎日不穏な活動を続ける彼ら。だが世界のほとんどはその脅威に気付いていない。 もっともその脅威も、さらなる巨悪の一部でしかなかったのだが…… ――アジト司令室。 アカギはふてぶてしく座り、交信を待っていた。 (……遅いな。) アカギは指で机を叩いた。 交信は三日前からの取り決め。アカギはこの三日間気が気でない思いで過ごして来た。 しかしその時になって相手は遅れている。アカギの緊張は緩み、徐々に嘲りへと変わっていった。 (所詮は少年。悪の組織というのをわかっていないようだな。……無理もないか。  だが相手の力量によっては、私はいつでも奴らを……!!) 目の前のモニターに仮面を被った男、いや少年が現れた。  少年は気取った雰囲気を醸し出していた。 願っていたことがすんなり手に入った子供のように。 「マスター、お待ちしておりました」 アカギは態度を改め、堅苦しく頭を下げた。 「ああ、それでいい。アカギ」 少年の口端が上がる。「計画は?」 「順調に、ですがやはり物資が少なく、時間がかかります」 「よい。まだ時間はある。そのままの調子で続けてくれ。  それより紹介したい人物がいるんだ」 アカギは明らかな嘲笑を聞き取っていた。 それでも怒りを抑え、顔を上げた。 途端にアカギの顔が歪んだ。 ---- 「ロケット団リーダー兼ジムリーダーのサカキだ。名前くらいはしっているだろう?」 少年が奥の男を手で示しながら、きいた。 「……なぜです?」 アカギは動揺せずにいられなかった。 「組織など我々だけで十分なはず、なぜ今更勧誘など」 「味方は多い方がいい。より万能ならなおさらだ。彼らの組織の威力は見過ごせるものではない。  そして、君らは」 少年はサカキに向き合った。「その威力を持っている」 「その通りで、マスター」 サカキは言った。 「我々の部下は全国に分散し、あらゆる大組織、中小企業に浸透してあります。  高尚なものから低俗なものまで、我々の干渉できないものなど無い。  そしてマスター、あなたの組織にそれら全てを与えても構わない」 すると、少年は頷き、再びモニターを見た。 「そう、彼らは社会的威力を持っている。君らにはないものだ」 その言葉で、アカギは跳ね上がった。 「我々はあなたの計画の最終的目標を一番に担っている!!   なのに我々ではなく、そっちの組織の方が使えると」 「君らが組している計画はあくまで僕らの理想的局面においてだ。  もちろん君らも重要だ。配当は平等、それで文句はないだろう」 アカギはこぶしを握り締め、静かに席に着いた。  アカギはロケット団が気に食わないわけではない。自分の地位が下がることを恐れていたのだ。 (だがもう、どうにもならないようだな。)  アカギは認めるしかなかった。  そのとき、少年側から、ドアの開く音がした。 「ああ、クリs」  その少年の言葉で、通信は途絶えた。  アカギはやり場のない憤怒と焦りから机を叩いた。 鈍い音が響き、むなしい沈黙が訪れる。 (……組織をなめやがって。我々が完全に組したと思うなよ……) アカギは歪んだ笑みを浮かべていた。 ----  ジャイアンは今、室内に草が広がるジムで戦っていた。 相手はナタネ。ダイパを持っていないジャイアンだったが、室内の様子でくさタイプ使いと判断した。 弱点が一番多いタイプ。だからココドラなら余裕だろうと高をくくっていたのだが…… 「しびれごなで動きが鈍くなったようね!」 「そんなことわかってらい!」 怒鳴りながら、ジャイアンは焦っていた。 ココドラのメタルクローをロズレイドはひらりとかわす。 さらに動けないココドラを容赦なくメガドレインが襲った。 ジャイアンは激しい攻撃に呻いた。 (あのやろう、なんて強いんだ。ココドラの攻撃がまったくあたらねえ。……  しかしあのジムリーダー、随分へそ出してるよな……寒くないの) 「いってぇ!!」 突然ジャイアンの右側頭部にこおりのつぶてが飛んできた。 「スズナ! てめえ何しやがる!」 ジャイアンは頭を押さえて右を見た。 スズナはユキカブリを撫でながら、「変なとこに目を向けているからでしょ」 と言った。 「!! お、俺はそんなつもりで見てたわけじゃ」 「ロズレイド、マジカルリーフ」 ナタネの声でジャイアンはハッとしてフィールドを見たがすでに遅かった。 ココドラは無数の葉に突撃され、その場に倒れた。 「ココドラぁ!」 ジャイアンは駆け寄った。 ‘頼むからまひくらい解いてくれ’ ココドラは目で語っていた。 もちろんジャイアンには伝わらなかった。 ---- 「ああ、情けない、情けない」 ジャイアンがジムに負けた帰り道、スズナはしきりにぼやいていた。 「……うるせえ」 ジャイアンはむなしく抵抗する。 「何がうるさいよ!」 スズナは足を止めた。 「たった一体でジムに挑むなんてむちゃにもほどがあるわ!  それに作戦も無しに、ただメタルクローばっかり。あんな攻撃効くと思ってるの?  『たかがくさタイプ。イチコロだぜ』 なんて言ってたのは誰かしら?  まったく本当に情けないったら、いたたっ!」 ジャイアンは耐え切れずに歯を剥き出しにして、スズナの頬をつねった。 「それに同意してたのは誰かな、ああ!? このやろう!  『くさタイプなんてどうせ雑魚だから大丈夫でしょ』って言ってたのはだれだっけ!?  そんなに言うんなら自分でジムに挑戦し、いででっ!!」 「それは、あんたの、やりかたが悪いから、でしょうが! この」 スズナはジャイアンの両頬を逆方向に引っ張り、伸ばした。 「いでぇいでぇ、このよくも俺様を!!」 ジャイアンの右手がスズナの頬を離れ、髪の束を掴んだ。 それはただ単に頬より引っ張りやすそうだからという理由で掴んだのだが、 「ひゃぁっ!!」 スズナは急に素っ頓狂な声を上げた。同時にジャイアンの両頬をつまんでた手が緩む。 (!? おお?) ジャイアンは好奇心からさらに引っ張った。 「ひゃぁ!! ちょ、待って離しt、ひゃ!」 スズナが発狂する度に、ジャイアンの顔に悪そうな笑みが浮かぶ。 「どうやらこれがお前の弱点のようだな、ぐふふ」 ジャイアンは勝利の笑い声を出しながらスズナを引っ張っていった。 ---- 「くそ、あのやろう。」 ジャイアンはポケモンセンターの裏の空き地で野宿の準備をしていた。  夕方、ジャイアンはスズナの髪を離した瞬間に逆襲を食らい、センターを追い出されてしまった。 それ以来いくら中に入ろうとしてもユキカブリがジャイアンの邪魔をした。 「俺をこんな寒いところに追い出すなんてひどいなぁ。な、ココドラ!」 ジャイアンは回復を終えたココドラを叩いた。 ‘てめえ、俺をまひのまま戦わせたくせに何言ってやがる!調子にのんな’ とその目は語っていた。 当然ジャイアンには伝わらない。 「俺のことがわかるのはお前だけだぜ、友よ!!」 ジャイアンはココドラを熱く抱きしめた。 ‘やめろてめえ! てめえの蒸し暑いからだなど触れたくもない! 離せデブ! この!’ といった様子で騒いでいたココドラだが、無駄な抵抗とわかり力を抜いた。 「……しかしスズナの言うことも一理あるんだよな。  俺がもっとしっかりしとけば、ココドラはあの時、まひ状態にはならなかった」 ジャイアンは真剣な顔つきで、現在精神的にまひ状態のココドラを見ながら言った。 「しかたない。しばらくは特訓だな!」 ジャイアンは決意を抱いた。 ----  翌日。   町を少し離れると森に着いた。 「さあて、入るか」 ジャイアンは意気込んで入っていった。  この森を抜けると次に行くべき町に着く。 ジャイアンは、ここならレベルの高い特訓になるだろうと推測していた。 スズナは連れて来ていない。結局朝になってもユキカブリが待ち構えていたのだ。 (一晩中ポケモンを出しっぱなしにするなんて……いや、いいんだあんな奴! 今は集中しなきゃ)  ジャイアンは頭を振り、思考からスズナのことを追い払った。  森には、くさタイプはもちろんむしタイプも多く生息していた。 (そういや虫はくさに強かったな。いくらか捕まえておくか……) ジャイアンはそう考えながら野生相手にココドラをガンガン戦わせていた。  キャタピーやビードル達を一掃したところで一息つく。 「くそ、虫ったって芋虫ばっかじゃねえか! あんなやつ俺はいらねえってのに、なあココドラ!」 ‘てめぇ、だったらあんな気持ち悪い奴らと戦わせるんじゃねえ! 無茶苦茶嫌な感触だぜコラァ!’ という目つきをしていたココドラも、ジャイアンの差し出したポロックにはあっさり食いついた。  「……さて、それ食ったら今度は更に奥行くぞ!」 ジャイアンは自分も軽い食事を済ませ、更に進んでいった。  だいぶ木々が鬱蒼と茂る中で、ジャイアンの前に何かが飛び出してきた。 「!! カイロスじゃねえか!」 ジャイアンが顔を輝かせて言ったとおり、飛び出してきたのはカイロスだった。 「ようし、むしタイプだ! ぜったいゲットしてや……」 だがその瞬間、カイロスの前で何かが素早く横切り、カイロスは悲鳴を上げて倒れた。 ---- 「カ、カイロス!!」 ジャイアンとココドラは駆け寄った。 みるとカイロスは体中が斬りつけられてボロボロだ。恐らく既に何度か攻撃されていたのだろう。 「どうだ、ココドラ?」 ジャイアンはカイロスの脇に立つココドラを向いた。 ‘兄貴、こいつはもうだめだぜ……’ という目つきでココドラは首を横に振る。 「そうか、くそ誰がこんなことを」  珍しくココドラの意志はジャイアンに伝わった。  その時、ジャイアンは周りで音がなっているのに気づいた。 (何だこの、ヒュンヒュンって風を斬るような音は) 「ココドラ、気をつけ」 ジャイアンの言葉はココドラと黒い影の衝突音で途切れた。 「ココドラ! くそっ」 ジャイアンは影の方を向いたが既に姿はない。 (これは、動きが速すぎるんだ!) ジャイアンは同時に周りの音がそいつの移動する音だと気づいた。  その間にココドラは立ち上がる。 「ココドラ、平気か?」 ジャイアンの心配そうな言葉とは裏腹に、ココドラはピンピンしている。 (攻撃力はたいしたことないようだな。ココドラは防御力があるし……そうだ!) ジャイアンはふと思いつき、前を向いた。 「ココドラ、俺を信じろよ」 ジャイアンは力強く言った。   そのすぐ後に黒い影がジャイアンの左腕を斬りつけたが、ジャイアンは堪えた。 (く、この程度の攻撃どうってことねえや!) ジャイアンは歯を食いしばって時を待った。  黒い影は周りを跳びつつける。そのスピードは止まらず、むしろ上がっているように思えた。 だがジャイアンは、野球で鍛えた自分の動体視力に自信があった。  ジャイアンが身構えてから数分後、ついに黒い影は動き出した。 ---- ジャイアンの目が、右前方から飛び出してくる影を捕らえた。 (来た! まっすぐココドラに) 「ココドラ、てっぺきだ!」 ほぼ同時にココドラの防御がぐーんと上がる。  刹那、刃がぶつかり合うような鋭い音が響いた。 だが今度のココドラは押し負けなかった。 影はついに止まり、その姿があらわになった。  音のように素早く飛ぶポケモン。 それはテッカニンだった。 (今しかない!) ジャイアンは直感し、モンスターボールを投げた。  ボールはテッカニンを収める。 一度揺れ……二度揺れ……緊張が走る。  だが期待は裏切られた。 (くそ、出てきちまった) 舞い上がるようにテッカニンが飛び出す。 ジャイアンは舌打ちするが、まだあきらめたわけじゃない。 「ココドラ、どろかけ!」 ココドラは地面をかきあげ、泥は止まっていたテッカニンに降りかかる。 テッカニンは痛そうに体を振り、次の瞬間地面に突撃していった。 「なっ!!」 ジャイアンが唖然としている間に、テッカニンは地面にもぐってしまった。 ジャイアンはうろたえた。「何で!? テッカニンがあなをほろなんて覚えるはず」  その時、ココドラの真下が膨らんでテッカニンが飛び出した。 ココドラは予想外の効果抜群技に仰天していた。 やがてテッカニンは再び周りを旋回しはじめた。 (くそ、だがあなをほるには驚いたが、これを始めたら) ジャイアンはにやりとする。  やがて鈍い音とともに、テッカニンはふらふらと舞い落ちた。 ----  ジャイアンは弱ったテッカニンを鷲づかみにした。 テッカニンは必死にわめいていた。 ココドラは‘無駄だぜ。そうなっちゃもう逃げられねえ。’といった憂いの目線でテッカニンを見た。 「さあて、どろかけでうまく見えてなかったようだなぁ」 ジャイアンの声は甘ったるかった。 たとえ動物でも容赦しない。それがジャイアンだった。 ジャイアンの手に力が入る。その瞬間テッカニンは自分の死期を悟った。 「……本当ならここでつぶしちまいてえところだ。だが」 テッカニンの目に光が戻る。 「俺はちょうど使えるむしタイプを探していたところだ。運がよかったな」 ジャイアンはテッカニンをボールに収めた。 「よし、帰るぜココドラ。用は済んだ」 ジャイアンは達成感に満ちた表情で言った。   ジャイアンは知っていたのだ。一度命拾いさせて手に入れた仲間は絶対に服従してくることを…・… ココドラは去り際に、カイロスがこっちを見ていることに気づいた。 ‘頼む。……俺もここから連れてってくれ。この怪我だ。もう野生じゃ生きてけねぇ……’ カイロスは目で懇願する。その目は潤んでいた。 ‘……ふ、悪いなカイロス’ ココドラは蔑みの目を向ける。 ‘うちの兄貴は強い奴にしか興味ないんだ。じゃあな’ ココドラは背中で語り、その場を去った。 ----  夕方。 ジャイアンはポケモンセンターに戻ってきた。 ポケモンを預ける際、スズナに遭遇した。 「……なに、ずっと森にこもってたの?」 「そうだ。おかげでだいぶマシになったぜ。新しい仲間も増えたしよ!」 ジャイアンは元気に答え、それからテッカニンのことを話し出した。 「……それが何故かあなをほる覚えてたんだよな……テッカニンって覚えるっけ?」 ジャイアンの質問にスズナは少し考える。 「野生じゃまずありえないわね。もしかしたら前は誰かのポケモンだったのかも」 スズナはそう結論つけた。 「それより、あたしを置いていくってひどいんじゃない?」 スズナは急に話題を変えた。 「あたしに頼めばバトルの相手してあげたのに」 「だってお前、ずっと入れてくれなかったじゃねえか」 「あんなの力ずくで通れるでしょ」 「そこまでする気はねえよ! しかしどうやらもう止めたんだな」 ジャイアンは嬉しそうに笑う。「これでやっと室内で寝れるぜ」 「あ、そうそう」 スズナは思い出した様子で話し出す。 「昼間ね、ジュンサーさんが来て、あんたの張ったテントを調べてたの。  で、あたし連れがここで寝てるって言って帰ってもらったのよ」 ジャイアンの顔が訝しげになる。 「……俺が取り行けばいいんだろ?」 「違う違う、今晩もあそこで寝てほしいの!」 途端にジャイアンの眉が吊り上る。 「何でそうなる!?」  「だってジュンサーさんにあたしが嘘ついたことになるもの」 「別にいいだろ」 「嫌、それにポケモンセンターは満室よ!」 「んなもの、お前の部屋で寝りゃ」 …… ジャイアンはテントの中で頬をさすりながらぼやいた。 「何であんなに引っぱたくんだか……女って怖えなぁ……な、ココドラ!」 だがココドラは聞いていない。 ‘……ああ、俺だけでも逃げてあそこに’という表情でポケモンセンターを羨ましそうに見ていた。 「やっぱ俺のことがわかるのはおまえだk、へぶぅ!!」 ‘同じ手を食うかこのやろう!’ ジャイアンは両頬をさすりながら床につくことになった。
 のび太は森の中を進んでいた。 と言っても、ボールの中のハスボーはボロボロ。道具も乏しい。 そう、実は迷っていたのだ。 「……ずいぶん奥まで来ちゃったなぁ」 のび太は額の汗を拭い、岩に腰掛けた。 (どうしよう……マップによると、森を越えたらすぐジムのある町なのに……  早くこのゲームをクリアしなきゃいけないのになぁ)  のび太はしばらく悩み、空を見上げた。 別に何か考えているわけではない。この状態ののび太は頭が真っ白だ。  空ではポッポの群れが飛んでいる。その群れを、のび太は無意識に目で追った。 そのとき、ポッポたちの真下の木からオニドリルが飛び出してきた。 (……あ!) のび太は目を見開いた。 ポッポたちは群れを乱し、バラバラに飛び交う。オニドリルはその間を刺すように飛び回った。 数羽のポッポがオニドリルの攻撃をくらい、墜落してくる。 辺りにボトボトと落ちてくるポッポを見て、のび太は立ち上がった。 (あのオニドリルを倒さなきゃ、ポッポが全滅しちゃう!) どうも困っている者を助けずにはいられないのび太はボールに手を掛け、気づいた。 (ぼくのハスボーは弱ってる。それにタイプはくさがついていたはず。ひこうには不利だ) のび太は悔しがりながら上を見た。 いつの間にかオニドリルが三羽になっている。 (あのオニドリル、楽しんでいやがる) のび太はそう感じた。  だがのび太が悪態をついた瞬間、何かが空中を物凄いスピードで飛び交った。 ポッポの雨はおさまり、オニドリルが三羽降ってきて、地面に激突した。 ---- 「戻れ、エアームド」 誰かの声が聞こえ、のび太は振り向いた。 着物姿の男が降りてきたエアームドの脇で立っていた。 「あ、あなたはジムリーダーの……」 のび太は懸命に思い出そうとした。「……ハヤテさん?」 「ハヤトだ」 短い答えが返ってきた。 「あ、すいませんハヤトさん」 のび太は頭を下げた。 「いや、別にいい」 ハヤトは堅かった顔を綻ばせた。「それよりこいつらに何かされなかったか?」 ハヤトはのびているオニドリルたちを見回した。 「ぼくは別に……それよりポッポたちが!」 のび太はことの次第を伝えた。 「……ああそうだ。最近こいつらはポッポに悪さばかりしてるんだ。  まあとにかく、ここは危険だから町へ」   その時、のび太はハヤトの後ろのオニドリル一羽が起き上がるのを見つけた。 「危ない!」 のび太は言葉と同時にボールを投げた。 振り向くハヤトの横でハスボーが繰り出される。 「しぜんのちから!」 のび太は指示を出した。 ハヤトへ向かってドリルくちばしをしてくるオニドリルに黄色い粉が振りまかれる。  しびれごなだ。 粉をまとったオニドリルは身を強張らせ、技を中断した。 「エアームド、スピードスター」 ハヤトが指示し、エアームドの放った星がオニドリルを飛ばす。 ハヤトは振り返った。 「すごい速さだったな」 「え、ああ」 のび太は自分が褒められていることに気づいた。「必死だったんだ」 「お主、名前は?」 ハヤトがきいた。 「ぼく、のび太」 「そうか、のび太殿か」  その後、のび太はハヤトに連れられて森を抜けた。 ----  のび太は町につくと、自分がジムに挑戦しにきたと明かした。 「何と! 挑戦者であったか!」 ハヤトがうれしそうな顔をして言った。「では楽しみにしておるぞ」 「え、」 のび太はきょとんとし、やがて気づいた。(そうか、ジムリーダーはゲーム通りだった)  のび太はハヤトと別れ、ポケモンセンターに来て宿を借りた。 (どうしよう。ハヤトのエアームドは一瞬でオニドリル三羽倒していたし、物凄く強そうだ) のび太は回復を終えたハスボーのボールをなでた。 (ハスボーで勝てるのか? 確かエアームドははがね・ひこうタイプ。……うわ) のび太は頭を抱えた。 (くさ技はちょっとしか効かないじゃないか! ハスボーは全然みず技使えないし)  のび太は頭から湯気がでるくらい考え込んだが、この状況を打破する方法は見つからなかった。 (……ん!? そうだ、ポケモンを捕まえてくれば)  のび太は決心して、外へと出た。 ---- 次の日、のび太はジムに来た。 「思ったより早かったな」 ハヤトがあぐらをかいて待っていた。 「うん。でも、ちゃんと作戦は練ってきたよ」 (相当運に頼ることになるけど) 「そうか。では始めよう」  二人はバトルフィールドに立った。 「行け、ズバット」 ハヤトは繰り出した。「お手並み拝見だ」 (ここで負けるわけにはいかない!) のび太はモンスターボールを投げた。 「行け、ドンメル!」 「ほう、ほのおタイプか」 ハヤトはそう言うとニヤッとした。 「エアームドへの対策と言うわけか。だが、ここで倒せば済むことだ!」  ズバットは一気にドンメルに詰め寄った。「ちょうおんぱ」 ズバットから人間には聞き取れない音が響いた。 「ドンメル!」 のび太は呼びかけた。「ドンメル、ひのこだ!」 だが、ドンメルは火を吹かず、地面を揺らした。 (混乱してるんだ) のび太は歯を噛み締めた。(でも、これはもしかして) 「どうやらマグニチュードのようだな。だがズバットには効かん!ズバット、かみつくだ」 ズバットの歯がドンメルに刺さる。が、 「ドンメル、ひのこ!」 今度はのび太の命令通り火を吹き、ズバットに当たった。 ズバットは噛むことに夢中で不意をつかれ、あっさり炎に包まれた。 「ズバット!」 ハヤトの声もむなしく、耐久の低いズバットはやられた。 「く、もどれ」 ハヤトはズバットをもどした。「ひるまなくてよかったな」 「いや、違うよ。ドンメルはたたかれても気づかないほど鈍い肌なんだ」 (図鑑の説明が通じる世界かどうか不安だったけど、どうやら賭けの一つ目は成功したようだ) のび太は自然と笑っていた。 それがハヤトには気に食わなかったらしい。「ふん。だが次はそうはいかないぞ。行け、エアームド」  ついにのび太の前に、鎧をまとった怪鳥が現れた。 ---- (さあ、次だ!) のび太は意気込んだ。「ドンメル、ひのこ!」 「エアームド、こうそくいどう!」 エアームドはすばやい動きでひのこをかわした。 「ドンメル、マグニチュード!」 「何!?」 ハヤトの疑問の声を無視して、ドンメルは地面を揺らした。 当然エアームドはなんともない。 「どうした? ひこうタイプにじめん技など効くわけが」 「マグニチュード!」 のび太は再び、同じことをした。 「貴様、なめているのか!?」 ハヤトの怒声にも、のび太は反応しない。 「いいだろう、なら終わりだ!! エアームド、こうそくいどうの後つつくだ」 エアームドは高速でドンメルに迫ってきた。 「ドンメル!」 (頼む、来てくれ!) 「マグニチュード!!」 突然大きなゆれがジムを包んだ。最大級のマグニチュードだ。 「お、おい室内でこんなわざしたら……うわっ」 ハヤトが危惧してる間に、ジムの天井が崩れてきた。 「これが狙いか! エアームド、よけるんだ!」 「ドンメル、ひのこをあびせろ!」 ドンメルのひのこと天井の瓦礫がエアームドを襲った。 のび太は瓦礫がどんどん落ちてくるうちに、視界が狭まった。(くそ、よくみえない)  ジムの天井は完全に崩れ、瓦礫が累々とつまれていった。 ----  のび太は瓦礫の上に立った。「ドンメル、どこだ!?」 のび太は瓦礫の下から火がのぼるのを見て、急いで駆け寄った。 「ドンメル、今助け」 と、そのとき目の前に何かが降りてきた。 エアームドだ。 「ドンメルを戻せ」 ハヤトが瓦礫の上に立っていった。 「まだだ、まだドンメルは戦える!」 「違う、早くしないとドンメルが酸欠で死ぬぞ」 のび太は思いもよらない言葉に息をのんだ。「……ポケモンも、死ぬのか」 「ああ、他の生物と同じようにな」 ハヤトが重く告げた。 のび太はドンメルを戻し、立ち上がった。 (最悪のパターンだけど、でももしかしたらあの技で) のび太はハスボーを繰り出した。 「ハスボー、しろいきり!」 のび太の指示を受け、ハスボーは霧を噴出した。 あたりは白く包まれた。 「目隠しか。だが明けたら終わりだ」 ハヤトは静かにそのときを待った。 しばらく何もなかった。 (当然か、ハスボーがエアームドに勝つなど所詮) だが、突如重いものが動く音がして、ハヤトが身構えた。 「な、何だ。何の技」 そして霧がはれた。 その瞬間、「しぜんのちから!」 のび太の声が響いた。 ハヤトが見ると、何故か浮いている岩が、雪崩れのようにエアームドに降り注いだ。 「ば、馬鹿な! これはいわなだれ!どうして ……!!」 ハヤトははっとした。 ---- エアームドが完全に埋まる直前、ハヤトはボールに戻した。 「完敗だ。まさか瓦礫が岩場を作っていたとは。  岩場でしぜんのちからを使うといわなだれになることを忘れていた俺の負けだ」 「はは、うまくいってよかったよ」 のび太は笑いながら言った。 (本当は昨日気づいたばかりなんだけどね。それに瓦礫で岩場と言えるかどうかも不安で) 「笑い事じゃないだろ」 ハヤトの鋭い言葉が、のび太の思考を遮った。 「え?」 のび太はきょとんとする。 「え?じゃない、ここをどうするつもりだ。」 ハヤトはあたりを見回した。ジムの成れの果てを。 「あ、アー!」 のび太は今更ながら気づいた。「ぼ、ぼくはどうしたら」 「弁償だな」 ハヤトは当たり前のように言った。 のび太は目の前が真っ暗になった。…… ---- のび太はポケモンセンターの宿で目を覚ました。 (……ま、まさかここはポケモンセンター。今までのは全部!) のび太は勢いよく飛び起きたが、すぐに堅い表情のハヤトが目に映った。 「ああ、夢じゃないか」 「当然だ」 のび太の気持ちを察したらしく、ハヤトが言った。 「しかし、俺にも考えがある。ちょうどジムが無くなっちまったし、  これを機に旅に出ようと思うんだ」 ハヤトの言葉で、のび太の目に光が戻った。「じゃ、じゃあ弁償は」 「まあ、今のところはいいだろう。但し!」 ハヤトはゆっくりのび太に近寄った。「条件がある」 「な、なんでしょう?」 のび太は身震いした。 「何で?」 のび太は旅支度しながらきいた。 「ん?」ハヤトは荷袋を持ちながら言った。 「不満か。俺がついてきちゃ?」 「……いや、別に」 のび太は嘲笑ぎみに言った。 ----  ――とある荒廃した町。 表向きには廃墟が広がり、空気は汚れ、人の生活しているような環境じゃない。 だがその町で、密かに隠れ住む集団がいた。 崩れたビル、焼きただれた民家のさらに奥。この世を二分するように巨大な山脈の麓。 見た目はただの岩。だがその地下で集団はアジトを築きあげていた。 毎日不穏な活動を続ける彼ら。だが世界のほとんどはその脅威に気付いていない。 もっともその脅威も、さらなる巨悪の一部でしかなかったのだが…… ――アジト司令室。 アカギはふてぶてしく座り、交信を待っていた。 (……遅いな。) アカギは指で机を叩いた。 交信は三日前からの取り決め。アカギはこの三日間気が気でない思いで過ごして来た。 しかしその時になって相手は遅れている。アカギの緊張は緩み、徐々に嘲りへと変わっていった。 (所詮は少年。悪の組織というのをわかっていないようだな。……無理もないか。  だが相手の力量によっては、私はいつでも奴らを……!!) 目の前のモニターに仮面を被った男、いや少年が現れた。  少年は気取った雰囲気を醸し出していた。 願っていたことがすんなり手に入った子供のように。 「マスター、お待ちしておりました」 アカギは態度を改め、堅苦しく頭を下げた。 「ああ、それでいい。アカギ」 少年の口端が上がる。「計画は?」 「順調に、ですがやはり物資が少なく、時間がかかります」 「よい。まだ時間はある。そのままの調子で続けてくれ。  それより紹介したい人物がいるんだ」 アカギは明らかな嘲笑を聞き取っていた。 それでも怒りを抑え、顔を上げた。 途端にアカギの顔が歪んだ。 ---- 「ロケット団リーダー兼ジムリーダーのサカキだ。名前くらいはしっているだろう?」 少年が奥の男を手で示しながら、きいた。 「……なぜです?」 アカギは動揺せずにいられなかった。 「組織など我々だけで十分なはず、なぜ今更勧誘など」 「味方は多い方がいい。より万能ならなおさらだ。彼らの組織の威力は見過ごせるものではない。  そして、君らは」 少年はサカキに向き合った。「その威力を持っている」 「その通りで、マスター」 サカキは言った。 「我々の部下は全国に分散し、あらゆる大組織、中小企業に浸透してあります。  高尚なものから低俗なものまで、我々の干渉できないものなど無い。  そしてマスター、あなたの組織にそれら全てを与えても構わない」 すると、少年は頷き、再びモニターを見た。 「そう、彼らは社会的威力を持っている。君らにはないものだ」 その言葉で、アカギは跳ね上がった。 「我々はあなたの計画の最終的目標を一番に担っている!!   なのに我々ではなく、そっちの組織の方が使えると」 「君らが組している計画はあくまで僕らの理想的局面においてだ。  もちろん君らも重要だ。配当は平等、それで文句はないだろう」 アカギはこぶしを握り締め、静かに席に着いた。  アカギはロケット団が気に食わないわけではない。自分の地位が下がることを恐れていたのだ。 (だがもう、どうにもならないようだな。)  アカギは認めるしかなかった。  そのとき、少年側から、ドアの開く音がした。 「ああ、クリs」  その少年の言葉で、通信は途絶えた。  アカギはやり場のない憤怒と焦りから机を叩いた。 鈍い音が響き、むなしい沈黙が訪れる。 (……組織をなめやがって。我々が完全に組したと思うなよ……) アカギは歪んだ笑みを浮かべていた。 ----  ジャイアンは今、室内に草が広がるジムで戦っていた。 相手はナタネ。ダイパを持っていないジャイアンだったが、室内の様子でくさタイプ使いと判断した。 弱点が一番多いタイプ。だからココドラなら余裕だろうと高をくくっていたのだが…… 「しびれごなで動きが鈍くなったようね!」 「そんなことわかってらい!」 怒鳴りながら、ジャイアンは焦っていた。 ココドラのメタルクローをロズレイドはひらりとかわす。 さらに動けないココドラを容赦なくメガドレインが襲った。 ジャイアンは激しい攻撃に呻いた。 (あのやろう、なんて強いんだ。ココドラの攻撃がまったくあたらねえ。……  しかしあのジムリーダー、随分へそ出してるよな……寒くないの) 「いってぇ!!」 突然ジャイアンの右側頭部にこおりのつぶてが飛んできた。 「スズナ! てめえ何しやがる!」 ジャイアンは頭を押さえて右を見た。 スズナはユキカブリを撫でながら、「変なとこに目を向けているからでしょ」 と言った。 「!! お、俺はそんなつもりで見てたわけじゃ」 「ロズレイド、マジカルリーフ」 ナタネの声でジャイアンはハッとしてフィールドを見たがすでに遅かった。 ココドラは無数の葉に突撃され、その場に倒れた。 「ココドラぁ!」 ジャイアンは駆け寄った。 ‘頼むからまひくらい解いてくれ’ ココドラは目で語っていた。 もちろんジャイアンには伝わらなかった。 ---- 「ああ、情けない、情けない」 ジャイアンがジムに負けた帰り道、スズナはしきりにぼやいていた。 「……うるせえ」 ジャイアンはむなしく抵抗する。 「何がうるさいよ!」 スズナは足を止めた。 「たった一体でジムに挑むなんてむちゃにもほどがあるわ!  それに作戦も無しに、ただメタルクローばっかり。あんな攻撃効くと思ってるの?  『たかがくさタイプ。イチコロだぜ』 なんて言ってたのは誰かしら?  まったく本当に情けないったら、いたたっ!」 ジャイアンは耐え切れずに歯を剥き出しにして、スズナの頬をつねった。 「それに同意してたのは誰かな、ああ!? このやろう!  『くさタイプなんてどうせ雑魚だから大丈夫でしょ』って言ってたのはだれだっけ!?  そんなに言うんなら自分でジムに挑戦し、いででっ!!」 「それは、あんたの、やりかたが悪いから、でしょうが! この」 スズナはジャイアンの両頬を逆方向に引っ張り、伸ばした。 「いでぇいでぇ、このよくも俺様を!!」 ジャイアンの右手がスズナの頬を離れ、髪の束を掴んだ。 それはただ単に頬より引っ張りやすそうだからという理由で掴んだのだが、 「ひゃぁっ!!」 スズナは急に素っ頓狂な声を上げた。同時にジャイアンの両頬をつまんでた手が緩む。 (!? おお?) ジャイアンは好奇心からさらに引っ張った。 「ひゃぁ!! ちょ、待って離しt、ひゃ!」 スズナが発狂する度に、ジャイアンの顔に悪そうな笑みが浮かぶ。 「どうやらこれがお前の弱点のようだな、ぐふふ」 ジャイアンは勝利の笑い声を出しながらスズナを引っ張っていった。 ---- 「くそ、あのやろう。」 ジャイアンはポケモンセンターの裏の空き地で野宿の準備をしていた。  夕方、ジャイアンはスズナの髪を離した瞬間に逆襲を食らい、センターを追い出されてしまった。 それ以来いくら中に入ろうとしてもユキカブリがジャイアンの邪魔をした。 「俺をこんな寒いところに追い出すなんてひどいなぁ。な、ココドラ!」 ジャイアンは回復を終えたココドラを叩いた。 ‘てめえ、俺をまひのまま戦わせたくせに何言ってやがる!調子にのんな’ とその目は語っていた。 当然ジャイアンには伝わらない。 「俺のことがわかるのはお前だけだぜ、友よ!!」 ジャイアンはココドラを熱く抱きしめた。 ‘やめろてめえ! てめえの蒸し暑いからだなど触れたくもない! 離せデブ! この!’ といった様子で騒いでいたココドラだが、無駄な抵抗とわかり力を抜いた。 「……しかしスズナの言うことも一理あるんだよな。  俺がもっとしっかりしとけば、ココドラはあの時、まひ状態にはならなかった」 ジャイアンは真剣な顔つきで、現在精神的にまひ状態のココドラを見ながら言った。 「しかたない。しばらくは特訓だな!」 ジャイアンは決意を抱いた。 ----  翌日。   町を少し離れると森に着いた。 「さあて、入るか」 ジャイアンは意気込んで入っていった。  この森を抜けると次に行くべき町に着く。 ジャイアンは、ここならレベルの高い特訓になるだろうと推測していた。 スズナは連れて来ていない。結局朝になってもユキカブリが待ち構えていたのだ。 (一晩中ポケモンを出しっぱなしにするなんて……いや、いいんだあんな奴! 今は集中しなきゃ)  ジャイアンは頭を振り、思考からスズナのことを追い払った。  森には、くさタイプはもちろんむしタイプも多く生息していた。 (そういや虫はくさに強かったな。いくらか捕まえておくか……) ジャイアンはそう考えながら野生相手にココドラをガンガン戦わせていた。  キャタピーやビードル達を一掃したところで一息つく。 「くそ、虫ったって芋虫ばっかじゃねえか! あんなやつ俺はいらねえってのに、なあココドラ!」 ‘てめぇ、だったらあんな気持ち悪い奴らと戦わせるんじゃねえ! 無茶苦茶嫌な感触だぜコラァ!’ という目つきをしていたココドラも、ジャイアンの差し出したポロックにはあっさり食いついた。  「……さて、それ食ったら今度は更に奥行くぞ!」 ジャイアンは自分も軽い食事を済ませ、更に進んでいった。  だいぶ木々が鬱蒼と茂る中で、ジャイアンの前に何かが飛び出してきた。 「!! カイロスじゃねえか!」 ジャイアンが顔を輝かせて言ったとおり、飛び出してきたのはカイロスだった。 「ようし、むしタイプだ! ぜったいゲットしてや……」 だがその瞬間、カイロスの前で何かが素早く横切り、カイロスは悲鳴を上げて倒れた。 ---- 「カ、カイロス!!」 ジャイアンとココドラは駆け寄った。 みるとカイロスは体中が斬りつけられてボロボロだ。恐らく既に何度か攻撃されていたのだろう。 「どうだ、ココドラ?」 ジャイアンはカイロスの脇に立つココドラを向いた。 ‘兄貴、こいつはもうだめだぜ……’ という目つきでココドラは首を横に振る。 「そうか、くそ誰がこんなことを」  珍しくココドラの意志はジャイアンに伝わった。  その時、ジャイアンは周りで音がなっているのに気づいた。 (何だこの、ヒュンヒュンって風を斬るような音は) 「ココドラ、気をつけ」 ジャイアンの言葉はココドラと黒い影の衝突音で途切れた。 「ココドラ! くそっ」 ジャイアンは影の方を向いたが既に姿はない。 (これは、動きが速すぎるんだ!) ジャイアンは同時に周りの音がそいつの移動する音だと気づいた。  その間にココドラは立ち上がる。 「ココドラ、平気か?」 ジャイアンの心配そうな言葉とは裏腹に、ココドラはピンピンしている。 (攻撃力はたいしたことないようだな。ココドラは防御力があるし……そうだ!) ジャイアンはふと思いつき、前を向いた。 「ココドラ、俺を信じろよ」 ジャイアンは力強く言った。   そのすぐ後に黒い影がジャイアンの左腕を斬りつけたが、ジャイアンは堪えた。 (く、この程度の攻撃どうってことねえや!) ジャイアンは歯を食いしばって時を待った。  黒い影は周りを跳びつつける。そのスピードは止まらず、むしろ上がっているように思えた。 だがジャイアンは、野球で鍛えた自分の動体視力に自信があった。  ジャイアンが身構えてから数分後、ついに黒い影は動き出した。 ---- ジャイアンの目が、右前方から飛び出してくる影を捕らえた。 (来た! まっすぐココドラに) 「ココドラ、てっぺきだ!」 ほぼ同時にココドラの防御がぐーんと上がる。  刹那、刃がぶつかり合うような鋭い音が響いた。 だが今度のココドラは押し負けなかった。 影はついに止まり、その姿があらわになった。  音のように素早く飛ぶポケモン。 それはテッカニンだった。 (今しかない!) ジャイアンは直感し、モンスターボールを投げた。  ボールはテッカニンを収める。 一度揺れ……二度揺れ……緊張が走る。  だが期待は裏切られた。 (くそ、出てきちまった) 舞い上がるようにテッカニンが飛び出す。 ジャイアンは舌打ちするが、まだあきらめたわけじゃない。 「ココドラ、どろかけ!」 ココドラは地面をかきあげ、泥は止まっていたテッカニンに降りかかる。 テッカニンは痛そうに体を振り、次の瞬間地面に突撃していった。 「なっ!!」 ジャイアンが唖然としている間に、テッカニンは地面にもぐってしまった。 ジャイアンはうろたえた。「何で!? テッカニンがあなをほろなんて覚えるはず」  その時、ココドラの真下が膨らんでテッカニンが飛び出した。 ココドラは予想外の効果抜群技に仰天していた。 やがてテッカニンは再び周りを旋回しはじめた。 (くそ、だがあなをほるには驚いたが、これを始めたら) ジャイアンはにやりとする。  やがて鈍い音とともに、テッカニンはふらふらと舞い落ちた。 ----  ジャイアンは弱ったテッカニンを鷲づかみにした。 テッカニンは必死にわめいていた。 ココドラは‘無駄だぜ。そうなっちゃもう逃げられねえ。’といった憂いの目線でテッカニンを見た。 「さあて、どろかけでうまく見えてなかったようだなぁ」 ジャイアンの声は甘ったるかった。 たとえ動物でも容赦しない。それがジャイアンだった。 ジャイアンの手に力が入る。その瞬間テッカニンは自分の死期を悟った。 「……本当ならここでつぶしちまいてえところだ。だが」 テッカニンの目に光が戻る。 「俺はちょうど使えるむしタイプを探していたところだ。運がよかったな」 ジャイアンはテッカニンをボールに収めた。 「よし、帰るぜココドラ。用は済んだ」 ジャイアンは達成感に満ちた表情で言った。   ジャイアンは知っていたのだ。一度命拾いさせて手に入れた仲間は絶対に服従してくることを…・… ココドラは去り際に、カイロスがこっちを見ていることに気づいた。 ‘頼む。……俺もここから連れてってくれ。この怪我だ。もう野生じゃ生きてけねぇ……’ カイロスは目で懇願する。その目は潤んでいた。 ‘……ふ、悪いなカイロス’ ココドラは蔑みの目を向ける。 ‘うちの兄貴は強い奴にしか興味ないんだ。じゃあな’ ココドラは背中で語り、その場を去った。 ----  夕方。 ジャイアンはポケモンセンターに戻ってきた。 ポケモンを預ける際、スズナに遭遇した。 「……なに、ずっと森にこもってたの?」 「そうだ。おかげでだいぶマシになったぜ。新しい仲間も増えたしよ!」 ジャイアンは元気に答え、それからテッカニンのことを話し出した。 「……それが何故かあなをほる覚えてたんだよな……テッカニンって覚えるっけ?」 ジャイアンの質問にスズナは少し考える。 「野生じゃまずありえないわね。もしかしたら前は誰かのポケモンだったのかも」 スズナはそう結論つけた。 「それより、あたしを置いていくってひどいんじゃない?」 スズナは急に話題を変えた。 「あたしに頼めばバトルの相手してあげたのに」 「だってお前、ずっと入れてくれなかったじゃねえか」 「あんなの力ずくで通れるでしょ」 「そこまでする気はねえよ! しかしどうやらもう止めたんだな」 ジャイアンは嬉しそうに笑う。「これでやっと室内で寝れるぜ」 「あ、そうそう」 スズナは思い出した様子で話し出す。 「昼間ね、ジュンサーさんが来て、あんたの張ったテントを調べてたの。  で、あたし連れがここで寝てるって言って帰ってもらったのよ」 ジャイアンの顔が訝しげになる。 「……俺が取り行けばいいんだろ?」 「違う違う、今晩もあそこで寝てほしいの!」 途端にジャイアンの眉が吊り上る。 「何でそうなる!?」  「だってジュンサーさんにあたしが嘘ついたことになるもの」 「別にいいだろ」 「嫌、それにポケモンセンターは満室よ!」 「んなもの、お前の部屋で寝りゃ」 …… ジャイアンはテントの中で頬をさすりながらぼやいた。 「何であんなに引っぱたくんだか……女って怖えなぁ……な、ココドラ!」 だがココドラは聞いていない。 ‘……ああ、俺だけでも逃げてあそこに’という表情でポケモンセンターを羨ましそうに見ていた。 「やっぱ俺のことがわかるのはおまえだk、へぶぅ!!」 ‘同じ手を食うかこのやろう!’ ジャイアンは両頬をさすりながら床につくことになった。 ----  朝が来た――  ジャイアンは胸を高鳴らせながらジムの前で立っている。 「いよいよね……」 スズナが隣で語りかけてきた。 「ああ。特訓の成果見せてやるぜ」  ジャイアンは力強く答え、ジムの扉を開いた。  ジャイアンは数日間、この町で修行していたのである。  ゲットしたテッカニンを実践で扱えるように。  対ナタネ用の戦略を自分なりに考え、スズナに大量にまひなおしを買わされていた。  そして、リベンジの時が訪れた。  「また来たね!」 ジムの奥でナタネが高らかに言う。 「ああ、俺たちの強さを見せてやるぜ!」 その声は自信に満ち溢れていた。  ナタネは満足そうに笑う。 「よし、バトルスタートだ!」  ジャイアンとナタネは定位置で対峙した。 ---- 「いけ、テッカニン!」 「行きな! ロズレイド!」 二体のポケモンが繰り出される。 「ロズレイド、しびれごな」 黄色い粉がテッカニン目掛けて噴出される。 「同じ手は食うか! テッカニン、避けろ!」   テッカニンは素早く右に飛ぶ。 「そのまま旋回しろ!」 ジャイアンの指示で、テッカニンはロズレイドの周りを回りだす。 「いくら早くても、この技はどう?」 ナタネは問いかけながら指示する。「マジカルリーフ!」 不思議な色合いの葉がロズレイドのブーケから出撃する。  葉はテッカニンの後を追尾してきた。 「テッカニン、振り切れ!」  ジャイアンは叫んだ。 テッカニンはどんどん加速する。だが追尾葉も負けずにぴったりとあとをつけてくる。 「無駄だよ! マジカルリーフは相手にあたるまで止まらない!」 ナタネが告げるが、ジャイアンは動揺しなかった。 「なら、これでどうだ!? テッカニン、相手に突っ込め!」 するとテッカニンは急に向きを変え、中央のロズレイドへ突進した。 もちろん追跡者もそれ相応の速度で進撃する。 「ロズレイド、しびれごな!」  至近距離のテッカニンに粉が飛び出す。 「テッカニン、あなをほる!」 間一髪、ジャイアンの鋭い指示でテッカニンは地面に潜る。 だがそれでも葉は追いかけてきた。  「マジカルリーフはどこまでもついていく。土や水の中でもね!」  ナタネの高揚した声は確かにジャイアンに届いていた。 だがジャイアンは答えを返さず、叫んだ。 「テッカニン、飛び出せ!」 一時何も起きず、ナタネは視線を巡らせたがすぐに気づいた。 「ロズレイド、下だ! 逃げ」 「遅いぜ!」 ジャイアンの宣言は正しく、突如盛り上がったロズレイドの足元から高速の刃が飛び出した。 ---- 「れんぞくぎり!」 刃はロズレイドを捕らえ、一瞬で連斬した。  ロズレイドの絶叫が響く。 「く、耐えて! ロズレイド!」 ナタネの必死の言葉が鳴る。  ロズレイドは何とか持ちこたえる。が、 「無駄だぜ!」 ジャイアンの宣告と共に、地響きが聞こえてきた。  刹那、大量の葉が地面から飛び出してロズレイドを襲う。 「ロズレイド―!」 ナタネが叫ぶ。  だがロズレイドが再び持ちこたえることはなかった。  ロズレイドが倒れたとき、テッカニンは迫りくる葉と対峙していた。 「テッカニン、れんぞくぎりだ」 ジャイアンの声のもと、テッカニンは大群に突撃した。 あまりにも速い一閃毎に、葉は次々と両断され、勢いをなくして地面に落ちていく。  ナタネは言葉を忘れたように口を開けてそれを見ていた。  やがて葉は全て斬られ、地面に広がった。 「……すごい速さね!」 ナタネはロズレイドを戻しながら称えた。 「へへ、加速したテッカニンに怖いものなんかないぜ!  さあ、次のポケモンを……!!」 ジャイアンの言葉は途切れた。 ---- 「どうした!? テッカニン!」 ジャイアンが不安そうに叫ぶ。 目の前のテッカニンが突然苦しげになったからだ。 「どうやらロズレイドのどくのトゲに当たったようね!」 ナタネが告げた。 「どうする? 交代するかい?」 「まだだ、まだいけるさ!!」 ジャイアンは言いながらリュックを探った。 「おい、スズナ! どくけしは無いのかよ!」 突然話を掛けられてスズナは動揺する。 「そんなこと言ったって、まひなおししか無いわよ」 「くそ、しかたねえ」 ジャイアンはリュックを地面に置いた。 「一瞬で決めればいいだけだ。 早く次をだしやがれ!」 「ふふ、一瞬で決められるかしら?」 ナタネが問いながら繰り出す。 「いけ、チェリム!」  目の前に紫色をしたポケモンが現れ、ジャイアンは一瞬考えた。 (何だあのナスみたいなポケモンは?)  「チェリム、なやみのたね!」 紫色のポケモンはたねを飛ばし、それはテッカニンに付着した。 「!! テッカニン平気か?」 ジャイアンは呼びかけたが、テッカニンは見た目何もなかった。 「何か知らないが、テッカニン、やっちまえ!!」 ジャイアンは指示した。  だが相手は軽々とそれを避ける。 (……さっきの騒ぎで加速が止まっちまったんだ!! こうなりゃまた助走を) 「テッカニン、旋回を始めろ!」 ジャイアンは焦りながら、しかし勝算に基づいて命令した。  テッカニンの旋回が始まるが、それはどこかおかしかった。 ---- 「!? どうしたテッカニン! 全然速くなんないじゃねーか!」 ジャイアンは動揺して怒鳴る。  そのときナタネの笑い声が聞こえてきた。 「さっきの種の効果だよ! テッカニンは特性のかそくで速くなる。  だからなやみのたねで特性を変えさせてあげたのよ。ふみんにね!」 (特性を変えちまうなんて、そんなのありかよ!!) ジャイアンは悪態をつき、焦っていた。このままでは勝機はない。 「戻れ、テッカニン!」 ジャイアンの撤退命令でテッカニンはボールに戻った。 「行くぞ、ココドラ」 ジャイアンはココドラを繰り出した。 ‘っはぁ!! ついに俺の出番だ!' テッカニンは心底うれしそうだ。 「ちょっと待って!」  ナタネはそう言うとリモコンを取り出しスイッチを押した。 重い機械の音が響き、天井が開く。 「何のつもりだ!?」 ジャイアンは不可思議な声色で言う。 「なに、もっとおもいっきり戦おうと思ってね! チェリム、にほんばれ!」 するとチェリムは突然太陽光に照らされ、真の姿を現した。  目の前の桜花型のポケモンにジャイアンは呆然とした。 (まてよ、そういやスネ夫に聞いたことあるぞ。天気で姿を変えるポケモンがいるって!) 「にほんばれで姿が変わったわけか」 「その通り! でもそれだけじゃないよ。チェリムはにほんばれのときが本当の姿!  さっきよりも強くなってるわ!」 ---- 「ココドラ、安心しろ」 ジャイアンは語りかけた。 「俺がついてる!」 ‘兄貴、なんてかっこいいんだ' ココドラは尊敬の眼差しでジャイアンを見つめた。 「ココドラ、指示を出すまで逃げ回って、すきがあればどろかけだ」 ジャイアンは命令した。  「そろそろいくよ! チェリム、はなびらのまい!」 チェリムの攻撃はまっすぐココドラへと向かう。 ‘ふ、こんなのちょろいぜ!'  ココドラは余裕の表情で避ける。 ‘とにかく距離をとる。そしてすきを見つけてやる' ココドラはフィールドを駆け回った。  チェリムの攻撃は激しさをました。 それでもココドラはひるまなかった。ジャイアンの言葉を信じていたからだ。 (俺がついてる!)――‘そうさ、俺は兄貴のポケモンだぜ!' ココドラは攻撃を避け続けた。  「チェリム、大技いくわよ!」 ナタネの声がチェリムに伝わり、チェリムは開いた天井から大空を仰いだ。 「ソーラービーム!!」 チェリムにエネルギーがたまって行く。 ‘!! あれはやばいぜ兄貴!! 指示を' ココドラは振り返った。  その時、ココドラは見た。ジャイアンがテッカニンを出し、スズナとも話し合ってる姿を。  そしてココドラは全てを悟った。 ‘ふ……ふふ、俺は捨て駒ですか、兄貴'  ココドラは遠いものを見る目つきになった。 ソーラービームはにほんばれの影響で意外と速く放たれた。 「あ、……ココドラてっぺき!」 しまったという感じのジャイアンの声がココドラに聞こえた。 ‘言われなくてもやってるぜぁ、兄貴ぃぃ!!' ココドラは太陽光線にのみこまれた。 538 名前:挑戦者 ◆QdjHBvZg5s [sage] 投稿日:2007/01/05(金) 00:05:30 ID:???  ジャイアンはココドラを連れ、定位置に戻ってきた。 「ちょっと、ココドラ大丈夫なの?」 スズナが心配そうに言う。 「ああ、てっぺきのおかげで何とか起きてる。それより」 ジャイアンは突然言葉を切り、ココドラをスズナの胸に押し付けた。 ‘……な、何だこの柔らかく暖かいものは?' ココドラは突如訪れたぬくもりに酔いしれた。 「ど、どういう意味?」 スズナはココドラを抱きしめながら質問した。 「しっかり持っててほしいんだ。  この戦いをココドラにも見ていてほしい」 ジャイアンはそう言うと、どうやら全快した様子のテッカニンを戦闘に繰り出した。   「さあ、また行くぞ!」 ジャイアンは力強く宣言した。 「今度はさっきのようにはいかねえ!」 「へえ、じゃ見せてもらおうか!! チェリム、なやみのたね」 「テッカニン、作戦通り、まずはあなをほる!」  テッカニンは地面にもぐり、なやみのたねは空をきる。  しばらく変化がなかった。 「チェリム、油断するなよ」 ナタネは呼びかけ、自分もあたりを探った。 やがてナタネは地面に何かが動いているのを見つけた。 (あれは……何だ?) ナタネが不審がっているうちにそれはとテッカニンの潜った穴に近づいていった。 やがてそれは穴に到着する。そのときだった。 「テッカニン、飛び出せ!」 その穴から突然、高速の剣士がとびだした。 (!! さっきのはテッカニンのか) 「チェリム、下がって攻撃よ!」 チェリムは一歩引いた。  だが次の瞬間、轟音とともにチェリムの姿は見えなくなった。 地面こと沈下したのだ。 ---- 「チェリム! くそ何だ!? なぜジムにこんな大穴が……白ありか?」 ナタネは明らかに動揺していた。 ジャイアンは嘲笑した。「教えてやろうか、これは」 「いやまて、これは欠陥工事か? もしやミヤの仕業じゃ」 ナタネはジャイアンを無視して思案を進めている。 「おい、きけよ。これは」 「そうだ、きっとミヤ建築士のせい」 ジャイアンはナタネの態度に堪忍袋の緒が切れた。 「テッカニン、止めだ!」  テッカニンは猛スピードでチェリムを攻撃した。 「な、ばかな。どうしてそんなに速く動ける!」 「へへ、地面の中でも加速できるんだぜ!」 ジャイアンの声とともに、チェリムは音もなく倒れた。  決着が着いたのだ。 ----  ジャイアンは初のバッジを受け取り、ジムをあとにした。 「みろよ、初めてのバッジだぜ!」 ジャイアンは無邪気な笑顔をスズナに向ける。 「でもねぇ、あんなにジムを破壊することはなかったんじゃない?」 と、スズナは水を差す。 「しらねえよ。テッカニンがやったことだ」 ジャイアンはそうとしかいえなかった。  テントのある公園にきたとき、ジャイアンはあることに気づいた。 「あれ、誰かいるぞ?」 そう、テントのそばで誰かがたっていたのだ。  ジャイアンは首を傾げ、歩み寄ろうとした。だが、 「隠れて!」 突然スズナがそう言い、ジャイアンを茂みに引っ張った。 「ど、どういうことだよスズナ!」 ジャイアンは茂みの中でスズナにきいた。 「いいから、黙って見てて」 スズナは人差し指を口の前に立てて制した。 ----  やがて公園の入り口にさっきの人が来た。 ジュンサーだ。 ジュンサーは無線を使った。どうやら仲間を呼んでいるらしい。 数分のうちに、警官があつまってきた。 「結果は?」 ジュンサーがまず言った。 警官は一同に首を横に振った。 「いえ、ミヤはどこにも見当たりません」 「そうか」 ジュンサーはその知らせに歯噛みした。 「またガセをつかまされたわね。帰るわよ」 「えっと、それじゃあのテントはどうします?」 警官の一人が公園内を指差した。 「ああ、それじゃ」 「ジュンサーさぁん!」 突然遠くから誰かが叫んだ。  その人はだんだん近づいてくる。 それはナタネだった。 「どうしましたか。あなたは確か」 「ジムリーダーのナタネです。それより、わたしのジムが」 ナタネは一息ついてから続けた。 「ミヤ建築士に建てられていたんだす!」  すると警官たちの顔に動揺が浮かぶ。 「ミヤに関する重要な手がかりね!」 ジュンサーは微笑んだ。 「いくわよ、みんな!」 ジュンサーはナタネと警官をつれて、行ってしまった。 ----  あたりが静かになったころ、ジャイアンとスズナは茂みからでた。 「一体どういうことだ?」 ジャイアンは眉をよせてスズナにきいた。 「あのね、実はその」 スズナは慎重に言葉を選んでいた。 「あんたが張ったテント、どうやらここにおいちゃいけないようなのよ」 「……それで?」 「それでね、あたしあんたに言ってなかった、ていうか隠してたけど。  最初の日にジュンサーさんが来た時、どうにかしてテントを残そうと思って  ちょうど警官たちが話題にしてたミヤ建築士の名を利用したの。  つまり、あの警官たちには、ここがミヤの隠れ家だって伝えたのよ。  そうしたらあの人たち、ずっと撤去せずに張っていたみたいね。  とにかくそういうわけだから、速くこの町をでなきゃ」 「ちょっとまて。俺は何もしてないじゃんか」 「そうだけど、いっちゃったものはしかたないじゃない」  スズナはそう言って、テントを撤去し始めた。 ジャイアンは理不尽さに腹立っていたが、仕方なく手伝うことにした。    そうして、ジュンサーたちが『ミヤ悪徳一級建築士のアジト』として 見張っていたテントは、その日の夜に忽然と姿を消すのであった。

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