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ミュウ その15 - (2007/07/29 (日) 12:26:10) のソース

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「今回の特別ステージは……これです」
そう言って、司会者が右手のボタンを押す。
すると、ステージの床が金網に変化し、その穴から風が吹き始めた。
「何だよ、これ」
「このステージでは、強力な竜巻が起きます。
 真っ直ぐ立って居る事すら難しい、このステージでは、上手く風を利用したトレーナーが、勝利を掴む事が出来るんです。
 それでは、準備をして下さい」
『出木杉の奴……また姑息な手を…
 この風じゃ、クリスの攻撃を避けるのは余計に困難だ』
そんなスネ夫の考えを知ってか知らずか、クリスは言う。
「…早く……始めるぞ…」
スネ夫は、左手でボールを取った。
 
「試合……始め!」
 
「レジアイス…」「ジバコイル!」
2体のポケモンがステージに現れる。
でも、先手を取ったのはジバコイルの方だった。
 
「ジバコイル、かみなり!」
 
激しい雷音を発て、レジアイスに雷がレジアイスに直撃した。
だが… 「くっ、そんな…」
 
「…ははっ…そんなの無駄…」
 
レジアイスのボディには、傷1つ付いてはいなかった。

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「ジバコイル、10万ボルト!」
強力な電撃が、レジアイスを襲う。
だが、やはりレジアイスの体は傷つかない。
「クソッ、何でだ!」
「…レジアイス……ド忘れ…」
スネ夫の気持ちとは裏腹に、クリスの指示でさらに特防は上がっていく。
「…最大限まで…特防を上げた……レジアイス…」
「ぐっ、また改造ポケモンか。
 でも、スネ吉兄さんは最後の1体まで追い詰めてた。
 勝機は絶対あるはず!
 ジバコイル、どくどくだ!」
ジバコイルの両腕から、勢い良く黒い液体が吹き出す。
「よしっ!これで持久戦に…」
「…ははっ…無駄……無駄無駄……」
「なっ、どくどくが…」
ジバコイルから噴出した毒液は、強風により掻き消された。
そう、このステージでは、どくどくの様な液体を当てる事は不可能。
クリスは、その事も理解した上でこのステージを選んだのだ。
 
「…もうそろそろ…反撃を始める……」
クリスの言葉で、レジアイスの巨体が動き出す。
その透き通った体の中央にある目は、スネ夫を捉えていた。

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「…レジアイス……原子の力…」
巨大な岩石の塊を軽々と持ち上げ、ジバコイルに投げつけた。
「ジバコイル、避けろ!」
ジバコイルが体を横へずらそうとする。
だが、強風に煽られ、体は思う様に動かない。
石の塊は、巨大な金属音を発ててジバコイルに直撃した。
「ジバコイル!?」 「…ふふっ…もっと……もっとよ…」
次々と岩石が投げ込まれ、ジバコイルに反撃の余裕を与えない。
ジバコイルは、急所に当たるのを避けるので精一杯だ。
だから気付けなかった。
レジアイスが、ゆっくりと接近している事に…
「な!?ジバコイル、離れろ!」
ようやく気付き、叫ぶスネ夫。 だが、もう遅い。
すでに、ジバコイルはレジアイスの射程範囲内に居た。
 
「……レジアイス…アームハンマー…」
こん棒の様な右腕が振り上げられる。
クリスは勝利を確信し、フードの下で不気味な笑みを浮かべた。
 
だが、予想とは裏腹に、その腕の動きは止まった。

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「…!?……どうして…」
初めて、感情が入った声を漏らすクリス。
そんなクリスを見て、スネ夫はにやりと笑った。
 
「幾ら硬い氷の塊だって、確実にダメージを与えれる技はあるさ。
 そう、ソニックブームって技がね」
 
「…ソニックブーム…ですって?……
 …なるほど…この風に紛れて…大量のソニックブームを当ててた……って訳ね…」
「へへっ、その通りさ!
 さっき原子の力を撃っていた、あの時にね!」
 
『まさか、この風をそんな風に使う何て…
 でも、甘い。まだ、レジアイスには力が残ってる』
 
「レジアイス…大爆発…」「!? しまっ…」
 
レジアイスの体が、眩しい光に包まれる。
そして、巨大な爆発が起こり、ジバコイルの体を一撃で吹き飛ばした。
 
「クソッ、まだあんな元気が有った何て!」
「…ははっ…勝負は……振り出しね…」
 
両者は、共に腰のボールを掴む。
そして、ボールから2体のポケモンが飛び出した。

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「……アンタ…バカ?…」
クリスの二番手はレジロック。
それに対して、スネ夫が出したポケモンはクロバットだった。
「バカじゃないさ。クロバットなら勝機がある。
 そう思ってコイツを出したんだ。例え、コイツが飛行タイプでもね」
「…そう…レジロック…ストーンエッジ…」
巨大な岩石の嵐がクロバットに迫る。
「クロバット、飛び上がれ!」
だが、スネ夫の指示により、クロバットはストーンエッジを避けた。
「…バカ……この風で……上手く飛べる…訳が無い…」
「どうかな?僕のクロバットを舐めるなよ」
スネ夫の言葉通り、クロバットは風に負けず、空を自由に飛び回っている。
それは、スネ夫が今までクロバットを必死で鍛えてきた証でもあった
 
「これが僕の一番のパートナー、クロバットの力だ!」
「…生意気な……ハエ…
 でも…私には……関係無い…」
レジロックの腕が、スネ夫の体に向けられる。
「クロバット!」 「…電磁砲…」
電撃の塊がスネ夫を襲う。だが、間一髪クロバットがスネ夫を助け出した。
「忘れてたよ…お前が人を狙う冷酷な奴だって」
「……はは…」
冷酷な目で、空中のスネ夫を見上げるクリス。
その顔は、既にスネ夫の心臓を握ったかのように、余裕に満ちていた。

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    「…破壊光線…」
鋭い閃光が空を割き、クロバットに乗ったスネ夫を襲う。
強風が吹いてる上、クロバットは高速で飛行しているのに、
レジロックの光線はクロバットの翼をかすめた。
『何て奴だ……こっちは避けるだけで精一杯だってのに…
 だけど、破壊光線を撃った今がチャンスだ!』
一気に急降下し、クロバットがレジロックの体に飛び込む。
「クロバット、鋼の翼!」
クロバットがレジロックの体を通り過ぎると、一瞬で肩の岩が砕けた。
「クロバット、さらに鋼の翼!」
Uターンし、またレジロックに突撃する。
レジロックが防御の構えを取った時には、既に足の一部が削り取られていた。
『…レジロックの硬い体が簡単に……
 風の回転と、落下の勢いを利用してるのね。全く…何て悪賢い奴なの…でも』
「……でも…もうお仕舞い…」
レジロックの体に、再び力が戻る。
「…レジロック…ロックオン…」
腕を前に突き出し、動き回るクロバットの体を捉えた。
      「!?」
「…ははっ……レジロック…電磁砲…」
クロバットとスネ夫に、強力な電撃の塊が迫る。
『しまっ…避けられ…』
空中で爆発が起こり、眩しい閃光が弾けた。

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「……はぁ、はぁ…うぐっ!」
スネ夫もクロバットも生きていた。
だが、無傷のクロバットと違い、スネ夫の体には大量の傷が付いている。
しかも、スネ夫の右半身の神経は、電撃によりマヒしていた。
「…まもるで……防いだの?…
 でも…アンタ自身は…守り……切れなかったのね…」
「…へっ!だからどうした!
 こんなの痛くも痒くも無いさ!(痛いよぉ、ママァ、助けてぇ)
 クロバット、また鋼の翼だ!」
また、クロバットの攻撃が再開する。
その激しい連続攻撃により、レジロックの体はかなり削り取られた。
「…無駄な……こと…
 こっちは…もう一発……当てれば…勝てる…
 …レジロック…ロックオン…」
再び、レジロックが先程の構えをとった。
「…終わり…ね……電磁…」
「同じ手を食らってたまるか!クロバット、超音波!」
ドーム内に強力な音波が響き、レジロックの電磁砲は足元に放たれた。
「…うそっ…」
「クロバット、鋼の翼!」
その隙を逃さず、クロバットの翼がレジロックを砕く。
気付くと、レジロックの体は、最初の頃よりかなり小さくなっていた。
「戻れ、クロバット」
クロバットが戻り、スネ夫は地面に尻餅をつく。
そして、代わりにナッシーが現れた。
「これで終わりだ、クリス」

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「…そんなポケモン……潰して…やる…」
「出来るかな? ナッシー、サイコキネシス!」
「…無駄よ……レジロックには…そんな攻撃…」
そう言い切るクリス。
だが、そんなクリスの予想は外れ、レジロックの体は空中に浮き上がった。
「…そんな……有り得ない…」
「バカだね。
 レジロックの重さを限界まで減らす為に、
 僕はクロバットに今まで鋼の翼で攻撃させてたんだ。
 それに、下から追い風だって吹いてるだろ?」
どんどんレジロックの体は上に上がっていく。
そして、天井ギリギリまで上がると、勢い良く地面に放たれた。
「戻れ、ナッシー…そして、クロバット!
 レジロックに向かって、最大まで加速して鋼の翼!」
「…レジロック……下に破壊光線…」
 
破壊光線がクロバットに当たる。
だが、クロバットの勢いは止まらない。
 
勢い良く落下するレジロックと、飛び上がるクロバットが上空で交わった。
 
レジロックの落下速度、クロバットの加速、下からの追い風……
 
その全てが足された渾身の一撃が、レジロックを切り裂く。
そして、レジロックの体は空中でバラバラに砕けちった。

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「さぁ、後はレジスチルだけだね。早く出しなよ」
スネ夫は、勝利を確信してそう言った。
スネ夫はまだ2体残っている。
幾らレジスチルが強くても、状況は絶対にスネ夫が有利だからだ。
「……ふふっ…バカな…男……」
「何だと!」 クリスの言葉に反論するスネ夫。
クリスは、笑みを浮かべたまま言葉を続けた。
「…最後のポケモンが……レジスチル……って保証は無い…」
「…何!?」
クリスが空高くボールを投げる。
すると、ボールから見たことも無いほど巨大なポケモンが現れた。
「こ、このポケモンは…」
「…ふふっ…レジスチルは……前の戦いで…爆発した…
 だから…この子を…代用……これは…仕方がないこと…
 この……レジギガス…をね……」
デカイ とにかくデカイ ジャイアンのバンギラスよりもデカイ。
スネ夫は、しばらくその姿に腰を抜かしていた。
『ビビるな、僕!
 レジギガスは、特性のせいで出たばかりの時は少し弱い。
 倒すなら今のう…』   ヒュンッ!
そう思っていたスネ夫の横を、何かが通り過ぎた。
激しい轟音が鳴り響く。
横を見ると、クロバットにレジギガスの腕がめり込んでいた。
「そ、そん…な…」
「…悪い特性は……全て排除……ははっ…
 限界まで能力を上げ……特性も無くした……レジギガス…」
スネ夫は、全てを理解した。
このレジギガスの強さを……そして、自分の勝てる確率の低さを…
呆然とするスネ夫。
スネ夫は、完全に試合を諦めてしまった。

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『この試合…勝った』
そんなスネ夫を見て、自分の勝利を確信するクリス。
だが、そんな二人を見ていない所で、予想外の出来事がていた。
「…何?……レジギガスの様子が…」
急に苦しみ始めるレジギガス。
その腕には、ボロボロになったクロバットが噛み付いていた。
「クロバット、お前…」
「…レジギガス……そいつを握り潰せ…」
激しい音を発て、クロバットの体が潰される。
力無く地面に落ちたクロバットに、スネ夫は走って近づいた。

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「…!? クロバット、お前さっきの攻撃…」
苦しそうな顔で笑うクロバット。
そんなクロバットを、スネ夫はボールに戻した。
 
「ナッシー、後は頼んだぞ」
 
ボールから無傷のナッシーが現れる。
だが、その瞬間、さっきと同じ様にナッシーにレジギガスの拳が襲った。
「…終わり?……じゃない…」
「ナッシー、最大パワーでリーフストームだ!」
ナッシーは倒れず、残った力で巨大な竜巻を作り出した。
ヨロヨロとバランスを崩しかけるレジギガス。
その姿を見て、スネ夫は一瞬希望を抱いた。
『やったか?』 「…甘いわ…」
竜巻が弾け、元気なレジギガスが姿を現す。
そして、その巨大な腕が空高く振り上げられた。
「……さよなら…」 「ナッシー、こ…」
腕が勢い良く叩きつけられ、地面が激しく砕け散る。
ナッシーがどうなったかは、簡単に想像がついた……
 
「お、おい…あれ…」
観客の誰かがクリスを指差した。
一斉に、ステージのクリスに視線が集まる。
クリスの被っていたフードは、さっきの攻撃の風圧で外れていた。
「な、そんな…ウソだ…ろ?」
長い黒髪、痩せ細った小さな顔、そして、大きな丸鼻。
面影はまるで無いが、その顔は、のび太達が良く知っている人物だった。
   「ジャイ子!!!」
ジャイアンは、我慢出来ずにそう叫んだ。

----

「ジャイ子!」
 
ジャイアンの声がドーム内に木霊する。
フードの中から出てきたクリスの顔は、紛れもなくジャイアンの妹であるジャイ子の顔だった。
「ジャイ子だって!?
 ジャイアン、それは間違いじゃないの?」
「間違いなく……あれはジャイ子よ」
のび太の質問に答えたのはジャイアンではなく、いつの間にか後ろにいたジャイアンの母だった。
「タケシ、のび太君。
 ジャイ子は変わってしまったんだよ。
 そう……出木杉様の忠実な下部になってしまったんだ。
 あんなに痩せて、髪もボサボサにして……もうあんな子の事は忘れておしまい」
「…母ちゃん」
ジャイアンには直ぐ分かった。
この言葉の真意が、そして本当の気持ちが…
『母ちゃん、安心してくれ。 ジャイ子は俺が必ず助ける』
 
「オバサン、少し話を聞かしてくれませんか?
 その…ジャイ子ちゃんが変わってしまう…切っ掛けのような事を…」
「それが良く分からないんだけど…
 ジャイ子が変わる2日前に出木杉様が店に来たんだ。
 その日の夜、ジャイ子がとても嬉しそうにしてたのを覚えてるよ」
「…やっぱり出木杉か!
 クソッ、俺のせいだ! 家族が狙われる事くらい…予想出来たはずなのに…」
ジャイアンが、思いっきり腕を床に叩きつけようと腕を振り上げた
――その時
 
《…えるか……の声が聞こえるか?》

----

「ふは…ふははははははァ!
 勝ちましたよ、出木杉様ァァ! 出てきて下さいィ!
 そして……褒めて下さいィィ! このあたしの事をォォォ!」
ジャイ子の枯れた声が、ドーム内に響き渡った。
その絶叫にも似た声の余りの大きさに、観客全員が耳を覆う。
やがてドーム内の空気が戻り始めた頃、黒いミュウを従えた出木杉が姿を現した。
「頑張ったね、ジャイ子君」
「…出木杉様ぁ……相変わらずとても素敵です…」
ジャイ子が再会を喜ぶ中…
出木杉は計画が思惑通りに事が進む優越感に浸っていた。
 
《聞こ…るか?》
「その声……ミュウかい?」
のび太はなるべく小さな声でそう言い、隣のジャイアンを見た。
黙って頷くジャイアン。
どうやらジャイアンにも聞こえてる様だ。
「ミュウ…なんだい?」
《…私……木杉に操ら…てしま…た。
 こ…以上、お前達…サポー…をする事…出来ない…許し…くれ》
「えっ!?」
思わず大声を出してしまい自らの口を抑える。
そして、のび太は聞いた。
「何が…あったの?」
《…私…頭に…特殊な…械が搭載さ…ていた。
 そ…で身動き…止められ…あるポ…モンに思考を完全…操られ…んだ。
 何故か…この試合が始ま…前辺りから…こう…て少し力…使えるがな…》
「おい、まさか!?」
「ジャイ子も……そのポケモンに!?」
二人の脳は、同時に1つの答えを弾き出した。

----

《も…分か…ただろ?
 そのポケ…ン…いや、デオ…シスは、生物…体内に特殊な電流…流し、
 …分の支配…に置く事が出来…んだ。
 た…し、一度に完全…操る事が出来るのは一匹のみ。
 複数を一度に操…うとす…と、力が弱…る。 だから出木杉は…》
「…今日までミュウを支配してこなかった」
 
そう言って、のび太は前を見た。
良く見ると、出木杉が手に何かを持っている。
きっと、ミュウが逆らった時殺す為の機械だろう。
      『クソッ…』
のび太には、どうする事も出来ない自分を責める事しか出来なかった。
 
スネ夫が負けた 敵はジャイ子 ミュウが操られた
 
余りに多くの事が一度に頭に入り、のび太の頭がパンクしそうになる。
そして、のび太の頭に浮かんではいけない言葉が浮かんだ。
 
   『…もう無理だ』
 
ゆっくりと下を向くのび太。
……だがその瞬間、ジャイアンが驚くべき事を口にした。
 
「スネ夫が……笑ってる」

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「何笑ってるの?
 ついに頭がおかしくなったのかしら? お兄ちゃんの下僕さん」
「…いや、面白くてね。
 余りに自分の思惑通りに事が進んでいるのが」
「何だって?」
そう言ったのは出木杉だった。
出木杉は、最初からジャイ子とジャイアンの兄妹対決を準決勝で再現する事を計画していた。
つまり、この試合でジャイ子が勝つことは、出木杉にとって計画通りなのだ。
それなのに、スネ夫は自分の計画通りに進んでいると言っている。
出木杉は、その事がとても気に食わなかった。
「骨川君、どういう意味だい?
 まさか…この試合君が勝つとでも言いたいのかい?
 もう…ポケモンも残っていないのに」
その言葉は聞いたスネ夫は、ニヤリと歯を見せて笑う。
そして、ジャイ子を指差し、こう言った。
「勝つんじゃなくて、勝ったのさ。
 出木杉、ジャイ子の体を揺すってごらんよ」
その言葉を聞いた出木杉は、ゆっくりとジャイ子の肩に手を伸ばす。
 
「ジャイ子く……な…何だと!?」
 
ジャイ子の体は、ゆっくりと地面に吸い込まれていった。
深い眠りにつき……とても気持ち良さそうな表情をしたまま……

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「こ、こんなはずは……まさか、お前!?」
「そのまさか、さ。 前を見てみな」
前を見ると、さっき倒れたはずのナッシーが立っていた。
傷だらけで、片膝をついており、その体は今にも倒れそうだ。
しばらくそのナッシーを眺め、出木杉は言った。
「"こらえる"を使ったな…骨川…君」
「その通りだよ、出木杉。
 僕はこの試合中に、クリスがジャイ子である事に気が付いたんだ。
 理由は3つある。
 まずは口調だ。 ずっと気になってたよ。
 小さめで、途切れ途切れに喋る特徴的ある口調。
 小さな声で喋るのは分かるが、声が途切れるのはいくら何でもおかしい。
 そして、分かったんだ。
 その喋り方が、正体を隠す為の作戦だってね」
その言葉を聞くと、出木杉は怪しく笑った。
「……良く気が付いたね、その通りだよ。
 普通に《あいうえお》と言うと、声質が良く分かるけど…
 《あ…い…う…え…お》と間を入れると、声質は分かり難い。
 そう、バラバラのパズルでは、描かれた絵が分からないのと同じようにね」
「……それで気が付いたんだよ。
 クリスの正体はバレると不味い人物……つまり、僕らに関係のある人物って事にね」

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「2つ目の理由は…ジャイアンの話だ。
 ジャイアンが言ってたよ。 ジャイ子が居なくなったって…
 そして、クリスの口調と、ジャイアンの話が、僕の中で1つに繋がったんだ」
「骨川君、1つ良いかい?
 君は大きな勘違いをしているよ」
出木杉が、スネ夫の話に割り込んでそう言った。
そして、出木杉はさらに話を続ける。
「ジャイ子君が僕と話している間に、ナッシーを密かに接近させ、
 催眠術でジャイ子君を眠らせた……そこまでは良かったよ。
 でも、もう終わりだ。
 ジャイ子君が眠っても、君の勝ちにはならない。
 ジャイ子君に勝ちたいなら、あのレジギガスを倒さないといけないんだよ。
 …君のナッシーにそれが出来るかい?
 絶対無理だ。 ジャイ子君はもう直ぐ目を覚ましッ! そのナッシーを粉砕するッ!」
出木杉がそう叫んだ。
確かに…出木杉の言う通り、試合に勝つにはトレーナーを棄権させるか、
トレーナーかポケモンを戦闘不能にしないといけない。
相手が眠っているうえ、仲間であるジャイ子である以上、
スネ夫が試合に勝つには、改造レジギガスを倒さないといけないのだ。
 
圧倒的に不利な状況……
だが、スネ夫の顔はやはり笑っていた。

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スネ夫の笑みを見た出木杉は、声を荒げ叫んだ。
「な、何がおかしいんだ!」
「…出木杉、お前も見てたんだろ?
 さっきクロバットがレジギガスに噛み付くのを。
 あの攻撃は……ただの噛み付くじゃなかったのさ」
そうスネ夫が言った瞬間、レジギガスの巨体が地面に沈んだ。
ドーム内に轟音が鳴り響き、辺りが一面砂煙に包まれる。
その煙が晴れると、出木杉の顔は悔しさの色に染まっていた。
「…どくどくの牙だったのか。
 今までわざわざあんな長い話をしたのも、
 "どくどく"に気付かれない為の布石だったって訳だね」
「最初からナッシーにその指令を全て教えておいたんだ。
 ここまで上手くいくとは……流石に思ってなかったけどね」
スネ夫の言葉を聞いた出木杉は、今度は楽しそうに笑う。
その顔は余裕に満ち溢れ、自分の計画に絶対的自信を抱いている……そんな顔だった。
「全く……君の思いつく作戦の狡猾さ、斬新さ、強力さには驚かされる。
 完敗だよ……僕もまだまだ甘いって事かな。
 …ミュウ、帰るぞ。 作戦の練り直しだ」
出木杉がそう命令すると、二人の体が光に包まれる。
だが、二人の体が消える直前、出木杉は再び口を開いた。
 
「骨川君、もう1つ質問だ。
 クリスの正体が分かった3つ目の理由は?」
スネ夫は短く笑い、その質問に答えた。
「…簡単さ。 名前だよ。
 クリスチーヌ剛田、略してクリス…だろ?」

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「それでは、Dブロック決勝の勝者を発表します!
 勝者は……骨川スネ夫!」
その名前が呼ばれた瞬間、スネ夫にドーム内から惜しみ無い拍手が贈られた。
『僕への…拍手だよな?』
スネ夫は、少し自分の頬っぺたを引っ張ってみた。
痛い…てか伸びてた爪が刺さった。
『夢じゃない…僕は勝ったんだ、あのクリスに』
予選でクリスから逃げ、一回戦では大怪我も負った。
二回戦で初めての完全勝利を味わい、命がけの修行も乗り越えた。
そして……現在。
あのクリスを倒し、自分はこのドームの全ての観客に認められている。
スネ夫は思った。
今まで頑張ってきて、本当に良かったと。
「スネ夫、戻って来いよぉ!」
後ろを向くと、のび太とジャイアンが手を振っている。
スネ夫は、ジャイアン達の方に足を伸ばした。
――ミュウ?
『…ちょっと待て……まさか、ミュウは僕に…』
スネ夫の中で新たな答えが見つかり、作戦が作り上げられていく。
スネ夫は、伸ばしてた足を戻し、のび太達に背を向けた。

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「ス、スネ夫?」
のび太達が驚きの声を上げる。
スネ夫は、後ろを向いたままこう言った。
「ジャイ子を放ってはおけないだろ?
 …僕は棄権して、一緒に下へ落ちる事にするよ」
「な、何言ってんだよ!
 せっかく…勝ったのに…俺はお前とも戦いたいんだぞ!」
「…ジャイアン、僕らはここに戦いに来てるんじゃない。
 優勝して、ドラえもんと出木杉を助け出す為にここに来てるんだ。
 僕には考えがある。
 だから二人は……全力でジンを倒して、しずかちゃんを助けてくれ!」
「ス、スネ夫…お前…」
スネ夫が司会を呼び、事を説明する。
頷く司会、そして…司会は最後の確認をした。
「悔いは無いですか?」 「……はい」
司会がボタンに手を伸ばす。
「スネ夫!」 ジャイアンがスネ夫の名前を呼んだ。
 
「……お前、カッコ良かったぜ!」
 
一生続きそうな程盛大な拍手の中、二人の体は消えていった。
 
のび太とジャイアンは、拍手が鳴る間、まばたきもせず……その光景を見守っていた。

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