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のび太の冒険活劇 その3 - (2007/08/12 (日) 02:41:38) のソース

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「確かにこの辺りから聴こえたんだけど・・・よく見えないなぁ」
不思議な鈴の音に釣られて茂みを探しに来たのび太とエムリット。
だが、暗闇で地面は碌に見えない上に何時の間にかあの音も途絶えてしまった。

「結局何も無しか・・・やっぱゲームみたいに特別なイベントとか起こるわけないよね」
ゲームの世界でそう愚痴をこぼすのび太。
その落胆が引き金となったのか再びどうしようもない疲労と眠気、その他諸々の絶望感が彼を襲う。

「仕方ない、ここは大人しくコトブキシティに――いたたた、耳引っ張るなって!」
本日、エムリットから二度目の攻撃を受ける羽目になったのび太。
思わず肩に乗っているそれをのび太が睨み付ける。
「もう何だよ!どうせ此処には何も無いんだから・・・・」
のび太が突然口を閉ざした。
睨み付けたピンク海月が必死で何かを訴えているような表情をしていたからだ。

「・・・どうしても探さないと駄目なんだね?」
エムリットが大きく頷く。
それを見てのび太は暫く俯いていたがやがて顔を上げ、そして――
「分かったよ・・・鈴の音の正体を突き止めればいいんだろ?」
そうのび太が言うなりエムリットが肩から飛び上がる。
その姿は伝説ポケモンと言うよりも純粋な子供のようだ。

だが、その姿が今ののび太には何処か嬉しかった。
「よ~し!こうなったら朝まで探してやるぞ!」
もはやヤケクソなのか吹っ切れたのかやる気の表情を見せるのび太

と、その直後。
――リーン
鈴の音が闇の中で小さく鳴り響いた。

----

「はぁ・・・はぁ・・・!ったく、待ってよエムリット!」
音を聴いた瞬間、一直線にその方向へ向かっていくエムリットを追いかけるのび太。
そしてエムリットが止まった場所でのび太が見たものとは・・・。
「鈴?」
そこには大きな鈴らしき物が転がっていた。
「まさかとは思うけど・・・いや、まさかな」
恐る恐る鈴を持ち上げてみるのび太。
だが、次の瞬間。
「うわぁ、動いたぁ!」
思わずその鈴を放り投げそうになるのび太。
だが、不意にその鈴と『目』が合った時に彼は落ち着きを取り戻した。

リーシャン すずポケモン
跳ねるたびリリンと音を出す。高い周波数の泣き声で相手の耳を聞こえなくする

「リ-シャンか・・・可愛いポケモンだなぁ」
見たことの無い新ポケモンに興味津々ののび太。
だが、改めてリーシャンを観察しているうちに彼はある事に気付いた。
「こいつ、怪我してるじゃないか!」
暗くて気付かなかったが、リ-シャンの体にはあちこちに傷が付いており、今にも気絶してもおかしくない状態だった。

「一体なんでこんなボロボロに・・・ってそんな事言ってる場合じゃない!」
急いでリ-シャンを抱えて街へ行こうとするのび太。
と、エムリットが三度何かを言いたげにのび太のズボンを突っついて来た。
「何だよエムリット――あぁ、そういうことか!」
慌ててポケットを裏返すのび太。
そして出てきたのは・・・最後のモンスターボールだ。
流石にこれだけ至近距離ならボールを外すことも無い。
体力を失っているリ-シャンはあっさりとボールに吸い込まれていった。
「よし、それじゃあ急ぐよエムリット!」
そう言って遠くに見えるコトブキシティへ走り出すのび太。
ポケモンを捕まえるという当初の目標を達成できた事に彼が気付くのはリ-シャンをポケモンセンターに預けた時だった。

----

――翌日

「はい、昨日お預かりしたリ-シャンも元気になりましたよ!」
「ふぁ・・・ありがとうございましたぁ」
寝ぼけ眼でボールを受け取るのび太。
時刻は朝9時、ポケモンセンターのロビーは宿泊していたトレーナー達で賑わっていた。

(確か昨日はリーシャンを捕まえたあと、急いでポケモンセンターに行って・・・ボールを預けた後ここで寝ちゃったんだな)
普通は部屋を借りるものだが、ボール代に全財産をつぎ込んでしまったのび太にはそんな選択肢は無かった。

「・・・さて、どうしようか」
ポケモンセンターを出た後、のび太は考えていた。
一応ポケモンは二匹に増えたものの今の状況はかなり厳しい。
一匹はご存知眠ることが得意技
捕まえたばかりのリ-シャンでこの先を進むのは少し無謀な気がしてきたのだ。

「やっぱ、もう少しレベル上げとかをしようかな、それにこの街も大きいし何か見つかるかも・・・」
一見のび太の特性「なまけ」が発動したように見えるが彼なりに精一杯考えた結果だ。
……昨日、短パン小僧にフルボッコにされたのがトラウマになっているというのもあるが。

「よ~し、ひとまず今日の予定はまず街をけんが――」
「野比くん・・・?野比くんじゃないか!」
のび太の声がピタリと止まった。
そしてゆっくり話しかけてきた人物の方を見る・・・。

「げぇ、出木杉!」
のび太が色んな意味で苦手な好青年、出木杉英才がそこにいた。

----

(くそっ、まさかこんな所で出木杉に会うとは・・・)
目の前の相手に冷や汗をかくのび太。
自分の今の状況を一番知られたくない相手に会ったのだからそれも当然だろう。

そんな彼の葛藤も知らず、出木杉はいつもの爽やかな口調で話しかけてくる。
「野比くん、久しぶりだね!君だけどうしているか分からなかったから気になってたんだ」
「ああ、確かにそうだね」
そういえば出木杉とはポケモン世界に入った直後に会っただけだった。

と、ここでのび太はある事を思い出した。
「出木杉、何で僕を探しに行った後、研究所に帰ってこなかったんだい?」
のび太が問う。
「あ、あぁ・・・君がコトブキシティにいるんじゃないかとずっと探してたんだよ、そしたら何時の間にか日が暮れてて・・・」
突然、さっきまでの調子を崩し動揺する出木杉。
その様子をのび太は訝しく思ったが特に追求はしなかった。

「そ、それじゃ僕はそろそろ次の街に向かおうかな・・・野比くんまた会おう」
まだ幾分慌てた様子でその場を立ち去ろうとする出木杉。
何で慌てているかは分からないものの、自分の状況に触れずに天才が去ってくれただけでのび太にとっては十分だった。
「ふぅ・・・それじゃあ邪魔者もいなかったし今度こそ街見学に――」
のび太は突然口を閉ざした。
さっきの出木杉の言葉が頭にこだまする――
『そ、それじゃ僕はそろそろ次の街に向かおうかな・・・野比くんまた会おう」

「・・・出木杉ぃぃぃぃぃぃぃ!」

----

姿が小さくなっていく出木杉を凄まじい勢いで追い掛けるのび太。
そして・・・出木杉に凄まじい勢いで飛びついた。
「わっ!ど、どうしたんだい野比くん?」
慌ててのび太を振りほどく出木杉
もし一歩遅かったら出木杉の服はのび太の涙と鼻水で大打撃を受けていただろう。

「うぅ、嬉しいよ出木杉・・・まさか君が僕と同じ境遇だなんて」
涙をぬぐいながらライバルに話しかけるのび太。
「お、同じ境遇?どういう意味だい?」
思いっきり迷惑そうな表情で出木杉が言うとのび太が
「どうもこうも無いさ!君も『次の街』を目指すんだろ?」
「そうだけど・・・」
まだ訳が分からない、と言う様な感じの出木杉。
そんな彼を気にせずのび太が今度は暢気に話し出す。

「いや、実は僕も昨日やっとここに着いた所でさ~!もう誰もこの街にいないんじゃないかと不安で不安で・・・」
完全にライバル意識も放り出し浮かれているのび太。
だが、その一言で出木杉はようやくのび太の言いたい事が分かったようだ。
「野比くん」
「まぁ今後も同じ境遇の者として頑張ろ・・・何だい?」
マシンガントークを途中で切り、出木杉の方を見る。
「これを見てくれ」
そう言って何かをこちらに突きつける。
「これは・・・?」
「コールバッジ、クロガネジム公認のバッジだよ」
その言葉を聞いた瞬間、のび太の目の前は真っ暗になった。

----

「はぁ・・・何やってんだろ」
エネルギー都市、クロガネシティでのび太は呆然と立ち尽くしていた。
出木杉と話した後、のび太はほとんど勢いで行動していた。
トレーナーに話しかけられる前に草むらを駆け抜け、野生のポケモンの攻撃をエムリットに受け止めて貰い、
荒れた抜け道のズバットを自分が仲間になったのかも把握してないリーシャンにお願いして追い払ってもらい・・・そして今に至る。

分かっている、分かっているのだ。
今の自分が次の街へ行っても意味無いことくらいは分かっている。
しかし出木杉との差を見せ付けられた今、暢気にコトブキの街を見学する度胸はのび太には無かっのだ。

(全く出木杉め・・・もうバッジを手に入れてるなんて馬鹿かあいつは!)
何が馬鹿なのかは良く分からないが心の中で毒を吐くのび太。
それから数分間、出木杉に呪いをかけてみたが余りに虚しくなってきたので途中で止めた。

「ひとまず必死で走ったらお腹が空いたな・・・何か食べよう」
フラフラと近くにあったフレンドリーショップに立ち寄るのび太。
だが、現実は彼に更に追い討ちをかける

所持金260円
「どうぞ~!食品売り場はこちらです~!」
ポップコーン 1000円
やきそば    600円
ポケモンフード 100円
この胸に秘められし愛と闘志  Priceless

「・・・・・・」

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「美味しいかい?ポケモンフードは」
のび太が口いっぱいにご飯を頬張るエムリットとリーシャンに問いかける。
「美味しいよね、良かった、うん」
そう言うのび太の顔は思いっきり老け込んでいた。
理由は単純・・・お腹が物凄く減っているのだ。
いっそポケモンフードを食ってやろうかとも考えたがジャイアン並みのレベルに堕ちたら終わりだと思い踏みとどまった。
(しかし、あの店のぼったくり具合はともかく、このままだと本当に餓死するな・・・何とかしてお金を集めないと)
そう言っては見たものの彼の頭には良い案が浮かんでこない。
この世界でお金を手に入れるにはポケモンバトルをして勝つしかないのだ。
(だけどここに来る道のトレーナーも何か少し強そうだったし、もし勝負をしかけて負けたら・・・)
「やっぱ前の街でレベル上げしとけば良かったな」
後悔して見るがもう遅い。
(はぁ・・・誰か今の僕でも勝てそうな相手が現れてくれたら・・・)
のび太が念じたその時。

「のび太さ~ん!」

「この声は・・・しずかちゃん!?」
一瞬空腹も忘れ素早く反応するのび太。
声のした方向を振り向くと彼が思いを寄せる少女――源しずかがジムからこちらに手を振っていた。

「のび太さん、こんにちわ!・・・顔色悪いけどどうかしたの?」
どう見ても空腹が原因です、本当にありがとうございました。
「いや、何でもないよ。それよりジムに挑戦してたの?」
ジムから出てきたという事はそれしかないだろう。

----

「ええ、綺麗でしょこのバッジ?」
彼女の手には出木杉に見せられたのと同じものが握られていた。
「うん、良かったね。しずかちゃん」
正直言ってしずかにも一歩負けている自分を殴りたくない衝動に襲われたがそれを必死で抑える。
「そういえばのび太さん、ドラちゃんが心配してたわよ?」
「え・・・僕を?」
突如ドラえもんの話題を振られて困惑する。
「何だか災難に巻き込まれている気がするとか・・・だけど、勘違いだったようね」
「そ、そうだね。ドラえもんも何言ってるんだか」
友人の素晴らしい予測能力に舌を巻いたのは内緒だ。

その後、暫く二人は他愛も無い話をしていた。
この世界に来て驚いた事、本物のポケモンについて、この世界の食べ物・・・
どうでもいい事だが憧れのオニャノコと話しているだけで彼の疲労感も随分薄れていた。

(あぁ、幸せだなぁ・・・)
ぼんやりと幸福を噛み締めるのび太。
だが、そんなのび太の頭が突然電波を受信した。
(今の僕でも勝てる相手、それはしずかちゃんじゃないのか?)
普通に対戦したらまず勝てる相手では無いだろう。
だが、しずかはジム戦をしたばかりだ。
つまりリーシャン一匹でも十分勝機はある!
(我ながらなんて完璧な計画なんだ!・・・だけど、何か卑怯なような・・・)
自分の良心がうずく。

そして、彼が最終的に出した答えは――

「しずかちゃん、僕とバトルしない?」
……色気より食い気、か。

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「勝負は2VS2、道具禁止でいいわね?」
意外にもしずかはバトルにすんなり応じてくれた。
……まぁここで断られたら物語が全く進まないから当然だけど。
(フヒヒ・・・しずかちゃんには悪いけどジム戦したばっかの相手なら僕が勝つに決まってる!)
まさに外道。

「それじゃあ、まずは・・・頼むわスボミー!」
しずかのボールから現れた緑色のポケモンにのび太は何処か見覚えがあった。
「確かそのポケモンってロゼリアの進化前だよね?」
「ええ、事前情報でこの子を見てから絶対捕まえようと思ってたの!」
嬉しそうにしずかが話す。
だが、そんなしずかを見てのび太が心の中でガッツポーズをした。
(ロゼリアの進化前ということは草・毒タイプ、つまりエスパーの鴨だ!)
不思議な事に頭の悪い人間に限ってこういうゲームの知識はしっかりしていたりするものだ。

「それじゃあこっちも行くよ、まずは・・・リーシャン君に決めた!」
『まずは』も何も後の一匹は全く使い物にならないのだが。

「それじゃバトル開始だ!」
「連戦だけど頑張ってねスボミー」
いよいよバトルが始まった。

スボミーとリーシャン、可愛いポケモン同士が小さな火花を散らす・・・。

----

「悩みの種!」
先に動いたのはスボミーだった。
その頭の蕾から放たれた小さな種のようなものが弧を描きリーシャンの頭に付着する。

――だが、リーシャンは特にダメージを受けていないようだった。
安心して今度はのび太が命令をする。
「リーシャン、念力だ!」
命令を聞いたリ-シャンが目を瞑る・・・すると、スボミーが突然苦しげな声を上げた。
どうやら弱点攻撃は確実にスボミーの体力を奪っているようだ。

(よし、相手はもう体力を消耗してるしこれならいける・・・?)
そう勝利を確信したその瞬間、彼は信じられない光景を見た。

リーシャンが墜落した。

「え?え?リ-シャンどうしたんだ!」
突然、浮遊していた風鈴が墜ちたのを動揺するのび太。
――その一瞬をしずかは見逃さなかった。

「スボミー、今の内に接近して」
その声とともにスボミーが墜落したリーシャンに一気に近づいてくる。
「まずい!浮遊するんだ」
このまま相手に接近させられるのは危ないと感じたのび太。
だが、リーシャンが必死に飛び跳ねようとしても浮遊する事はできない。

「何で飛べないんだ・・・」
訳が分からず混乱するのび太。
――だがそうやって考え込んでしまう事こそポケモンバトルで最もやってはいけない事なのだ。

----

「さぁ、そのまま一気に攻撃よ!」
しずかの声で我に返ると、リーシャンがメガドレインによって体力を着々と奪われていた。
「・・・!くそっ、驚かすんだ!」
とっさにのび太が命令を下した。
リーシャンが自分の体を震わせ恐ろしく高い音を放つ。
それによって近くにいたスボミーが思わず怯む。

「そこからえっと念力ぃ!」
のび太が物凄く必死の形相で命令する
だが、それが的確な判断というか運が良かったというか・・・。
怯んで碌に身構えていないスボミーに念力は見事に炸裂した。
ゲームで言う所の急所に当たった!という奴だろう。

「ありがとう、スボミー!ゆっくり休んでてね」
しずかが優しく言ってボールにポケモンを戻す。

「リ-シャン大丈夫かい?」
のび太が急いで問いかけるとリ-シャンが鈴の音を出す。
まだ戦える、というサインなのだろう。

「これで1VS2・・・私も本気を出さないと」
そうしずかは言っているがのび太は内心物凄く焦っていた。
(なんで浮遊ができないんだよ、しかも体力吸収されたし実質1VS1だしくぁwせdrftgyふじこlp;)
もはや焦っていると言うよりご乱心だ。

「じゃあ2体目のポケモンを出すわね」
(頼む・・・弱くて体力が限りなく少ないポケモンを出してくれ!)
だが、出てきたポケモンは彼の期待を思いっきり裏切ってくれた。
「ポッタイシ、行きなさい!」

----

「ぽっ・・・大使?」
梟のような顔をした可愛げの無いポケモン。
だが、その体の色や名前からして思い当たる物と言えば一つ・・・。
「ポッチャマの進化系か!」
「ええ・・・ジム戦の途中で進化したの」
(あの可愛らしいペンギンがこの梟顔になるなんて進化は恐ろしいな・・・)
しみじみと思うのび太。

だが、そんな事を戦いの最中に考えている暇は無かった。
「ポッタイシ、泡攻撃!」
「わわっ・・・念力!」
こちらに向かってくる大量の泡がリーシャンに当たる直前で静止した。

(危ない危ない、もう少しで泡まみれになる所だった・・・、!)
不意にその泡を見たのび太の頭にある作戦が浮かんできた。
(これは・・・いけるかも知れない!)

「ポッタイシ、突く!」
しずかの命令で嘴を前に突き出しながらこちらに向かってくるポッタイシ。

――今がチャンスだ。

「その泡を相手にお返ししてやれぇ!」
「な、なんですって!?」
空中で静止していた泡がいきなりポッタイシに襲い掛かった。
頭を前のめりにしていた事もあり、その梟顔が大量の泡で埋め尽くされる。

----

「ふふふ、目が見えなきゃ何もできない・・・リーシャン巻きついてやれ!」
相手の視界を閉ざしてその間に拘束技をかけ後は念力で体力を奪い続ける。
(我ながら完璧な作戦じゃないか!やっぱ伝説のポケモンに認められた者の真の力って奴がここで――)
そう自画自賛していた矢先。

「水遊びよ」
「え?」
一瞬にしてポッタイシの泡が洗い流される・・・そして

「メタルクロー!」
ポッタイシの懐に入り込む寸前だったリ-シャンが硬化した爪で激しく吹き飛ばされた。
丸い体が宙に浮き、地面に叩きつけられる。

「リーシャン!」
急いで駆け寄るとリ-シャンは目を回して完全にダウンしていた。
「・・・戻ってくれ、リ-シャン」
苦い顔でボールの開閉スイッチを押す。

「さぁ、これで1対1ね!」
これからが本番といったような口ぶりだ。
そしてのび太が出すポケモンは勿論・・・
「もうヤケだぁぁぁぁぁぁ!行ってこいエムリット!」

----

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「のび太さん・・・まさかそのエムリット・・・」

「・・・・・・何も言わないで下さい」

こうして彼の卑怯な作戦はバトルに負けた上しずかに全てを説明しなければならないというクソミソな結果に終わったのであった。

「つまり僕のエムリットは眠るしか使えなくてお金も無くて・・・まぁそういう訳だよ」
かなり投げやりに今の自分の状況を説明するのび太。。
そしてそんなのび太をしずかはただ何も言わず見ている。
「あ、賞金払って無かったね。はい・・・それじゃあ」
なけなしのお金をしずかに差し出して足早に去ろうとするのび太。
もう何というか余りにも自分が惨めで情けなさすぎてこの場から消えてしまいたかったのだ。

「・・・待って!のび太さん」
「ごめん、しずかちゃん賞金は悪いけど本当にあれだけしかないんだ・・・って何してるの?」
振り返って見ると何故かしずかが自分のリュックの中をごそごそと漁っていた。

「ちょっと待ってて・・・あったわ!」
そう言ってリュックから何かを取り出し、のび太に押し付けた。
「のび太さん、これ持っていって。私には必要の無い物だから」
そう言い残ししずかは去っていった。
「一体何なんだろ?」
手渡されたCDのような物をよく調べてみる。

「技・・・マシン・・・1・・・0・・・」
それから30分ほど彼は未来の婚約者に感謝の念を唱え続けるのだった。

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クロガネジム認定トレーナー
出木杉、ジャイアン、スネ夫、ドラえもん、しずか、のび犬
「う~ん……こうして見るとやっぱ達成感ってのが湧いてくるなぁ」
ジムの入り口の石像に刻まれた自分の名を見ながらのび太は勝利の余韻に浸っていた。

初めてのジム戦はかなり呆気ないものだった。
バトルルールは2VS2のシングルバトルだったが彼は一匹だけでヒョウタの持ちポケ2体を瞬殺してしまったのだ。
最もその理由の9割と1割はしずかに渡された技マシン10なのだが。

「目覚めるパワー……うぅ、神様仏様しずか様だ」
改めてしずかに感謝の念を唱え続けるのび太。
それを止めるきっかけを作ったのは彼の腹だった。
「そういえば、まだご飯食べてないんだった……ポケモンセンターの食堂にでも行こう」
お腹を抱えてジムを去ろうとしたそのとき。
「あっ、ちょっと待った!」
後ろからのび太を呼び止めてきた相手はさっきフルボッコにしたばかりのヒョウタだ。
「なんですか?ジムバッジならもう貰いましたけど……」
「いや、実はこれを渡すのを忘れていてね、ほらっ」
ヒョウタが渡してきたのは茶色のCDのようなものだった。
「技マシンですか?」
受け取った後、のび太が尋ねる。
そしてその問いにヒョウタが自慢げに答えた。
「ただの技マシンでは無い、これはこの街の必需品でもある秘伝マシン『岩砕き』さ!」

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「秘伝マシン……こんなのジムリーダーがくれるんですか?」
のび太の疑問はある意味当然だった。
今までプレイしてきたポケモンでは秘伝マシンは街の住人などが渡してくれたりするものだ。
少なくともジムリーダーから勝って渡されるものではない。
すると、ヒョウタから思いも寄らぬ言葉が飛び出した。
「実を言うと数日前に突然ポケモン連盟からジム戦の勝者に配布するよう言われてね……まぁ君の役に立つと思うよ」
(数日前か……なんか随分都合がいいなぁ)
そう思いながらも秘伝マシンを受け取る。
今すぐ誰かに覚えさせようとも思ったが今はお腹を満たすのが先決だ。
そう思い秘伝マシンをバッグの奥深くに仕舞い込んだのび太。
「それじゃあ僕はこれで失礼しま~す!」
「あぁ、ただ忠告しとくが誰か覚えるかくらい確認した方が――」
ヒョウタの言葉も聞かず急いでポケモンセンターのレストランに駆け込んだのび太。

……そして。

「――なんで誰も覚えないんだよ~!」
コトブキシティとソノオタウンの通過点となる荒れた抜け道。
その中で間抜けな声が反響する事となるのだった。

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「はぁ……そりゃあリーシャンは覚えないとは思ってたけどまさかエムリットまで駄目なんて……」
ぼやきながら目の前に立ち並ぶ巨大な岩を見つめる。
その岩の大きさ、配置から考えて小柄なのび太でも先へ進むのは不可能だろう。

――クロガネを出てからここまでの道のりは限りなく順調だった。
エムリットは目覚めるパワーのお陰でかなり戦えるようになったしリーシャンのLvも上がってきた。
ここに来てからどうしようもなかった流れが変わってきたとのび太自身も感じてきた矢先にこれである。

「まさかここに来て誰も岩砕きを覚えないなんて……全く少しは空気読んで欲しいよ」
愚痴をこぼしながら冷たい岩場にごろんと寝転ぶのび太。
こんな洞窟でもだらけられるのはある種の才能だろう。
「わざわざ引き返す気も起きないし、少し眠ろう……そしたらいい考え……ん?」
完全に寝る体勢に入ろうとしたその時、のび太が不意に上を見上げた。
そこには――二つの目玉が彼の顔を覗き込んでいた!

「くぁwせdrftgyふじこlp;」
日本語でおkと言いたくなる言葉を発しながら慌てて起き上がる。
「はぁ……はぁ……何だお前はぁ!」
まだ頭が混乱している中、ようやくまともな言葉を発したのび太。
だが、改めて『それ』を見た途端、のび太は思いっきり気の抜けた表情になった。
「な、なんだ……ただのコダックじゃないか!」

コダック あひるポケモン
不思議な力を持っているが使ったときの記憶が無いのでいつも首を傾げている

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図鑑を見ながら怒った様に言うのび太。
改めて全体像を見てみるとこの間抜け顔に一瞬でも驚かせたのかと馬鹿馬鹿しく思えてくる。
「野生のポケモンだよな、僕に何か用?」
尋ねてみるがコダックは何の反応も示さない。
ただその間抜けな顔をしながら首をかしげるだけだ。
「バトルしたいわけでもなさそうだし……用が無いならどっか行けよ」
追い払おうとしたがやはり動じない。

「はぁ、少しは反応してよ……ん?」
ここでのび太の頭にある事が頭をよぎった。
「君、そこでちょっと動かないでね……」
そう言いながらコダックに近づく。
そしてバッグから何かを取り出した。
「えっと、ここをこうしてっと……どうだぁ!」
『おめでとう!コダックは新しく岩砕きを覚えた!』
何処からとも無く聞こえて来た声が成功を伝えた。

「よし……ねぇ、君。ちょっとあそこの岩の前まで行ってくれない?」
駄目元で頼んでみる。
だが今度は意外な程従順にてくてくと岩の前まで歩き出した。
――ここまで来たら命令するしかない。
「コダック……岩砕きだぁ!」
言ったとほぼ同時に岩が砕け散る快音が鳴り響いた。
「やったぁ!これで先へ進めるぞ!」
よほど嬉しいのか小躍りするのび太。
と、不意にまたコダックと目が合った。
相変わらず何も考えていなさそうな表情でのび太を見つめている。
だが、今ののび太には初めてコダックを見た時と全く違う感情が芽生えていた。
「……なぁ、コダック僕達について来ないかい?」
「ぐわっ」
こうしてまた新たな手持ちを加えたのび太は意気揚々と荒れた抜け道を出るのであった。

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~たにまの発電所前~

「狸さん、頑張ってね!」
「だから僕は猫……まぁいいや、ドンと任せてよ!」

(勢いであんな事を言ってしまったけど大丈夫だろうか……)
発電所の周りをうろうろしながらドラえもんは考え込んでいた。
今まで順調に旅を進めてきたドラえもんだったが突然現れたようじょの頼みでこんなイベントに巻き込まれてしまったのだ。
その幼女が言うにはギンガ団に乗っ取られた発電所から父親を助け出してほしいと言うのだ。

「そんな酷い輩は当然許せないけど……まずどうやって潜入するか」
研究所の入り口前では怪しい服装の男二人が立っているし、易々と入ることはできないだろう。
「できればあそこからは入りたくないけど他に入り口は……あっー!」
突然、ドラえもんが声にならない声を上げた。
そしてポカポカと自分の頭を叩き出す。
「馬鹿だなぁ、僕は。通り抜けフープを使えばいいんだ!」
何で最初に気がつかなかったのかといった表情をしながらポケットに手を伸ばすドラえもん。
――だが、彼の手はポケットに触れる寸前で静止した。
「はぁ……そうだった。確かポケットはマジックセメントで使えなくしたんだ」
この世界に入る前は快く了承したものの、やはり秘密道具が使えないのも困り物だ。
まぁだからこそ出木杉の判断は正しかったのかもしれないが。

「さて、結局道具を使うという案は潰れたしやっぱり突撃するしか……だけど一人だけじゃ心細いし……」
ふと、のび太の顔が脳裏を掠める。
「まぁ、のび太くんに期待するのは止すとして誰か来ないかな……ん?」
突然ドラえもんがハクタイの森の方向を凝視し出した。
こちらにゆっくりと近づいてくるあの人影は――
「ジャイアンじゃないか!」

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オレンジ色の服、大柄な体型、どう見てもジャイアン以外に間違えようが無かった。
「お~いジャイア~ン!」
嬉しそうに共に旅立った仲間に駆け寄るドラえもん。
勿論、理由は発電所の突入を手伝ってもらいたいからだ。

「ジャイアン丁度良かったよ、実はこれからあの研究所にね――」
「……」
「それでその女の子がさぁ――」
「……魔だ」
「だから突撃をしようと――ってジャイアン聞いてるの――」
「邪魔だっつってんだろうがぁ!」
「ひでぶっ!」
次の瞬間、ドラえもんは地面に思いっきり叩きつけられていた。
「俺様の邪魔をする奴はみんなこうなるんだ!覚えときやがれ!」
そうはき捨ててジャイアンは再びソノオに向けて歩き出した。

――そして残された青狸は。
「こ、こういうのはのび太君の担当だろ、常識的に考えて……ぐふっ」
気絶した。

突如ドラえもんに殴りかかったジャイアン。
完全にノックアウトされてしまったドラえもん。
そしてジム戦を華麗に省略されたのび太。
色々と謎を残しながら物語は後半へ続く。

[[次へ>のび太の冒険活劇 その4]]
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