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扉。 その3 - (2007/03/09 (金) 22:31:21) のソース

[[前へ>扉。 その2]]

自分の装備を確認しよう。 
ポケモン、ナビフォン、カードケースに、食料… 
「準備…おっけー。」 

私は立ち上がる。 
この『島』での『条件』をクリアしなければならないから。 
自分の家じゃない、空き家を出る。 

やっぱり、気味の悪い街だ。人影が全くない、いわゆる“ゴーストタウン”。まぁ、これも
ゲームのプログラムだと思う。 
唯一機能の働いていたポケモンセンターには、まだ誰も居なかった。
おそらく私が一番最初にここへ辿り着いたのだろう。 
あの最初の島であの『祠』のすぐ側に出られたのも、よかったというべきなのか? 
あの『巨大な何か』… 
ソレに遭ってから、アイツは……。 
あの時何が起こったのか、私にはサッパリわからなかった。 
ただ、私は無事で、アイツは無事では済まなかった。それだけが私のわかる事。 
この『プログラム』の性質からして、『1人で』行動している私の立場は
圧倒的に不利だろう。 

そんな事を思いながら、この街に唯一いた人物から受け取った『カード』を見る。 
このアイテムが、この島の『クリア条件』に関わってくる事はほぼ間違いない。 
私は街の奥へと進んで、目的の地を探した。 

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『オアシスの島』 
そう書かれた古びた看板を見るのは、ここで二度目だ。 
アメリカの西部を意識していたかのようなあの街の町並みと同じように、
荒れ果てた荒野。 

1人、そんな荒野をコンパス片手に進んでいた時、ナビフォンが鳴った。 
「最初の…脱落者か…」 
会った事も無い参加者のリタイアを知らせるメールに、何故か胸が痛んだ。 
しかし、私の胸にはある『疑問』が浮かんだ。 
こんなに早く、『脱落』って有り得るのかな?だって… 
その時、私の思考を邪魔するかのように、突如目の前に地響きと共に
一体のポケモンが現れた。
プログラムに入ってからは、初めてみるポケモンだ。 
「これは…イワークね。」 
巨大で、長く岩の連なった体。その巨体をくねらせ地面を揺らしながら、
イワークは開けた穴から飛び出し私に体当たりしてきた。 
私はそれを回避する。こんな時、武道を習っていた事を幸いに思う。 
イワークは地上では地中ほど早く動けない。その重量が自身の邪魔をするからだ。 
私に回避され勢い余って地面に激突するイワークを尻目に、
腰についたモンスターボールを手に取る。 
「いけっ!」そう言って私の投げたモンスターボールから飛び出すニョロモ。 

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体長が8メートルを上回るイワークに対し、50センチ余りのニョロモは
見た目些か頼りない。 
しかし、闘いならば話は違う。闘いは体の大きさでするものでは無い。
戦術でいくらでも有利に戦えるのだ。 
「ニョロモ、辺り一面にみずでっぽう!」 
ニョロモの口から勢いよく大量の水が飛び出す。
その攻撃でイワークはだいぶダメージを受け、
その周囲は水浸しになった。 
私の反撃に怒り、イワークがニョロモにたいあたりを仕掛けようとする。 
が、しかしイワークは思うように進めないようだ。 
「泥で、滑るでしょう?」私は、イワークに諭すように話しかけてみた。 
みずでっぽうで攻撃すると同時に、相手の足場を乱す。それだけで200キロ近い体重の
イワークの体は、泥に体をとられて素早い動きが出来ない。 
「ニョロモ、さいみんじゅつ。」 
地面でのたうつイワークに向かってさいみんじゅつを放ち、イワークを眠らせる。 
リュックからボールを取り出し、眠っているイワークに投げ付けた。 
その巨体が赤い光になってボールに納まる。ボールは何度か揺れ、そして止まった。 
「イワーク、ゲットー。」 

私に、新しい仲間が出来た。 
さぁ、先を目指そう。 

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扉を開き、光に飛び込んだ僕たちが次に辿り着いたのは、
映画で見た事があるような所だった。 
さっきの森とは打って変わって、乾いた風に舞い上がる砂埃。
家や店のような建物が並ぶが人影の無い、寂れた街だ。 
僕とコナンの前に立つ古びた看板が、西部劇の舞台のようなこの場所の名前を
教えてくれた。 
「『オアシスの島』か…」 
コナンが辺りを見渡しながら言った。 
「とても憩いの場には見えないけどな…」 

そこが街の入口という事を示すゲートをくぐり、襲撃に用心しながら街を歩く。 
それは、さっきの島で僕たちは常に油断してはいけないということを学んだからだ。 
街を歩く間、誰とも会う事は無かった。 
「誰も居ないね…」 
「そうだね。割と早い到着だったんじゃないかな?」 
キョロキョロと街を見回しながら言った僕に、コナンは周りに
注意を払いながら言った。 
しばらくして、僕たちは一軒の建物に辿り着いた。 
『旅人の酒場』と書かれた看板が店の入口に掛けられている。 
「旅の情報は酒場で、って相場で決まってるしな…」コナンが呟く。 
キィと軋むドアを押して酒場の中に入るコナンに、僕は黙って続いた。 

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店の中には、沢山並べられた木製のテーブル、そして同じように
木製のカウンターがあり、マスターと思われる人物が1人立っていた。 
「よう。君達よく来たね。ようこそ、バーボンハウス“旅人の酒場”へ。 
このジュースはサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。 
殺伐としたこのプログラムの中で、助け合いとか、憩いとか、
そういう気持ちを忘れないで欲しい。」 
マスターがジュースの入ったジョッキを差し出して、親しげに話しかけてきた。 
「食い物に酒に…情報まで。なんでもある。こっちへおいで。
じゃあ、注文を聞こうか。」 
コナンが言っていたのはズバリその通りだった。 
僕とコナンは、カウンターに腰掛けた。それと同時に、コナンが口を開く。 
「情報を下さい。」 
「情報か、ちょっと待ってくれ。…ほら、この中から聞きたい事を探しな。」 
そう言って、マスターが一枚の紙を僕とコナンの前に差し出した。 
[情報リスト]─── 
◎この島について 
◎この島のクリア条件について 
◎バーボンハウスについて 
◎お助け 
◎やっぱりいいです。 
─── 

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「ねぇ、一応全部聞いておこうよ。」 
「そうだね…。マスター、ここに書かれてる事を上から全部教えて下さい。」 
僕の提案に答えながら、コナンはマスターに言った。 
マスターはコホン、と咳払いをして一息ついてから話出した。 
「OK。まずは、この島について話そうか。 
看板を見たと思うが、ここは『オアシスの島』さ。今じゃこの通り、
すっかり寂れた街だけどね。 
街が寂れたのは、この島の『北』にある、『涸れたオアシス』が原因なんだ。
今じゃこの街に暮らしているのは、僕だけさ。」 
マスターは溜め息を一つ吐いた。 
「そして次に、この島のクリア条件は…」 
「ちょっと待って!」 
話を続けようとするマスターを、コナンが止める。 
「クリア条件って、なんの事ですか?扉を開けば次の島に進めるんじゃ
無いんですか?」 
そういえばそうだ。僕らは前の島から扉を抜けて来た。
ここでも同じじゃないのかな? 
僕の頭が結論を出すよりはやく、マスターが答えた。 
「焦らない事は、旅をする中で大切さ。説明しよう。 
このプログラム内には沢山の島が有って、そのそれぞれにクリア条件というものが
定められているんだよ。」 

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「そして、この『オアシスの島』のクリア条件、詳しくは言えないけど
それは『涸れたオアシス』に行けばわかるかもしれないね。」 
僕は、目の前に置かれたジョッキに口をつけた。コナンはマスターの話に
聞き入っているみたいだ。 
マスターの話はまだ続く。 
「次は、バーボンハウスについての説明だね。 
バーボンハウスは、ほとんどの島にあるよ。まぁ無い島もあるけどね。 
ここじゃあ僕のようなバーボンのマスターから情報を貰ったり、
旅人(参加者)同士の情報交換だって出来るんだ。 
あと、この施設の中では一切のポケモンバトルは不可能だから、
突然襲われる心配は無いよ。ポケモンの攻撃も一切受け付けないんだ。
安全地帯ってところだね。 
そして、島によってはポケモンの回復だって出来るし、アイテムの調達や
宿泊も可能だよ。 
ちなみに、ここでは宿泊と回復は出来ないよ。心配しないでも、この街は
空き家ばかりだから好きな家を使うといいし、ジョーイはいないけど
セルフのポケモンセンターもある。どっちの施設も無料で使えるんだ。 
そしてこれが…」 
マスターは後ろを振り返り、グラスの並べられた棚からある物を取り出して
僕たちの前に置いた。 

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「これは…」 
差し出された2つを受け取ったコナンはそれをしげしげと眺める。 
「アイテムカード『しんぴのしずく』、それとこれはコンパスさ。」 
マスターがそのアイテムカードを指差して言った。 
「これが、お助けだよ。これ以上詳しく説明は出来ないけどね。
それと、このコンパスはオアシスを探す時に使うといいよ。」 
「ありがとうございます」 
「ありがとうございます」 
僕たちは同時に言って顔を見合わせ、何故かおかしくて、少し笑った。 
プログラムが始まってから、初めて笑った気がした。 

「君達、今からオアシスを探すのは無理だろうから、適当な空き家を探して
泊まるといいよ。」 
あれから少しの時間を気楽に過ごした。 
中身を飲み干された空のグラスを片付けながらマスターが言う。 
「はい、そうします。」 
コナンがそう答えている時、僕は外をちらりと見た。辺りは薄暗くなって来ていた。 
しっかりと夜もあるんだなぁ、と思ったとき。 
突然、店の入口がギィと音をたてて開き、1人の女の子が入ってきた。 
「こんばんはー。」 


プログラム1日目 
[残り198名・99ペア] 

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オアシスの島・とある空き家 

「疲れた…」 
僕は、広い部屋に三つ並んだベッドの、一番右端のベッドに崩れるように倒れこんだ。 
マットの柔らかい感触が、長い一日の疲れをとってくれる気がする。 
一階から階段を上がってくる音がして、部屋のドアが開いた。 
「まだ寝たらダメだよ。ナナさんと明日からの事について
話さなきゃいけないんだからさ。」 
そう言いながら部屋に入ってきたコナンは、僕の隣りのベッドにリュックを置いて、
中からナビフォンだけを取り出して足早に部屋を出ていった。 

そうか、もう忘れてたや。ナナと相談して、明日の行動を決めるんだっけ。 


僕たちがバーボンに居たときに現れた少女、ナナ。 
彼女はパートナーと訳有りで離れてしまったらしく、今日は一度1人でオアシスを
目指してみたものの、途中で引き返してきた、との事だ。 
そんなナナと僕たちは、バーボンで少しばかり自分たちのことについて語り、
今日は3人でこの空き家に宿泊する事になった。 

反対の窓際のベッドに目をやる。ナナの荷物が置かれている。 
一階から、僕を呼ぶ2人の声がした。 

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一階のソファに、僕たちは腰掛けた。 
「さっそく本題なんだけどさ…」そう言って切り出したのは、ナナ。 
「この街を抜けて、しばらくは荒れ地が続いてた。私が途中で引き返して来たのには、
理由がある。ってまでは話したわよね。 
その理由っていうのは、野生のポケモンなの。」 
ナナは真剣な目で話す。 
「北へ進み続けてたら、段々と出て来るポケモンが強くなってきたの。 
無駄にてこずるのは良いと思えなかったし、一旦街へ戻る事にしたのよ。」 
「その時に、僕たちと会ったんだね?」 
コナンが聞くと、ナナはすぐに頷いた。 
「じゃあ、僕たちはどうやってオアシスに行くの?」 
僕の疑問にも、ナナはすぐに答えた。 
「なるべく明日一日を使って、街の周辺でポケモンを鍛えてからオアシスに
向かったほうが良いと思う。」 
ナナの言葉を聞いて、コナンが言った。 
「じゃあ、明日は戦力強化に集中。んで、明後日からオアシスを探す。
でオッケー?」 
僕とナナは静かに同意した。 

それから食事をとり、それぞれ風呂に入って。 


プログラム1日目が、終わった。 

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プログラム2日目 

ナビフォンの時計が正午を知らせる頃、のび太とコナンは無人の
ポケモンセンターに入った。 
何台も並ぶポケモンを回復させる機械にそれぞれボールを置く。 
30秒程で回復が完了した。 

2人はポケモンセンターを出た。 
のび太もコナンも、手にはそれぞれ2つのボールを持っている。 
「疲れたね、さすがに。」のび太がポツリと呟く。 

2人は昨日ナナと相談した通り、街の周辺の荒野で野生のポケモンと戦い、
経験を積んでいた。 
その過程で2人は「2人とも炎ポケモンでは相性の悪いポケモンに勝てない」と
いうことに気付いた。 
その為、今日のうちにそれぞれ新たなポケモンを捕まえる事にしていたのだ。 

「疲れたけど、僕はサボネアを捕まえたし、のび太もナックラー捕まえたじゃん。
疲れた分の収獲はあったでしょ?」 
コナンが自身のボールを腰のベルトに装備して言った。 
のび太はまぁね、と返しながらナビフォンを見つめる。 
「みんな…大丈夫かな?」 
プログラムが始まってまだ2日目とはいえ、のび太は早くも別れた仲間たちの
安否が不安なようだ。 

そして、その不安は後に…… 


プログラム2日目 
[残り198名・99ペア] 

----

──最初の島『???』 




嫌だ。 



怖い。 


死にたくない。 

僕は 

僕は、ただポケモンがしたかっただけなんだ。 
こんな、こんな怖いゲームをしに来たんじゃない。 
ただ、楽しく遊びたかっただけなんだ。 

----

―静かな風に揺られ、背中をもたれかけていた木が揺れた。 

反射的に後ろを振り返る。 

─誰も居ない。 
誰も。 

そうだ。 
誰も、居なくなればいいんだ。 

みんな、 


みんなゲームに負ければいいんだ。 


それでも、減らないなら。 


みんな、殺しちゃえばいい。 

僕は、生き残る。 


現実に、帰るんだ。 

みんな 

みンなヤッチマエ─ 

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ゆらり、夜の森に一つの人影が浮かび上がった。 

影は、静かな足音をたてて深い森に消えて行く。 
影の正体は、どんな表情をしているのだろうか。 


―闇を産むのは、光だけではない。 
闇もまた、闇を産む。 
恐怖・憎悪・悲哀…… 
深く、暗い、底なし沼のような、闇。 
一度、その沼に足を踏み入れたなら、ソレを抜け出すのは容易ではない。 
その闇という幻影に喰われてしまえば、死をもってしても─ 


※※※ 
──オアシスの島。 

参加者は、プログラム3日目の朝を迎えた。 

のび太達3人は、神妙な顔であの家のリビングに居た。 
その重い雰囲気の理由は、ナビフォンが知らせたプログラムの進行状況。 

「やっぱり、ヤル気のあるヤツがいるんだよ…」 
ナナが、恐怖を含んだ声で言う。 
のび太とコナンは静かに首を縦に振った。 

それから出発の支度を済ませ、3人は二泊した空き家を出る。もちろん、辺りに充分な注意を払いながら。 
目指すは、荒れ地を進んで北にある『涸れたオアシス』。 

プログラム3日目 
【残り176名・88ペア】 

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《ナビフォンのメール内容》 
プログラム二日目脱落者リスト 
NO.12ララ・NO.112クリス 
NO.19シルク・NO.119ラン 
NO.25キヨ・NO125リエル 
NO.32スタン・NO.132ラペット 
NO.40キロ・NO.140グラム 
NO.51コヨミ・NO.151デン 
NO.53ナッツ・NO.153バータ 
NO.69ヒサシ・NO.169トシヤ 
NO.83ジンヤ・NO.183リョウ 
NO.88エミ・NO.188アユミ 
NO.90メリー・NO.190アヤノ 
NO.95コント 
NO.199クザ 

※1人だけが生き残っているペアもペアとしてカウントされます。 

[[次へ>扉。 その4]]

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痛い程に鋭く照り付ける太陽の下を、のび太達3人は
『涸れたオアシス』を目指し歩き続けていた。 


暑い…… 
もう、かれこれ5時間は歩きっ放しだ。 
周りの風景を見ても、どこまでも岩、砂、山……正直、進んでいる実感がない。 

「ねぇ~…ちょっと休まない?」 
カラカラに乾いてしまった喉元から、なんとも気の抜けた声が出てしまう。 
僕の声に、数メートル先を歩き続けていたコナンとナナが足を止めて振り返った。 
「もう…先を急がなきゃなんないでしょ?休んでる場合じゃないよ。」 
額を流れる汗を拭いながら、コナンは手厳しく返す。 
「そんなぁ…」 
がっくりと肩を落とす僕を見兼ねたのか、ナナが僕の元に歩み寄ってきた。 
「まぁ…このまま疲れた状態が続いたら、いざという時大変だろうし…どこか、身を隠せそうな所で一旦休憩にしようか? 
そうしよう?コナン君。」 
「うーん…仕方ないなぁ。じゃあ、休めそうな場所を探そう。」 
コナンも多数決に折れ、休憩出来そうな岩場を探す事になった。 
「よかったね、のび太君。」 
ナナがポン、と僕の肩を叩きながら言った。 

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あれから10分程進んだ所に、ナナがちょうどいい岩場を見つけた。 
3人で横に並んで腰を下ろす。 
「こうやって見ると…結構な距離歩いたねぇ。」 
僕の隣りで、ナナがふと言った。 
この岩場は少し高台にあり、今まで歩いてきた道が見渡せる。目を凝らしてみたけれど、バーボンのあった街は今はもう見えない。 
「本当だ。沢山歩いたね……あとどれくらい歩かなきゃいけないのかなぁ?」 
ナナは、僕の質問にさぁ?とだけ言って首を傾げる仕草をした。 

バーボンで手に入れたサンドイッチを食べて、僕らは一時間程の休憩を終えて出発した。 
ナナが言っていたように、出て来るポケモンも段々強くなってきている。 

「ふぅ…オアシスに近付いてるって見て良さそうだな。」 
野生のサンドを倒したコナンがそう言うと、ナナも頷いた。 
「そうだね……もう、そう遠くないと思うんだけど、
今日はこのへんで野宿したほうが良いね。」 
ナナやコナンが言うには、こんな砂漠や荒れ地は昼と夜の気温差が激しくなるみたいで、暖を取ったほうがいいらしい(難しくてあまり理解出来なかったけど)。 

この2人が一緒なら、どんな時にも頼れる。この時のび太はそう言う感じていた。 

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夜・オアシスの島『旅人の酒場』 


のび太達が荒野を進んでいた頃、酒場には二つの人影があった。 
2人は木製のイスに腰を下ろし、黙りこくったままだ。酒場の中にはマスターがグラスを片付けるカチャカチャという音だけが響いている。 


『アイツ』は一体なんだったんだ…… 
頭の中から、昼に見た光景が離れていかない。 
あの目はヤバい…完全にヤル気だった…… 
自分達が助かったのは、ただあの時たまたま『アイツ』にとって別の『標的』があったからで、もしかしたら俺達が標的になっていたのかもしれない…… 

そう思うと、背中に急に寒気が走った。 

「なぁ?」 
俺はたまらず向かいに座っているパートナーに話しかけた。 
「…ん?」 
俺の呼び掛けに答えて、パートナーは顔を上げる。 
「アレ…見ただろ?」 
「あぁ…見た。」 
「アイツは絶対ヤバい…俺達2人が戦ったって結末は見えてる。」 
「……」 

2人の間に、短い静寂が流れた。 

「このまま…アイツを放って置けば、いたずらに犠牲者が増える。 
だから…仲間を探さないか?共に戦い、協力して謎を解くんだ。」 

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俺の提案に、パートナーは冷静に返してきた。 
「仲間はどうやって探すんだよ?」 
「俺のダチは信頼出来る。んで、お前のダチはどうだ?」 
「大丈夫だと思うけどよ…」 
「よし、それなら10人は堅いな。登録するためにアイツ等に会わないと…」 

信頼出来るダチがいる。それは、ここでもこんなに心強いものなんだと改めて感じた。 
「俺の友達には頭良い奴が2人いるからよ、絶対どうにかなるぜ!」 
パートナーが少し興奮したように言った。 

そうだ。絶対どうにかなる。俺達は今まで何度だってどうにかしてきたんだ。 
今度だってどうにかなる。 

「よっしゃ!とりあえず今日は寝ようぜ。明日からだ、明日から。」 

きっとどうにかしてみせる。 
俺は、ガキ大将なんだから。 
「お前と一緒でよかったぜ、ジャイアン。」 
ゲンタが小さくそう言ったのを、俺は聞こえていないふりをした。 


深夜0時、多くの参加者に衝撃を与えるメールが配信される。 

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《ナビフォンのメール内容》 
プログラム3日目脱落者リスト 
NO.15ユキ・NO.115モモ 
NO.29シム・NO.129コウ 
NO.65マリナ・NO.165マキ 
NO.66シンジ・NO.166レイ 
NO.84ジャン・NO.184グスタフ 

※注意事項※ 
◎プログラム5日目に入ると同時に、一番始めに到着した島は消滅します。 
その時点で島に残っている参加者は、ゲームオーバーになるので気をつけて下さい。 


【残り166名・83ペア】 

[[前へ>扉。 その4]]

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