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ドラーモン作大長編 その10 - (2007/06/03 (日) 16:58:56) のソース

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陸の洞窟。
アスナは日照りの強い地域をしらみつぶしに散策し、ようやくこの洞窟を発見した。

最奥では赤い体色の巨大なポケモンが眠るように立ちすくんでいる。
その鼓動はこの距離からでもアスナに無言の威圧をかけているかのようだ。
「炎ポケモン使いなら一度はゲットしてみたい伝説の炎ポケモン……」
これが送り火山の伝説にあった大陸ポケモン、グラードン。
確実に命中する距離まで近付き、アスナが手に持っているマスターボールを投げようとしたその時。
「誰!」
グラードンの足元で何かが動いた。
「やはり来よったか」
暗闇から現れたのは一人の老人。
その熟練した動きはアスナの投げる動作を牽制している。
「お前さんたちの自由にさせるわけにはいかんのでの。バトルフロンティアでのリベンジをさせてもらおう」
このままではグラードンを捕獲できない。
「ちっ、ジジィ、後悔するよ」
「爺ではない、私の名はウコンだ」
ウコンは杖を振りかざす。
「ウインディよ!」
ウコンが出したのはウインディ。
「あたしと炎ポケモンでやり合おってのかい?上等だよ」

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ウインディに対しアスナはバクーダで応戦する。
「しんそくじゃ!」
ウインディが凄まじい速度で先制攻撃をかける。
「バクーダ、じしんで粉砕しな!」
アスナは命令するが、バクーダは動かない。
「どうした、早くやるんだよ!」
「無茶を言うな、そのポケモンは怯んでおる」
ウコンの言うとおり、バクーダは怯んで動けないようだ。
『くっ、なぜしんそくで怯むの?』
アスナはウコンのポケモンに不気味さを感じ、再び地震で攻撃する。
しかし、それは守るによって無効化されてしまう。
「ふぉふぉ、お前さんのバクーダは何をしてるんじゃ?」
『このジジィ、強い……』
「もう一回じし…」
「そろそろ退場してもらおう、ほえろウインディ!」
ウインディが吠えると、バクーダはボールに戻ってしまった。
「ちっ、戦いにくいったらありゃしない!」
アスナは代わりにマグカルゴを繰り出した。
「まぁこいつでも勝利はかたいさ、いわなだれ!」
「すまんな、まもらせてもらう」
ウインディに岩が直撃するが、ダメージがない。
アスナは舌打ちした。
『吠えて1ターン稼いで守るの成功率を上げたのか』
「久々にポケモンにめいれいするんでな、ふぉふぉふぉ」
ウコンは相変わらず笑っている。

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「しかし次は防げないよ、いわなだれ!」
「それは痛いからの、交替じゃ」
ウインディが下がり、代わりに現れたのはケッキングだ。
岩雪崩が当たるが、さほどのダメージにはなっていない。
『ケッキングだって!これは本気になったウコンの手持ちね……』
となると、三匹目はアスナと最も相性の悪いあの水ポケモンのはずだ。
「ケッキング、じしん!」
ケッキングの地震攻撃がマグカルゴに直撃し、一撃でその体力をゼロにする。
「ま、まずいわね……」
再びバクーダを繰り出したアスナ。
ケッキングは生来の怠けグセで2ターンに一回しか動けない。
「じしんを食らいな!」
ケッキングに地震がヒットする。
しかしケッキングはまだ沈まない。
『どういうこと?』
岩雪崩と地震の累積ダメージはケッキングといえども耐えきれないはずだ。
その様子を見てウコンの目がさらに細く、鋭くなる。
「アスナとやら、力に溺れてバトルへの集中力を失っているようじゃな」
敵であるウコンに指摘され、神経を研ぎ澄ませるアスナ。
その目がケッキングに付けられている鈴を発見した。
「か、貝殻の鈴……」
「わかったところでもう遅い」
ケッキングの地震がバクーダを直撃した。

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貝殻の鈴の効果で再びケッキングの体力が回復する。
「まさか貝殻の鈴、とはね」
「いつもはピントレンズなんじゃが、今回は負けられない戦いでのう」
先のウインディもおそらく王者の印を持たせていたのだろう。
『けど、タネがわかっても不利なことには変わりないわ』
次にアスナが出したのはバクフーン。
しかしウコンは回復の薬でケッキングを完全回復させてしまった。
「このケッキングを一撃で落とせるポケモンを私は持っていない……」
アスナは敗北を予感した。
しかし敗北を悟ったその時、アスナの頭に逆転勝利できる手段が思い浮かんだ。
「バクフーン、えんまく!」
バクフーンから黒い煙が吹き出す。
「ほう、命中率を下げようというのか。しかし一度の煙幕くらいでどうにかなるとは思えんが……」
そういうウコンの後ろで、不意に気流が乱れた。
思わず振り向いたウコンは、「そこにいたはずの」グラードンが消失しているのを目の当たりにする。
そしてグラードンがいたはずの場所にはマスターボールが転がっていた。
「し、しまった……」
マスターボールは煙幕の中から現れたアスナの手に戻る。
「ふふふ、ごめんなさいね」

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「ぬぬ、まさかバトル中にグラードンをゲットされてしまうとは……」
ウコンは自分のミスを呪ったが、とりあえず戦うしかない。
ケッキングの地震がバクフーンを戦闘不能にする。
「じゃあ、グラードンのデビュー戦をしましょうか」
アスナが投げたボールから現れるグラードン。
覚醒したグラードンが現れると、一気に洞窟の気温が上昇していく。
「これがグラードンのひでり……」
周囲の天候すら変えてしまうその力にウコンも焦りを隠せない。
「だが、ワシの最後の切り札で倒してみせる。いけ!」
ウコンが繰り出したのは青く輝く四つ足の獣。
その美しい姿からオーロラポケモンと呼ばれる、伝説のポケモン・スイクンだ。
「なみのりを食らえ!」
スイクンの周囲から水が湧きだし、津波となってグラードンに襲い掛かる。
しかしその体力の高さに阻まれ、倒す迄には至らない。
「あら、まずいわね。じゃあ満タンの薬を使うわ」
アスナはグラードンの体力を回復させる。
「何度でも、何度でもなみのりをお見舞いしてやるわ!」
ウコンも一歩も引かない。
その様子を見て、アスナはにやりと笑った。

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14回目の波乗りがヒットし、グラードンの巨体が揺らぐ。
しかしその体力はアスナの薬で回復されてしまう。
「まだまだ……もう、一回…波、のりを……」
ウコンの体がふらふらと傾く。
再び波乗りがグラードンを襲うが、やはりアスナの道具がグラードンを回復させてしまう。
ウコンの目が霞む。
「はははっ、じいさんもうダウン寸前じゃないか?」
洞窟内はグラードンの日照り、そして蒸発した波乗りの水蒸気でサウナ状態になっている。
温泉街育ちで耐性のついているアスナに対し、老いたウコンはすでに体力の限界を越えていた。
うすれゆく意識の中、ウコンはフロンティアブレーンの誇りを思い出し、最後の力をこめる。
「負けん、ワシは負けるわけにはいかんのじゃ……なみのりっ!」
しかしウコンの決死の思いも虚しく、スイクンは動かない。
「な、なぜ、じゃ……」
アスナがゲラゲラと笑う。
「じいさん、もうろくしたな。もう波乗りは15回使っちまったよ」
「ぐ、まさかワシが……そんなミスを……」
まだスイクンには吹雪がある、だがそれでも波乗りと同じ結果だ。
「くそ……勝てんかったか、ダツラ……ヒース、お主らに武運を……」
ウコンはゆっくりと崩れ落ちた。

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海の洞窟。
イズミは最奥にいた伝説のポケモン「カイオーガ」を捕獲し、意気揚揚と帰るところだった。
「あのアオギリがアクア団を組織してまで追い求めたポケモンが、まさか私の物になるとはね」
アオギリの心酔ぶりも分からないでもない。
カイオーガにはそれだけの力があるのだから……

「おっと、俺様の前でタダで帰ることはできねえぜ」
前方の岩影から現れたのは一人の男。
「あんた、誰よ」
イズミも突然の遭遇に呆れ返る。
「俺はファクトリーヘッドのダツラだ」
ファクトリーヘッド……確かバトルフロンティアのブレーンに与えられる称号だ。
「バトルフロンティアは出木杉様によって壊滅したはず。再就職先でも探してるのかしら?」
挑発するイズミにもダツラは微動だにしない。
「イズミ、だったな。アクア団より極悪な事に手を染めやがって……」
「あなたに出木杉様の素晴らしさなどわかるはずもありませんわ」
双方の話は噛み合う事無く平行線だ。
ダツラはボールを手に構える。
「フロンティアブレーン相手にカイオーガの使い勝手でも試してみましょうか」
イズミはカイオーガとキングドラを繰り出した。
「ダブルバトルか、おもしろい!」
ダツラも二つのボールを投げた。
現れたのはライチュウとライボルト。
レンタルポケモンを大量に抱えるバトルファクトリーのヘッドらしく、ダツラはかなりのポケモンコレクターでもある。

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「カイオーガ対策は万全、ということなのかしら」
イズミは全く動じていない。
『ファクトリーから持ち出せたのはレベル50のものだけだが、勝てない相手ではないはずだ』
ライチュウの10万ボルトがカイオーガを襲う。
「カイオーガ、ねむりなさい」
カイオーガは目を閉じ、体力を回復させる。
「カイオーガのしおふきは脅威、ならば先に倒すしかない!」
続けてライボルトもスパークで攻撃する。
「カイオーガばかり狙ってくるなんて、あなたえげつないわね」
カイオーガはカゴの実を食べて目を覚まし、イズミは回復の薬を使う。
「このまま押し切る!」
ダツラのライチュウが再び10万ボルトでカイオーガを攻撃する。
『これでライボルトのスパークさえ当たれば!』
しかし、そのスパークより先にイズミが叫ぶ。
「カイオーガ、めいそう!」
特防が上がり、スパークを受けても耐えきったカイオーガ。
イズミはキングドラの命令ターンを回復の薬の使用に充てたのだ。
ダツラが歯噛みする。
「ちっ、ダブルバトルじゃなけりゃ……」
「シングルじゃ勝機はゼロでしょうに」
確かにそうだ。
イズミはまた回復の薬を使っている。
このままでは回復と瞑想を繰り返されて敗北してしまうのは明らかだ。
『もう一匹をやるか!』
ダツラはキングドラをターゲットに定めた。

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「ライチュウ、10まんぼ…」
「かげぶんしん!」
ライチュウより先にキングドラが動き、影分身でライチュウの攻撃をかわしてしまった。
キングドラはすいすいの効果で素早さが上がっているのだ。
スパークは命中するものの、倒すまでには程遠い。
巧妙に回復を繰り返しながら回避と特防を上げていくイズミ。
すでにダツラのポケモンでは手に負えない事態になっていた。
「俺の負けのようだな」
「あんたが馬鹿だからね」
ダツラが首を傾げる。
水ポケモン対策もしてきた、戦術にもこれといって間違いはないはずだった。
分かっていないダツラにイズミがトドメを刺す。
「その場限りの借り物のポケモンばかり使ってるから、敵の技のデータすら覚えようとしないのよ、アンタは」
そう、カイオーガは捕獲したばかりではレベルが足りず、潮吹きは使えない。
ダツラは基本的な間違いを犯していたのだ。
「そうだ、確かに潮吹きは使えない……しかしそれなら瞑想も使えないはずでは」
イズミが部屋の奥を指差す。
そこには小太りの男が顔面を腫らして気絶していた。
「あれは、技おしえマニア……」
「グラードンを捕獲しにいった奴から連絡があってね。アンタが襲ってくることはお見通しだったのさ」

すべてを見抜かれていた。

ダツラががっくりと肩を落とす。

----

「俺の負けだ、ここは退くしかないな」
後退りするダツラにイズミが言い放つ。
「だからアンタは馬鹿だっていうのよ、私が危険因子を黙って見逃すとでもいうの?」
イズミの合図と共にカイオーガの鼻先が光り輝く。
「な、なにを……」
「ぜったいれいど!」
カイオーガから放たれた冷気の奔流がダツラを襲い、その体を瞬時に凍らせる。
「絶対零度は瀕死技、だけどそんな状態で何時間もいれば瀕死ではすまないわね」
イズミはカイオーガとキングドラをボールに収めると、悠々と去っていった。


「ん……」
ダツラは意識を取り戻した。
体はまだ自由には動かないが、生きているようだ。
自分は絶対零度を受け、凍らされてしまった。
『なぜ、俺は生きている……』
その時、体に生暖かい物を感じた。
「あ、意識が戻ったみたいですね」
その声を発した主を見てダツラは絶句した。
豊富な脂肪を持つ技おしえマニアが全裸でダツラの体を暖めていたのだ。
「あのまま、死なせてくれればよかったのに……」
体の自由が利かないまま、ダツラの生き地獄は続くのであった。

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121番道路。
スネ夫はルネジムに挑戦する前に、戦力アップのためにサファリゾーンに向かっていた。
「出木杉がクリアフラグを立てたとしたら、おそらくあそこも拡張工事が終わってるはずだ」
サファリゾーンには殿堂入り後に現れる新たなゾーンがあり、そこではホウエン以外のポケモンを捕獲できる。
「ツボツボあたりをゲットできれば助かるんだけど……」
ツボツボの防御力は状態異常を使う自分と相性がいい。

その時。

スネ夫の体が影で隠れる。
上を向くと、白と赤の二色で彩られた大きな姿がこちらを見ていた。
「あ、ああああれあれあれは!」
スネ夫はあわててモンスターボールを投げた。
現れたのはクロバット。
「そうか、クリアフラグが立ったということはコイツも現れるんだ!」
黒い眼差しを忘れてしまったことが恨めしい。
「かみつくんだ!」
クロバットに噛み付かれて苦しがる紅白のポケモン。
それはクロバットを振り払うと、再び空へと消えていった。
スネ夫はその興奮にポケモンをボールに戻すことすら忘れて立ち尽くしている。
「そうか、あのポケモンだけは出木杉も容易にはゲットできないんだ」
あれこそが出木杉に対抗できる可能性がある唯一のポケモンかもしれない。
「もしかしたら今のポケモン……ラティアスだけでなく、ラティオスも飛び回ってるかもしれない」
スネ夫は一縷の希望が見えたことに胸を躍らせていた。

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空の柱。
レックウザを捕らえるためにここへとやってきたナギ。
しかしレックウザのいる最上階手前には妙な格好をした優男が立ちふさがっていた。
「貴女をレックウザの元に行かせるわけにはまいりません。元ヒワマキジムリーダー、ナギさん」
「ここはカーニバル会場じゃなくてよ」
確かに目の前の男の姿はあまりにもこの場に似付かわしくない派手な姿だ。
羽飾りもかなり痛々しい。
しかしその珍妙男は恥じる事無く自己紹介をはじめた。
「ボクはフロンティアブレーンの一人、ドームスーパースターのヒースと申します」
フロンティアブレーン。
実力はジムリーダーをも凌ぐというポケモンバトルのプロフェッショナルだ。
「そ、そうは見えないわね」
「天空の神と交信しなくなった貴女には、私についている神の姿も見えないんでしょうね」
「天空の神……そんなものもいたわね」
ヒースのその言葉に動揺するも、ナギは引こうとはしない。
「神に愛された男であるこのヒースに貴女は絶対に勝てません……」
「あなたと一緒にその恥知らずな神様も倒してあげるわ」
ナギはチルタリスのボールを放った。

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ヒースが繰り出したのはラグラージ。
「厄介なポケモンを持ってるわね」
ナギが呟くのも無理はない。
ラグラージは弱点が少なく有効打を与えにくいポケモンである。
しかしその主力攻撃は地震、水攻撃に注意していればさほどの敵ではない。
「ゴッドバード!」
チルタリスの全身に力がみなぎっていく。
しかし、その攻撃が炸裂することはなかった。
「ラグラージ、れいとうビームを放て!」
ラグラージから発射された冷気のビームが一瞬にしてチルタリスの体力を奪う。
いくら高レベルチルタリスでも、氷攻撃の前にはひとたまりもない。
「神の声が聞こえていれば、ラグラージの氷技も分かっていたかもしれないね」
「そ、そんな……」
ヒースのキザな物言いにムカつくよりも、自分の勝負勘がにぶっていることに愕然とするナギ。
力に溺れるあまり、強引な戦術を使ってしまっているのだろうか?
『そんなことはない、私は以前より強くなったはずよ』
ナギは続けてエアームドを繰り出した。
「かげぶんしん!」
エアームドが何体かに分身する。
「しかし、神に愛されているボクには効果はない!」
分身したにも関わらず、ラグラージの波乗りがエアームドに直撃する。
「う、運がよかったようね」
ナギの言葉にヒースは悲しい顔をする。
「これを運だと思っている時点で貴女に勝ち目はないよ」

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ヒースに馬鹿にされたように感じナギは怒りを顕にする。
「エアームド、もう一度かげぶんしん!」
さらに残像が増え、エアームドの本体はどこにいるかわからない。
ラグラージの波乗りも外れてしまった。
「あなたの神様が昼寝している間に、もう一回積ませてもらうわ」
三回目の影分身を行なうエアームド。
ラグラージは攻撃を当てることもできず、ドリルくちばしを連続で受けて戦闘不能になってしまった。
ヒースは無言でラグラージをボールに戻す。
「やはり神を断った貴女のバトルは美しくない。早く終わらせましょう」
現れたのはリザードン。
「華麗にオーバーヒートです!」
リザードンからすさまじい熱波が撃ち出される。
「そんな命中率の低い技が当たると思っているの!」
ナギの言葉にヒースはくるくると回転する。
「ボクはここで攻撃を当てる!それがスーパースターというものさ!」
ヒースの叫びどおり、オーバーヒートがエアームドにヒットし、撃墜する。
「やはり貴女は神に見離されているんだ!」
ヒースの奇妙な動きはさらに速さを増していく。
「あんなナルシスト男に……私が負ける……」
ナギは膝をついた。

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「さあ、次のポケモンを出したまえ」
ナギの手持ちはあと2体。
そのうち1体は秘伝要員で戦闘力はゼロ。
『神よ、この状況で私に勝利の秘策をお教えください!』
ナギはあの日以降怠っていた毎日の儀式に身を委ねた。
しかしその返事は返ってこない。
『やはり私は……神に見離された……』
ナギに残されたのはただひとつのモンスターボール。
出木杉から貸し与えられたリザードンだけだ。
「私には、これしか残っていない……」
ナギは力なくボールを宙に投げた。

そこに現れたのはまばゆく輝く神の化身。
七色に輝く羽がはばたく度に虹のような光が放たれている。

「まさか……ホウオウ!」
敵であるヒースも自分以上の美しい姿に思わず見とれてしまう。
「なんで、ホウオウが……」
そういえば旅立ちの直前に出木杉が意味深に笑っていた。
あの時にはもうボールはホウオウにすり替えられていたのだろう。
「出木杉様……私などのために……」
ナギはすでに神など信じていなかった。
信じられるのはこのホウオウの持ち主であるあの方のみ。
ナギは勝ち誇ったようにヒースを見下す。
「そのチンケな劣化ホウオウで本物に勝てるかしら?」

----

ヒースは立ち直ったナギの顔に迷いが消えているのを感じた。
『神への祈りが通じたとでもいうのか?』
「しかし互いに炎ポケモン同士、ダメージを与えるのは易しくないぞ!」
ヒースの言葉にナギが呆れたように答えた。
「その程度のポケモンと同列にしないでほしいわ。げんしのちから!」
「そ、そうか!しまったぁぁっ!」
ヒースの後悔もすでに遅く、ホウオウのすさまじい怪力がリザードンを襲う。
岩技である原始の力はリザードンの最大の弱点。
その攻撃に耐えられるはずもなく一撃でやられてしまった。
「あははは、ホウオウがさらに力を増したわ!」
ホウオウのオーラがさらに強くなっている。
原始の力の能力上昇効果だ。
「くそ、最後に残されたのはこの一体のみ!」
ヒースが投げたボールから現れたのはメダグロス。
何人もの挑戦者を退けたヒースの切り札である。
「神よ、私に力を与えたま……」
ヒースの言葉はここで止まった。
目の前のホウオウが七色の炎を吐き出したからだ。
「う、うつく…しい……」
聖なる炎の洗礼を受け、ヒースとメダグロスは光の中に消えていった。

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「ふう、終わったわね」
ナギの足元にはキモイ服装のところどころが焼け焦げたヒースが倒れている。
「貴女は…神と話せたのか……」
そう問い掛けるヒースの顔面を踏み付けるナギ。
「いぎっ!顔は、顔はやめろ!」
「神なんていないわ。私を救ったのは私の主人、神ではない」
ナギはヒースの背中に付いている羽飾りを乱暴に引きちぎる。
「や、やめてくれっ!羽がないと、羽がないと……」
「羽をもがれたスーパースターがどんな様で帰るのか見物ね」

ただのタイツ男にされてしまったヒースを放置し、ナギは空の柱の最上階に向かう。
そこには緑色の巨体がとぐろを巻いて横たわっている。
ナギはその緑の塊…レックウザにマスターボールを投げた。
「ふふふ、これで我々の戦力は完璧。誰であろうと出木杉様に手を出すことはできないわ」
レックウザの収められたボールを握りながら冷たく笑うナギ。
その心はすでに出木杉のほうしか向いていない……

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しばらく後。

「ヒース、無事か!」
ナギとの戦いの跡地に現れたのはジンダイ。
ヒースは塔の壁にその体を横たえていた。
ジンダイはヒースの無残な姿を見て目論みが失敗したことを感じた。
「やはり、勝てなかったか」
「その口振りからすると、ダツラやウコン爺も勝てなかったんですね」
ヒースの問いに無言で答えるジンダイ。
ヒースは塔の天井を見上げ、ぽつりと呟いた。
「あーあ、フロンティアブレーンもこれじゃ形無しですね。」
「ああ、我々は決められたルール内で戦いすぎた。彼らのような相手を戦うのは難しいのかもしれん」
そういうジンダイの顔が暗い。
「ジンダイさん、どうしたんですか?」
ヒースに問われ、ジンダイが重い口を開く。
「私のポケモンが盗まれた……」
「盗まれた?どういうことでしょう」
ヒースが疑問に思うのも無理はない。
データ通信以外の手段で他人のポケモンを奪っても、それを扱うことはできない。
「盗まれたのはフリーザー、サンダー、ファイヤー。俺の切り札だ」
ジンダイは探検家、冒険家としても有名だ。
いくらかの幻といわれるポケモンも所持しているが、その中でも別格の3体だ。
「暗がりでしか確認できなかったが、盗んだのはそれは「2頭身で丸い頭を持つ奇妙な生物」だった」
ヒースは首を傾げる。パッチールだろうか?
二人にもそれが何なのかは分からなかった……

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キナギタウン。
再び集結したフロンティアブレーン達はウコンの病室にいた。
ダツラ、ヒースの怪我はそれほどでもなかったが、ウコンはまだ体を動かせるほどには回復していない。
「全員失敗か。我らの力も堕ちたものだ」
ウコンがベッドから体を起こす。
ヒースもダツラもただ悔しさを噛み締めるだけだ。
ジンダイがヒースとダツラにサイコソーダの缶を投げ、話し始める。
「我らの直面した問題はふたつ。まずはポケモンリーグ占拠事件」
デキスギという少年が不当な行為でポケモンリーグを占拠し、自らをチャンピオンとして部下(ツツジ、ナギ、イズミ、アスナ)を四天王に据えたこと。
彼らはホウエン地方に伝わる伝説のポケモンを入手し、その力を欲しいままにしている。
「バトルフロンティアも壊滅し、有望なトレーナー達はほとんど再起不能だ」
「リラ、アザミ、コゴミもな……」
ダツラが行き場のない怒りを壁にぶつける。
「しかし希望がないわけでもない。デキスギの元仲間だった少年達は力をつけてきているはず」
ジンダイの見つけたスネ夫という少年、彼とその仲間達ならこの事態をなんとかできるかもしれない。

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「彼らには我々が極力バックアップをしてやろうと思う」
全員が頷く。
自分達は戦いに敗北した、リベンジするよりは若い可能性に賭けてみるしかない。
ウコンが口を挟む。
「だがバックアップしようにも、もうひとつの問題が邪魔をしよった」
ジンダイが悔しそうに頷く。
「ウコン殿の言う通りだ。第2の問題、伝説のポケモンの窃盗事件だ」
ジンダイの3鳥が盗まれた事件。
これは犯人の目的もデキスギとの関連も分かっていない。
「そしてついさっき分かったことだが、ウコン殿のスイクンも盗まれている」
ウコンはアスナとの戦いのあと、ジンダイに助けられて気が付いたときにはスイクンのボールは失われていた。
「どうなってるんだ?」
ヒースも空の柱から帰ってくるまでにいろいろ考えてみたが、答えは見つからない。
「とにかく、何かが動いてるのは確かだ。ヒース、お前のラティアスは大丈夫か?」
ヒースは複雑な顔で答えた。
「今となってはよかったのか悪かったのかは分からないが、ラティアスは空の柱に向かう前に逃がしたよ」
ダツラが驚く。
「お前のお気に入りだったじゃねえか!」
「あのラティアスを捕獲できるほどのトレーナーが現れればもしや、と期待しちゃってね……」
さびしく笑いながら遠い目で窓の外を見るヒース。

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「とにかく、今の我らにできることをやるしかない」
ジンダイの言葉に皆が頷く。
「窃盗事件は私に任せてくれ、犯人の姿を見たのは私だけだからな」
ジンダイがそう言うと、ダツラはありったけのモンスターボールを抱えながら笑う。
「オレはキンセツに向かう。ファクトリーヘッドにしかできないことがあるからな」
「ボクはウコン爺が回復したらルネに向かうよ。その少年達に合流する」
ヒースが新しい羽飾りをひらひらさせる。
「では、何かあればポケナビで連絡を取り合おう」
ウコンの言葉を最後に、ジンダイとダツラはこの場を去り、ウコンは再びベッドに体を沈めた。
「ヒース」
「なんだい?」
ウコンは何かを言おうとしたが、その言葉を飲み込んだ。
「いや、なんでもない。ただ……」
ウコンは目を閉じながら呟く。

「決して油断するでないぞ。どんなときも、どんなときもじゃ」

「?」
その言葉の意味が分からず、ヒースは首を傾げた。

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127番水道。
ドラえもん、のび太、しずかの三人はポケモン達を鍛えながらルネに向け進んでいた。
のび太は結局ドラえもんのホエルオーに乗って移動していた。
「あーあ、僕もポケモンで波乗りしたいや」
「じゃあ君のスターミーに乗る?」
「……」
ヒトデマンからスターミーに進化させて少しは大型化したが、やはり乗り方は二択。
以前のような嘔吐や遭難はこりごりと、のび太も仕方なく諦めていた。
そのとき、先行してミロカロスで波乗りしているしずかから声がかかった。
「ん、どうしたんだろ……」
しずかの指差す先には怪しげなヒレが波を割いて泳いでいた。
「あれは、サメハダー?」
以前のび太が釣ろうとしても釣れなかったキバニアの進化系だ。
「ドラえもん、あれに乗りたい!」
「いや、のび太くん、あれはやめたほうが……」
そう忠告ドラえもんの声は全く聞こえていない。
『あーあ、あんなのに乗ったら鮫肌で傷だらけになっちゃうよ』
のび太はホエルオーの先端に立ってすでに戦闘準備万端だ。
「よし行け、ピー助!」
トロピウスが現れ、サメハダーの上空を旋回しはじめる。

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「のび太くん、ソーラービームは倒しちゃうから使っちゃダメだよ!」
ドラえもんのアドバイスが飛ぶ。
「そんなことわかってるよ。ピー助、そらをとんで攻撃だ!」
のび太の命令でピー助が天高く舞い上がる。
サメハダーは嫌な音を出すがトロピウスには聞こえていない。
十分な距離をとったトロピウスが急降下し、サメハダーに一撃を加える。
鮫肌と、返す刀で切り裂かれたダメージがあるが、トロピウスはまだまだ元気だ。
「のび太くん、今だ!」
「よし、いけ!ハイパーボール!」
のび太が渾身の力を込めて投げたボールは

サメハダーから遠く離れた右の空に飛んでいった……

「あれれ……」
ドラえもんは思わず顔を覆った。
のび太が野球が下手なことは分かっていたはずだ。
この距離での命中率はいいとこ40%だろう。
「あれっ?」
のび太の声が聞こえる。
恐る恐る顔を上げてみると、のび太は左下を見ている。
正面のサメハダーはすでに海面から姿を消していた。
ドラえもんものび太の視線を追うように左下の海面を覗き込む。
「え?どうして……」
そこには右の空に飛んでいったはずのハイパーボールが波間に浮かんでいた。

----

ハイパーボールを回収するのび太。
ドラえもん、そしてホエルオーに乗り移ったしずかも駆け寄ってきた。
「どういうこと?」
「私はサメハダーを見てたから……」
ドラえもんの問いにしずかは首を振る。
二人がのび太のほうを向くと、のび太は起こったことを語り始めた。
「ボールが跳ね返ったんだ。で、目の前を通って左側に……」
ドラえもんがハイパーボールを見てみると、中に何かが入っているようだ。
「ねえのび太くん、何か入ってるよ」
のび太は恐る恐るボールから「何か」を解放する。

紅白に彩られた大きなポケモンが現れた。

宙に浮くそのポケモンは不思議そうな顔をしてのび太を見つめている。
「あら、かわいい」
しずかが場違いな声を上げる。
「もしかして空を飛んでたコイツに偶然当たった……なんてことは……」
あるはずがない、と言おうとしたドラえもんは口をつぐんだ。
のび太はどちらかといえば不幸だが、時々とんでもない幸運を呼び込む事がある。
「ど、どうだい!こんなすごいの捕まえちゃった!」
ドラえもんは図鑑を調べる。
無限ポケモン、ラティアス。
どうやら人前に姿を現さないかなり珍しいポケモンのようだ。
「過程はどうあれ、すごいやのび太くん……」
ドラえもんは呆れたような感心したような、複雑な気持ちだった。

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ルネシティ。
スネ夫がラティアスに傷を負わせたおかげで、のび太がそれをゲットしたことを当の本人は知らない。
「よし、さっさとルネジムを攻略するか」
スネ夫はルネジムに入った。

メモ帳とにらめっこしながら氷の床を踏むスネ夫。
答えはすべてそれに書いてある。
順調に氷の床を渡り最奥まで行き着くと、そこにはジムリーダーであるアダンが立っていた。
「よ、よかった。どうやら普通の挑戦者みたいだな」
アダンは何やら落ち着きがない。
「どうしたの、おっさん」
「おっさ……まぁいい。実は先日の挑戦者がひどい少年でな。無礼だし歌は騒音だし」
アダンがこめかみにしわを寄せる。
『アダン様が愚痴っておられる』
『確かに前回のバトルはひどかったからな』
ギャラリーからひそひそ声が聞こえる。
スネ夫はすぐにピンときた、その挑戦者はジャイアンだ。
「さて、バトルを始めようか」
アダンはラブカスのボールを投げ、スネ夫はジュカインを繰り出した。
「そっちの手持ちは全て研究済みさ、リーフブレード!」
ジュカインのリーフブレードがラブカスを一閃した。

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「やはりラブカスでは力不足だな」
アダンがポケモンを収める。
『って、多分毎回言ってるんだろうな』
スネ夫が心の中で笑う。
「次は…」
「ナマズンでしょ。ぶった切ってあげるから早くだしなよ」
アダンは憎々しげにスネ夫を睨みながらナマズンを繰り出す。
そしてスネ夫の予告どおりリーフブレードの一撃で沈んでしまった。
『ああ、また無礼な挑戦者だわ』
『手持ちを先読みされて、アダン様のあの屈辱に歪んだ顔、りりしいわ』
外野の声にさらに顔を歪ませるアダン。
そんなアダンを知ってか知らずか、スネ夫のつぶやきが聞こえる。
「あー、あとはトドグラー、シザリガー、キングドラか。全部一発だな」

「これがバッジだ、さっさと持って帰ってくれ」
完全に不貞腐れたアダンからバッジをもらったスネ夫。
ついでにアダンに質問する。
「あの、ミクリって人を探してるんだけど」
秘伝マシンを入手するため、ミクリに会わなければならない。
だがアダンから返ってきた言葉はその計画をブチ壊すものだった。
「ミクリはポケモンリーグで何者かに敗れて行方不明だ」
そうか、ミクリはチャンピオンだった。
『これじゃあポケモンリーグに行けないじゃないか!』
スネ夫は目の前が真っ暗になったが、まだ望みはある。
「くそ、手間はかかるけど仕方ないか……」
スネ夫はルネジムを後にした。

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