進行非小細胞肺癌(NSCLC)は分子標的薬の相次ぐ開発と個別化治療への研究成果の臨床適用が進み、その薬物療法の考え方は大きく変化してきました。
H23.11.20の進行NSCLC薬物療法の最近の知見を中心に、近畿大学医学部内科学教室腫瘍内科部門准教授 倉田
宝保先生のご解説をまとめました。
[はじめに]
・日本の死因の第1位は癌であり、部位別癌死亡率で肺癌は男性1位、女性3位。
・肺癌は生物学的特徴により小細胞肺癌(約15%)とNSCLCとに分ける。
・早期の病期であっても小細胞肺癌では化学療法・放射線療法を、NSCLCでは可能なら手術が基本。
・NSCLCはさらに組織学的に腺癌(約半数)・扁平上皮癌(約30%)・大細胞癌(約10%)に分類。
・NSCLCの発生部位は肺野部には腺癌や大細胞癌が、肺門部には小細胞癌や扁平上皮癌が多い。
・進行肺癌の5年生存率は1%未満とされ、早期発見・早期治療が重要とされる。
・早期は症状(咳・痰・血痰・呼吸苦)が無いことも多く、既存肺疾患との鑑別も難しい。
・扁平上皮癌で若干症状は出やすいが、腺癌は肺野部の発生が多く進行しないと症状が出難い。
・肺癌発症関連因子は喫煙、排気ガス(ベンツピレン・ディーゼルエンジン)、アスベスト、間質性肺炎の既往。
[肺癌の診断]
・肺癌は画像診断後、気管支鏡などによる組織診もしくは細胞診で診断する。
・次に癌の転移状態を確認して病期(ステージ)を決定する。
・肺癌は肺・肝臓・副腎・骨・脳に転移しやすく、主にCTやPETで確認する(脳転移はCTやMRIで診断)。
・転移の状態により肺癌の病期は、以下のようにステージング
I期(原発巣のみ)
Ⅱ期(肺門リンパ節転移)
ⅢA期(縦隔リンパ節転移)
ⅢB期(鎖骨上リンパ節転移、反対側の肺門・縦隔リンパ節転移)
Ⅳ期(遠隔転移あり)
・肺癌検診で胸部X線(X線)と喀痰細胞診が行われているが、これらが生存率向上に寄与していない
→ガイドラインでは強く推奨していない。
X線での発見時は進行肺癌の可能性が高いこと、喀痰細胞診の末梢発生の検出頻度が低いことによる。
・喫煙者で肺癌高リスク患者対象の全米肺検診臨床試験では、X線検診に比べて低線量ヘリカルCT検診で肺癌死亡率が20%低かった。
→低線量ヘリカルCTの有用性は日本でも検証が進められている。
[NSCLCの治療]
・肺癌の治療には全身療法の化学療法と、局所療法の放射線療法・手術療法があり、ステージに応じて単独もしくは併用する。
・Ⅰ期・Ⅱ期(早期)は手術療法、Ⅲ期(局所進行期)は放射線療法、Ⅳ期(進行期)は化学療法を中心に治療を組み立て、再発予防もしくは生存率向上を目標とする。
① I・Ⅱ期(早期)のNSCLCの治療
・I・Ⅱ期の標準的治療は手術療法。
・肺・心臓機能の低下、高齢などで手術不可能な症例では放射線治療を選択するが、5年生存率は手術療法が圧倒的によい。
・手術は原発巣範囲に癌がとどまっていると仮定して行う。
・実際は早い段階で転移が始まっているとされ、約半数が再発。
・これらを踏まえてI・Ⅱ期の術後化学療法の検証が行われた。
・2004年Arriagada Rらによる術後病期Ⅰ~ⅢAを対象としたIALT試験では術後に化学療法(シスプラチン(CDDP)+エトポシド/ビンカロイド系抗癌剤)追加群では
5年生存率で4.1%の上乗せ効果があり,癌死するリスクが14%低下することが報告された(ハザード比[HR],0.86;95%信頼区間[CI],0.76-0.98)。
・2005年にWinton Tらによる術後病期ⅠB,Ⅱ期NSCLC患者を対象としたJBR10試験でも、5年生存率は経過観察群54%(95%CI,48-61%)と比較して、
術後CDDP+ビノレルビン(VNR)群では69%(95%CI,62-75%)であったと報告。
・2004年に本邦のKato Hらによる術後病期Ⅰ期肺腺癌を対象とした報告でも、5年生存率は経過観察群85%(95%CI,82-89%)と比較して、
2年間術後UFT(ウラシル+テガフール)群88%(95%CI,85-91%)と有意に高かった(HR,0.71;95%CI,0.52-0.98)。
特にⅠB期患者に限定すると5年生存率は経過観察群74%(95%CI,66-81%)と比較して、2年間術後UFT群85%(95%CI,79-91%)と有意に優れていた(HR,0.48;95%CI,0.29-0.81)。
・メタ解析:術後化学療法の臨床試験を集めたLACE(Pignon JPら)試験
→5年生存率が術後化学療法で約5%上昇
→ 術後化学療法が標準的治療として認識されるに至った。
→ 病期別5年生存率が検討され、ⅠA期でHR1.41(95%CI,0.96-2.09)、ⅠB期でHR0.92(95%CI,0.78-1.10)、Ⅱ期・Ⅲ期ともにHR0.83(95%CI,0.73-0.95)
→ Ⅱ・Ⅲ期の術後化学療法は有用と報告された。
・以上の結果から、現在日本では、
術後病期ⅠB期はUFT
Ⅱ・Ⅲ期にはCDDP併用化学療法を推奨
ただし、早期NSCLCの約半数は術後再発がない。術後化学療法には治療関連死や毒性、2次癌への可能性の認識と、アドヒアランスへの配慮が必要!
② Ⅲ期(局所進行期)のNSCLCの治療
・Ⅲ期は手術可能なⅢ期と切除不能なⅢ期に分けられるが、手術可能かの医学的判断は難しく明確な基準はない。
・手術可能なⅢ期NSCLC患者には以前は手術療法が第1選択だったが、現在は化学療法・放射線療法・手術療法を併用した集学的治療がよいとされている。
→ 最適な治療内容の組み合わせや順番などコンセンサスは得られてない
欧米では日本では手術可能と思われるⅢ期症例でも化学療法+放射線療法の併用が標準的治療。
・ⅢA期NSCLC患者に対して、手術療法群と術前化学療法群とを比較した試験が4試験行われたがコンセンサスは得られていない。
・2005年にAlbain KSらによる化学放射線療法群と化学放射線療法後手術追加群とを比較した米国の第Ⅲ相試験も、全生存率はn.s。
サブ解析で化学放射線療法により癌切除範囲が肺葉切除となる症例に関しては手術追加群で延命効果があった。
・米国では基本的にはⅢA期NSCLC患者には化学放射線療法を標準的治療として推奨し、化学放射線療法で切除可能な縮小がみられ、かつ熟練外科医の施術の場合は手術可。
・切除不能なⅢ期NSCLC患者には以前は放射線療法単独が標準的治療。
・1996年Dillman ROらは切除不能Ⅲ期症例を対象とした試験
放射線療法と比較して放射線療法へ化学療法を追加することによる生存期間中央値の有意な延長(9.6ヶ月vs
13.7ヶ月;P=0.012)を報告。
・放射線療法への化学療法の追加時期
1999年Furuse Kらによる切除不能Ⅲ期NSCLC症例を対象とした試験で、
化学療法+放射線療法の遂次併用群に比べて同時併用群が生存期間中央値が有意に延長た(13.3ヶ月vs
16.5ヶ月;P=0.04)。
同時併用群では有害事象頻度は高く、食道炎・骨髄毒性などの副作用が強く現れることに留意。
③ Ⅳ期(進行期)のNSCLCの治療
・1995年の52の無作為比較試験のメタ解析(Non-small Cell Lung Cancer Collaborative Groupによる進行NSCLC患者に対する化学療法の有効性を検証)では、
best supportive
care(BSC)にCDDP+既存抗癌剤追加群はBSC群よりも生存期間中央値を1.5カ月延長し、1年生存率で10%優れていたと報告。
・その後承認抗癌剤(パクリタキセル[PAC]・ドセタキセル[DTX]・ゲムシタビン[GEM]・ビノレルビン[VNR]・イリノテカン[CPT-11])+CDDP併用化学療法
生存期間の延長が報告。
・2002年Schiller JHら:進行NSCLC患者に対して、CDDP+PAC群・CDDP+GEM群・CDDP+DTX群・カルボプラチン(CBDCA)+PAC群の各々の比較試験
→ 奏効率も生存率ともn.s.
・プラチナ製剤と抗癌剤併用の有害事象は
CBDCA+PAC:嘔吐は少ないが脱毛・神経障害が多い
CDDP+CPT-11:下痢が多い
CDDP+GEMでは血小板減少が多い
・2007年のArdizzoni Aら:CDDP併用化学療法群とCBDCA併用化学療法群とを比較したメタ解析
進行NSCLC患者に対する奏効率はCDDP併用群で30%、CBDCA併用群で24%であり(オッズ比[OR],1.37;95%CI,1.16-1.61)、CDDP併用群が有意に優れていた。
(併用薬剤の内容が違うことに留意)
・現在の標準的治療はCDDP+以下1剤(PAC・DTX・GEM・VNR・CPT-11)、CBDCA+PAC、CBDCA+GEMの7種類のレジメンから選択。
・至適投与期間は、2002年Socinski MAらによるⅢB・Ⅳ期NSCLC患者を対象とした試験:CBDCA+PACを4コース群と進行するまで継続した群にで生存期間とQOLはn.s.
→4コース以上の継続の意義は現状見出されていない。
・進行NSCLCでは初回治療後に再発多い。
・再発時に全身状態も臓器機能も保たれている症例では化学療法により生存期間が延長し、症状が緩和され、quality of life(QOL)が改善するとされている。
・2000年にShepherd FAら:プラチナ製剤併用化学療法耐性の進行NSCLC患者への2次治療を検討した試験
BSC群と比較してDTX75mg/㎡群で生存期間中央値が有意に延長(4.6ヶ月vs
7.5ヶ月;P=0.010)。
・2004年にHanna Nら:DTX75mg/㎡群とペメトレキセド(PEM)500mg/㎡群の比較試験
両剤で生存期間中央値に有意差はなく、有害事象はPEM500mg/㎡で有意に少なかったと報告。
・2005年にもShepherd FAら、BR21試験:偽薬群と比べてエルロチニブ150mg/日群で全生存期間が有意に延長(4.7ヶ月vs 6.7ヶ月;HR,0.70;95%CI,0.58-0.85)と報告。
・現在米国ではプラチナ製剤併用化学療法後の再発症例に、DTX・PEM・エルロチニブのいずれかを標準的治療として推奨。
・高齢者への化学療法は欧州では第3世代抗癌剤単剤(DTX,VNRなど)治療が標準。
・米国では年齢に関係なくプラチナ製剤併用化学療法が標準。
TAX326試験などの介入試験のサブ解析:高齢が予後不良因子の可能性は低いとされているため。
・世界的コンセンサスとして、化学療法の適用にはPS(performance status:全身状態)良好であることが必須・
・PS0(症状なしで元気)、1(多少症状あるが日常生活OK)、2(症状があり日中の半分未満臥床傾向)までが治療適応。
・PS3(症状があり日中の半分以上臥床傾向)、4(日中臥床傾向)では化学療法がかえって有害であるとされ化学療法は避ける傾向。
[分子標的薬剤の登場~個別化医療への方向性~]
・癌の発生・増殖・転移とその予後には、細胞増殖を活性化させる癌遺伝子とそれらを抑制させる癌抑制遺伝子が関わる。
・癌では両遺伝子の不均衡が生じていると考えられていて、現段階で開発されている多くの分子標的薬剤は細胞増殖の活性化に関わる特定の癌遺伝子の阻害剤。
・EGFR-TKI(Epidermal Growth Factor Receptor-Tyrosine Kinase
Inhibitor:上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬)
癌細胞膜のEGFRの細胞質内ドメインの自己リン酸化を阻害することでシグナル伝達を抑制し、細胞増殖や浸潤・転移・血管新生を抑える。
さらに癌細胞のアポトーシスも誘導し、腫瘍縮小効果を示すとされている。
・2002年のASCOで化学療法前治療歴を有する進行NSCLC患者を対象とした国際共同第Ⅱ相試験(IDEAL1試験とIDEAL2試験)で、ゲフィチニブ250mg/日群と500mg/日群の
有効性と有害事象を検討した結果が報告された。
・IDEAL1試験への本邦の登録症例:奏効率27.5%、1年生存率57%と高い有用性が示され、
ゲフィチニブは世界に先駆けて本邦で手術不能又は再発非小細胞肺癌を適応症として承認された。
・副作用は承認前には皮疹、下痢、肝機能障害など軽微とされていたが、市販直後に重篤な間質性肺炎/急性肺障害が報告、大きな社会的問題に発展。
・INTACT試験:化学療法未治療進行NSCLC患者を対象に標準的化学療法(INTACT-1:CDDP+GEM、INTACT-2:CBDCA+PAC)へのゲフィチニブの上乗せ効果を検証する第Ⅲ相試験
有意な生存期間延長効果は示されなかった。
・2005年のThatcher NらによるISEL試験:化学療法前治療歴のある進行NSCLC患者を対象に、BSCをベースに偽薬とゲフィチニブを比較したが、
ゲフィチニブ群は全生存期間の有意な延長を示すことができなかった。
・以上の報告から、ゲフィチニブの有用性も安全性も懐疑的とされた
・一方で、患者背景因子の違いがゲフィチニブの効果の違いを生じている可能性が示唆。
→ゲフィチニブの有効性が高い集団の探索が本邦を中心に行われた。
・ゲフィチニブによる間質性肺炎の死亡例は「男性、喫煙者、間質性肺炎合併例」で多く、危険因子。
・IDEAL1試験のサブセット解析:ゲフィチニブの奏効予測因子として、「女性、非喫煙者、腺癌、アジア人」が示唆。
・2004年米国からEGFR遺伝子変異がゲフィチニブの感受性予測因子であるとする報告
・EGFR遺伝子変異陽性例の背景因子が、IDEAL1試験で明らかにされた奏効予測背景因子とも相関することが示された。
→日本各地のEGFR遺伝子変異陽性患者のゲフィチニブの奏効率は75%~91%と高い奏効率を示した。
・2009年Mok
TSらは本邦を含む東アジア10カ国でゲフィチニブに奏効しやすいとされる臨床背景因子(腺癌,非喫煙/軽喫煙者)保有者を対象としたIPASS試験。
→ 結果、無増悪生存期間(PFS)はCBDCA+PAC群と比較してゲフィチニブ群で有意な延長を示した(HR,0.74;95%CI,0.65-0.85)
しかし、二群のPFS曲線が約6ヶ月で交差。
本試験のEGFR遺伝子変異情報が得られたサブセット解析:PFS曲線はEGFR遺伝子変異陽性で大きく化学療法を上回り(HR,0.48;95%CI,0.36-0.64)、
逆に変異陰性では大きく化学療法を下回った(HR,2.85;95%CI,2.05-3.98)。
奏効率も変異陽性患者群で71.2%、変異陰性患者で1.1%
・・・全PFS曲線の交差はゲフィチニブの効果が異なるEGFR遺伝子変異陽性患者群と陰性患者群の混在が原因と示唆。
・他の解析結果においてもEGFR遺伝子変異陽性患者では喫煙者と非喫煙者では生存期間もPFSも差がなく、EGFR遺伝子変異の有無がゲフィチニブの奏効予測因子と示唆。
・本邦でEGFR遺伝子変異陽性化学療法未治療進行NSCLC患者を対象とした2010年のMaemondo MらによるNEJ002試験:
(ゲフィチニブ群vs
CBDCA+PAC群)・・・ゲフィチニブ群でPFSが有意に延長された。ただし、全生存期間n.s.
・Mitsudomi TらによるWJOG3405試験:(ゲフィチニブ群vs CDDP+DTX群)・・・ゲフィチニブ群でPFSが有意に延長された。ただし、全生存期間に差はみられていない。
・NEJ002試験もWJOG3405試験も、化学療法群の増悪後に多くの症例でゲフィチニブが投与されたため、全生存期間に差がなかったと考察。
・以上の結果から、EGFR遺伝子変異陽性進行NSCLC患者においてはいずれかの時期にゲフィチニブを使用することで24カ月以上の生存期間が得られる
1次/2次治療以降のどちらの使用も2010年版StageⅣ期NSCLCガイドラインでは推奨。
私見だがゲフィチニブの使用は可能な限り早期段階で勧めている。またPS3/4では抗癌剤治療は推奨されないが、ゲフィチニブは考慮可。
・EGFR-TKIのエルロチニブは進行NSCLCの2次治療で承認
これは上述のBR21試験結果に基づく。
・最近はエルロチニブもEGFR遺伝子変異陽性患者への適用がよりよいと考えられてきている。
・2010年の欧州臨床腫瘍学会でEGFR遺伝子変異陽性化学療法未治療進行NSCLC患者への1次治療を検証したOPTIMAL試験:
CBDCA+GEM群に比べてエルロチニブ150mg/日群でPFSが有意に延長されたとしている。
・VEGF(血管内皮成長因子)モノクローナル抗体製剤のベバシズマブは、VEGFと血管内皮細胞上に発現しているVEGF受容体との結合を阻害し、
腫瘍血管の退縮(抗腫瘍上乗せ効果)と腫瘍周辺の正常の残存血管の正常化(併用薬剤増強作用)を促す。
・2006年、Sandler Aらによる化学療法未治療進行非扁平上皮NSCLC患者を対象とした第Ⅲ相試験(E4599試験):
化学療法(CBDCA+PAC)群に比べて化学療法+ベバシズマブ群で全生存期間が有意に延長した(HR,0.79;95%CI,0.67-0.92)。
・2009年にReck
MらによるCDDP+GEM療法へのベバシズマブの上乗せ効果を比較したAVAil試験:
ベバシズマブ追加群でPFSが有意に延長したが、全生存期間は両群間はn.s。
・ベバシズマブは有害事象に肺出血(喀血)があり、扁平上皮癌では喀血リスクが高い
→ 扁平上皮癌を除く切除不能な進行・再発非小細胞肺癌を適応
脳出血の懸念から脳転移患者には禁忌(米国で脳出血懸念を否定する報告があり日本肺癌学会から脳転移NSCLCへの禁忌撤廃を厚生労働省に要望中)
血栓塞栓症既往例も慎重投与とされている。
・PEMは複数の代謝酵素を阻害する葉酸代謝拮抗剤。
・2008年にScagliotti GVらによる化学療法未治療NSCLC患者を対象としたJMDB試験:CDDP+GEM群に対して、CDDP+PEM群の全生存期間への非劣性(初回治療効果)が示された。
サブセット解析:非扁平上皮癌(腺癌、大細胞癌)患者でCDDP+PEM群で生存期間が有意に延長したと報告され、ベバシズマブと同様に組織型によって生存への影響が異なる。
・PEMの有害事象は骨髄毒性、肝機能障害、皮疹、脱毛など
・病理診断の確定が難しい場合も多く、組織型の的確な判定は今後の課題。
・クリゾチニブは2007年自治医科大学の間野博行教授、曽田先生らが発見したEML4(echinoderm microtubule associated protein-like 4)遺伝子とALK(anaplastic lymphoma kinase)遺伝子が
染色体転座により融合したEML4-ALK遺伝子を有するNSCLC患者を対象に開発。
・従来、白血病などの血液腫瘍では染色体転座や融合遺伝子が多くみられていたが固形腫瘍には極めてまれとされていた。
・本転座を有するNSCLC患者は約5%と報告。
・EML4-ALK遺伝子保有NSCLC患者対象の第Ⅰ相試験(PROFILE 1001試験):客観的奏効率が61%、奏効の持続期間中央値は48週間と高い腫瘍縮小効果が報告。
・有害事象も下痢や嘔吐の軽微なgrade
1程度であり、さらに特徴的な有害事象として残像が残る視野異常も報告。
・ALK融合遺伝子保有患者は若年者・女性・非喫煙者・腺癌に多く、ゲフィチニブの適用症例と似ている。
・以上のように進行NSCLCの治療戦略は第一に組織型(扁平上皮癌か非扁平上皮癌)を選別する。
・扁平上皮癌ではプラチナ製剤をベースとした併用化学療法を選択する。
・非扁平上皮癌でEGFR遺伝子変異陽性であればゲフィチニブかエルロチニブを、EGFR遺伝子変異陰性かつ、EML4-ALK遺伝子保有者であれば承認後はクリゾチニブの適用を検討。
・EML4-ALK遺伝子がなければプラチナ製剤併用化学療法+ベバシズマブか、プラチナ製剤+PEMを検討するとよいとしている。
・2010年に日本肺癌学会の肺癌診療ガイドラインが改訂され個別化医療が推進されている。
以前に比べてNSCLCの治療効果も飛躍的に伸び、予後は化学療法で1年半、分子標的薬適用症例で2年以上期待できるようになっている。
・今後は薬剤師にも癌薬物療法(特に分子標的薬の使用法)やガイドラインに精通し、特に癌薬物療法に伴う補助療法はチーム医療の牽引役として積極的に関わってほしい。
・EGFR遺伝子変異陽性の進行NSCLC症例
①60歳男性患者にCDDP+DTX治療後にゲフィチニブが原因とみられる肝機能障害が発生し、ゲフィチニブを隔日投与とするも改善されず、
エルロチニブ変更により肝機能障害が改善された。
→ このようにゲフィチニブによる肝機能障害はゲフィチニブの隔日投与やエルロチニブへの変更で対応している事が多い。
②69歳男性患者にゲフィチニブ投与後、原発巣は奏効したが副腎転移巣に増悪がみられPD(progressive disease:進行)と評価された。
→ 通常は、ゲフィチニブを中止し治療法を変更するが、Disease
Flare(急激に悪化する状態)が約25%に生じるとされている。
ゲフィチニブの初回治療症例ではプラチナ製剤併用化学療法に変更するが、二次治療症例ではゲフィチニブを継続しながら抗癌剤を1剤追加する方法もとられている。
[質疑応答]
Q1:CDDPでの聴力障害後のCBDCA変更は妥当か?
A1:CDDPの聴力障害で難聴となる場合もあるため、神経障害の比較的少ないCBDCAに変更することはよくみられる。
ただし、プラチナ製剤が原因の可能性もあり、患者の納得を得て処方変更を行う必要がある。
Q2:抗癌剤治療からBSCへの移行はどう対応するか?
A2:癌治療上難しい課題だ。BSC移行は患者とよく話し合い納得していただくように心がけている。
Q3:扁平上皮癌の患者に対する薬剤の選択は?
A3:私見として、CBDCA+GEMを使うことが多い。DTXは2次療法に残しておきたい。
Q4:ベバシズマブやPEMの維持療法の医療費への対応は?
A4:ベバシズマブ、PEMの導入治療時に医療費を説明しその上で維持療法を行っている。導入治療4サイクル後に部分寛解が得られた患者に同意の上で維持療法を行っている。
最近の報告でよい成績は得られているが、まだコンセンサスは得られていない。