「骨粗鬆症の病態と治療~最新の知見について~」大阪府済生会中津病院 整形外科部長 大橋弘嗣先生によるご解説をまとめました。
【骨粗鬆症の病態】
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骨粗鬆症の定義:2000年の米国国立衛生研究所(NIH)により「骨強度の低下によって骨折のリスクが高くなる骨障害」と提唱。
・ 骨強度は骨密度と骨質の両方の要因からなる。
・ 骨質は骨梁構造・骨代謝回転・骨微細損傷(微小骨折)・骨石灰化を反映。
・ 骨は外側の皮骨質と内側の海綿骨に分けられ、主成分はいずれも、骨塩(リン酸Ca<ハイドロキシアパタイト>)・骨基質(I型コラーゲン)・水分。
鉄筋コンクリートに例えると、鉄骨が骨基質、コンクリートが骨塩に相当し、骨強度を構成している。
・骨は絶えず再生され、破骨細胞による骨吸収と、骨芽細胞による骨形成との一連の新陳代謝を繰り返している・・・骨のリモデリング
・ 正常状態では骨吸収と骨形成のバランスは保たれている。
・ 骨粗鬆症では骨吸収が骨形成を上回り、骨形成が追い付かない状態となり、骨量が減少する。
結果、骨密度が低下し脆くなり、骨折を生じやすくなる。
・ 骨粗鬆症が原因で生じる主な骨折は、大腿骨頸部骨折・椎体骨折・橈骨遠位端骨折。
・ 骨粗鬆症は無症候性であるため骨折を生じて初めて骨粗鬆症と診断される場合が多い
・ 骨折を生じたその後は、ADLやQOLの低下を招き、寝たきりなどの経過を辿ることも多く、結果的に死亡率の増加を招くと考えられている。
【骨粗鬆症の疫学】
・「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版」によると、我が国における骨粗鬆症患者数は約780~1,100万人と推定。
・ 骨粗鬆症は男女とも年齢とともに有病率が増加し、男性と比較して女性では、頻度が約3倍高い。
・ 骨粗鬆症による骨折は、要介護や寝たきりの原因の上位。
・ 大腿骨頸部骨折と椎体骨折を合わせた総医療費は2,382~3,218億円との推計。
・ 大腿骨頸部骨折と椎体骨折後の介護に関する費用を含めた医療・介護費用は7,974~9,895億円との推計。
・ 大腿骨頸部骨折の患者数は年々増加しており、2002年の推定発生数は約12万人。
・ 大腿骨頸部骨折の発生率は年齢とともに増加し、一度発症すると40%は退院できない。
この骨折が原因で骨折後1年以内に13%、2年以内に25%、5年以内に50%が死亡するとの報告あり。
・ 一般人口と比較して、大腿骨頸部骨折患者はどの年代においても生存率が低い。
・ 椎体骨折はその発生数が増加するほどQOLが低下するとの報告や、死亡率が増加するとの報告あり。
【骨粗鬆症の診断】
・人間の一生涯の骨量は、20歳代までは成長とともに増加し、30歳~40歳代までが最も骨量の多い最大骨量(peak bone mass)。
この時期を過ぎると骨量は減少していき、骨量がある限界まで低下すると骨粗鬆症。
・ 最大骨量をどれだけ増やしておくかということは重要・・・骨粗鬆症の予防となる。
・骨粗鬆症の診断には骨塩量が測定。
測定法には、pQCT法・DXA法(比較的簡便で誤差も少なく汎用測定法)・MD法・超音波法(手軽な測定法だが誤差多い)など。
・骨塩定量によって示された骨密度値は、骨粗鬆症の診断基準に用いられる。
「原発性骨粗鬆症の診断基準2000年度改訂版」。
【骨粗鬆症の治療】
・ 骨粗鬆症による脆弱性骨折の治療は、保存的療法・手術療法など整形外科的な治療が中心。
・ 椎体骨折は椎体の変形による腰椎圧迫骨折などの圧迫骨折やくさび状骨折を生じる。
治療はほとんどの場合に安静が必要であり、体幹コルセットなどの装具による保存的治療が中心。
最近の外科的治療の試みとして、椎体形成術(早期の除痛、安静期間の短縮が認められている)が行われている。
・ 大腿骨頸部骨折には内側と外側の骨折がある。
内側骨折:高齢者特に女性に好発し、関節内骨折であるため偽関節になりやすい。
外側骨折:内側骨折より好発年齢は5~10歳高く、骨癒合は得やすいが骨折が複雑なことが多い。
手術はそれぞれの部位に応じて人工骨頭挿入術や骨接合術が用いられる。
残念ながら患者のQOLの低下は免れず、生命予後にも大きな影響を及ぼす。
・ 脆弱性骨折の予防は最も重要であり、栄養や運動療法、薬物治療の開始が考慮。
・「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版」による「脆弱性骨折予防のための薬物治療開始基準」。
・骨粗鬆症の発症機序には骨代謝異常とCa代謝異常の関与が主に考えられている。
・ 骨粗鬆症治療薬は、骨代謝異常・Ca代謝異常の改善を目的としている。
・ 骨粗鬆症治療薬の有効性に関するエビデンスについては「WHO Technical Report 2003年」に。
1)ビスフォスフォネート(BP)製剤
・ 窒素非含有BP(エチドロネート)製剤と窒素含有BP(第2世代:アレンドロネート、第3世代:リセドロネート)製剤とに大別。
・BP製剤の作用は破骨細胞による骨吸収の抑制。
・65歳以上の既存骨折がある場合、BP製剤を第1選択薬とされることが多い。
・リセドロネートの有効性:VERT-NA(北米)試験とVERT-MN(欧州・豪州)試験。
対象:閉経後骨粗鬆症患者
VERT-NA試験:3年間のリセドロネート5mg/日の投与はプラセボと比べて、新規椎体骨折発生頻度を相対リスク減少率[RRR],41%;
95%信頼区間[CI],18%~58%;P=0.003と有意に減少(Harris STらJAMA
1999)
VERT-MN試験:相対リスク[RR],0.51;95%CI,0.36~0.73;P<0.001(Reginster JらOsteoporos Int.2000)と有意に減少させたと報告。
・ 大腿骨頸部骨折予防効果を検討したHip試験:
対象:70~79歳の女性骨粗鬆症患者
結果:プラセボ投与群と比較して、リセドロネート2.5mg又は5mg/日投与群では、3年間で大腿骨頸部骨折発生頻度が有意に低下
(RR,0.6;95%CI,0.4~0.9;P=0.009)と報告している(McClung MRらNEJM
2001)。
・REALコホート試験:
対象:65歳以上の女性
結果:アレンドロネート35mg又は70mg/週投与群と比較して、リセドロネート35mg/週投与群では、1年間で大腿骨頸部骨折発生率が
RRR43%(95%CI, 13%~63%;P=0.01)、非椎体骨折発生率がRRR18%(95%CI,2%~32%;P=0.03)で有意に低下と報告
(Silverman SLらOsteoporos Int.2007)。
・ 大腿骨頸部骨折の生命予後への影響について:
対象:大腿骨頸部骨折の手術から90日以内の50歳以上の患者
結果:プラセボ投与群と比較して、ゾレドロネート(本邦では骨粗鬆症への適応はなし)5mg/年1回静注投与群では、
3年後の総死亡率は有意に減少した(ハザード比[HR],0.72;95%CI,0.56~0.93;P=0.01)と報告している(Lyles KらNEJM
2007)。
・ BP製剤の安全性について、長期投与により顎骨壊死や非定型骨折のリスクの上昇が懸念されている。
・「BP関連顎骨壊死(以下BRONJ)に対するポジションペーパー」が日本骨代謝学会・日本骨粗鬆症学会・日本歯科放射線学会・日本歯周病学会・日本口腔外科学会の2010年に共同で作成。
・BRONJ発生のリスクファクター:窒素含有BP製剤>窒素非含有BP製剤、注射用製剤>経口製剤、局所的ファクター、全身的ファクター、先天的ファクター、その他のファクター(薬物、喫煙、飲酒など)が推測。
・ 経口BP製剤によるBRONJ発現頻度は、米国口腔外科学会の報告では0.7件/10万人/年、国内の推定報告頻度でも0.85件/10万人/年。
・ 通常では見られない近位部の大腿骨骨幹部骨折である非定型骨折の報告あり。
・ 非定型骨折への対策として、骨粗鬆症の軽リスク患者ではBP製剤の投与5年間で骨密度低下もしくは骨折までの休薬、
中リスク患者では投与5~10年間で2~3年の休薬、高リスク患者では投与10年間で1~2年の休薬を行う方法を検討。
・BP製剤のこのようなまれな副作用には注意が必要だが、服用が長期に渡るため、リスクとベネフィットに留意した適切な使用が望まれている。
2)選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)製剤
・ラロキシフェン、バゼドキシフェンなどのSERM(selective estrogen receptor modulator)の作用はエストロゲン受容体に対するパーシャルアゴニスト。
骨代謝ではエストロゲンアゴニスト、骨外ではアンタゴニストとして作用し(高脂血症、乳がんのリスク低下?)、破骨細胞による骨吸収の抑制する。
適応は閉経後骨粗鬆症、副作用は比較的少ない。
・閉経後骨粗鬆症患者を対象としたプラセボ対照比較試験の3年間で新規椎体骨折発生頻度:
バゼドキシフェン20mg/日群(HR,0.58;95%CI,0.38~0.89)
バゼドキシフェン40mg/日群(HR,0.63;95%CI,0.42~0.96)
ラロキシフェン60mg/日群(HR,0.58;95%CI,0.38~0.89)の
各群で、有意に低下したが、非椎体骨折発生頻度に差はみられなかった。
骨折リスクのより高い患者を対象とした追加解析では
バゼドキシフェン20mg/日群はプラセボ投与群と比較してHR,0.50(95%CI,0.28~0.90)
ラロキシフェン60mgと比較してHR,0.56(95%CI,0.31~1.01)
非椎体骨折発生頻度が低下したと報告(Silverman SLらJ
Bone Miner Res 2008)。
・ 同様に閉経後骨粗鬆症患者を対象としたMORE試験:
プラセボ投与群と比較して、ラロキシフェン投与群では、新規椎体骨折発生頻度は有意に低下したが、
大腿骨頸部骨折発生頻度に差は見られなかったとしている(Ettinger BらJAMA
1999)。
3)副甲状腺ホルモン<遺伝子組み換え>(PTH)製剤
・テリパラチドの作用は、骨芽細胞に作用し骨形成を強力に促す効果。
・海外市販後試験:テリパラチドとアレンドロネートの比較試験
対象:閉経後骨粗鬆症患者
結果:腰椎骨密度のベースラインからの変化率の平均値が18ヶ月後でテリパラチド20μg/日群で10.92%増加、
アレンドロネート10mg/日群で5.51%増加(P<0.001)
・ プラセボ群と比較してテリパラチド20μg/日群では新規椎体骨折発生頻度が有意に低下(RR,0.35;95%CI,0.22~0.55 Neer RMらNEJM
2001)。
対象:閉経後骨粗鬆症患者
・ 大腿骨頸部骨折に対する有効性は示唆されていないが、関節や難治性骨折の治療への効果も今後期待。
・ 本剤は薬価が高価で、自己皮下注、投与期間が18ヶ月まで。
4)活性型ビタミンD3製剤
・ 活性型ビタミンD3製剤の作用は、Ca代謝異常の改善。
・ 活性型ビタミンD3製剤は、骨代謝異常に作用するBP製剤やSERM製剤との併用が可能。
・ 副作用が少なく効果が穏やかであるうえ、筋力の増強作用もあるとされる。
→ 転倒頻度の減少によって骨折リスクの低下が期待。
・ エルデカルシトールはCa代謝異常だけでなく骨代謝異常を改善する効果も併せ持つ
・ 原発性骨粗鬆症患者を対象とした国内第Ⅲ相臨床試験:
アルファカルシドール1.0μg/日群と比較してエルデカルシトール0.75μg/日群では、3年間の新規椎体骨折発生頻度が有意に低下
(HR,0.74;90%CI,0.13~0.67;P=0.046)、
大腿骨近位部・上腕骨・前腕骨骨折の発生頻度も有意に低下(HR,0.52;90%CI,0.29~0.93;P=0.031)
5)カルシトニン製剤
・カルシトニン製剤は、骨粗鬆症における疼痛に対する除痛効果あり。
・ 骨粗鬆症患者における腰背部痛に対してリセドロネート単独群、カルシトニン単独群、リセドロネート+カルシトニン群、活性型ビタミンD3投与群の4群での除痛効果が検討
リセドロネート単独群やカルシトニン単独群並びにリセドロネート+カルシトニン投与群の3群の各群それぞれで、
活性型ビタミンD3投与群と比較して除痛効果が有意に認められ、リセドロネート単独群が最も除痛効果が認められた(太田ら新薬と臨床2005)。
【骨粗鬆症の治療方針】
・ 女性では骨粗鬆症発症年齢が比較的若いために治療期間が長くなる傾向があり、より長期的な薬物治療のプロトコールを考える必要がある。
(例)65歳未満では椎体骨折防止の明らかな有効性が示されているSERM製剤・BP製剤の選択を検討し、
65歳以上では大腿骨近位部骨折防止の明らかな有効性が示されているBP製剤の使用を考慮。
・ 男性では骨折防止の明らかな有効性が示されているBP製剤の使用を選択。
併用する場合には、Ca製剤、活性型ビタミンD3製剤を追加する。
重症の場合には、PTH製剤を考慮するが、BP製剤との併用はPTHの効果が減弱するとの報告があるため、現段階では使用しない。
・骨粗鬆症の治療で最も重要なことは、長期間の服薬継続・・・薬剤師によるサポートを期待したい。
(おまけ)
海外ではビタミンD製剤の使用が広く推奨されており、小児への投与も一般的。
今後日本でも推奨され、次回のガイドラインに掲載されることは考えられる。