機会があって、まだ読んでいなかったJELIS
Study を読んでみました。
EPA は大昔・・・卒業研究で、品質を調べさせてもらいました。
魚くささと酸化の速さに・・・これを薬にするん???という疑問が。
(もちろん、製剤品は製剤技術で、酸化防止の策を施しています。体内動態での酸化の影響が不明。)
さて、医薬品としての情報を確認してみました。
◎ついでに、EPA の基礎知識と疫学の整理を ◎
・脂肪とはグリセリンと脂肪酸がエステル結合
・グリセリンの3つの炭素に脂肪酸が結合し,脂肪酸の種類が脂肪の性質を変える
飽和脂肪酸(saturated fatty acid:SFA):例
リノール酸(C18)は末端にCOOH,炭素4箇所結合
動物性脂肪に多い
不飽和脂肪酸(unsaturated fatty acid:UFA):二重結合があり、植物性に多い
・動物性油脂は常温で固まるために,血管中でも固まりやすく動脈硬化を発生させる? という仮説が
生まれ、植物性油脂の摂取が推奨され始めた。
・1957年に設立のNYのAnti-Coronary
Clubによる科学的な検証
血清コレステロール値の低下と動脈硬化の発症予防との相関について検討し,その過程で,不飽和脂肪酸のなかでも二重結合が1つのものと2つ以上のものでは性格が異なることが明らかになった。
・1つのものを「一価不飽和脂肪酸(monounsaturated fatty acid:MUFA)」
・2つ以上のものを「多価不飽和脂肪酸(polyunsaturated fatty acid:PUFA)」
二重結合の位置により,海の物に多いとされるn-3(ω-3)系PUFA,
陸の物に多いとされるn-6(ω-6)系PUFA
・4つの脂肪酸(SFA,MUFA,n-3系PUFA,n-6系PUFA)には夫々重要な積極的な生理機能が
あり,すべて必須?
・飽和脂肪酸の摂取と血清コレステロール値との正相関が認められたが,
欠乏症と過剰症を起こす境界があり,摂取の幅を推奨していくべき。
体内で生合成される飽和脂肪酸でも,欠乏すると全体的なエネルギーが不足して,不足状態が招く疾患を発症したり,ビタミンA,D,E,Kが吸収されにくくなり脂溶性ビタミン欠乏症を起こしやすくなる。
“必須”のうち生合成で量が不十分なものもあり、定義があいまいになりつつある。
・Seven Countries
Study・・・1950年代に,米国ミネソタ大学の食事摂取と病態の疫学調査
世界7か国(米国,日本,フィンランド,イタリア,オランダ,ギリシャ,ユーゴスラビア)
被験者に同じ食事を2つ作ってもらい,そのうちの1つを研究用として買い取る「陰膳」という方法
栄養分析した結果はすべて米国へ送られ,血清コレステロール値もミネソタ大学で測定
5年間のフォローののち,飽和脂肪酸の摂取と血清コレステロール値,冠動脈疾患の死亡リスクの正相関が初めて明らかに(1967年)。
当時は飽和脂肪酸が調査対象で、現在も一部で継続。
オランダで冠動脈疾患の発症に関連する脂肪酸の種類について調査中
飽和脂肪酸のなかでもラウリン酸やミリスチン酸が高コレステロール血症に関わっており,PUFAに水素添加して安定化する際,派生するトランス脂肪酸は冠動脈疾患の進行に強い相関がある。
飽和脂肪酸,不飽和脂肪酸摂取がコレステロール値に与える影響について予測する「Keysの式」が考案
→摂取する脂肪酸の内容によりコレステロール値が変化・・・今では食事指導に
・Nurses' Health
Study・・・1976年に開始された女性8万7千人以上を対象
リノール酸摂取の少ないグループと多いグループで比較したところ,多いグループでは冠動脈疾患リスクが32%も低下しており,リノール酸摂取を推奨する結果が報告されました。
・グリーンランド在住のイヌイット研究・・・1970年代
欧米人に比べて非常に心筋梗塞発症率が低い
この疫学調査を契機に(エ)イコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)などのn-3系PUFA注目
・DART(Diet and
Reinfarction Trial)・・・1989年
n-3系PUFAに関するスタディ、2千人以上の心筋梗塞既往の男性を対象
脂肪,魚油,食物繊維について冠動脈疾患二次予防への有用性を比較・・・魚油で死亡率低下に有意に相関
食物繊維やPUFA/SFAの比(P/S比)も有用だったが,n-3系PUFAが最も良い。
・GISSI-Prevenzione(Gruppo Italiano per
lo Studio della Sopravvivenza nell' Infarto miocardico-Prevenzione)・・・1999年
ビタミンEとn-3系PUFAを要因分析にて検討
ビタミンEとn-3系PUFA,ビタミンEのみ,n-3系PUFAのみ,対照群の4群で比較されたが,n-3系PUFAの有用性は際立ったものの,ビタミンEの有用性は認められなかった。
・n-3系PUFAは効果がかなり強いようだが、DARTとGISSIでは,いずれも死亡率は低下したが,致死的な心筋梗塞などでは有意差が出なかった。
・HPFS(Health Professionals
Follow-up Study)・・・2005年
n-3系PUFAが特に男性の突然死に関与
n-3系PUFAは血小板などに対する作用が大きいと考えられ,最終的なイベントを起こすものに効いているのかも?
・n-3系PUFAはLDLコレステロール値をいくぶん上昇させるが,冠動脈疾患での死亡は減らす。
n-3系PUFAは,コレステロール値の低下は冠動脈疾患の発症を減らすという従来の考え方とは違う観点が必要だとされる。
■二次予防の有効性
・Lyon Diet Heart
Study・・・地中海食と通常食を比較した二次予防試験
地中海食群では心血管疾患の発症リスクを70%減少
オレイン酸がメインに検討されたが,食事の因子分析では何が最も影響したのかが明らかにはなっていない。
・一方で,霊長類にMUFAを摂取させたら,逆に動脈硬化が進んだという報告もある。
・DARTやGISSIと同様,二次予防では有効性が出てくるあたりが興味深い。
DARTは二次予防の研究
・・・コレステロール値の影響ではなく血栓形成が関わってきて、n-3系PUFAに効果があったのではないか?
・一次予防では,動脈硬化そのものの形成を予防するかしないかということ
有効なのはSFAかUFAか,あるいはLDLコレステロールの酸化を防ぐビタミンEかということになる?
・リスクの形成を予防することと,すでにあるリスクを軽減していくこととは分けて検討するべきだろう
■動脈硬化発生の全過程に与える影響
・婦飽和脂肪酸は、身体を形成する材料としてだけでなく,分子としてシグナルを伝える栄養素であり,「栄養シグナル」。
・動脈硬化発症の初期段階からその後の全過程に,多岐にわたって効いている
単球の内皮接着に対する抑制作用
血液レオロジーの改善作用
マクロファージの泡沫化の抑制,脂質代謝の改善
多価不飽和脂肪酸の分子レベルの検討では,膜組成に影響を与えて細胞膜の性質を変える
■抗炎症作用
・炎症を促すn-6系PUFAと,それを抑制するn-3系PUFAとの関係が明らかになり、血管拡張作用や血小板凝集抑制効果などが認められた。
n-3系PUFAがn-6系PUFAに対し優位に働くといわれている。
理由のひとつに,n-3系PUFAがn-6系PUFAのアラキドン酸代謝に拮抗する作用
・動物性脂肪は炎症の促進に作用し,魚の油脂はそれを抑制する傾向
特に,炎症のシグナルのNF-κBの活性を抑制する?
PUFAに含まれるEPA,DHAなどがそれぞれ,レゾルビンやプロテクチンとよばれる代謝産物に変わり,抗炎症作用をもたらす?
・ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)ファミリーのα,γ,δなどの,リガンドとして不飽和脂肪酸が強く働き,抗炎症作用につながる?
・一部のPUFAは細胞膜に出現しているG蛋白質共役受容体のリガンドになるといわれており,さまざまな生理作用により,
動脈硬化を抑える可能性が考えられています。
・突然死などには,血小板の凝集という急性の作用が影響するが,PUFAの効果は発現までに比較的時間がかかり、
ある程度の期間を経てから有意差が出るのは,単に血小板への抑制作用だけでなく,炎症や慢性的な病態に効くような生理作用が考えられている。
全身の炎症症状を軽減し,動脈硬化になる以前のメタボリックシンドロームの段階で作用があるのではないか,と期待されている。
食育への利用
■栄養素の複合体として考える
・最も有効な食事療法は摂取総カロリーを減らすこと
戦後から経年的にみても,国民の平均摂取エネルギーは実はあまり変わっていない
変化しているのは,飽和脂肪酸の摂取量が増え,炭水化物が減少
生活習慣病の発症などから脂肪が否定されがちですが,脂肪摂取が多い国ほど,実は長生きをしているという統計あり。
→摂取脂肪量を減らすだけでは,血清コレステロールも冠動脈疾患も減らず、
P/S比を変えると初めてコレステロール値が減り,冠動脈疾患の発症率も減る。
脂肪の内容に留意し,特にn-3系PUFAの摂取を増やし,ビタミンや食物繊維の摂取など,バランスの
良い食事を心がけることが重要。その前提には,禁煙が必要。
・日常の食事から摂る栄養素と,サプリメントから摂る栄養素の評価は違うと考えられるので,これを一緒に議論すると,さまざまな問題が出てくる。
・高脂肪食を摂りながら動脈硬化の発症が少ないというSeven Countries Studyのデータが,それをよく表していると思われている。
■酸化や水銀への対応
・PUFAは二重結合が2つ以上あるので,不安定で酸化しやすい
抗酸化成分をもつ野菜,果物,さらに種実などを同時に摂ることで,酸化が遅延し,PUFAの作用が活きてくる。
・水銀などによる汚染については,食品衛生上の問題として議論していくべき
・患者は抵抗力が落ちているので,食事療法に使う食材は,製品メーカーが安全性を確認し,可能なかぎり
添加物を入れない,汚染物が入らないよう,十分に配慮して開発していくべき。また,それらを含めて指導。
・アスペルガー症候群は,DHAの摂取が少ないと発症しやすくなるといわれている。
水銀問題などの影響もあり,子どもの魚離れが懸念さ,親もあまり食べないよう。
・DHA摂取と認知症予防との関わりも指摘されており,全世代を通じて,PUFAのとらえ方,そして食習慣が疾患に及ぼす影響は,大事なテーマ。
その他、以下のサイトもありました。
対談:日本人の脂質管理のあり方を考える—疫学データをどう理解すべきか
☆ in practice ☆
栄養に関するコホートをもっと読んで、総合的な判断力をつける。
総合的な知識で、予防の保健指導に繋げる ~♪
EPA のアドヒアランスの悪さは、evidence に合わせた対応へ!
ヾ(*'-'*)
最終更新:2011年03月06日 13:50