「 妊婦・授乳婦における薬物療法 」 日本臨床薬理学会2010

今年も臨床薬理学会に参加してきました。
京都での開催で、1日目と3日目に通いました。
まとめられたものから、アップしていきます。順不同です! 

EL13「妊婦・授乳婦における薬物療法」
座長:平井 みどり  (神戸大学医学部附属病院薬剤部)
演者:林 昌洋        (国家公務員共済組合連合会虎の門病院薬剤部)
    薬物の催奇形性を評価するための情報は、ヒト疫学調査、症例報告、動物生殖試験の順で信頼度が高い。
    疫学調査が重要視される理由は、自然発生的な先天奇形が存在するため、製薬企業の市販後調査等のイベントレポートで(健常児の情報は収集されにくい)、発現状況から単純に催奇性との関連を考察することはできないとされるため。
    ヒト疫学調査のうち、コホート研究に基づく評価が最も信頼性が高く、極めてまれな先天異常の検出に関してはケース・コントロール研究が現実的とされ、現在までに疫学データがかなり集積されてきている。
    授乳婦への投薬と服薬中の授乳の可否についても、現状では動物実験における母乳移行性データをもとに「授乳をさけさせること」と記載する添付文書が国内・欧米を問わず多い。
    海外では母乳移行薬物による乳児の影響をヒトデータに基づき、M/P(milk plasma ratio)やRID(relative Infant Dose)、哺乳児データに基づき乳児毒性を回避することが、より正確に評価すると考えられてきている。
 妊婦・授乳婦における薬物療法に関するより信頼性の高い情報が蓄積されてきている現状を踏まえ、海外の添付文書ではより根拠に基づいた具体的な情報提供を行えるべく、記載内容や形式の変更を予定。
臨床家の処方に関する情報、妊娠期の薬物体内動態の変化、risk コミュニケーションも盛り込む
→ 本邦の添付文書の記載方法も現在検討中。
・ FDA pregnancy のカテゴリー
 C      ・・・  un-KNOWN!
               A、B ・・・ データーがある。
 
※ H17年妊婦の服薬情報等の収集に関する検討会資料(厚労省医薬食品局安全対策課)
       カナダ マザーリスク・プログラム (PDF:13KB)  motherrisk
          日本産婦人科医会先天異常モニタリング(JAOG)と横浜市立大学医学部国際先天異常
 モニタリングセンターのとりくみ (PDF:98KB)
       国立成育医療センターにおける妊娠・授乳と薬相談外来の実際 (PDF:129KB)
       聖路加国際病院生殖医療センター 妊娠と薬相談クリニック (PDF:144KB)
       虎の門病院『妊娠と薬相談外来』の取り組み (PDF:430KB)
       「妊婦使用医薬品に関するリスクカテゴリーの比較研究」 [PDF:262KB
 

・ 妊婦を対象とした薬剤疫学的な情報
前向きコホート研究
ケースコントロール
ケースシリーズ
症例報告
妊婦症例報告
薬物動態~胎盤通過性
催奇系メカニズムの解明と関連情報
生殖発生毒性試験
 
    妊婦であっても治療上の必要性が高く薬物療法が欠かせない疾患
 気管支喘息
 てんかん
 糖尿病
 甲状腺疾患
  コントロールが十分でないと母体と胎児への危険性が増すことを十分に説明し、
    薬物よりコントロール不良な疾患自体のリスクが大きいことを妊婦自身が理解し、
    積極的に治療に参加できるよう指導する必要あり。
 
・ GINA2009clicking here気管支喘息の国際GL
GINAでは、喘息の管理が十分でないと胎児に悪影響を及ぼし、周産期死亡率の増加や未熟児および低体重児の増加を引き起こすこと、妊娠中よく管理された喘息女性から生まれた子供の予後は喘息のない女性から生まれた子供とほぼ同等。
 喘息の最善のコントロールを目的とした薬物療法の必要性が強調されている。
血中濃度を調節しながら投与するテオフィリン、クロモグリク酸ナトリウムの吸入投与、副腎皮質ステロイド薬の吸入投与、β2刺激薬の吸入投与で、胎児異常の発生頻度が増加することはないと結論付けられている。
 
  Overviewof asthma therapy in pregnancy :
  • goal of asthma therapy in pregnancy is maintaining adequate oxygenation of fetus through prevention of hypoxic episodes in mother
    • monitoring of asthma status during prenatal visits is encouraged
    • it is safer for pregnant women with asthma to be treated with asthma medications than to have asthma symptoms and exacerbations
    • step-wise management preferred, increasing number and dosage of medications with increasing asthma severity
  • medications
    • inhaled corticosteroids are preferred treatment for long-term control medication
    • budesonide is preferred inhaled corticosteroid
    • inhaled albuterol is recommended rescue therapy
  • stepwise therapyfor asthma during pregnancy and lactation
    • step 1 (intermittent asthma) - inhaled albuterol as needed
    • step 2 (persistent asthma) - low-dose inhaled corticosteroids
    • step 3 (persistent asthma) - add long-acting beta-2 agonist and/or increase to medium-dose inhaled corticosteroids
    • step 4 (persistent asthma) - high-dose inhaled corticosteroids plus long-acting beta-2 agonist
 
The safety of metoclopramide use in the first trimester of pregnancy.
   Matok I, Gorodischer R, Koren G, Sheiner E, Wiznitzer A, Levy A.
   N Engl J Med. 2009 Jun 11;360(24):2528-35.PMID: 19516033
 
(背 景) メトクロプラミドは,妊娠女性に対する制吐薬の第一選択薬としてさまざまな国で
使用されているが,妊娠期の安全性に関する情報は十分ではない.
(方 法) イスラエル南部地区でクラリット健康保険(Clalit Health Services)に加入しているすべての女性に対し,1998 年 1 月 1 日~2007 年 3 月 31 日に行われた投薬に関するDBと,同時期にその地区の病院に入院した母子の入院記録のDBとを組み合わせ,妊娠第 1 期のメトクロプラミド投与の安全性を調査した.妊娠期のメトクロプラミド投与と胎児の有害転帰との関連について,母親の出産経験,年齢,民族,糖尿病の有無,喫煙状況,周産期の発熱の有無で補正して評価した.
(結 果) 調査期間中の単胎児出生数は 113,612 人であった.クラリット健康保険に加入している女性の児は81,703 人(71.9%)で,このうち 3,458 人(4.2%)は妊娠第 1 期中にメトクロプラミドに曝露されていた.
メトクロプラミドv. 非曝露 と比較して,
主な先天性奇形: 5.3% v. 4.9%,OR 1.04,95%[CI 0.89~1.21
低出生体重: 8.5% V. 8.3% OR 1.01,95% CI 0.89~1.14
早期産: 6.3% V. 5.9% OR 1.15,95% CI 0.99~1.34
周産期死亡: 1.5% V. 2.2% OR 0.87,95% CI 0.55~1.38
曝露された胎児と曝露されていない胎児の治療的流産を解析に加えても,結果に変化はみられなかった.
(結 論) この大規模乳児コホートにおいて,妊娠第 1 期のメトクロプラミドへの曝露は,
複数の有害転帰のいずれについても,リスクの有意な増加とは関連していなかった.
これらの結果は,妊娠中の悪心・嘔吐を軽減するために母体にメトクロプラミドを投与した場合の,胎児に対する安全性にさらなる保証を与えるものである.
 
   Jentink J, Loane MA, Dolk H, Barisic I, Garne E, Morris JK, de Jong-van den Berg LT;
   UROCAT Antiepileptic Study Working Group. N Engl J Med. 2010 Jun 0;362(23):2185-93.
   Review.PMID: 20558369
(背 景) 妊娠第 1 期におけるバルプロ酸の使用は二分脊椎のリスク増加と関連することが示されているが,ほかの先天奇形のリスクに関するデータは限られている.
(方 法) 最初に,既に発表されている 8 つのコホート研究のデータ(バルプロ酸に曝露した女性の妊娠 1,565 件;118 件に主要な奇形を確認)を統合し,妊娠第 1 期にバルプロ酸を使用した女性が出産した児において有意に頻度が高かった 14 奇形を同定した.続いて,地域住民ベースの先天奇形登録から抽出された欧州先天奇形サーベイランス(European Surveillance of Congenital Anomalies:EUROCAT)の抗てんかん薬研究データベースを用いて症例対照研究を行い,妊娠第 1 期におけるバルプロ酸の使用と,この 14 奇形との関連を検討した.14 奇形のいずれかを伴う登録症例(すなわち EUROCAT に登録された奇形を伴う妊娠転帰)を,バルプロ酸使用との関連が示されていない奇形を伴う児から成る群(対照群 1)と,染色体異常を伴う児から成る群(対照群 2)の 2 つの対照群と比較した.
このデータセットには,1995~2005 年の欧州 14 ヵ国における出産 380 万件中の,奇形を伴う生産・死産・妊娠中絶 98,075 件のデータが含まれた.
(結 果) バルプロ酸単独療法への曝露は計 180 件の登録症例で記録されており,内訳は症例群が 122 件,対照群 1 が 45 件,対照群 2 が13 件であった.
妊娠第1期に抗てんかん薬を使用していない場合(対照群 1)と比較して,バルプロ酸単独療法の使用は,検討した 14 奇形のうち 6 奇形のリスク増加と有意に関連し,補正ORは、
   二分脊椎: 12.7(95%信頼区間 [CI] 7.7~20.7)
   心房中隔欠損: 2.5(95% CI 1.4~4.4)
   口蓋裂: 5.2(95% CI 2.8~9.9)
   尿道下裂: 4.8(95% CI 2.9~8.1)
   多指症: 2.2(95% CI 1.0~4.5)
   頭蓋縫合早期癒合症: 6.8(95% CI 1.8~18.8)
 バルプロ酸への曝露による結果は,他の抗てんかん薬への曝露による結果と類似していた.
(結 論)
   妊娠第1期におけるバルプロ酸単独療法は,抗てんかん薬を使用していない場合や他の抗てんかん薬を使用した場合と比べて,いくつかの先天奇形のリスク増加と有意に関連した.
 
     and meta-analysis. 
     Brocklehurst P, French R. Br J Obstet Gynaecol. 1998 Aug;105(8):836-48.
    Review.PMID: 9746375   
・ Maternal and perinatal outcome in women with threatened miscarriage in the first trimester: a systematic review.
    Saraswat L, Bhattacharya S, Maheshwari A, Bhattacharya S.
    BJOG. 2010 Feb;117(3):245-57. Epub 2009 Nov 26. Review.PMID: 19943827
・ The safety of quinolones--a meta-analysis of pregnancy outcomes.
    Bar-Oz B, Moretti ME, Boskovic R, O'Brien L, Koren G.
    Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 2009 Apr;143(2):75-8. Epub 2009 Jan 31.
   Review.PMID: 19181435
・ A review of pregnancy outcomes after exposure to orally inhaled or intranasal budesonide.
   Gluck PA, Gluck JC. Curr Med Res Opin. 2005 Jul;21(7):1075-84. Review.PMID: 16004676
・ Safety and efficacy of antiemetics used to treat nausea and vomiting in pregnancy.
    Leathem AM. Clin Pharm. 1986 Aug;5(8):660-8. Review.PMID: 2874910
Use of Acyclovir, Valacyclovir, and Famciclovir in the First Trimester of Pregnancy and the Risk of Birth  
     Defects

    →妊娠初期の単純ヘルペス感染症に対する抗ウイルス薬と先天異常リスクの関連見られず
Pregnancy outcome after exposure to ranitidine and other H2-blockers
     A collaborative study of the European Network of Teratology Information Services
Use of Proton-Pump Inhibitors in Early Pregnancy and the Risk of Birth Defects
    B. Pasternak and others
(N Engl J Med 2010; 363 : 2114 - 23.)
 服用時期と催奇形成の時期が重要
→ 頭臀長 で妊娠周期を確認するのが、正確
 妊婦服薬カウンセリングは、Riskコミュニケーションスキルが必要で、
ベースラインrisk を上げるのかがポイントとなる。
    授乳婦への投薬のDB:LactMed: A New NLM Database on Drugs and Lactation
LactMed may be searched at
 孤発例を過剰の評価しない。
 

海外や日本での添付文書への妊婦・授乳婦における薬物療法への記載内容の変更について、随時情報を収集して、より現実的な情報提供に近づけるよう今後も努力しないと、いけませんね。

(参考)第50回日本先天異常学会 妊婦にはリスクコミュニケーションの見直しを
               Organization of Teratology Information Services (OTIS)
               ENTIS(European Network of Teratology Information Services)

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最終更新:2011年01月30日 22:03