■Benign Prostate
Hypertrophy(BPH)
・BPHは内腺に発生する良性腫瘍:前立腺上皮および間質の細胞数が増加・・・アポトーシス障害
・BPHから前立腺がんに進むことはないと考えられている。
・BPHは内腺(尿道を取り囲む部分:移行領域)で発生。
・前立腺がんは、主に外腺(尿道から離れた部分:辺縁領域)に発生
・前立腺ガンの早期では自覚症状はない。
・がんが進行し、尿道や膀胱を圧迫するようになると、排尿時の症状や血尿などがあらわれる。
・BPHの3つの要素: 前立腺腫大(BPE=Benign Prostatic Enlargement)、
下部尿路症状(LUTS=Lower Urinary Tract Symptom)、
膀胱出口閉塞(BOO=Bladder Outlet Obstruction)。
・BPEは前立腺の解剖学的な大きさの異常
・LUTSとは、下部尿路の症状全般を指す用語で、頻尿、尿意切迫感、尿失禁などの蓄尿症状、尿勢低下、
尿線途絶などの排尿症状、排尿後尿滴下、残尿感などの排尿後症状が含まれる。
・BOOとは、膀胱出口の通過障害を意味し、物理的に圧迫されることによる抵抗の増大のほかに、
機能的な通過障害も含まれる。
・古典的なBPHはこれら3つの要素が全てそろったものを指していたが、実際の臨床の場においては
3要素すべてがそろっていない場合も多い。
・前立腺が腫大しているにも拘らず排尿障害がなかったり、前立腺は大きくないのに症状を強く訴える
ケースが存在する。
・BPHの診断基準に統一された見解は無く、自覚症状、尿水力学的検査、前立腺体積などの様々な基準で
罹患率を推定すると、大きな差が認められる。
・現在のBPHは、50歳以上の男性の下部尿路症状(male LUTS)を呈する状態。
・BPH/LUTSは、その病因として神経疾患などの明らかな他の原因を認めない状態を大まかに指すもの。
→解剖学的な異常を指すだけでない。
・尿道が圧迫され狭くなることで、尿がでにくい、トイレの回数が多くなる、尿をしたあとすっきりしない、
などの自覚症状があらわれる。
・排尿関連症状があらわれるようになると日常生活に支障をきたすと適切な治療が必要。
・これらの症状には、腎臓、内分泌系、神経系、心血管系の原因も影響していることが解明されている。
・排尿症状(閉塞症状)と、より煩わしい(bothersome)蓄尿症状(刺激症状)を区別することも重要。
■LUTS/BPH
・BPE起因LUTSを有する男性患者に対しては、施行可能な薬物療法ならびに外科的治療の選択肢が増加。
・BPHは病理学的な診断名で、臨床的に診断されるBPHまたは症候性BPHは良性前立腺疾患起因LUTS。
・LUTSは、性別に特有の症状を指していない。
・LUTSは、その病的状態に関する考え方に加え、その症状の検査・診断方法にも影響を与えている。
・LUTSは、男性の排尿関連症状を、前立腺のような特定の症状発現部位から切り離して扱うために、
1994年に初めて導入された包括的な用語。
・LUTSは蓄尿症状、排尿症状、排尿後症状というすべての排尿関連症状を包含する(図1)。
・LUTS/BPHは高齢男性の慢性の病的状態であり(5人に1人)、QOL疾患。
・LUTS/BPHで特徴的に認められるのは、尿道を取り囲んでいる前立腺組織の良性の過剰増殖。
・通常、尿道開口部の狭窄をもたらし、LUTSを引き起こすことが多い。
・BPHの深刻な合併症は、急性尿閉(AUR)、腎機能障害または腎不全、膀胱結石、反復性尿路感染症、
BPH手術。しかし、BPHを有する男性患者の多くは無症状。
・LUTS/BPHの管理は、患者が訴える症状に伴うbotherおよびQOLに及ぼす悪影響の程度が指針。
・患者が何を求めているかを把握することが、効果的な治療選択肢を見極める上での重要な手がかり。
・治療選択には、既知の有害事象とのバランスを考慮。
・BPH治療の目的は、症状に伴うbotherの改善、症状進行の抑制、長期的合併症の低減。
■前立腺肥大症の診断
・病歴、直腸診、検尿、PSAなどの基本的評価を行い、続いて前述の三要素に対する評価を行う。
*尿沈渣を含む尿検査
・LUTSの定量的評価としては、国際前立腺症状スコア(I-PSS)、QOLスコアによる自己評価。
・QOLスコアは、I-PSSによる症状の強さが同程度であっても、個々の患者によって困窮度が異なる。
・排尿日誌(丸一日の間の排尿時間と1回ごとの排尿量を記録させる方法)は、主観的な尿回数や
尿量を定量化することにより、重症度の判定や原因の究明に極めて有用である。(排尿機能学会版)
・BOOの評価として最も簡単に行えるのが、尿流測定および残尿測定である。
尿流測定に関しては専門の器械が必要だが、残尿測定は一般の超音波検査で簡単に測定可能。
*
尿流動態(ウロダイナミクス)検査
*経腹的超音波断層法
・BPEの評価すなわち前立腺形態の評価も、超音波検査。
前立腺のたて・よこ・高さを測定して推定体積を算出できる。
・専門的検査としては、膀胱内圧測定や内圧尿流測定(pressure-flow-study)などの尿水力学的検査や
内視鏡検査もあるが、全例に必須なものではなく上記の検査だけで十分診断可能である。
・ 前立腺肥大症診療ガイドラインにおいては、I-PSS、QOLスコア、尿流測定、残尿量、前立腺体積に
ついて、それぞれ重症度分類し、その組み合わせにより全般重症度を決定して、治療方針を提示。
■変化しつつあるBPHの治療アルゴリズム
・煩わしさ(bothersome)のきっかけは、外科手術施行後に顕著な変化による再認識。
ope後に蓄尿症状(尿失禁の有無にかかわらずの尿意切迫感および夜間頻尿)を感じ、
ope前までの尿線の質は不良であったと再認識することが多いよう。
・排尿症状(以前は閉塞症状と呼ばれていた)のほうが蓄尿症状(刺激症状)よりも多く認められるが、
botherの程度は低いと考えられている。
・蓄尿症状の多くは、過活動膀胱(OAB)症候群。
・OAB症候群を有する患者の一部に、排尿筋過活動との関連性が認められる。
・前立腺腫大の高齢男性患者の場合、蓄尿症状は前立腺の異常の関与が推測されたが、
有症状率の高さから、主として年齢に関連したものと考えられるようになってきた。
■適正患者への適切な治療法の選択
・LUTS/BPH治療の主要目的は以下。
・ベースライン時および治療期間中の症状スコアおよびbother因子の評価を、第一目標。
・その次に、急性尿閉などのイベントの発現率および手術への移行率を把握するとともに、
有害事象の発生率抑制のための努力をすべき。
・LUTS/BPHの病的状態および一部の治療法により、深刻な合併症が引き起こされる可能性あり。
・LUTSのリスク上昇に関連した併発症についての評価も必要。
・ノルウェーで実施されたHUNT試験において、中等度~重度LUTSのリスク上昇は、BMI、
ウエスト/ヒップ比、生活習慣関連因子(飲酒および喫煙)のほか、糖尿病、脳卒中、変形性関節症などの
病態とも正相関を示す。
・LUTSと性機能障害は、年齢および併発症に関係なく強い関連性を有することも示されている。
・心血管因子、代謝因子および内分泌因子がLUTS発生に関与?
・Baltimore Longitudinal Study of
Agingの成績から、2型糖尿病患者あるいは空腹時血糖上昇が
認められる患者では、BPEを有する率が対照に比較して2倍または3倍高い。
・肥満、高血圧、空腹時血糖上昇、糖尿病、脂質異常症を特徴とするメタボリックシンドロームも、
テストステロン低値と関連。
・テストステロン補充療法により、2型糖尿病を有する性腺機能低下症の男性において、
メタボリックシンドロームの特徴となる要素の改善がみられたことが示されている。
・男性の全般的な健康に関する諸側面を含めた包括的なアプローチを念頭に置いた診断は、
下部尿路および性的な健康のバロメーターとなり、全般的健康の病態を評価するきっかけともなる。
・LUTSの評価の目的は、進行性の疾患や、疾患および症状の重症度およびbotherを定量化、BPHの
重篤な合併症を明らかにすること。
・Olmsted county、MTOPS(medical therapy of prostate symptoms)試験等で示されたBPH進行因子。
・Botherスコアや症状スコアが低い(IPSS<7)男性には前立腺癌起因でないと説明し、不安を取り除く。
・排尿関連症状を悪化させる生活習慣関連因子および薬物療法を再検討することによっても、許容可能な
症状スコアが得られると考えられる。
・IPSS(症状スコア)の価値は、診断の確実性を高めることではなく、ベースライン時の症状の適切な評価。
薬物療法後に得られた患者の満足度を確認するために、再度評価を行う。
・頻度・尿量記録は、夜間頻尿を有する患者および飲水習慣が正常でない患者の評価にとくに有用。
・BPHの合併症、すなわち血尿、尿閉、腎機能障害、反復性尿路感染症を有する患者は、専門医へ紹介
■前立腺肥大症の治療
・経過観察、薬物療法、低侵襲手術(レーザー凝固術、高温度治療、HIFU)、手術(経尿道的前立腺
切除術=TUR-P、レーザー蒸散術・核出術、開放手術=前立腺被膜下摘出)が挙げられる。
・重症度判定に基づいて治療が決められる。重症なものほど侵襲的な治療が適応となる。
・治療の中心をなすのは、薬物療法であり、その中でもα1ブロッカーが最も標準的な治療薬である。
・基本的に、排尿困難などの排尿症状に対して、α1-blocker、抗アンドロゲン剤。
・頻尿・尿意切迫感などの蓄尿症状に対して、α1-blocker、抗コリン剤およびこれらの併用療法。
→抗コリン剤+α1-blocker
の併用療法のRCTをまとめた ppt
・前立腺肥大症に合併する頻尿・尿意切迫感の治療においては、排尿症状をα1-blockerで抑制し、
蓄尿症状を抗コリン剤で抑制する併用療法。しかし、抗コリン剤を前立腺肥大症に投与すると、
逆に尿流率を低下させることから、QOLの低下に繋がる可能性があり、残尿が多い症例では、
尿閉を引き起こす危険性もあり、その使用に関しては、注意が必要で、「慎重投与」。
・α1ブロッカーは、前立腺平滑筋の弛緩によりBOOの改善(膀胱頸部の抵抗↓)をもたらす以外にも、
頻尿や尿意切迫などのOAB症状への効果もあるといわれている。
・α1aサブタイプ優位の薬剤は排出症状の改善に特に効果あり。
・α1dサブタイプ優位の薬剤は蓄尿症状の改善に有効とされている。
・患者によって有用性が異なるようで、一種類のα1ブロッカーの処方だけで判断せずに、何種類かを
投与してその患者に最も有効であった薬剤を選択するのがよいと考えられている。
・前立腺の縮小を目的とした抗男性ホルモン製剤のうち、5-アルファ還元酵素阻害薬は、PSAの見かけ上
の低下により前立腺癌をマスクすることがあるため注意が必要である。
・植物エキス製剤、アミノ酸製剤、漢方薬などの薬剤もあるが、α1ブロッカーの補助的な薬として処方され
ることが多い。
・蓄尿障害OABを伴うBPHには、抗コリン(ムスカリン)製剤が有効。
・しかし、抗コリン剤はともすれば排尿障害の悪化をもたらすため、投与前、投与後に必ず残尿量をチェック
するとともに、α1ブロッカーとの併用をするなど細心の注意が必要である。
・IPSSが8以上、QOLスコアが2以上の中等症以上の場合、まずα1-blockerを投与。
・α1-blockerの投与により、排尿症状が改善されても、蓄尿症状が残る場合、抗コリン剤との併用療法を
考慮。
・抗コリン剤の併用療法の際、残尿が少ないことの確認は必須。
・残尿が100ml以上の時は、尿閉の危険性があり、専門医に相談。
・α1ブロッカーの使用にあたっては、めまい、立ちくらみ、射精障害、軟便、下痢などの副作用に留意。
・白内障の患者においては、手術時に術中虹彩緊張低下症により、手術がやや困難になるとされている
ので、患者、眼科医への情報提供が必要である。
術中虹彩緊張低下症候群(Intraoperative floppy iris syndrome; IFIS)
IFISは虹彩の瞳孔散大筋の弛緩(縮瞳および虹彩のうねり)であり、白内障手術をより難しくさせる。その発生率は低いものの、白内障手術施行中の眼科医にとっては重大な問題となる可能性がある。IFISはαブロッカーを服用中の患者に発生する。最初に報告されたのはタムスロシン服用中の患者であったが、現在ではすべてのαブロッカーが縮瞳を引き起こしうることが明らかになっている。また、αブロッカーが瞳孔の大きさに及ぼす作用は服用8時間後には消失することが示されており、白内障手術を受ける患者は、数日前からαブロッカーの服用を中止すべきであることが示唆される。しかし、すべての眼科医がこの見解を共有しているわけではない。それは、一部の症例では、αブロッカー中止後数週間が経過してもIFISの発生する可能性があることが示されているためである。したがって、白内障手術施行前におけるαブロッカーの中止時期および期間に関して、普遍的に受け入れられている勧告はない。それよりもむしろ、眼科医、泌尿器科医ともに、この病的状態について理解を深めておく必要があろう。また、白内障手術の施行時、眼科医が手技の調整を行うことにより、虹彩の緊張低下あるいは虹彩のうねりといった問題が克服できる可能性もある。米国食品医薬品局(FDA)は、IFISはすべてのαブロッカーに共通してみられる作用であるとの見解を示している。IFISは糖尿病などの病的状態にも関連していると考えられる。
■夜間頻尿の原因と治療
・夜間頻尿とは、夜間1回以上排尿のために起きなければならない愁訴をいい、LUTSの一症状。
・元々、BPHに特有な症状と考えられていたが、女性でも見られる。
・LUTSの生活支障度の中では最も困窮度が高いとされている。
・夜間排尿回数の多い高齢者ほど生存率が低いとのデータがあり、夜間排尿時に転倒するなどの不慮の
事故が多くなることがその一因と考えられている。
・夜間頻尿の要因には、夜間の膀胱容量減少と夜間多尿があり、尿路のみならず全身の状態が
関与していて複雑である。
・夜間膀胱容量の低下をきたす原因としては、下部尿路疾患(BPH、前立腺癌、慢性前立腺炎、
慢性膀胱炎、神経因性膀胱、間質性膀胱炎など)、睡眠障害(浅い睡眠により尿意閾値が低下)、
血圧上昇(カテコールアミンによる尿道内圧上昇、知覚過敏)などがある。
・夜間多尿をきたす原因としては、睡眠障害(抗利尿ホルモン(ADH)分泌障害、睡眠時無呼吸時の
Na利尿ペプチドの増加)、血圧上昇(日中の血圧上昇→腎血流量の低下→細胞外水分の増加→
夜間尿増加)、過剰飲水、内分泌疾患(糖尿病、尿崩症など)などが挙げられる。
・血栓症予防のための水分摂取が啓蒙されているため、過剰な水分摂取による多尿が
多く見受けられる。
・夜間頻尿の治療においては、多尿と真の頻尿の区別が重要。
・排尿日誌の活用が効果的。
・1日尿量としては、(30×体重)mlが標準で、1500~2000mlを目安とする。
・(40×体重)ml以上であれば、多尿と考えてよい。
・夜間多尿は、1日尿量の1/3以上の夜間尿がある場合をいう。これを踏まえた上で、
基礎疾患(尿路疾患、
神経疾患、DMなど)の有無、睡眠障害の有無、血圧の管理状況などをチェックする。
・夜間多尿がある場合は、水分摂取の適正化を図るとともに、日中の軽い運動を勧める。
・薬物療法を行う場合はADH製剤や利尿剤(午後に内服)を考えるが、過度の水分貯留や脱水を招く
恐れもあるので注意が必要である。
・夜間多尿がない場合は、BPHがあればα1ブロッカー、BPHが無い場合や女性の場合は、
過活動膀胱として、抗コリン剤の使用を考える。
・BPHがあってα1ブロッカーのみでは夜間頻尿の改善が乏しい場合は、抗コリン剤の併用を考えるが、
排出症状の悪化に注意する。神経質な患者や不眠が主体と考えられる場合には、向精神薬
(抗不安剤、抗うつ剤)も有効である。
αブロッカー
・タムスロシンは、α1Aおよびα1Dサブタイプに対する優れた選択的阻害。
・タムスロシンの経口持続吸収型徐放システム(OCAS)は、タムスロシン分子の吸収経路を変更させ、
最高濃度は低下し、安定したプラトーがより長時間維持されるため、副作用プロファイルがさらに改善。
非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)
・BPHの発生を抑制あるいは遅延させることが、American Journal of
Epidemiologyに掲載された住民ベースの
コホート試験の結果により示されている。
・急性および慢性の炎症所見が良性前立腺腫大を有する男性でしばしば観察され、この病理学的な所見
により、NSAIDsなどによる抗炎症療法がBPHの発生または進行のリスクを低減することが示唆される。・
・NSAIDsは前立腺内の細胞増殖を抑制し、前立腺細胞のアポトーシスを誘導すると考えられる。
・NSAIDsを定期的に服用している男性では、服用していない男性に比較して中等度~重度の症状、
尿流率低下、前立腺腫大、PSA値上昇が有意に少ない傾向にある。
※男性下部尿路症状診療ガイドライン
※前立腺肥大症と前立腺ガンBenign Prostatic Hyperplasia & Prostatic
adenocaricinom
・前立腺の大きさに関連した問題
・前立腺癌の「場」としての前立腺肥大症
・PSAが高くなる理由
・PSA値が高い場合の診断と治療の流れ
・早期前立腺癌に対する針生検の功罪
・前立腺潜伏癌(ラテント癌)の悪性度
・5α-還元酵素阻害薬は前立腺癌の予防および検出においてどのような役割を果たすか
・前立腺肥大症の新しい治療薬
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