関節リウマチ(RA)の治療

目標達成・維持のための薬物療法-個々の患者さんに適した治療薬でのTight Control
   ・
RA治療の4本柱:薬物・手術・教育・リハビリテーション
   ・ RA)治療はCareからCureへ。
           Care
NSAIDやステロイドなどを使って疼痛を軽減するなど、短期的QOLの改善を目的。
           Cure
DMARDで骨関節破壊を防止し、生命予後を改善し、長期的QOLを保持。

推奨されているDMARDsと管理のポイント
 ・日本の各ガイドライン(GL)で推奨度A

  メトトレキサート(MTX)、サラゾスルファピリジン(SASP)、ブシラミン、
    タクロリムス(TAC)、インフリキシマブ(IFX)、エタネルセプト(ETN)、
    アダリムマブ(ADA)、トシリズマブ(TCZ

 

  ※これらの適性使用でほとんどの症例を低疾患活動性に達するとされる。


 ・治療薬の選択には予後不良因子の考慮も重要
 ・予後不良因子が多いほどより早く強力な治療が必要とされる
  (ACR 2008.6,EULAR 2009.6)。
 ・予後不良因子(関節破壊障害因子)は、
   ①RF陽性または抗CCP抗体陽性
   ②骨びらん
   ③高身体機能障害
   ④関節外症状(シェーグレン症候群、リウマチ結節、リウマチ肺、血管炎、Felty症候群)
   ⑤高疾患活動性、である。


  ・ステロイドは抗炎症効果が劇的だが関節破壊抑制効果が乏しいため、限局した使用が推奨。
 ・ステロイド使用により、
問題点が判明したため
   ①院内肺炎増加に伴う生命予後の悪化
   ②易脊椎圧迫骨折による高齢者ADL障害
   ③患者が鎮痛を治療目標にする、
 ・ステロイドの使用は、
   ①発症早期の鎮痛・抗RA作用の期待(短期的、緊急避難的使用)
   ②関節外症状の管理や妊娠中・合併症などでステロイド以外使用不可の場合
 ・ステロイドの継続使用を希望する患者への指導が、極めて重要。


1.非生物学的DMARDsnon-Biologicsnon-Bio

MTX
   ・anchor drugもしくはkey drugという位置付け。

   ・内服薬で最も高い有効率(2次無効が少ない)・継続率・

     安全性(特異的拮抗物質有り)・骨破壊抑制効果(Bio以外で最優)・
     生命予後改善効果も期待。

 ・禁忌はHBs抗原陽性、HCV抗体陽性かつHCVRNA陽性、慢性肝疾患、腎機能障害、
     白血球<3000/mm3、妊娠などである。

   ・MTXの有効で安全な使用には葉酸の一定量摂取を指導する。

 ・MTXと因果関係を否定できない死亡原因は血球障害や間質性肺炎。
   ・死亡症例の特徴は、高齢者、85%は≦6mg/週使用、31%は開始2年以後、45%は禁忌症例。
   ・投与禁忌を守り、少量長期使用でも注意して使用する。

 
 SASP:
   ・予後不良因子のない症例へACR2008で推奨
   ・多くの大規模試験で有効性は確認されており、早期軽症患者に有効
   ・効果発現も12カ月と速い。

 ・骨破壊抑制効果もある。
   ・副作用は開始から3カ月以内に多く(約9割)、皮疹には注意が必要で、肝機能障害、
     白血球減少なども時として起こる。


 ブシラミン:
   ・本邦のみ発売で、関節破壊抑制効果も報告されている。
   ・副作用は皮膚障害13.1%、腎障害(蛋白尿)6.0%、胃腸障害5.1%などと多い。
   ・開始3カ月以内に約6割出現し、1年以後も1割近く出現する。
   ・特に蛋白尿出現では使用を中止する。
   ・3年継続率はMTX7割に比べてブシラミン3割。
   ・ブシラミン中止の理由は効果欠如25.4%、有害事象19.6%と報告されている
    
Efficacy and safety of bucillamine, a D-penicillamine analogue, in patients with
active rheumatoid arthritis.

      Sekiguchi N, Kameda H, Amano K, Takeuchi T.
Mod Rheumatol.2006;16(2):85-91


 TAC:
   ・炎症抑制効果は強いが関節破壊抑制効果は僅かとされ、使用頻度は少ない。
   ・併用禁忌が多いため、患者にはグレープフルーツジュースの中止と
     他科に必ず本剤使用を伝えるよう指導する必要がある。


2
.生物学的DMARDsBiologicsBio

 IFX:

   ・全例市販後調査(PMS)であるRECONFIRM試験を行っている。
     
RECONFIRM試験:日本リ ウマチ学会
   ・MTX併用下のIFX投与前と22週後のDAS28- CRPの変化を評価した結果、IFXの疾患活動性は投与前に比べ
     寛解は27.9%EULAR改善基準の寛解も84.5%であった(Yamanaka HMod Rheumatol 2007)。
   ・続いてDAS28-CRPによる有効性評価をIFX3mg/kg10週投与後、3mg/kg群、6mg/kg群、10mg/kg群に
     分けて、54週後のIFXの長期効果を追跡した結果、3mg/kg群に比べて10mg/kg群はEULAR改善基準を
     有意に上げた。さらに10週時に不応症例の最終寛解率は6mg/kg群で約半分、10mg/kg群で全員が達した
    (Takeuchi TMod Rheumatol 2009)。
   ・これらを受けて10mg/kg8週毎の使用も可能となった。
   ・IFX
使用の最近の考え方は3mg/kg4週まで継続し、効果不十分な症例には増量か他剤変更を検討する。
   ・さらに、発症2年以内の早期活動性でDMARDs未使用RA対象のBeSt studyIFX 3 mg/kgMTX25–30 mg/
     開始群をサブ解析した結果、低疾患活動性の維持率は1年後にMTX単剤(Bio-free寛解)が5割、
    3年後から5年までDrug-free寛解に約2割が達したと報告している
    (van der Bijl AEArthritis Rheum 2007)。
    → 高価なBioは導入に躊躇するが、寛解による休薬や中止の可能性が示され、注目されている。

  

 ETN:

   ・平均罹病期間9.4年、投与前疾患活動性DAS28-4ESR 5.87を対象としたPMSで、24週後の有効率は
    EULAR改善基準で84.3%、DAS28寛解率で18.9%であったと報告している。
   ・IFXはキメラ型で抗体ができやすくMTX併用は必須で、抗体出現で効果が下がるが、
    ETNでは効果の低下がなく、抗体もできず単独で効果が期待できる。
   ・MTX併用例の寛解率はETN単独と比較し、有意に高いと報告されている。
   ・CochraneレビューによるBioの有効性と安全性(有害事象による投与中止)を検討したメタ解析では、
    ETNADAIFXに比べ安全性が高かったと報告している(Singh JACMAJ 2009)。
   ・自己注射(週12回)が可能であり、病診連携が唯一可能な薬剤と考える。


 ADA:
   ・国内臨床試験で単独投与24週時点のACR20ACR改善基準コアセット5項目のうち3項目以上が20%以上
     改善)、ACR50ACR70は、ADA40mg(隔週投与)で各々44.0%24.2%12.1%ADA80mg(隔週投与)で
     50.6%
32.2%14.9%という高い有効性が得られた。しかし、日本人のADA抗体の出現頻度が高くかつ
     効果が下がるため、MTX併用が推奨される。

 TCZ
   ・唯一のIL-6Interleukin-6)阻害剤。
   ・罹病期間平均2.3年対象のSAMURAI試験で、non-Bio DMARDs群に比べてTCZ単独群は、52週後のX線像上で
     有意な関節破壊の進行抑制を示し、DAS28寛解率も58.6%と高い効果を示した
    (Nishimoto NAnn Rheum Dis 2007)。
   ・TCZの特徴は単独で高い臨床的寛解率を示すことである。6カ月時点でみるとTCZの有効性は
    TNF阻害剤より高い。

   ・罹病期間の長い患者でも高い効果が望めるとされるが、効果発現は23カ月と遅い。
   ・安全性は感染の初期症状である発熱・倦怠感・CRP上昇を抑制し、感染症等の副作用の判別が難しい。
   ・腸管憩室穿孔の頻度が高い。

3.生物学的DMARDsの安全な使用に向けて

・JCRより、有効かつ安全な使用に向けて、TNF阻害(IFXETN)療法、ADATCZの使用に関するGLあり。
  ・各GLBio使用対象者は「non-Bio DMARDs通常量を3ヶ月以上継続使用してもコントロール不良
    (以下3項目:圧痛関節数6関節以上、腫脹関節数≧6関節、CRP2.0mg/dlESR28mm/hr
  ・TNF阻害療法のみ、「関節破壊かDAS28-ESR3.2寛解のいずれかを認める場合」にも推奨。
  ・ただし、各Bio使用には日和見感染症を避けるために、以下
項 目を満たすことが望ましい
      ①末梢血白血球数≧4000/mm3
      ②末梢血リンパ球数≧1000/mm3
      ③血中β-D‐グルカン陰性の3
  ・各BIO共通禁忌:感染症(HBVキャリアは原則禁忌・非結核性抗酸菌は症治療成功除く)。
  ・IFXETNADAではNHYHAⅢ度以上心不全、5年以内悪性腫瘍(血液系は禁忌、その他は原則禁忌)、
    脱髄疾患も禁忌。
  ・共通の注意点
      ①結核既存(問診・ツ反・CTINH先行投与)
      ②ニューモシチス肺炎(PCP)の危険因子保有の場合ST合剤予防投与を考慮
  ・IFX投与下で検証されたPCP危険因子
      ①65歳以上
      ②PSL6mg/dl
     
③既存の肺疾患
  ・JCRでは危険因子3個以上ならIFX開始前に有益性の検討と全例ST合剤予防投与開始など
    可能な予防策の検討。
  ・2因子保有はIFX開始後、アルブミン低下またはIgG低下傾向があればST合剤予防投与開始を推奨。
  ・RAの日常診療では、38℃を越す発熱、ひどい咳、息苦しさ、腹痛などの体調不良時は早期受診し、
    採血、X線、検尿などの検査をするよう注意を促すことが重要。

Q&A

QDAS28CRPと共にESRを指標にする理由は?

ACRPESRも各々計算式があり、海外では同じ寛解基準を用いている。しかし、日本のCRPの寛解基準はDAS282.3を推奨している。ESRは複合的要因(貧血、炎症、免疫グロブリン過多)を統合した結果であり、国際的にはESRで評価した方がよいとしている。

QBio移行前のMTX増量の判断基準は?

A通常、MTX6mg/週(高齢者4mg/週)で始め、2,3週毎に増量し、3.4週間後には8mg/週(適応外15mg/週まで)、3ヶ月以内に最大量に増量して低疾患活動性に改善するか見極める。2ヶ月後にBio導入を判断し、3ヶ月後にBioを開始すると長期予後がよいとされている。MTX16mg/週まで年内に承認の予定であり、経済的にBioが難しい場合、MTX増量や他のnon-Bioとの併用も選択枝となる可能性はある。しかし、MTX増量は副作用も増えるため、慎重な増量が望まれる。

Q38℃以上の発熱の場合、MTXは中止するか?

ARA38℃以上の発熱はない。服薬を中止して早期受診を促す。風邪の発熱でもMTXは中止する。

 

(おまけ)
Mod Rheumatol.2009;19(5):478-87. Epub2009Jul 22.
     Impact of trough serum level on radiographic and clinical response to infliximab plus  
     methotrexate in patients with rheumatoid arthritis: results from the RISING study.
    Takeuchi T, Miyasaka N, Inoue K, Abe T, Koike T; RISING study.

    BeS試験Arthritis Rheum2005;52: 3381-90.
Clinical and radiographic outcomes of four different treatment strategies in patients with early rheumatoid arthritis (the BeSt study): a randomized, controlled trial.
Goekoop-Ruiterman YP, de Vries-Bouwstra JK, Allaart CF, van Zeben D, Kerstens PJ, Hazes JM, et al.


4
つの治療戦略の臨床効果および関節破壊抑制に対する効果を比較。
多施設無作為化オープ ン試験
1P早期活動性RA(発症2年以内)でDMARDs未投与(抗マラリア薬を除く)の患者508
E.C以下4群に無作為化。
   Group 1
:単剤療法
                 MTX
SSZLEFMTX+インフリキシマブ金製 剤+mPSL
                 →
MTXCSAPSL
   Group 2
:ステップアップ療法 
                 MTX
MTXSSZMTXSSZHCQMTXSSZHCQPSL

                 →
MTX+インフリキシマブ→MTXCSAPSLLEF
   Group 3:ステップダウン療法(COBRA療法)
                  MTX
SSZPSLMTXCSAPSLMTX+インフリキシマブ→LEF
                  →金製剤+
mPSLAZAPSL
   Group 4
:生物学的製剤療法
                  MTX
+インフリキシマブ→SSZLEFMTXCSAPSL
                  →金製剤+
mPSLAZAPSL
   ※ 3
ヵ月ごとにDAS44を評価し、DAS442.4の場合は次のステップに移行。       
       DAS44
2.46ヶ月以上継続した場合、薬剤を漸減し、1剤のみを維持用量で継続。
OD-HAQHAQDutch version)による機能評価および
      modified Sharp/Van der Heijde score
SHS) による関節破壊の評価

(結果)
機能的な改善はGroup 34のほうがGroup 12に比べて早く、3ヵ月時点のD-HAQスコアの平均はGroup 121.0Group 340.6p0.001)、1年時点の同スコアの平均はGroup 120.7Group 340.5であった(p0.009)。

 関節破壊の進行も
Group 34のほうがGroup 12に比べて抑制され、1年時点の総SHSの増加の中央値はGroup 14でそれぞれ2.02.51.00.5であった(p0.001)。

DAS44
2.4を達成した患者の割合、およびDAS442.4が継続したために1ステップ目の

治療法を続け た患者の割合は、いずれも
Group 34Group 12よりも高かった。

有害事象の例数および中止例数には4群間で有意差がなかった。

     BeSt試験サブ解析
  
Infliximab and methotrexate as induction therapy in patients with early rheumatoid arthritis.

van der Bijl AE, Goekoop-Ruiterman YP, de Vries-Bouwstra JK, Ten Wolde S, Han H,van Krugten MV, Allaart CF, Breedveld FC, Dijkmans BA.
Arthritis Rheum
.2007Jul;56(7):2129-34.PMID: 17599726
 
    A network meta-analysis of randomized controlled trials of biologics for rheumatoid arthritis
: a Cochrane overview.
RA患者に対する生物学的製剤の無作為化コントロール試験のネットワークメタ解析
:コクランオーバービューCMAJ 2009 Nov 24;181(11):787
 
(背景)RA患者において生物学的製剤6種類(アバタセプト、アダリムマブ、アナキンラ、
エタネルセプト、インフリキシマブ、リツキシマ ブ)の有効性と安全性を比較。
 
(方法)今回のネットワークメタ解析には、全ての完 結およびアップデートされたRA患者に
対する生物学的製剤についてのコクランレビューを 用いた。標準的な用量レジメを
用いた全てのプラセボコントロール試験のデータを取り入れた。主要なアウトカムは
有効性(ACR50と定義)、安全性(有害事象に関連した投与中止例数と定義)
生物学的製剤間の治療効果を間接比較には、混合効果 ロジスティック回帰法を使用。
 
(結果)プラセボと比べ生物学的製剤は臨床的に重 要なより高いACR50改善率と関連して いた(オッズ比[OR]3.3595%信頼区間[CI] 2.62-4.29)、有効性のための治療必要例数4 [95% CI 4-6])。しかしながら、生物学的製剤は多くの有害事 象に関連する投与中止にも関連しており(OR 1.3995% CI 1.13-1.71)、有害事象のための治療必要例数は52 (95% CI 29-152)であった。アナキンラは他の全ての生物学的製剤に比べ有効性が低かったが、この違い はアダリムマブおよびエタネルセプトとの比較においてのみ統計学的に有意であった(ORはそれぞれ0.4595% CI 0.21-0.990.3495% CI 0.14-0.81)。アダリムマブ、アナキンラ、インフリキシマブはエタネルセプトに比べより有害事象 に関連する投与中止に至る可能性が高かった(アダリムマブOR 1.8995% CI 1.18-3.04;アナキンラOR 2.0595% CI 1.27-3.29;インフリキシマブOR 2.7095% CI 1.43-5.26)
 
(解説)間接比較のため限界はあるものの、アナキ ンラはアダリムマブとエタネルセプトに
比 べ有効性が低く、エタネルセプトはアダリムマブ、アナキンラ、インフリキシマブに比べ安全性が高かった。今回のエビデンスのまとめはRA患者に対する治療薬として生物学的製剤についてのエビデンスに基づく選択をする場 合に医師および患者の一助となるであろう。
 
トシリズマブのエビデンス関節リウマチに対するトシリズマブの報告
 
トシリズマブの構造と特徴:抗体のヒト化
マウス抗体は、ヒトの体内では、異物として認識され,マウス抗体に対する抗体
human anti-mouse antibody;HAMA)が 産生される。インフリキシマブはマウスとヒトのキメラ抗体であることから、反復投与により20-40%の患者に中和抗体が出現すると言われている。
トシリズマブは、遺伝子組み換え技術により、相補性決定領域(CDR)のみを残すことにより、
頻回投与によるHAMAの形成を最小限に抑えることが可能になった。
 
  ・
SAMURAI試験Ann Rheum Dis 2007 Sep;66(9):1162full-text ・・・吟味結果はこちら。   

 ・生物製剤に関する主な臨床試験
 ・
アダリムマブとシリズマブ

 ・
生物学的製剤の使用について

   ・RAにおける生物学的製剤の効果減弱対する対処法

ヾ(*'-'*)

最終更新:2010年03月27日 17:47