「抗リウマチ薬の現状と問題点」 日本臨床薬理学会2009

 「抗リウマチ薬の現状と問題点」
     座長:山中寿(東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター)
         川合眞一(東邦大学医療センター大森病院リウマチ膠原病センター)

S13-1 低分子抗リウマチ薬の現状と新薬開発
山中寿 先生 (東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター)

  • DMARD(Disease Modifying Antirheumatic Drugs)は、疾患活動性を抑制して、関節破壊進行防止を期待する薬剤。
  • Biologic DMARD (高分子)に対して、従来の DMARD は、Non-Biologic DMARD (低分子化合物)。
  • 関節リウマチ( RA )治療にはCareとCureの2つの側面がある。
Care: NSAID やステロイドなどを使って疼痛を軽減するなど、短期的 QOL の改善を目的。

CURE:DMARD で骨関節破壊を防止し、生命予後を改善し、長期的 QOL を保持。
つまり、症状改善 → 骨関節破壊防止 → 生命予後の改善 と、その治療目的が変化してきている。
  • Non-Biologic DMARD の MTX は 現在でも世界中で最も汎用されている。
  • 第3世代とよばれるタクロリムスやレフルノミドなどの免疫抑制薬も、その有用性が証明されている。
  • Biologic DMARD は、従来得られなかった骨関節破壊をほぼ完全に抑制するなどの臨床的有用性が確認されているが、投与経路や薬剤費に問題点が残る。
  • 関節リウマチのコホート研究IORRA では、MTX の使用開始時期が早まっており、2年以内の使用が50%以上。 (IORRA研究で判ってきたこと
  • 抗CCP抗体が陽性だと関節破壊の進行が速い。
  • 低分子経口DMARDで、Biologic DMARD に匹敵する薬効を有する薬剤の開発が期待されており、細胞内シグナル伝達を特異的に抑制する低分子化合物を用いて、サイトカイン産生を抑制する新薬が開発されている。
  • 中でも、JAK-3阻害薬(CP690、550)は、アダリムマブを凌駕する臨床成績が得られており、RA治療体系を大きく変えうる可能性が期待されている。


S13-2 メトトレキサートの用量上限の問題点と臨床実態
川合眞一(東邦大学医療センター大森病院リウマチ膠原病センター)

  • 慢性関節リウマチに対する MTX 療法が、保険適用になったのは 1999 年。しかし、MTX が医療保険上でRAの治療法として正式に認められた反面、適応や用量の制限などが臨床の現状に合わず、週 8mg を超えた適応外処方が多い実態。
  • 近年益々、MTX は、RA治療の中心であり、生物学的製剤との併用の有用性は評価が高い。
  • 世界の一般的な MTX の上限用量( 多くは20mg/W )が承認されていないため、わが国では早めの生物学的製剤が使用される傾向があり、RA の医療費急増の一因となっている。


日本リウマチ学会によると、現在、厚生労働省より医薬品医療機器総合機構(PMDA)への指示により、公知申請に向けてPMDAとワイス社との協議が行われているのですね。
MTX 成人用量増量申請の経緯について

それから、日常的臨床診療における 『リウマチ性疾患(関節リウマチ)に対するエビデンスに基づくMTX使用法の推奨』を、各国の RA 専門医グループが、発表しています。

S13-3 抗リウマチ薬の現状と課題
竹内勤(慶應義塾大学医学部内科学教室リウマチ内科)

  • DMARD には、滑膜炎とそれによって引き起こされる関節破壊の抑制が求められるが、関節破壊は発症早期から急速に進行するため、早期から強力な抗リウマチ薬の使用がよい。
  • 効果判定を厳格な基準で行い、治療効果が得られなければ治療薬の変更、追加を行うタイトコントロールにより、臨床的寛解を目指す。
  • MTX は、アンカードラッグ。しかし、投与量の問題、関節破壊抑制効果が不十分、臨床効果が得られるまでに時間がかかる、間質性肺炎、感染症、骨髄抑制などの重篤な副作用・・・などの課題がある。
  • 生物学的製剤は関節破壊の進行をも阻害するなど有効性は確かなものだが,高価な薬剤費、感染症などの副作用対策、無効例などの課題がある。
  • 新規開発中は、抗原提示細胞とT リンパ球の相互作用に関連したCD28 を競合的に阻害するCTLA-4(Ig融合蛋白アバタセプト)は、米国では関節リウマチ治療薬として承認され、日本でもPhⅡ。
  • B リンパ球の表面抗原であるCD20 を標的とした製剤では,リツキシマブとオクレリズマブがある。前者は既に悪性リンパ腫治療薬として使われているが,米国では関節リウマチに対して承認されており,わが国では全身性エリテマトーデスの臨床試験が進められている。
  • いずれの開発中の抗リウマチ薬も感染リスクを増加させることが明らかにされており,これからのリウマチ性疾患治療における感染症の意義は益々重要。

S13-4 生物学的製剤の薬剤経済学
五十嵐中(東京大学大学院薬学系研究科医薬政策学)

  • 生物学的製剤のコストは、100-150万円。
  • 薬剤経済学のゴールは、「医薬品に価値に見合った効果があるか?」ICER(incremental cost-effectiveness ratio 増分費用効果比 )というアウトカム 1 単位を増分させるのにいくらかかるのかの指標。
「 生物学的製剤の導入によるコストの増分 / 健康アウトカムの増分 」
  • 疾患のコストには、直接非医療費(交通費・介護費など)と間接費用(労働損失など)広く評価する。
  • RA の年間コストは、直接費用で2400億円、間接費用で7200億円。
  • 健康アウトカムの評価は、ヨーロッパリウマチ連盟(EULAR)の提唱するDASや、アメリカリウマチ学会のACRコアセットを用いた評価基準ACRを使うこともあるが、QALY(質調整生存年)を用いると、他の疾患領域の介入との比較が可能。
  • 現況では、長期データがが不足しているため、生物学的製剤の費用対効果は1QALY増加あたり約2000万円(直接医療費のみ6ヶ月)。
  • IORRA データベースを利用して、DAS・HAQ・などの RA 疾患特異的な指標と、QOL やコスト(直接医療費・直接非医療費・間接費用)との関係とを薬剤経済評価中。


(補足)
  • RAの疾患コストは?
RAの疾患コストは,実際にお金が動く医療費などの直接コストと,お金が動かない労働損失などの間接コストに大別される.2005年の推計では,直接コストは医療費が1,510億円,交通費や介護費が830億円,合計で2,440億円(1人当たり76万円)となった.間接コストは海外データから4,880億円(1人当たり152万円)と推計した.トータルのRA疾患コストは,年間で7,320億円(1人当たり229万円)となった.
  • 生物学的製剤の使用は,RAの疾患コストをどのように変えるか?
生物学的製剤の導入により,薬剤費は必然的に上昇する.しかし人工関節手術の回避による薬剤以外の医療費削減や,早期の仕事復帰による労働損失の削減を通して,コストの上昇はある程度緩和される.ただし,コスト面だけ考えて生物学的製剤の使用の是非を評価するのは誤りで,仮にコストが上昇してもそれに見合った臨床アウトカムの増大があれば,薬剤経済学的にも生物学的製剤の使用は妥当といえる.
  • 生物学的製剤を効率よく使うためにはどのような患者にどう使うべきか?
現状では,国内の質の高い長期のデータが限定されており,生物学的製剤の適切な薬剤経済学的評価はやや困難である.したがって「どのような患者にどう使うべきか?」の回答をすぐに出すことは難しい.国内の大規模コホート研究IORRAと連携し,経済的にも生物学的製剤の妥当性を明らかにし,個別化した適正投与のあり方を探索することを目指している.

S13-5 抗リウマチ薬審査の現状と問題点
関谷剛(独立行政法人医薬品医療機器総合機構/東京大学医学部アレルギーリウマチ内科)
  • MTX の用量変更申請のお話。

それにしても、難しい・・・。
臨床免疫や基礎免疫のお勉強が必要です。

東京大学医学部アレルギーリウマチ内科のHP → 関節リウマチ発症に重要な抗原特異的免疫応答の解明
本家も診療に関する情報は満載 →大阪大学医学部免疫アレルギー内科学


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最終更新:2009年12月19日 00:43