鋼の雫-09
-
俺を照らす優しい太陽の光-。
見渡す限り限りない草原-そして青空。
まるで絵に描いたような美しさの景色。
俺は-気づくとその真っ只中に一人で立ち尽くしていた。
目の前には1つの石柱。
-ここは一体…?
-この石柱は…?
”########此処に-眠る”
削り取られた名前-誰かの墓場か-?
-…あぁ、そうか
俺の後ろに、一人のキャスト。
-そうか……、やっと-なんだな
こくり、とキャストは静かに頷き、俺に背を向ける。
その刹那-、キャストは塩の柱になり消えていった-。
俺を通り抜ける清々しい風-。
-今俺は…解放されたんだ。
-
「ん-……」
どうやら俺は泣いたまま寝てしまっていたようだ。
頭元にあるそれなりに硬い何かのせいで俺は唐突に目を覚ました。
「ここは……」
目の前には広がる夜空、輝く星屑。-そして俺を見つめる…ステラ。
どうやら俺はステラに膝枕をされた状態で眠っていたようだ。
「-あ…お目覚めになられましたか…?」
ステラがすかさず口を開いた。
「-俺は…どれぐらい眠っていたんだ…?」
「30分程度です。あの…………」
「-ん…?」
「ご気分は……いかがですか?」
心配そうに俺の瞳をのぞき込む-止せよ…恥ずかしい。
俺は目を逸らすと、バツが悪そうに答えた。
「……自分でも不思議なくらいスッキリしている」
それを聞いたステラは静かに微笑む。
「良かった…」
静かに見詰め合う俺とステラ。
今の俺達なら、見詰め合うだけでお互いが何を伝えたいか解る-。
静寂-でも、嫌な静寂じゃぁ、無い…。
寂しさ、悲しさ…そう言った物を一切含まない静寂だ。
-ただ…静かなんだ。
「ご主人様-……」
「……-ステラ」
今一度、お互いの存在を確認しあう。
-そして俺はステラの首に手を掛け、静かに自分の顔を近づける。
-ステラも、抵抗せず俺を素直に受け入れる。
重なる唇
-ごめんな…ステラ-。駄目な主人で-。
-お前を悲しませてばかりいる駄目な主人で-。
-だけど泣かないでくれ…生きていれば…いつかまた…。
薄れ行く意識の中で俺は精一杯、彼女に謝った。
そして…-徐々に重たくなって行く俺の瞼。
重なった唇が離れ離れになると俺は静かに-瞳を閉じた。
「ごめん…な…」
-
「ごめん…な…」
ご主人様がそう言った刹那、ご主人様の体から力が一瞬にして抜けた。
離れて行く愛しい人の唇。出来れば、もう少し-ああしていたかった。
「お休みなさい-ご主人様…」
私はそう言うとご主人様の頭を、自分の膝の上に再びのせる。
膝枕と言う物らしく大抵の男性が女性に甘える場合、この膝枕を要望するらしい。
私は平気だけど…普通の人がやったら足とか痺れて大変なのではないだろうか。
時々、そんな事を思う。
「全く……ご主人様は自分勝手過ぎますよー?」
私は眠っているご主人様に向かってそう言った。
-眠ってる?
「枕の代わりになっている女性の事も考えてくださいよね~。
結構疲れるんですよ?ご主人様は気持ち良さそうに寝てるから全く解らないと思いますけどね!」
-わかってるよ
「さっきもそうです…いくら私をガーディアンから買い取って、私が自由になったからと言って……
ご主人様が居なくなっちゃったら…私が自由になる意味が無いじゃないですか」
-ご主人様は眠ってるんじゃ無い
「それに…うっ……半年前だって…うっ…私に優しい声だけ掛けて置いて……
何もしてくれないなんて…うっ…声をかけられたほうは期待しちゃうじゃないですか…うっ」
-わかってるよ…でも…認めたくない
「うっ…うっ…目を覚ましたら…うっ…しっかり責任は取ってもらいますからね……!」
-嫌だよ…。
「ご主人…様……ハンク……さまぁ……!!!!!!」
-月の光が私達を優しく照らす。
-私は……朝まで泣いた。
-涙が枯れても構わない。
-私は一晩中、ご主人様の元で泣いた。