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 470デイバス開放まであと二週間となったある日、僕のパートナーとなるガーディアンズ隊員との初顔合わせの日となりました。
 僕は大分なじんだGH-101の姿で、コロニーのガーディアンズ専用区画内を、教官に連れられて移動しています。
 きょろきょろしながら移動していた僕が、
「この前の場所と、造りが少し違うんですね…Gコロニー居住区内部も場所によって差があるのかぁ」
 そう言った瞬間、

 ガスッ!

「いたたた…」
 あちこちに気をとられて余所見をしていたせいで、左右に分かれるT字路をまっすぐ進んでしまい、通路の壁に激突してしまいました。
「おいおい、大丈夫か?」
「だ、大丈夫です」
 ちょっとふらつきながらも、先を歩く教官の後を追いかけます。
「物珍しい所があるかもしれんが、もうちょっと気をつけて移動しろよ?
 これからは、ここがおまえの暮らす場所になるんだから」
「は、はい」
「ま、内心不安なのは仕方ないさ。
 ――今度こそ、ちゃんとしたパートナーだといいな」
 教官はわざわざ足を止め、僕を優しく撫でながらそう言ってくれました。
 不安を押し殺すためにきょろきょろしていたのですが、それを教官に気づかれていだようです。
「はい…」
「行くぞ」
 再び歩き出す教官を追いかける様について行きながら、僕は小さくため息をつきました。

 実は、今までに僕のモニターとして当選した方は既に数名いましたが、その誰からもちゃんとした扱いをされることなく、僕はGRMに出戻っています。 
 今回で五度目の『初顔合わせ』ですが、上手くいかなければ、また出戻ることになります。
 そうなれば、再び調整を受け、新たに選ばれた主人候補に引き合わされるでしょう。
 出戻る度に思い知らされます。
 僕達パートナー・マシナリーがただの『物』でしかないという事実に。

 ………憂鬱になってきましたが、嫌なことを思い返して、自分から落ち込む必要は無いですね。
「そういえば、今度の僕のパートナーって、どんな方ですか?」
 気分を変えたかったという意味もありますが、気になっていた事でもあるので、教官に質問してみました。
 盛大な間が空いて、教官は大きくため息をつきました。
「女性ニューマンなんだが、素行不良の問題隊員でね。
 正直言って、お前のモニターに応募している事そのものが、俺には不思議なんだが…」
 足を止め、少し考え込む教官。
 素行不良の女性ニューマンって、一体どんなヒトなんだろう?
 というか、モニター募集に応募したこと自体が不思議って…
 ま、とにかく、当人に聞いてみれば済むことですね。
「それで、その方の部屋は…」
「ん?ああ、この部屋だ」
 すぐ側にあるドアを親指で指し、教官はドアに向き直ります。
「ソル」
「はい?なんでしょうか」
「とりあえず、俺の後ろにいろ。俺が合図するまでは、前に出るな。いいな?」
「は、はぁ…了解です」
 一体、どういう事なんでしょうか?
 教官は僕を後ろに下げ、つやを抑えたグレーのドアの脇に立ち、ドアの手動開閉のスイッチを押します。

 ぷしゅ~

「はぁっ!」
 部屋のドアが開いた瞬間、気合のこもった女性の声と共に、小柄な人影が教官に襲い掛かりました。
 教官は軽く半身を捌いて人影を避け、同時に、殴りかかってきた右腕の手首を掴むと、脚払いをかけさせます。
 すると、まるで手品のように人影は宙を舞い、軽い音を立てて床に背中から落とされました。
 人影は舌打ちしつつ手を振り解いて起き上がろうとしますが、教官はその額に向けて、何時抜いたのか分からないナイトウォーカーを突きつけ、動きを封じます。
「くそっ、殺せ!殺人者ども!殺せってんだ!」
 僕は教官の背中側にいるのでその姿がよく見えませんが、通路にひっくり返ったまま叫び声をあげているのは、ちょっと小柄な女性です。
「これで通算38回目の『死亡』だな」
 あきれきった様子でため息をつく教官。
 まばらな通行人も、またか、といった様子で肩をすくめ、通り過ぎていきます。
「お前もいい加減にするんだな。
 今のお前じゃ、誰にも勝てやしないし、誰も守れやしない。
 何度、俺に言わせれば気が済むんだ。
 それから、今現在もガーディアンズの素行問題隊員トップ10に入りっぱなしなんだから、外での言動くらい取り繕え」
 教官は淡々と言いながら、ナイトウォーカーをナノトランサーに収め、両手で彼女を起こします。
「ふん、教官面して…」
「そりゃ、俺はお前の指導教官なんだ、仕方ないだろ?
 ぶつくさ言ってないで、部屋に入れ。
 ―――お前も入って来い」
 教官は女性を部屋に押し込みながら、僕を部屋に入るように促します。
 僕は促されるままベッドのある部屋まで移動して、やっと彼女をちゃんと見ることが出来ました。
 標準よりもやや小柄な女性ニューマンで、赤みの強い茶色の髪、深い青色の大きな瞳が印象的ですが、何よりも、身長に見合わない大きな胸が、真っ先に視界に入ります。
「今日、俺が来た理由はこいつをお前に預ける為だ」
 教官が僕を、彼女の前に連れ出します。
「470のモニターに応募しているとは知らなかったが…
 今日から、こいつが新しいお前の―――」

 ばしっ!

 突然聞こえた、肉体同士がぶつかり合う鈍い音。
「――何故、止める。
 こいつはもう、あたしの物だろ?どう扱おうが、あたしの勝手じゃない」
 浮いてる僕の真横には、彼女のすらりとした脚が伸ばされ、それを手でつかんでいる教官。
 一体、何をしてるんでしょうか?
「駄目だ。
 モニターに応募した以上、お前はこのPMを470まで育て、レポートを提出する義務があるんだ。
 こいつを破壊してみろ、今度は謹慎ぐらいじゃすまないぞ」
 そこまで話を聞いて、やっと事態が飲み込めました。
 どうやら僕は、彼女にいきなり蹴り飛ばされそうになっていたようです。
 それも、僕を壊すことを前提として。
 ヒトならば冷や汗をかくところですが、僕の場合はリアクターが不安定になって、へなへなと床に着地してしまいました。
「知らないわ、そんな事。
 あたしは、パシリが壊せるなら死んだってかまやしない」
 自虐的な笑みを浮かべ、僕をにらみつける彼女。
 どこか虚ろでありながらその狂気にも似た眼差しに、僕は及び腰になって、転がって逃げようとしましたが、教官はそんな僕を片手一本で軽々と捕まえます。
 そしてボールを扱うように、僕を指先の上でくるくると回して、最後に両手で回転を止めると彼女の正面へ突き出します。
 ひぇ~、目が回るぅ…僕はボールじゃないよぉ…
「いいだろう、そこまで言うなら、こいつと戦ってみな。
 お前が勝てば、俺はこいつを壊したことに関しては見ない振りをしてやるし、お前の行動をとやかく言わない。
 その代わり、こいつが勝てば、お前はこいつをちゃんと育ててレポートを書かなければならないし、今後はこいつを含め、PMを破壊することもしてはいけない」
 親指の爪を噛みつつ考え込んでいましたが、
「…わかった。その条件、忘れないで」
 と、承諾する彼女。
「一つだけ、ハンデはつけるぞ?こいつはまだ101だからな」
「どんなハンデ?」
「俺の入れ知恵だ」
「いいわ、それなら」
 どういう訳か、僕がほったらかしで話がついてしまいました。
「と、言う訳だ。あいつをぶちのめせ」
 教官がやっと僕から手を離して、そう言いました。
 最初、彼のその台詞は聞き間違ったものだと思い、聴覚センサーを自己診断しましたが、センサーは正常です。
「ええ~っ!今の僕でなんとかなる訳無いじゃないですか!
 470の姿だったとしても、勝てるかどうか怪しいのに!
 大体、僕の意見なんて何処にも無いじゃないですか!」
 嫌がって大声を出した僕に、教官の冷静なつっこみが入ります。
「そうは言っても、不測の事態でも起こらない限り、何らかの評価が出るまでは、お前は帰るに帰れないだろうが」
 う、それを言われちゃうと…
 僕は諦めがたっぷり詰った溜め息を吐き出しました。
「分かりましたよ、やりますよ、やればいいんでしょ、やれば。
 ………どう考えても、勝てそうに無いですけど」
 僕は不機嫌さを声にして、教官にぶつけます。
「大丈夫だ、心配するな。いいか…ゴニョゴニョ」
 教官は僕に顔を近づけると、やっと聞き取れるくらいの声でアドバイスをしてくれます。
「…、分かったか?タイミングが大事だぞ?」
「はい、何とかやってみます……」
 勝負するには手狭なので、僕と彼女は、何も無い展示スペースで立ち会うことになりました。
「勝敗は、膝を突くか、倒れるか、床に落ちた場合だ。
 ありえないとは思うが、死んだり破壊された場合もこれに含まれる。
 ―――始め」
 教官が説明の終わりと同時に出した合図に合わせ、彼女は僕に蹴りを放とうとします。
 同時に僕は、彼女の間合いへ飛び込んで、そのまま彼女の頭に思いっきり体当たり!

 ガン!「ふぎゃ!」

 金属が硬い物にぶつかった音と、彼女の奇妙な悲鳴が部屋に響きます。
「~っ、いたたた…今日はこんな事ばっかり」
 おでこの硬い所に思いっきりぶつかったせいで、ちょっぴりボディが変形しましたけど、とりあえず後回し。
「く~っ、よくもやっ」

 どさっ

 膝が砕けたかのように、蹴りのポーズをとったまま背中から倒れる彼女。
「あ、あれ?どうして、あたし、倒れた?」
 はぁ~、なんとか上手くいった。
「は~い、そこまでぇ」
 気の抜けた教官の合図で、この勝負は終わりました。
「それじゃ、俺は帰る。手続きとか、ちゃんとやっとけよ、二人とも」
 僕達にそういうと、振り返りもせずに、教官は部屋を出て行ってしまいました。
「……」
「……」
 なんか、妙にしらけた間が空きました。
 最初は教官の出て行った入り口を見ていた僕達ですが、自然と互いに目が行き、目が合ってしまいました。
 そして、再び妙な間が空きます。
 色々話がしたいのに、彼女にどう声をかけたものか…
 教官がいなくなったら、こんなに話しづらいなんて思いませんでした。
 不意に彼女が立ち上がろうとして、よろめきながらしゃがみこみました。
「急に立っちゃダメですよ、脳震盪起こしてるんですから!」
 僕はあわてて彼女を支える位置に移動します。
「脳震盪…そっか、私の蹴るタイミングに合わせてバランスを崩し、脳震盪も利用した訳か。
 でも、あたしにそんな隙、」
 彼女の独り言なんでしょうが、僕はそれに答えます。
「十分ありましたよ」
「…素手格闘技で有段者のあたしに、隙?」
 不満とも取れる困惑の表情で聞き返す彼女に、僕ははっきりと言いました。
「十分、あったんです。
 教官が教えてくれたのですが、あなたの動きは非常に鋭く、素早いのですが、何処か心ここにあらずといった感じです。
 僕の場合、戦闘はデータでしか知りませんが、今のあなたでは、仲間はおろか自分も死ぬ可能性が高いでしょう」 
 僕という支えからゆっくりと身体を離し、両目を片手で覆い隠して、くつくつと笑い出す彼女。
「やっぱり、あたしはあの時、死ぬべくして死んだんだ…」
 そのまま笑いながら、彼女の頬には涙が流れ落ちて行きます。
「メム…」
 今の僕は彼女を主人と呼ぶ事が出来ず、そうに呼びかけました。
「…ゴメン、少しほっといて」
 よろめきながら部屋を出て行く彼女を、僕はあせって引き止めようとしましたが、そっと片手で部屋の中に押し込まれてしまいました。
「メム!ちょっ…」

 ぷしゅ~、ピピピピ、がちん。

 む~、ご丁寧にも鍵までかけていきました。
 仕方ない、教官に連絡するしかないですね…
 僕はビジフォンで連絡を入れて事の詳細を伝えると、画面の向こうで教官が盛大なため息をつきました。
『しょうがない奴だ…
 分かった、ロックは解除してやるから、お前はあいつを追いかけろ。
 多分、オロール展望台にいるはずだ』
「え?でも、第3形態までのパシリは、市街地を単独で…」
『そいつは建前だ。いいから、さっさと追いかけろ。
 お前、あいつのパートナーになるんだろ?どんな奴なのか、自分で話を聞いて来い』
 そこで唐突に通信が切れ、ドアのロックが解除されました。

 まったく!自分勝手な彼女もなんですが、教官ってば、彼女のことは僕に丸投げですか!もう!

 二人の態度に内心怒りながらも、僕は彼女を探しに出かけます。
 教官の態度は腹立たしいですが、後から考えれば至極当然のことでした。
 だって、これは僕と彼女の問題だったんですから。

 ―――Gコロニー、オロール展望台―――

 あたしは展望台の壁に寄りかかりながら座って、強化ガラス越しに見えるニューデイズを眺めていた。
「やっぱりパシリのモニターになんて応募するんじゃなかったかな…」
 思考が呟きとして漏れ、同時に溜め息がこぼれる。
 陰鬱な気分に浸りながら、あたしは展望ドームをただ見上げていた。
 不意に気配を感じて、あたしは座ったままながらも身構える。
 僅かに間が空いて、

 ぷしゅ~

「まったく、ひどい目にあいました~」
 愚痴をこぼしつつ、ふわふわと飛んで展望室に入ってきたのは、なんの変哲も無いGH-101。
 すぐに周囲を見回し始めると、あたしに気づいたようだ。
「ここにいたのですか、メム」
 そう言いつつ、私の方へ向かってくる。
 この声、この言い回し…こいつは、教官があたしの所に連れてきた奴か。
 周囲に教官の姿や気配を探してみるが…無い。
 しかし、道中にSEED達がいる連絡通路をどうやって突破してきたんだ、こいつは?
「メム?具合でも悪いのですか?」
 気づくと、101はあたしのすぐ側まで来て、ぷかぷかと浮かんでいた。
「…別に平気。痛っ…」
 さっき、こいつが体当たりしたおでこに突然痛みが走り、反射的に手で押さえた。
「あの、その…ごめんなさい!体当たり、加減できなくて…」
 どこかおどおどした様子で謝る101。
「いいよ、謝らなくて。勝負に怪我はつきものだから」
 そう言いつつ、しゅんとしたこいつを、あたしは反射的に撫でてやっていた。
 それにはっと気づいて、あわてて手を引っ込める。

 あたし、パシリは嫌いなはずなのに、どうして…
 ――ううん、違う。そうじゃない。
 本当は、そうに思い込もうとしてただけだって、ちゃんと分かってる。
 パシリなんて『嫌い』、『憎むべき対象』、そうに思い込みたかった。
 『こいつらに復讐する為にあたしは生きてる』
 あたしは『あの時』からずっと、自分にそう言い聞かせ続けてきた。
 そうしなければ、自分が自分でいられなかったから。
 この手でパシリ達を壊し続ける事でしか、自分を保てなかったから。
 こいつを、この101を撫でてやったこの手で…

 あたしはそんな事を考えながら、101を撫でた自分の手に視線を落とし、そして、ぎょっとした。
 手にべっとりと油か何かがついている。
「あんた、どっか壊れてるんじゃない?!」
 あわてて101をつかんで全体を見てみると、いくつもの小さな、けれどそこそこ深い傷跡がボディに残っていて、そこからじんわりとオイルみたいなものが滲んでいる。
「え?あははは、大した傷じゃありませんよ。
 外装に傷が入って、衝撃緩和用のジェルが滲んでいるだけです。
 連絡通路を通り抜けようとして、デルセバンの攻撃が避け切れなくて、少しかすっただけですから。
 自己修復機能もありますし、暫くすれば勝手に直ります」
 お気楽な調子で説明されて「はいそーですか」で済ませられなかったので、あたしはこいつにモノメイトを使って、傷を治してやった。
「なんでこんな怪我してまで、ここに来たの!」
 あたしが思わず大声で怒鳴ると、下を向く101。
「だって、僕はあなたに用があったのに、話も聞かないで部屋からいなくなってしまったから…」
 またしゅんとなってしまったこいつに、あたしはそのまま怒鳴りつける。
「あたしは、少しほっといて、って言ったわ!
 それなのに、どうしてついてきた訳?!」
「…」
 つかんだままの私の手からするりと抜け出し、後ずさる101。
「…そうですよね、待ってれば良かったんですよね。
 僕、部屋に帰ります」
 しょんぼりとした雰囲気を漂わせながら、連絡通路に向かって移動し始める101に、あたしはなんだか無性に腹が立ってきた。
「待ちなさい!あんたはあたしに話があってここまで来てるのに、あんたが肝心な話を何も言わないで部屋に帰るなら、あたしはあんたをGRMに熨し付けて返すからね!」
「メム…」
「それ位の我は通しなさい!」
 ビシッ!と指を突きつけ、あたしは言い切る。
 すると、躊躇いながらも、101は戻ってきた。
「――それで、あたしに話って?」
 ずばりと切り出すと、101はちょっと躊躇ってから、
「僕に、名前をつけてください」
と、言い出した。
「名前?」
 思わず聞き返してしまったが、普通は最初に型番以外の名前なんてついていないのを思い出した。
「慣例的にそうなっていますし、それをしないと僕があなたのパートナーとして登録されないんです。
 少なからず、今日中にしておかないと、僕、『また』GRMに戻ることになるんです」
「…『また』?またって、どういう事?」
 一瞬、聞き間違えたかと思ったが、そうではないみたい。
 俯き加減に視線を落とし、ぽつぽつと話し出した101。
「…実は、メムは五人目の当選者なんです。
 今までの四人は、いろいろな事情から、当選していたにもかかわらず僕のパートナーになれなかったんです。
 不正行為や不正二重登録、当選者の義務の不履行、そしてある一人は僕を売りさばこうとしました。
 そして、その誰もが、僕に名前をつけてくれませんでした」
 表情アイコンで顔に影が落ちた101の声は、何処か不安と悲しみに彩られていた。
 それは、ちいさな玉っころの、大きな苦悩。
「そうだったの…」
 自然と胸に熱いものがこみ上げてきたあたしは、そっと101の丸いボディをつかみ、ゆっくりと抱きしめた。
「あんたも辛い思いをして来たんだ」
「…え?あ、あ、あ、あ、あの、ちょっと、メム!」
 突然、101がわたわたと動くので、あたしはちょっといぶかしんだ。
「何?苦しい?抱きしめるの、ちょっと強かった?」
「いえ、そ、その、胸が…」
 101の頬に当たる部分に、ピンクの楕円形のアイコンが出ている所を見ると、どうやら照れてるのか、恥ずかしがってる様子。
「ぼ、僕、元々男性格の性格設定で固定されてるから、その、ちょっと、あなたの胸に押し付けられるの、恥ずかしいんです!」
「…ぷ、あはははははははは」
 あたしは思わず笑い出した。
 パシリがこんな事言うなんて、思っても見なかったから。
 今時、小学生でも言わないような台詞に、あたしは笑いが止まらなくなった。
 そして、この101を、自分の胸にぎゅっと押し付ける。
「や、止めてください!」
「止めない!あんたはあたしのパートナーなんでしょ?これから先、こんな事なら何度もやられるのに、今から恥ずかしがってどうするの?!」
 あたしは笑いながら、ふと、もぞもぞ動く101に目を向けると、赤みがかった金髪の少年のイメージがダブって見えた。
 まるで、太陽のようなその髪の色に、名前がひらめいた。
「決めた、あんたの名前はソル!古い言葉で『太陽』って意味がある言葉よ」
「え?!」
「あんたを見てたら、不意にそんなイメージがダブったの」
 急に動くのを止め、何かにあっけにとらえた様子の101。
「何?不満なの?」
 あたしが意地悪くそう言うと、101は慌てふためいた。
「ち、ちがいます、そうじゃないんです!
 それ、僕の開発時の識別名称と全く同じなんです!
 開発コードGH-XY1、型式GH-470-X1、製造ロットPMLA01S.O.L.-X1、識別名称ソル!
 僕は、そうに呼ばれていたんです!」
 101が叫ぶように言い放った。
 今度はあたしがあっけにとられ、101を開放した。
「偶然にしては出来すぎです!僕の識別名称をご存知だったんじゃないんですか?!」
「そ、そんなこと、ない、よ…
 だって、ほんとに、ぱっと、思いついたんだから…
 ほ、本当だからね!」
 あたしはあまりの偶然にびっくりして、言葉が途切れ途切れになりながらも必死に弁明すると、本当に偶然なんだと、101も納得した様子。
「…僕は、僕は来るべくしてあなたの所に来たのかも知れない。
 ―――名称登録完了、僕の名前はソルです。
 ご主人様、初めまして。そして、これからよろしくお願いします」
「――よろしく、ソル。
 あたしの名前は、カエデ。カエデ・タチバナ。
 あたしを呼ぶ時はマスターか、カエデ、って呼んでくれると嬉しいな」
「はい、マスター」
 ソルの返事は、何故かとてもうれしそうに感じられた。
 それを聞いたあたしは、心の中に凝り固まった重苦しい何かが溶け、消え去っていくのを感じた。
「マスター、どうかしたのですか?」
 突然、不思議そうな声色で私に問いかけるソル。
「ん?どうして?」
「さっきまでは暗い表情だったのに、今はとてもうれしそうな顔をしているから…」
 あたしは知らず知らずのうちに、微笑んでいたらしい。
「そうね、嬉しいんだと思う。
 今まで悩んでいた事が嘘みたいに消えちゃったから。
 ―――あんたのお陰だよ?」
「え?、僕の、ですか?」
「そう、あんたのおかげ」
「…どんな事を悩んでいたんですか?」
 一瞬、『あの日の出来事』が脳裏をよぎる。
 でも、もう大丈夫。自分を誤魔化さずに受けとめられる。
 あたしはソルを優しく撫で、微笑んでみせる。
「後で話してあげる。
 ――さ、部屋に帰ってお祝いしよう!今日はあたしに家族が増えた記念日なんだから!」
 あたしはソルをひっ捕まえて、連絡通路へ駆け込んでいった。
「あたし、明日から頑張るからねー!あんたも頑張るのよー!」
「ちょ、離して下さい、マスター!僕は一人でも…」

 ぷしゅ~

 通路と展望室を遮る扉が閉まるのと同時に、誰もいないはずの展望室に小さないため息が響く。
「やれやれ…(ピポッ)父様、ソルくんは無事に登録されました」
 父様に連絡を入れると、ほっとした感じの声が返ってきました。
『そうか、ご苦労さん。
 二人とも、早く帰ってこい。今日はもう店じまいだ』
「はい、分かりました(ビュゥン)」
 私は父様との通信を切り、押し殺した気配を開放して、フォトンミラージュの迷彩を解除しました。
「やっと、ちゃんとした主人にめぐり合えたようね、ソルくん」
「そうね」
 私の隣ではガーネッタが、肩の荷が下りてせいせいしたという感じで、帰り支度を始めていました。
「ねぇ、ガーネッタ」
「何?」
「カエデの村の事、憶えてる?」
「…うん」
 ガーネッタの手が止まり、苦悶の表情を抑えているのか、眉間に小さくしわがよっていた。
「あたし達がもう少し早ければ、あんな事には…」
「でも、間に合わなかった」
 私達はあの時の事を思い返し、押し黙ってしまいました。
「――――もう、過ぎた事よ。過去は変えられない…」
 沈黙を破って吐き出すように言い、言葉尻を濁すガーネッタ。
「そうね…
 ―――私達、彼女に話せる時が来るのかしら。私達が、彼女の故郷を殺処分したという事実を。その真相を…」
 私はふと、ナノトランサーから汚れた一組のイヤリングを取り出し、それをじっと見つめます。
 本当は眩い銀色の光を放つはずのそれは、赤黒いもので染め上げられていました。
「すべての運命は星霊のお導き。
 語る必要があるなら、いずれその機会はやってくる。それが必然なら。
 ―――帰りましょう、今日の私達の役目は終わったのだから」
 私達は、ドームの強化ガラス越しに輝くニューデイズをじっと見つめ、それから立ち去りました。
 あの惑星で同じ過ちが繰り返されない事を願いながら。

 ―――おわり―――




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